| 【発明の名称】 |
発酵エタノールの膜分離方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】池上 徹
【氏名】柳下 宏
【氏名】北本 大
【氏名】根岸 秀之
【氏名】井村 知弘
|
| 【要約】 |
【課題】希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を得る方法において、エタノール選択性分離膜を用いた浸透気化分離法によって、直接的かつ連続的に高濃度エタノール溶液を製造する方法の提供
【解決手段】希薄エタノール含有発酵液のpHを制御しつつ、pHを5以上中性までの範囲内に制御し浸透気化分離膜と接触させる希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を製造する方法。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 希薄エタノール含有発酵溶液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させて浸透気化膜分離方法により濃縮エタノール液を得る方法において、希薄エタノール含有発酵液のpHを制御しつつ浸透気化膜と接触させることを特徴とする希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を製造する方法。 【請求項2】 希薄エタノール含有発酵液のpHを5以上中性までの範囲内に制御しつつ、浸透気化膜と接触させることを特徴とする請求項1記載の希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を製造する方法。 【請求項3】 希薄エタノール含有発酵液のpHを6以上中性までの範囲内に制御しつつ 浸透気化膜と接触させることを特徴とする請求項1記載の希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を製造する方法。 【請求項4】 浸透気化膜分離法が、希薄エタノール含有発酵液と分離膜を大気圧下で接触させ、膜の反対側を減圧に保った状態で、エタノール及び水を気体状の混合物として取り出す方法であって、その後、冷却器によって液化、濃縮されたエタノール水溶液を回収することを特徴とする請求項1記載の希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を製造する方法。 【請求項5】 エタノール選択的疎水性浸透気化膜がシリカライト膜であることを特徴とする請求項1記載の希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を製造する方法。
|
【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、発酵エタノールの膜分離方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 食品、化学工業などの分野において、複数の化合物が混在する多成分系から目的物質を回収分離精製する方法は、最終製品を取り出すための重要な分離精製技術であり、種々な手段が採用されてきた。 目的物質の回収分離精製方法の一つとして蒸留法は、一般的に広範囲に用いられている方法の一つである。蒸留法は、物質の溶液をその沸点とし、その沸点差により成分を分離する方法であり、沸点差により各成分の確実な分離精製を行うことができるという利点が認められ、有効な分離手段とされてきた。蒸留法を適用するためには、処理しようとする対象溶液を加熱して沸点の状態にすることが必要である。このことは、必然的にエネルギー多消費型のプロセスとなる。 発酵で得られるエタノール水溶液は、エタノール濃度が低濃度のものとして得られるが、このような場合であっても、蒸留法が採用されてきた。 また、通常の蒸留法によりエタノール−水系の溶液を濃縮する場合には、エタノール濃度が、95.6重量%では、所謂共沸点となり、気相と液相の濃度が一致する結果、それ以上に濃縮することは、実質的に不可能であり、濃縮操作に限界が現れる。このような場合には、これ以上に濃縮して、無水化するためには、エタノール−水系にベンゼンあるいはシクロヘキサン等の物質を添加して蒸留する共沸蒸留法が用いることが行なわれるが、ベンゼン等を存在させて、その共存下で蒸留を行うことは、大気環境汚染や人体への影響が懸念されるため、その使用に際しては厳しい環境基準の遵守が義務付けられており、ベンゼンの使用は極力回避すべきである。 【0003】 これらの問題点があることを考慮して、さらには、エタノール水溶液の濃縮を蒸留で行う場合には、生産されるエタノールの約半分のエネルギーを消費すると言われるほどのエネルギー多消費型のプロセスにおいて、必要とされるエネルギー量を少なくしようという観点から、蒸留法を回避する連続プロセスを開発することが検討されてきた。 【0004】 液体混合物から特定成分を取り出して分離・濃縮する方法として、蒸留法以外に分離膜を用いる方法が注目されており、実際に工業的に用いられている。 エタノール発酵液からエタノールの選択的な分離・濃縮に関しても分離膜による方法が検討されている。具体的には、酵母等の微生物によって生産される特定の処理対象物質(エタノール)を含む水溶液(エタノール発酵液)を、エタノールに対して選択性を有する分離膜の一方に供給し、反対(透過)側から濃縮されたエタノールを取り出すことが可能なエタノール選択的疎水性透過性膜を利用するものである。この際に取り出し側を減圧に保つ浸透気化法が採用され、そのための分離膜としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコンゴム膜を用いる方法(特許文献1)があり、また、ポリジメチルシロキサンやシリコンゴム(非特許文献1)を用いることも、よく知られている。 この分離膜を用いる場合には、発酵により得られたるエタノールは、その濃度が20%〜30%程度までの濃度にまで濃縮されるものの、現状では、まだ十分な結果ということができず、効果的なものとなっていない。アルコール選択的疎水性透過性膜としては、シロキサンを含む共重合体(特許文献2)、アルコール透過性が良好な膜としては、シリル化合物の重合体(特許文献3)、置換ポリアセチレンとポリトリメチルビニルシランの膜を用い、分離膜の性能を回復させる方法(特許文献4)なども知られている。発酵により得られるエタノールの濃縮には、膜分離法を用いても、その濃度が20〜30%程度までの濃度にまで濃縮されるにとどまり、効果的なものとなっていない。 【0005】 アルコール選択的疎水性透過膜としては、ゼオライトをシリコンゴムマトリックス中に入れた膜を用いたベーパーレーション法(浸透気化分離法によるもの)(特許文献5)も提案されている。しかしながら、この方法においてもシリコンゴムマトリックスが分離性能に影響を及ぼすために満足する結果を得ることができない。 ゼオライトの一種である結晶構造にアルミナを含まないシリカライトは、非常に高い疎水性を有すると共に、多孔性物質である。この点に着目して、本発明者等は、シリカライトとして、特許文献6の発明を行った。さらに、これらのシリカライトの膜支持体として、金属、セラミックスなどを用いることも検討した。また、多孔質セラミックス、多孔質ガラス、多孔質焼結体など支持体の上に高珪素含有のゼオライト又はシリカライトなどの疎水性無機質からなる分離膜(特許文献7)も知られている。 これらの膜は、その分離性能という点からは有効な膜であるということは期待されている通りである。このゼオライト膜は、緻密で多孔質構造であり、水とエタノールでは、後者の方が、疎水性が高いことから、シリカライトはエタノールに対して親和性が高いことによるものと考えられる。 このようなことから、アルコール選択的疎水性透過膜を用いること、これらの中でもシリカライト膜を用いることにより、希薄なエタノール液を高濃度に濃縮して、高濃度のエタノールとして回収することが可能であると、本発明者らは考えた。 ところで、このシリカライト膜を用いて実際に浸透気化分離法により発酵エタノールの濃縮を継続した場合、回収される濃縮エタノール濃度が経時的に低下してしまうという問題点があることが判った(非特許文献2)。この原因を検討してみると、発酵過程において反応条件が変化することなどの影響により、副生成物等の発酵系に存在する物質が徐々に蓄積されることにより、前記のような好ましくない結果となるとも考えられる。 【0006】 この経時的な変化を起こすことを防止することを検討してみた。 その一つの方法として、発酵液と直接に接するシリカライト分離膜表面を疎水性のシリコンゴムでコーティングすることにより、濃縮(分離膜透過)エタノールを高濃度とすることができ、分離膜の性能の劣化を大幅に軽減できる効果が認められる(非特許文献3)。しかしながら、この方法においても、分離膜性能の低下を完全に回避し得ていない現状である。このような膜分離性能の大きな低下は、エタノール発酵過程で副産物として生成する有機酸がシリカライト膜表面に吸着することに起因するものと考えられる。 また、アルミナ構造を含む結晶構造のゼオライトの場合にはシラン及びシリケートで膜を処理することも知られているが(特許文献8)、これによっても十分な効果は期待できない。 【0007】 このような分離膜性能の低下をもたらす阻害要因をさらに検討した。この阻害要因を取り除くことができれば、発酵反応の進行とともに生成されるエタノール含有液を連続して安定な操業を行なえば、エタノールを濃縮・分離することができるものと考えられる。 【0008】 【特許文献1】特開昭57−136905号 【特許文献2】特開昭61−242603号 【特許文献3】特開昭61−174905号 【特許文献4】特開昭62−250907 【特許文献5】特開昭63−116705号 【特許文献6】特開平6−99044号 【特許文献7】特開昭63−287504号 【特許文献8】特表2000−508231 【非特許文献1】野村ら、化学工学協会第16秋季大会研究発表講演要旨集、p.540,1982 【非特許文献2】BiotechnologyTechniques, Vol. 11, p. 921-924, 1997; Biotechnology Letters, Vol. 21, p.1037-1041, 1999 【非特許文献3】J. Chem. Technol. Biotechnol., Vol. 78, p. 1006-1010, 2003 【非特許文献4】J. MembraneSci., 30, p. 273-287, 1987 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明の課題は、希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を得る方法において、従来行われてきたエネルギーを多く必要とする蒸留法を用いることなく、エタノール選択性分離膜を用いた浸透気化分離法によって、直接的かつ連続的に高濃度エタノール溶液を製造する方法を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明者らは、分離膜を用いることを前提とした場合には、エタノール/水系からエタノールの選択的な回収(濃縮)では、エタノールの方が水よりも疎水性が高いことから、分離膜として疎水性のものを用い、疎水性を維持することが必要不可欠となること、また、この場合であっても、発酵反応により副生する有機酸あるいはこれに関連する物質が分離膜に吸着される場合には連続的に操作を行なうに際して好ましくない結果をもたらすものと考える。有機酸はその解離程度により有機酸分子(非解離型)として存在するか、有機酸イオン(解離型)として存在する場合があると考えられる。溶液中で有機酸分子として存在することは分離膜に吸着される結果、分離膜の性能が低下する結果となるのではないかと考えられる。したがって、有機酸を解離状態(イオン)に維持すれば、疎水性の分離膜への吸着を低減できる、ということになる。 【0011】 発酵により副生されるこれら弱酸性である、コハク酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、クエン酸について有機酸分子の解離の状態を、データをもとに調査した。その結果は、図7に示す通りである。 この結果から明らかなように、有機酸の解離状態はpHに依存する。pHを5から中性までの範囲に維持すれば、有機酸はほぼ解離した状態で存在している。したがって、このような状態の下では、疎水性分離膜に対して副生物質の吸着などが生じ難く、結果として分離性能の低下を防止できると考えた。 このことについて後述するように、この内容を裏付ける実験結果を得て、本発明者らの考え方は誤りではないことを確信した。 【0012】 本発明者らは、分離対象となる発酵が終了したエタノール含有水溶液には、特定の有機酸を含有しており、これらの有機酸の解離の状態は、pHを制御することで変化させることができることを見出し、このpHを弱酸性〜中性域に制御することにより、疎水性分離膜に対して処理液中の有機酸の吸着を防止することができ、分離膜の性能の低下を阻止することができることを見出して、本発明を完成させたものである。 【0013】 なお、従来からの発酵エタノールの膜分離では、このような、供給液のpHを調節すること、及びpHを特定の条件に維持することは行なわれていなかったことは、以下のことを考えると明らかである。 エタノール発酵では、発酵条件として、pHを4.0程度に維持することが行なわれてきている(Separation and Purification Technology 27(2002)59-66)。 一般的に、pHが低い環境ほど微生物の増殖は抑制されることはよく知られており、エタノール発酵過程における雑菌汚染を防止する観点から、発酵工程のpHは酸性条件下で実施される。 これらの事柄を考慮して、前記の条件が採用される。そしてこの発酵反応工程に引き続いて膜分離工程が設置されており、この工程に処理液を導く際に格別の操作を施しておらず、結局、膜分離工程のpHもこれに近い4程度と考えられる。この場合に有機酸は非解離型の有機酸分子としてかなりの割合で存在するであろうということは、前述の考察から明らかであり、この場合には分離膜に吸着される結果、いずれも分離膜の性能の低下を防止することはできない結果となる。 【0014】 本発明によれば、以下の発明が提供される。 (1)希薄エタノール含有発酵溶液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させて浸透気化膜分離方法により濃縮エタノール含有液を得る方法において、希薄エタノール含有発酵液のpHを制御しつつエタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させることを特徴とする希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を製造する方法。 (2)希薄エタノール含有発酵液のpHを5以上中性までの範囲内に制御しつつ、エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させることを特徴とする(1)記載の希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を製造する方法。 (3)希薄エタノール含有発酵液のpHを6以上中性までの範囲内に制御しつつ、エタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させることを特徴とする(1)記載の希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を製造する方法。 (4)浸透気化膜分離法が、希薄エタノール含有発酵液と分離膜を大気圧下で接触させ、膜の反対側を減圧に保った状態で、エタノール及び水を気体状の混合物として取り出す方法であって、その後、冷却器によって液化、濃縮されたエタノール及び水を回収することを特徴とする(1)記載の希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を製造する方法。 (5)エタノール選択的疎水性浸透気化膜がシリカライト膜であることを特徴とする(1)記載の希薄エタノール含有発酵溶液から濃縮エタノール液を製造する方法。 【発明の効果】 【0015】 本発明によれば、希薄エタノール含有発酵溶液をエタノール選択的疎水性浸透気化膜と接触させて浸透気化膜分離方法により濃縮エタノール液を得る方法において、エタノール選択的疎水性浸透気化膜を通過するエタノール発酵済み処理液中の有機酸を解離した状態にあるようにpHの値により制御するので、有機酸が分離膜への吸着を起こさないので、安定してエタノール濃縮を操業することができる。その結果、分離工程発酵で得られる希薄エタノール水溶液から高濃度に濃縮されたエタノール水溶液を安定して連続的に回収することができる。 また、何らかの理由で付着した有機酸分子は、pHを調整すると解離型の有機酸イオンに導かれるため、膜から脱着する結果、浸透気化膜は再生される。このようにして、分離膜に供給されるエタノールを含有する発酵液のpHを調整することにより、 安定して濃縮エタノール液を生産することができる。 発酵法により得られたエタノール溶液の濃縮に膜分離を採用することができるので、蒸留工程を排除でき、不必要に多くのエネルギーを必要としない分離操作を可能とする。その工業的価値は極めて高いものである。 【発明を実施するための最良の形態】 【0016】 本発明で分離・精製の対象として用いられる分離膜と直に接する供給液は、微生物による発酵反応によって得られる希薄エタノール含有混合物である。 例えば、発酵法によりエタノールを製造する場合、発酵液に含まれるエタノール濃度は、一般的には、10〜15%程度、多くても20%以下である。これに微生物細胞、水及び各種の副生成物等が含有される。 【0017】 本発明では、処理対象である前記のエタノール含有水溶液から高濃度のエタノール水溶液を製造するものである。 本発明では、浸透気化膜分離方法、希薄エタノール含有発酵液と分離膜を大気圧下で接触させ、膜の反対側を減圧に保った状態で、エタノール及び水を気体状の混合物として取り出す方法によるものである。 エタノール含有水溶液をエタノール選択的透過性膜と大気圧下で接触するように供給し、膜の反対側が減圧に保たれている状態で、エタノール選択的透過性の分離膜を透過させる、その際に、分離膜の透過側が減圧に保たれていることによりエタノール及び水は気体状の混合物として取り出される。 その後、気体状混合物は別に設けられている冷却器に導かれ、そこで濃縮されたエタノールは液化して取り出される。 エタノール選択的透過性膜の形状は、平板状、又は円筒状である。 減圧に保たれている状態は、20Torrから1Torr程度である。 減圧にするためには、真空にするための手段が採用される。具体的には、真空ポンプなどが採用される。 一方、分離膜の透過側を減圧にする代わりに、不活性ガスで透過側の膜面から蒸発する蒸気を掃引して冷却器へ導き、透過蒸気のみを液化することも可能である。 【0018】 本発明について、図1により説明する。 エタノール浸透気化分離槽(1)(分離槽1は、エタノール供給液槽2、エタノール選択的透過性分離膜3、エタノール回収槽4から構成される)は、エタノール選択的疎水性浸透気化膜(3)を介して、一方は、エタノールを含有する発酵液が分離膜(3)と接触する部分である供給液槽(2)とし、分離膜(3)を介して、その反対側は、分離膜を優先的に透過し、エタノール蒸気が濃縮して回収される部分である透過槽(4)から構成される。 エタノール供給液槽(2)には、発酵性微生物が除去されたエタノールを含有する発酵液(5)が供給される。発酵性微生物を含有したままの発酵液を供給液とすることも可能であるが、エタノール選択的疎水性浸透気化膜(3)の目詰まりを防止する観点から、予め発酵性微生物を除去しておくことが必要である。 【0019】 エタノール発酵液には、エタノール以外の副生物として、コハク酸をはじめとする各種有機酸類が生成し、反応の進行とともにこれらは蓄積し、発酵液のpHが低下する原因となる。また、これらが分離膜に吸着されるために、発酵エタノールを浸透気化分離法によって濃縮・回収する際に、分離性能が低下すると考えられる。 発酵により生産されるこれら弱酸性の有機酸類の分子の解離度合、すなわち、非解離の有機酸分子と解離した有機酸イオンの割合は、pHによって大きく変動することになるであろうと考えられる。すなわち、エタノール発酵液でのpHの変動は、存在する有機酸の解離度合に基づいて検討されるべきものである。 そこで、コハク酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、クエン酸について有機酸分子の解離の状態を、データをもとに調査した。その結果は、図7に示す通りである。 【0020】 水とエタノールを比較すると、当然のことながら、後者の方が疎水性は高い。したがって、エタノールを分離膜によって選択的に回収するためには、その膜は疎水性であることが要求される。 したがって、生産される有機酸を、イオン性の解離状態に維持することにより、疎水性の分離膜への吸着を回避することができ、分離膜の性能についても当初の性能を維持することがはじめて可能となると考えられる。 【0021】 アルカリ性域の溶液下ではエタノール発酵を司る微生物細胞、及び分離膜は物理的に不安定であることから、エタノールを含有する発酵液のpHは弱酸性域から中性に調整することが望ましい。そのためのアルカリ水溶液としては0.1〜1Mの水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを用いるのが一般的である。 【0022】 供給液槽(2)には、そのpHが、引き続き弱酸性〜中性に調整されたエタノールを含有する状態に制御されるべきである。 有機酸を解離状態(イオン)に維持すれば、疎水性の分離膜への吸着を低減できる、ということになる。 浸透気化分離槽を、前記のpHを条件に見合うように調整することで、エタノール選択的疎水性浸透気化膜への有機酸の分離膜への吸着を回避でき、分離膜性能を低下させることなく、安定して濃縮エタノールを生産することができる。また、たとえ、有機酸がエタノール選択的疎水性浸透気化膜に吸着したことにより分離性能が低下した場合であっても、前記の条件下に、中性の緩衝液で膜表面を洗浄する方法が有効あるということができる。すなわち、吸着した有機酸分子が解離型となり、分離膜より脱着させることができる。 【0023】 前記エタノール選択的疎水性浸透気化膜(3)には、公知の多孔性の支持体に保持されるゼオライト膜やシリカライト膜、シリコンゴムコーテイングしたシリカライト膜、公知の疎水性のゼオライト(無機)分離膜を用いることができる。ゼオライトをシリコンゴムマトリックス中に入れた膜、ZMS−5や本発明者らが開発した疎水性のシリカライト膜などを挙げることができる。 さらに、これらの膜の表面をシリコンゴム等の疎水性素材で改質した膜も有効なものである。ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコンゴム膜を用いるもの、ポリジメチルシロキサンやシリコンゴムを用いるもの、シロキサンを含む共重合体、シリル化合物の重合体、置換ポリアセチレンとポリトリメチルビニルシランの膜などを用いる事ができる。 【0024】 本浸透気化分離槽に供給されるエタノール発酵液の供給温度は、常温またはエタノール発酵の反応温度(25〜35℃)程度で供給される。この範囲外の温度であっても差し仕えない。 【0025】 分離膜を透過し得ない発酵液は、浸透気化分離槽に循環、返送されるか、もしくは廃棄工程へ送られる。 【0026】 最終的に回収されるエタノール濃度は、供給液中のエタノール濃度、供給液温度、及び図1に示したエタノール選択的透過性分離膜(3)の性能に依存する。 【0027】 以上のようにして、有機酸が共存するエタノール発酵液から、エタノール選択的透過性分離膜を用いて、濃縮エタノール液を安定して生産することができる。 【0028】 実施例 次に実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこの実施例により限定されるものではない。 【実施例1】 【0029】 実施例1 エタノール発酵液の有機酸分析 グルコースを発酵原料とし、18重量%のグルコース水溶液をオートクレーブ滅菌(121℃、20min)した後、150mlをステンレス容器に注入し、これに市販の乾燥パン酵母(Saccharomyces cerevisiae、オリエンタル酵母工業製)1.5gを添加した。発酵は30℃(撹拌子の回転数;600rpm)で行い、培地中のグルコースが全て消費されるまで継続した。 得られた発酵液中の有機酸組成は、有機酸分析計(日立ハイテクノロジーズ製、L-7000シリーズ)を用いて、ブロムチモールブルー法により分析した。分離カラムは日立ゲルC-610HS、検出器にはUV-VIS検出器(日立ハイテクノロジーズ製、L-7420型)を用いた。 その結果を表1に示す。 有機酸類の組成は、発酵に使用する微生物の種類などによって異なる。 また、生産されるエタノール濃度を増加させるためには、発酵原料となる糖濃度を増加することが必要となるが、このような場合には、副産物である有機酸類の濃度もまた増加する。 【0030】 【表1】
【実施例2】 【0031】 実施例2 シリカライト結晶粒子へのコハク酸の吸着挙動 コロイダルシリカ、水酸化ナトリウム、テトラプロピルアンモニウムブロマイドから水熱合成したシリカライトの粉末結晶0.5gとpHを1MのNaOH溶液で調整した0.3重量%のコハク酸水溶液5mlを密栓付L字型試験管に注入した。30℃で24時間振とう(50rpm)した後の、コハク酸濃度を測定し、その減少量からシリカライト粉末へのコハク酸吸着量を算出した。 その結果を図2に示す。コハク酸水溶液のpHの上昇にともなって、吸着量は急激に低下し、水溶液のpHを中性に調整するとほとんど吸着されなかった。 【実施例3】 【0032】 実施例3 シリカライト膜のエタノール分離性能に及ぼすコハク酸水溶液のpHの影響 エタノール選択性膜としては、ゼオライトの一種である、結晶構造にアルミナを全く含まない疎水性のシリカライト膜を用いた。この膜は、予め所定濃度に調製されたコロイダルシリカ、アルカリ金属水酸化物から成る水性ゲル混合物と結晶化調整剤の添加により多孔質焼結ステンレス基板上に水熱合成されたものを使用した。有効膜面積は、12.6cm2である。製膜方法の詳細は、既知の報告(Desalination, Vol. 144, p. 47-52, 2002)に従った。膜を介して一方側に、0.3重量%のコハク酸を含有する5重量%エタノール水溶液を供給した(30℃)。なお、この供給液を所定のpHに調整するために1MのNaOH溶液を用いた。 当該膜の反対側を減圧にした。膜を透過した蒸気は液体窒素を用いたコールドトラップにより凝縮し、濃縮エタノール液として回収した。膜を透過した回収液中のエタノール濃度の分析は、熱伝導度検出器付ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC-8A)、Thermon-1000充填カラム(Φ3mm×2m)により行った。 その結果を図3に示す。ここで、pH7の場合の測定値は、コハク酸を含有しないエタノール/水系での分離性能を示している。膜分離性能は、エタノール供給液のpHの低下に伴って低下し、pH3.2での膜透過エタノール濃度は25重量%、膜透過量は49g/m2・hしかなかった。これらはpH7の場合の分離性能と比較すると、膜透過エタノール濃度で43ポイントの低下、膜透過量で10%まで減少した。 しかしながら、pH5〜7の範囲での膜透過エタノール濃度は、ほぼ一定であり、膜透過量もまた、pH6の場合に、pH7の場合の70%と高い割合を示した。 このように、コハク酸含量が同じエタノール水溶液を供給液として用いる場合であっても、そのpHを中性付近に調整することで、分離膜性能の低下を著しく軽減できることができた。 【実施例4】 【0033】 実施例4 シリコンゴムコーティングしたシリカライト膜のエタノール分離性能に及ぼすコハク酸水溶液のpHの影響 実施例3において用いたシリカライト膜の代わりに、シリコンゴムで膜表面をコーティングしたシリカライト膜を用いた以外は、実施例3と同様にして実験を行った。 ここで、シリコンゴムコーティングは以下のようにして行った。 シリコンゴム(信越化学製、高分子量型KE45)が7重量%となるようにヘキサンに均一に溶解した後、シリカライト膜の表面のみをコーティングするためにステンレス基盤側をセロファンテープで覆い、シリカライト膜を10秒間浸漬した。その後40℃で一晩乾燥した。 その結果を図4に示す。 膜分離性能は、エタノール供給液のpHの低下に伴って低下したものの、pH7の場合の分離性能と比較して、pH5での膜透過エタノール濃度の低下は認められず、膜透過量もまた85%と高い割合を示した。 【実施例5】 【0034】 実施例5 シリコンゴムコーティングしたシリカライト膜のエタノール分離性能に及ぼすコハク酸水溶液のpHの影響 実施例4においてコーティングに用いたシリコンゴム(信越化学製、高分子量型KE45)の代わりに、シリコンゴム(信越化学製、低分子量型KE108)を用いた以外は、実施例4と同様にして実験を行った。 その結果を図5に示す。 膜分離性能は、エタノール供給液のpHの低下に伴って低下したものの、pH7の場合の分離性能と比較して、pH5での膜透過エタノール濃度の低下は認められず、膜透過量もまた86%と高い割合を示した。 【実施例6】 【0035】 実施例6 シリコンゴムコーティングしたシリカライト膜のエタノール分離性能に及ぼすコハク酸水溶液のpHの影響 実施例5と同様にしてコーティングしたシリカライト膜に、さらに実施例4と同様にしてシリコンゴム(信越化学製、高分子量型KE45)コーティングしたシリカライト膜を用いた以外は、実施例4と同様にして実験を行った。 その結果を図6に示す。 エタノール供給液がpH5以上の場合には、エタノール/水系での膜分離性能(図6中では、pH7の性能として表示)と比較して、その低下はほとんど認められなかった。pH4においても、pH7の場合の分離性能と比較して、膜透過エタノール濃度の低下は認められず、膜透過量もまた70%以上の高い割合を示した。 【図面の簡単な説明】 【0036】 【図1】本発明を実施するためのエタノール選択的疎水性浸透気化膜分離工程の構成を示す図である。 【図2】シリカライト結晶粒子へのコハク酸の吸着挙動を示す図である。 【図3】シリカライト膜のエタノール分離性能に及ぼすコハク酸水溶液のpHの影響を示す図である。 【図4】シリコンゴムコーティングしたシリカライト膜のエタノール分離性能に及ぼすコハク酸水溶液のpHの影響を示す図である。 【図5】シリコンゴムコーティングしたシリカライト膜のエタノール分離性能に及ぼすコハク酸水溶液のpHの影響を示す図である。 【図6】シリコンゴムコーティングしたシリカライト膜のエタノール分離性能に及ぼすコハク酸水溶液のpHの影響を示す図である。 【図7】各種有機酸のpHに応じて変化する解離状態を示す図である。 【符号の説明】 【0037】 1 浸透気化分離槽 2 供給液槽 3 エタノール選択的疎水性浸透気化膜 4 透過槽 5 供給液 6 エタノール選択的疎水性浸透気化膜透過蒸気
|
| 【出願人】 |
【識別番号】301021533 【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
|
| 【出願日】 |
平成16年2月24日(2004.2.24) |
| 【代理人】 |
|
| 【公開番号】 |
特開2005−238032(P2005−238032A) |
| 【公開日】 |
平成17年9月8日(2005.9.8) |
| 【出願番号】 |
特願2004−48539(P2004−48539) |
|