| 【発明の名称】 |
リン酸カルシウム微粒子 |
| 【発明者】 |
【氏名】大野 忠夫
【氏名】伊藤 敦夫
【氏名】後藤 康之
【氏名】山崎 淳司
【氏名】一ノ瀬 昇
【氏名】十河 友
|
| 【要約】 |
【課題】リン酸カルシウム粒子のCa/Pモル比を1.3以上になるように制御し、好ましくは炭酸基を含有させて生体適合性、吸収性、及び吸着能を高め、pHの大幅変化を伴わずにタンパク質や低分子有機化合物などを短時間に効率よくCaP微粒子に担持させる方法を提供する。
【解決手段】1又は2以上の被担持分子を担持した、Ca/Pモル比1.3以上のリン酸カルシウム微粒子の製造方法であって、比誘電率80以下の溶媒をリン酸カルシウム過飽和水溶液に混合することにより、リン酸カルシウム過飽和水溶液から微粒子状のリン酸カルシウムを急速に析出させる工程を含み、上記のリン酸カルシウム過飽和水溶液及び上記の比誘電率80以下の溶媒のいずれか一方又は両方が被担持分子を含む溶液である製造方法。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 1又は2以上の被担持分子を担持した、Ca/Pモル比1.3以上のリン酸カルシウム微粒子の製造方法であって、比誘電率80以下の溶媒をリン酸カルシウム過飽和水溶液に混合することにより、リン酸カルシウム過飽和水溶液から微粒子状のリン酸カルシウムを急速に析出させる工程を含み、上記のリン酸カルシウム過飽和水溶液及び上記の比誘電率80以下の溶媒のいずれか一方又は両方が被担持分子を含む溶液である製造方法。 【請求項2】 上記の微粒子が炭酸基CO32-を1重量%〜15重量%含有した炭酸含有リン酸カルシウムである請求項1に記載の製造方法。 【請求項3】 上記の微粒子が炭酸基CO32-を1重量%〜15重量%含有した炭酸含有アパタイトである請求項1に記載の製造方法。 【請求項4】 上記のリン酸カルシウム過飽和水溶液が親水性の被担持分子を含む溶液である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。 【請求項5】 上記の比誘電率80以下の溶媒が疎水性の被担持分子を含む溶液である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。 【請求項6】 上記の微粒子の析出にあたりリン酸カルシウム微粒子核液を混合する工程を含む請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。 【請求項7】 上記の微粒子を基材上に沈殿させて基剤表面にリン酸カルシウム微粒子の皮膜を形成する工程を含む請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。 【請求項8】 被担持分子が生理活性物質である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。 【請求項9】 親水性の被担持分子がアルブミンであり、疎水性の被担持分子が制癌剤である請求項8に記載の方法。 【請求項10】 比誘電率80以下の溶媒がエタノール,メタノール,及びジメチルスルオキシドからなる群から選ばれる1又は2以上の溶媒である請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法。 【請求項11】 請求項1ないし10のいずれか1項に記載の方法により製造されたリン酸カルシウム微粒子。 【請求項12】 請求項11に記載のリン酸カルシウム微粒子を含む徐放性医薬。 【請求項13】 抗癌剤として用いるための請求項11に記載の徐放性医薬。
|
【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、医薬などの所望の分子を担持させた微粒子状リン酸カルシウム、及びその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、生体高分子(例えばタンパク質)を生体内にある物質のみを基材として、徐放性医薬化するのは至難とされていた。このため、特にタンパクの徐放性医薬を調製するためには合成化合物を主体とする基材が使用されている。このような基材は、動物実験レベルにおいては安全性が確認されているものの、ヒトに対する安全性は未知のままである。ヒトに対する安全性を確認するためには、ヒトに当該徐放性医薬を適用し、多数の症例を積み重ね、数年にわたる長期間の観察を経る必要があるが、このような検討は費用と時間の観点から現実には難しい。また、タンパク質を徐放性医薬とする方法としては「生理活性ペプチド徐放性医薬」(特開2001-58955号公報)、および各種のリポソーム形成法が知られているが、各種のリポソーム形成法においても、生体内にある物質のみを基材としたリポソームは安定性に欠け、また、リポソーム内へのタンパク取り込み量は低く、実用性の高いタンパク徐放性医薬とするのは容易なことではない。 【0003】 一方、リン酸カルシウム(以下、本明細書において「CaP」と略す場合がある。)のうちCa/Pモル比(カルシウム/リン酸モル比)が1.3以上の、アパタイト、リン酸8カルシウム、リン酸3カルシウム、非晶質リン酸カルシウムは生体適合性の高いCaPであり、中性ないしアルカリ性領域では難溶であり、骨以外の場所にこれらのCaPを挿入しても生体にとっては極めて安全であることが知られている。そのため、硬組織を本来の骨以外の場所に人為的に作成したい場合の基材として、焼結したアパタイトセラミックスを含め、これらのCaPが広く検討されてきた。 【0004】 CaPのうち、Ca/Pモル比が1であるリン酸水素カルシウム無水物やリン酸水素カルシウム2水和物は生体用リン酸カルシウムセメントの粉末成分として使用されるが、アパタイト、リン酸8カルシウム、リン酸3カルシウム、及び非晶質リン酸カルシウムに比較して生体適合性が低いリン酸カルシウムである。すなわち、リン酸水素カルシウム無水物やリン酸水素カルシウム2水和物は溶解度がやや高く、溶解すると溶液を酸性化させて炎症反応を惹起する場合がある。 【0005】 さらに、Ca/Pモル比が1であるピロリン酸カルシウムも、アパタイト、リン酸8カルシウム、リン酸3カルシウム、非晶質リン酸カルシウムに比較して生体適合性が低い。 CaPのうちCa/Pモル比が0.5であるリン酸2水素カルシウムは、リン酸水素カルシウム無水物やリン酸水素カルシウム2水和物よりもさらに生体適合性の低いリン酸カルシウムであり、溶解度が極めて高く、溶解すると溶液が強い酸性となり、生体材料としては使用できない。 【0006】 骨や歯のアパタイト及びその前駆体リン酸カルシウムは、Ca/Pモル比が1.3以上であるだけでなく、炭酸基CO32-を3〜6重量%含有することも特徴である。骨や歯のアパタイトが炭酸基を含むのは、体液や血液が炭酸ナトリウム緩衝液であることと関係がある。人工アパタイトにも炭酸基CO32-をドープすることができ、炭酸基をドープすると骨や歯のアパタイトの物性に近づく。例えば、骨のアパタイトは破骨細胞に吸収され(溶解すること)、吸収後に骨芽細胞の働きで析出することが特徴であり、この過程を骨のリモデリングと呼ぶ。しかるに、炭酸基CO32-を全く含まない水酸アパタイト焼結体は、破骨細胞に吸収されずリモデリングを起こさない。その結果、炭酸基CO32-を全く含まない水酸アパタイト焼結体は骨中に埋入しても骨には置換されない。一方、炭酸基CO32-を数%含有した炭酸含有アパタイト焼結体は、同種骨や自家骨と同様、あるいは正常骨と同様に、骨リモデリング過程で吸収され、やがて本物の骨と置き換わる(J. Biomed. Mater. Res., 39, pp.603-610, 1998)。したがって、炭酸含有リン酸カルシウム、とりわけ炭酸含有アパタイトは、炭酸基CO32-を全く含まないリン酸カルシウムより生体適合性がさらに高いといえる。 【0007】 CaPのなかでも、アパタイト微粉末の比表面積は100m2/gと大きく、吸着能に優れていることから、アパタイト微粉末は種々の物質の吸着剤として使用されてきた。アパタイト微粉末は様々な化合物について吸着型徐放性医薬を調製するための基材となり得るものと考えられており、吸脱着による拡散モデルに従った徐放性を示すことが示されてきた(Burgos, A.E. et al., Biomaterials., 23, pp.2519-26, 2002)。 【0008】 低結晶性アパタイトや非晶質リン酸カルシウムなどのCaPは本来生体内物質であるがゆえに、タンパク質などの体内生理活性物質の安全な徐放性医薬の基材となり得ることが知られている。田中らのグループは、中性域では不溶性タンパクである繊維状タンパクのコラーゲンや、水溶性糖鎖高分子であるコンドロイチン硫酸を、水酸化カルシウム懸濁液とリン酸溶液を混合する過程で低結晶性アパタイトと共沈させ、ナノメートルサイズの微小結晶を含むコラーゲン/コンドロイチン硫酸-アパタイトコンポジットを作成した(Rhee, S.H., et al., Biomaterials., 22(21), pp.2843-7, 2001)。 【0009】 CaPにタンパク質を保持させる方法としては他にも、水酸アパタイトやβリン酸三カルシウム多孔質焼結体の気孔中に成長因子を物理的に保持する方法(米国特許第6,346,123号, Clin. Orthop., 187, pp.277-280, 1983; J. Biomed. Mater. Res., 49, pp.415-421, 2000)、リン酸三カルシウムや石膏に接触させて保持する方法(特開平2001-131086号公報、特開平2001-122800号公報)、水酸アパタイト多孔体や顆粒に吸着させる方法(Biochem. Biophys. Res. Commun., 193, pp.509-517, 1993; Biomaterials, 17, pp.703-709, 1996; Clin. Orthop. 268, pp.303-312, 1991; J. Mater Sci.: Mater in Med., 12, pp.293-298, 2001; J. Biomed. Mater Res., 41, pp.405-411, 1998)、水酸アパタイト顆粒にコラーゲンゲルを添加して骨形成因子を粘着固定する方法(Biomaterials, 22, pp.1643-1651, 2001)、水酸アパタイトと生体崩壊性ポリマーを含む多孔性複合体に生理活性物質をさらに添加した組成物とする方法(米国特許第 5,766,618号)、MOCVD法で金属上に形成したリン酸カルシウム被膜をタンパク溶液中に浸漬して吸着させる方法(米国特許第 6,113,993号)、スパッタコーティングでチタン上に形成したリン酸カルシウム被膜を骨形成因子溶液に浸漬して吸着させる方法(Plastic Recon. Surgery 108, pp.434-443, 2001)、水酸アパタイト−αリン酸カルシウム複合焼結体をタンパク溶液に浸漬して吸着させる方法(J. Mater Sci.; Mater in Med., 12, pp.761-766, 2001)、αリン酸カルシウム多孔体をタンパク溶液に浸漬して吸着させる方法(J. Biomed. Mater Res., 59, pp.422-428, 2002)、リン酸八カルシウム顆粒を骨形成因子溶液に浸漬後、凍結乾燥して固定する方法(J. Biomed. Mater Res., 57, pp.175-182, 2001)、非晶質リン酸カルシウム、軟骨形成細胞又はその前駆細胞、水分又は生理活性物質を含む水分を複合化し、硬化させて生理活性物質を保持する方法(米国特許第 6,277,151号)、生体吸収性ポリマーや生体吸収性リン酸カルシウムと成長因子を混合して、金属等の多孔性インプラントの気孔内に保持する方法(US 5,947,893)、リン酸カルシウムセメントにタンパクや生理活性物質や薬剤を混合して硬化させ、タンパクや生理活性物質や薬剤を保持する方法(米国特許第5,782,971号、特開平9-225020号公報、特開平4-248774号公報、特開平6-228011号公報、特開平7-31673号公報、Biomed. Mater Eng., 4, pp.291-307, 1994; Clin. Ortho Related Res., 367S, pp.S396-S405, 1999; J. Periodont., 71, pp.8-13, 2000; Biomaterials, 23, pp.1261-1268, 2002; J. Biomed. Mater Res., 59, pp.265-271, 2002)、硬化後のリン酸カルシウムセメントに吸収させる方法(J. Biomed. Mater Res., 44, pp.168-175, 1999)、分極処理したリン酸カルシウム上に選択吸着させる方法(特開2001‐187133号公報)、カルシウム成分及び増粘剤が配合されたペーストに混合して骨形成促進物質を固定させる方法(特開2001-106638号公報)等が知られている。 【0010】 タンパク質を保持したCaP微粒子としては、粒径90−225ミクロンの粒子を50%以上含み、タンパク質等の薬剤を粉体微粒子内部に保持したCaP微粒子(米国特許第5,958,458号、デンマーク特許第0695/94号)が開示されている。しかしながら、その好適な製造方法については開示されていない。CaPのCa/Pモル比について何の制限もない。また炭酸基を含有させて、より生体のCaPに近づけ、生体適合性、吸収性、及び吸着能を高めたCaP微粒子は開示されていない。 【0011】 また、Daculsiらは接着タンパク質であるファイブロネクチンを含むリン酸緩衝液(PBS)に、焼結アパタイト粉末を添加する方法を提案した(Daculsi, G., et al., J. Biomed. Mater Res., 47(2), pp.228-33, 1999)。この報告によれば、PBSはリン酸カルシウムに不飽和であるため、焼結アパタイト粉末は僅かに溶解し、やがて粉末粒子近傍ではPBSが低結晶性アパタイトに対して飽和状態になる。この状態から、低結晶性アパタイト微結晶が粒子近傍に析出する。このとき低結晶性アパタイト結晶面へフィブロネクチンが吸着する。吸着したフィブロネクチンは低結晶性アパタイト微結晶の析出サイトとして機能し、フィブロネクチン上に低結晶性アパタイトが析出する。この過程を繰り返す結果、ファイブロネクチンは低結晶性アパタイト表面に単に吸着しているのではなく、低結晶性アパタイト粒子内部にも捕捉された状態で担持される。しかしながら、この方法では、不飽和溶液中で焼結アパタイト粉末が溶解するのを待つために担持に2時間を要するという問題がある。担持に長時間を要すると生産効率が下がって製造コストの上昇を招くほか、手術中に生体材料や生体組織に生理活性物質及び/又は薬物を担持することができない。また、繊維状タンパクのファイブロネクチンの比較対照として用いた粒子状タンパクであるアルブミンの周囲には低結晶性アパタイトが成長せず、アルブミンは低結晶性アパタイトに担持され難いという問題点もある。さらに、担持担体としては低結晶性アパタイト以外のリン酸カルシウムは開示されていない。 【0012】 水溶液からCaPとタンパク質とを共沈させる方法は有効な担持法であり、ポリマー又は金属表面に析出させる方法(米国特許第6,136,369号、同6,143,948号、同6,344,061号、EP96201293)が開示されている。しかしながら、これらの方法はpHの大幅変化を伴う担持法であり、医薬の有効成分である低分子化合物が壊れたり、タンパク質が失活してしまうという問題がある。 【0013】 タンパク質を保持したCaP微粒子であり、さらに水溶液からCaPとタンパク質とを共沈させることで、タンパク質を保持させたCaP微粒子としては、直径300nmから4000nmのリン酸カルシウム粒子で、本質的に球形で、本質的に滑らかな表面を有する微粒子が開示されている(WO00046147)。しかしながら、CaP微粒子のCa/Pモル比について何の制限もない。また炭酸基を含有させて、より生体のCaPに近づけ、生体適合性、吸収性、及び吸着能を高めたCaP微粒子は開示されていない。また、サイトカインやインターロイキンを保持した非晶質リン酸カルシウムが開示されているが(US 20030082232)、より生体のCaPに近づけ、生体適合性、吸収性、及び吸着能を高めたCaP微粒子は開示されていない。 【特許文献1】特開2001−58955号公報 【特許文献2】米国特許第6346123号明細書 【特許文献3】特開2001−131086号公報 【特許文献4】特開2001−122800号公報 【特許文献5】米国特許第5766618号明細書 【特許文献6】米国特許第6113993号明細書 【特許文献7】米国特許第6277151号明細書 【特許文献8】米国特許第5958458号明細書 【特許文献9】独国特許第0695/94号明細書 【特許文献10】米国特許第5947893号明細書 【特許文献11】米国特許第5782971号明細書 【特許文献12】特開平9−225020号公報 【特許文献13】特開平4−248774号公報 【特許文献14】特開平6−228011号公報 【特許文献15】特開平7−31673号公報 【特許文献16】特開2001−187133号公報 【特許文献17】特開平2001−106638号公報 【特許文献18】米国特許第6136369号明細書 【特許文献19】米国特許第6143948号明細書 【特許文献20】米国特許第6344061号明細書 【特許文献21】欧州特許第96201293号明細書 【特許文献22】WO00046147 【特許文献23】米国特許公開第20030082232号公報 【非特許文献1】J. Biomed. Mater. Res., 39, pp.603-610, 1998 【非特許文献2】Biomaterials. 23(12), pp.2519-26, 2002 【非特許文献3】Biomaterials. 22(21), pp.2843-7, 2001 【非特許文献3】Clin. Orthop., 187, pp.277-280, 1983 【非特許文献4】J. Biomed. Mater Res. 49, pp.415-421, 2000 【非特許文献5】Biochem. Biophys. Res. Commun., 193, pp.509-517, 1993 【非特許文献6】Biomaterials, 17, pp.703-709, 1996 【非特許文献7】Clin. Orthop. 268, pp.303-312, 1991 【非特許文献8】J. Mater Sci.: Mater in Med., 12, pp.293-298, 2001 【非特許文献9】J. Biomed. Mater Res., 41, pp.405-411, 1998 【非特許文献10】Biomaterials, 22, pp.1643-1651, 2001 【非特許文献11】Plastic Recon. Surgery 108, pp.434-443, 2001 【非特許文献12】J. Mater Sci.; Mater in Med, 12, pp.761-766, 2001 【非特許文献13】J. Biomed. Mater Res., 57, pp.175-182, 2001 【非特許文献14】Biomed. Mater Eng., 4, pp.291-307, 1994 【非特許文献15】Clin. Ortho. Related Res., 367S, pp.S396-S405, 1999 【非特許文献16】J. Periodont, 71, pp.8-13, 2000 【非特許文献17】Biomaterials, 23, pp.1261-1268, 2002 【非特許文献18】J. Biomed. Mater Res., 59, pp.265-271, 2002 【非特許文献19】J. Biomed. Mater Res., 44, pp.168-175, 1999 【非特許文献20】J. Biomed. Mater Res., 47(2), pp.228-33, 1999 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0014】 CaP粒子のCa/Pモル比が1.3以上になるように制御し、かつCaPの結晶粒界や粒内にまで分子を捕捉させることにより、単なる吸着に比べて分子を安定に担持させることができ、このような分子担持CaPは安全な徐放性医薬としての利用が期待できる。しかし、CaP粒子のCa/Pモル比を1.3以上になるように制御し、さらに好ましくは炭酸基を含有させて生体適合性、吸収性、及び吸着能を高め、しかもpHの大幅変化を伴わずにタンパク質や低分子有機化合物などを短時間に効率よくCaP微粒子に担持させる方法は提供されていない。 【0015】 従って、本発明の課題は、CaP粒子のCa/Pモル比を1.3以上に制御し、さらに好ましくは炭酸含有量を骨CaPと同程度に制御することが可能で、タンパク質や水溶性又は疎水性の低分子有機化合物などをCaPに対して簡便かつ短時間に、しかもこれらの分子を変性させることなく強固かつ大量にCaPに結合させる手段を提供することにある。また、本発明の別の課題は、上記の手段を用いて医薬の有効成分を含む徐放性医薬を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0016】 最近、本発明者らは、不安定リン酸カルシウム過飽和水溶液を出発材料として生体適合性の高いCaPを基板上に析出させる際に、あらかじめ溶解しておいたタンパク質成分を析出CaP層内に捕捉し、安定に担持させる技術を開発した(特願 2002-341464号明細書)。一般に、特定分子の結晶を作成する場合、できるだけ純粋な当該分子を溶解した溶液を作成し、それを濃縮して溶質の過飽和状態を作り出し、そこから緩慢に結晶を成長させるほど、不純物を含まない純粋な結晶が得られる。上記特許出願に係る発明は、この原理を逆転させ、不純物をできるだけ多く加えた過飽和溶液からできるだけ急速に結晶を析出させることによって当該不純物をできるだけ多く結晶内に捕捉させようとするものである。 本発明者らは上記の課題を解決すべくさらに鋭意研究を続けた結果、リン酸カルシウム過飽和水溶液に水より比誘電率の低い溶媒を混合し、pHの大幅な変化無しに過飽和度を急速に上昇させてCa/Pモル比を1.3以上のCaPを急速に析出させることにより、さらに効率的に上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。 【0017】 すなわち、本発明により、1又は2以上の被担持分子を担持したCa/Pモル比1.3以上のリン酸カルシウム微粒子の製造方法であって、比誘電率80以下の溶媒をリン酸カルシウム過飽和水溶液に混合することにより、リン酸カルシウム過飽和水溶液から微粒子状のリン酸カルシウムを急速に析出させる工程を含み、上記のリン酸カルシウム過飽和水溶液及び上記の比誘電率80以下の溶媒のいずれか一方又は両方が被担持分子を含む溶液である製造方法が提供される。 【0018】 上記発明の好ましい態様によれば、該リン酸カルシウム微粒子が炭酸基CO32-を1〜15重量%、好ましくは2〜8重量%、より好ましくは3〜6重量%含むリン酸カルシウム微粒子である上記方法が提供される。より好ましい態様によれば、該リン酸カルシウム微粒子は、炭酸基CO32-を1〜15重量%、好ましくは2〜8重量%、より好ましくは3〜6重量%含む炭酸含有アパタイト微粒子である。 【0019】 上記発明の別の好ましい態様によれば、上記のリン酸カルシウム過飽和水溶液が親水性の被担持分子を含む溶液である上記の方法;上記の比誘電率80以下の溶媒が疎水性の被担持分子を含む溶液である上記の方法;上記のリン酸カルシウム過飽和水溶液が親水性の被担持分子を含む溶液であり、かつ上記の比誘電率80以下の溶媒が疎水性の被担持分子を含む溶液である上記の方法;該微粒子状のリン酸カルシウムの析出にあたりリン酸カルシウム微粒子核液を混合する工程を含む上記の方法;及び、該リン酸カルシウム微粒子を基材上に沈殿させて基剤表面に生体適合性の高いリン酸カルシウム微粒子の皮膜を形成する工程を含む上記の方法が提供される。 【0020】 また、上記発明のさらに好ましい態様によれば、被担持分子が生理活性物質である上記の方法;生理活性分子がタンパク質又は低分子有機化合物である上記の方法;親水性の被担持分子がタンパク質であり、疎水性の被担持分子が低分子有機化合物である上記の方法;親水性の被担持分子がアルブミンであり、疎水性の被担持分子が制癌剤である上記の方法;比誘電率80以下の溶媒がエタノール,メタノール,及びジメチルスルオキシドからなる群から選ばれる1又は2以上の溶媒である上記の方法が提供される。 【0021】 別の観点からは、本発明により、上記の方法により製造された生体適合性の高いCa/Pモル比1.3以上のリン酸カルシウム微粒子が提供される。また、上記のリン酸カルシウム微粒子を含む医薬も本発明により提供される。医薬としては、例えば、免疫アジュバント又は抗癌剤などを例示できる。 【発明の効果】 【0022】 本発明の方法により、医薬の有効成分である生理活性物質などを担持した、Ca/Pモル比1.3以上の生体適合性の高いリン酸カルシウム微粒子を簡便かつ短時間に製造でき、被担持分子の所望の生理活性を失活させずにリン酸カルシウムの内部にも被担持分子を担持させることができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0023】 本明細書において「Ca/Pモル比1.3以上のリン酸カルシウム」とは、Ca含有量とP含有量のCa/Pモル比が1.3以上のリン酸カルシウムのことであり、その種類は特に限定されず、無水物、無水塩又は含水塩のいずれであってもよい。結晶質又は非晶質のいずれであってもよい。さらに、Caの一部またはPの一部が他の原子や原子団に置換されていてもよい。このようなリン酸カルシウムとしては、具体的には例えばアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)、カルシウム欠損アパタイト、金属イオンが一部Caを置換したアパタイト、硫酸イオンがリン酸イオンの一部を置換したアパタイト、非晶質リン酸カルシウム、金属イオンが一部Caを置換した非晶質リン酸カルシウム、リン酸八カルシウム(Ca8H2(PO4)6・5H2O)、及びリン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)、金属イオンが一部Caを置換したリン酸三カルシウム、を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。 【0024】 本明細書においてCa/Pモル比1.3以上であって、好ましくは炭酸基CO32-を1重量%〜15重量%含有した炭酸含有リン酸カルシウムの種類は特に限定されず、無水物、無水塩又は含水塩のいずれであってもよい。結晶質又は非晶質のいずれであってもよい。炭酸含有リン酸カルシウムの例としては、炭酸含有アパタイトや炭酸含有非晶質リン酸カルシウムなどを挙げることができる。炭酸基の占有する席には特に制限はなく、例えば、リン酸サイト、OHサイト、そのほかいわゆるnon-apatitic サイトや表面吸着サイトであっても良い。 【0025】 炭酸基含有量の下限は、過飽和溶液や結晶核に意図的に炭酸イオンを導入しなくても、空気中の炭酸ガスが溶液に溶解して炭酸含有量1.0重量%未満の炭酸含有リン酸カルシウムは自然に生成することから、1.0重量%であることが好ましい。さらに、炭酸基含有量が1.0重量%未満では、炭酸基が少なくて効果が小さくなるという利点もある。本発明では反応系に意図的に炭酸イオンを導入する点を特徴とすることから、炭酸基含有量の下限を1.0重量%とすることが好ましい。炭酸基含有量の上限は15重量%であることが好ましい。この程度の炭酸含有量を得るためには、過飽和溶液中の炭酸イオン濃度を14mM以上にする必要があり、このような高濃度炭酸イオン過飽和溶液からは生成するリン酸カルシウム微粒子の量が少なく、さらに炭酸カルシウムの生成が増大し、実用上の利点が少ないからである。 【0026】 反応系に意図的に炭酸イオンを導入する場合には、温度やpH条件によっては炭酸含有リン酸カルシウムを生成する際に、炭酸カルシウムも生成する場合がある。もっとも、炭酸カルシウムの生体適合性は極端に低いわけではないので、10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下の含有量であれば、炭酸カルシウムを共存させることもできる。 【0027】 Ca/Pモル比が1.3以上であって、好ましくは炭酸基CO32-を1重量%〜15重量%含有する炭酸含有リン酸カルシウムの炭酸基含有量は、過飽和溶液中に含有させた炭酸基CO32-の濃度によって制御することができる。例えば、Ca成分3.25mM リン酸成分1.3mM Na成分182.06mM K成分2.6mM HCO3成分4.2mM Cl成分184.36mM、pH7.4の過飽和溶液からは、平衡状態で炭酸基CO32-含有量5.06重量%の炭酸含有アパタイトが生成する。そして炭酸基CO32-はアパタイトのPO4基を置換している。上記の溶液のHCO3成分を2.1mMに減らし、これに伴いNa成分が179.96mMとなった過飽和溶液からは同様に、平衡状態で炭酸基CO32-含有量3.68重量%の炭酸含有アパタイトが生成する。 【0028】 Ca/Pモル比1.3以上であって、好ましくは炭酸基CO32-を1重量%〜15重量%含有した炭酸含有リン酸カルシウム微粒子の炭酸基含有量は、赤外吸収スペクトルの1400〜1550cm-1に出現する炭酸基の吸収帯の吸収強度を、炭酸含有量既知の炭酸含有リン酸カルシウムと比較することで定量することができる。ただし、比誘電率80以下の溶媒、または被担持分子が1400〜1550cm-1に吸収帯を持つ場合(例えばカルボキシル基を有する分子)は、比誘電率80以下の溶媒または被担持分子を混合せずに炭酸含有リン酸カルシウム微粒子を製造し、炭酸含有量を赤外吸収スペクトルで定量することが望ましい。赤外吸収スペクトルのほか、ガスクロマトグラフィー、電量滴定、微量拡散法などの当業者に既知の種々の方法で炭酸基含有量を定量することもできる。微粒子が炭酸カルシウムを含有する場合は、粉末X線回折法であらかじめ炭酸カルシウム含有量を定量しておけば、CaP微粒子の炭酸基含有量を正確に決定することができる。 【0029】 本発明の方法によれば、比誘電率80以下の溶媒をリン酸カルシウム過飽和溶液に混合することにより、混合物の誘電率を急速に下げてリン酸カルシウムの溶解度を急速に低下させ、pHの大幅変化を伴わずに溶液の過飽和度を急速に上昇させることができる。本発明において比誘電率80以下の溶媒とは、3×108Hz以上、6×108Hz以下の周波数で測定した比誘電率が80以下、好ましくは比誘電率50以下となる溶媒のことである。水の比誘電率は20℃で80.1であり、これよりも比誘電率が低い溶媒中では、リン酸カルシウムを含めて多くの電解質が解離を妨げられる。その結果、リン酸カルシウムの過飽和度が上昇する。比誘電率80以下の溶媒の中でも、プロトン受容性溶媒、両性溶媒、非プロトン性溶媒はpHを低下させる効果が無いか、極めて小さいので、本発明の方法に好適に用いることができる。このような比誘電率80以下の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、ピリジン、ジメチルスルオキシド、ポリエチレングリコール等の親水性有機溶媒を用いることができる。親水性有機溶媒には水及び/又は界面活性剤を混合してもよい。 【0030】 リン酸カルシウム微粒子を析出させて皮膜を形成させるための基材の種類は特に制限されず、金属材料、合成高分子材料、無機材料、生体高分子材料、生体組織材料、あるいはこれらの複合材料などを使用することができる。これらのうち、CaPの不均一核を促す基材は好適に使用することができる。このような基材としては、例えば、金属材料であれば、チタン、チタン合金、タンタル、ジルコニウム、およびこれらの合金などを挙げることができ、さらにこれらの金属の表面に酸化皮膜、OH基、リン酸基、硫酸基、シラノール基、又はアルカリ土類金属のうち1又は2以上の官能基や原子を導入した金属複合体などを挙げることができるが、これに限るものではない。官能基の導入はアルカリ処理、過酸化水素水処理などの公知の種々の方法で達成することができ、アルカリ土類金属の導入はイオン注入、カルシウムイオン溶液中での煮沸などの方法で導入することができる。合成高分子材料としては、例えば、ポリ乳酸を含む高分子、エチレンビニルアルコールを含む高分子、ポリエステル、表面に酸化皮膜、OH基、リン酸基、硫酸基、シラノール基、又はアルカリ土類金属のうち1又は2以上の官能基や原子を導入した合成高分子などを挙げることができる。無機材料としては、例えば、リン酸カルシウム、シリカを含むガラスやセラミック、リン酸を含むガラスやセラミック、硫酸カルシウム、及びこれらを含む無機材料、酸化ジルコニウム、酸化チタン、さらに表面に酸化皮膜、OH基、リン酸基、硫酸基、シラノール基、又はアルカリ土類金属のうち1又は2以上の官能基や原子を導入した無機材料などを挙げることができる。生体高分子材料又は生体組織材料としては、コラーゲン、フィブリン、ゼラチン、キチン、キトサン、骨、腱、靭帯、および、リン蛋白、歯、ケラチン、又は毛髪などを挙げることができる。もっとも、基材の種類は上記に例示したものに限定されることはない。 【0031】 被担持分子の種類は特に限定されず、高分子化合物、低分子有機化合物、無機物質などのいずれであってもよいが、好ましくはタンパク質(血清蛋白質又は生体構造タンパク質を含む)、ポリサッカライドなどの高分子化合物、糖化合物、脂質化合物、核酸化合物、天然物有機化合物、合成低分子有機化合物などを例示でき、2種以上の分子の混合物や動物組織や植物などからの粗抽出物などであってもよい。従来はCaPに担持困難とされていたアルブミンを本発明の方法に従って被担持分子として用いることもできる。被担持物質は、生理活性物質であることが好ましい。本明細書において「生理活性物質」とは、生物に対して何らかの生物活性を有する物質を意味しているが、この用語はいかなる意味においても限定的に解釈してはならず、最も広義に解釈する必要がある。例えば、アルブミンなども生理活性物質に含まれる。生理活性物質には、例えば、生体の調節や生体の機能を変化させ得るサイトカイン、ホルモン等の生理活性物質が含まれ、例えば成長因子や細胞接着因子などが挙げられる。また、生理活性物質には、医薬の有効成分として用いられる低分子有機化合物なども含まれる。生理活性物質は親水性又は疎水性物質のいずれであってもよい。親水性の生理活性物質としては、例えば水溶性の生理活性物質を挙げることができる。水溶性生理活性物質には、非水溶性又は疎水性の生理活性物質をアルブミンなどの水溶性担体タンパク質又はポリエチレングリコール、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルポキメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリピニルピロリドン、ポリ−1,3−ジオキソラン、ポリ1,3,6−トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、若しくはポリアミノ酸類(ホモポリマー又はランダムコポリマ)などの水溶性ポリマーに結合させることで水可溶性とした生理活性物質も含まれる。非水溶性の生理活物質と上記水溶性担体タンパク質又は水溶性ポリマーとの結合は両方の物質の官能基を利用すればよく、種々の公知の方法で結合させることができる。疎水性の生理活性物質としては、例えば、ステロイド類、プロスタグランジン類などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。 【0032】 生理活性物質の例としては、塩基性繊維芽細胞成長因子、IL−1(インターロイキン1)、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−18、GM−CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)、G−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、エリスロポエチン、CSF−1(コロニー刺激因子)、SCF(幹細胞因子)、トロンボポエチン、EGF(上皮増殖因子)、TGF−α(トランスフォーミング増殖因子−α)、HB−EGF(へパリン結合性EGF様増殖因子)、エピレグリン、ニューレグリン1,2,3、PDGF(血小板由来増殖因子)、インスリン、HGF(肝細胞増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)、NGF(神経成長因子)、GDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子)、ミッドカイン、TGF−β(トランスフォーミング増殖因子−β)、ベータグリカン、アクチビン、BMP(骨形成因子)、TNF(腫瘍壊死因子)、IFN−α/β(インターフェロン−α/β)、IFN−γ(インターフェロン−γ)、フィブロネクチン、ラミニン、カドヘリン、インテグリン、セレクチンなどを挙げることができるが、これらに限定はされることはない。生理活性物質のうち、医薬の有効成分として用いられる親水性化合物としては、例えば、アドリアマイシンを挙げることができ、医薬の有効成分として用いられる疎水性化合物としては、例えば、水に難溶性の薬物であって有機溶媒に易溶性の化合物として、例えばマイトマイシンCを挙げることができる。もっとも、医薬の有効成分として用いられる化合物はこれらに限定されることはない。 【0033】 本明細書において「担持」という用語は、CaP微粒子の表面への単なる吸着だけでなく、CaP粒界や粒内に捕捉されることで被担持分子がCaPに保持されることを意味する。いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、本発明の方法によれば、CaPが過飽和溶液から成長する際に被担持分子がCaPの表面に吸着され、吸着された被担持分子の上にさらにCaPが析出し、この過程が繰り返される。その結果、被担持分子がCaPの隙間空間に閉じ込められて内包され、あるいは複数のCaPに挟み込まれたりすることで、CaPの粒界や粒内にも捕捉される。 【0034】 本明細書において「リン酸カルシウム過飽和水溶液」とは、リン酸カルシウム(但しCa/Pモル比1.3以上)の溶解度以上にカルシウムとリンが溶けている溶液のことであり、Ca/Pモル比1.3以上のリン酸カルシウムが析出してくる過飽和溶液である。このようなリン酸カルシウム過飽和水溶液は少なくとも1つ以上のCa/Pモル比1.3以上のリン酸カルシウムに対して過飽和状態であればいかなるものを用いてもよいが、好ましくは、少なくともCa成分0.1〜5.0mMとリン酸成分0.1〜20mMとを含み、pHが5.0〜9.0の水溶液を使用することができる。pHが5.0未満の場合は、リン酸水素カルシウム無水物やリン酸水素カルシウム2水和物が、Ca/Pモル比1.3以上のリン酸カルシウムよりも熱力学的に安定になるため、pHが5.0未満の溶液からはリン酸水素カルシウム無水物やリン酸水素カルシウム2水和物が析出してしまう。CaP粒子を析出させる際、従来行われているような、リン酸溶液と水酸化カルシウム懸濁液の混合、塩化カルシウム溶液と水溶性リン酸塩溶液の混合では、リン酸溶液や塩化カルシウム溶液のpHが低いため、混合溶液の平均pHがたとえ中性であっても、局所的に低pHの部分が一時的に形成されて、リン酸水素カルシウム無水物やリン酸水素カルシウム2水和物が析出して合成物にしばしば混入する。本発明では、あらかじめリンとカルシウムを過飽和状態に溶解させて、pHを5.0〜9.0にすることで、Ca/Pモル比1.3以上のリン酸カルシウム粒子のみを析出させることができる。 【0035】 さらに、被担持分子が生体内に投与されることを想定した場合には、生体塩類組成に近い組成の塩類を含むリン酸カルシウム過飽和水溶液が好ましく、このような溶液としては、Ca-P-Na-K-Cl系のCa成分0.1〜2.5mM、リン酸成分1.0〜20mM、K成分0〜40mM、Na成分0〜200mM、Cl成分0〜200mMを含みpHが5.0〜9.0の水溶液や、Ca-P-Na-K-Mg-Cl-CO3系のCa成分1.2〜2.75mM、リン酸成分0.6〜16mM、K成分0〜30mM、Na成分30〜150mM、Mg成分0.1〜3.0mM、Cl成分30〜150mM、HCO3成分0〜60mMを含みpHが5.0〜9.0の水溶液を使用することができる。これらのリン酸カルシウム過飽和水溶液にはpHを安定させるための種々のpH緩衝剤を添加することもできる。 【0036】 上記のCa-P-Na-K-Cl系過飽和溶液のように炭酸イオンを含まない過飽和溶液を使用することができるが、過飽和溶液に炭酸イオンが含まれていなくても、炭酸含有CaP微粒子をCaP微粒子形成の核して使用すれば、得られるCaP微粒子は全体としてCa/Pモル比1.3以上であって、好ましくは炭酸基CO32-を1重量%〜15重量%含有した炭酸含有CaP微粒子や炭酸含有アパタイトとすることができる。 【0037】 本発明の方法では、例えば、リン酸カルシウム過飽和溶液を安定リン酸カルシウム過飽和溶液と不安定リン酸カルシウム過飽和溶液の2つに分けておくこともできる。安定リン酸カルシウム過飽和溶液とは、溶液調製完了後、自発核形成によるリン酸カルシウム析出までの時間が最後の溶液混合から8日以上を要する過飽和リン酸カルシウム溶液のことである。このような安定リン酸カルシウム過飽和溶液には、ハンクス溶液や1倍濃度擬似体液などがある。不安定リン酸カルシウム過飽和溶液とは、溶液調製後7日以内にリン酸カルシウム沈殿が自発核形成で自然に生じてしまう溶液のことである。自発核形成までの誘導時間は、水溶液の化学組成と温度などを至適値に選択することで制御できる。自発核形成とは、溶液の成分が基板や異物質や容器の壁の助けを借りずに自然発生的に集合して溶液が目視で白濁すること又はこのようにして溶液中で微粒子が形成することである。溶液中の粒子の粒径は光散乱法で測定することができる。 【0038】 リン酸カルシウム過飽和溶液は、少なくともカルシウムを含む試薬粉末、少なくともリンを含む試薬粉末、さらに必要であればpH緩衝剤を順次水に溶解することによって調製できる。あるいは、少なくともカルシウム成分を含む溶液、少なくともリン酸成分を含む溶液、又はカルシウム成分とリン酸成分の両者を含む溶液、必要であればpH緩衝剤を含む溶液を順次混合して作製することもできる。不安定過飽和溶液の場合には、少なくともカルシウム成分を含む溶液、少なくともリン酸成分を含む溶液、又はカルシウム成分とリン酸成分の両者を含む溶液にさらに自発核形成誘導時間を制御する成分を含んでいてもよく、自発核形成までの誘導時間を制御する1種又は2種以上の溶液をさらに混合してもよい。カルシウム成分とリン酸成分は、混合前は異なる容器に別々に溶解させておくことが好ましい。 【0039】 少なくともカルシウム成分を含む粉末若しくはその溶液、少なくともリン酸成分を含む粉末若しくはその溶液、又はカルシウム成分とリン酸成分とを含む溶液の種類は特に限定されない。リン酸成分を含む粉末又はその溶液としては、例えば、リン酸緩衝生理的食塩水、リン酸溶液、リン酸水素二カリウム粉末若しくはその溶液、リン酸二水素カリウム粉末若しくはその溶液、リン酸水素二ナトリウム粉末若しくはその溶液、又はリン酸二水素ナトリウム粉末若しくはその溶液などが挙げられる。カルシウム成分を含む粉末又はその溶液としては、例えば、塩化カルシウム粉末若しくはその溶液、乳酸カルシウム粉末若しくはその溶液、酢酸カルシウム粉末若しくはその溶液、グルコン酸カルシウム粉末若しくはその溶液、又はクエン酸カルシウム粉末若しくはその溶液などが挙げられる。カルシウム成分とリン酸成分とを含む溶液としては、例えば、ハンクス液や1倍擬似体液のような安定過飽和溶液や、リン酸カルシウム不飽和溶液などを挙げることもできる。このようなリン酸カルシウム不飽和溶液の例としては、例えば、塩化カルシウム濃度2.5mM、リン酸水素カリウム濃度1.0mM、pH5未満の溶液を挙げることができる。 【0040】 不安定リン酸カルシウム過飽和溶液は、適当な医療用輸液又は製剤、例えば、医療用電解質輸液剤、透析・腹膜灌流液、輸液の補正用製剤、カルシウム製剤、透析・腹膜灌流液の補充剤、補正用電解質輸液剤の中から選ばれた1種又は2種以上を混合することで作製することもできるがこれらに限定されるものではない。医療用輸液は滅菌済みであり、体内に投与できるものは発熱性物質なども除去されているため、CaP微粒子や皮膜の安全性が高まるという利点がある。また、手術室内のような医療現場で本発明のCaP微粒子や皮膜を製造するのに好適に用いることができる。リン酸カルシウム過飽和溶液を医療用輸液の組み合わせだけで作製する場合は、少なくともカルシウム成分を含有する医療用輸液又は製剤、少なくともリン酸成分を含有する医療用輸液又は製剤、場合によってはさらにpH補正用の適当な酸性輸液又はアルカリ性輸液、場合によってはさらに自発核形成までの誘導時間を制御するための医療電解質輸液を混合することができる。少なくともカルシウム成分を含有する医療用輸液の例としては市販のリンゲル液(大塚製薬)、少なくともリン酸成分を含有する医療用輸液の例としては市販のクリニザルツB(小林薬工)、pH補正用輸液の例としては市販のメイロン(大塚製薬)や透析専用炭酸水素ナトリウム補充液のバイフィル(武田薬品)などのアルカリ化剤又はコンクライトーA(大塚製薬)などの酸性化剤、自発核形成までの誘導時間を制御するための医療用輸液の例として市販のカリウム輸液剤であるメディジェクトーK(テルモ)や市販の生理的食塩水(各社)や10%塩化ナトリウム(各社)などを使用することができる。 【0041】 リン酸カルシウム過飽和溶液には所望の被担持分子(例えばタンパク質)を溶解した溶液として調製することができる。溶解操作は当業者に周知の方法によって容易に行うことができる。例えば、リン酸カルシウムの過飽和状態を維持できる範囲内で被担持分子の水溶液をリン酸カルシウム過飽和水溶液に添加するか、被担持分子粉末を直接リン酸カルシウム過飽和水溶液に溶解することができる。例えば、リン酸カルシウム過飽和溶液の液面上に被担持分子の粉末を静置すればよい。被担持分子としては、単一の被担持分子を用いてもよく、あるいは2種以上の被担持分子の混合物を用いてもよいが、リン酸カルシウム過飽和溶液に溶解可能な親水性分子であることが好ましい。例えば、単純タンパク質、糖タンパク質、脂質結合タンパク質、核酸、ムコ多糖、脂質、合成有機化合物、またこれらの混合物等などを当業者に周知の方法でリン酸カルシウム過飽和溶液に溶解することができる。被担持分子の至適濃度は、被担持分子の種類や担持すべき量によって異なるが、この濃度は、例えば、予備的な試験により適宜決定することが可能である。アルブミンの場合は0.25mg/ml程度が好ましいが、これに限定されるものではない。 【0042】 比誘電率80以下の溶媒、好ましくは親水性有機溶媒にも被担持分子を溶解しておくことができる。この場合、被担持分子は疎水性分子であることが好ましい。疎水性分子の種類は特に限定されないが、例えば、疎水性のペプチドや脂質などの生理活性物質を用いることができる。比誘電率80以下の溶媒には、2種以上の疎水性分子を溶解しておいてもよい。また、比誘電率80以下の溶媒には、リン酸カルシウム過飽和水溶液に溶解した被担持分子と同一の被担持分子を溶解しておくこともできる。比誘電率80以下の溶媒への溶解条件及び被担持分子の濃度も特に限定されない。疎水性分子が有機化合物の場合には、該化合物の溶解に適した親水性有機溶媒を選べばよい。親水性有機溶媒としてはいかなるものも用いることができるが、好ましくは、リン酸カルシウム過飽和水溶液に溶解した水溶性の被担持分子を実質的に失活させない親水性有機溶媒を選択することが好ましい。リン酸カルシウム過飽和水溶液と親水性有機溶媒との混合割合も、リン酸カルシウム過飽和水溶液に溶解した水溶性の被担持分子を実質的に失活させない範囲を選択することができる。例えば、リン酸カルシウム過飽和水溶液に溶解した高分子がアルブミンの場合には親水性有機溶媒としてエタノールを用いることが好ましく、リン酸カルシウム過飽和水溶液に混合するエタノールの濃度が20%(v/v)以下であればアルブミンの変性によるタンパク沈殿が発生することはない。被担持分子を失活させない混合割合は予備的試験によりあらかじめ確認しておくことが望ましい。 【0043】 親水性有機溶媒に所望の疎水性分子が難溶性の場合には、疎水性分子を溶解でき、かつ親水性有機溶媒と混和できる別の有機溶媒にあらかじめ疎水性分子を溶解しておき、得られた溶液を親水性有機溶媒に添加して溶液を調製すればよい。このような有機溶媒としては、親水性有機溶媒のほか、少量の疎水性有機溶媒を使用できる場合がある。例えば、マイトマイシンCはエタノールよりもメタノールによく溶解するので、マイトマイシンCをあらかじめメタノールに溶解しておき、そのメタノール溶液をエタノールに加えてマイトマイシンCのエタノール溶液を調製することができる。 【0044】 本発明の方法によれば、所望の被担持分子が溶解している過飽和リン酸カルシウム水溶液と親水性有機溶媒とを混合することにより生体適合性の高いCa/Pモル比1.3以上のCaP微粒子やCa/Pモル比1.3以上で、好ましくは炭酸基CO32-を1重量%〜15重量%含有する炭酸含有CaP微粒子を急速に析出させることができる。この工程は、例えば、以下のようにして行うことができる。 【0045】 (1)あらかじめCa/Pモル比1.3以上のCaP微粒子形成の核となる微粒子を含む懸濁液(本明細書において「CaP微粒子核液」と呼ぶ)を準備することが好ましい。該CaP微粒子の核となる微粒子は、生体適合性が高く、リン酸カルシウムの結晶成長を助けるものであれば特に限定されず、必ずしもリン酸カルシウムを用いる必要はない。リン酸カルシウムのCaP微粒子核液としては、例えば、すでにCa/Pモル比1.3以上のCaPが析出しているリン酸カルシウム液を一度撹拌し10分以上静置した上清(リン酸カルシウム微小結晶が浮遊している)や、撹拌した上記リン酸カルシウム液をそのまま用いてもよい。さらに、水酸アパタイトやリン酸八カルシウムなどのリン酸カルシウムや非リン酸カルシウム微粒子又は粉末を懸濁した液、カルシウムイオンとリン酸イオンとを反応させて低結晶性アパタイトゲル状沈殿を生成させた後の上清などを挙げることができる。さらにカルシウム成分またはリン酸成分の一部が他の金属イオンや炭酸基や硫酸基などの原子団で一部置換されているCaP粒子や粉末も使用することができる。非リン酸カルシウム質のCaP微粒子核液としては、例えば、コラーゲン微粉末、リン脂質微粉末、酸化チタン微粉末、シラーノール基を有する微粉末、バリウムアパタイト微粉末を懸濁した液などをあげることができるが、これらに限定されるものではない。CaPの核として微粒子に替えて適当な基材を用いることもでき、この場合には基材表面にCaP皮膜が形成される。適当なCaPの核を選択することで、生成するCaP微粒子の相を意図的に制御することができる。例えば、核無しでは微粒子として炭酸含有非晶質リン酸カルシウムが生成する過飽和リン酸カルシウム水溶液であっても、適当な核を入れることで炭酸含有非晶質リン酸カルシウムの生成を抑止し、生成する微粒子を炭酸含有アパタイト微粒子にすることができる。なお、過飽和リン酸カルシウム水溶液が自発的にCaPを発生する不安定リン酸カルシウム過飽和溶液である場合は、核となる微粒子は必ずしも必要ではない。 【0046】 (2)過飽和リン酸カルシウム水溶液に、好ましくはCaP微粒子核液を加えて混合する。CaP微粒子核液の混合割合は特に限定されるものではなく、また混合するタイミングも特に限定されるものではないが、次の段階に進む直前に容量比で1/10ないし1/100程度を加えることが好ましい。 【0047】 (3)上記(2)の過飽和リン酸カルシウム水溶液、あるいはCaP微粒子核液を混合していない過飽和リン酸カルシウム水溶液に対して、比誘電率80以下の溶媒、好ましくは親水性有機溶媒を添加して混合する。上記溶媒の添加及び混合条件は特に限定されるものではない。例えば、室温で混合撹拌するだけで、CaPの微粒子が被担持分子を捕捉しつつ急速に析出する場合がある。析出速度は、例えば、安定過飽和リン酸カルシウム溶液に親水性有機溶媒としてエタノールを添加した場合はエタノールの混合濃度により変化するが、一般的には、エタノールの割合が5%(v/v)以上となるように添加混合した場合には、室温で10分間放置するとCaP微粒子の沈殿が発生し始め、一夜放置後にはほぼ平衡状態に達する。担持量については、例えば、被担持分子がアルブミンであり、過飽和リン酸カルシウム水溶液中の初期アルブミン濃度が0.25mg/mlの場合には、アルブミンの担持量は最大で65%となることがある。また、マイトマイシンCをメタノール:エタノール混合液(容量比1:9)に50μg/mlとなるように溶解して、0.25mg/mlのアルブミンを含む過飽和リン酸カルシウム水溶液に混合した場合、30分後に3%のマイトマイシンCが0.22μm以上のサイズのCaP微粒子に担持される場合がある。もっとも、これらの条件に限定されるものではない。 【0048】 本発明の方法により製造されるCa/Pモル比1.3以上のCaP微粒子の粒径は特に限定されないが、例えば、10nm〜1000μmの範囲であり、好ましくは10nm〜500μm、さらに好ましくは200nm〜10μmである。CaP微粒子の粒径上限が1000μmを超えると、細胞が食作用で細胞内に取り込むことができなくなる場合がある。Ca/Pモル比1.3以上のCaP微粒子の粒径下限が10nmを下回ると、粒子分散物が実質上コロイド溶液となって濃縮工程が困難になる場合がある。Ca/Pモル比1.3以上のCaP微粒子の粒径は、ストークスの原理に基づく沈降法や光散乱法で測定することができる。微粒子の形状は特に限定されず、球形、多面体、板状、又は棒状など、任意の形状が許容される。 【0049】 本発明の方法により製造されるリン酸カルシウム皮膜の厚さは特に制限されない。本明細書において「皮膜」という用語は、例えば、基材表面積の5%以上の面積を被覆している状態を意味しており、基材表面を完全に被覆していないない場合も包含される。また、「皮膜」とは、被担持分子を担持したリン酸カルシウムが沈着することにより基材表面に形成される薄膜のことを意味する。通常、皮膜の厚さは10nm〜100μm程度である。基材表面に形成された皮膜による被覆面積又は皮膜の厚さは、例えば、光学顕微鏡や電子顕微鏡で計測することができる。 【0050】 CaP微粒子は当業者に既知の方法で相を同定することができる。例えば、微粒子を溶液から分離後、乾燥して、より好ましくは凍結乾燥して、粉末X線回折で相同定を行えばよい。微粒子が結晶質であれば、走査型電子顕微鏡や光学顕微鏡等の当業者に既知の方法で、自形結晶粒子の形態を観察し、格子定数と結晶点群で一意的に決定される結晶面間の角度をもって結晶相を同定することもできる。 【0051】 CaP微粒子のCa/Pモル比は、微粒子をろ別したあとの溶液を当業者に既知の種々の方法で化学分析し、溶液のCa減少量、P減少量を算出して、求めることもできる。さらに好ましくは微粒子を直接化学分析すればよい。炭酸カルシウムが共存する場合は、粉末X線回折法で炭酸カルシウム量を定量して補正することができる。粉末X線回折などで相同定し、その相に固有のCa/Pモル比を特定することで、微粒子のCa/Pモル比を決定することもできる。例えば、微粒子が炭酸含有アパタイトと同定されれば、炭酸含有アパタイト固有のCa/Pモル比は1.5以上であるので、微粒子のCa/Pモル比は1.5以上であることがわかる。 【0052】 CaP微粒子に被担持分子が担持されているかどうかは、被担持分子がタンパク質の場合には、微粒子を遠心沈降した後の上清のタンパク質濃度を282nm吸光度測定する方法や、タンパク質染色液を用いた比色測定又は蛍光測定で確認することができる。非担持物質が有色物質である場合は、微粒子を遠心沈降した後の上清中の比担持物質濃度を比色測定することで確認することができる。CaP皮膜に被担持分子が担持されているかどうかは、被担持分子がタンパク質の場合には、CaP皮膜を有する基材を液から取り除き、上記と同様にして確認することができる。また、皮膜を基材から分離後、皮膜のリン酸カルシウムを酸で溶解して溶液とし、この溶液のタンパク質濃度又は有色物質濃度を比色測定又は蛍光測定すればよい。 【0053】 本発明の方法により、被担持分子が単なる微粒子表面への吸着でなくCaP粒界や粒内に捕捉されていることは、CaP微粒子をあらかじめ作製しておき、それに該物質を吸着させた場合を比較対照として用いることにより、容易に確認することができる。また、例えば、透過型電子顕微鏡観察のほか、微粒子からの被担持分子の放出挙動を調べることによっても確認することができる。被担持分子が単に微粒子表面に吸着されている場合には、微粒子を分解又は溶解させること無しに、全被担持分子を遊離させることができるが、被担持分子がCaP粒界や粒内に捕捉されている場合には、微粒子全体を分解又は溶解させない限り、全被担持分子を遊離させることはできない。従って、リン酸カルシウムに対して飽和な液又はほとんどリン酸カルシウムが溶解できない液と、リン酸カルシウムが溶解する液(比較対照)とを用いて、それらの液中にCaP微粒子を投入して被担持分子の遊離量を比較することで、被担持分子がCaP粒界や粒内に捕捉されていることを確認することができる。 【0054】 混合の後、物理的手段により急速に溶質を濃縮してCaP微粒子の析出を加速することができる。その目的のためには、以下の手段を適宜組み合わせて用いることができる。1)凍結、加熱蒸散、マイクロウエーブ照射、レーザー照射、減圧蒸散、又はこれらの組み合わせを含む手段により溶質を濃縮する工程、2)脱水剤及び/又は該親水性有機溶媒の特異的吸収剤を用いて溶質を濃縮する工程、3)水と親水性有機溶媒との分離膜を用いて溶質を一方の溶媒に濃縮する工程。もっとも、これらの手段は例示のためのものであり、これらに限定されることはない。CaP微粒子の回収は、例えば、CaP微粒子沈殿を遠心分離し、上清を除去することにより達成できる。また、適当な孔径をもつフィルターを用いてCaP微粒子懸濁液をろ過し、CaP微粒子を回収することもできる。もっとも、回収手段はこれらに限定されるものではない。また、例えば、得られたCaP微粒子が凝集しないように、微粒子状態を保つためにメチルセルロースや界面活性剤を添加することができ、あるいはCaP微粒子が溶解しないようにpHを中性ないし弱アルカリ性に保つ緩衝剤等を添加することもできる。このように、本発明のCaP微粒子を例えば医薬として用いるために、当業者に利用可能な各種の製剤用添加物をCaP微粒子に適宜配合することが可能である。 【0055】 いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、本発明の方法により製造されるCa/Pモル比1.3以上のCaP微粒子は、被担持分子が容易には溶解しないCaP微粒子の内部に捕捉されており、被担持分子がCaP微粒子から容易に脱離し得ない状態になっている。また、このCaP微粒子が徐々に溶解することにより、所望の被担持分子がCaP微粒子から徐々に放出される。従って、本発明のCaP微粒子は被担持分子を所望の組織や臓器において長時間にわたり放出させるための医薬(この医薬を本明細書において「徐放性医薬」と呼ぶ)として有用である。Ca/Pモル比1.3以上のCaPは骨以外の場所に挿入しても安全であることが知られており、本発明のCaP微粒子は安全性の高い徐放性医薬として使用できる。Ca/Pモル比1.3以上のCaPは体液に難溶性であるが、例えば、弱酸性の細胞内小器官内(例えばリソゾームなど)ではCaP微粒子が中性条件よりも速やかに溶解するため、被担持分子を細胞内で作用させるための効果的な徐放性医薬として使用できる。CaPは貪食により細胞内に取り込まれる性質があり(Cheung, H.S., et al., Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 173(2), pp.181-9, 1983)、本発明のCaP微粒子は容易に貪食作用により細胞内に取り込まれ、貪食によって生じたファゴゾームはリソゾームに融合して弱酸性となる。その結果、被担持分子が細胞内で放出され、細胞内から直接その細胞に該分子を作用させることができる。Ca/Pモル比1.3以上のCaP微粒子が2種以上の薬剤を被担持分子として担持していれば、2種以上の薬剤を同時に細胞に作用させることができる。また、Ca/Pモル比1.3以上のCaPは、中性条件でも生体内では細胞等の作用によりゆっくり溶解し得る。被担持分子の徐放性は、被担持分子の種類及び担持量、CaP微粒子の大きさとCaPの種類(化学組成と結晶性など)、あるいは皮膜を形成する基材の種類などによって適宜調節でき、種々の用とに対応させることができる。 【0056】 本発明の方法により急速にCa/Pモル比1.3以上のCaP微粒子が析出する場合、溶媒中に溶解している被担持分子が微粒子内部に取り込まれるが、急速に析出するCaP微粒子は、CaPコーティング金属平板のような大型CaP上ではなく、リン酸カルシウム過飽和溶液内に分散している微小なCaP微粒子核上に析出するため、全体としてはCaP微粒子懸濁液の状態に留まる。リン酸カルシウム過飽和溶液内に自然に発生する微小なCaP微粒子核の析出を待たず、外部より微小なCaP微粒子核を添加すればCaP微粒子の成長が促進されるが、全体としてはCaP成長が高速のため、やはりCaP微粒子懸濁液の状態に留まる。 【0057】 被担持分子が水溶性高分子(例えばタンパク質)である場合には、その一部がCa/Pモル比1.3以上のCaP微粒子表面に髭状に飛び出すように担持され、CaP微粒子表面が親水性となる場合がある。この結果、当該CaP微粒子どうしの凝集が妨げられ、安定な微粒子懸濁液を製造することができる。また、Ca/Pモル比1.3以上のCaP微粒子表面に同じ荷電をもつ物質を配置すれば、微粒子どうしが反発してCaP微粒子が相互に凝集しにくい安定なCaP微粒子懸濁液を得ることができる。これらの技術は当業者に適宜利用可能である。また、被担持分子が疎水性物質である場合には、被担持分子を比誘電率80以下の溶媒に溶解しておくことにより、急速なCaP析出の際にこの疎水性物質がCaP微粒子内に捕捉される。リン酸カルシウム過飽和溶液に水溶性の被担持分子を溶解しておき、疎水性物質を比誘電率80以下の溶媒に溶解して、両者の溶液を混合することにより、一段階の工程で水溶性の被担持分子と疎水性の被担持分子をCa/Pモル比1.3以上のCaP微粒子に同時に担持させることができる。 【0058】 さらに、所望の被担持分子を担持したCa/Pモル比1.3以上のCaP微粒子懸濁液を製造したのち、遠心分離法や膜分離法等の当業者に周知の方法でCaP微粒子を回収し、この微粒子を上記被担持分子に親和性のある別の分子(第2の分子)が溶解している溶液に懸濁すれば、担持されている被担持分子に第2の分子が結合する。このようにして得た第2の分子が結合したCaP微粒子を回収することにより、第2の分子を結合したCaP微粒子を製造することができる。例えば、モノクローナル抗体タンパク質をCaP微粒子に担持させ、該抗体に特異的に結合する抗原タンパク質を結合させれば、該抗原タンパク質を担持したCaP微粒子を製造でき、このCaP微粒子は上記抗原タンパク質の徐放製剤として利用できる。また、CaPに直接吸着されやすい分子を選択し、被担持分子を担持したCaP微粒子に吸着させることによって、該分子と被担持分子とを含む徐放性CaP微粒子製剤を製造することができる。 【0059】 また、抗体を使用したELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)法と同様の原理を用いて、第1の分子を被担持分子として担持したCa/Pモル比1.3以上のCaP微粒子を製造し、その微粒子に第1の分子に親和性のある第2の分子を結合させることができ、さらに第2の分子に親和性のある第3の分子を結合させて3種類の分子を担持したCaP微粒子を製造することもできる。例えば、第1の分子として細胞膜に多い受容体タンパク質を選択し、当該受容体タンパクに親和性を持つ分子として、例えば、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモン、免疫アジュバンド活性を持つ高分子などを第2の分子として結合させることができる。低分子化合物(プロスタグランジン等の脂肪酸化合物、ステロイドホルモン類、アドリアマイシンやシスプラチン等の抗癌剤等の薬物を含む)も同様にそれぞれ目的とする分子に親和性を持つ適切な分子を介して結合することができ、さらにはこれらの低分子化合物のCaP微粒子への親和性を利用して結合することにより、目的とする分子を担持した徐放性医薬を容易に製造することが可能である。 【0060】 抗癌剤を被担持分子として担持させた本発明のCa/Pモル比1.3以上のCaP微粒子は、癌の治療のための徐放性医薬として有用である。抗癌剤としては、例えば、マイトマイシンC、アドリアマイシン、又はシスプラチン等を用いることができる。これらの抗癌剤を被担持分子として本発明の方法によりCaP微粒子に担持させ、あるいはこれらの抗癌剤と親和性のある適当な分子に結合させ、さらに、これらの抗癌剤のCaP微粒子への親和性を利用してCaP微粒子表面に担持させることができる。このように抗癌剤を担持させた本発明のCaP微粒子を徐放性医薬として癌局所に投与することにより、頻回投与を避けつつ抗癌剤の持続的な局所濃度を維持することができ、その殺癌細胞作用によって全身性の副作用を軽減した癌治療が可能となる。さらに、免疫作用の増強に有用な被担持分子を担持させたCaP微粒子は免疫アジュバントとして使用できる。例えば、CaP微粒子にツベルクリン等の微生物が生産するタンパク質を担持させ、ヒト貪食性細胞に貪食させると該細胞は大量のサイトカインを放出する。これによって免疫作用を増強できる。 【0061】 本発明のCa/Pモル比1.3以上のCaP微粒子を簡便に製造するため、(1)リン酸カルシウム過飽和水溶液、及び(2)比誘電率80以下の溶媒がそれぞれ滅菌された状態で別々の容器に充填されたキットを用いることができる。上記の(1)又は(2)のいずれか一方又は両方に被担持分子を溶解することができ、その後、分注及び秤量操作無しに両者を混合するだけで、微粒子の形成が混合後約30分以内に完結する。このようなキットは分注や秤量操作がなく、1回限りの使用であることから、手術室などの無菌的環境での使用に好適に使用される。キットに含まれるリン酸カルシウム過飽和水溶液及び比誘電率80以下の溶媒の種類、化学組成、容量などは、使用する被担持分子の種類に応じて当業者が適宜選択できる。 【実施例】 【0062】 以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。 実施例1: リン酸カルシウム過飽和溶液から生成するCaP微粒子の相と組成 塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、酢酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、塩化マグネシウム、キシリトール、炭酸水素ナトリウム試薬を用いて、Ca液(電解質濃度:Na+147.15、K+4.02、Ca2+2.24 Cl-155.7 mM)、P液(電解質濃度:Na+45.00 K+25.00 Mg2+2.50 Cl-45.01 H2PO4-10.00 CH3COO-20.00mM)、炭酸液(電解質濃度:Na+166、HCO3- 166mM)を調製した。これらの液を種々のCa/Pモル比と炭酸濃度になるようにポリスチレン容器に混合し、リン酸カルシウム過飽和溶液とした(表1)。混合後の溶液体積はいずれも15mLである。比誘電率80以下の溶媒、リン酸カルシウム微粒子核液、被担持分子のいずれも混合していない。混合後、37℃で2日間放置すると、過飽和溶液は白濁して微粒子が生成する。得られた微粒子を孔径0.45μmのメンブランフィルターで吸引ろ過し、超純水で3回洗浄、−80℃で凍結乾燥した。ろ液を誘導プラズマ発光分光分析(ICP)法で分析して、微粒子生成による溶液のCa減少量とP減少量を定量した。この値から、微粒子のCa/Pモル比を計算した(表1)。凍結乾燥した微粒子は、粉末X線回折法(CuKα線)で相を同定した。表1の実験番号2,7で得られた微粒子のX線回折パターンを図1に示す。さらにKBr錠剤法で微粒子の赤外吸収スペクトルを測定し(図2、3)、炭酸基の吸収強度(波数1430、1460cm-1)を測定することで微粒子の炭酸含有量を定量した(表1)。炭酸含有量の定量にはSTKセラミックス社製炭酸含有アパタイト(炭酸含有量6.3重量%)をスタンダードとして用い、KBr粉末と種々の割合で混合後作成した検量線を利用した。 【0063】 【表1】
【0064】 表1の結果は、本発明のリン酸カルシウム過飽和溶液からCa/Pモル比1.3以上のCaP微粒子が生成することを示している。図1には実験番号2,7で得られた微粒子の粉末X線回折パターンを示すが、実験番号1、3−6、8、9でも粉末X線回折パターンの傾向は同じであった。すなわち、微粒子の粉末X線回折パターンはいずれも、回折角30°に頂点を有するブロードなピークが1本と、そのピークの裾野の29.4°と31.8°の位置に小さいピークが出現した。30°の大きなブロードなピークは非晶質リン酸カルシウム、29.4°と31.8°の小さいピークはそれぞれ、炭酸カルシウムとアパタイトの存在を証明している。 別途作製した非晶質リン酸カルシウムと炭酸カルシウムを種々の割合で混合して粉末X線回折実験を行いピーク強度比較することで、実験番号1−9で得られた微粒子の炭酸カルシウム含有量を定量した。その結果、いずれの微粒子も炭酸カルシウム含有量は1%未満であることがわかった。 【0065】 微粒子の赤外吸収スペクトルには、550cm-1、1050cm-1にPO4基の吸収帯、1400−1500cm-1にCO3基の吸収帯、1630cm-1と3400cm-1に水およびOHの吸収帯が出現した(図2、3)。1050cm-1のPO4基の吸収強度は1400−1500cm-1のCO3基の吸収強度の3倍以上あり、微粒子の主成分はリン酸塩であることを示している。以上、粉末X線回折パターンと赤外吸収スペクトルから、微粒子の主成分は非晶質リン酸カルシウムである。 CO3基の吸収帯強度から微粒子の炭酸含有量を定量したところ、1.9−7重量%であった。微粒子の炭酸カルシウム含有量が1%未満であることから、上記炭酸基の99.4%以上は非晶質リン酸カルシウムとアパタイトに取り込まれている。 以上の結果からCa/Pモル比1.3以上で炭酸含有量が1重量%以上15重量%以下の範囲にある炭酸含有リン酸カルシムが、本発明のリン酸カルシウム過飽和溶液から生成することが示された。さらに表1の結果は、過飽和溶液のCa/Pモル比が同じであれば、混合する炭酸イオン濃度を変えることでCaP微粒子の炭酸含有量を制御できることを示している。 【0066】 実施例2:核添加の効果 実施例1の表1の実験番号7と同条件でCaP微粒子を作製した。ただし、乾燥コラーゲンを核として添加した。比誘電率80以下の溶媒と被担持分子は混合していない。実施例1と同じ操作を行い、析出物の粉末X線回折パターンを測定した。その結果を図1に示す。X線回折パターンには、20°付近にコラーゲンのピーク、25.8°と31.8°に強いアパタイトのピークが出現した。適当な核をリン酸カルシウム過飽和溶液に添加することで、生成する微粒子を非晶質リン酸カルシウムからアパタイトに変更できることを示している。 29.4°に炭酸カルシウムの小さいピークが出現した。別途作製した炭酸含有アパタイト(炭酸含有量6.8重量%)と炭酸カルシウムを種々の割合で混合して粉末X線回折を行い、ピーク強度の比較で炭酸カルシウム量を定量したところ、炭酸カルシウム含有量は4%以下であった。 【0067】 実施例3: CaP微粒子生成に対するエタノール添加の影響 過飽和リン酸カルシウム水溶液にウシ血清アルブミン(以下、BSAという)を担持させる条件を検討した。その第1段階として、CaP微粒子生成に対するエタノール添加の影響を検討した。エタノールの比誘電率は24.55である。 A.方法 1.過飽和リン酸カルシウム水溶液の作製 リンゲル液(Ringer’s solution)、クリニザルツB(Klinisalz B)液、バイフィル専用炭酸水素ナトリウム補充液(NaHCO3 13.9 mg/ml)を8.28:1.24:0.48の割合で混合した過飽和リン酸カルシウム水溶液を作製した。なお、pHはバイフィル専用炭酸水素ナトリウム補充液を微量増減して7.48に合わせた。このように調整された過飽和リン酸カルシウム水溶液は不安定過飽和溶液であり、組成はCa 1.85mM、 P 1.24mM, Na 135.4mM、Cl 134.5mM、 K 6.43 mM、 Mg 0.31 mM、CO3 7.97mMである。この溶液組成は表1の実験番号2の条件に相当する。 【0068】 2.BSA溶液の作製と定量 pH7.48の過飽和リン酸カルシウム水溶液10mlの液面上にBSA粉末2.5 mgを静かに加え、室温で溶解した。以下のステップにおけるBSAの濃度の変化は、282 nmの吸光度を測定することにより定量した。BSA濃度と282 nmの吸光度の間には直線的相関関係がある。 3.BSA溶液へのエタノールの添加と濁度測定 前項で作製したBSA溶液を9.5 mlとり、99.5%エタノールを0.5 ml添加した。これを便宜上5%(v/v)と表記する(以後のエタノール濃度も同じく便宜上の%(v/v)である)。エタノールを5%(v/v)ないし20%(v/v)となるように添加し、10分間放置後、濁度を波長450nmにおける吸光度で測定した。 【0069】 B.結果 結果を図4に示す。1個の測定値は、同一のサンプルを5回個別に測定した測定値から得た平均値である。エタノール添加の影響は、10分間放置では、5%(v/v)まではほとんど濁度が上らないが、10%(v/v)以後急上昇し、15%(v/v)でほぼ、平衡に近くなった。この結果はタンパクを含む過飽和リン酸カルシウム水溶液に対する親水性有機溶媒の混和により、短時間でCaP微粒子が自発的に発生することを示している。なお、10分間以上18時間まで室温に放置すると、10%(v/v)でも十分目視可能な量の沈殿が発生した。 【0070】 実施例4: BSAのCaP微粒子への担持に対するエタノール濃度の影響 CaP微粒子にBSAを担持させる際のエタノール濃度の影響を検討した。 A.方法 1.CaP微粒子核液の作製 既存の水酸アパタイト粉末を極少量(目視で数mg程度)を実施例3のA.1.で作製した過飽和リン酸カルシウム水溶液200mlに添加撹拌し、一夜以上放置すると大量のCaP微粒子沈殿が生ずる。これを撹拌した懸濁液をCaP微粒子核液とした。 【0071】 2.BSAのCaP微粒子への担持 2−1.上述した実施例3の2.の過飽和リン酸カルシウム水溶液((1)とする)に99.5%エタノールを添加し、それぞれエタノール濃度を10%(v/v)((2)とする)、又は15%(v/v)((3)とする)となるようにした。混合後、濁度を波長450nmにおける吸光度で、タンパク量を波長282nmにおける吸光度で測定した。 2−2.また、それらの液を0.22μmのポアサイズをもつメンブレンフィルターでろ過し、前記の2種類の波長でろ液の吸光度を同様に測定した。 2−3.次にそれぞれ上記の濾過後の(1)〜(3)液3.97mlにCaP微粒子核液0.03mlを加え、前記の2種類の波長で吸光度を同様に測定した。 2−4.次に、30分、室温で放置し、前記の2種類の波長で吸光度を同様に測定した。 2−5.さらに、これらを0.22μmのポアサイズをもつメンブレンフィルターでろ過し、ろ液の吸光度を同様に測定した。この段階におけるろ液中に残存しているBSA量の減少した割合を算出した。 2−6.次に、18時間、室温で放置し、前記の2種類の波長で吸光度を同様に測定した。 2−7.さらに、これらを0.22μmのポアサイズをもつメンブレンフィルターでろ過し、ろ液の吸光度を同様に測定した。この段階におけるろ液中に残存しているBSA量の減少した割合を算出した。 【0072】 B.結果 表2にBSAのCAP微粒子への担持に対するエタノール添加の影響を示す。ステップ2のサブステップ2−1で、添加するエタノール濃度が10%(v/v)以下であれば((1)、(2)の場合)、ほとんどBSAが溶液中から減少することはない(それぞれ9%、6%にとどまる)。一方、添加するエタノール濃度を15%(v/v)とすれば、直ちに39%ものBSAが溶液中から減少する。すなわち、BSAは0.22μmの孔を通過できないサイズのCaP微粒子中に捕捉されたか、表面に吸着されており、この結果は、BSAを含む過飽和リン酸カルシウム水溶液に親水性有機溶媒を混和することで、短時間でBSAがCaP微粒子中に捕捉されるか、あるいは表面に吸着することを示している(表2中の2−2の右側の(3))。これにCAP微粒子核液を加えて室温で30分静置すると、濁度の上昇(CAP微粒子の析出)に伴い、BSAが溶液中から減少する。この割合は、エタノールを添加していない場合が29%であるのに対して、添加するエタノール濃度が10%(v/v)の場合には53%、添加するエタノール濃度が15%(v/v)の場合には43%となる。さらに一夜(18時間)放置した場合、さらなる濁度の上昇にともなって、この割合はそれぞれ40%、65%、55%となる。エタノール濃度は30分放置後と18時間放置後では10%(v/v)が至適濃度であった。このように、アルコールを添加してCaP微粒子の析出を加速すれば、高い効率でタンパクをCAP微粒子に担持させることができる。なお、エタノール濃度が10%(v/v)の場合、エタノール添加30分後の液のpHは、BSAがない場合7.28、BSAがある場合は7.50であり、溶液のpHの大幅な変化は無かった。 【0073】 【表2】
【0074】 実施例5:BSA担持CaP微粒子の沈降 A。方法 BSAを担持させたCaP微粒子が凝集しにくくなっているかどうかを、沈降速度測定により検討した。実施例3の1.で作製した過飽和リン酸カルシウム水溶液に1/100の容量のCAP微粒子核液を加え、さらに99.5%エタノールを10%(v/v)となるように添加し、十分な時間放置してCaP微粒子懸濁液を作製した。また、実施例3の2.で作製したBSA液に1/100の容量のCAP微粒子核液を加え、さらに99.5%エタノールを10%(v/v)となるように添加し、十分な時間放置してBSA担持CaP微粒子懸濁液を作製した。これらのBSA非担持CAP微粒子懸濁液とBSA担持CAP微粒子懸濁液を、再度よく撹拌してから静置し、上清の濁度の変化を波長450 nmにおける吸光度で測定した。 【0075】 B.結果 図5は、BSAを担持させた場合のCaP微粒子(図中のBSAありの線)と担持させていない場合のCaP微粒子(図中のBSAなしの線)の濁度と、それぞれの沈降速度を濁度の変化測定によって比較した結果を示した図である。十分な時間CaP微粒子を析出させ、再度懸濁した場合、BSAを担持させた微粒子のほうがBSA非担持の場合に比べて濁度が高い。この結果は、BSAを担持したCaP微粒子は相互に凝集しにくいため、より細かいCaP微粒子が生成したことを示している。 この懸濁液を静置すると、BSA担持の場合の方がBSA非担持の場合に比べて、10分から60分の間、濁度の減少速度が遅くなるところが観察される。しかも、BSA非担持の場合のCaP微粒子がほとんど沈降した50分のあたりに、BSA担持の場合とBSA非担持の場合の差にピークが認められる(図6)。BSA担持の場合には、CaP微粒子は霞がたなびくように濁った状態で上清中に残っているのが目視で観察できた。これは、BSAの親水性によりCaP微粒子どうしが凝集しにくくなり、より安定な沈みにくい非常に細かいCaP微粒子が生成してゆっくりと沈んでいくためである。 【0076】 実施例6:BSAとメタノールに溶解したマイトマイシンCとを担持させたCaP微粒子の作製 A.方法 上述の実施例3の2.で作製したBSA液に1/100の容量のCAP微粒子核液を加え、さらに親水性有機溶媒であるメタノールに50 μg/mlの濃度で溶解したマイトマイシンC(和光純薬、カタログ番号132-13201)溶液を添加して、BSAとマイトマイシンCが同時にCAP微粒子に担持されるか否かを検討した。マイトマイシンCは365 nmに吸収のピークを示す青色色素であるため、365 nmの吸光度測定により定量した。BSAの定量は実施例4の場合のように282 nmの吸光度測定によった。メタノールの比誘電率は20.7である。 4−1.上述の実施例3の2.で作製したBSA液に、10%(v/v)の濃度でマイトマイシンC溶液を添加した。 4−2.また、それらの液を0.22μmのポアサイズをもつメンブレンフィルターでろ過した。 濁度の影響が除去できるため、この段階の282nm、365 nmの波長の吸光度を測定した。 4−3.次にそれぞれ上記の濾過後の(1)〜(2)液3.97mlにCAP微粒子核液0.03mlを加えた。 4−4.次に、室温で30分放置した。 4−5.さらに、これらを0.22μmのポアサイズをもつメンブレンフィルターでろ過し、ろ液の吸光度を同様に測定した。 4−6.4−3段階のものを18時間、室温で放置した。 4−7.さらに、これらを0.22 μmのポアサイズをもつメンブレンフィルターでろ過し、ろ液の吸光度を同様に測定した。 【0077】 B.結果 表3に結果を示す。マイトマイシンCを溶解しているメタノールを添加してもCaP微粒子は急速に生成されるが、その際、添加した直後に変化する濁度の影響が大きいため、添加直後のマイトマイシンC濃度は不明である。しかし、それを0.22μmのポアサイズをもつメンブレンフィルターでろ過した後の澄明なろ液を出発点とすれば、30分後は3%、18時間後では8%のマイトマイシンCがさらにCAP微粒子に担持されたと推定できる。BSAは30分後には17%がマイトマイシンCと共に担持されており、18時間後には29%がさらに担持されたと考えられる。これらは当初の混合液を0.22μmポアサイズメンブレンフィルターでろ過した時点からの担持増加率である。 【0078】 【表3】
【0079】 実施例7:BSAとジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したマイトマイシンCとを担持させたCaP微粒子の作製 マイトマイシンCを親水性有機溶媒であるDMSOに溶解し、BSAと共に担持されるか否か検討した。この際、エタノールの影響も検討した。 A.方法 5−1.表4に示した組み合わせで混合液を作製した。ブランクは実施例3の1.の過飽和リン酸カルシウム水溶液とした。 5−2.また、それらの液を0.22μmのポアサイズをもつメンブレンフィルターでろ過した。 濁度の影響が除去できるため、この段階の282 nm、365 nmの波長の吸光度を測定した。 5−3.次にそれぞれ上記の濾過後の液3.97mlにCAP微粒子核液0.03mlを加えた。 5−4.次に、30分、室温で放置した。 5−5.さらに、これらを0.22μmのポアサイズをもつメンブレンフィルターでろ過し、一部のろ液の吸光度を同様に測定した。 5−6.5−3段階のものを18時間、室温で放置した。 5−7.さらに、これらを0.22 μmのポアサイズをもつメンブレンフィルターでろ過し、ろ液の吸光度を同様に測定した。 【0080】 表4中、Aを実施例3の1.過飽和リン酸カルシウム水溶液、Bを実施例3の2.BSA液、CをマイトマイシンCのDMSO溶液(濃度は0.5 mg/ml)、DをDMSO、Eを99.5%エタノールとする。数値の単位はmlで、それぞれの混合液を作製した。 【表4】
【0081】 B.結果 当初の混合液を0.22μmポアサイズメンブレンフィルターでろ過した段階からの担持増加率を表5に示す。BSAについては、リン酸カルシウム過飽和水溶液のみの場合((1))には30分後に増加率が8.1%であったのに対して、10%(v/v)のDMSO((3))を添加することにより増加率は23.2%、10%(v/v)のエタノール((8))を添加することにより増加率は19.8%となった。従って、これら親水性有機溶媒のCaP微粒子沈殿析出を加速する効果は明らかである。十分な析出時間(18時間)の後には、この増加率の差は縮まった。18時間後の担持増加率は、(マイトマイシンC溶液も含めて)各種の親水性有機溶媒添加後は、BSAでは28.7%〜59.3%であり、マイトマイシンCでは0.5%〜4.2%であった。従って、リン酸カルシウム過飽和水溶液に水溶性物質を溶解し、親水性有機溶媒に疎水性物質を溶解して、それぞれの溶液を混合することにより、一段階でCaP微粒子にこれらの物質を共に担持させることができる。 【0082】 表5中、溶液番号は、表4の溶液番号に対応する。表4のAをブランクとして測定した。18時間室温放置後の吸光度(282 nmと365 nm)を測定した。5−1段階の混合液ですでにCaP微粒子は析出しはじめるが、以下の担持率の計算起点は5−2段階である。そのため担持増加率としてある。 【表5】
【0083】 実施例8:アルブミンのCaP微粒子内部への捕捉(その1) アルブミンは従来の方法ではハイドロキシアパタイトには担持できないとされている。本発明の方法により、アルブミンがCaP微粒子表面に吸着されるだけではなく、CaP微粒子内部にも捕捉されていることを以下の方法で証明した。 A.方法 6−1.上述の実施例3で作製した過飽和リン酸カルシウム水溶液27mlを準備した。これにCaP微粒子生成のため実施例4で述べたCaP微粒子核液1/100容量と99.5%エタノール3 ml(便宜上の10%(v/v)分)を加え、室温で18時間放置した。これを対照群とする。 6−2.沈殿が生じている対照群のチューブに対して、BSA粉末6.75 mgを加え、完全に溶解撹拌した上で、室温で18時間放置した。 6−3.上述の実施例3で作製した過飽和リン酸カルシウム水溶液54mlに、13.5 mgのBSAを加えて完全に溶解し、撹拌して282nmの吸光度を測定した。これにCaP微粒子生成のため実施例4で述べたCaP微粒子核液1/100容量と99.5%エタノール6 mlを加え、室温で18時間放置した。これをBSA群とする。 6−4.18時間後に0.22 μmのフィルターろ過。ろ過後の両群の282nmの吸光度を測定した。 【0084】 B.結果 表6に結果を示す。CaP微粒子核液、アルコール添加前のA282測定値から計算すると、CaP微粒子核液、アルコール添加後は(総容量はアルコール添加により変化しないと仮定すると)、0.222となる。対照群では、BSA添加18時間後にはBSAは十分吸着されているから、0.22μmのフィルターろ過後の対照群のA282測定値との差を見れば、CaP微粒子表面への吸着分がわかる。一方、対照群とBSA群との最終的な差からCaP微粒子内に直接捕捉されたBSA分が計算できる。この両者を合わせた担持率は30.3%であった。このうちの直接捕捉分の割合は約1/5(17.9%)と算出された。 【0085】 【表6】
【0086】 実施例9:アルブミンのCaP微粒子内部への捕捉(その2) 本実験は、実施例8の実験の再現性を見た実験である。結果を表7に示した。吸着分と直接捕捉分を合わせたBSAの担持率は55.4%となり、このうちの直接捕捉分の割合は約1/5(20.6%)と算出された。再現性は良いと考えられる。 【0087】 【表7】
【図面の簡単な説明】 【0088】 【図1】比誘電率80以下の溶媒も被担持分子も使用せずに調整したCaP微粒子の粉末X線回折パターン 【図2】表1の実験番号1−4の条件で、比誘電率80以下の溶媒も被担持分子もCaP核液も使用せずに調整した微粒子の赤外吸収スペクトル 【図3】表1の実験番号5−9の条件で、比誘電率80以下の溶媒も被担持分子もCaP核液も使用せずに調整した微粒子の赤外吸収スペクトル 【図4】CaP微粒子生成に対するエタノール添加の影響を示した図である。 【図5】CaP微粒子の沈降速度に関するBSAの影響を示した図である。 【図6】CaP微粒子の沈降速度に関するBSAの影響を示した図である。
|
| 【出願人】 |
【識別番号】502233964 【氏名又は名称】セルメディシン株式会社 【識別番号】301021533 【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所 【識別番号】899000068 【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
|
| 【出願日】 |
平成15年10月21日(2003.10.21) |
| 【代理人】 |
【識別番号】110000109 【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
|
| 【公開番号】 |
特開2005−126335(P2005−126335A) |
| 【公開日】 |
平成17年5月19日(2005.5.19) |
| 【出願番号】 |
特願2003−360876(P2003−360876) |
|