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【発明の名称】 医療用器具
【発明者】 【氏名】岩佐 美喜男

【氏名】外池 光雄

【氏名】山下 博志

【氏名】早川 宏

【氏名】太田 直人

【要約】 【課題】電子的に画像化された患部を観察しつつ手術を行う際に使用される医療用器具において、画質を低下させることがなく、良好な特性を持続的に発揮し得る医療用器具を提供すること。

【解決手段】医療用器具の表面が、炭素繊維強化複合材料、黒鉛およびガラス状炭素から選ばれた少なくとも1種からなる炭素質材料基材表面であり、この表面に磁性材料被覆層を設けた。非磁性金属被覆層は、電解メッキ法あるいは無電解メッキ法から選ばれた少なくとも1つの方法により形成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子的に画像化された患部を観察しつつ手術を行うに際して使用される医療用器具であって、炭素質材料基材表面に非磁性材料被覆層を設けた医療用器具。
【請求項2】
炭素質材料基材が、炭素繊維強化複合材料、黒鉛およびガラス状炭素から選ばれた少なくとも1種からなる請求項1に記載の医療用器具。
【請求項3】
非磁性材料被覆層が、非磁性金属系材料からなる請求項1に記載の医療用器具。
【請求項4】
非磁性金属被覆層が、電解メッキ法あるいは無電解メッキ法から選ばれた少なくとも1つの方法により形成されてなる請求項3に記載の医療用器具。
【請求項5】
非磁性金属系材料が、Ni-P系合金および/またはセラミック粒子を分散するNi-P系合金からなる請求項4に記載の医療用器具。
【請求項6】
非磁性金属系材料が、Ni-P系合金からなる請求項5に記載の医療用器具。
【請求項7】
Ni-P系合金中のPの含有量が、8〜15wt%である請求項6に記載の医療用器具。
【請求項8】
炭素質材料と非磁性金属被覆層との間に軟質非磁性金属中間層が形成されている請求項1〜7のいずれかに記載の医療用器具。
【請求項9】
医療用器具が、手術用具である請求項1〜8のいずれかに記載の医療用器具。
【請求項10】
手術用具が、刃物である請求項9に記載の医療用器具。
【請求項11】
刃物が、メス、ランセットまたはハサミである請求項10に記載の医療用器具。
【請求項12】
刃物の片面側に非磁性金属被覆層からなる刃部分が設けられており、その反対面に軟質非磁性金属被覆層からなる応力緩和層が設けられている請求項9〜11のいずれかに記載の医療用器具。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、電子的に画像化された患部を観察しつつ手術を行うに際して使用される医療用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MRI、X線CTなどの電子的画像化装置(以下主に「MRI装置」を代表例として説明を行う)により電子的に画像化された患部を観察しつつ、手術を行う事例が多くなっている。すなわち、これらの画像化装置は、手術部位である生体組織の微細画像を正確に表示することができるので、手術時の極めて重要な補助手段となりつつある。
【0003】
しかしながら、ステンレススチールなどの強磁性体金属材料からなる医療用器具(以下「手術用メス」を代表例として説明を行う)は、その磁性のためにMRI磁石に吸い寄せられる危険性があるとともに、マイクロ波で誘起された渦電流による磁場の攪乱によってMRI画像の歪みを生じやすい。また、X線CTを使用する場合には、金属製のメスの影が患部画像に重なって、観察の妨げとなる。
【0004】
特許文献1は、炭素繊維とポリマーとからなる複合材料に少量の鉄酸化物(セラミック材料)などをドーピングすることにより、人体の磁化率と合致させた医療用器具(メス、生検針など)を提案している。この医療用器具は、歪みのない良好な画像を与えるとされている。しかしながら、この文献で提案されているセラミックをドープした複合材料を、例えば、メスとして使用する場合には、X線を透過させないので、患部の観察が妨げられるという問題点がある。さらに、メスの刃先は、分散硬質セラミックとそれを保持する軟質複合材料により構成されており、鋭い刃先が形成できないので、使用初期からの切れ味が低く、また、時間の経過とともにさらに切れ味が低下するので、医療用器具に求められる機能は十分に達成されない。
【特許文献1】特開平10-14924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、電子的に画像化された患部を観察しつつ手術を行うに際して使用される医療用器具であって、画質を低下させることがなく、かつ良好な特性を持続的に発揮し得る医療用器具を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、炭素質材料基材上に非磁性金属材料からなる被覆層を形成する場合には、その目的を達成しうることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の医療用器具を提供する。
1.電子的に画像化された患部を観察しつつ手術を行うに際して使用される医療用器具であって、炭素質材料基材表面に非磁性材料被覆層を設けた医療用器具。
2.炭素質材料基材が、炭素繊維強化複合材料、黒鉛およびガラス状炭素から選ばれた少なくとも1種からなる上記項1に記載の医療用器具。
3.非磁性材料被覆層が、非磁性金属系材料からなる上記項1に記載の医療用器具。
4.非磁性金属被覆層が、電解メッキ法あるいは無電解メッキ法から選ばれた少なくとも1つの方法により形成されてなる上記項3に記載の医療用器具。
5.非磁性金属系材料が、Ni-P系合金および/またはセラミック粒子を分散するNi-P系合金からなる上記項4に記載の医療用器具。
6.非磁性金属系材料が、Ni-P系合金からなる上記項5に記載の医療用器具。
7.Ni-P系合金中のPの含有量が、8〜15wt%である上記項6に記載の医療用器具。
8.炭素質材料と非磁性金属被覆層との間に軟質非磁性金属中間層が形成されている上記項1〜7のいずれかに記載の医療用器具。
9.医療用器具が、手術用具である上記項1〜8のいずれかに記載の医療用器具。
10.手術用具が、刃物である上記項9に記載の医療用器具。
11.刃物が、メス、ランセットまたはハサミである上記項10に記載の医療用器具。
12.刃物の片面側に非磁性金属被覆層からなる刃部分が設けられており、その反対面に軟質非磁性金属被覆層からなる応力緩和層が設けられている上記項9〜11のいずれかに記載の医療用器具。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下の様な効果が達成される。
MRI、X線CTなどによる生体組織の電子的画像作成を妨げることのない医療用器具が得られる。
【0009】
特に、MRIとX線CTとを併用する複合電子画像化装置において、MRIマイクロ波とX線の透過を阻害しないので、顕著な効果を発揮する。
本発明による手術用メスは、基材上の被覆層を形成する硬質非磁性材料の硬度が高いので、その刃先としての切れ味に優れている。
【0010】
また、刃先部分の摩耗により、切れ味が低下した場合には、研ぎ直しを行うことにより、当初と同様の切れ味に戻すことができる。
【0011】
被覆層のみならず、基材の耐熱性も高いので、高温度でオートクレーブ処理を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の代表的な実施形態を概略的に示す断面図を参照しつつ、本発明による医療用器具についてより詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明による医療用メスの代表的な実施態様を模式的に示す側面図である。
【0014】
図1-(a)は、炭素質材料からなる基材の片面側に硬質非磁性金属材料からなる被覆層を設けた第1の実施態様を示す。
【0015】
基材を構成する炭素質材料としては、公知の炭素繊維強化複合材料、黒鉛、ガラス状炭素などが使用できる。これらの材料は、(1)非磁性である、(2)医療用器具殺菌のために行なわれる120℃以上でのオートクレーブ処理においても耐えて、溶融或いは変形しない、(3)MRIのマイクロ波を阻害しない、(4)X線透過性に優れているなどの点で、基材として好適である。
【0016】
炭素繊維強化複合材料としては、特に制限されるものではないが、(1)炭素繊維が一方向に配列したシート体の複数枚を繊維方向が直交する様に相互に積層し、ピッチ或いは樹脂を含浸した後、焼成して得た材料、(2)炭素繊維織物のシート体の複数枚を積層し、ピッチ或いは樹脂を含浸した後、焼成して得た材料、(3)炭素繊維不織布にピッチ或いは樹脂を含浸した後、焼成して得た材料、(3)フェルト状炭素繊維にピッチ或いは樹脂を含浸した後、焼成して得た材料などが例示される。基材は、後述する非磁性材料被覆層を形成するに先立ち、所定の製品形状にほぼ相当する形状に予め加工しておいても良い。或いは、基材上に非磁性材料被覆層を形成した後、所定の製品形状に加工しても良い。
黒鉛或いはガラス状炭素を基材として使用する場合にも、同様に硬質非磁性金属材料被覆層を形成するに先立ち、所定の製品形状にほぼ相当する形状に予め加工しておく。
炭素質材料基材としては、靱性に優れている、被覆層との密着性に優れているなどの理由により、炭素繊維強化複合材料がより好ましい。
【0017】
図1-(a)に示す医療用メスにおいては、基材上の所要部分に、刃部分となる硬質非磁性金属材料被覆層が直接形成されている。この被覆層の先端部が刃先としての機能を発揮する。
【0018】
硬質非磁性金属材料としては、Ni-P合金(P含有量=8〜15重量%程度、より好ましくは10〜12重量%程度)、Ni-W-P合金(W含有量=10〜50重量%程度、より好ましくは20〜30重量%程度:P含有量=8〜15重量%程度、より好ましくは10〜12重量%程度)などのNi-P系合金が例示される。Wを併せて含有するNi-W-P合金は、Ni-P合金に比して、より優れた耐摩耗性を発揮する。Ni-P合金は、P含有量が8〜15重量%の範囲において、非磁性であり、高硬度(Hv=500〜1000程度)と良好な靱性を発揮する。
【0019】
炭素質材料からなる基材に対する被覆層の形成は、公知の電解メッキ法あるいは無電解メッキ法などにより行うことができる。さらに、例えば、常法に従って、基材に対して無電解メッキを行った後、電解メッキを行うこともできる。
【0020】
これらの方法による被覆層形成時の条件などは、医療用器具の形状および種類、基材の種類、硬質非磁性金属材料の種類などに応じて、適宜選択すれば良い。メッキ操作に先立って通常行う表面洗浄、表面粗化、触媒金属の付与なども、常法に従って行えばよい。
また、硬質非磁性金属材料被覆層は、上記のNi-P系合金中にTiO2、SiC、Al2O3、ZrO2、WC、ダイヤモンドなどの硬質材料微粒子を分散させた複合メッキ層として形成しても良い。複合メッキ層は、常法に従って、基本メッキ浴中に硬質材料微粒子を分散させたメッキ浴を使用することにより、容易に形成することができる。複合メッキ層を使用する場合には、医療用器具としての耐久性、切れ味などを改善することができる。
【0021】
硬質非磁性金属被覆層の厚さおよび巾は、MRI或いはX線CTによる画像形成を阻害しない限り特に限定されず、医療用メスとしての切れ味、耐久性、研ぎ直し回数、形成コストなどを勘案して定めれば良いが、通常5〜30μm程度、巾は3〜5mm程度である。被覆層の厚さが薄すぎる場合には、研磨による刃先の形成が困難となるのに対し、厚すぎる場合には、MRIのマイクロ波或いはX線の透過を妨げて、メスの影が形成されることがある。被覆層の巾が狭すぎる場合には研ぎ直し回数が減り、広すぎる場合には半影部分が大きくなり視認性に不便を来す。被覆層の厚さおよび巾を適切に選択する場合には、MRIのマイクロ波或いはX線が被覆層を部分的に透過するので、患部に接する刃先輪郭がモニター上で認識できる様になり、好適である。
【0022】
図1-(a)に示す形態の医療用メスは、基材表面の一部を所定の刃部分に対応する形状となる様に加工した後、残りの表面部をマスキングした状態でメッキ操作を行うことにより、加工部分の表面にのみ被覆層を形成させて、製造することが好ましい。
【0023】
次いで、基材表面の所定の箇所に被覆層を備えた中間的製品を研ぎ上げることにより、所定形状を有する手術用メスが得られる。
【0024】
なお、本発明による手術用メスは、一体型構造としても良く、或いは把持部に実質的なメス部を取付ける分離型構造としても良い。後者の場合には、破損或いは劣化したメス部を適宜取り替えることにより、手になじんだ把持部を長期にわたり使用することができる。
【0025】
図1-(b)は、炭素質材料からなる基材の片面側に、柔軟非磁性金属からなる中間層を介して、硬質非磁性金属材料からなる被覆層を設けた第2の実施態様を示す。
【0026】
中間層を形成する柔軟非磁性金属としては、基材および被覆層に対する密着性に優れたCu、Zn、Sn、Pdなどが例示される。中間層は、基材と硬質非磁性金属材との密着性を向上させるだけでなく、刃先の応力分散機能をも発揮する。
柔軟非磁性金属からなる中間層も、公知の湿式のメッキ手法により形成することができる。中間層の厚さは、その機能を達成する限り特に限定されるものではないが、MRIのマイクロ波およびX線の部分的な透過を可能とするために、通常1μm程度までとすることが好ましい。
【0027】
さらに、図1-(b)に示す実施態様の変形例(第3の実施態様)として、硬質非磁性金属材料からなる被覆層を挟んで、中間層(内側)の反対側の表面に第2の柔軟非磁性金属からなる最外層を設けることができる。最外層は、刃先の応力を分散させる機能を発揮する。最外層を形成する柔軟非磁性金属としては、中間層を形成するものと同様の金属を使用することができる。最外層の厚さも、その機能を達成する限り特に限定されるものではないが、通常1μm程度までとする。硬質非磁性金属材料からなる被覆層外表面に位置する最外層も、公知の湿式のメッキ手法により形成することができる。
第2の実施態様或いは第3の実施態様により得られた中間的製品からも、最終的に刃先を研ぎ上げることにより、所定形状を有する手術用メスが得られる。
【0028】
なお、本発明技術は、MRI、X線CTなどの電子的画像化装置による的確な患部観察を円滑に行うことを可能とするので、図示したメスに限ることなく、他の種々の医療用器具にも適用できる。
特に、MRIとX線CTとを併用する複合電子画像化装置において、顕著な効果を発揮する。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明らかにする。
[実施例1]
市販の炭素繊維強化複合材料(炭素繊維が同方向に配列したフェノール樹脂含浸シート体の複数枚を繊維方向が直交する様に相互に加圧積層し、次いでピッチ含浸と焼成とを繰り返して得た材料:かさ密度1.61g/cm3、曲げ強度95MPa、厚さ2mm)を10mm×50mmの長片状に切り出して、基材とした。
この基材を(塩化第1スズと塩化パラジウムを含む)キャタリスト(奥野製薬(株)製)を蒸留水で40ml/lに希釈した液に浸漬して、次いで硫酸処理を行った後、市販のNi-P合金メッキ浴(荏原ユージライト社製)を用いて、温度90℃で無電解メッキを行うことにより、膜厚20〜25μmのNi-P合金メッキ被覆層(P含有量=10重量%)を形成させた。なお、予め、基材の片面をテープによりマスキングしておいて、他の片面に被覆層が形成される様にした。
次いで、図1-(a)に示す形状に刃先を研ぎ上げて、試験用のメス(刃先角度=約10度)を作成した。
[試験例1]
実施例1で得られた試験用メスを被験者の胸部に貼り付けた後、X線照射を行ったところ、X線画像上には、メス刃先の輪郭が認められたが、全体としては、メス基材部の影は認められなかった。このことから、本発明による手術用メスを用いて、電子化画像を観察しつつ、手術を行う場合には、メス刃先の位置は明確に示されるが、メス基材部の影による手術に対する障害は生じないものと推測される。
[試験例2]
実施例1で得られた試験用メスを被験者の前頭部に貼り付けた後、頭部のMRI画像を観察したところ、画像の歪みなどは認められず、メスの輪郭を示しつつ、鮮明な断層像が得られた。このことから、本発明による手術用メスを用いて、MRI画像を観察しつつ、手術を行う場合には、メスの影による手術に対する障害は、生じないものと推測される。
[試験例3]
通常の手術用メスと実施例1で得られた試験用メスとをそれぞれ用いて、鶏もも肉および豚ヘレ肉を筋肉組織の直角方向に切り目を入れた。
【0030】
いずれの場合にも、切れ味および切り目の外観に相違は認められなかった。このことから、本発明による手術用メスは、既存の手術用メスと同等の機能を発揮するものと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による試験的な手術用メスの実施形態の概要を示す側面図である。
【出願人】 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
【出願日】 平成16年3月29日(2004.3.29)
【代理人】 【識別番号】100065215
【弁理士】
【氏名又は名称】三枝 英二

【公開番号】 特開2005−278753(P2005−278753A)
【公開日】 平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願番号】 特願2004−94390(P2004−94390)