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【発明の名称】 超音波診断装置
【発明者】 【氏名】国田 正徳
【住所又は居所】東京都三鷹市牟礼6丁目22番1号 アロカ株式会社内

【氏名】宮坂 好一
【住所又は居所】東京都三鷹市牟礼6丁目22番1号 アロカ株式会社内

【要約】 【課題】超音波診断においてサイドローブを抑圧し、S/N比を改善するパルス圧縮が望まれている。

【解決手段】コード信号発生器16において、拡散符号により変調した送信信号を生成する。この信号に基づいて、各超音波振動子を備えた各送受信部20a,20b,...,20nで超音波の送受信を行った後、加算器40で合成する。こうして得られた各時刻の受信信号は、自己相関器42において拡散符号と相関処理されてサブパルスに圧縮される。さらに、1ビット遅延加算回路44,46によって遅延加算処理を行うことで、3ビット幅をもつパルスが生成される。拡散符号は、このパルスにおけるタイムサイドローブが低減されるように選ばれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散符号によって変調した送信信号に基づいて、生体に対し超音波を送波する送波手段と、
対応する反射波を受波して受信信号を取得する受信手段と、
前記受信信号に対し前記拡散符号との相関処理を行い、圧縮されたサブパルスを含む信号を生成する相関処理手段と、
前記サブパルスを含む信号に対しその信号をサブパルス幅に基づいて遅延させた信号を加算する処理を少なくとも一回行い、前記サブパルス幅よりも大きなパルス幅の圧縮パルスを含む信号を生成する遅延加算手段と、
を備え、
前記拡散符号は、前記圧縮パルスの周囲に生じるタイムサイドローブが抑圧されるように選ばれる、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記生体に対する一連の超音波診断中に前記受信信号に対する処理を繰り返し切り替える手段であって、前記遅延加算手段による遅延させた信号を加算する処理を実施させない、または、少なくとも1回実施させる処理と、それよりも多い回数実施させる少なくとも一つの処理とを切り替える切替手段を備え、
前記拡散符号は前記切替手段による切替に対応して切り替えられる、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記切替手段は、前記受信信号に対応する超音波の反射深度に応じて切り替えを行う、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記送波手段は、超音波の反射深度に応じて送波する超音波の焦点を多段階に変更する送信多段フォーカス手段を備え、
前記切替手段による切り替えは、前記送信多段フォーカス手段における段階に基づいて行われる、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記切替手段により切り替えられて処理された反射深度が異なる各信号を重みづけ加算することにより接続するオーバーラップ処理手段を備える、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記切替手段は、前記受信信号に対応する超音波の伝播経路または反射箇所の生体組成に応じて切り替えを行う、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記送波手段は、異なる複数の拡散符号によって変調した複数の送信信号の合成結果に基づいて超音波を送波し、
前記相関処理手段は、対応する受信信号に対し各拡散符号との相関処理を行ってサブパルスを含む複数の信号を生成し、
前記遅延加算手段は、サブパルスを含むそれぞれの信号に対し前記圧縮パルスを含む信号を生成する処理を行う、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記遅延加算手段は、入力信号を前記サブパルス幅に基づいて遅延させ、前記入力信号と加算して出力信号として出力するTSSWA処理機能を備え、前記受信信号の入力に基づいて少なくとも二回のTSSWA処理を行うことにより前記圧縮パルスを含む信号を生成する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に対し超音波を送受して生体の内部構造を診断する技術、特に対応する受信信号にパルス圧縮を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断の分野においては、変調した送信信号に基づいて超音波を生体に送受し、対応する受信信号に対しパルス圧縮処理を行う技術が知られている。パルス圧縮により、送信回路に瞬間的に大きな電力を供給する事態を回避できる他、生体に対する瞬間的に強い超音波の送波が不要となる。
【0003】
一方、電磁波の送受を行うレーダーの分野においては、下記非特許文献1乃至3に記載されているように、受信信号にパルス圧縮を施して得たサブパルスに対し、遅延して加算するTSSWA(Two-Sample Sliding Window Adder)処理を行うことで、複数のサブパルス幅をもつ圧縮パルスを生成する技術が知られている。この技術においては、圧縮パルスの周囲に生じるサイドローブを抑圧するようにパルス圧縮のための拡散符号を選択している。
【0004】
【非特許文献1】佐藤,神力「2値符号化パルス圧縮におけるタイムサイドローブ抑圧方式」,電子情報通信学会論文誌 B,2000年3月,第J83−B巻,第3号,pp.352−360
【非特許文献2】佐藤,神力「Frank,P1,P3,及びP4符号系列を用いた符号化パルス圧縮におけるタイムサイドローブ抑圧方式」,電子情報通信学会論文誌 B,2000年7月,第J83−B巻,第7号,pp.1092−1096
【非特許文献3】佐藤,笹瀬,神力「2値符号化パルス圧縮におけるS/N損失の小さなタイムサイドローブ抑圧方式」,電子情報通信学会論文誌 B,2002年1月,第J85−B巻,第1号,pp.149−152
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パルス圧縮の技術を用いた超音波診断の診断性能の向上を行うためには、サイドローブを低減し、S/N比を改善することが必要となる。
【0006】
本発明の目的は、サイドローブを抑圧し、S/N比を改善するパルス圧縮機能を備える超音波診断装置を得ることにある。
【0007】
本発明の別の目的は、レーダーの分野において開発されたパルス圧縮技術を、生体に対する超音波診断の分野に適用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超音波診断装置は、拡散符号によって変調した送信信号に基づいて、生体に対し超音波を送波する送波手段と、対応する反射波を受波して受信信号を取得する受信手段と、前記受信信号に対し前記拡散符号との相関処理を行い、圧縮されたサブパルスを含む信号を生成する相関処理手段と、前記サブパルスを含む信号に対しその信号をサブパルス幅に基づいて遅延させた信号を加算する処理を少なくとも一回行い、前記サブパルス幅よりも大きなパルス幅の圧縮パルスを含む信号を生成する遅延加算手段と、を備え、前記拡散符号は、前記圧縮パルスの周囲に生じるタイムサイドローブが抑圧されるように選ばれる。
【0009】
拡散符号は送信信号を変調するための符号であり、適当な符号長をもつ多値(2値が最も一般的である)の値からなる。送波手段は、変調された送信信号に基づいて超音波を生成して送波する。送波には、通常プローブ(超音波探触子)が用いられ、特に典型的には超音波振動子がアレイ状に配置されたプローブが用いられる。生体に向かって送波された超音波は、生体内における音響インピーダンスの境界で反射される。受信手段は、通常プローブを用いてこの反射波を受波し、受信信号に変換する。相関処理手段は、各時刻において受信信号と拡散符号との相関処理を行う。これにより、受信信号と拡散符号とが適当な相関関係にある場合には大きな振幅をもつサブパルスの信号が出力され、それ以外の場合には小さな振幅の信号が出力される。
【0010】
遅延加算手段は、こうして得られたサブパルスを含む信号に対し、その信号をサブパルスの幅だけ遅延させた信号を加算する処理を少なくとも一回行う。この処理回数は拡散符号の取り方に依存する。なお、加算の際には、各信号に適当な係数(負の符号を含む)をつけ、重み付けした加算を行うことができる。この遅延加算手段により、サブパルスの幅よりも大きな幅をもつパルスが形成される。その際に、拡散符号を適切に与えておけば、パルスの周囲の信号(タイムサイドローブと呼ぶ)が倍増することはない。場合によっては、当初の信号よりも減少させることができる。
【0011】
この構成によれば、同程度の符号長をもつ拡散符号を用いた従来のパルス圧縮の技術に比べタイムサイドローブが抑圧されるため、超音波診断により解像できる分解能が高められる。また、遅延加算手段により得られるパルスはサブパルス幅よりもパルス幅が広く、時間軸上で広がることになり、実画像上での分解能を低下させる恐れがあるものの、時間スペクトルの空間でみた場合には、帯域が狭められることになる。つまり、このスペクトル空間においては、基本的にノイズが各周波数に一様に存在するため、帯域が狭まることでS/N比が向上することになる。
【0012】
望ましくは、本発明の超音波診断装置は、前記生体に対する一連の超音波診断中に前記受信信号に対する処理を繰り返し切り替える手段であって、前記遅延加算手段による遅延させた信号を加算する処理を実施させない、または、少なくとも1回実施させる処理と、それよりも多い回数実施させる少なくとも一つの処理とを切り替える切替手段を備え、前記拡散符号は前記切替手段による切替に対応して切り替えられる。
【0013】
すなわち、切替手段は、短時間(例えば1秒以内)のうちに受信信号に対する遅延加算の処理態様を何度も切り替える。この切替は、定期的に繰り返されることが望ましいが、不規則に行われてもよい。個々の切替は、超音波診断装置を扱うユーザが指示する必要はなく、設定に従って行われる。これにより、例えば、ある時刻には遅延加算が行われず、次の時刻には2回の遅延加算が行われ、さらに次の時刻には4回の遅延加算が行われるといったような処理がなされる。なお、拡散符号も遅延加算の回数に応じたものに切り替えられる。この場合に、拡散符号の符号長が変更されてもよいし、また、取りうる値(2値か4値かなど)が変えられてもよい。
【0014】
この構成によれば、生体に対する一連の超音波診断過程において、遅延処理の回数が変更される。そこで、例えば、診断対象箇所の違いに応じて回数を設定することで、診断対象箇所の適性に応じた超音波の送受信を行うことが可能となる。
【0015】
望ましくは、本発明の超音波診断装置において、前記切替手段は、前記受信信号に対応する超音波の反射深度に応じて切り替えを行う。反射深度は送波から受波までの時間に比例する。パルス圧縮の効果は、一般に、反射深度が深い場合に顕著である。そこで、最浅箇所の受信信号に対しては前記遅延加算手段による遅延させた信号の加算を実施させない、または、少なくとも1回実施させる処理に切り替える。また、他の受信信号に対しては、それよりも浅い箇所の受信信号よりも多い回数実施させるように切り替える。このように、深さに応じて遅延処理の回数を少なくとも2段階に設定することで、深さ特性に適合した超音波診断を行うことができる。
【0016】
望ましくは、本発明の超音波診断装置において、前記送波手段は、超音波の反射深度に応じて送波する超音波の焦点を多段階に変更する送信多段フォーカス手段を備え、前記切替手段による切り替えは、前記送信多段フォーカス手段における段階に基づいて行われる。もちろん、受信手段も対応して焦点を切り替えることができる。多段送信フォーカス手段においては、通常、振動子がアレイ状に配置されたプローブを用いて超音波の送受信が行われる。そこで、この多段フォーカスにおいてフォーカスを変更するタイミングに合わせて、切替手段による切替を行う。すなわち、同一フォーカス内では切替手段による切替は行わない。なお、フォーカスが3段階以上あるときには、フォーカスを変更する際に切替手段による切替を行わない場合があってもよい。
【0017】
望ましくは、本発明の超音波診断装置は、前記切替手段により切り替えられて処理された反射深度が異なる各信号を重みづけ加算することにより接続するオーバーラップ処理手段を備える。
【0018】
望ましくは、本発明の超音波診断装置において、前記切替手段は、前記受信信号に対応する超音波の伝播経路または反射箇所の生体組成に応じて切り替えを行う。一般に、生体組成が異なれば、音響インピーダンスも異なる。また、超音波診断装置のユーザの注目度に応じて要求する解像度も異なる。そこで、これらの基づいて切替手段による切替を行う。なお、生体組成とは、心臓や肝臓等の臓器、骨、筋肉、脂肪、血管など、生体を構成する単位をいう。この生体組織は、例えば、超音波診断自体によって知ることができる。つまり、テスト波の画像解析や反射特性などによってわかる。
【0019】
望ましくは、本発明の超音波診断装置において、前記送波手段は、異なる複数の拡散符号によって変調した複数の送信信号の合成結果に基づいて超音波を送波し、前記相関処理手段は、対応する受信信号に対し各拡散符号との相関処理を行ってサブパルスを含む複数の信号を生成し、前記遅延加算手段は、サブパルスを含むそれぞれの信号に対し前記圧縮パルスを含む信号を生成する処理を行う。このように、同時に複数の成分をもつ超音波を送信する場合に、これらの超音波を異なる拡散符号に基づいて変調及び対応するパルス圧縮を行うことは有効である。この場合の拡散符号としては、各拡散符号間の相関が低くなるような組み合わせのものを採用すればよい。なお、各超音波の送波方向やフォーカス等は、異ならせることができる。
【0020】
望ましくは、本発明の超音波診断装置において、前記遅延加算手段は、入力信号を前記サブパルス幅に基づいて遅延させ、前記入力信号と加算して出力信号として出力するTSSWA処理機能を備え、前記受信信号の入力に基づいて少なくとも二回のTSSWA処理を行うことにより前記圧縮パルスを含む信号を生成する。処理回数は、典型的には二回であるが、拡散符号に応じて四回などとしてもよい。TSSWA(Two-Sample Sliding Window Adder)処理は、レーダーの分野において知られた技術であり、それを超音波診断の分野に導入するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、圧縮パルスのサイドローブを低減した超音波診断が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の代表的な実施の形態を説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態の超音波診断装置10に関する概略的構成ブロック図である。この超音波診断装置10は、生体に対する超音波診断のために用いられるものであり、主として医療の場や研究の場において使用される。超音波診断装置10が備える主たる構成としては、制御部12、コード信号発生器16、局部発振器18、超音波振動子毎に設けられた送受信部20a,20b,...,20n、加算器40,自己相関器42、1ビット遅延加算回路44,46、増幅器48、検波回路50、表示系52がある。
【0024】
制御部12は、演算機能を備えたハードウエアとその動作を規定するソフトウエア(プログラム)によって構成されている。そして、ユーザ指示や設定内容に基づいて、超音波診断装置10の各構成部を制御する。制御部12は切替部14を備えている。切替部14は、信号の送受信の態様を切り替えるように各構成部を制御するためのものであり、具体的内容については後で説明する。
【0025】
コード信号発生器16は、拡散符号(拡散コード)によって変調されたデジタル送信信号を生成する。このデジタル送信信号の生成は、制御部12の制御のもとで行われる。すなわち、制御部12はユーザ設定される診断モードに基づいて、それに適合したデジタル送信信号を設定されたタイミングで送信する。具体的には、Bモードか、ドプラモードか、カラードプラか等の情報や、送信多段フォーカスをするか、あるいは、複数波形の同時送信をするかとの情報に基づいて対応する信号を対応するタイミングで送信する。拡散符号は、このデジタル送信信号を変調し、対応する受信信号を自己相関器42でパルス圧縮できるように選ばれる。特に、このパルス圧縮の際に、後で詳しく述べる遅延加算処理によってタイムサイドローブが抑圧できるような拡散符号を利用できる点に特徴がある。遅延加算処理は、制御部12の切替部14の指示に基づいて、行わなかったり回数を変更するなどの切替を行うことができ、この場合には拡散符号も対応して変更される。
【0026】
送受信部20a,20b,...,20nは、コード信号発生器16から入力するデジタル送信信号に基づいて超音波を送信し、対応する反射波を受信して加算器40に出力する。この送受信部20a,20b,...,20nが複数設けられているのは、超音波の送受信が、プローブにおいてアレイ状に配置された超音波振動子を用いて電子走査を行うためである。ここでは、送受信部20aを例に挙げてその構成を説明する。
【0027】
送受信部20aは、主たる構成として、PSK変調器22、送信波形制御回路24、電力増幅器26、超音波振動子28、プリアンプ30、PSK復調器32、可変遅延線34を備えている。PSK変調器22は、局部発振器18から入力する正弦波を、コード信号発生器16から入力するデジタル信号によって位相変調し、送信波形制御回路24に送る。送信波形制御回路24は、電子走査を行うために信号を適宜遅延させる装置である。具体的には、制御部12によって指示される送波方向やフォーカスに応じた遅延時間だけ信号を遅延させて、電力増幅器26に送る。電力増幅器26は、超音波の振幅が所望のものとなるように信号を増幅する装置である。増幅された信号は超音波振動子28に送られて電気信号から超音波へ変換される。こうして生成された超音波は、生体内に送られ、その一部は生体内の各所で反射して超音波振動子28に達する。超音波振動子28は、受波した超音波の振動を電気信号に変換してプリアンプ30に送信する。プリアンプ30においては、信号が適宜増幅され、PSK復調器32に出力される。PSK復調器32は、プリアンプ30から入力したアナログ信号と、局部発振器18から入力する正弦波の位相を比較し、デジタル信号に変換する。可変遅延線34は、送信波形制御回路24に対応して設けられている。すなわち、複数の送受信部20a,20b,...,20nにおける各信号の位相を調節するように、制御部12の指示に基づいて適宜信号を遅延させる。遅延された信号は、加算器40に対して出力される。
【0028】
加算器40は、各送受信部20a,20b,...,20nから送られてくるデジタル信号を加算し、一体となったデジタル受信信号を生成して、自己相関器42に出力する。自己相関器42は、コード信号発生器16において実施した変調に対応する構成であり、拡散符号を用いてパルス圧縮を行う。すなわち、各時刻についてデジタル受信信号と拡散符号との相関処理を行ってその結果得られる信号を出力する。通常はデジタル受信信号と拡散符号との相関が小さく、小さな振幅をもつ信号が出力されるが、デジタル受信信号と拡散符号の相関が大きい場合には、非常に大きな振幅をもつ信号であるサブパルス信号が出力される。
【0029】
1ビット遅延加算回路44,46は、入力信号を1ビット(すなわちサブパルス幅)遅延させた信号を入力信号に加算して出力する。1ビット遅延加算回路44は、自己相関器42から入力する信号に対して処理を行い、1ビット遅延加算回路46は、1ビット遅延加算回路44から入力する信号に対して処理を行う。この過程については、後で、図3を用いて詳しく説明する。
【0030】
増幅器48は、1ビット遅延加算回路46によって処理された信号を入力し、振幅の増幅を行う。検波回路50は、増幅された信号の包絡線検波を行い、受信信号がもつ低周波の情報を取得する。検波された信号は、表示系52に出力される。表示系52は、信号を表示するために設けられたものであり、ディスプレイ等の表示部を備えているほか、表示部に表示するための信号を生成するデジタルスキャンコンバータ等の信号処理部を備えている。
【0031】
なお、超音波診断装置10には、これ以外にも一般的な構成を備え得ることは言うまでもない。例えば、ユーザ入力を受け付けて制御部12に伝達する入力装置や、ドプラ診断、カラードプラ診断等を行うための信号生成・処理構成などを含むことができる。
【0032】
以上の装置構成に基づく処理の流れを、図2のフローチャートを用いて簡単に説明する。まず、コード信号発生器16によって、拡散符号で変調されたデジタル送信信号が生成される(S10)。PSK変調器22は、局部発振器18から送られるアナログ正弦波をこのデジタル送信信号でPSK変調する(S12)。送信波形制御回路24は、制御部12の指示のもとで、信号を遅延させて送信波形を制御する(S14)。超音波振動子28は、電気信号を超音波に変換し生体に向けて超音波を送信する。
【0033】
対応する反射波は、やはり超音波振動子28によって受信され、電気信号に変換される(S16)。PSK復調器32は、局部発振器18から送られる正弦波に基づいて、入力したアナログ信号をデジタル信号に変換する(S18)。そして、可変遅延線34によって、各送受信部20a,20b,...,20nにおける信号の位相を調節する遅延処理が行われる(S20)。こうして得られた各送受信部20a,20b,...,20nからの信号は、加算器40によって加算され(S22)、自己相関器42によって随時拡散符号との相関処理を受ける(S24)。両者が適当な関係にあるときには、サブパルス信号が出力される。相関処理の結果出力される信号は、1ビット遅延加算回路44,46によって処理されて、サブパルス幅よりも大きな幅をもつパルスを含んだ信号が出力される(S26)。この信号は検波回路によって検波処理され(S28)、表示系52によって表示に係る一連の処理がなされる(S30)。
【0034】
次に図3と図4を用いて、1ビット遅延加算回路44,46における処理の詳細を説明する。図3は、自己相関器42、及び、1ビット遅延加算回路44,46における信号の流れを示す図である。また、図4の各図は、(a)自己相関器42から出力された信号、(b)1ビット遅延加算回路44から出力された信号、(c)1ビット遅延加算回路46から出力された信号を、それぞれ模式的に表現した図である。図4においては、横軸は時間軸、縦軸は振幅の大きさを表している。
【0035】
図4(a)に示した自己相関器42から出力された信号は、通常は、受信信号と拡散符号との相関が小さいことに対応して振幅がほぼ0である。このため、図においては、古い時間(横軸の右側)から新しい時間にかけて、大抵の場合、出力振幅は0に近い。これに対し、サブパルス60は、両者の相関が大きい場合に出力された信号である。サブパルス60の幅(サブパルス幅)は、通常1ビットである。すなわち、拡散符号の符号長がNビットである場合に、Nビットの情報が1ビットに圧縮される。なお、厳密に言えば、サブパルス60以外の時刻においても、振幅が若干大きくなる場合がありえる。このような振幅が存在すると、超音波診断の空間解像度が悪くなる。そこで、次に示すように、1ビット遅延加算回路44,46による処理を行って、このような振幅を抑圧することを狙っている。
【0036】
1ビット遅延加算回路44は、1ビット遅延回路44aと加算器44bを備えている。そして、加算器44bに対して、入力信号を1ビット遅延回路44aによって1ビット遅延させた信号と入力信号とを送りこみ、両者を加算させる。こうして図4(b)に示した信号が出力される。この信号は、サブパルス60と、サブパルス60を1ビット遅延させたサブパルス62とが足し合わされて構成されている。
【0037】
1ビット遅延加算回路46は、1ビット遅延加算回路44と同様に、1ビット遅延回路46aと加算器46bを備えている。そして、1ビット遅延加算回路44からの出力に対し、1ビットの遅延加算を行う。図4(c)に示したパルス64は、こうして得られた信号であり、図4(b)に示したサブパルス60,62と、これらをそれぞれ1ビットずつ遅延させたサブパルス66,68とを足し合わせて構成されている。このパルス68は、3ビットの幅にわたって分布しており、振幅が半分になる判値幅は1.5ビット程度である。
【0038】
自己相関器42で用いられる拡散符号は、図4(a)に示したサブパルス60が鋭敏に得られるように選択されているのではなく、図4(c)に示したパルス64が鋭敏に得られるように選択される。すなわち、このパルス64の周囲の信号(これをタイムサイドローブと呼ぶ)が十分に抑圧されるように選ばれている。このような拡散符号の例としては、符号長が19ビットの2値コード場合には、「0111100010001001010」を挙げることができる。また符号長が31ビットの2値コードの場合には、「0101010101010011000101000001011」や「0101001100110000000001111001011」の例を挙げることができる。
【0039】
こうして得られるパルス64の主たる特長としては、次のものを挙げることができる。まず、タイムサイドローブの値が通常のパルス圧縮に比べて小さい特長をもつ。すなわち、同じ程度の符号長をもつ拡散符号を用いた場合、本実施の形態における方式のほうが、サイドローブの低減率がよい。これは、空間分解能を高める上で利点となる。また、パルス64の周波数帯域幅は、通常の1ビット長の幅をもつパルスに比べて狭くなり、S/N比の改善効果が期待できる。また、このような拡散符号によって得られるパルスは、反射波がドプラシフトを生じている場合にも、比較的振幅の減少が少ないという利点もある。
【0040】
次に図5乃至図7を用いて、1ビット遅延加算処理の態様を、一連の診断中に切り替える方式について説明する。
【0041】
図5は、生体における超音波診断の診断範囲70を示す図である。プローブ位置72から発せられる超音波は、設定された送波方向74に向けて伝播する。そして、途中の各箇所において一部が反射し、プローブ位置72に到達する。一般に、プローブ位置72に近い(深度が浅い)箇所からの反射波は、ノイズが少なく、また、音波のエネルギも大きいため、空間分解能が良い。これに対し、プローブ位置72から離れた(深度が深い)箇所からの反射波は、ノイズが多く、また、音波のエネルギも小さいため、空間分解能が悪い。そこで、診断箇所が遠方であればあるほど、サイドローブが低減されたパルス圧縮の方式による診断の必要性が高まる。なお、診断箇所がどの程度遠方であるかは、送波から受波までに要する時間によって見積もることができる。
【0042】
図5に示すように、この例では、プローブ位置72に対し近い範囲から順に範囲A,範囲B,範囲Cの3つの範囲に区分している。最も近傍に位置する範囲Aに対する診断は、通常のパルス圧縮方式、すなわち、遅延加算処理を行わない方式で実施している。したがって、この場合には、自己相関器によるパルス圧縮のみが行われ、1ビット幅をもつパルス76が得られる。また、中程度の距離にある範囲Bに対する診断は、1ビット遅延加算を2度行う処理方式によって行っている。この場合には、3ビット幅をもつパルス78が得られる。そして、最も遠方に位置する範囲Cに対する診断は、1ビット遅延加算を4度行う処理方式によって行っている。この場合には、5ビット幅をもつパルス80が得られる。
【0043】
図6には、図5の技術を実施するための信号処理の流れを示した。この場合においても、図1に示した加算器40に至るまでの処理は、基本的に同じである。ただし、診断方向が同じ場合に、各範囲A,B,Cにおいて遅延加算処理を変更することに対応して、切替部14が、コード信号発生器16が出力するデジタル送信信号の変調に用いられる拡散符号を順次切り替えていく。そして、最終的に加算器40によって加算処理された信号は、切替部14の指示に基づいて、三つの態様のうちのいずれかの処理を受けることになる。
【0044】
一つは図5の範囲Aに対する処理であり、自己相関器90によって対応する拡散符号との相関がとられ、パルス76を含む信号が順次出力される。そして、出力された信号は、範囲Bに対する信号となめらかに接続するための振幅重みづけ処理100がなされ、加算器106に入力される。もう一つは、図5の範囲Bに対する処理であり、自己相関器92によって対応する拡散符号との相関処理がなされ、サブパルスを含む信号が生成される。そして、その信号は二つの1ビット遅延加算回路96によって処理されて、パルス78を含む信号に変換・出力される。出力された信号は、範囲A及び範囲Cの信号となめらかに接続するための振幅重み付け処理102を受けた後、加算器106に入力される。最後の一つは、図5の範囲Cに対する処理であり、自己相関器94によって対応する拡散符号との相関処理がなされ、サブパルスを含む信号が生成される。そして、その信号は四つの1ビット遅延加算回路98によって処理されて、パルス80を含む信号に変換・出力される。出力された信号は、範囲Bの信号となめらかに接続するための振幅重み付け処理104を受けた後、加算器106に入力される。
【0045】
加算器106は、入力された信号を一時的に記憶する記憶部を備えており、三つの範囲A,B,Cに対する信号が対応する位置で重ね合わされるように対応箇所を調整した上で加算処理を行う。こうして加算合成された信号は、図1に示したように、増幅器48と検波回路50を経て、表示系52において表示される。
【0046】
なお、図6においては、各信号処理においてそれぞれ自己相関器90,92,94を設けた構成を示したが、これらは、同一の装置によって実装されてもよい。遅延加算や振幅重み付けを行う構成においても同様である。
【0047】
図7には、振幅重み付け処理100,102,104において用いられる重み付け係数を示した。横軸は、送波から受波までの時間、すなわち、超音波診断の深度を表し、縦軸は重み付け係数を表している。ここでは、範囲A,B,Cに対応する各相関方式A,B,Cによる診断を、範囲A,B,Cよりもやや広い範囲について行っている。すなわち、各相関方式A,B,Cは、隣合う方式と重なりをもつ信号処理を受ける。そして、これらの信号が重なり合う領域では、徐々に方式が移り変わるように(オーバーラップするように)、重みづけ係数が調節されている。例えば、相関方式Aに対する重み付け係数110は、範囲Aに相当する大部分の箇所において1であるが、範囲Bに近づくにつれて値を小さくし、範囲Bの中にある程度入った時点で0になっている。対応して、相関方式Bに対する重み付け係数112は値を0から徐々に大きくし、範囲Bの大部分の箇所で1となっている。オーバーラップする部分においては、重み付け係数を足し合わせた値が1になるように設定されている。相関方式Bと相関方式Cとのオーバーラップについても同様である。なお、例えば可視化において全範囲における輝度を比較的一様に保つために、遠方の位置の重みづけ係数ほど増大させるなどの処置を行ってもよい。
【0048】
図5乃至図7に示した構成は、送信多段フォーカスの技術と融合させることも可能である。例えば、3段階の送信多段フォーカス方式による超音波の送受信を行う場合、各範囲A,B,C毎に対応する超音波の焦点距離を、それぞれ範囲A,B,Cに対応した距離に設定することで、診断の精度を高めることができる。このフォーカスの設定は、制御部12の指示に基づいて、図1に示した送信波形制御回路24や可変遅延線34における遅延時間を調整することで実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施の形態に係る超音波診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】信号処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】1ビット遅延加算処理に係る装置構成を示すブロック図である。
【図4】1ビット遅延加算処理に係る各パルス信号を示す図である。
【図5】相関方式の切替と対応範囲を説明する模式図である。
【図6】相関方式の切替に係る信号処理を説明する模式図である。
【図7】オーバーラップ処理における重み付け係数の例を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10 超音波診断装置、12 制御部、14 切替部、16 コード信号発生器、18 局部発振器、20a,b,...,n 送受信部、22 PSK変調器、24 送信波形制御回路、26 電力増幅器、28 超音波振動子、30 プリアンプ、32 PSK復調器、34 可変遅延線、40 加算器、42 自己相関器、44,46 1ビット遅延加算回路、44a,46a 1ビット遅延回路、44b,46b 加算器、48 増幅器、50 検波回路、52 表示系、60 サブパルス、68 パルス。
【出願人】 【識別番号】390029791
【氏名又は名称】アロカ株式会社
【住所又は居所】東京都三鷹市牟礼6丁目22番1号
【出願日】 平成16年1月29日(2004.1.29)
【代理人】 【識別番号】100075258
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 研二

【識別番号】100096976
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 純

【公開番号】 特開2005−211334(P2005−211334A)
【公開日】 平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願番号】 特願2004−22180(P2004−22180)