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【発明の名称】 抗菌剤およびこれを含有する食品保存剤
【発明者】 【氏名】佐藤 豊樹
【住所又は居所】東京都中央区日本橋小伝馬町20番3号 アサマ化成株式会社内

【氏名】矢嶋 瑞夫
【住所又は居所】東京都中央区日本橋小伝馬町20番3号 アサマ化成株式会社内

【要約】 【課題】安全性が高く、かつ特に食中毒菌に対して優れた抗菌性を有し、食品本来の味や風味、色調等を損なうことのない抗菌剤および食品保存剤を提供すること。

【解決手段】本発明は、納豆菌の菌体内部からの抽出物を、pHが2.0〜4.5の範囲で酸処理して得られた沈殿物を有効成分として含有する抗菌剤およびこれを含有する食品保存剤である。納豆菌の菌体内部からの抽出は、菌体をアルカリ水溶液、又は細胞壁分解酵素によって処理することによって行なう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
納豆菌の菌体内部からの抽出物を、pHが2.0〜4.5の範囲で酸によって処理して得られた沈殿物を有効成分として含有する抗菌剤。
【請求項2】
酸処理の条件が、pHが3.0〜3.5の範囲で、かつ処理温度が2〜15℃であることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
納豆菌の菌体内部からの抽出が、菌体をアルカリ水溶液で処理する方法であることを特徴とする、請求項1または2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
納豆菌の菌体内部からの抽出が、菌体を細胞壁分解酵素で処理する方法であることを特徴とする、請求項1または2に記載の抗菌剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の抗菌剤を含有することを特徴とする、食品保存剤。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤およびこれを含有する食品保存剤に関する。更に詳しくは、食品添加物としての安全性に優れた納豆菌の抽出物を含む抗菌剤およびこれを含有する食品保存剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品を安全に貯蔵し、保存するために、古くからさまざまな方法が試みられており、例えば、冷凍、冷蔵、乾燥、塩蔵、糖蔵、加熱減菌、加熱殺菌(壜、缶詰)、包装加熱、包装内部の気相置換、などのほかに酢漬け、乳酸醗酵、さらには安息香酸やソルビン酸などの化学的保存料の使用などが採られてきた。そして、近年の食品に対する指向は、食品の保存方法にも著しい影響を与えている。例えば、安全性指向という点からは食品にできるだけ合成保存料の添加を減らし、天然指向という点からは冷凍や冷蔵、乾燥や塩蔵などもあまり好まれず、健康指向という点からはできるだけ食塩濃度を減らしたいという様々な要求に対して、種々の方法の開発が行われてきている。
【0003】
食品として日常的に摂取しているもののなかには天然の抗菌物質を含むものがあり、これらのものを用いて食品を保蔵することは、食品の安心、安全を担保する上で有効であり、食品の保存方法の有力な手段である。このような食品として利用されている天然の抗菌物質の中で食品の保蔵に利用されているものとしては、例えば、わさび、唐辛子をはじめとする香辛料抽出物、ホップなどが挙げられる。しかし、これらはいずれもその添加量を増やすと食品本来の味を損ねるため、十分な量を添加することができず、満足な抗菌力を発揮させることができなかった。また、近年になって食品と関わりの深い微生物が産生する物質を抗菌活性成分として用いようとする研究がなされている。例えば、糠床中の常在菌であるラクトコッカス・ラクティスが産生するバクテリオシンを利用しようという試み(例えば、特許文献1参照)、或いは納豆菌と同属にあたるバチルス属の一種の細菌の菌体外に産生する産生物の抗菌性を応用する例(例えば、特許文献2、特許文献3参照)などが報告されている。しかしながら、これらの抗菌物質はセレウス菌などの食中毒菌に対して十分な抗菌力を持っていない上、菌培養時に培地中の抗菌物質濃度が十分に上昇しないため、効率的に製造することができなかった。
【0004】
【特許文献1】特許第3042573号公報
【特許文献2】特開平11−285378号公報
【特許文献3】特開平11−290063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような従来の抗菌剤や保存剤の問題点を解決した、安全性が高く、かつ特に食中毒菌に対して優れた抗菌性を有し、食品本来の味や風味、色調等を損なうことのない天然の成分からなる抗菌剤および食品保存剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、種々の食材から得られる抽出物のスクリーニングを経て、納豆菌の菌体内から抽出して得られた物質が優れた抗菌活性を有することを見出し本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、以下の内容をその要旨とするものである。
(1)納豆菌の菌体内部からの抽出物を、pHが2.0〜4.5の範囲で酸によって処理して得られた沈殿物を有効成分として含有する抗菌剤。
(2)酸処理の条件が、pHが3.0〜3.5の範囲で、かつ処理温度が2〜15℃であることを特徴とする、前記(1)に記載の抗菌剤。
(3)納豆菌の菌体内部からの抽出が、菌体をアルカリ水溶液で処理する方法であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の抗菌剤。
(4)納豆菌の菌体内部からの抽出が、菌体を細胞壁分解酵素で処理する方法であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の抗菌剤。
(5)前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の抗菌剤を含有することを特徴とする、食品保存剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗菌剤および食品保存剤は、納豆菌の菌体からの抽出物を有効成分とするものであるため安全性が高く、しかも、加熱加工食品で常に問題となる多くの枯草菌や乳酸菌の生育を阻害し、抗菌活性が高いという効果を有する。特に澱粉系加工食品の食中毒の原因となるバチルス・セレウス(Bacillus cereus)などのバチルス属細菌の繁殖を強く阻害するため、これらの細菌が原因となる米飯類や麺類による食中毒の防止に大きな効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の抗菌剤および食品保存剤は、その有効成分として納豆菌の菌体からの抽出物を含有する。
本発明に使用する納豆菌は、形態や培養上の特徴、生理的性質からバチルス属に属する細菌であり、一般的に納豆の製造に広く利用されているものであれば使用することができ、例えば、Bacillus Natto Sawamura 等が挙げられる。実際に利用する納豆菌は、納豆スターターの専門メーカーによって製造され、納豆菌懸濁液または納豆菌乾燥粉末として供給されているので、この納豆菌を使用すれば良い。或いは、市販の納豆から分離したり、土壌や藁等から粘質物を分泌する納豆菌を分離してもよい。
【0010】
この納豆菌を加圧蒸気で滅菌した液体培地に接種し、pH6〜8で、30〜37℃にて1〜2日間好気的に培養した後、遠心分離または濾過によって菌体を分離する。
この納豆菌の菌体から、任意の手段を用いて、その細胞壁を溶解し、又は破壊することによって菌体内の物質を抽出する。菌体内の物質を抽出する方法としては、例えば、菌体をアルカリ剤の水溶液で処理して、細胞壁を溶解すれば良い。このアルカリ処理は、一般的にpHが12.0から14.0、好ましくは12.5〜13.5の範囲で菌体を希アルカリ水溶液に分散させて、90〜120℃の温度に加熱し、5時間以内、好ましくは2時間程度処理して納豆菌の細胞壁を溶解することによって達成することができる。アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられ、これらの水溶液を用いる。あるいは、納豆菌の菌体をリゾチーム、ムラミターゼ、プロテアーゼなどの細胞壁分解酵素の溶液中で1〜2日間消化して納豆菌の細胞壁を溶解させ、菌体内物質を取り出しても良い。
【0011】
次いで、このようにして得られた納豆菌の菌体内物質のアルカリ水溶液を中和、ろ過した後、酸処理して、この溶液から沈殿物として分離して得られた酸沈殿物を本発明の有効成分として使用する。
酸処理の条件は、pHが2.0〜4.5の範囲であることが必要であり、好ましくはpHが3.0〜3.5の範囲である。酸処理には、塩酸、硫酸等の鉱酸または酢酸、乳酸等の有機酸の水溶液を用いる。納豆菌の菌体内物質に、この酸の水溶液を加えて、pHを所定の値に調節する。酸処理の温度は、2℃〜15℃、好ましくは5℃〜10℃であり、所定のpHと温度で納豆菌の菌体内物質をゆるく攪拌することによって、菌体内物質の一部が不溶化し沈殿が生成するので、これを溶液から遠心分離、ろ過等の方法によって分離する。
pHが2.0未満では、中和する際に多量の塩を生じ、かつ余計な不純物の蛋白質が沈殿し、またpHが4.5を越えると菌体内物質の溶解性が増大して十分な沈殿が生成しないため、好ましくない。
【0012】
本発明の抗菌剤は、このようにして得られた納豆菌の菌体内物質の酸沈殿物を有効成分として含むものである。この酸沈殿物は、分子量が3000以上で、酸性領域では水に難溶性であるが、中性からアルカリ性の水には可溶性となる。従って、食品等に添加した場合でも、弱酸性から中性で食品中で徐々に溶解し、食品のバチルス・セレウス(Bacillus cereus)などの食中毒菌の増殖を抑制し、これらの細菌による汚染や腐敗から食品を保護することができる。また、この酸沈殿物中には、納豆菌中に存在し抗菌性を有するとされてきたビタミンK2やジピコリン酸は含まれていないことが高速液体クロマトグラフィーにより確認することができた。
【0013】
本発明は、またこのような抗菌剤を有効成分として含有する食品保存剤である。この抗菌剤成分は酸性領域では水溶性が低いが、直接食品に添加しても徐々に食品のpHまで上昇する間に食品中に徐々に溶解し浸透する。また、この抗菌剤成分である酸沈殿物を一度アルカリに溶解した後、pHを中性に調整した水溶液を食品に加えてもよい。更に、この水溶液を乾燥して得られる粉末を抗菌剤成分として用いることもできる。
本発明の食品保存剤は、さらに、澱粉、デキストリン、単糖類、オリゴ糖類、セルロースのような固体状の食品素材を加えたり、水、エタノール、醸造酢のような液体状の食品素材を加えて種々の組成物とすることができる。本発明の食品保存剤の食品への添加濃度は、食品に対して乾燥重量で0.3〜1.0質量%程度が好適である。
【0014】
次に、以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。尚、各実施例中「%」は特に注記しない限り質量基準である。
【実施例1】
【0015】
(1)納豆菌酸沈殿物の調製
グルコース5%、酵母エキス1%、食塩0.5%を含む培地を120℃で20分間滅菌した後、納豆菌(販売元:成瀬発酵科学研究所)を植菌し、30℃で24時間好気的に培養した。この培養液を遠心分離処理にかけ、培養液から菌体を分離した。この菌体を0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液に湿菌重量濃度が40%になるように懸濁し、100℃で2時間加熱し、菌体溶解液を得た。この溶液を遠心分離して未溶解残渣を除去した後、2Nの塩酸水溶液を添加してpHを約3.0とした。pHを3.0に調整することにより析出した沈殿を再度遠心処理により溶液から分離し、乾燥して酸沈殿物を得た。
【0016】
(2)酸沈殿物の抗菌力の評価
上記(1)で得られた酸沈殿物を種々の添加量でトリプトソイ寒天培地に添加後pHを6に調整し、種々の微生物の生育状態を観察した。表1に示す種々の微生物をトリプトソイ寒天培地に添加し、30℃で72時間経過した後の各微生物の培地上の生育状態の観察結果を表1に示す。
なお、トリプトソイ寒天培地の組成は、トリプトン1.7%、ペプトン0.3%、ブドウ糖0.28%、リン酸一カリウム0.25%、塩化ナトリウム0.5%、寒天1.5%であった。
【0017】
【表1】


【0018】
この結果から、納豆菌の菌体内物質から得た酸沈殿物は、特にバチルス・ズブチリスとバチルス・セレウス及び乳酸菌のストレプトコッカス・ラクチスとロイコノストック・メセンテロイデスに対して優れた抗菌活性を示すことがわかった。
【0019】
(3)炊き込みご飯の保存性試験
米900gを水洗し、水1080ml、山菜炊き込みご飯の素4人分(永谷園(株)製)、前記(1)で得られた酸沈殿物4.5g(生米に対して0.5%)を加えて炊飯した(添加試験区)。一方、比較のために、酸沈殿物を添加することなく、同様にして炊き込みご飯を調製した(無添加試験区)。次に、それぞれの調製品にバチルス・セレウス(炊き込みご飯から分離したもの)を約100cfu/mlとなるように接種し、密封して、30℃で24時間、及び48時間放置した後、菌数を測定した。結果を表2に示すが、酸沈殿物を添加しない場合にはバチルス・セレウスが大幅に増殖していたのに対して、本発明の抗菌剤である酸沈殿物を添加した炊き込みご飯はバチルス・セレウスの増殖を十分に抑制していた。

【0020】
【表2】


【実施例2】
【0021】
(4)五目チャーハンの保存性試験
米540gを水洗し、水650ml、前記(1)で得られた酸沈殿物2.7g(生米に対して0.5%)を加えて調製したご飯に、卵2個分の卵焼き、五目チャーハンの素(永谷園(株)製)を混ぜてチャーハンを調製した(添加試験区)。一方、比較のために、酸沈殿物を添加することなく、同様にしてチャーハンを調製した(無添加試験区)。次に、それぞれの調製品にバチルス・セレウス(炊き込みご飯から分離したもの)を約100cfu/mlとなるように接種し、密封して30℃で24時間、及び48時間放置した後、菌数を測定した。
その結果を表3に示すが、酸沈殿物を添加しない場合には24時間後にはバチルス・セレウスが大幅に増殖していたのに対して、本発明の抗菌剤である酸沈殿物を添加した炊き込みご飯では、48時間を経過後でもバチルス・セレウスの増殖を十分に抑制していた。
【0022】
【表3】


【実施例3】
【0023】
(5)ポテトサラダの保存性試験
茹でたジャガイモ657g、タマネギ50g、茹でたニンジン100g、食塩10g、マヨネーズ83g、前記(1)で得られた酸沈殿物5g(食材に対して約0.5%)をよく混ぜ合わせてポテトサラダを調製した(添加試験区)。一方、比較のために、酸沈殿物を添加することなく、同様にしてポテトサラダを調製した(無添加試験区)。次に、それぞれの調製品にバチルス・ズブチリスを約100cfu/mlとなるように接種し、これを密封して25℃で放置し、菌数を定期的に測定した。その結果を表4に示す。酸沈殿物を添加しない場合には、1日目から菌の増殖が見られたが、本発明の抗菌剤である酸沈殿物を添加した場合には、2日後まで菌の増殖が有意に抑制されていた。
【0024】
【表4】


【実施例4】
【0025】
(6)茹でうどんの保存性試験
前記(1)で得られた酸沈殿物2%を添加し、pHを5.5に調整した茹で水を用いて、市販の生うどんを98℃で、15分間茹でた後、水切りし、茹でうどんを調製した(添加試験区)。一方、比較のために、酸沈殿物を添加することなく、同様にして茹でうどんを調製した(無添加試験区)。次に、それぞれの調製品にバチルス・セレウスを約100cfu/mlとなるように接種し、これを密封して20℃で放置し、菌数を定期的に測定した。その結果を表5に示す。この場合には、酸沈殿物を添加しない場合には、2日後から菌の増殖が見られたが、本発明の抗菌剤である酸沈殿物を添加した場合には、2日後までは菌の増殖が有意に抑制されていた。
【0026】
【表5】


【実施例5】
【0027】
(7)コーンクリームの保存性試験
前記(1)で得られた酸沈殿物1%を添加した市販の缶詰コーンクリームを90℃で5分間加熱調理した(添加試験区)。一方、比較のために、酸沈殿物を添加することなく、同様にしてコーンクリームを加熱調理した(無添加試験区)。次に、それぞれの調製品にバチルス・ズブチリスを約100cfu/mlとなるように接種し、これを密封して30℃で放置し、菌数を定期的に測定した。その結果を表6に示す。この場合には、酸沈殿物を添加しない場合には、1日目から菌の増殖が見られたが、本発明の抗菌剤である酸沈殿物を添加した場合には、2日後までは菌の増殖が有意に抑制されていた。
【0028】
【表6】


【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の抗菌剤および食品保存剤は、納豆菌の菌体から得られたもので安全性が高く、かつ枯草菌や乳酸菌に対して抗菌活性が大きいため、食品類、特に澱粉加工食品の貯蔵や保存に有用である。
【出願人】 【識別番号】000101215
【氏名又は名称】アサマ化成株式会社
【住所又は居所】東京都中央区日本橋小伝馬町20番3号
【識別番号】504039683
【氏名又は名称】味丹企業股▲分▼有限公司
【住所又は居所】台湾省台中県沙鹿鎮興安路65号
【出願日】 平成16年1月30日(2004.1.30)
【代理人】 【識別番号】100077975
【弁理士】
【氏名又は名称】望月 孜郎

【公開番号】 特開2005−210979(P2005−210979A)
【公開日】 平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願番号】 特願2004−22788(P2004−22788)