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【発明の名称】 大豆抽出物、その製造方法およびその用途
【発明者】 【氏名】笠井 尚哉

【氏名】今井 貴士

【氏名】中井 千晃

【要約】 【課題】通常の煮汁よりも蛋白質(固形物中40%以上)が多い成分、およびその製造方法の提供。

【解決手段】大豆を段階的に熱水処理、単細胞化処理したものを熱水抽出して得られる大豆抽出物。脱皮した大豆を用いる。熱水処理は100〜150℃の熱水で5〜60分間大豆を蒸煮するものである。単細胞化処理は物理的処理により大豆の細胞を実質的に単細胞化するものである。大豆を熱水処理し、その後で物理的処理をし単細胞化させ、さらに熱水抽出することにより、通常の煮汁よりも蛋白質(固形物中40%以上)が多い抽出物を得ることを特徴とする大豆抽出物の製造方法。上記いずれかの大豆抽出物からなるアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆を段階的に熱水処理、単細胞化処理したものを熱水抽出して得られる大豆抽出物。
【請求項2】
脱皮した大豆を用いる請求項1の大豆抽出物。
【請求項3】
熱水処理が100〜150℃の熱水で5〜60分間大豆を蒸煮するものである請求項1または2の大豆抽出物。
【請求項4】
単細胞化処理が物理的処理により大豆の細胞を実質的に単細胞化するものである請求項1、2または3の大豆抽出物。
【請求項5】
大豆を熱水処理し、その後で物理的処理をし単細胞化させ、さらに熱水抽出することにより、通常の煮汁よりも蛋白質(固形物中40%以上)が多い抽出物を得ることを特徴とする大豆抽出物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかの大豆抽出物からなるアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかの大豆抽出物を有効成分として配合した、飲食物、飼料、医薬品、化粧品、培地からなる群から選ばれる形態の組成物。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、食品素材などに有効に利用可能な大豆抽出物、その製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆煮汁は味噌、納豆の製造時に発生する副産物であり、従来は廃棄物として公害源になっていたが、乳酸菌発酵原料などとして利用される例がある(特許文献1〜3)。大豆煮汁は発酵素材として有効であるが、その煮汁の持つ独特の大豆臭が強いため広く利用はされていない。
【0003】
また大豆の段階的抽出処理法は特許文献4で示されているが、細胞間結着成分の効率的な製造法及びその利用までには至ってない。
【特許文献1】特許昭62−27777号公報
【特許文献2】特開昭63−317055号公報
【特許文献3】特開平8−56651号公報
【特許文献4】特開2002−256281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、大豆に含まれる成分、特に細胞間結着物質を含む成分を採取し有効に利用することを目的とする。本発明は、通常の煮汁よりも蛋白質(固形物中40%以上)が多い成分、およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の(1)ないし(4)の大豆抽出物を要旨とする。
(1) 大豆を段階的に熱水処理、単細胞化処理したものを熱水抽出して得られる大豆抽出物。
(2) 脱皮した大豆を用いる上記(1)の大豆抽出物。
(3) 熱水処理が100〜150℃の熱水で5〜60分間大豆を蒸煮するものである上記(1)または(2)の大豆抽出物。
(4) 単細胞化処理が物理的処理により大豆の細胞を実質的に単細胞化するものである上記(1)、(2)または(3)の大豆抽出物。
【0006】
また、本発明は、以下の(5)の大豆抽出物の製造方法を要旨とする。
(5) 大豆を熱水処理し、その後で物理的処理をし単細胞化させ、さらに熱水抽出することにより、通常の煮汁よりも蛋白質(固形物中40%以上)が多い抽出物を得ることを特徴とする大豆抽出物の製造方法。
【0007】
また、本発明は、以下の(6)のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を要旨とする。
(6)上記の(1)〜(4)のいずれかの大豆抽出物からなるアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【0008】
また、本発明は、以下の(7)の組成物を要旨とする。
(7)上記の(1)〜(4)のいずれかの大豆抽出物を有効成分として配合した、飲食物、飼料、医薬品、化粧品、培地からなる群から選ばれる形態の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、大豆に含まれる成分、特に細胞間結着物質を含む成分、その製造方法、および、それを用いた飲食物、飼料、医薬品、化粧品、培地を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いる大豆は、種皮がある大豆をそのまま用いても良いが、脱皮した大豆を用いることも熱水処理後の単細胞化を容易にするため好適である。種皮は既知の物理的な処理法により除去できる。
【0011】
単細胞化処理の前に熱水処理が必要である。豆腐・豆乳製造の際に通常行われる浸漬処理のみでは、粉砕処理などにより細胞が破壊されやすく、目的とする成分が抽出されない。熱水処理の前に浸漬処理を行っても良く、後の単細胞化が容易になる。
【0012】
単細胞化前の熱水処理は、大豆を必要とする水温に応じて加圧し、100〜150℃、好ましくは115〜125℃で、大豆の2倍容以上、好ましくは5倍容以上の熱水に、5分間〜60分間、好ましくは10分間〜20分間、水の温度を維持しながら浸漬することにより行われる。必要に応じて複数回行っても良い。
【0013】
単細胞化前に熱水処理することにより、大豆中の成分が溶け出す。具体的には蛋白質、シュクロース、ラフィノース、スタキオースなどの糖類が得られる。このような抽出物は副産物として、公知の方法により乳酸菌発酵素材等に使用される。また酸沈殿、酸アルコール洗浄、活性炭吸着、イオン交換樹脂、UF膜等の公知の方法によって精製も可能である。
【0014】
本発明でいう単細胞化は、大豆中の全細胞が完全に単細胞化されていることが望ましいが、細胞のいくつかが細胞間接着物質を介して他の細胞と接触していているような部分的な単細胞化も包含する。
【0015】
本発明でいう単細胞化処理は、熱水処理後、細胞が破壊されない程度に物理的に処理することで行われる。例えばコーヒーミル、フードプロセッサー、マスコロイダーなどの粉砕方法で処理でき、その他各種機器での破砕、撹拌、ミキシング、超音波照射などの処理方法も可能である。処理後はろ過などにより、水分と固形分を分別することにより、大豆臭の大幅な軽減が可能となる。熱水処理を行わず、乾燥した状態で粉砕を行うと細胞が破壊され、油分などが細胞内より流出し、後の熱水抽出時にエマルジョン化し、分別不能になる。粉砕する際の水分は細胞が破壊されない程度必要で、好ましくは50%以上が良い。
【0016】
単細胞化処理後の熱水抽出は、大豆を必要とする水温に応じて加圧し、100〜150℃、好ましくは115〜125℃で、大豆の2倍容以上、好ましくは5倍容以上の熱水に、5分間〜60分間、好ましくは10分間〜20分間、水の温度を維持しながら浸漬することにより行われる。処理後はろ過などにより水分と固形分を分別して大豆抽出物を得る。分別後は水洗浄により抽出物をさらに採取することも可能である。
【0017】
通常の大豆煮汁は固形分中の蛋白質含量が30%程度であるのに対し、本発明の成分は40%以上が蛋白質である。すなわち、大豆を熱水抽出後、ミキシングし単細胞化させ、さらに熱水抽出することにより、通常の煮汁よりも蛋白質(固形物中40%以上)が多い成分が得られる。
【0018】
本成分の蛋白質の分子量は通常の大豆煮汁より高分子の画分(分子量約40,000から130,000)を多く含む。また、大豆特有の青臭さ(大豆臭)が極めて少なく、細胞間結着物質を多く含有するため、広く飲食品、飼料、医薬品、化粧品、乳酸菌培地など様々な用途で利用できる。
【0019】
例えば、以下の方法などにより、本発明の大豆抽出物で乳酸菌を増殖させ、さらに容易に蛋白と菌体の複合物を得ることができる。
本成分の水溶液を滅菌し、予備培養した乳酸菌を無菌的に接種する。ここで乳酸菌とは、一般の糖を分解して乳酸を生成する働きをもつもので、例えばラクトバチルス・アシドフイラス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラクテイス、ラクトバチルス・プランタラムなどが挙げることができるが、これに限定されず、球菌、桿菌など各種の乳酸菌が利用できる。本発明による乳酸菌の増殖の特徴は、培養の進行に伴い、高分子蛋白ともに乳酸菌が沈殿するため、容易に乳酸菌菌体を得られることにある。
得られた乳酸菌菌体を予備凍結した後、凍結真空乾燥に供し、パウダー化した乳酸菌菌体を得ることができる。
【0020】
本発明の大豆抽出物の水溶液をペプシンおよびトリプシンにて分解を行ったもの、すなわち本発明の大豆抽出物が消化吸収された状態でのアンジオテンシン変換酵素阻害活性(ACE阻害活性)を測定したところ、高いACE阻害活性が確認された。
本発明の大豆抽出物は、ACE変換酵素阻害剤として使用することもできる。このことから、飲料、スープ、その他各種飲食品や医薬品として利用した際も血圧を正常に保つ効果が期待される。
【実施例1】
【0021】
抽出物の採取
大豆100gに対して500mlの水を加え、121℃、15分間熱水処理を行い、ろ過後、大豆煮汁1を得た。残渣である大豆を脱皮し、500mlの水を加え、121℃、15分間熱水処理を行い、ろ過後、大豆煮汁2を得た。残渣をコーヒーミルにてペースト化し、500mlの水を加え、121℃、15分間熱水処理を行い、ろ過後、水で洗浄して当該抽出物を得た。得られた大豆煮汁1、大豆煮汁2、および抽出物の分析値を表1に示した。また、蛋白質については、分子量の分析をHPLCで行った(図1、図2)。分子量の分析におけるHPLCの条件は、以下の通りである。
HPLCの条件
カラム TOSO-G3000SW XL 7.8×300mm
流量 1 nl/min
溶出液 0.1M リン酸バファー 0.2M NaCl、pH7.0
検出器 A280mm
【0022】
本発明の大豆抽出物は、抽出物中に蛋白質を多く含有し(固形分で40%以上)、大豆臭が極めて少ないものであることがわかった。さらに、抽出物中の蛋白質は、分子量約40,000から130,000の画分を含有することが示された。
【0023】
【表1】


【実施例2】
【0024】
抽出物の乳酸菌発酵
実施例1にて得られた大豆煮汁、大豆抽出物をそれぞれ凍結乾燥し、乾燥物の1%水溶液を作成し、溶液3mlにラクトバチルス・プランタラム(5.0×10cells)を加え、30℃、48時間培養し、コロニーカウント法で各細胞懸濁液の生菌数を測定した。またその懸濁液をろ過し、白色沈殿を採取してその生産数も同様に測定した。結果を表2に示した。表2の白色沈殿の欄の沈殿物の蛋白質分子量を図2および図3(HPLCの条件:実施例と同じ)に、SDS-PAGEの結果を図4にそれぞれ示した。さらに、濁度の測定結果を表3および図5に示した。
乳酸菌菌体と蛋白の複合物からなる沈殿物の蛋白の分子量は40,000〜130,000の画分を含むことが示された。
【0025】
【表2】


【0026】
【表3】


【実施例3】
【0027】
抽出物のアンジオテンシン変換酵素阻害活性
アンジオテンシン Iからアンジオテンシン IIへの変換を触媒するアンジオテンシン変換酵素(ACE)の阻害活性について調べた。
アンジオテンシン変換酵素阻害物質が、本態性高血圧症の治療に有用であることは周知である。アンジオテンシン変換酵素は、レニン・アンジオテンシン系のなかで重要な役割をもつ酵素である。血中のアンジオテンシン ノーゲンに腎臓より分泌される酵素レニンが作用し、昇圧活性の弱いアンジオテンシン Iを生成する。これにアンジオテンシン変換酵素が作用し、生体内で最も強力な昇圧ホルモンであるアンジオテンシン IIを生成する。このアンジオテンシン IIは、直接作用として、末梢毛細血管を収縮させ交感神経や副腎を刺激し、カテコールアミンの放出を促進するため血圧を上昇させる。このように、アンジオテンシン変換酵素の機序が明らかとなり、アンジオテンシン変換酵素の活性を阻害することにより高血圧治療に有効性が確かめられている。
日常摂取している食品素材中のアンジオテンシン変換酵素阻害物質は合成阻害剤と比べ、副作用が無く、長年の食経験から、その安全性が充分確かめられていることから、日常の食生活から血圧を正常に保つ効果が期待される。
【0028】
実施例1にて得られた大豆煮汁、大豆抽出物をそれぞれ凍結乾燥し、乾燥物の10%溶液0.5mlについてペプシン(シグマ社製、ブタ胃粘膜由来、0.01NHClで0.2%に調製したもの)を0.5ml加え、36℃、15時間処理した後、遠心分離を行い、上清に0.1Mトリス緩衝液(20mM CaCl含有、pH7.0)を2.5ml加えた。続いてこの溶液0.5mlに、トリプシン(シグマ社製、ブタすい臓由来、0.1Mトリス緩衝液(20mM CaCl含有、pH7.0)で0.2%に調整したもの)0.5mlを加え、36℃、15時間処理した後、遠心分離を行い、上清を0.1Mホウ酸緩衝液(0.3M NaCl含有、pH8.3)を2.5ml加え希釈したものについてACE阻害活性を測定した。本発明における大豆抽出物酵素処理溶液(ペプシン−トリプシン消化物溶液)のACE阻害活性の測定結果を下記表4に示す。この結果は、本発明における大豆抽出物がペプシン−トリプシン酵素処理によって、あるいは、食された場合に体内中でACE阻害活性を有するものに変化することを示している。
【0029】
【表4】


【0030】
なお、ACE阻害活性の測定は、通常の方法すなわち、クッシュマンらの変法(D.W.Cushman et.al. Biochem. Pharamacol., 20,1637)に従い、酵素溶液として、アンジオテンシンI変換酵素(和光純薬製、ウシ肺由来)を使用した。
大豆抽出物酵素処理溶液0.05mlに上記ホウ酸緩衝液と125μU ACEを含む反応液0.25mlを予め37℃で10分間インキュベートし、これに基質として5mMヒプリル−L−ヒスチジル−L−ロイシンを同ホウ酸緩衝液に溶解させた基質溶液0.25ml添加して反応を開始させ、37℃、30分間反応後、反応物中に0.1M NaOH 2mlを加え反応を停止させ、次に、メタノールの溶解させた0.2% オルト−フタルアルデヒド0.1mlを添加し、室温で15分放置した。その後1.5Mリン酸溶液0.4mlを添加後、得られた溶液の蛍光強度を、励起波長360nm、蛍光波長480nmにて、蛍光光度計(島津RF−1500)を用いて測定し、次式により、ACE阻害率を算出した。
ACE阻害率(%) 〔1−(S−Bs)/(C−Bc)〕×100

S:ACE及びACE阻害物質試料を添加したときの蛍光強度
C:ACEを添加し、ACE阻害物質試料を添加しないときの蛍光強度
Bc:ACE及びACE阻害物質試料を添加添加しないときの蛍光強度
Bs:ACEを添加せず、ACE阻害物質を添加したときの蛍光強度
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の大豆抽出物は乳酸菌発酵食品の素材として、従来の牛乳由来の培養液を用いる場合よりも安価で乳酸菌菌体を製造できる。適宜フレーバー、甘味料などを加えれば乳酸発酵飲料などの食品として利用することができる。また沈殿物を採取、乾燥して容易に乳酸菌パウダーなどが製造できる。
また抽出物自体の大豆臭も少ないため、適宜フレーバー、甘味料などを加えればそのまま直接食品としての利用もできる。豆乳などの一般的な大豆蛋白質食品より分子量が小さいため、消化吸収の点でも有利である。
長い食経験から安全性が立証されている食材である大豆からアンジオテンシン変換酵素阻害剤を得ることができる。
本発明の大豆に含まれる細胞間結着物質を含む成分を配合した、その成分のもつ生理機能を期待できる飲食物、飼料、医薬品、化粧品、培地を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1の大豆煮汁1、大豆煮汁2、および抽出物の蛋白質分子量(HPLC)
【図2】実施例1、実施例2の検出時間と分子量の関係(HPLC)
【図3】実施例2の抽出物の乳酸菌発酵沈殿物の蛋白質分子量(HPLC)
【図4】実施例2の抽出物の乳酸菌発酵沈殿物のSDS-PAGE上での展開写真(5−20% gradient gel クマシーブリリアントブルーにて染色)
【図5】表3に示した濁度の測定結果の棒グラフ
【出願人】 【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
【出願日】 平成16年8月16日(2004.8.16)
【代理人】 【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子

【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸

【公開番号】 特開2005−95156(P2005−95156A)
【公開日】 平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願番号】 特願2004−236448(P2004−236448)