トップ :: A 生活必需品 :: A23 食品または食料品;他のクラスに包含されないそれらの処理




【発明の名称】 油脂加工澱粉及びその製造方法、並びに揚げ物用衣材
【発明者】 【氏名】井出 貴啓

【氏名】鈴木 千景

【氏名】安東 竜一

【氏名】影嶋 富美

【要約】 【課題】衣や衣材に関する各種の要望に対して高確率でバランス良く、且つ高次元で答え、特に油揚げした後の種物と衣との間の良好な結着性と、サクサクとソフトで口当りの良い食感と、作業性とを同時に高次元で両立でき、揚げ物用衣材として最適な油脂加工澱粉と、その一例の好適な製造方法の提供。

【解決手段】40重量%濃度のスラリー粘度が200cP以上で、且つ溶解度が30重量%以下である油脂加工澱粉。前記油脂加工澱粉は溶解度が20重量%以下の原料澱粉に対して、食用油脂及び/又は乳化剤を添加・混合することにより容易に製造できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
40重量%濃度のスラリー粘度が200cP以上で、且つ溶解度が30重量%以下であることを特徴とする油脂加工澱粉。
【請求項2】
40重量%濃度のスラリー粘度が1500cP以下であることを特徴とする、請求項1に記載の油脂加工澱粉。
【請求項3】
溶解度が10重量%超であることを特徴とする、請求項1または2に記載の油脂加工澱粉。
【請求項4】
澱粉濃度が8重量%の懸濁液を連続的に撹拌しながら50〜95℃の加温状態を13分間に亘って与えたときに、
(1)ブレークダウンが無い、若しくは、
(2)ブレークダウンが有る場合には、
▲1▼ 保持粘度が500〜1400cP、
▲2▼ ピーク粘度が1800cP以下、
▲3▼ セットバック幅が200〜600cP、
▲4▼ (最終粘度−ピーク粘度)が−200cP以上、
の4つの条件を全て満たすことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の油脂加工澱粉。
【請求項5】
ブレークダウンが無く且つ最終粘度が400〜1200cPであることを特徴とする、請求項4に記載の油脂加工澱粉。
【請求項6】
溶解度が20重量%以下の原料澱粉に対して、食用油脂及び/又は乳化剤を添加・混合することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の油脂加工澱粉の製造方法。
【請求項7】
原料澱粉と、食用油脂及び/又は乳化剤との混合物を40℃以上に加温することを特徴とする、請求項6に記載の油脂加工澱粉の製造方法。
【請求項8】
食用油脂と乳化剤の両方を添加することを特徴とする、請求項6または7に記載の油脂加工澱粉の製造方法。
【請求項9】
ヨウ素価が130以上の食用油脂を用いることを特徴とする、請求項6から8のいずれかに記載の油脂加工澱粉の製造方法。
【請求項10】
架橋澱粉を50重量%以上含む原料澱粉を用いることを特徴とする、請求項6から9のいずれかに記載の油脂加工澱粉の製造方法。
【請求項11】
請求項1から5のいずれかに記載の油脂加工澱粉を含む揚げ物用衣材。
【請求項12】
請求項1から5のいずれかに記載の油脂加工澱粉を30重量%以上含む揚げ物用衣材。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、油脂加工澱粉及びその製造方法、並びに揚げ物用衣材に係り、特に、衣を有する揚げ物食品の製造に際し、揚げ物用衣材として用いることのできる油脂加工澱粉及びその製造方法、並びに揚げ物用衣材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
衣を有する揚げ物食品には、から揚げ、天ぷら、竜田揚げ、豚カツ、メンチカツ、クリームコロッケ、フリッター等がある。
【0003】
これら揚げ物食品の衣に求められる品質としては、特に以下のものが挙げられる。
(1)風味、色調が良好であること。
(2)サクサクとソフトで口当りが良く、且つ、この食感が長時間維持されること。
(3)見た目での商品価値の低下を防ぐために、パンクがなく、且つ油揚げした後に種物との間に良好な結着性を保っていること。
【0004】
また、これら揚げ物食品を製造するために用いられる揚げ物用衣材に求められる特性としては、揚げ物食品製造時の作業性等の観点から、特に以下のものが挙げられる。
(1)水に溶いてバッターとした時にダマが出来難い、また、得られたバッターに適度な粘性があり、更に、その粘性が使用中を通して安定していること。
(2)油揚げ時の油跳ねが少ないこと。
(3)油揚げ後の油切れが良いこと。
(4)安価であること。
【0005】
しかしながら、従来から用いられている小麦粉を主材とした揚げ物用衣材で上記の要望に全て答えることは非常に困難であった。
従って、最近では、これに代わって澱粉を主材とした衣材を使用することで要望に答えようとする技術が提案されている。
【0006】
例えば、澱粉に大豆粉や生大豆粉を添加・混合し、必要に応じて乾燥・加熱処理を行なった加工澱粉を用いる技術(特許文献1〜4)、澱粉に食用油脂、食用油脂類縁物質を添加・混合し、必要に応じて乾燥・加熱処理を行なった、所謂油脂加工澱粉または油脂コーティング澱粉を用いる技術(特許文献5〜12)が代表的なものである。また、前記のような加工を行なっていない化工澱粉若しくは非化工澱粉またはこれらに必要に応じて各種食品素材を混合した所謂ミックス粉を用いる技術もある。
【0007】
しかしながら、加工澱粉を使用して揚げ物食品を製造したときには、大豆特有の穀物臭があると言う欠点は免れ得ず、揚げ物食品とした時の風味に問題がある。更に、結着性や、食感に対する要望に完全に答えているとは言い難い。
また、油脂加工澱粉または油脂コーティング澱粉を使用して揚げ物食品を製造したときには、風味に対する要望には答えることはできるが、結着性や、食感に対する要望に完全に答えているとは言い難い。
更に、化工澱粉や非化工澱粉を用いて揚げ物食品を製造したときには、食感への要望に答えることはできるが、結着性への要望に答えているとは言い難い。
一方、ミックス粉を用いた場合は、上記のような要望に比較的高い確率で答え得ると言えるが、安価であるとの要望に答えることは困難である。
【0008】
【特許文献1】特公平8−11046号
【特許文献2】特許第2683840号
【特許文献3】特許第2543468号
【特許文献4】特開2000−342210号
【特許文献5】特公平5−21542号
【特許文献6】特公平5−17823号
【特許文献7】特開昭62−143663号
【特許文献8】特開昭62−195259号
【特許文献9】特公平1−44306号
【特許文献10】特許第3368368号
【特許文献11】特開平11−243891号
【特許文献12】特開2000−106832号
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、上記した衣や衣材に関する各種の要望に対して高確率でバランス良く、且つ高次元で答え、特に油揚げした後の種物と衣との間の良好な結着性と、サクサクとソフトで口当りの良い食感と、作業性とを同時に高次元で両立できる揚げ物用衣材と、その一例の好適な製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の特性を備えた油脂加工澱粉が、衣や衣材に関する各種の要望に対して高確率でバランス良く、且つ高次元で答え、特に油揚げした後の種物と衣との間の良好な結着性と、サクサクとソフトで口当りの良い食感と、作業性とを同時に高次元で両立できる揚げ物用衣材となり得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0011】
第1発明は、40重量%濃度のスラリー粘度が200cP以上で、且つ溶解度が30重量%以下であることを特徴とする油脂加工澱粉である。
好ましくは、40重量%濃度のスラリー粘度が1500cP以下である。
好ましくは、溶解度が10重量%超である。
好ましくは、澱粉濃度が8重量%の懸濁液を連続的に撹拌しながら50〜95℃の加温状態を13分間に亘って与えたときに、
(1)ブレークダウンが無い、若しくは、
(2)ブレークダウンが有る場合には、
▲1▼ 保持粘度が500〜1400cP、
▲2▼ ピーク粘度が1800cP以下、
▲3▼ セットバック幅が200〜600cP、
▲4▼ (最終粘度−ピーク粘度)が−200cP以上、
の4つの条件を全て満たす。
好ましくは、ブレークダウンが無く且つ最終粘度が400〜1200cPである。
【0012】
また、第2発明は、40重量%濃度のスラリー粘度が200cP以上で、且つ溶解度が30重量%以下の油脂加工澱粉の製造方法であって、溶解度が20重量%以下の原料澱粉に対して、食用油脂及び/又は乳化剤を添加・混合することを特徴とする。
好ましくは、原料澱粉と、食用油脂及び/又は乳化剤との混合物を40℃以上に加温する。
好ましくは、食用油脂と乳化剤の両方を添加する。
好ましくは、ヨウ素価が130以上の食用油脂を用いる。
好ましくは、架橋澱粉を50重量%以上含む原料澱粉を用いる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の揚げ物用衣材としての油脂加工澱粉の実施の形態を詳述する。「油脂加工澱粉」とは、加工澱粉の一種であり、澱粉と食用油脂や乳化剤が混合されたものを意味する。
A.特性
40重量%濃度のスラリー粘度が200cP以上であり、且つ溶解度が30重量%以下である。
これらスラリー粘度と溶解度の条件を同時に満たすことにより、水に溶いてバッターとしたときには均一なクリーム状のスラリーにすることができ、パン粉等の付着性が良好となり、また、バッターや打ち粉として用いて油揚げしたときには種物と衣の間の結着性やサクサクとソフトで口当りが良い食感を良好に保つことができる。
好ましくは、スラリー粘度は1500cP以下である。1500cPを超えると、バッターの流動性が低くなり、種物へのバッターの付着量の調節が難しくなるからである。付着量の調節を容易にするために溶く水の量を増やすと、油揚げした後の衣の食感が水っぽくなる。
好ましくは、溶解度が10重量%超である。10重量%を超えると、澱粉の粉っぽい食感の顕出を確実に防止できるからである。
【0014】
40重量%濃度のスラリー粘度(cP)と溶解度(重量%)は、具体的には、以下の試験方法で測定したものである。
スラリー粘度は、無水物換算で108gの試料を氷冷水に分散して総量を300gとした後、B形粘度計(東京計器株式会社製造、型式:BM)を入れ、ローター回転数を60rpmに設定し、10秒間回転させた後の値として測定する。
溶解度は、無水物換算で1.0gの試料を精製水100mLに分散し、90℃に昇温した後30分間その温度を維持し、その後30℃まで冷却し、得られた糊化液を遠心分離機(BECKMAN社製 GS―6)に掛けて遠心分離(3000rpm、10分間)し、上澄みに含まれる全糖量をフェノール硫酸法で測定する。
【0015】
好ましくは、澱粉濃度が8重量%の懸濁液を連続的に撹拌しながら50〜95℃の加温状態を13分間に亘って与えたときに、
(1)ブレークダウンが無いか、若しくは、
(2)ブレークダウンが有る場合には、
▲1▼ 保持粘度が500〜1400cP、
▲2▼ ピーク粘度が1800cP以下、
▲3▼ セットバック幅が200〜600cP、
▲4▼ (最終粘度−ピーク粘度)が−200cP以上、
の4つの条件を全て満たす。
これらの糊化粘度に関する特定条件を満たすときには、油揚げした後の種物と衣との間に飛躍的に改善された食感を得ることができる。
詳細に説明すれば、ブレークダウンがあっても、保持粘度、セットバック幅および(最終粘度−ピーク粘度)の設定により衣の食感からヌメリや水っぽさを排除でき、保持粘度、ピーク粘度およびセットバック幅の上限の設定により衣から弾力性のあるゴムっぽさの食感を排除できる。
好ましくは、ブレークダウンが無い。より好ましくは、ブレークダウンが無く、且つ最終粘度が400〜1200cPである。400cP未満であると衣に粉っぽさが出て望ましい食感を得ることができず、1200cPを超えると衣に弾力性が出て望ましい食感を得ることができない。
【0016】
ブレークダウンの有無の認定及び所定の粘度値の測定は、糊化粘度を測定することにより実現できる。糊化粘度測定方法を以下に記載する。
【0017】
RVAを用いた糊化粘度測定方法は以下の通りである。
NEWPORT SCIENTIFIC会社が製造している、RAPID VISCO ANALYSER、Model RVA−4を用いる。
アルミ缶に、試料2.4gDSを入れ、更に精製水を加え、総量を30g(8%(wDS/w)とした後、パドルをセットし、以下の条件で測定する。なお、以下の条件は製造業者がスタンダード1として提示しているものである。
【0018】
【表1】


【0019】
図1の粘度−時間図に従って、糊化粘度測定結果に関する用語を説明する。
澱粉の懸濁液には殆ど粘度が無いが、測定を開始後、加熱し、徐々に温度を上げていくと、澱粉粒が吸水・膨潤し、懸濁液は澱粉糊液に変化し、粘度が上昇する。更に加熱すると、多くの澱粉糊液は最高粘度に達し、その後は減少に転ずる。その時の最高粘度を「ピーク粘度」という。また、ピーク粘度に達した後に減少に転ずる粘度の低下現象を「ブレークダウン」という。
続いて、ブレークダウンにより粘度の低下した澱粉糊液を、これまでとは逆に徐々に冷却すると、粘度は徐々にではあるが再度上昇に転ずる。この最低粘度、即ち再上昇開始時点での粘度を「保持粘度」という。また、保持粘度に達した後に上昇に転ずる粘度の上昇現象を「セットバック」という。
また、「ブレークダウン幅」は(ピーク粘度−保持粘度)を意味し、「セットバック幅」は(最終粘度−保持粘度)を意味する。
【0020】
全ての澱粉にブレークダウンが認められるわけではなく、例えば架橋澱粉はブレークダウンが認められない(即ち、無い)場合がある。架橋澱粉に関して後の原料の項で詳述する。
【0021】
B.原料
(1)原料澱粉
混合前の原料澱粉としては、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、サゴ澱粉などの市販の澱粉いずれもが使用できる。また、これらの澱粉に酸化処理を含む次亜塩素酸ソーダ処理、酸処理、エーテル化、エステル化、架橋処理、湿熱処理などを施した所謂化(加)工澱粉も使用できる。複数の処理を施したものも使用できる。また上記の澱粉を組合せて使用してもよい。
【0022】
原料澱粉の溶解度は、好ましくは、20重量%以下である。
原料澱粉の溶解度が20重量%を超えると、原料澱粉と食用油脂等との混合物を加温してスラリー粘度や溶解度を調整したときに、溶解度の調整が難しく、30重量%を超えてしまう可能性が高くなるからである。
【0023】
原料澱粉として、好ましくは、架橋処理を施した澱粉、所謂架橋澱粉を使用する。架橋澱粉は、オキシ塩化リン、トリメタリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、無水アジピン酸などの従来から使用されてきた架橋剤を用いて澱粉を架橋することによって得られる。
架橋澱粉を使用することで、原料澱粉のスラリー粘度と溶解度を同時に調整して、糊化粘度に関する特定条件を満たすものを作り出すことが容易となる。特にその効果は原料澱粉中の架橋澱粉を50重量%以上含む場合に飛躍的に現れる。
好ましい架橋剤はオキシ塩化リンである。反応効率が高く、溶解度が20重量%以下の架橋澱粉の製造が容易であるからである。
【0024】
(2)食用油脂、乳化剤
油脂加工澱粉の調整に用いる食用油脂としては、食用として認められている油脂、また、これらの調合油であればいずれをも用いることができる。
例えば、アマニ油、エゴマ油、くるみ油、サフラワー油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、なたね油、落花生油、オリーブ油、パーム油、やし油などの植物油脂や、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油、魚油などの動物油脂や、またこれらの分別油、エステル交換油等の加工油脂が挙げられる。
【0025】
好ましい食用油脂は植物油脂である。常温で液体のものが多く、ハンドリング性に優れ、動物油脂のような独特の臭いも少ないからである。
食用油脂のヨウ素価は、好ましくは130以上である。対応するものに、アマニ油、エゴマ油、くるみ油、サフラワー油、ぶどう油、大豆油などがある。
原料澱粉に食用油脂や乳化剤(以下、「食用油脂等」と略記。)を添加・混合して油脂加工澱粉を製造するときに、スラリー粘度と溶解度の同時調整が一層容易になるからである。
【0026】
また、乳化剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンなどが挙げられる。またこれらの組合せでもよい。
乳化剤は、ヨウ素価が好ましくは30以上、より好ましくは60以上のものである。スラリー粘度と溶解度の同時調整が容易になるからである。
【0027】
食用油脂と乳化剤は、好ましくは両方同時に含ませる。食用油脂を添加したのみでは、得られる油脂加工澱粉を水に溶いてバッターとしたときに、水解けが悪く、ダマが出来安い傾向があるからである。一方、乳化剤を添加したのみでは、得られる油脂加工澱粉を水に溶いてバッターとしたときに、適度な粘性を付与できない場合があるからである。また、そのバッターを用いて製造した揚げ物食品が 油揚げした後の種物と衣との間に良好な結着性を保ち難い傾向もあるからである。
【0028】
食用油脂と乳化剤の配合比率(重量)は、好ましくは9:1〜1:1、より好ましくは4:1〜1:1である。
このような配合比率にすることにより、上記した食用油脂と乳化剤の配合効果が実効性をもって得られるからである。
【0029】
原料澱粉に対して食用油脂等を、好ましくは0.01〜1.0重量%添加する。
添加量が0.01重量%未満であると、加熱しても40重量%濃度でのスラリー粘度を200cP以上にもってくることが困難であり、また、溶解度の変化も生じ難い。従って、水に溶いてバッターとした時に適度な粘性と溶解度が同時に得られ難くなる可能性があるからである。
一方、添加量が1.0重量%超であると、当該油脂加工澱粉の粉体流動性が損なわれ、その製造、使用が困難になる可能性があるからである。
【0030】
C.製造方法
油脂加工澱粉は、原料澱粉に上記した食用油脂等を添加し、混合することにより所定の範囲のスラリー濃度及び溶解度を満たすものとして得られる。
好ましくは、混合物を40℃以上に加温する。油脂加工澱粉に関しては、スラリー粘度や溶解度の変化度合いは温度に依存することから、加温することで調整し易くなる。加温状態は1段階で与えても、2段階以上に分けて与えてもよい。なお、混合中に加温すると混合物が乾燥された状態において強いせん断力が原料澱粉に掛かることになるので、粉塵爆発等の危険が高まる。従って、混合後に加温するのが好ましい。
【0031】
D.用途
上記のようにして得られた油脂加工澱粉は、揚げ物用衣材としてそのまま打ち粉やまぶし粉としても用いたり、水溶きしてバッターとしても用いたりできる。
なお、必要に応じて当該油脂加工澱粉に、通常、揚げ物食品の衣材に使用されている材料を混合して揚げ物用衣材としても良いことは言うまでもない。ここで言う通常揚げ物食品の衣材に使用されている材料とは、穀粉、天然ガム、膨張剤、蛋白質、澱粉分解物及び当該還元物、油脂類、乳化剤、色素、調味料、ビタミンE、食塩などが挙げられ、必要に応じて適宜用いることができる。
但し、当該油脂加工澱粉の含有量は、30重量%以上であることが好ましく、そうすることで、結着性、耐パンク性、食感の改善効果が顕著となる。
また、揚げ物食品の具材には特に制約はなく、一般に揚げ物食品に使用される野菜類、魚介類、肉類などが使用できるし、衣材だけを油揚げして作られる揚げ玉にも使用できる。
更に、本発明の油脂加工澱粉を衣材として使用した揚げ物食品は、特に限定されず、衣を付けた後、冷凍し、所要時に油揚げするものでも、油揚げした後に冷凍し、電子レンジ等で再加熱するものでもよい。
【0032】
【実施例】
以下、本発明について試験例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限られるものではない。
【0033】
実施例1
A.油脂加工澱粉の製造
原料澱粉に大豆油(食用油脂)及び乳化剤を添加し、卓上ミキサー及びジューサーミキサーを用いて均一になる様に良く混合した後、ビニール袋に詰めて80℃の加温状態下に置き、スラリー粘度及び溶解度の経時変化を観察し、スラリー粘度及び溶解度が任意の値となった時点で加温を停止して、油脂加工澱粉を得た。
【0034】
B.全体の結果
結果をまとめて表2と表3に示す。
【表2】


【0035】
【表3】


【0036】
ここで、リン酸架橋タピオカ澱粉は、タピオカ澱粉にオキシ塩化リンを用いて架橋処理を行った澱粉のことであり、溶解度が6.4である。また、乳化剤は、グリセリン脂肪酸エステルである。
【0037】
C.詳細な比較・検討
(1)原料澱粉の溶解度と原料澱粉の溶解度との関係
▲1▼比較例
【表4】


【0038】
▲2▼検討
以上の結果より、原料澱粉の溶解度が20重量%を超えると、目的の油脂加工澱粉の40重量%濃度でのスラリー粘度を200cP以上に調整したときの、溶解度が30重量%を超えてしまう傾向があることが分かった。
【0039】
(2)架橋澱粉と糊化粘度に関する特定条件との関係
▲1▼比較例
【表5】


【0040】
▲2▼検討
以上の結果より、架橋澱粉を使用すると、糊化粘度に関する特定条件を満たし易いことが分かった。特にその効果は原料澱粉中の架橋澱粉を50重量%以上含む場合に現れ、さらには全量を架橋澱粉とすると顕著であることが分かった。
【0041】
実施例2
A.とんかつ(揚げ物食品)の製造
実施例1で得られた油脂加工澱粉試料に、それぞれ40重量%濃度となるように氷冷水を加え、混合してバッターを調製し、冷凍豚肉にこのバッターを付けた後、更にパン粉を付けた。その後、一昼夜凍結保存した後、175℃に加熱したサラダ油で5分間油揚げしてとんかつを得た。
【0042】
B.評価手法
評価はバッターの状態、結着性及び耐パンク性、食感について行った。
評価手法を以下に示す。
バッターの状態評価:氷冷水を加え、混合してバッターを調製した時に ダマの発生を、冷凍豚肉にこのバッターを付着させた時にバッターの粘性を、また、冷凍豚肉にこのバッターを付着させる作業中を通して粘性の安定性を評価した。
結着性及び耐パンク性評価:油揚げ終了後5分間経過した後に、衣のパンクの有無を確認するとともに7等分にカットし、カット面での結着性を目視で評価した。
食感評価:以下の4通りの試験区により評価した。なお、1試験区につき調製したとんかつは10枚で、パネラー10名で官能検査を行った。そして、各パネラーから得られた得点を平均し評価点とした。
試験区1:油揚げ終了後5分間経過した後にカットし評価した。
試験区2:油揚げ終了後 室温に5時間静置した後にカットし評価した。
試験区3:油揚げ終了後 一昼夜凍結保存し、電子レンジを用いて加温し、加温終了後5分間経過した後にカットし評価した。
試験区4:油揚げ終了後 一昼夜凍結保存し、電子レンジを用いて加温し、加温終了後5時間経過した後にカットし評価した。
【0043】
評価基準は表6に示す。
なお、市販品としての合格ラインは評価点1と評価点2との間にあり、評価点が2以上であれば合格である。
【表6】


【0044】
C.全体の結果
評価結果を表7に示す。
【表7】


【0045】
D.詳細な比較・検討
(1)スラリー粘度とバッターの状態および結着性等との関係
▲1▼比較例
【表8】


【0046】
▲2▼検討
以上の結果より、油脂加工澱粉を含む揚げ物用衣材を使用し、揚げ物食品を製造するに際し、油脂加工澱粉の40重量%濃度でのスラリー粘度が200cP以上であることにより、水に溶いてバッターとした時に適度な粘性が得られ、油揚げした後の種物と衣の間に良好な結着性を保つことが分かった。
また、油脂加工澱粉の40重量%濃度でのスラリー粘度が1500cP以上であると、水に溶いてバッターとした時に得られる粘性が過剰となり、種物へのバッターの付着量を調節し難くなることが分かった。
【0047】
(2)油脂加工澱粉の溶解度と結着性等及び食感との関係
▲1▼比較例
【表9】


【0048】
▲2▼検討
以上の結果より、油脂加工澱粉の溶解度が10重量%以下では、衣がサクサクとソフトで口当りが良い食感は得られるものの、澱粉の粉っぽい食感も同時に感じることもあり、場合によっては油揚げした後の種物と衣の間の結着性が失われ得ることが分かった。
また、油脂加工澱粉の溶解度が30重量%以下であることにより、油揚げした後の種物と衣の間に良好な結着性を保ち、衣がサクサクとソフトで口当りが良い食感が得られることが分かった。
【0049】
(3)糊化粘度に関する特定条件と食感との関係
▲1▼比較例
【表10】


【0050】
▲2▼検討
以上より、糊化粘度に関する特定条件を満たす場合には、ヌメリや弾力性も残っておらず、飛躍的に良い食感が得られることが分かった。
特に、ブレークダウンが無く、最終粘度が400〜1200cPの場合には粉っぽさや弾力性が完全に払拭できた。
【0051】
(4)食用油脂等の添加量とバッターの状態や結着性等との関係
▲1▼比較例
【表11】


【0052】
▲2▼検討
食用油脂等の添加量が0.01重量%以上であることで、水に溶いてバッターとした時に適度な粘性が得られ、また、油揚げした後の種物と衣の間に良好な結着性を保つことが分かった。
また、食用油脂等の添加量が1.0重量%を超えると、水に溶いてバッターとした時に適度な粘性が得られ、また、油揚げした後の種物と衣の間に良好な結着性を保っているものの、当該油脂加工澱粉の粉体流動性は損なわれ、その製造、使用は容易とは言えないことが分かった。
更に、食用油脂を添加したのみでは、水に溶いてバッターとした時に、水解けが悪く、ダマが出来安い傾向があり、また、乳化剤を添加したのみでは、得られたバッターに適度な粘性が得られないこと、また、それを用いて製造した揚げ物食品が油揚げした後の種物と衣との間に良好な結着性を保ち難いなどの問題があることが分かった。
食用油脂と乳化剤の配合比率が、9:1〜1:1のときに水に溶いてバッターとした時に適度な粘性が得られ、また、油揚げした後の種物と衣の間に良好な結着性を保つことが分かった。
【0053】
実施例3
A.とんかつの(揚げ物食品)の製造
油脂加工を施したリン酸架橋タピオカ澱粉(試料1)に薄力粉を混合した後、それぞれ40重量%濃度となるように氷冷水を加え、混合してバッターを調製し、以降、機能評価試験1と同様に、バッターの状態、結着性 及び 耐パンク性、食感について評価を行った。結果を表12に示す。
【0054】
B.全体の結果
【表12】


【0055】
C.検討
以上の結果より、揚げ物用衣材に特定のスラリー粘度及び溶解度の条件を同時に満たす油脂加工澱粉を使用することで、結着性、耐パンク性及び食感が改善されること、特に油脂加工澱粉の含有量が30重量%以上の場合にはそれらの改善効果が顕著であることが分かった。
【0056】
実施例4
A.油脂加工澱粉の製造
原料澱粉に食用油脂及び乳化剤(食用油脂:乳化剤=1:1(重量比))を合計で0.1重量%添加し、卓上ミキサー及びジューサーミキサーを用いて均一になる様に良く混合した後、ビニール袋に詰めて常温(20〜30℃)、50℃、80℃で、100日間を上限として加温状態下に置き、必要となる加温期間、スラリー粘度、溶解度を観察した。
【0057】
B.全体の結果
結果を表13に示す。
【表13】


【0058】
C.検討
以上の結果より、加温することにより、目的の油脂加工澱粉の40重量%濃度でのスラリー粘度を200cP以上で、且つ溶解度を指定の範囲に調節する為に要する期間を短縮することが出来るとともに、スラリー粘度及び溶解度を任意の値に調節できることが分かった。
また、ヨウ素価130以上の食用油脂を用いることによって、130未満のものを用いた場合に比較してその調節期間を短縮することができ、更に調節時の温度を下げることができることが分かった。
【0059】
【発明の効果】
本発明の40重量%濃度のスラリー粘度が200cP以上で、且つ溶解度が30重量%以下の油脂加工澱粉を揚げ物用衣材として使用すると、各種の要望を高確率でバランス良く、且つ高次元に満たす。特に、食感と結着性と作業性を顕著に改善できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】各種澱粉の粘度−時間図である。
【出願人】 【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
【出願日】 平成15年8月29日(2003.8.29)
【代理人】 【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司

【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子

【公開番号】 特開2005−73506(P2005−73506A)
【公開日】 平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願番号】 特願2003−209719(P2003−209719)