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【発明の名称】 水性セラック皮膜剤とその製造方法及び該皮膜剤を用いたコーティング食品とその製造方法並びにコーティング医薬品とその製造方法
【発明者】 【氏名】菖蒲 智之
【住所又は居所】静岡県浜松市新都田1丁目2番2号 フロイント産業株式会社浜松事業所内

【氏名】井草 一夫
【住所又は居所】静岡県浜松市新都田1丁目2番2号 フロイント産業株式会社浜松事業所内

【氏名】小笠原 利近
【住所又は居所】静岡県浜松市新都田1丁目2番2号 フロイント産業株式会社浜松事業所内

【要約】 【課題】腸溶性、耐酸性、マスキング性、防湿性、光沢性、安定性に優れた水性のセラック皮膜剤、およびそれを用いたコーティング食品とコーティング医薬品の提供。

【解決手段】本発明は、セラックに塩基性アミノ酸および/または塩基性リン酸塩を含有せしめたことを特徴とする水性セラック皮膜剤とその製造方法、該皮膜剤によってコーティングされたコーティング食品及びコーティング医薬品を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラックに塩基性アミノ酸および/または塩基性リン酸塩を含有せしめたことを特徴とする水性セラック皮膜剤。
【請求項2】
前記塩基性アミノ酸がアルギニン、リシン、オルニチンからなる群から選択される1種又は2種以上である請求項1記載の水性セラック皮膜剤。
【請求項3】
前記塩基性リン酸塩がリン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸四カリウムからなる群から選択される1種または2種以上である請求項1または2記載の水性セラック皮膜剤。
【請求項4】
塩基性アミノ酸の添加量がセラック1質量部に対して0.05〜0.40質量部である請求項1または2記載の水性セラック皮膜剤。
【請求項5】
塩基性リン酸塩の添加量がセラック1質量部に対して0.04〜0.60質量部である請求項1または3記載の水性セラック皮膜剤。
【請求項6】
脂肪族ポリオール、脂肪酸エステル、水溶性の糖、クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール、乳酸ナトリウムからなる群から選択される1種または2種以上をさらに含有せしめた請求項1〜5のいずれかに記載の水性セラック皮膜剤。
【請求項7】
前記脂肪族ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコール、糖アルコールからなる群から選択される1種または2種以上である請求項6に記載の水性セラック皮膜剤。
【請求項8】
前記糖アルコールが、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、パラチニット、ラクチトールからなる群から選択される1種または2種以上である請求項7に記載の水性セラック皮膜剤。
【請求項9】
前記脂肪酸エステルが、ショ糖脂肪酸エステル、モノ/ジ/トリ/ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベートからなる群から選択される1種または2種以上である請求項6に記載の水性セラック皮膜剤。
【請求項10】
前記水溶性の糖が、トレハロース、オリゴ糖、マルトース、ガラクトース、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、果糖からなる群から選択される1種または2種以上である請求項6に記載の水性セラック皮膜剤。
【請求項11】
セラックと塩基性アミノ酸溶液、塩基性リン酸塩溶液または塩基性アミノ酸と塩基性リン酸塩の混合溶液とを混合し、セラックが安定に溶解又は分散した水性セラック皮膜剤溶液を作製し、必要に応じて該溶液を濃縮又は乾燥させることを特徴とする水性セラック皮膜剤の製造方法。
【請求項12】
セラックを酸性物質の溶液に分散させ、次いで該溶液に塩基性アルカリ金属塩を加え、セラックが安定に溶解又は分散した水性セラック皮膜剤溶液を作製し、必要に応じて該溶液を濃縮又は乾燥させることを特徴とする水性セラック皮膜剤の製造方法。
【請求項13】
前記塩基性アルカリ金属塩溶液が、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩または重炭酸塩からなる群から選択される1種または2種以上である請求項12に記載の水性セラック皮膜剤の製造方法。
【請求項14】
前記酸性物質が、リン酸、ポリリン酸からなる群から選択される1種または2種以上である請求項12または13に記載の水性セラック皮膜剤の製造方法。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれかに記載の水性セラック皮膜剤の製造方法において、前記水性セラック皮膜剤溶液に不活性ガスを通して溶液中ガス置換を行う不活性ガス処理工程を含むことを特徴とする水性セラック皮膜剤の製造方法。
【請求項16】
前記不活性ガスが、窒素、アルゴン、ヘリウムからなる群から選択される1種または2種以上のガスである請求項15に記載の水性セラック皮膜剤の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれかに記載の水性セラック皮膜剤により食品がコーティングされたことを特徴とするコーティング食品。
【請求項18】
請求項1〜10のいずれかに記載の水性セラック皮膜剤を主成分として含む層と、それ以外の皮膜剤を主成分として含む層とによって多層コーティングされたことを特徴とするコーティング食品。
【請求項19】
前記それ以外の皮膜剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、セラック、ゼイン、酵母細胞壁由来成分、水溶性多糖、油脂、ワックス、ロウ、キトサンからなる群から選択される1種または2種以上である請求項18に記載のコーティング食品。
【請求項20】
請求項1〜10のいずれかに記載の水性セラック皮膜剤を1〜50質量%含む皮膜剤溶液により食品をコーティングしてコーティング食品を得る工程を備え、得られるコーティング食品中のセラック固形分の含有量が0.1〜50質量%であることを特徴とするコーティング食品の製造方法。
【請求項21】
請求項1〜10のいずれかに記載の水性セラック皮膜剤により医薬品がコーティングされたことを特徴とするコーティング医薬品。
【請求項22】
請求項1〜10のいずれかに記載の水性セラック皮膜剤及び医薬成分を含有する皮膜により医薬品がコーティングされたことを特徴とするコーティング医薬品。
【請求項23】
請求項1〜10のいずれかに記載の水性セラック皮膜剤を主成分として含む層と、それ以外の皮膜剤を主成分として含む層とによって多層コーティングされたことを特徴とするコーティング医薬品。
【請求項24】
請求項1〜10のいずれかに記載の水性セラック皮膜剤及び医薬成分を含む層と、それ以外の皮膜剤を主成分として含む層とによって多層コーティングされたことを特徴とするコーティング医薬品。
【請求項25】
前記それ以外の皮膜剤が、メタアクリル酸コポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルセルロース、エチルセルロース、セラック、ゼイン、酵母細胞壁由来成分、水溶性多糖、油脂、ワックス、ロウ、キトサンからなる群から選択される1種または2種以上である請求項23または24に記載のコーティング医薬品。
【請求項26】
請求項1〜10のいずれかに記載の水性セラック皮膜剤を1〜50質量%含む皮膜剤溶液により医薬品をコーティングしてコーティング医薬品を得る工程を備え、得られるコーティング医薬品中のセラック固形分の含有量が0.1〜50質量%であることを特徴とするコーティング医薬品の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、腸溶性、耐酸性、マスキング性、防湿性、光沢性、安定性に優れた水性のセラック皮膜剤とその製造方法及び該皮膜剤でコーティングされたコーティング食品とその製造方法並びにコーティング医薬品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラック(シェラック)は、インド、タイ、中国南部において主に生産され、豆科、桑科等の灌木に寄生するラックカイガラムシの分泌物から得られる樹脂状物質である。セラックはアレウリチン酸とシェロール酸またはアレウリチン酸とジャラール酸などの樹脂酸のエステルを主成分とする天然物である。セラックは食品添加物公定書をはじめ日本薬局方、米国薬局方および欧州薬局方等に収載されており、食品添加物公定書においてはシェラックの名称で収載され、日本薬局方においては精製して得られるものは精製セラック、さらに漂白して得られるものは白色セラックの名称でそれぞれ収載されている。セラックは皮膜形成性を有することから、天然物由来の安全性の高い可食性皮膜剤として菓子類、医薬品類の錠剤等のコーティング、種子、果実のコーティング等をはじめ、塗料やインキなどの原料などとして広く利用されている。セラックは、精製の程度により得られる皮膜の色調が異なり、通常の精製セラックによる皮膜は黒褐色を呈し、さらに脱色処理などを施した脱色セラック、白色セラックにより得られる皮膜は淡黄色または微黄色であるため、目的、用途に応じて適宜使い分けられている。食品、医薬品などでは外観が重要視されることが多いため、皮膜剤としては専ら脱色セラック、白色セラックが用いられている。セラックの皮膜剤としての利用方法としては、セラックをエタノールなどのアルコール等の溶剤に溶解させた液剤として用いることが最も一般的である。
【0003】
前記セラックを食品や医薬品にコーティングする方法としては、錠剤などの被コーティング物質をセラックのアルコール溶解液に浸漬した後に乾燥させて、対象物質の表面に皮膜を形成する方法や、冷風または温風通気雰囲気中で該セラック溶解液を被コーティング物質にスプレーし皮膜を形成する方法などがある。このように得られた皮膜は、腸溶性、耐酸性、光沢性、防湿性などの特徴を有しており、
・酸不耐性酵素、乳酸菌類の胃酸での失活防止および腸溶性の付与、
・ビタミン剤などの苦味物質の味マスキング、
・糖類などの吸湿防止、潮解性物質の防湿、
などに用いられている。
しかしながら、セラックのアルコール溶解液をコーティングに用いた場合、コーティング時に粘着性の増加により糸曳きを生じる問題がある。これにより、例えば錠剤にコーティングした場合、フィルムに部分的な剥離を生じるために、仕上がった錠剤の外観が著しく劣る結果となり、不良品が生じやすい。さらに前記方法では製品生産のために多量の有機溶媒を用いることによって、作業場の防災設備等にかかるコスト、作業者の健康管理対策や環境汚染防止対策などを実施するためのコストがかさむ問題がある。
また、セラックの皮膜特性として、経時的に皮膜が変質する現象があり、そのために腸溶性の皮膜剤として用いた場合には、経時的に腸溶性を失い、腸内で不溶性となってしまう重大な欠点があった。
【0004】
従来より、前述したセラックに係る問題を回避するために、例えば以下のような提案がなされてきた。
(1)コーティング時に発生する糸曳きの問題については、植物油類、動物油類、ワックス類などを併用することにより回避することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
(2)セラックの溶解液に有機溶媒を使用しない方法については、水酸化ナトリウムに代表されるアルカリ金属の水酸化物やアンモニアにより水性化する方法が一般的であり、アンモニア水によるセラックの水性の溶解液から耐油コーティング膜を得ることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
(3)経時的な皮膜の変質を抑制する方法としては、トコフェロールを併用することが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開平8−311405号公報
【特許文献2】特開2002−1864号公報
【特許文献3】特開昭55−162715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記(1)および(3)の方法では、依然として有機溶媒の使用に伴う問題が残されている。また(2)の方法では、アンモニア水を用いた場合、この皮膜は経時的に容易に変色、変質するという欠点がある。また、水酸化ナトリウムによる水性のセラック溶解液を錠剤のコーティングに用いた場合、該コーティング皮膜は、脱色処理を施したセラックを用いた場合であっても褐色ないし赤褐色の皮膜となり、コーティングを施した食品および医薬品の商品価値の低下を招くという重大な問題を生じる可能性がある。またコーティング時においては、糸曳きによる作業性の低下が問題となり、特に白色セラックを用いた場合の糸曳きは顕著であり、生産者の負担増を招いている。
さらに、得られたコーティング錠の腸溶性については、(1)および(3)の方法では、耐胃液性と腸液崩壊性の両方の機能性を有するコーティング膜を同時に得ることが困難であり、(2)の方法において、例えば水酸化ナトリウムによるセラックの溶解液を使用した場合、胃内において胃液の浸透により錠剤がかなり膨潤し内容物の漏出を招いたり、甚だしい場合には胃内で錠剤が崩壊してしまい、腸溶性としての機能を果たせないことがあった。
【0006】
前述したように、セラックの皮膜基剤としての課題を解決するための多くの手段がこれまで検討されてきているが、これらの技術を組み合わせたとしても、新たな問題を生じることなくこれらの問題を解消するには至っておらず、セラックにおける前述した問題の解消が切望されていた。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、腸溶性、耐酸性、マスキング性、防湿性、光沢性、安定性に優れた水性のセラック皮膜剤とその製造方法及び該皮膜剤でコーティングされたコーティング食品並びにコーティング医薬品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、セラックに塩基性アミノ酸および/または塩基性リン酸塩を含有せしめたことを特徴とする水性セラック皮膜剤を提供する。
本発明の水性セラック皮膜剤において、前記塩基性アミノ酸はアルギニン、リシン、オルニチンからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
また、前記塩基性リン酸塩はリン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸四カリウムからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
また本発明の水性セラック皮膜剤において、塩基性アミノ酸の添加量はセラック1質量部に対して0.05〜0.40質量部であることが好ましい。
さらに、塩基性リン酸塩の添加量はセラック1質量部に対して0.04〜0.60質量部であることが好ましい。
また本発明の水性セラック皮膜剤において、脂肪族ポリオール、脂肪酸エステル、水溶性の糖、クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール、乳酸ナトリウムからなる群から選択される1種または2種以上をさらに含有せしめてもよい。 前記脂肪族ポリオールとしては、グリセリン、プロピレングリコール、糖アルコールからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。前記糖アルコールとしては、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、パラチニット、ラクチトールからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
前記脂肪酸エステルとしては、ショ糖脂肪酸エステル、モノ/ジ/トリ/ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベートからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
前記水溶性の糖としては、トレハロース、オリゴ糖、マルトース、ガラクトース、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、果糖からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0009】
また本発明は、セラックと塩基性アミノ酸溶液、塩基性リン酸塩溶液または塩基性アミノ酸と塩基性リン酸塩の混合溶液とを混合し、セラックが安定に溶解又は分散した水性セラック皮膜剤溶液を作製し、必要に応じて該溶液を濃縮又は乾燥させることを特徴とする水性セラック皮膜剤の製造方法を提供する。
さらに本発明は、セラックを酸性物質の溶液に分散させ、次いで該溶液に塩基性アルカリ金属塩を加え、セラックが安定に溶解又は分散した水性セラック皮膜剤溶液を作製し、必要に応じて該溶液を濃縮又は乾燥させることを特徴とする水性セラック皮膜剤の製造方法を提供する。
本発明の水性セラック皮膜剤の製造方法において、前記塩基性アルカリ金属塩溶液は、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩または重炭酸塩からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
また前記酸性物質は、リン酸、ポリリン酸からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
また本発明の水性セラック皮膜剤の製造方法において、前記水性セラック皮膜剤溶液に不活性ガスを通して溶液中ガス置換を行う不活性ガス処理工程を含むことが好ましい。
前記不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムからなる群から選択される1種または2種以上のガスであることが好ましい。
【0010】
また本発明は、前記水性セラック皮膜剤により食品がコーティングされたことを特徴とするコーティング食品を提供する。
さらに本発明は、水性セラック皮膜剤を主成分として含む層と、それ以外の皮膜剤を主成分として含む層とによって多層コーティングされたことを特徴とするコーティング食品を提供する。
前記それ以外の皮膜剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、セラック、ゼイン、酵母細胞壁由来成分、水溶性多糖、油脂、ワックス、ロウ、キトサンからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0011】
また本発明は、水性セラック皮膜剤を1〜50質量%含む皮膜剤溶液により食品をコーティングしてコーティング食品を得る工程を備え、得られるコーティング食品中のセラック固形分の含有量が0.1〜50質量%であることを特徴とするコーティング食品の製造方法を提供する。
【0012】
また本発明は、前記水性セラック皮膜剤により医薬品がコーティングされたことを特徴とするコーティング医薬品を提供する。
さらに本発明は、水性セラック皮膜剤及び医薬成分を含有する皮膜により医薬品がコーティングされたことを特徴とするコーティング医薬品を提供する。
また本発明は、水性セラック皮膜剤を主成分として含む層と、それ以外の皮膜剤を主成分として含む層とによって多層コーティングされたことを特徴とするコーティング医薬品を提供する。
さらに本発明は、水性セラック皮膜剤及び医薬成分を含む層と、それ以外の皮膜剤を主成分として含む層とによって多層コーティングされたことを特徴とするコーティング医薬品を提供する。
前記それ以外の皮膜剤としては、メタアクリル酸コポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルセルロース、エチルセルロース、セラック、ゼイン、酵母細胞壁由来成分、水溶性多糖、油脂、ワックス、ロウ、キトサンからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0013】
また本発明は、前記水性セラック皮膜剤を1〜50質量%含む皮膜剤溶液により医薬品をコーティングしてコーティング医薬品を得る工程を備え、得られるコーティング医薬品中のセラック固形分の含有量が0.1〜50質量%であることを特徴とするコーティング医薬品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、取扱い、品質および安定性に優れた水性セラック皮膜剤、および該皮膜剤によりコーティングしたコーティング食品並びにコーティング医薬品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明者らは前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、セラックに、塩基性アミノ酸および/または塩基性リン酸塩を添加することにより、前述した従来技術が抱える課題を解消した水性セラック皮膜剤が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は中性領域あるいは酸性領域では水に不溶なセラックを塩基性アミノ酸および/または塩基性リン酸塩の存在下で水に溶解または部分的に溶解させた組成物からなる水性の皮膜剤および該皮膜剤によりコーティングした食品および医薬品に関するものである。
【0016】
本明細書において、「水性」とは、そのセラック皮膜剤が水に溶解または分散する性質を有すること、すなわちセラック皮膜剤が水溶性または水分散性であることを意味している。
また「水性化」とは、精製セラック、脱色セラック、白色セラックなどの中性領域あるいは酸性領域では水に不溶なセラックが、アルギニン等の塩基性アミノ酸および/またはリン酸三ナトリウム等の塩基性リン酸塩を添加することにより、前記「水性」の性質を獲得することを意味する。
また「塩基性リン酸塩」とは、水溶液が塩基性を示すリン酸塩を意味する。
また「皮膜剤」とは、食品製造分野および製薬分野等で用いられている皮膜剤のみに限定されず、各種分野において種々の物品に皮膜を形成するために使用される皮膜剤(皮膜形成剤、コーティング剤などとも称される)を意味する。
また「コーティング」とは、食品や医薬品等の被コーティング物の表面に、本発明の皮膜剤を塗布し、該皮膜剤によって被コーティング物の表面の少なくとも一部を被覆することを意味する。また、コーティングは必ずしも被コーティング物の最外層になくても良く、コーティング皮膜上にオーバーコートを施したり、コーティング物をカプセルなどに充填した形態としても良い。
また「食品」とは、ヒト及び動物が摂食可能なあらゆるタイプの食品を意味する。本発明において「食品」には、菓子類などの一般食品に加え、耐胃酸性及び腸液崩壊性のコーティングを有していることから、健康食品をコーティングして得られるコーティング健康食品をも包含する。具体的には、乳酸菌、ナットウキナーゼ、ローヤルゼリー、ラクトフェリンなど、胃酸で成分が失効、変質することなく、腸内で吸収されることが望ましい健康食品において、本発明の皮膜剤が腸溶性の付与に好ましく適用される。
また「医薬品」とは、ヒト及び動物に対して投与されるあらゆるタイプの医薬品を意味する。医薬品に含まれる主剤として次のような薬剤が挙げられる。
【0017】
例えば、消化器系薬剤としては、2−{〔3−メチル−4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−2−ピリジル〕メチルスルフィニル}ベンズイミダゾール及び5−メトキシ−2−〔(4−メトキシ−3,5−ジメチル−2−ピリジル)メチルスルフィニル〕ベンズイミダゾール等の抗潰瘍作用を有するベンズイミダゾール系薬物、シメチジン、ラニチジン、パンクレアチン、ビサコジル、5−アミノサリチル酸等が挙げられる。
中枢神経系薬物としては、アスピリン、インドメタシン、ジアゼパム、イデベノン、イブプロフェン、パラセタモール、ナプロキセン、ピロキシカム、ジクロフェナック、スリンダック、ロラゼパム、ニトラゼパム、フェニトイン、アセトアミノフェン、エテンザミド、ケトプロフェン等が挙げられる。
循環器系薬物としては、モルシドミン、ビンポセチン、プロプラノロール、メチルドパ、ジピリダモール、フロセミド、トリアムテレン、ニフェジピン、アテノロール、スピロノラクトン、メトプロロール、ピンドロール、カプトプリル、硝酸イソソルビド等が挙げられる。
呼吸器系薬物としては、テオフィリン、アムレキサノクス、デキストロメトルファン、プソイドエフェドリン、サルブタモール、グアイフェネシン等が挙げられる。
抗生物質及び化学療法剤として、セファレキシン、セファクロール、セフラジン、アモキシシリン、ピバンピシリン、バカンピシリン、ジクロキサシリン、エリスロマイシン、エリスロマイシンステアレート、リンコマイシン、ドキシサイクリン、トリメトプリム/スルファメトキサゾール等が挙げられる。
代謝系薬物としては、セラペプターゼ、塩化リゾチーム、アデノシントリフォスフェート、グリベンクラミド、塩化カリウム等が挙げられる。
ビタミン系薬品としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、フルスルチアミン等が挙げられる。
これらはいずれも胃酸により失効しやすい薬物や、胃への副作用を有するために腸内で崩壊し吸収されることが望ましい薬物を含む医薬品において本発明の皮膜剤が効果的に腸溶性を付与するものとして、好ましく適用される。前記以外の医薬品であっても、腸溶性を目的として製剤中に配合される薬物を主剤とする医薬品であれば特に限定されるものではない。
【0018】
本発明で使用されるセラックとしては、従来公知である各種セラックの中から適宜選択することができ、例えば精製セラック、脱色セラック、白色セラックなどとして市販されているものの中から選択して使用することができる。コーティング皮膜の色調を考慮すると、これらのセラックの中でも、脱色セラックおよび白色セラックが好ましい。
【0019】
本発明において、セラックに塩基性アミノ酸および/または塩基性リン酸塩を添加して水性化を実施するが、この場合、セラックを完全に水に溶解させる必要はなく、未溶解のセラック粒子が残存していても、それが微粒子である限り、均一な皮膜形成において余り問題とならない。
【0020】
ここで使用する塩基性アミノ酸としては、好ましくはアルギニン、リシン、オルニチン、ヒドロキシリシン、ヒスチジン等の従来公知の塩基性アミノ酸を用いることができ、より好ましくはアルギニン、リシン、オルニチンからなる群から選択される1種または2種以上を挙げることができ、さらにコーティング作業性の点から、アルギニンを用いることが特に好ましい。一方、ポリリシン等の塩基性アミノ酸の高分子化合物については、セラックの水性化はほとんどなされないため単独で用いることはできない。
【0021】
塩基性リン酸塩としては、食品製造上または製薬上許容される塩基性リン酸塩を用いることができ、好ましくはリン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸四カリウムからなる群から選択される1種または2種以上を挙げることができる。なお、リン酸二水素ナトリウムなどの弱酸性の塩のみでは、セラックの水性化は困難であった。
【0022】
本発明において、塩基性アミノ酸および塩基性リン酸塩は、それぞれ単独でセラックに添加することができる他、皮膜剤の目的、用途に応じてそれぞれを組み合わせて用いることもできる。また塩基性アミノ酸および塩基性リン酸塩以外の塩基性物質、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの食品製造上および製薬上許容される塩基性物質を組み合わせて用いてもよい。しかし、本発明で用いる塩基性アミノ酸および塩基性リン酸塩以外の水酸化ナトリウムなどの塩基性物質のみで脱色セラックを水性化した場合、得られる皮膜は褐色ないし赤褐色を呈し、本来の脱色セラックによる皮膜の色調とは明らかに乖離している。アルカリ可溶性の皮膜剤として、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどのエーテル結合からなるセルロース誘導体などが従来公知であるが、これらを水性化した液剤から得られる皮膜の色調については、水性化に用いた塩基性物質による差異は大きくなかった。このようにセラックの場合においてのみ、水性化に用いた塩基性物質の種類によって皮膜の色調が大きく変わる現象が見られた。
【0023】
セラックの水性化に用いる塩基性アミノ酸および/または塩基性リン酸塩の量については、原料のセラックによっても、また添加する塩基性アミノ酸および塩基性リン酸塩の種類(例えば塩基性の強度等)によっても異なるが、通常セラック1質量部に対して塩基性アミノ酸は好ましくは0.05〜0.40質量部、より好ましくは0.12〜0.29質量部程度とされる。セラック1質量部に対して塩基性リン酸塩は好ましくは0.04〜0.60質量部、より好ましくは0.08〜0.45質量部の範囲で用いられる。塩基性アミノ酸および/または塩基性リン酸塩の量が前記範囲より低いと、セラックの水性化が不十分となり、良好な皮膜形成が困難になる。一方、塩基性アミノ酸および/または塩基性リン酸塩の量が前記範囲を越えると、形成される皮膜の色調が濃くなったり、皮膜の耐水性、耐酸性が損なわれる可能性があり、かつ製品コストの上昇を招く。本発明の皮膜剤を含む皮膜剤溶液のpHは、6.0以上が好ましく、6.5〜8.0の範囲とするのがさらに好ましい。
【0024】
また本発明の水性セラック皮膜剤において、脂肪族ポリオール、脂肪酸エステル、水溶性の糖、クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール、乳酸ナトリウムからなる群から選択される1種または2種以上を、皮膜の亀裂抑制剤としてさらに含有せしめてもよい。
前記脂肪族ポリオールとしては、グリセリン、プロピレングリコール、糖アルコールからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
前記糖アルコールとしては、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、パラチニット、ラクチトールからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
前記脂肪酸エステルとしては、ショ糖脂肪酸エステル、モノ/ジ/トリ/ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベートからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
前記水溶性の糖としては、トレハロース、オリゴ糖、マルトース、ガラクトース、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、果糖からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0025】
前記皮膜の亀裂抑制剤の添加量は、前記水性セラック皮膜剤のうちセラック100質量部に対して、2〜50質量部の範囲とするのが好ましく、10〜35質量部の範囲とするのがさらに好ましい。
この亀裂抑制剤の添加量が前記範囲未満であると、皮膜の亀裂抑制効果が十分に得られず、乾燥状態で長期間保管した際に皮膜にヒビ割れを生じる可能性がある。一方、亀裂抑制剤の添加量が前記範囲を超えると、皮膜の機械強度が劣化したり、皮膜がベタつくため好ましくない。
また、脂肪酸エステルのうちHLBの低いものは、水性セラック皮膜剤に添加することで、被コーティング物質あるいは皮膜剤に起因する苦味などの不快な味のマスキング効果を向上させることができる。具体的には、ショ糖ステアリン酸エステル(第一製薬工業社製、商品名「DK−エステルF70」)が挙げられる。
【0026】
前記皮膜の亀裂抑制剤として使用される物質のうち、グリセリンについては亀裂抑制効果の点では優れているが、その添加量が多くなると皮膜がベタついてコーティング食品または医薬品同士が接着したり塊状化しやすくなり、コーティング作業性を低下させるおそれがある。またソルビトールについても、コーティング作業性の点でグリセリンと同様の欠点を有する。
脂肪酸エステルは、亀裂の抑制効果はあるものの、その効果はグリセリン、ソルビトールなどと比べると劣っている。ただし、脂肪酸エステルの中には、コーティング作業性を向上させる、水性セラック皮膜の耐胃液性及び腸液崩壊性を向上させる効果を有しているため、脂肪酸エステルと前記グリセリンまたはソルビトールと併用して水性セラック皮膜剤に添加することで、グリセリンまたはソルビトールによる優れた亀裂抑制効果が得られると同時に、作業性や耐胃液性を向上させることができる。
【0027】
本発明の水性セラック皮膜剤に前記亀裂抑制剤を添加することによって、本発明の水性セラック皮膜剤をコーティングした医薬品等を、シリカゲル等の乾燥剤とともに密封するなどの乾燥雰囲気中であっても、皮膜にヒビ割れを生じること無く、長期間保存することができる。コーティング食品および医薬品を保存中、その皮膜にヒビなどの亀裂を生じると、皮膜の耐水性、耐酸性が損なわれ、腸溶性の機能に悪影響を及ぼす可能性があり、本発明のコーティング皮膜に前記亀裂抑制剤を添加することで皮膜に亀裂が生じることがなくなり、皮膜の耐水性、耐酸性を良好に保ち得る。この皮膜の亀裂抑制効果は、特に腸溶性食品および医薬品のコーティング皮膜において重要である。
【0028】
本発明の水性セラック皮膜剤は、最終的に不活性ガスにより処理されることが好ましい。具体的な不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられ、これらの不活性ガスから選択される1種または2種以上によりバブリング処理しても良い。不活性ガスで処理することにより、水性セラック皮膜剤の中に含まれる酸素など品質およびその安定性に影響を与える成分を除去することができ好ましい。水性セラック皮膜剤の中に含まれる溶存酸素濃度は、2mg/L以下にまで低下させることがより好ましい。
【0029】
本発明の水性セラック皮膜剤は、水にセラックを分散させた後、塩基性アミノ酸および/または塩基性リン酸塩を添加する方法、塩基性アミノ酸および/または塩基性リン酸塩を水に溶解した液にセラックを添加する方法、などの方法によって製造することができる。
塩基性アミノ酸を用いて水性セラック皮膜剤を製造する場合には、アルギニン等の塩基性アミノ酸を水に溶かした溶液を用意し、この塩基性アミノ酸溶液にセラックを混合して撹拌し、セラックが安定に溶解又は分散した水性セラック皮膜剤溶液を作製するのが好ましい。この水性セラック皮膜剤溶液は、そのまま使用してもよいし、或いは必要に応じて該溶液を濃縮又は乾燥してもよい。
【0030】
他の製造方法として、セラックを酸性物質の溶液に分散させ、次いで該溶液に塩基性アルカリ金属塩を加え、セラックが安定に溶解又は分散した水性セラック皮膜剤溶液を作製し、必要に応じて該溶液を濃縮又は乾燥させる方法を挙げることができる。この製造方法において、前記塩基性アルカリ金属塩溶液は、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩または重炭酸塩からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。また前記酸性物質としては、有機酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ポリリン酸などが使用でき、特にリン酸、ポリリン酸からなる群から選択される1種または2種以上が好ましい。
【0031】
本発明の水性セラック皮膜剤は、錠剤、顆粒剤、カプセル剤などの剤形の食品、医薬品へのコーティングに用いることができ、腸溶性、耐酸性、マスキング性、防湿性、光沢性、安定性などの機能を付与した本発明に係るコーティング食品、コーティング医薬品を得ることができる。また、カプセル剤などでは、予めカプセル化基材中に本発明の皮膜剤を添加してもよい。
実際の利用例としては、糖衣錠やチョコレートなどへの光沢付与、ビタミン錠(特にビタミンB1)、イチョウ葉エキスなどの健康食品や塩化ベルベリン、塩酸キニーネなど苦味の強い薬剤に対する味マスキング、臭気をもつ食品または薬剤に対する臭いのマスキング、乳酸菌、酵素、タンパク製剤等への耐酸性付与などが挙げられるが、本発明に係るコーティング食品及びコーティング医薬品はこれらに限定されない。
さらに、本発明の水性セラック皮膜剤は、食品、医薬品の皮膜形成用途に限定されることなく、例えば電気絶縁用(トランス用絶縁材、発電機やモータ用絶縁ワニス、真空管や電球用の絶縁接着剤、フォトレジストなどの電子加工用等)、塗料用(家具や楽器塗装用の酒精ニス、建材用水性塗料等)、粘着・接着用(粘着テープなどの剥離剤、宝石やガラスの加工用接着剤)、印刷用(水性インキ用展着剤、型紙含浸剤等)、研磨用(フェルトポリッシャー用バインダー)、その他(ヘヤーラッカーなどの化粧品材料、花火などの防湿剤、バインダー、パッキングなど)の各種用途に適用することも可能である。
【0032】
食品または医薬品への本発明の皮膜剤のコーティング操作に関しては、通気式パンコーティング装置、流動層コーティング装置などが用いられるが、剤形に応じて適当な装置を用いることが好ましい。本発明の皮膜剤によるコーティング操作においては、皮膜剤溶液中のセラックの濃度は特に限定されないが、通常1〜50質量%、好ましくは3〜30質量%の範囲で用いることができる。セラックのコーティング量は任意に調整することができるが、食品においては好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜30質量%、さらに好ましくは1〜15質量%であり、また医薬品においては好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜30質量%、なかでも錠剤において好ましくは0.2〜30質量%、より好ましくは0.5〜20質量%の範囲、顆粒剤の場合には、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは2〜40質量%でコーティングしてもよい。また、本発明の皮膜剤を使用するに当たっては、予めヒドロキシプロピルメチルセルロースなどでアンダーコートしてもよく、皮膜剤の使用後にワックス等の表面光沢剤でオーバーコートしてもよい。
【0033】
本発明に係るコーティング食品及びコーティング医薬品の他の実施形態において、食品及び医薬品は、前記水性セラック皮膜剤を主成分として含む層(以下、A層と記す。)と、それ以外の皮膜剤を主成分として含む層(以下、B層と記す。)とによって多層コーティングされることも好ましい。
この多層コーティングにおいて、水性セラック皮膜剤以外の皮膜剤としては、メタアクリル酸コポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、セラック、ゼイン、酵母細胞壁由来成分、水溶性多糖、油脂、ワックス、ロウ、キトサンからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。また医薬品においてヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを用いることもできる。
【0034】
この多層コーティングにおける前記A層、B層の組合せは特に限定されず、二層コーティングの場合にはA層を内層、B層を外層としたり、A層を外層、B層を内層として構成できる。また、3層以上の多層コーティングの場合、A層とB層とを交互にコーティングしてもよい。その場合、各B層の皮膜剤は同じであっても違っていてもよい。
【0035】
水性セラックを主成分とするA層の内層にB層をコーティングするアンダーコートは、例えば錠剤成分と水性セラックとが相互作用するような場合には、緩衝材的な役割を果たし、安定性を向上させるために有効である。水性セラックを主成分とするA層の外層をそれ以外の皮膜剤からなるB層をさらにコーティングするオーバーコートは錠剤あるいは水性セラックの色調の隠蔽、あるいは亀裂抑制の向上などに有効である。
【0036】
腸溶性皮膜剤が一般的に酸性物質であるため、ベンズイミダゾール系化合物などに代表される酸性において分解・変質しやすい薬剤など腸溶性が求められる薬剤にとって腸溶性皮膜剤と直接接触することは好ましくない。
本発明に係る水性セラック皮膜剤は、pH値が6以上である。したがって、腸溶性が求められる薬剤や食品と直接接触しても、それらの薬剤や食品を分解したり、変質させたりすることがない。
したがって、腸溶性が求められる薬剤や食品の核粒子または層に対して、直接に水性セラック皮膜剤をコーティングすることが可能である。
また水性セラック皮膜剤および医薬成分を含む皮膜剤溶液を作製し、これをコーティングした層からなる医薬品を好ましい形態として挙げることができる。腸溶性が求められる薬剤をより微細に水性セラックで被覆することができ腸溶性の効果をより高めることができる。
さらに、水性セラック皮膜剤および医薬成分を含む層とそれ以外の機能を持つ皮膜剤を主成分として含む層とによって多層コーティングされたコーティング医薬品も好ましい形態として挙げることができる。
同様に水性セラック皮膜剤および食品を含む皮膜剤溶液を作製し、これによりコーティングされた層を含む食品を好ましい形態として挙げることができる。
【0037】
なお、本発明の皮膜剤には必要に応じて着色剤、可塑剤、隠蔽剤、矯味剤、散布剤、増粘多糖類、酸化防止剤、防腐剤などの各種添加物を配合してもよく、合成高分子などを皮膜剤と併用することも可能である。また、これらの添加物の分散性改良や防腐のためにエタノール、メタノール、アセトン、イソプロパノールなどの水溶性の有機溶剤を配合することも可能であるが、安全性、環境への配慮などの観点から、その使用は必要最低限にとどめることが好ましい。
【0038】
本発明の水性セラック皮膜剤は、製造時および該液剤のコーティング時においてアルコールなどの揮発性有機溶媒を使用しないため、火災等の危険がなく労働安全性に優れているので、作業場の安全対策にかかるコストを低減できる。また本発明の水性セラック皮膜剤は、糸曳きがなくコーティング作業性に優れ不良品発生が少なく製品歩留まりが高いという特長がある。
また原料として脱色セラックを用い、本発明の水性セラック皮膜剤の製造法により得られた水性セラック皮膜剤を食品及び医薬品のコーティングに用いた場合、これらのコーティング食品又は医薬品は外観上好ましい黄色ないし淡黄色を呈し、経時的にも安定であり、変質しにくい。
さらに、本発明の水性セラック皮膜剤により得られるコーティング皮膜は、耐酸性に優れているため腸溶性の皮膜として有効であり、胃酸疑似液(日局第一液)に浸漬した場合においても、水酸化ナトリウムを用いたセラックのコーティング皮膜と比べて、皮膜層の膨潤が抑えられ、耐酸性が向上し優れた効果がある。すなわち本発明のコーティング食品及びコーティング医薬品は、耐酸性とともに腸液崩壊性にも優れることから腸溶性が求められる食品及び医薬品として有効である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明につき実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
・皮膜剤溶液の調製
55℃の精製水88.35質量部に脱色セラック10質量部を分散し、撹拌機で撹拌しながらL−アルギニン1.65質量部を加えて、液中に粗大粒子がなくなるまで十分撹拌したのち、液中の溶存酸素濃度が2mg/Lになるまで窒素ガスのバブリング処理を実施し、本発明の皮膜剤用の皮膜剤溶液(セラック10質量%含有)を調製した。
・コーティング錠の調製
1錠220mgの白色三角錠剤350gをコーティング機(フロイント産業社製、商品名「ハイコーターラボ」)にセットし、給気温度52℃、給気風量0.5m/分、スプレー速度2g/分、スプレー圧0.1MPa、パン回転数20rpmの操作条件により、錠剤質量に対しセラック固形分が12質量%になるまで皮膜剤溶液を三角錠剤にスプレーし、コーティング錠を得た。
【0041】
[実施例2]
精製水を88.4質量部とし、L−アルギニンに代えてピロリン酸四ナトリウム1.6質量部を用いた以外は実施例1と同様にして本発明の皮膜剤溶液を調製した。実施例1と同様のコーティング操作を実施し、錠剤質量に対してセラック固形分が12質量%コートされたコーティング錠を得た。
【0042】
[実施例3:味マスキング顆粒の調製]
苦味を呈するチアミン塩酸塩を5.5質量%含有する顆粒(粒子径12〜32メッシュ)500gを流動層造粒コーティング装置(フロイント産業社製、商品名「フローコーターラボ」)にセットし、実施例1と同様の皮膜剤溶液を用いて、給気温度70℃、給気風量0.5m/分、スプレー速度3g/分、スプレー圧0.15MPaの操作条件により、顆粒質量に対しセラック固形分が7質量%コートされたコーティング顆粒を得た。
【0043】
[実施例4:透湿度試験]
実施例1において作製した皮膜剤溶液を樹脂製平板シャーレ上で乾燥(50℃)させ、膜厚90μmのキャスティングフィルムを得た。日本工業規格(JIS Z0208)の試験方法に準じて、本発明の皮膜剤溶液から得られる皮膜の透湿度を測定した。
【0044】
[比較例1]
精製水を89.4質量部とし、L−アルギニンに代えて水酸化ナトリウム0.6質量部を用いた以外は実施例1と同様にして皮膜剤溶液を調製し、実施例1と同様のコーティング操作を実施し、錠剤質量に対してセラック固形分が12質量%コートされたコーティング錠を得た。
【0045】
[比較例2]
エタノール85.2質量部に脱色セラック10質量部および植物油(パーム硬化油)2.5質量部、モノグリセリンエステル2.3質量部を添加、透明に溶解するまで撹拌し、皮膜剤溶液を調製した。実施例1と同様の装置を用いて給気温度38℃、給気風量0.5m/分、スプレー速度2g/分、スプレー圧0.1MPa、パン回転数20rpmの操作条件によりコーティング操作を実施し、錠剤質量に対しセラック固形分が12質量%コートされたコーティング錠を得た。
【0046】
[比較例3]
錠剤質量に対しコートされたセラック固形分を6質量%とした以外は比較例2と同様の操作によりコーティング錠を得た。
【0047】
[比較例4]
皮膜剤溶液をヒドロキシプロピルメチルセルロース8質量%水溶液とした以外は実施例4と同様に膜厚90μmのキャスティングフィルムを調製し、透湿度を測定した。
【0048】
[コーティング特性の比較]
前記実施例1、2および比較例1〜3について、下記方法によりコーティング作業性、コーティング錠の皮膜の色調、耐酸性、腸液崩壊性および安定性について評価した。結果は表1に示す。
【0049】
<コーティング作業性>
各コーティング作業において、皮膜剤溶液の糸曳きによるコーティングパンへの錠剤付着やコーティング錠表面における皮膜のハガレの有無について、次の判断基準で評価した。
○:コーティング障害がなく、均一な皮膜を有するコーティング錠剤が得られた。
△:コーティング障害あり。一部の錠剤において表面の皮膜がはがれた。
×:コーティング障害あり。コーティングパンに錠剤が付着し、ほとんどの錠剤において表面の皮膜がはがれた。
【0050】
<コーティング皮膜の色調>
各コーティング錠剤の外観色調につき観察。錠剤表面のコーティング皮膜の色調を記した。
【0051】
<崩壊試験:耐胃液性および腸液崩壊性の確認>
各コーティング錠剤につき、日本薬局方第14改正記載の崩壊試験(B−619)のうち腸溶性の製剤の試験方法に従い評価した。試験液として用いる第一液は人工胃液に相当し、コーティング皮膜の耐酸性を評価するものであり、第二液は人工腸液に相当し、腸内での崩壊性を評価するものである。
第一液における試験中には、コーティング皮膜の溶解または崩壊、コーティング錠剤内部への第一液浸透の様子につき観察し、次の判定基準で評価した。
○:崩壊試験2時間後、コーティング錠剤に顕著な変化なし。
×:崩壊試験2時間後、第一液の浸透によるコーティング錠剤の膨潤や崩壊が顕著。
また第二液における試験では、腸液崩壊の判定基準に到達するまでに要した時間を測定した。
【0052】
<安定性試験>
各コーティング錠剤をPTP包装し、40℃雰囲気で3ヶ月間保存した後、上述と同様の崩壊試験を実施し、安定性を評価した。評価方法は崩壊試験と同じとした。
【0053】
【表1】


【0054】
表1に記した結果から、本発明の水性セラック皮膜剤を用いた実施例1,2は、従来技術である水酸化ナトリウムにより水性化した皮膜剤を用いた比較例1及び有機溶媒(エタノール)でセラックを溶かした皮膜剤を用いた比較例2,3と比べ、糸曳きがなく、コーティング作業性に優れ、不良品発生が少なく製品歩留まりが高い。
また実施例1,2のコーティング皮膜は、比較例1に比べて色が薄く、外観上好ましいものであった。
さらに実施例1,2のコーティング皮膜は、腸溶性コーティング剤として実用上十分な耐胃酸性及び腸液崩壊性が得られることが確認された。
【0055】
[コーティング皮膜のマスキング性能の比較]
前記実施例3で得たコーティング顆粒および未コーティング顆粒について、下記の方法により味マスキング効果を評価した。結果を表2に示す。
<味マスキング効果評価方法>
実施例3のコーティング顆粒と、未コーティング顆粒とを用い、官能試験により評価を行った。顆粒0.2gを舌上に置いてから苦味を感じるまでの時間を5人のパネリストにつき測定し、平均を求めた。
【0056】
【表2】


【0057】
表2に記した結果から、本発明に係る実施例3のコーティング顆粒は、未コーティング顆粒に比べて苦味を感じる時間が格段に長くなり、本発明に係る皮膜剤が十分な味マスキング効果を有していることが確認された。
【0058】
[皮膜の耐湿性の比較]
前記実施例4と比較例4とでそれぞれ作製したキャスティングフィルムについて、JIS Z0280の透湿度試験法に準じて透湿度を測定した。試験条件は、(1)25℃、相対湿度92%;(2)40℃、相対湿度89%とし、各フィルムの透湿度(単位g/m・24hr)を評価した。結果を表3に示す。
【0059】
【表3】


【0060】
表3に記した結果より、本発明に係る実施例4の皮膜は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース製の比較例4の皮膜に比べ、透湿度が低く優れた耐湿性を有することが確認された。
【0061】
[塩基性アミノ酸、塩基性リン酸塩の必要量の検討]
塩基性アミノ酸としてアルギニンを用い、塩基性リン酸塩としてピロリン酸四ナトリウムを用い、各種のセラックを水性化できる添加量範囲を調べた。
セラックとして脱色セラック(酸価73.4)と白色セラック(酸価84.0)とを用い、これらのセラック1質量部を水溶液とするために必要な塩基の量を求めた。
その結果、アルギニンを用いた場合、脱色セラック1質量部を水溶液にするためにアルギニン0.15〜0.17質量部、白色セラックでは0.21〜0.25質量部が必要であった。
またピロリン酸四ナトリウムを用いた場合、脱色セラック1質量部を水溶液にするために該リン酸塩0.14〜0.18質量部、白色セラックでは0.20〜0.26質量部が必要であった。
【0062】
前記のように、セラックを水溶液とするために必要な塩基の量については、脱色セラックと白色セラックとでは塩基必要量に差を生じた。これはセラックの製法に起因しており、製法によりセラックの酸価が異なることが主な要因である。セラックは天然物であるため、食品添加物公定書、日本薬局方などにおける酸価の規格は比較的広く設定されている。これは、原料の品質変動を考慮しているものと考えられ、本実験により得られた塩基の所要量では過不足(特に不足)となる可能性がある。そこで、セラックの酸価の規格範囲をカバーできる塩基性アミノ酸(アルギニン)および塩基性リン酸塩(ピロリン酸四ナトリウム)の補正所要量範囲を算出した。
その結果、アルギニンを用いた場合、脱色セラック1質量部を水溶液にするためにアルギニン0.12〜0.19質量部、白色セラックでは0.16〜0.29質量部が必要である。またピロリン酸四ナトリウムを用いた場合、脱色セラック1質量部を水溶液にするために該リン酸塩0.12〜0.22質量部、白色セラックでは0.18〜0.28質量部が必要である。
【0063】
なお、前記塩基性アミノ酸と塩基性リン酸塩の添加量範囲は、精製された脱色セラック又は白色セラックに対するアルギニンまたはピロリン酸四ナトリウムの添加量範囲であり、アルギニン以外の塩基性アミノ酸またはピロリン酸四ナトリウム以外の塩基性リン酸塩を用いる場合等では好適な添加量範囲が異なる。また、本発明の水性セラック皮膜剤は、セラックが完全に溶解した溶液の他、セラックの一部が溶解し他部が溶けきらずに微小粒子の状態で分散しているセラック分散液の形態も含む。このような皮膜剤溶液を調製する場合には、塩基性アミノ酸と塩基性リン酸塩の添加量は前記添加量範囲下限よりも低くすることが可能である。これらを勘案した場合、前記塩基性アミノ酸の添加量はセラック1質量部に対して0.05〜0.40質量部の範囲、塩基性リン酸塩の添加量はセラック1質量部に対して0.04〜0.60質量部の範囲とすることができる。
【0064】
[実施例5]
精製水85.75質量部とした以外は実施例1と同様にして皮膜剤溶液を調製した。本皮膜剤溶液に、さらにグリセリン0.6質量部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB6)2質量部を加えて粗大粒子がなくなるまで十分撹拌し、本発明の皮膜剤用の皮膜剤溶液を得た。実施例1と同様のコーティング操作を実施し、錠剤質量に対してセラック固形分が8質量%コートされたコーティング錠を得た。
【0065】
[実施例6]
実施例5で得たコーティング錠に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース8質量%水溶液を実施例1と同様のコーティング操作により、錠剤質量に対してヒドロキシプロピルメチルセルロース固形分が3質量%になるまでスプレーし、水性セラックコーティング層の外層にヒドロキシプロピルメチルセルロースがオーバーコートされた多層コーティング錠を得た。
【0066】
[コーティング皮膜の耐ヒビ割れ性]
実施例5〜6、及び比較例1で得た各コーティング錠について、ガラス瓶内に乾燥剤(シリカゲル)とともに装填した後に密栓保管し、ヒビ割れ発生の有無につき観察した。試験条件は、25℃、10日間とした。結果を下表に示す。
【0067】
【表4】


【0068】
表4に記した結果より、本発明に係る実施例5,6の皮膜は、乾燥条件下であっても優れた耐ヒビ割れ性(亀裂抑制性)を有することが確認された。
【0069】
[実施例7]
ショ糖とコーンスターチからなる粒子径22〜30メッシュの球形顆粒(フロイント産業社製、商品名「ノンパレル101」)500gを、、流動層造粒コーティング装置(フロイント産業社製、商品名「フローコーターラボ」)にセットし、給気温度65℃、給気風量0.5m/分、スプレー速度3g/分、スプレー圧0.15MPaの操作条件により、表5の組成からなる水性セラック皮膜剤と消化酵素剤のパンクレアチンの混合液をスプレーし、球形顆粒に対しセラック固形分が25質量%、パンクレアチンが10質量%コートされたコーティング顆粒を得た。
【0070】
【表5】


【0071】
[コーティング顆粒の腸溶性評価]
実施例7において作製したコーティング顆粒について、腸溶性を評価した。評価方法については、実施例1,2,比較例1〜3の[コーティング特性の比較]における<崩壊試験:耐胃液性および腸液崩壊性の確認>と同じとした。結果を表6に示す。
【0072】
【表6】


【0073】
表6の結果より、実施例7で作製したパンクレアチンを皮膜中に含むコーティング顆粒は、実用上十分な耐胃液性と腸液崩壊性とを有することが確認された。
【出願人】 【識別番号】000112912
【氏名又は名称】フロイント産業株式会社
【住所又は居所】東京都新宿区西新宿六丁目8番1号
【出願日】 平成15年9月10日(2003.9.10)
【代理人】 【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄

【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武

【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和

【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義

【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子

【公開番号】 特開2005−27651(P2005−27651A)
【公開日】 平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願番号】 特願2003−318500(P2003−318500)