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【発明の名称】 ジェランガムコーティング澱粉およびそれを用いた食品
【発明者】 【氏名】小林 功

【氏名】後藤 勝

【氏名】久保田 篤

【氏名】中村 卓

【要約】 【課題】化学的な反応を用いることなく、未糊化澱粉の膨潤を抑制し、澱粉特有の “糊っぽさ”を低減することによって、従来、澱粉を食品に使用する際の障害となっていた、付着性や、食感を改良した新規なコーティング澱粉および、コーティング澱粉の製造方法を提供する。

【解決手段】β澱粉にジェランガムをコーティングすることを特徴としたジェランガムコーティング澱粉。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β澱粉100重量部に対し、0.1〜10重量部のジェランガムをコーティングすることを特徴とするジェランガムコーティング澱粉。
【請求項2】
一価及び/又は二価のカチオンを含有することを特徴とする請求項1に記載のジェランガムコーティング澱粉。
【請求項3】
下式で表される膨潤抑制率が、25%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のジェランガムコーティング澱粉。
膨潤抑制率(%) = (コーティング前原料澱粉加熱膨潤度−コーティング澱粉加熱膨潤度)×100/ コーティング前原料澱粉加熱膨潤度
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のジェランガムコーティング澱粉を用いてなる食品。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のジェランガムコーティング澱粉を用いてなるほぐれを改良した麺類。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は化学的な手法を用いずに、澱粉の膨潤を抑制し、かつ当該澱粉を使用する食品の食感を改良することを目的とした新規加工澱粉、その製造法および当該澱粉の食品への応用に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
うどんやパンなどの食品には、食感にボディ感を付与させたり、経時的な食感の硬化を抑えるために、タピオカやワキシーなどの小麦以外の澱粉が広く使用されている。特に、製造してから10℃以下の低温で流通されるようなチルド食品には、ボディ感を維持するために澱粉は欠かせないものとなっている。
【0003】
しかしながら、澱粉の配合量を増やしていくと、澱粉特有の”糊っぽさ”が食感にあらわれ、また、付着性が強くなり、作業性についてさまざまな問題が生じる。具体的には、麺類では、喉越しの悪さ、麺線同士のほぐれにくさ、菓子やパンでは、歯切れの悪さ、生地の付着性の増大などがあげられる。これは澱粉の糊化時に溶出してくるアミロース鎖が相互作用して起こるものと考えられる。そのため、膨潤してもアミロース鎖が溶出しにくくなるように澱粉分子内を化学的に補強した架橋澱粉が広く利用されている。このような澱粉は、化学的な加工により、膨潤を抑制した澱粉であるので、一般に膨潤抑制澱粉と呼ばれている(非特許文献1,2を参照)。
【0004】
このような架橋澱粉は、比較的低コストで、効果的に膨潤抑制効果が得られるため、広く食品に用いられている。架橋澱粉の製造は化学薬品を用いて澱粉の水酸基同士を架橋させるもので、食品としての安全性に問題はないが、近年消費者の食品に対する安全性への意識の高まりの影響から、より天然に近い食品素材へのニーズが増加している。また、架橋澱粉の製造時に生じる未反応の薬品やpHの調整により生じた塩などを洗浄するために、大量の水が必要である。そのため、大量の工業排水が生じ、廃水処理にかかるコストが問題になっている。
よって、化学的な反応を用いないで架橋澱粉と同様の膨潤抑制効果を示す澱粉への需要が高まっている。
また、化学的な加工を用いることなく、膨潤を抑えた澱粉として、高温、高圧環境下で、澱粉を処理した湿熱処理澱粉(特許文献1を参照)が知られているが、これは、熱や圧力などで、澱粉分子の相互作用をより強固にすることにより膨潤を抑制する方法で、強い膨潤抑制効果が得られるが、澱粉にとっては過酷な加工条件のため、澱粉本来の望ましいボディ感のある食感が失われる可能性がある。
【0005】
一方、澱粉粒の周囲をゲル化力の強い物質でコーティングすることによって、澱粉が膨潤、糊化する際の水分の移行を抑制しようとする試みもいくつかなされている。例えば、タンパク質を用いる方法(特許文献2)、アラビアガム、グアーガムなどを使用する方法(特許文献3)などが知られている。タンパク質を練りこむ方法は、タンパク質の熱変性、ゲル化作用により、澱粉の膨潤を抑える方法であるが、より膨潤抑制効果を求めるためには、比較的高濃度のタンパク質を添加する必要があり、最終食品の風味や食味を損なう可能性がある。アラビアガム、グアーガムを使用する方法は既に糊化した澱粉の食感改良を目的とするものであり、β澱粉そのものを改質するものではない。
【0006】
なお、微生物産生多糖類の一種で、ナトリウムイオン、カルシウムイオンといった一価またはニ価のカチオン存在下で透明、強固なゲルを形成することが知られているジェランガムを澱粉に配合して、α化する方法が知られている(特許文献4)が、これはジェランガムと澱粉のスラリーを、同時にα化し、当該α化物を添加した揚げ物の衣の食感をクリスピーに改善するものであり、ジェランガムの高いゲル化能を利用したものであるが、やはりβ澱粉の改質を目的としたものではない。
【0007】
【非特許文献1】
不破英次他、化工澱粉とのその利用、澱粉科学の事典、p403−406, 2003 朝倉書店
【非特許文献2】
D.J.Thomas etc, Starch modifications, Starches, p32−34, 1999, Eagan press
【特許文献1】
特開平4−130102号公報
【特許文献2】
特公昭42−14063号公報
【特許文献3】
特許第2807593号公報
【特許文献4】
特開平9−201170号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、化学的な反応を用いることなく、β澱粉の膨潤を抑制し、澱粉特有の “糊っぽさ”を低減することによって、従来、澱粉を食品に使用する際の障害となっていた、付着性や、食感を改良した新規なコーティング澱粉およびそれを用いた食品を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、ジェランガムをβ澱粉の表面に均一にコーティングすることにより、澱粉の膨潤を抑制し、かつ澱粉含有食品の食感を改良できることを見出した。以下に本発明をより詳しく説明する。
【0010】
ジェランガムは、水草から採取された微生物、シュードモナス・エロディア(Pseudomonas elodea)が菌体外に生成する微生物多糖より分離、精製される。ジェランガムの特徴として、ナトリウム、カルシウムイオンのような一価、二価のカチオン存在下で強固なゲルを形成することがある。そのゲルは透明感に優れ、耐酸性、耐熱性、耐酵素性に優れている。ゲル化開始温度は約35℃、ゾル化温度は約90℃である。このようなゲル形成能を生かしてジェランガムは、ゼリー、デザートをはじめとするさまざまな食品に利用されている。
【0011】
本発明におけるジェランガムの配合量は澱粉100重量部に対して0.1〜10重量部好ましくは、0.4〜1重量部である。ジェランガムの配合量が0.1重量部未満であると、澱粉をコーティングするのに不十分で、効果的な膨潤抑制効果が得られない。また、10重量部より多量に加えると、コーティングされた澱粉同士が付着し、取り扱いにくくなってしまう。ジェランガムは澱粉表面に均一にコーティングされるのなら、どのような形態で混合してもよいが、より均一に澱粉表面へのコーティングを行うためには、いったんジェランガムを温水に分散、または溶解し、流動させた澱粉にスプレーで噴霧し、コーティングする流動層造粒コーティング装置を用いる方法や、澱粉を攪拌しながら、ジェランガムを滴下する攪拌型混合造粒機を用いる方法が望ましい。この場合、ジェランガムは、80℃以上に加熱した水に、少しずつ混ぜていく。このようにして調整したジェランガム溶液は、澱粉に加える前に、液温を50℃程度に下げる。温度を下げすぎると、ジェランガム溶液はゲル化してしまうし、温度を下げないと、澱粉に混合した際に局部的に澱粉のα化が起こり、十分な澱粉改質効果が得られない。
【0012】
ジェランガムは、一価または二価のカチオンとともに、強固なゲルを作ることが知られており、本発明においても、コーティング効果をより高め、膨潤抑制効果を発揮させるために、一価または二価のカチオンを併用することが望ましい。
カチオンは、通常食品添加物として使用可能な塩の形で添加される。例えば、食塩、重炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどのナトリウム塩、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、乳酸カルシウムなどのカルシウム塩などが挙げられ、これらを単独または二種以上を混合して使用してもよい。これらの塩は、水溶液として添加してもよいし、あらかじめ、澱粉に粉体混合して添加してもよい。水溶液として添加する場合は、ジェランガムを添加する前に滴下してもよいし、ジェランガムを添加した後に滴下してもよい。カチオンの添加量は澱粉100重量部に対して、0.01〜1重量部好ましくは、0.02〜0.5重量部である。
【0013】
澱粉は通常に食品として利用されうる植物由来のβ澱粉、例示すれば、タピオカ、とうもろこし、米、小麦、馬鈴薯、甘藷などの澱粉および、それらのもち種、もしくはハイアミロース種、さらにこれらの澱粉を、エステル化処理、エーテル化処理、架橋処理、酸処理、酸化処理、湿熱処理更にこれを組み合わせた加工を施した化工澱粉のいずれを用いてもよい。ここでβ澱粉とは、光学顕微鏡を用いた観察より、澱粉粒の形状を維持しており、ある一定の結晶構造を有している澱粉をいう。
【0014】
このようにして得られたジェランガムコーティング澱粉は、そのまま用いてもよいし、水分を含む場合は、適当な方法により脱水される。水分は、α化されない程度の条件で通風乾燥機を用いて、乾燥してもよいし、水分含量が多い場合は、遠心分離法などの方法も使用できる。脱水後、必要に応じて、解砕、調湿、篩分などの工程を通すことも可能である。
【0015】
本発明において得られたコーティング澱粉は、コーティングによって、加熱に伴う澱粉粒の膨潤が抑えられるため、加熱膨潤度が低下する。本発明のコーティング澱粉の目安として、この加熱膨潤度の減少率である膨潤抑制率を用いる。本発明におけるコーティング澱粉とは、この膨潤抑制率が25%以上のものとする。そのうち、30〜50%のものが好適である。加熱膨潤度の測定方法は以下のとおりである。測定試料である澱粉混合物をドライベースで10mg密封可能な遠沈管に秤量し、脱イオン水を1mL加え、よく澱粉を分散させる。澱粉分散液を100℃で10分間加熱した後、5分間流水中で冷却する。6800 rpm、10分間遠心分離し、上澄みの水層を除去し、沈殿した澱粉糊液の重量を測定する。加熱膨潤度は以下の式より算出する。
加熱膨潤度 = (澱粉糊液重量(mg) − 10(mg))/10(mg)
コーティング処理前後の加熱膨潤度をそれぞれ測定し、以下の式より膨潤抑制率を算出する。
膨潤抑制率(%) = (コーティング前原料澱粉加熱膨潤度−コーティング後澱粉加熱膨潤度)×100/ コーティング前原料澱粉加熱膨潤度
【0016】
本発明によって調整されたジェランガムコーティング澱粉のラピッドビスコアナライザー(RVA)によるビスコグラムを図1に示す。このように、澱粉が均一にコーティングされると、架橋澱粉などの膨潤抑制澱粉と同様にラピッドビスコアナライザー(RVA)によるブレイクダウンの値が減少する。ブレイクダウンとは、RVAのビスコグラムにおいて、最高粘度と最低粘度の差を示す。
【0017】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0018】
【実施例1】
80℃に加熱したイオン交換水400mLに、ジェランガム(商品名;ケルコゲル、ケルコ ア ユニット オブ モンサント社製)8gを攪拌しながら、少しずつ添加し、ジェランガム2%溶液を調整する。ジェランガム2%溶液は、使用する直前まで50℃に調整した恒温槽にいれておく。タピオカ澱粉(加熱膨潤度62.1、ホーネンコーポレーション社製)1.5kgをスーパーミキサー(カワタ社製)にいれ、2000rpmで攪拌しながら、50℃に調整したジェランガム2%溶液を300mL添加する。添加後、10分間引き続き混合し、澱粉にジェランガムを付着させる。その後、混合を続けながら、1%乳酸カルシウム水溶液を55mL添加する。引き続き10分間2000rpmで混合し、ジェランガムコーティング澱粉を調整した。その後、加熱乾燥(65℃5時間)を行い、粉砕、60Meshの篩を通した。
【0019】
【実施例2】
ジェランガム溶液の添加量を600mLとした以外は、実施例1と同様にジェランガムコーティング澱粉を調整した。
【0020】
【実施例3】
乳酸カルシウムの代わりに水を55mL添加した以外は、実施例1と同様にジェランガムコーティング澱粉を試作した。
【0021】
【比較例1】
比較例1として、ジェランガム溶液の添加量を50mLにした以外は、実施例1と同様にジェランガムコーティング澱粉を調整した。
【0022】
【表1】


【0023】
実施例1、2、3および比較例1の配合で得られたコーティング澱粉の加熱膨潤度を測定し、原料であるタピオカ澱粉の加熱膨潤度62.1より、膨潤抑制率を算出した。その結果を表2に示した。
【0024】
【表2】


【0025】
実施例1、2において、膨潤抑制率が高く、よくコーティングされていることが分かる。また、カルシウムを加えなくても、ある程度の膨潤抑制率は得られるが、よりカルシウムの添加が効果的であることが分かる。
【0026】
【実施例3〜5】
実施例1において、タピオカ澱粉を表3に示す各種澱粉に置き換え、ジェランガム2%溶液を600mL加え、同様にジェランガムコーティング澱粉を調整した。その後、加熱乾燥(65℃5時間)を行い、粉砕、60Meshの篩を通した。こうして得られたコーティング澱粉、および原料澱粉の加熱膨潤度を測定し、膨潤抑制率を算出した。その結果を表4に示した。
【0027】
【表3】


【0028】
【表4】


【0029】
表4のように、タピオカ澱粉以外の澱粉種でも、ジェランコーティングによる膨潤抑制効果が得られることが分かった。
【0030】
【試作例1】
<うどんの作製>
実施例1,2,3および、比較例1で得られた試料ならびに、比較例2として、未加工のタピオカ澱粉、比較例3としてリン酸架橋タピオカ澱粉(TP−1 (株)ホーネンコーポレーション製)を用いて、表5に示す配合のうどんを以下の製法にしたがって作成した。得られた茹でうどんの麺線の付着状態、および食感を評価し、その結果を表6に示した。
【0031】
うどんの作成方法:ミキサーにて、中力粉に試料を混合し、そこへ食塩水を加え20分間混捏したのち常法により複合圧延、切断(切刃#10角、麺線厚み2.0mm)を行って得られた麺を沸騰水中で7分間茹でた後、流水で30秒間水洗し、茹でうどんを試作した。試作したうどんは包装し、4℃で24時間保存した。
【0032】
うどん麺線の付着性評価:4℃24時間保存したうどんを開封し、プラスティック製ドラム(直径160mmx高さ200mm)に入れて、10回転後取り出して、ほぐれ状態を目視で評価した。
A:麺体の75%以上がほぐれている。
B:麺体の50%以上75%未満がほぐれている。
C:麺体の25%以上50%未満がほぐれている。
D麺体の25%未満がほぐれている。
【0033】
食感の評価:4℃24時間保存したうどんを沸騰水400gで3分間加熱した後、パネラー10名にてコシの強さ、ツルミ、モチモチ感について評価した。非常に強いものを5とし、非常に弱いものを1として、パネラー10名の平均値を示した。
【0034】
【表5】


【0035】
【表6】


【0036】
表6のように、ジェランガムでコーティングされたタピオカ澱粉を配合したうどん麺は、タピオカ澱粉特有のつるみを保持しながら、適度な膨潤抑制効果による麺のほぐれやすさと、独特のコシを有する優れたものであった。
【0037】
【試作例2】
実施例1,2,3および、比較例1で得られた試料ならびに、比較例2として未加工のタピオカ澱粉、比較例3としてリン酸架橋タピオカ澱粉(TP−1 (株)ホーネンコーポレーション製)を用いて、<表7>に示す配合および作り方で食パンを作成した。
【0038】
【表7】


【0039】
得られた食パンについてそれぞれ、作業性(生地の粘着性)、外観(腰折れ)、および食感の評価を行った。その結果を表8に示す。
【0040】
【表8】


【0041】
表8のように、ジェランガムでコーティングされたタピオカ澱粉を配合することにより作業性にすぐれ、腰折れのないソフトで良好な食味の食パンに仕上がった。
【0042】
【試作例3】
実施例1,2,3および、比較例1で得られた試料ならびに、比較例2として、未加工のタピオカ澱粉、比較例3としてリン酸架橋タピオカ澱粉(TP−1 (株)ホーネンコーポレーション製)を用いて、<表9>に示す配合および製造法でスポンジケーキを調整した。
【0043】
【表9】


【0044】
得られたスポンジケーキについてそれぞれ、官能試験による柔らかさ、口溶け感のよさ、付着性について評価を行った。その結果を表10に示す。
【0045】
【表10】


【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、澱粉粒の表面をジェランガムで均一にコーティングすることによって、化学的な手法を用いることなく、澱粉の膨潤を抑制した澱粉を調整することが可能で、本澱粉をうどんや、パン、菓子などの食品に使用することにより、従来、澱粉を使用することによって生じる食感の糊っぽさ、食品の付着性を抑制しながら、澱粉独特の食味や食感を維持した良好な食品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ジェランガムコーティング澱粉のRVAビスコグラムとブレイクダウン
【出願人】 【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J−オイルミルズ
【出願日】 平成15年6月26日(2003.6.26)
【代理人】
【公開番号】 特開2005−13118(P2005−13118A)
【公開日】 平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願番号】 特願2003−183481(P2003−183481)