| 【発明の名称】 |
酸性域で渋味・収斂味を呈しにくいタンパク質加工品の製造方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】杵川 洋一
【氏名】北畠 直文
【氏名】佐野 弘明
【氏名】江頭 俊彦
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| 【要約】 |
【課題】酸性域でも渋味・収斂味を呈しにくい食品素材タンパク質加工品と、当該タンパク質を含有する食品の製造方法を提供する。
【解決手段】未加熱または加熱処理した牛乳乳清タンパク質、牛乳カゼイン、大豆タンパク質および卵白タンパク質からなる群から選ばれるタンパク質にでんぷん分解糖を添加し加熱処理を行う。使用するでんぷん分解糖の分解度DEは3〜40であるのが望ましく、タンパク質とでんぷん分解糖の使用量は、固形分重量比率で1:1〜1:20程度であるのが望ましい。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 牛乳乳清タンパク質、牛乳カゼイン、大豆タンパク質及び卵白タンパク質からなる群から選ばれるタンパク質を、でんぷん分解糖存在下で加熱を行うことにより、酸性域でも渋味・収斂味を呈しにくいタンパク質加工品を製造する方法。 【請求項2】 牛乳乳清タンパク質、牛乳カゼイン、大豆タンパク質及び卵白タンパク質からなる群から選ばれるタンパク質を、pH7.5以下で加熱・冷却後、でんぷん分解糖存在下で再度加熱を行うことにより、酸性域でも渋味・収斂味を呈しにくいタンパク質加工品を製造する方法。 【請求項3】 タンパク質が牛乳乳清タンパク質である、請求項1又は2の方法。 【請求項4】 タンパク質とでんぷん分解糖の使用量が固形分重量比率で1:1〜1:20である請求項1〜3いずれか1項の方法。 【請求項5】 請求項1〜4のいずれか1項により得られたタンパク質加工品を添加してなることを特徴とする、酸性域でも渋味や収斂味を呈しにくいタンパク質含有加工食品。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、酸性域でも渋味・収斂味を呈しにくい食品素材タンパク質加工品およびタンパク質含有加工食品の製造方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 タンパク質高濃度含有食品としては、健康補助食品、医療食品、高齢者対応機能性食品、介護食品、病者用食品やスポーツ栄養補強食品などがある。タンパク質素材としては、牛乳タンパク質、卵タンパク質あるいは大豆タンパク質などが利用されている。これら食品素材タンパク質は、いずれも栄養性や物性などの機能性が高い。これらのタンパク質を含む前記食品は、一般的に中性pH域の製品が多いが、概して嗜好性の低い不味なものが多い。 【0003】 一方、酸性域(低pH)食品、例えば飲料,ワイン,ゼリーデザート,たれ・ソース・ドレッシング,乳製品,菓子,漬け物,スープ,ジャム,果物や発酵食品などは、嗜好性が高いことが知られている。そこで、前記のタンパク質高濃度含有食品にさわやかな酸味を付与することにより、嗜好性を高めることができると考えられる。 【0004】 しかし、酸性域において、牛乳乳清タンパク質などの食品素材タンパク質は、不快感の強い渋味や収斂味を呈することが知られており(江頭ら,日本食品科学工学会2003年度大会)、このことが障害となり、嗜好性の高いタンパク質高濃度含有加工食品を調製することは困難であった。 【0005】 チーズ、バターやカゼインの製造時に発生する牛乳乳清中のタンパク質は、低利用余剰資源であった。乳清タンパク質は分離・精製技術の進歩に伴い、主として加工食品用食品素材として利用されてきた。しかし、乳清タンパク質食品素材には透明性、高塩濃度下での加熱ゲル形成性、乳化安定性や消化性などに難点があった。これらの難点が改善された改質乳清タンパク質(特許文献1〜3及び非特許文献1参照)が知られている。しかし、いずれの乳清タンパク質も酸性域においては強い渋味・収斂味を有する(江頭、佐野、杵川、北畠,日本食品科学工学会2003年度大会)。また、牛乳カゼインや大豆タンパク質や卵白タンパク質においても同様の不快味を呈する。 【0006】 渋味とよく似た食味には、キニーネなどに代表される苦味がある。苦味は舌上皮細胞上に存在するレセプターを介した反応であることが知られている。一方、例えば渋茶を口に含んだ場合に感じる渋味は、茶中のタンニンなどのポリフェノール類が唾液中のタンパク質(プロリン・リッチ・プロテイン)と複合体や凝集体を形成し、これらが舌上皮や口腔内上皮に存在する脂質二重層膜に沈殿することによる味刺激であることが報告されており(非特許文献2参照)、苦味と渋味は全く異なるメカニズムによる食味であることが知られている。しかし、酸性域でタンパク質が呈する渋味のメカニズムに関する詳細な報告はまだ見あたらない。 【0007】 渋味の改善方法としては、スクラロース(特許文献4参照)やアスパルテーム(特許文献5参照)などの甘味料、キトサン類(特許文献6参照)、モノまたはジグリセリド・ポリカルボン酸エステルの金属塩またはアミノ酸塩(特許文献7参照)などの、マスキング剤を添加する方法が知られている。しかし、酸性域におけるタンパク質そのものが呈する渋味・収斂味の低減技術は発明されていない。 【特許文献1】特許第3065116号公報 【特許文献2】特許第3050483号公報 【特許文献3】特公平6−101986号公報 【特許文献4】特開平10−262601号公報 【特許文献5】特開平10−248501号公報 【特許文献6】特開2000−229862号公報 【特許文献7】特開平8−332051号公報 【非特許文献1】日本食品科学工学会誌第44巻,第9号,p.599-606 (1997) 【非特許文献2】Haslam&Lilley,Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 1988 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 このようなタンパク質素材を、酸性域でも不快な渋味や収斂味を呈しにくいものに加工する技術が得られれば、前記の健康補助食品や介護食品などを、よりおいしく、食べやすくすることができ、その用途を拡大できると考えられる。そこで、本発明は、酸性域でも渋味・収斂味を呈しにくい食品素材タンパク質加工品と、当該タンパク質を含有する食品の製造方法を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明で定義する収斂味とは、強度の渋味刺激、長時間持続する渋味刺激である。 本発明では、牛乳乳清タンパク質、牛乳カゼイン、大豆タンパク質及び卵白タンパク質からなる群から選ばれるタンパク質を、でんぷん分解糖存在下で加熱を行う、または、これらのタンパク質をpH7.5以下で加熱・冷却した後、でんぷん分解糖存在下で再度加熱を行うことにより、酸性域でも渋味・収斂味を呈しにくいタンパク質加工品を製造することを可能とした。さらに、このようにして得たタンパク質加工品をタンパク質源として添加することにより、酸性域でも渋味・収斂味を呈しにくいタンパク質含有食品を製造することを可能とした。 【0010】 牛乳乳清タンパク質としては、例えばチーズやバター、カゼイン製造工程の副産物として得られた乳清中のタンパク質画分を、例えば限外濾過法やクロマトグラフィなどにより濃縮・精製したものを用いる。また、WPC(Whey Protein Concentrate)、WPI(Whey Protein Isolate)、TMP(Total Milk Protein)、MPC(Milk Protein Concentrate)あるいはコプレシピテイト(Co precipitate)などの牛乳乳清タンパク質を用いることもできる。牛乳カゼインは、ナトリウム、カルシウム、カリウムまたはマグネシウム塩も利用できる。大豆タンパク質としては、脱脂大豆中のタンパク質画分を濃縮・精製したもので、濃縮大豆タンパク質、抽出大豆タンパク質および大豆タンパク質分離物が利用できる。卵白タンパク質は鶏卵白中のタンパク質画分を濃縮・精製したものを利用することができる。いずれのタンパク質も精製度合いとしては特に限定されないが、イオン強度25mM以下が望ましい。 【0011】 でんぷん分解糖としては、粉体または液状のデキストリン、マルトデキストリン、粉あめや水飴などが利用できる。分解度としては、DE(Dextrose Equivalent)3〜40が望ましい。また、添加量としてはタンパク質とでんぷん分解糖の固形分重量比率が1:1〜1:20程度となるようにするのが望ましく、タンパク質液におけるでんぷん分解糖の含有量が10〜70重量%、特に30〜50重量%であるようにするのが望ましい。 【0012】 牛乳乳清タンパク質を、でんぷん分解糖存在下で加熱を行う場合、加熱時のpHは、特に限定されないが、酸性域で利用し易い7以下であるのが望ましい。タンパク質は2〜20重量%の水溶液として使用するのが望ましく、加熱温度としては、使用するタンパク質の変性温度以上であればよいが、70〜120℃であるのが望ましい。加熱時間は特に限定されないが、通常30分〜120分間程度でよく、加熱後は自然または強制的に室温以下に放冷または冷却するのがよい。 【0013】 牛乳乳清タンパク質を、pH7.5以下で加熱・冷却後、でんぷん分解糖存在下で再度加熱を行う場合には、初段の加熱条件がpH7.5以下であれば、いずれのpH域でも利用できる。タンパク質濃度としては、2〜20重量%が望ましく、加熱温度としては、使用するタンパク質の変性温度以上であればよいが、70〜120℃が望ましい。加熱時間は通常30分〜120分間程度でよい。加熱後は自然または強制的に室温以下に放冷または冷却する。次いででんぷん分解糖を加えた後の加熱条件は、pH7以下、70〜120℃、30分〜120分間が望ましい。加熱後は自然または強制的に室温以下に放冷または冷却する。 【0014】 本発明により調製したタンパク質を0.1〜20重量%添加したタンパク質含有加工食品は、pH5以下というような酸性域であっても、タンパク質特有の渋味や収斂味を呈することなく、非常に口当たりの良い食品となる。例えば、弱酸性〜酸性域の固形状食品、ゼリー状食品、ゾル状食品または液状食品の何れにも、タンパク質を含有させることが可能となるのである。固形状食品としては特に限定されないが、菓子類、食肉・水産加工品などである。ゼリー状食品、ゾル状食品としては特に限定されないが、デザート類、健康補助食品、医療食品、高齢者対応機能性食品、介護食品、病者用食品やスポーツ栄養補強食品などである。液状食品としては、嗜好性飲料、スポーツ飲料、健康補助食品、医療食品、高齢者対応機能性食品、介護食品や病者用食品などである。 【0015】 酸性域において食品タンパク質が渋味・収斂味を呈するであろうと言うことは、これまでに漠然と知られていた。しかし、牛乳乳清タンパク質の酸性域における渋味・収斂味については詳細な研究はなかった。前述の通り筆者らは、渋味の定量系を確立することにより酸性領域において牛乳乳清タンパク質が未変性/変性に関わらず、渋味・収斂味を呈することを見いだした。 【発明の効果】 【0016】 本発明では、乳清タンパク質、カゼイン、大豆タンパク質および卵白タンパク質が酸性域で呈する強い渋味や収斂味を低減することにより、これらのタンパク質を酸性域の加工食品用素材として利用することが可能となる。さらに、本発明により得られたタンパク質素材を用いた液状からゲル状の加工食品は、呈味性に優れた健康補助食品、医療食品、高齢者対応機能性食品、介護食品、病者用食品やスポーツ栄養補強食品などの高タンパク質含有食品に利用することが可能である。 【発明を実施するための最良の形態】 【0017】 次に、本発明の開発の経緯を示す実験例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。 この例では、牛乳乳清タンパク質(WPI)は、粗タンパク質95%(ドライベース、ケルダール法)、灰分3%(灰化法)、ラクトース1%、粗脂肪1%(酸分解法)、水分5%(常圧乾燥法)を成分とする乳清タンパク質分離物(商品名:ダイイチラクト、第一化成製)を用いた。これを12%になるように蒸留水に溶解し、最終的に104倍容量の蒸留水に対して透析を行い試験用のタンパク質液とした。WPI溶液のpHを2 M 塩酸または水酸化ナトリウムで7.0または3.5に調整後、タンパク質濃度を5%に調整し、90℃で30分間加熱した。pH7.0および3.5で加熱して得られた改質乳清タンパク質をそれぞれPWP、aPWPとした。牛ゼラチン(牛皮膚由来、Type B、ゲル強度225Bloom)および豚ゼラチン(豚皮膚由来、Type A、ゲル強度300 Bloom)はSigma社より購入し、5%懸濁液を60℃で10分間加温溶解して使用した。タンニン酸は和光純薬工業から購入した。 【0018】 乳清タンパク質およびゼラチン溶液のpHを2M塩酸で3.5に調整後、104倍容量の5mMリン酸緩衝液(pH3.5)に対して透析した。透析した溶液のpHを5mMリン酸緩衝液で正確に3.5に調整後、所定のタンパク質濃度に希釈したものを渋味評価試料とした。 【0019】 官能検査は28〜37歳の健康な男性7名のパネラーで行った。官能検査は検査毎に被験者に口腔を充分に蒸留水で洗浄させた後、直ちに行った。検査後の口腔の洗浄は150 mM 塩化ナトリウム/10 mM リン酸緩衝液(pH 7.4)で口腔を洗浄させることで行った。検液の溶媒は2.5 mLの5 mM リン酸緩衝(pH3.5)であり、検液の温度を一定にするため検査前に少なくとも2時間室温放置した。評点法による渋味の官能評価は、標準渋味試料としてタンニン酸を用いた。 【0020】 [渋味スコアの標準化] 任意濃度のタンニン酸液を、あらかじめスコアを設定した既知濃度のタンニン酸液の渋味の程度と比較することにより、渋味スコアの標準化を次の手順で行った。 0, 0.343, 0.537, 0.842および1.319 mM タンニン酸の渋味スコアがそれぞれ0, 2, 4, 6および8の渋味標準試料とし、0.343, 0.429, 0.537, 0.673, 0.842, 1.054, 1.319, 1.651および2.066 mM のタンニン酸液を評価試料として渋味を評価した結果をグラフ(図1)にプロットし検量線を作成し、次式を得た。 . 渋味スコア = 4.49985 Lnタンニン酸濃度(mM) + 6.32211 この検量線より、0, 0.383, 0.597, 0.931, 1.452および2.264 mMタンニン酸の渋味スコアを0, 2, 4, 6, 8および10とした。 評点法による渋味の評価はこれらを渋味標準試料として用いて行った。渋味スコアと官能評価との関係は、0は渋味を全く感じない、2はごく僅かに渋味を感じる、4は僅かに渋味を感じる、6は明らかに渋味を感じる、8〜10は強い渋味・収斂味を感じる、となる。 【0021】 「評点法を用いた渋味評価試料の渋味スコアの測定] pH 3.5、タンパク質濃度0.25、 0.5および1%のときのWPI、PWPおよびaPWPの渋味スコアを測定した結果、タンパク質濃度1%においてWPI, PWP, およびaPWPはいずれも8〜9の渋味スコアに相当する強い渋味・収斂味を呈した。渋味の強度はタンパク質濃度の増加に依存して上昇したが、試料間に強度の差は見られなかった。 【0022】 一方、牛および豚ゼラチンについて同様に渋味の強さを評価した結果、渋味スコアは1〜2であり、明確な渋味は呈しなかった。また、タンパク質濃度に依存した渋味の増加は見られず、pH 3.5においてゼラチンは明確な渋味を呈さなかった。また、同様の試験をカゼイン(ナカライテスク製試薬カゼイン(牛乳由来)を等電点沈殿法で再精製したもの)および大豆タンパク質分離物(脱脂大豆粉より等電点沈殿法で分離精製したもの)を用いて行ったところ、WPI,およびPWPと同等の渋味・収斂味を呈することが確認できた。データの一部を図2に示す。 【0023】 以上の試験から、渋味の程度がタンニン酸を指標とした評点法によって、渋味スコアを用いて定量化できることが確認できた。さらに、乳清タンパク質は未変性、変性に関わらず酸性域で渋味を呈することが明らかとなった。 【0024】 牛乳乳清タンパク質などのタンパク質の等電点は一般的にpH5付近である。例えばpH3に調製した乳清タンパク質は、未加熱/加熱に関わらず渋味・収斂味を呈する。本発明者らはこの味刺激は、タンパク質液のpHが一般的に中性付近にある唾液により上昇し、等電点域を通過する際に形成した凝集体が、舌上皮や口腔内の上皮に存在する脂質二重層膜に沈殿することにより発現すると考えた。そこで、タンパク質に多量の糖類を付加させることにより、酸性域においてタンパク質部分が脂質二重層膜へ直接接触することを阻害できると考え、種々の実験や検討を行った。その結果、牛乳乳清タンパク質などをでんぷん分解糖共存下で加熱することにより課題を克服することができた。本発明によるタンパク質−でんぷん分解糖反応物は、化学的合成反応や酵素処理は用いておらず、加熱処理のみを利用しているので合成品ではなく食品として利用することには何ら問題はない。 【実施例】 【0025】 以下、本発明の実施例を説明する。実施例において%は、特に断りがない限り、重量%を示す。 [実施例1] 牛乳乳清タンパク質(WPI)として、粗タンパク質95%(ドライベース、ケルダール法)、灰分3%(灰化法)、ラクトース1%、粗脂肪1%(酸分解法)、水分5%(常圧乾燥法)を成分とする乳清タンパク質分離物(商品名ダイイチラクト、第一化成製)を用い、でんぷん分解糖として、DE(ブドウ糖当量:Dextrose Equivalent)3〜5,8,19,33および40のマルトデキストリンを用いて以下の実験をした。 水に対して十分透析を行ったWPIを、タンパク質含量が5%で、でんぷん分解糖濃度(粉体換算)が10%、20%、30%、50%および70%であるpH7の水溶液に調製した後、密封系で90℃で120分の加熱を行い、室温まで十分に放冷した。本操作により、透明〜半透明の粘稠性のタンパク質液が得られた。このタンパク質液に塩化ナトリウムを添加し加熱を行うことにより、透明〜白濁したゾル〜ゲルが得られた。 次いで、各試料液のpHを2M塩酸を用いて3.5に調整した後、5mM、pH3.5のリン酸緩衝液を用いてタンパク質濃度1%に希釈し、官能検査用試料とした。本試料を、前述のタンニン酸を指標とした評点法を用いた官能検査(28〜37歳、男7名)を行い、渋味の強度を渋味スコアとして測定した。 その結果を図3に示す。 【0026】 でんぷん分解糖を添加しないで加熱を行ったWPIのpH3.5における渋味スコアは10であり、極めて強い渋味・収斂味を呈した(でんぷん分解糖濃度0%、Y軸上の点)が、DE19のでんぷん分解糖を添加し、加熱処理を行ったもの(■)では、でんぷん分解糖の添加量に依存して渋味スコアは明らかに低下した。DE3〜5(●)、8(◆)、33(○)および40(□)においても全く同様の結果が得られた。 【0027】 通常、でんぷん分解糖のDE値は、でんぷんの分解率のおおよその指標として利用されているが、狭義には甘味の指標ともなる。強い甘味は渋味を若干マスクすることが考えられるが、本試験で用いたDE19以下のでんぷん分解糖は、原体粉末を直接口にしてもほとんど甘味は感じず、DE33と40のものも、同濃度の砂糖やブドウ糖と比較して明らかに低い甘味を呈するものであった。また、予備試験にて、でんぷん分解糖を添加しないで加熱を行ったWPIのpH3.5の水溶液に、砂糖やブドウ糖を添加したものは、口に含んだ直後の渋味は若干低減されたが(甘味によるカバーリング効果)、経時的におこる甘味刺激の低下に伴い渋味の強度は回復した。このことは、単糖や二糖類の甘味だけでは、甘味の刺激が口腔内にある間しか渋味の低減効果はなく、この効果が一時的であることを示している。これに比し、DE3〜40のでんぷん分解糖を添加し加熱処理を行った乳清タンパク質は、酸性域における渋味そのものが低減されていることが確認できた。 また、DE3〜40のでんぷん分解糖存在下で、pH7、実質的無塩状態で加熱を行ったWPIは、元の乳清タンパク質では得られない透明性や粘性・ゲル化特性などを有した状態で、酸性域での渋味・収斂味が顕著に低下することが確認できた。本法により調製された乳清タンパク質は、例えば飲料、ゼリーなどの食品に利用することができる。 【0028】 [実施例2] 実施例1に示すWPIとDE19のでんぷん分解糖を用い、タンパク質含量5%、でんぷん分解糖濃度(粉体換算)50%、pH7の水溶液を調製した後、密封系で90℃で30、60、90および120分間の加熱を行った。室温まで十分に放冷した後、各試料液のpHを2M塩酸を用いて3.5に調整した後、5mM、pH3.5のリン酸緩衝液を用いてタンパク質濃度1%に希釈し、官能検査用試料とした。本試料を実施例1と同様の方法を用いて渋味スコアを測定した。 結果を図4に示す。 でんぷん分解糖を添加しないで90℃で30分間の加熱を行ったWPIのpH3.5における渋味スコアは9であり、極めて強い渋味・収斂味を呈した(○)が、DE19のでんぷん分解糖を50%添加し、90℃で加熱処理を行ったもの(●)は、30分後で渋味スコアは4となり、著しく渋味の強度は低下した。加熱時間を30から120分間行った場合の渋味スコアは4〜5であり、いずれの加熱時間でも渋味低減効果に差はなかった。 【0029】 [実施例3] 実験材料としては実施例1に示す、WPIとDE3〜5,8,19,33および40のでんぷん分解糖を用いた。水に対して十分透析を行ったWPIを、タンパク質含量5〜10%、pH7、実質的に無塩状態で90℃、30分間の加熱を行い、室温まで十分に放冷し、改質乳清タンパク質(PWP)を調製した。実質的無塩状態、pH4以下または6以上で加熱処理した改質乳清タンパク質には、透明性や物性など元の乳清タンパク質にはない優れた特性を有していることが知られている(特許文献1〜3及び非特許文献1参照)。改質乳清タンパク質濃度5%、でんぷん分解糖濃度(粉体換算)10,20,30,50および70%、pH7の水溶液を調製した後、密封系で再度90℃で120分間の加熱を行い、室温まで十分に放冷した。本操作により、透明〜半透明の粘稠性のタンパク質液が得られた。本タンパク質液に塩化ナトリウム(25〜300mM)を添加し加熱を行うことにより、透明〜白濁したゾル〜ゲルが得られた。 各試料液のpHを2M塩酸を用いて3.5に調整した後、5mM、pH3.5のリン酸緩衝液を用いてタンパク質濃度1%に希釈し、官能検査用試料とした。 本試料を実施例1と同様の方法を用いて渋味スコアを測定した。 結果を図5に示す。 【0030】 でんぷん分解糖を添加しないで加熱を行ったPWPのpH3.5における渋味スコアは10(でんぷん分解糖濃度0%、Y軸上の点)であり、極めて強い渋味・収斂味を呈した。一方、DE19のでんぷん分解糖を添加し、加熱処理を行ったもの(■)では、でんぷん分解糖の添加量に依存して渋味スコアは明らかに低下した。DE3〜5(●)、8(◆)、33(○)および40(□)のでんぷん分解糖を添加したものにおいても全く同様の結果が得られた。 【0031】 PWPに、DE3〜40のでんぷん分解糖を添加し、加熱処理を行ったものは、でんぷん分解糖を添加し再加熱処理を行う前のタンパク質液(改質乳清タンパク質)が有していた透明性や粘性・ゲル化特性などを維持したまま、酸性域での渋味・収斂味が顕著に低下することが確認できた。本法により調製された乳清タンパク質は、例えば飲料、ゼリーなどの食品に利用することができる。 【0032】 [実施例4] 実施例1に示したでんぷん分解糖共存下で加熱したWPIの渋味低減効果が、官能検査時に用いた試験液中に存在した過剰の(フリーの)でんぷん分解糖によるものであるか否かについて検討を行った。 実施例1と2と同様の方法を用いて、DE8のでんぷん分解糖を添加し加熱処理を行った乳清タンパク質液を調製した。タンパク質含量は5%、でんぷん分解糖の添加量は50%、加熱処理は90℃、30分とした。次いで、試験液中の過剰の(フリーの)でんぷん分解糖を分画分子量300,000Daの限外濾過を用いて(UF法)除去した。試験液のpHを7に調整し、4倍量の蒸留水で希釈を行った後、元の試験液と同容量になるまでUF処理を行った。このUF処理を6回繰り返し、各回毎に試験液中に残存しているでんぷん分解糖の量を、フェノール硫酸法を用いて測定した。試料液中に残存した過剰のでんぷん分解糖は、初回のUF処理後で処理前の20%以下となり、3回処理後ではほぼ0となった。 UF処理を6回くりかえした試験液の渋味スコアを、実施例1および2と同様の方法を用い測定した結果を図6に示す。対照として、WPI、WPIとでんぷん分解糖の混合物およびWPIとでんぷん分解糖の加熱処理したものを用いた。 【0033】 WPIのpH3.5における渋味スコアは、でんぷん分解糖を添加することにより若干低下したが、加熱処理を行うことにより渋味スコアは大きく低下した。一方、過剰のでんぷん分解糖を完全に除去した試験液においても、渋味スコアは有意に低いことが確認できた。これらの結果から、乳清タンパク質をでんぷん分解糖共存下で加熱処理を行うことにより、タンパク質とでんぷん分解糖の複合体が形成されたために、酸性域において舌上皮や口腔内の上皮に存在する脂質二重層膜へのタンパク質部分の直接的な沈着が緩和されたことにより渋味が低減したと考察した。また、試験液中に残存したでんぷん分解糖そのものによる渋味低減効果は、ごく僅かであることが確認できた。 【0034】 [実施例5] 実施例3と同様の方法を用いて、PWPにDE8のでんぷん分解糖を添加し、再度加熱処理を行った乳清タンパク質液を用いて、実施例4と同様の試験を行った結果を図7に示す。タンパク質含量は5%、でんぷん分解糖の添加量は50%、pH7、加熱処理は90℃、30分とした。 PWPのpH3.5における渋味スコアは、でんぷん分解糖を添加することにより若干低下したが、でんぷん分解糖を添加し、再度加熱処理を行うことにより渋味スコアは大きく低下した。一方、過剰のでんぷん分解糖を完全に除去した試験液においても、渋味スコアは有意に低いことが確認できた。これらの結果から、渋味の低減効果は、PWPをでんぷん分解糖共存下で加熱処理を行うことにより、タンパク質とでんぷん分解糖の複合体が形成されたために、酸性域において舌上皮や口腔内の上皮に存在する脂質二重層膜へのタンパク質部分の直接的な沈殿が緩和されて得られたことが示唆された。また、試験液中に残存したでんぷん分解糖そのものによる渋味低減効果は、ごく僅かであることが確認できた。 【0035】 [実施例6] 実験材料としてカゼイン(ナカライテスク製試薬カゼイン(牛乳由来)を等電点沈殿法で再精製したもの)、大豆タンパク質分離物(脱脂大豆粉より等電点沈殿法で分離精製したもの)、乾燥卵白末(第一化成製)およびDE8のでんぷん分解糖を用いた。実施例1に示す方法を用い各タンパク質をでんぷん分解糖存在下で加熱処理を行った。タンパク質含量は3%、でんぷん分解糖の添加量は50%、pH7、加熱処理は90℃、30分とした。 加熱処理後の各タンパク質液の渋味スコアを、実施例1に示す方法を用いて測定した。結果を図8に示す。 試験結果から、カゼイン、大豆タンパク質および卵白タンパク質は酸性域で強度の渋味を呈したが、でんぷん分解糖共存下で加熱処理を行うことにより、渋味が低下することが確認できた。 【0036】 [実施例7] 実験材料として、実施例1および3に示すWPIおよびPWPとDE8のでんぷん分解糖を用いた。実施例1および3に示す方法を用いて試料タンパク質液を調製した。タンパク質含量は5%、でんぷん分解糖の添加量は50%、pH7、加熱処理は90℃、30分とした。得られたタンパク質液を凍結乾燥(ヤマト社製ネオクール)した。凍結乾燥後の両試料を蒸留水に溶解後、2M塩酸を用いてpH3.5に調整した後、5mM、pH3.5のリン酸緩衝液を用いてタンパク質濃度1%に希釈し、官能検査用試料とした。本試料を実施例1と同様の方法を用いて渋味スコアを測定した。結果を図9に示す。 実施例1および3に示す方法で調製し凍結乾燥した両乳清タンパク質の渋味低減効果は、凍結乾燥により損なわれないことが確認できた。このことから、本発明により得られた乳清タンパク質を加工食品用の食品素材として簡易に取り扱うことができることが確認できた。 【0037】 [実施例8] 実施例1および3に示すWPIおよびPWPとDE8のでんぷん分解糖を用い、実施例1および3の方法を用いて試料タンパク質液を調製した。タンパク質含量は5%、でんぷん分解糖の添加量は50%、pH7、加熱処理は90℃、30分とした。得られた試料タンパク質液は、UF法を用いて、タンパク質濃度6.4%に濃縮した後、1Mリン酸を用いてpHを3.5に調製した。 試料タンパク質液(タンパク質濃度6.4%、pH3.5)78.5%、砂糖混合異性化糖12%、ビタミンB20.05%、レモン香料0.05%および飲料水9.4%のレシピを用いて酸性タンパク質飲料を調製した。 試作手順としては、(1)ビタミンB2を飲料水に溶解、(2)実施例1または3の試料タンパク質および、対照として、でんぷん分解糖無添加品と砂糖混合異性化糖を添加混合する、(3)香料を添加、(4)容器に充填後、90℃で20分間加熱、(5)急冷、を行った。これらの操作により透明で僅かに粘稠な飲料が調製できた。飲料のpHは3.5、タンパク質含量は5%であった。 得られた酸性タンパク質飲料を実施例1に示す方法を用いて渋味スコアを測定した。結果を図10に示す。 【0038】 渋味低減化処理を行っていない、WPIおよびPWPを用いた酸性タンパク質飲料は、極めて強い渋味・収斂味を呈していた。一方、でんぷん分解糖共存下で加熱処理を行ったWPIおよびPWPを用いた飲料の渋味は、顕著に低減されており、渋味の程度は、市販の非タンパク質系嗜好性飲料と大差はなかった。この結果から、本発明によりさわやかな酸味を有し渋味・収斂味を呈しないタンパク質を5%含有する飲料を調製できることが確認できた。 【0039】 [実施例9] 実施例1に示すWPIとDE8のでんぷん分解糖を用い、実施例1および3の方法を用いて試料タンパク質液を調製した。タンパク質含量は5%、でんぷん分解糖の添加量は50%、pH7、加熱処理は90℃、30分とした。得られた試料タンパク質液は、UF法を用いて、タンパク質濃度10.8%に濃縮した後、1M塩酸を用いてpHを3.5に調製した。 試料タンパク質液(タンパク質濃度10.8%、pH3.5)89.9%、アスパルテーム製剤5%、5%乳酸カルシウム水溶液5%、ビタミンB20.05%、およびレモン香料0.05%のレシピを用いて酸性タンパク質ゼリーを調製した。 試作手順としては、(1)アスパルテーム製剤およびビタミンB2を飲料水に溶解、(2)実施例1または3の試料タンパク質および、対照として、でんぷん分解糖無添加品を添加混合する、(3)香料を添加、(4)容器に充填後、90℃で40分間加熱、(5)急冷、を行った。これらの操作によりでんぷん分解糖無添加のPWPと実施例1および3を用いたものは透明ゼリーが調製できたが、でんぷん分解糖無添加のWPIではゼリー状にはならず、白濁沈殿した。 【0040】 得られた酸性タンパク質ゼリーと白濁沈殿を実施例1に示す方法を用いて渋味スコアを測定した。その結果、渋味低減化処理を行っていない、WPIおよびPWPを用いた白濁沈殿とゼリーは、極めて強い渋味・収斂味を呈していたが、でんぷん分解糖共存下で加熱処理を行ったWPIおよびPWPを用いたゼリーの渋味は、顕著に低減されており、渋味の程度は、市販のデザートゼリーと大差はなかった。この結果から、本発明によりさわやかな酸味を有し渋味・収斂味を呈しない高タンパク質ゼリーを調製できることが確認できた。 【図面の簡単な説明】 【0041】 【図1】図1は、渋味、収斂味の基準としてタンニン酸を用いて評点法で作成した検量線を示すグラフである。 【図2】図2は、評点法を用いた、酸性域におけるタンパク質の渋味スコアを示すグラフである。 【図3】図3は、DE3〜40のでんぷん分解糖を10〜70%添加し、加熱処理したWPIの渋味スコアを示すグラフである。 【図4】DE19のでんぷん分解糖を50%添加し、90℃で30〜120分間加熱処理したWPIの渋味スコアを示すグラフである。 【図5】PWPをでんぷん分解糖存在下で再加熱処理したときの渋味スコアを示すグラフである。 【図6】本発明の一例によってWPIより調製した乳清タンパク質液中の過剰のでんぷん分解糖を除去したときの渋味スコアを示すグラフである。 【図7】本発明の一例によってPWPより調製した乳清タンパク質液中の過剰のでんぷん分解糖を除去したときの渋味スコアを示すグラフである。 【図8】でんぷん分解糖存在下で加熱を行った食品タンパク質の酸性域における渋味スコアを示すグラフである。 【図9】凍結乾燥(FD)を行ったでんぷん分解糖存在下加熱処理乳清タンパク質の渋味スコアを示すグラフである。 【図10】でんぷん分解糖存在下加熱処理乳清タンパク質を添加した酸性タンパク質飲料の渋味スコアを示すグラフである。
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| 【出願人】 |
【識別番号】591054602 【氏名又は名称】株式会社第一化成 【識別番号】504132272 【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
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| 【出願日】 |
平成16年3月3日(2004.3.3) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100068032 【弁理士】 【氏名又は名称】武石 靖彦
【識別番号】100080333 【弁理士】 【氏名又は名称】村田 紀子
【識別番号】100115222 【弁理士】 【氏名又は名称】徳岡 修二
【識別番号】100124796 【弁理士】 【氏名又は名称】重本 博充
【識別番号】100125586 【弁理士】 【氏名又は名称】大角 菜穂子
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| 【公開番号】 |
特開2005−245290(P2005−245290A) |
| 【公開日】 |
平成17年9月15日(2005.9.15) |
| 【出願番号】 |
特願2004−59561(P2004−59561) |
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