トップ :: A 生活必需品 :: A23 食品または食料品;他のクラスに包含されないそれらの処理




【発明の名称】 脱イオン処理チョコレート及びその製造方法
【発明者】 【氏名】山本一也

【氏名】大久保泰宏

【要約】 【課題】添加量が少なくなくて済むジグリセリンモノ脂肪酸エステルを用いた含気チョコレートの製造において、起泡力が低下せずに安定したチョコレートを作成する。

【解決手段】粉乳やクリームパウダーから、水中においてイオン化しうる形態のカルシウムまたはその化合物などの複合成分を除去することにより、チョコレートの起泡力の低下を大幅に遅延できた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳固形分を含有するチョコレートであって、水中においてイオン化しうる形態のカルシウム、またはその化合物などの複合成分を含有しないことを特徴とするチョコレート、および、その製造方法。

【請求項2】
請求項1に記載のチョコレートが、炭素数14、16、または18からなる飽和脂肪酸をその構成成分とするジグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有することを特徴とする、チョコレートまたはその製造方法。

【請求項3】
請求項1または2に記載のチョコレートを含気させることを特徴とする、含気チョコレートまたはその製造方法。

【請求項4】
チョコレート製造に用いる粉乳が、水中においてイオン化しうる形態のカルシウム、またはその化合物などの複合成分を含有しないようにあらかじめ処理された脱イオン粉乳であることを特徴とする、請求項1〜3に記載のチョコレート、含気チョコレート、およびそれらの製造方法。

【請求項5】
脱イオン粉乳が、生乳、または、粉乳を水に懸濁・分散させたものを、透析または/およびイオン交換した後に、乾燥させることにより製造されたものであることを特徴とする、請求項4に記載のチョコレート、または、含気チョコレート、およびそれらの製造方法。

【請求項6】
脱イオン粉乳が、生乳、または、粉乳を水に懸濁・分散させたものに、反応成分を添加・混合した後に、乾燥させることにより製造されたものであることを特徴とする、請求項4に記載のチョコレート、含気チョコレート、および、それらの製造方法。

【請求項7】
反応成分と、一般的な粉乳およびその他原料とを混合する工程を包含することを特徴とする、請求項1〜3に記載のチョコレート、含気チョコレート、およびそれらの製造方法。

【請求項8】
反応成分と、一般的な粉乳およびその他原料とを混合する工程が、リファイニング工程の前であることを特徴とする、請求項7に記載のチョコレート、含気チョコレート、およびそれらの製造方法。

【請求項9】
請求項1〜8に記載のチョコレートまたは含気チョコレートが、焼き菓子にほぼ均一な厚みで被覆されたチョコレート被覆菓子。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、水中においてイオン化しうるカルシウム成分を含有しない含気チョコレート、およびその製造方法を提供し、これにより、製造したチョコレートの経時的な起泡性の低下を抑制することを目的とする。

【背景技術】
【0002】
含気チョコレートは、溶融状態のチョコレートに空気を多く抱き込ませた後に、固化することにより製造される食品であり、多くの製品が従来から知られている。
含気チョコレートの製造方法として、溶融状態のチョコレートを撹拌して微小な気泡をチョコレート中に取り込ませた後、これを減圧して微小な気泡を粗い気泡とした状態下で固化することにより製造する方法や、連続式発泡機で空気を加圧注入しつつ溶融状態のチョコレートを強力に撹拌することにより含気させた後、これを固化することにより製造する方法、などが用いられている。

【0003】
しかしながら、チョコレートに空気を抱き込ませると、抱き込ませた空気量が多くなるにつれてチョコレートの流動性は著しく低下し、いわゆる“ボテ”た状態になる。このような状態になると、チョコレートの本来有する良好な流動性が失われる。

【0004】
さらに、いずれの場合も気泡を十分にチョコレート中に分散・維持するためにはチョコレートを冷却してチョコレート中の油脂を一部結晶化させる必要があるが、結晶が生成することによりさらに流動性が悪化してしまい、加えて、結晶の成長が進行するため経時的流動性の低下が著しい。そのため、このような状態の含気チョコレートはチョコレート本来の自由に成形できるといった特性がなく、特に棒状の焼き菓子などの表面に均一に被覆することは困難であった。

【0005】
これを回避する方法として、食品用乳化剤をチョコレートに添加する方法が種々考案されているが、多くの場合、十分な効果を得るために必要な乳化剤の添加量が多いために、含気前のチョコレートの粘度が上昇してしまい、結果的に含気後の流動性を十分に改善することができない。そのため、このような含気チョコレートを棒状の焼き菓子などの表面に均一に被覆することは容易でない。さらに、乳化剤の苦みやエグ味が認められるようになりチョコレートの風味を損なってしまう

【0006】
そこで添加量をできるだけ少なくできる乳化剤として炭素数14〜18からなる飽和脂肪酸を構成成分とするジグリセリンモノ脂肪酸エステル(以下、DGMFという)を用いる技術が特許第3421285号で開示されている。
【特許文献1】特許第3421285号公報
【0007】
しかし、この乳化剤を使用して含気チョコレートを作成する場合、乳化剤を添加した直後は良好な含気チョコレートが得られるが、徐々に起泡力が低下する傾向がある。一般的には、数時間を経て、含気チョコレートのオーバーランが不十分になる。このような状況ではチョコレートの起泡力が安定せず、安定した品質の含気チョコレート製品を連続的に生産することが困難であったため、チョコレートの起泡力の安定化が強く望まれていた。

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況に鑑み、DGMFを用いた含気チョコレートの製造において、起泡力が低下せずに安定したチョコレートを作成することを目的とした。

【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、まず起泡力低下の原因を検討した結果、水中においてイオン化しうる形態のカルシウム、またはその化合物などの複合成分(以下、可イオン化カルシウムという)が、油脂中においてDGMFと複合物を形成することにより、チョコレートの起泡力が低下することを突き止めた。すなわち、DGMFを油脂に溶解させたものに可イオン化カルシウムとして塩化カルシウムの粉末を添加すると、DGMFが油脂から分離析出することが明らかとなった。そこで、可イオン化カルシウムを除去することにより、チョコレートの起泡力の低下を大幅に遅延しうることを見出し、本発明を完成した。ただし、チョコレート中の可イオン化カルシウムは粉乳に由来するものであるので、粉乳やクリームパウダーなどを全く含まない、いわゆるブラックチョコレートでは気泡性の低下が認められないため、本発明は、ミルクチョコレートやホワイトチョコレートに対して有効である。

【発明の効果】
【0010】
本発明により、DGMFを使用した含気チョコレートの起泡力低下の進行を抑制することで、安定した品質の含気チョコレートを連続的に生産することができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、DGMFを使用した含気チョコレートの製造方法について述べる。

【0012】
本発明で言うチョコレートとは、チョコレート、およびそれと同等の物性を有する食品を言う。すなわち、チョコレート規約に言うチョコレートや準チョコレートのみならず、カカオ分を少量しか、あるいは全く含まず、ノーテンパ型油脂(チョコレートの結晶をつくるための品温操作、いわゆるテンパリング操作が不要な油脂)を用いてチョコレートと同様の物性とした食品も包含する。ただし、乳成分を含まないものは除く。

【0013】
基本的なチョコレートの配合は、カカオマス、砂糖、ココアバター、全粉乳、レシチン、香料からなるが、これら原料の全部または一部はそれぞれ、以下のような原料に置換されることがある。例えば、砂糖の一部または全部を乳糖などの糖類や糖アルコール類、デキストリン、高甘味度剤(ステビア、スクラロースなど)に、ココアバターの一部はココアバター代用脂に、全粉乳の一部または全部は脱脂粉乳やクリームパウダーに置換されうる。カカオマスは添加されない場合もある。また、その他に色素や粘度低下用乳化剤が添加されることもある。

【0014】
チョコレートの製造は、通常、原料を計量後、混合工程、微細化工程(リファイニングという)、精練工程(コンチングという)の順に行われる。原料によっては、精練工程後に添加されるものもある。混合工程では、部分量の油脂(およびレシチン)とカカオマス、砂糖、全粉乳やそれらの置換原料など微細化を必要とする原料が混合され、その後リファイニングされる。リファイニングされた原料に再び部分量の油脂を添加し、コンチングを実施し、その後、全量にあたる油脂と香料などを添加することによりチョコレートを完成させる。

【0015】
製造したチョコレートに、融解したDGMFと補助乳化剤としてレシチンを添加することにより、乳化剤添加チョコレートとする。これを含気操作により含気チョコレートとする。DGMFとしては、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル(融点約55〜60℃)が最も好適である。
その製造方法であるが、DGMF添加チョコレートにテンパリング操作を必要に応じて実施し、これを攪拌して含気チョコレートを作成することができる。攪拌には、Hobbert社製等の卓上縦型ミキサーを使用しても良いし、Mondomix社製等の連続式加圧発泡装置を用いても良い。特にその手段を限定するものではない。また、含気させる気体は、特に大気のことを指すのではなく、必要に応じて窒素ガスや炭酸ガスなどの気体であっても構わない。

【0016】
これら一連の操作により、オーバーラン(以下、ORという)の十分な含気チョコレートを作成することができる。しかし、乳化剤添加後数時間〜数十時間を経ると、不十分なORの含気チョコレートしか得られなくなる。すなわち、徐々に起泡力が低下し、その結果、安定的な生産が困難となる。その原因が、可イオン化カルシウムの存在であることを突き止めたことから、その除去方法など、起泡性低下を抑制する方法を検討し、解決方法を見出した。ここでオーバーランとは次式で示されるものである。

【0017】
【数1】



【0018】
次に、その方法を示す。

【0019】
通常チョコレートに配合する原料のうち、可イオン化カルシウムを含有する原料は粉乳である。粉乳としては、全粉乳、脱脂粉乳の他、クリームパウダーなどの乳清ホエイ画分や乳清ミネラル画分を含有する原料が挙げられる。以下、これらの粉乳を、カルシウム含有粉乳という。これらカルシウム含有粉乳から可イオン化カルシウムを取り除いたものを脱イオン粉乳という。

【0020】
チョコレートの配合に含まれるカルシウム含有粉乳を、脱イオン粉乳に置換することにより、可イオン化カルシウムをほとんどあるいは全く含まないチョコレート(以下、脱イオン処理チョコレートという)が得られる。こうして製造した脱イオン処理チョコレートを用いてDGMFを使用した含気チョコレートを作成すると、起泡性の低下を大幅に遅らせる、あるいは、止めることができる。

【0021】
脱イオン粉乳を得る方法としては、生乳からイオンを除去した後、これを乾燥させる方法がある。生乳からイオンを除去する方法を特に限定するものではないが、例えば、物理的方法としては、透析法によるイオンの除去が挙げられる。また化学的方法としては、イオン交換法や、キレート能を有する物質あるいはカルシウムイオンと結合することで不溶性の塩を形成する物質(以下、反応成分という)の添加などが挙げられる。乾燥の方法など、脱イオン粉乳の製造方法は特に制限はない。

【0022】
また、カルシウム含有粉乳を一度水に懸濁・分散した後に、生乳の処理方法と同様の方法で脱イオン粉乳とすることも、本発明を妨げない。透析やイオン交換の方法や、反応成分の添加方法には特に制限はない。

【0023】
反応成分としては、キレート剤やカルシウムイオンと結合することで不溶性の塩を形成する酸や、それらのナトリウム塩、カリウム塩などの塩類が好適である。キレート剤としては、EDTA(エチレンジアミンテトラアセテート)、ポリリン酸、フィチン酸とそれらのナトリウム塩、カリウム塩などを例示でき、塩類としては、無機塩類であるリン酸やメタリン酸とそのナトリウム塩、カリウム塩など、有機酸塩類であるクエン酸、コハク酸、リンゴ酸、リン酸化糖とそれらのナトリウム塩、カリウム塩などが例示できる。

【0024】
チョコレート製造工程における混合工程において、通常原料とともに反応成分を添加することにより、脱イオン処理チョコレートを得ることができる。添加の時期を特に制限するものではないが、反応成分の粒度が、舌にざらつきを認める25〜30μmを超える粒子サイズであれば、チョコレートの品質上、リファイナー処理前の混合工程での添加が望ましい。反応成分がリファイナー処理を必要としない程度に微細であれば、コンチング時に添加しても良いが、反応成分が十分にチョコレート中に分散している方が効果の高いことは当然であり、製造工程のなるべく早い段階で添加する方が望ましい。

【0025】
これらの方法により製造した脱イオン処理チョコレートを用いてDGMFを使用した含気チョコレートを作成すると、起泡性低下を大幅に遅らせることができる。

【実施例】
【0026】
(実施例1および比較例1)
100gの全粉乳を200gの水によく懸濁し、これにポリリン酸ナトリウムまたはフィチン酸ナトリウムを3g添加しさらに混和した。これを凍結乾燥して、脱イオン粉乳を得た。これを用い、表1に示した配合Aでチョコレートを常法により製造した。比較例1として、全粉乳を使用した配合Bのチョコレートを用いた。作成した350gのチョコレートを65℃に加温したのち、これに全量の0.4%の粗精製レシチン(味の素(株)製)および全量の0.8%のジグリセリンモノパルミチン酸(太陽化学株式会社製、商品名「サンソフトQ−16D」)を添加し、これを均一に分散させた後、温度を33℃に調整した。こうして調製した乳化剤添加チョコレートを卓上縦型ミキサー(Hobbert Corporation製、形式N−50、速度128rpm、7分間)で攪拌してORを測定した。測定終了後、この含気チョコレートを40℃の恒温室に静置した。翌日以降の測定は、恒温室から出したこの含気チョコレートを約33℃に温度調整した後、同様に卓上縦型ミキサーで攪拌を行ない、ORを測定することにより実施した。ORは、200mlの含気チョコレートの重量から算出した。結果を表2に示すが、脱イオン粉乳を使用することにより、起泡性低下の進行が遅延された。特に、ポリリン酸ナトリウム添加時において、大幅な遅延効果が認められた。

【0027】
(実施例2および比較例2)
全粉乳100gを水4リットルに対して透析し、これを凍結乾燥することにより脱イオン粉乳を得た。透析は5℃で24時間を2回繰り返した。この脱イオン粉乳25gを40メッシュ以下のサイズまで粉砕した後、250gのココアバターと混和して50℃とした。これに1.7%の粗精製レシチンおよび3.4%のサンソフトQ−16を添加溶解して35℃に温度調整した後、実施例1と同様に攪拌して油脂のORを測定した。翌日以降の測定は、実施例1と同様に実施した。比較例2としては、全粉乳を用いた。結果を表3の結果Aに示すが、起泡性低下の進行は認められなかった。

【0028】
(実施例3および比較例3)
表1の配合Cに示した配合でチョコレートを常法により作成した。ポリリン酸ナトリウムは、混合工程で添加した。300gのチョコレートに0.4%の粗精製レシチンおよび0.8%のサンソフトQ−16Dを添加し、実施例1と同様にそれぞれのORを経時的に比較した。対象区には、ポリリン酸ナトリウムの代替に乳糖を使用した配合Dのチョコレートを用いた。結果を表3の結果Cに示すが、脱イオン粉乳を使用することにより、起泡性低下の進行が大幅に遅延された。

【0029】
(実施例4)
表1の配合Cに示したポリリン酸ナトリウムを配合した350gのチョコレートを65℃に加温した後、0.35%のレシチンおよび0.7%のサンソフトQ−16Dを添加した。これを均一に溶解させた後、テンパリング(最下点26℃、再加熱温度30℃)を行ない、実施例1と同様に攪拌することにより含気チョコレートを作成した。ORは35であった。これを直径5cm、深さ13cmの円筒形の容器に入れ、含気チョコレート液面に棒状の焼き菓子(直径5mm、長さ11cm)を3cm程度の長さを残して突き刺した後に引き上げた。これに振動を与えてチョコレートの付着量を約2.5gとした後、15℃で20分冷却してチョコレート被覆菓子を作成することができた。

【0030】
【表1】



【0031】
【表2】



【0032】
【表3】




【出願人】 【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
【出願日】 平成15年9月1日(2003.9.1)
【代理人】
【公開番号】 特開2005−73612(P2005−73612A)
【公開日】 平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願番号】 特願2003−309308(P2003−309308)