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【発明の名称】 後発酵茶飲料およびその製造方法
【発明者】 【氏名】原 詳治郎
【住所又は居所】東京都大田区羽田旭町5−14 日本たばこ産業株式会社食品開発センター内

【要約】 【課題】本発明は、抗酸化力活性の強い没食子酸を多く含み、かつカテキン類が多く含まれているにもかかわらず苦渋みが少なく、旨味とコク味とが強い後発酵茶飲料を提供することを主目的とするものである。

【解決手段】本発明は、麹菌によるスラリー発酵を行い、前記スラリー発酵終了時の茶葉懸濁液を回収し、乾燥させた茶葉における単位茶葉あたりのガレート基を有するカテキン類の抽出量が他の茶飲料に対して少なく、単位茶葉あたりの没食子酸の抽出量が他の茶飲料に対して多く、かつ単位茶葉あたりの水可溶性固形分が他の茶飲料に対して多いことを特徴とする後発酵茶飲料を提供することにより上記課題を解決する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麹菌によるスラリー発酵を行い、前記スラリー発酵終了時の茶葉懸濁液を回収し、乾燥させた茶葉における単位茶葉あたりのガレート基を有するカテキン類の抽出量が他の茶飲料に対して少なく、単位茶葉あたりの没食子酸の抽出量が他の茶飲料に対して多く、かつ単位茶葉あたりの水可溶性固形分が他の茶飲料に対して多いことを特徴とする後発酵茶飲料。
【請求項2】
後発酵茶の発酵が、原料茶葉を粉砕し、破砕した原料茶葉を水に懸濁させて行われるスラリー発酵であり、かつこのスラリー発酵が麹菌の酵素は活性を有するが麹菌は生育増殖しない温度帯で行われることを特徴とする後発酵茶飲料の製造方法。
【請求項3】
前記後発酵茶の発酵が、タンナーゼ活性および植物組織分解活性を有する麹菌を用いて行われることを特徴とする請求項2に記載の後発酵茶飲料の製造方法。
【請求項4】
前記麹菌は、後発酵茶である黒茶より単離されたものであることを特徴とする請求項3に記載の後発酵茶飲料の製造方法。
【請求項5】
前記原料茶葉が、緑茶、半発酵茶、または完全発酵茶であることを特徴とする請求項2から請求項4までのいずれかの請求項に記載の後発酵茶飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化力活性の強い没食子酸を多く含み、かつカテキン類が多く含まれているにもかかわらず苦渋味が少なく、旨味とコク味とが強い後発酵茶飲料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
茶は、その製造法の違いから、大きく不発酵茶(緑茶)、半発酵茶(烏龍茶)、完全発酵茶(紅茶)および後発酵茶(黒茶)に大別される。すなわち、不発酵茶は生茶葉を蒸熱または炒熱処理して殺青した後、揉捻、乾燥したものであり、生茶葉自身の持つ酵素群は失われている。一方、半発酵茶および完全発酵茶は、殺青を行わず、揉稔して生茶葉自体の持つ酵素群の作用で発酵を行わせた後、加熱により酵素群を失活せしめて乾燥したものであり、その発酵の程度により半発酵茶から完全発酵茶に分けられる。
【0003】
また、後発酵茶は、通常、殺青処理した不発酵茶を原料にカビを植え付け、堆積して麹菌発酵を行わせたもので、長期間発酵させたものが珍重される。この後発酵茶の特徴は、半発酵茶および完全発酵茶が生茶葉自体の酸化酵素であるポリフェノールオキシダーゼの働きにより生茶葉のポリフェノールをテアフラビン等に変換するのに対し、麹菌の持つタンナーゼの働きにより、茶葉中のガレート基を有するカテキン類が分解を受け、強い酸化防止効果を有する没食子酸を産生するとともに、同じく麹菌の有する植物組織分解酵素により茶葉由来の水可溶性固形分が産生して旨味とコク味が増していることにあると言われている。
【0004】
しかしながら、後発酵茶の一種であるプーアル茶の熱湯抽出液中のタンニンおよびカフェインの含有量は緑茶および紅茶と比較したところ、プーアル茶のカフェイン量は、緑茶や紅茶に較べて大差はないが、タンニンについては、かなり低い含有量であると言われている(下記の表1参照。非特許文献1より引用)。
【0005】
【表1】


【0006】
また、上記非特許文献1において、茶葉タンニン中の主な成分であるカテキン類について各茶葉中の含有量を測定しているが、ガレート基が結合したカテキン類が後発酵茶であるプーアル茶においては、顕著に少なくなっており、さらに各カテキン量についても、その熱湯抽出液中の含有量は、緑茶抽出液中の数%であるとしており、その理由としてカテキン類が発酵過程で酸化して含量が低下したものと考えられるとしている。
【0007】
そこで、改めて各種茶葉を熱湯抽出して、その水可溶性固形分含有値(Bx値)、タンニン測定の公定法である酒石酸・鉄比色法によるタンニン含有値および高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)による没食子酸、カテキン類含有値を測定した。後発酵茶であるプーアル茶および3年黒茶は、Bx値およびタンニン含有値、没食子酸、カテキン類の含有値は他の茶葉と較べて高いものでないことが判明した(表2および表3参照)。
【0008】
【表2】


【0009】
【表3】


【0010】
こうした実情ならびに昨今の茶カテキン類の生理的機能性への世の中の関心の高まりを鑑み、さらに飲料としての風味の向上を図る目的から、苦渋味が強いガレート基が結合したカテキン類の含有量が極力少なく、かつ没食子酸およびその他のカテキン類が多く含有され、また、茶葉植物組織が分解されて旨味、コク味の元となる水可溶性固形分が多く抽出できる新規の茶葉を製造する方法を検討することとした。
【0011】
茶葉を酵素あるいは発酵により処理する方法については、これまで、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、および特許文献6において主として紅茶のクリームダウンを防止する目的で多用されるタンナーゼを生産する麹菌であるアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)または同オリーゼ(oryzae)等による効率的タンナーゼ生産に関する技術が開示されているが、直接的に茶葉に作用させて効果を得ることを目的としたものではない。
【0012】
また、特許文献7においては、茶葉から得られた粗カテキンをタンナーゼを用いて没食子酸と遊離型カテキン類に変換せしめて、より強い抗酸化力もつカテキン類を製造する方法が提案されているが、直接的に茶葉に作用させて効果を得ることを目的としたものではなく、さらに茶葉植物組織が分解されて旨味、コク味の元となる水可溶性固形分が多く抽出できる方法に言及したものではない。
【0013】
一方、特許文献8においては、茶葉熱水浸出液にタンナーゼを添加して反応させた後、該反応液にアルカリを添加することで、新鮮な風味を有し、かつ抗酸化力の高められた茶飲料を得る方法が提案されているが、直接的に茶葉に作用させて効果を得ることを目的としたものではなく、さらに茶葉植物組織が分解されて旨味、コク味の元となる水可溶性固形分が多く抽出できる方法に言及したものではない。
【0014】
さらに、特許文献9においては、茶抽出液にアスペルギルス属が生産するクロロゲン酸エステラーゼとタンナーゼを併用させることで混濁の少ない茶飲料を製造する方法を提案しているが、これとても直接的に茶葉に作用させて効果を得ることを目的としたものではなく、さらに茶葉植物組織が分解されて旨味、コク味の元となる水可溶性固形分が多く抽出できる方法に言及したものではない。
【0015】
また、特許文献10においては、茶類原料をプロテアーゼおよびタンナーゼの存在下に抽出することにより、茶葉中のタンニンと結合したタンパクを効果的に分解することを見出してアミノ酸の遊離を促進させ、結果的に旨味とコク味を増強させて茶飲料を得る方法を提示しているが、茶葉の植物組織の効率的分解は、プロテアーゼおよびタンナーゼの存在下のみで行い得るものではなく、セルロース、ヘミセルロース、ペクチン等の多糖類の分解の組み合わせも必須要件であるし、さらにこれらの分解に伴う旨味とコク味の増強も無視できないものである。その上、麹菌によりタンパク、セルロース、ヘミセルロース、ペクチン等の多糖類の分解を行うことで、単純にプロテアーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼおよびペクチナーゼを組み合わせた場合より、より多い水可溶性固形分、タンニンおよびカテキン類の茶葉よりの水抽出が可能であり、また麹菌発酵に伴うその他の有機酸類、フレーバー等の産生が期待出来るものであるので、茶類原料をプロテアーゼおよびタンナーゼの存在下に抽出することと、同茶類原料を麹菌発酵させることを同一視することは出来ない。
【0016】
また、特許文献11では、お茶の葉、茶樹、茶樹根の持つうま味、甘味の有効成分を、これらに直接、発酵菌や有用微生物を働かせて取り出すことを提案しているが、多種多様に亘る数多くある発酵菌や有用微生物についての具体的菌種の特定や発酵作用の特定がなされていず、さらに後発酵茶にて紹介した通り、プーアル茶、日本黒茶にて発酵菌であり、かつ有用微生物である麹菌による茶葉の発酵が古来より行われてきたのは周知の事実であり、また東南アジア地区では乳酸菌その他の微生物による漬物状にして発酵させるお茶も知られているので、新規で具体的な方法と提案を伴う発明とは言えないものである。
【0017】
【非特許文献1】月刊フードケミカル 1990年8月号「中国産黒茶(後発酵茶)の脂質代謝に対する影響」佐野 満昭、富田 勲共著
【特許文献1】特公昭56−8584号公報
【特許文献2】特開平4−360684号公報
【特許文献3】特公平6−32609号公報
【特許文献4】特公平7−79687号公報
【特許文献5】特開平8−80196号公報
【特許文献6】特開2003−250588公報
【特許文献7】特公平5−79070号公報
【特許文献8】特開平10−313784号公報
【特許文献9】特開平11−308965号公報
【特許文献10】特開2003−144049公報
【特許文献11】特開2003−274861公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、抗酸化力活性の強い没食子酸を多く含み、かつカテキン類が多く含まれているにもかかわらず苦渋味が少なく、旨味とコク味とが強い後発酵茶飲料およびその製造方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために本発明は、麹菌によるスラリー発酵を行い、上記スラリー発酵終了時の茶葉懸濁液を回収し、乾燥させた茶葉における単位茶葉あたりのガレート基を有するカテキン類の抽出量が他の茶飲料に対して少なく、単位茶葉あたりの没食子酸の抽出量が他の茶飲料に対して多く、かつ単位茶葉あたりの水可溶性固形分が他の茶飲料に対して多いことを特徴とする後発酵茶飲料を提供する。本発明の後発酵茶飲料は、ガレート基を有するカテキン類の抽出量が他の茶飲料に対して少なく、没食子酸の抽出量が他の茶飲料に対して多く、かつ水可溶性固形分が他の茶飲料に対して多いことから、カテキン類が多く含まれているにもかかわらず苦渋味が少なく、旨味とコク味とが強い茶飲料とすることができる。
【0020】
また、本発明は、後発酵茶の発酵が、原料茶葉を粉砕し、破砕した原料茶葉を水に懸濁させて行われるスラリー発酵であり、かつこのスラリー発酵が麹菌の酵素は活性を有するが麹菌は生育増殖しない温度帯で行われることを特徴とする後発酵茶飲料の製造方法を提供する。このような条件で発酵を行うことにより、抗酸化力活性の強い没食子酸を多く含み、かつカテキン類が多く含まれているにもかかわらず苦渋味が少なく、旨味とコク味とが強い後発酵茶を得ることができる。
【0021】
また、上記発明においては、上記後発酵茶の発酵が、タンナーゼ活性および植物組織分解活性を有する麹菌を用いて行われることが好ましく、特に、上記麹菌は、後発酵茶である黒茶より単離されたものであることが好ましい。このような麹菌を用いることにより、より効果的に本発明の後発酵茶を製造することができるからである。
さらに、本発明においては、上記原料茶葉が、緑茶、半発酵茶、または完全発酵茶であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、抗酸化力活性の強い没食子酸を多く含み、かつカテキン類が多く含まれているにもかかわらず苦渋味が少なく、旨味とコク味とが強い後発酵茶飲料を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明者は、茶葉植物組織を分解して、茶葉から可能な限り最大限に旨味とコク味の元となる水可溶性固形分と生理機能性が注目されるタンニンを抽出し、さらに苦渋味の強いガレート基が結合したカテキン類を分解して、同時に抗酸化力活性が強い没食子酸を多く産生し含有されている、かつプーアル茶および3年黒茶とは違い、カテキン類が多く含有されているにもかかわらず苦渋味が少なく、かつ旨味とコク味が強い新規の後発酵茶飲料およびその製造法を検討した。その結果、従来の麹菌発酵による後発酵茶の製造法では、麹菌の発酵過程の中途以降は、麹菌が生育不可能な高温多湿な雰囲気で発酵が行われていると言われているにもかかわらず、茶葉からの旨味とコク味の元となる水可溶性固形分と没食子酸およびタンニン、カテキン類が少ないのは、発酵の初期の過程において、万遍なく茶葉に麹菌を行きわたらせるために、茶葉に植え付けた麹菌の生育と増殖を考慮した発酵温度にて発酵を行わなければならない関係上、麹菌が生育と増殖のため、その栄養源として茶葉からの旨味とコク味の元となる水可溶性固形分と没食子酸およびタンニン、カテキン類を消費してしまうため、プーアル茶および3年黒茶から得られる水可溶性固形分と没食子酸およびタンニン、カテキン類が少なくなると言う事実を見出した。
【0024】
従来、文献等においては、プーアル茶のカテキン類が少ないのは、カテキン類が発酵過程において酸化重合されて含有量が少なくなると言う説明がなされていたが、実際には、湿潤な茶葉に麹菌を散布して茶葉に万遍なく麹菌を生育せしめる発酵初期の段階において、麹菌の栄養源として茶葉からの旨味とコク味の元となる水可溶性固形分と没食子酸およびタンニン、カテキン類が消費されていたことが判明した。
【0025】
こうした事実を元に、さらに鋭意、検討を進めた結果、本発明者らが研究を重ねてきた殺青しない、すなわち生茶葉中の酵素活性が残存する生茶葉を原料に使用したスラリー発酵法を元に、殺青した、すなわち生茶葉中の酵素活性が残存しない茶葉を原料として使用し、そして予め加熱殺菌した湿潤な茶葉に麹菌を植え付けて固体培養を行い、強いタンナーゼ活性および植物組織分解活性を有する麹菌体を得て、スラリー発酵液中に添加し、該麹菌が生育、増殖しないかつ麹菌体中の酵素群が十分作用可能な温度帯で攪拌しながら、スラリー発酵を行えば、茶葉由来の麹菌発酵産物が麹菌の栄養源として消費されることがないため、茶葉植物組織を分解して、茶葉から可能な限り最大限に旨味とコク味の元となる水可溶性固形分と生理機能性が注目されるタンニンが産生し、さらに苦渋味の強いガレート基が結合したカテキン類を分解して、同時に抗酸化力活性が強い没食子酸を多く産生し含有されている、かつプーアル茶および3年黒茶とは違い、カテキン類が多く含有されているにもかかわらず苦渋味が少なく、旨味とコク味が強い新規の後発酵茶が製造できることを見出し、本発明を完成させるに至ったのである。
【0026】
もちろん、スラリー発酵で通常使用される生茶葉を用いて、麹菌によるスラリー発酵を行うのも何ら問題はなく、本発明の技術範囲であるが、生茶葉の調達および保管性の問題から、加熱による酵素群が失活した茶葉を使用するのが好ましい。
【0027】
以下、このような本発明の後発酵茶飲料およびその製造方法について、詳細に説明する。ここでは、まず後発酵茶飲料の製造方法を説明し、次いで後発酵茶飲料について説明する。
【0028】
A.後発酵茶飲料の製造方法
本発明の後発酵茶飲料の製造方法は、後発酵茶の発酵が、原料茶葉を粉砕し、破砕した原料茶葉を水に懸濁させて行われるスラリー発酵であり、かつこのスラリー発酵が麹菌の酵素は活性を有するが麹菌は生育増殖しない温度帯で行われることを特徴とするものである。本発明においては、このように後発酵茶の発酵を、麹菌の酵素は活性を有するが麹菌は生育増殖しない温度帯で行うことにより、麹菌が生育と増殖のため、その栄養源として茶葉からの旨味とコク味の元となる水可溶性固形分と没食子酸およびタンニン、カテキン類を消費してしまうことがないことから、抗酸化力活性の強い没食子酸を多く含み、かつカテキン類が多く含まれているにもかかわらず苦渋味が少なく、旨味とコク味とが強い後発酵茶飲料を得ることができるのである。
このような本発明の後発酵茶の製造方法に用いられる原料茶葉としては、特に限定されるものではなく、緑茶、半発酵茶、および完全発酵茶のいずれであってもよく、通常は殺青または加熱されて茶葉自体が有する酵素群が失活されたものが用いられる。
【0029】
また、上記原料茶葉の発酵は麹菌を用いて行うのであるが、用いられる麹菌としては、特に限定されるものではないが、タンナーゼ活性および植物組織分解活性を有する麹菌が好適に用いられる。このような麹菌を用いることにより、上述した作用効果、すなわち抗酸化力活性の強い没食子酸を多く含み、かつカテキン類が多く含まれているにもかかわらず苦渋味が少なく、旨味とコク味とが強い後発酵茶飲料を得ることができるからである。
このような麹菌としては、例えば、後発酵茶である黒茶より単離されたものを用いることができる。具体的には、特に限定されるものではないが、黒茶の後発酵過程で見出されるAsperugillus属、Penicillium属の
カビ、好適にはタンナーゼ活性および植物組織分解活性を有するAsperugillus niger、同 oryzae、同 glaucus等を用いることができる。
【0030】
本発明において、このような麹菌を用いた発酵は、原料茶葉を粉砕し、破砕した原料茶葉を水に懸濁させて行う、すなわちスラリー発酵法により行われる。スラリー発酵により行うことにより、温度管理が容易で没食子酸の産生や水可溶性固形分の生成が効率的に行われるからである。
原料茶葉の粉砕は、通常のスラリー発酵法において用いられる方法により行われ、具体的にはフードカッターおよびミキサー、ハンマーミル、ウルトラマイザー等を必要に応じて適宜使用して行われる。また、破砕した原料茶葉の大きさは、特に限定されるものではないが、1mm程度またはそれ以下であれば良い。
【0031】
このようにして粉砕された原料茶葉は、水と茶葉を原料に固体培養された麹菌とが加えられてスラリー発酵に供される。麹菌は通常は上述したように茶葉を原料に固体培養された麹菌が用いられるが、茶葉を原料に液体培養された麹菌を用いても良い。また、本発明において用いられる水は、特に限定されるものではないが、脱イオン水または蒸留水を用いることが好ましい。このように脱イオン水または蒸留水が好適であるのは、水中にカルシウムイオンおよび鉄イオン等が溶解している場合、茶葉抽出液中のタンニンと結合を生じ、不溶解物を生じたり、色の変化が生じたりすることを防止するためである。
【0032】
スラリー発酵を行う際の原材料の重量比としては、用いる原料茶葉の種類や、要求される嗜好性等により大幅に異なるもので特に限定されるものではない。しかしながら、一般的には、原料茶葉の粉砕物を5.0重量%〜30重量%の範囲内で水に投入して発酵および抽出処理が行われる。また、この際、添加される茶葉を原料として固体培養された麹菌としては、その種類等により大幅に異なるが、通常0.5重量%〜10.0重量%の範囲内、特に1.0重量%〜5.0重量%の範囲内で添加される。
【0033】
スラリー発酵を行う際の温度条件としては、上述したように、麹菌の酵素は活性を有するが麹菌は生育増殖しない温度帯で行われる。ここで、麹菌が生育増殖しない温度帯とは、通常は45℃以上の温度であるが、具体的な発酵温度は、事前に予備的にスラリー発酵の際の麹菌の増殖の有無をカビ検出培地にて確認して決定することが好ましく、特に事前に予備的にスラリー発酵の際の麹菌の増殖の有無をカビ検出培地にて確認するとともに、茶葉のスラリー発酵による没食子酸の産生や水可溶性固形分の産生を確認して決定されることが望ましい。
【0034】
このような温度帯としては、麹菌の種類や茶葉の種類等により大幅に異なるものではあるが、通常45℃〜70℃の範囲内、特に48℃〜63℃の範囲内、中でも50℃〜60℃の範囲内であることが好ましい。
また、発酵時間も麹菌の種類や原料茶葉の種類等により大幅に異なるものではあるが、通常は、茶葉のスラリー発酵による没食子酸の産生や水可溶性固形分の産生が、最大に達する時間帯を目標とするが、目的とする風味、カテキン類の含有組成により、それ以下の時間帯またはそれ以上の時間帯を採用しても良い。本発明の目的は、茶葉のスラリー発酵による没食子酸の産生や水可溶性固形分の産生が、最大に達することを目標とするのであるから、通常8時間〜30日間の範囲内、特に1日間〜10日間の範囲内で行われることが好ましい。
【0035】
上記スラリー発酵工程が終了後、麹菌の酵素活性を失活させるために、通常は95℃30分程度の加熱処理が施された後、固液分離工程を行い、後発酵茶抽出液を得る。
本発明における固液分離工程は、通常のスラリー発酵法のおいて用いられる固液分離法が用いられる。具体的には遠心分離法および濾過分離法等の方法により行われる。
【0036】
このようにして得られた後発酵茶抽出液に対して、Bx値が所定の濃度となるように水で希釈し、必要な添加剤、具体的には、pH調整剤、さらには着香、着色、酸化防止の目的で、それぞれ炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウム等のpH調整剤、茶フレーバー等の香料、葉緑素等の着色料、アスコルビン酸またはその塩やルチン等の酸化防止剤、ショ糖脂肪酸エステル等の抗菌目的の乳化剤等を添加して加熱殺菌を行い、後発酵茶飲料とされる。
【0037】
B.後発酵茶飲料
次に、本発明の後発酵茶飲料について説明する。茶本発明の後発酵飲料は、上記「A.後発酵茶飲料の製造方法」で説明したスラリー発酵終了時の茶葉懸濁液を回収し、乾燥させた茶葉における単位茶葉あたりの水可溶性固形分、没食子酸の抽出量が、他の茶飲料に対して多く、ガレート基を有するカテキン類が他の茶飲料に対して少ないことを特徴とするものである。
本発明の後発酵茶飲料は、例えば上記「A.後発酵茶飲料の製造方法」の欄で記載した製造方法により得ることができる。
【0038】
本発明において、このようにスラリー発酵終了時の茶葉懸濁液を回収し、乾燥させた茶葉における単位茶葉あたりの水可溶性固形分、没食子酸の抽出量が、他の茶飲料に対して多く、ガレート基を有するカテキン類が他の茶飲料に対して少ないことを特徴とするものであるが、これは以下の方法により決定される。
【0039】
すなわち、上記「A.後発酵茶飲料の製造方法」の欄で説明したものと同様のスラリー発酵を行い、スラリー発酵終了後の茶葉懸濁液を加熱して麹菌を殺菌し、麹菌の活性を失活させた後に回収し、これを乾燥した茶葉を用いる。一方、他の茶葉の場合は、麹菌を投入しない点を除いて、同様の方法によりスラリー発酵を行い、スラリー発酵終了後の茶葉懸濁液を回収し、これを乾燥した茶葉を用いる。
さらに、得られたこれらの茶葉を熱湯にて抽出を行い、遠心分離または濾過分離により上清液を得て、分析に供する。
なお、得られた上清液中の水可溶性固形分は屈折計によるBx値で、没食子酸量およびカテキン量は高速液体クロマトグラフィー法(HPLC)により測定される。また、総タンニン量は酒石酸・鉄比色法により測定される。
【0040】
ここで、単位茶葉当たりの水可溶性固形分、没食子酸およびガレート基を有するカテキン類の抽出量とは、茶葉を熱湯にて抽出する際に添加された熱湯量に上清液の水溶性固形分、没食子酸量またはガレート基を有するカテキン類量を乗じたものを使用茶葉量で割り換えた値である。
【0041】
ちなみに、水溶性固形分としてのBx値は重量/重量%で表されるので、便宜的に水溶性固形分g/上清液gとして計算した。
本発明においては、上述した方法により決定される単位茶葉当たりの水可溶性固形分および没食子酸の抽出量が他の茶飲料より多いとは、他の茶葉を上述した方法により、単位茶葉当たりの水可溶性固形分および没食子酸の抽出量を決定し、これが本発明の後発酵茶飲料より少ないことを意味するものである。
【0042】
本発明においては、単位茶葉当たりの水可溶性固形分および没食子酸の抽出量が、他の茶飲料より多ければ特に限定されるものではないが、例えば緑茶葉を麹菌で発酵した場合は、通常、単位茶葉当たりの水可溶性固形分の抽出量が、0.4g/茶葉g〜0.9g/茶葉gの範囲内、中でも0.4g/茶葉g〜0.7g/茶葉gの範囲内であり、単位茶葉当たりの没食子酸の抽出量が13mg/茶葉g〜50mg/茶葉gの範囲内、中でも15mg/茶葉g〜45mg/茶葉gの範囲内であることが好ましい。また、烏龍茶葉を同じく発酵した場合は、通常、単位茶葉当たりの水可溶性固形分の抽出量が、0.4g/茶葉g〜0.9g/茶葉gの範囲内、中でも0.4g/茶葉g〜0.7g/茶葉gの範囲内であり、単位茶葉当たりの没食子酸の抽出量が13mg/茶葉g〜50mg/茶葉gの範囲内、中でも15mg/茶葉g〜35mg/茶葉gの範囲内であることが好ましい。
次に、紅茶葉を同じく発酵した場合は、通常、単位茶葉当たりの水可溶性固形分の抽出量が、0.4g/茶葉g〜0.9g/茶葉gの範囲内、中でも0.4g/茶葉g〜0.7g/茶葉gの範囲内であり、単位茶葉当たりの没食子酸の抽出量が13mg/茶葉g〜50mg/茶葉gの範囲内、中でも15mg/茶葉g〜35mg/茶葉gの範囲内であることが好ましい。
【0043】
また、本発明においては、さらに単位茶葉あたりのガレート基を有するカテキン類の抽出量が他の茶葉に対して少ないことが好ましい。これにより、苦渋味は少ないが、全カテキン量は多い後発酵茶飲料とすることができるからである。
この場合も単位茶葉当たりのガレート基を有するカテキン類の抽出量が他の茶飲料より少なければ特に限定されるものではないが、例えば緑茶葉を麹菌で発酵した場合は、通常、単位茶葉当たりのガレート基を有するカテキン類の抽出量が、0.0mg/茶葉g〜6.0mg/茶葉gの範囲内、中でも0.0mg/茶葉g〜3.5mg/茶葉gの範囲内であることが好ましい。また、烏龍茶葉を同じく発酵した場合は、通常、単位茶葉当たりのガレート基を有するカテキン類の抽出量が、0.0mg/茶葉g〜5.0mg/茶葉gの範囲内、中でも0.0mg/茶葉g〜3.0mg/茶葉gの範囲内であることが好ましい。さらに、紅茶葉を同じく発酵した場合は、通常、単位茶葉当たりのガレート基を有するカテキン類の抽出量が、0.0mg/茶葉g〜5.0mg/茶葉gの範囲内、中でも0.0mg/茶葉g〜1.0mg/茶葉gの範囲内であることが好ましい。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するもの、またはそれらの均等物は、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
緑茶葉を破砕して粉末状となし、該粉末状緑茶葉100重量部に水100重量部を添加して混合し、120℃、20分間の加熱殺菌を施した。25℃まで冷却後、タンナーゼ活性と植物組織分解活性を有する麹菌であるAspergillus nigerを植菌し、25℃、7日間の固体培養を行って、茶葉を原料とする麹菌を得た。次いで、水90重量部と粉砕して粉末状にした緑茶葉7重量部および固体培養によって得られた麹菌3重量部を添加して混合して、攪拌を加えながら55℃にて2日間、スラリー発酵を行った。さらに、95℃、30分間の加熱処理を行って、該麹菌の殺菌とタンナーゼ活性と植物組織分解活性の失活を行い、スラリー発酵懸濁液を凍結乾燥して乾燥茶葉を得た。得られた該乾燥茶葉を熱湯抽出して、その単位茶葉当たりの水溶性固形分量、没食子酸量、およびガレート基を有するカテキン類を分析したところ、水溶性固形分量が0.58g/茶葉g、没食子酸量が25.3mg/茶葉g、およびガレート基を有するカテキン類が0.0mg/茶葉gであった。次いで、カテキン類の分析結果に基づいて、カテキン類を100mg/100ml含有する茶飲料を試作し、その風味を評価したところ、苦渋味がなく、旨味とコク味のあるものであった。
【0046】
(比較例1)
水93重量部と粉砕して粉末状にした緑茶葉7重量部を添加して混合して、55℃にて2日間、攪拌を行った。さらに、95℃、30分間の加熱処理を行って、該攪拌懸濁液を凍結乾燥して乾燥茶葉を得た。得られた該乾燥茶葉を熱湯抽出して、その単位茶葉当たりの水溶性固形分量、没食子酸量、およびガレート基を有するカテキン類を分析したところ、水溶性固形分量が0.31g/茶葉g、没食子酸量が1.8mg/茶葉g、およびガレート基を有するカテキン類が17mg/茶葉gであった。次いで、カテキン類の分析結果に基づいて、カテキン類を100mg/100ml含有する茶飲料を試作し、その風味を評価したところ、苦渋味が強く、旨味とコク味の少ないものであった。
【0047】
(実施例2)
烏龍茶葉を破砕して粉末状となし、該粉末状烏龍茶葉100重量部に水100重量部を添加して混合し、120℃、20分間の加熱殺菌を施した。25℃まで冷却後、タンナーゼ活性と植物組織分解活性を有する麹菌であるAspergillus nigerを植菌し、25℃、7日間の固体培養を行って、茶葉を原料とする麹菌を得た。次いで、水90重量部と粉砕して粉末状にした烏龍茶葉7重量部および固体培養によって得られた麹菌3重量部を添加して混合して、攪拌を加えながら55℃にて2日間、スラリー発酵を行った。さらに、95℃、30分間の加熱処理を行って、該麹菌の殺菌とタンナーゼ活性と植物組織分解活性の失活を行い、スラリー発酵懸濁液を凍結乾燥して乾燥茶葉を得た。得られた該乾燥茶葉を熱湯抽出して、その単位茶葉当たりの水溶性固形分量、没食子酸量、およびガレート基を有するカテキン類を分析したところ、水溶性固形分量が0.43g/茶葉g、没食子酸量が20.0mg/茶葉g、およびガレート基を有するカテキン類が1.8mg/茶葉gであった。次いで、カテキン類の分析結果に基づいて、カテキン類を100mg/100ml含有する茶飲料を試作し、その風味を評価したところ、苦渋味がなく、旨味とコク味のあるものであった。
【0048】
(比較例2)
水93重量部と粉砕して粉末状にした烏龍茶葉7重量部を添加して混合して、55℃にて2日間、攪拌を行った。さらに、95℃、30分間の加熱処理を行って、該攪拌懸濁液を凍結乾燥して乾燥茶葉を得た。得られた該乾燥茶葉を熱湯抽出して、その単位茶葉当たりの水溶性固形分量、没食子酸量およびガレート基を有するカテキン類を分析したところ、水溶性固形分量が0.33g/茶葉g、没食子酸量が6.8mg/茶葉g、およびガレート基を有するカテキン類が16mg/茶葉gであった。次いで、カテキン類の分析結果に基づいて、カテキン類を100mg/100ml含有する茶飲料を試作し、その風味を評価したところ、苦渋味が強く、旨味とコク味の少ないものであった。
【0049】
(実施例3)
紅茶葉を破砕して粉末状となし、該粉末状紅茶葉100重量部に水100重量部を添加して混合し、120℃、20分間の加熱殺菌を施した。25℃まで冷却後、タンナーゼ活性と植物組織分解活性を有する麹菌であるAspergillus nigerを植菌し、25℃、7日間の固体培養を行って、茶葉を原料とする麹菌を得た。次いで、水90重量部と粉砕して粉末状にした紅茶葉7重量部および固体培養によって得られた麹菌3重量部を添加して混合して、攪拌を加えながら55℃にて2日間、スラリー発酵を行った。さらに、95℃、30分間の加熱処理を行って、該麹菌の殺菌とタンナーゼ活性と植物組織分解活性の失活を行い、スラリー発酵懸濁液を凍結乾燥して乾燥茶葉を得た。得られた該乾燥茶葉を熱湯抽出して、その単位茶葉当たりの水溶性固形分量、没食子酸量、およびガレート基を有するカテキン類を分析したところ、水溶性固形分量が0.47g/茶葉g、没食子酸量が21mg/茶葉g、およびガレート基を有するカテキン類が0.0mg/茶葉gであった。次いで、カテキン類の分析結果に基づいて、カテキン類を100mg/100ml含有する茶飲料を試作し、その風味を評価したところ、収斂味と苦渋味がなく、旨味とコク味のあるものであった。
【0050】
(比較例3)
水93重量部と粉砕して粉末状にした紅茶葉7重量部を添加して混合して、55℃にて2日間、攪拌を行った。さらに、95℃、30分間の加熱処理を行って、該攪拌懸濁液を凍結乾燥して乾燥茶葉を得た。得られた該乾燥茶葉を熱湯抽出して、その単位茶葉当たりの水溶性固形分量、没食子酸量、およびガレート基を有するカテキン類を分析したところ、水溶性固形分量が0.36g/茶葉g、没食子酸量が11mg/茶葉g、およびガレート基を有するカテキン類が6mg/茶葉gであった。次いで、カテキン類の分析結果に基づいて、カテキン類を100mg/100ml含有する茶飲料を試作し、その風味を評価したところ、収斂味が強くて苦渋味が強く、旨味とコク味の少ないものであった。
【出願人】 【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
【住所又は居所】東京都港区虎ノ門二丁目2番1号
【出願日】 平成16年3月30日(2004.3.30)
【代理人】 【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦

【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司

【公開番号】 特開2005−278519(P2005−278519A)
【公開日】 平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願番号】 特願2004−97784(P2004−97784)