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【発明の名称】 アルゼンチンアリの行動撹乱剤及び行動撹乱方法
【発明者】 【氏名】田付 貞洋
【氏名】寺山 守
【氏名】田中 保年
【氏名】福本 毅彦
【課題】アルゼンチンアリのより安全で効果的な防除もしくはその繁殖を抑制するために、アルゼンチンアリの行動撹乱剤及びその行動撹乱方法を提供する。

【解決手段】道標フェロモンであるZ−9−ヘキサデセナールを大気中に放散させることで、アルゼンチンアリにおいて行動撹乱現象を引き起こすことを見出し、Z−9−ヘキサデセナールを含むアルゼンチンアリの行動撹乱剤、及び該行動撹乱剤を用いたアルゼンチンアリの行動撹乱方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Z−9−ヘキサデセナールを含むことを特徴とするアルゼンチンアリの行動撹乱剤。
【請求項2】
請求項1に記載の行動撹乱剤を用いたアルゼンチンアリの行動撹乱方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、アルゼンチンアリ(学名Linepithema humile)の行動撹乱剤、及び行動撹乱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルゼンチンアリ(Linepithema humile)は、その名の通り、アルゼンチン等南米原産のアリであるが、貿易等の人間活動や物資の流通によって北米、欧州、アフリカ、豪州等へ分布が拡大しており、農作物への加害、不快害虫として人家へ侵入したり、在来種アリ類等を駆逐して生態系を変化させる等の様々な問題が表面化してきている難防除害虫である。
【0003】
アジアへの侵入は近年まで知られていなかったが、1993年に広島県で初めて生息が確認され、それ以降山口県、兵庫県等でも発見されている。アルゼンチンアリの活動温度帯は5〜35℃であるので、西日本と東日本の太平洋側を中心に更に分布が拡大する可能性がある。日本では現在のところ主として住宅へ侵入する不快害虫としての問題が大きく取り上げられているが、多発地帯ではその旺盛な繁殖力と活発な行動特性から在来種のアリ類が駆逐されているのが観察されており、生態系への悪影響も既に現れている。今後、海外で問題になっているような農作物への被害が生じる可能性も懸念されている。
【0004】
また、アルゼンチンアリは繁殖力も強く、その活動範囲も広いことから、その駆除には殺虫剤や毒餌が使用されているが、いずれも効果が不十分である上に、殺虫剤の多用が人体への影響もさることながら、天敵等生態系のバランスを破壊する可能性があるため、早急により安全性の高い防除方法の開発が求められている。
【0005】
なお、アルゼンチンアリの道標フェロモンの主成分は、約20年前にZ−9−ヘキサデセナールと同定されている(非特許文献1)。
【非特許文献1】Cavill, G.W.K., N.W. Davies, and F.J. McDonald (1980)J. Chem. Ecol. 6, 371-384.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、アルゼンチンアリのより安全で効果的な防除もしくはその繁殖を抑制するために、アルゼンチンアリの行動撹乱剤及びその行動撹乱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、道標フェロモンであるZ−9−ヘキサデセナールを大気中に放散させることで、アルゼンチンアリにおいて行動撹乱現象を引き起こすことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は、Z−9−ヘキサデセナールを含むアルゼンチンアリの行動撹乱剤及び該行動撹乱剤を用いたアルゼンチンアリの行動撹乱方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明による行動撹乱剤を用いれば、アルゼンチンアリの行列や採餌行動を撹乱でき、従来、殺虫剤や毒餌でしか防除できなかったアルゼンチンアリを安全で効果的に防除することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いるZ−9−ヘキサデセナールは、働きアリが餌を集める際に分泌する化学物質を巣から餌場へのルート上に付けて巣の仲間への道標とする道標フェロモンである。アルゼンチンアリの道標フェロモンは、上述したようにZ−9−ヘキサデセナールと同定されている。
合成品のZ−9−ヘキサデセナールをアルゼンチンアリの生息地の地上に高濃度で放散させると、働きアリの餌場情報伝達を有効に阻害し、アルゼンチンアリの行動を撹乱できる。
【0010】
従来、蛾類等の鱗翅目害虫では、合成性フェロモンを高濃度に放散させると有効に交信撹乱が起こることが知られていた。一方、アリやシロアリ等の社会性昆虫は、そのコロニー(巣)に戻るために分泌物を用いて道すじをつける習性があり、この分泌物が道標フェロモンである。しかし、この道標フェロモンを大量に放出させた場合の行動撹乱は全く知られていなかったものである。
【0011】
本発明で用いられるアルゼンチンアリの合成道標フェロモンZ−9−ヘキサデセナール(以下、「Z−9−HDAL」という)は、公知の方法によって合成することができる。例えば、相当する第1級のアルコール体を各種酸化剤によって酸化してアルデヒドにする方法(新実験化学講座14 有機化合物の合成と反応{II},p636,日本化学会編,丸善)や、グリニヤール試薬とオルトギ酸アルキルエステルとの反応で得られるアセタール化合物を加水分解してアルデヒドとアルコールに分解する方法(Smith and Nicohols, J. Org. Chem., 6, 489 (1941))等が一般的である。
【0012】
本発明の行動撹乱剤は、好ましくは80〜95質量%のZ−9−HDALを含む。Z−9−HDALの純度に関しては、できるだけ高純度品が望ましいが、幾何異性体は10質量%以下が好ましい。
【0013】
本発明の行動撹乱剤は、上記成分に、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ハイドロキノン、ビタミンE等の抗酸化剤や2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤を添加することができる。これらの添加剤の含有量は、一般に抗酸化剤の場合0.1〜10質量%であり、紫外線吸収剤の場合は0.01〜10質量%である。
【0014】
なお、本発明の行動撹乱方法において、有効成分として含有する上記Z−9−ヘキサデセナールを、長期間にわたって持続させるために、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニール共重合体等の放出量制御機能を有するプラスチックからなる細管、ラミネート製の袋、アンプル等の容器に充填して用いても良いし、ゴムキャップ等に含浸させて用いても良い。
上記Z−9−ヘキサデセナールの好ましい使用量は、製剤あたり10〜500mgである。特に、アルゼンチンアリの場合、高密度のポリエチレンチューブを用いることで、徐放性に優れた製剤を作成することが可能となる。製剤の設置数は、100m2あたり25〜250ポイントであることが好ましい。
【実施例】
【0015】
以下に、本発明の具体的実施態様を実施例及び比較例によって示すが、本発明はこれにより制限されるものではない。
行動撹乱剤の調製
Z−9−ヘキサデセナール(純度92.0%)に酸化防止剤としてDBH(2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン)を2質量%、紫外線吸収剤として2−(2'−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールを 2質量%を加えて溶解した溶液を、長さ20cmの高密度ポリエチレン中空チューブに約80mg充填して、その両端を封入したものを調製し、行動撹乱剤とした。
【0016】
実施例1
5月に山口県岩国市の住宅地でアルゼンチンアリの行列の途中に、上記行動撹乱剤を設置したところ、直後に行列が乱れ進行が停止した。アルゼンチンアリが右往左往する姿が観察され、しかも活発な動きを止め付近に留まり、あたかも拘束されているかのような現象が観察された。
【0017】
実施例2
アルゼンチンアリが多発している住宅街やアリと共にアブラムシやカイガラムシが多く見られた庭木の枝や幹、アリの行列の見られるコンクリートの壁の割れ目に上記アルゼンチンアリの行動撹乱剤を設置し、アリの数、行列状態、巣口の数を調べた。その結果、巣が消滅することはなかったが、アリの行列が減ると共に、巣穴の数やアリの数が顕著に減少していた。特に、行動撹乱剤処理では巣穴近くの作物付近で、極端にアリの数が減少した。
【0018】
実施例3
山口県岩国市の3ヶ所の圃場(対照区:54m2、処理区A:80m2、処理区B:100m2)に、ほぼ均等になるように棒をたて、地上約40cmの高さのところに設置した(処理本数は、対照区:0本、処理区A:184本、処理区B:221本)。
餌(ベイト)として蜂蜜溶液を紙皿に滴下したものを行動撹乱剤設置の前日、設置1時間後、撤去前日(設置22日後)、撤去1時間後、撤去2時間後のそれぞれの時点において各圃場に4m2に1個の割合で設置し、各々の餌に集まったアルゼンチンアリの数をカウントした。カウントした地点数は、対照区で15ヶ所、処理区Aで20ヶ所、処理区Bで25ヶ所であった。餌に集まったアルゼンチンアリの数(1ヶ所当りの平均値)を表1に示す。
【0019】
【表1】


【0020】
処理区A及びBのアルゼンチンアリの密度は、対照区よりも高かったにもかかわらず、処理区ではいずれもフェロモン放出体設置直後に設置前日と比較して集まるアリの数が5分の1以下に減少した。
更に、行動撹乱剤設置から22日後にも、処理区ではいずれも処理前の5分の1以下の低い水準が維持されていたが、対照区では設置直後とほぼ同程度であった。
また、設置23日後に行動撹乱剤を撤去すると,撤去1時間後には処理区の餌に集まるアリの数は顕著に増加し、撤去2時間後には更に増加したが、対照区ではこの間に集まるアリの数にほとんど変化がなかった。
以上から、行動撹乱剤によりアルゼンチンアリの餌探索活動が著しく抑制されていたことがわかる。
【出願人】 【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
【出願日】 平成16年3月17日(2004.3.17)
【代理人】 【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一

【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一

【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男

【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文

【公開番号】 特開2005−263651(P2005−263651A)
【公開日】 平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願番号】 特願2004−75436(P2004−75436)