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【発明の名称】 金属系無機抗菌・防カビ剤、その製造方法及び用途
【発明者】 【氏名】後藤 昭博

【要約】 【課題】繊維、プラスチックス、セラミックス、金属等の被処理材に、少量で効率的、かつ廃液処理等のない低環境負荷的処理方法により、低コスト、かつ強固に付着・被覆させることができる抗菌・防カビ剤、それを被処理材に付着・被覆させる方法、及び該方法により得られる抗菌・防カビ材等を提供する。

【解決手段】抗菌・防カビ剤として、抗菌・防カビ作用を有する銀等の金属又はその化合物を、大気圧下において、加熱あるいは化学反応により、金属が気相・分散したナノメーターオーダーのエアロゾルとなしたものを有効成分とする抗菌・防カビ剤、並びに該抗菌・防カビ剤のナノ粒子特異性、熱的付着力あるいは静電気的付着力を利用して、少量で効率的な、かつ廃液処理等のない低環境負荷的な処理により、前記金属を前記被処理材に強固に付着・被覆させる方法、前記金属を強固に付着・被覆させてなる抗菌・防カビ材、及びその応用製品。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性金属を、気相微小エアロゾル化することにより得られる、エアロゾルを有効成分とすることを特徴とする金属系無機抗菌・防カビ剤。
【請求項2】
大気圧下において、金属あるいは金属化合物を、加熱あるいは化学反応により、気相・分散させエアロゾル化する、請求項1に記載の金属系無機抗菌・防カビ剤。
【請求項3】
金属が、銀、銅及び亜鉛のうちの一種以上からなる、請求項1又は2に記載の金属系無機抗菌・防カビ剤。
【請求項4】
エアロゾルの平均粒径が0.001〜0.5μmである、請求項1又は2に記載の金属系無機抗菌・防カビ剤。
【請求項5】
大気圧下において、金属あるいは金属化合物を、加熱あるいは化学反応により、金属が気相・分散したエアロゾルとなし、前記エアロゾルと被処理材とを接触させることにより前記金属を前記被処理材に付着・被覆させたことを特徴とする抗菌・防カビ材。
【請求項6】
被処理材が変質しない程度の温度に加熱したエアロゾルと被処理材とを接触させたことを特徴とする、請求項5に記載の抗菌・防カビ材。
【請求項7】
エアロゾルを荷電させ、被処理材との静電気力により、前記被処理材に付着・被覆させたことを特徴とする、請求項5に記載の抗菌・防カビ材。
【請求項8】
エアロゾルの平均粒径が0.001〜0.5μmであることを特徴とする、請求項5から7のいずれかに記載の金属系無機抗菌・防カビ材。
【請求項9】
大気圧下において、金属あるいは金属化合物を、加熱あるいは化学反応により、金属が気相・分散したエアロゾルとなし、前記エアロゾルと被処理材とを接触させることにより、抗菌・防カビ性金属を被処理材に付着・被覆させることを特徴とする、抗菌・防カビ性金属の付着・被覆方法。
【請求項10】
被処理材が変質しない程度の温度に加熱したエアロゾルと被処理材とを接触させることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
エアロゾルを荷電させ、被処理材との静電気力により、前記被処理材に付着・被覆させることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
エアロゾルの平均粒径が0.001〜0.5μmであることを特徴とする、請求項9から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項5から8のいずれかに記載の抗菌・防カビ材を構成要素として含むことを特徴とする、抗菌・防カビ機能が付与された物品。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ技術を応用して作製した、抗菌・防カビ作用を有する、銀等の金属を有効成分とする新規金属系無機抗菌・防カビ剤、該抗菌・防カビ剤を繊維、プラスチック、及び金属などの被処理材に接触させて、前記金属を被処理材に付着・被覆させる方法、該方法によりに製造された抗菌・防カビ材、及び該抗菌・防カビ材を使用して作製された抗菌・防カビ機能を有する物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、抗生物質の多用に起因するMRSA等の耐性菌による被害が問題となり、有機系でない無機系殺菌剤・抗菌剤が見直されつつある。その主な理由は、銀等の金属系、酸化チタン等の金属酸化物は、必ずしも強力な殺菌作用は示さないが、耐性菌を発生させることもなく、人体に無害であり、広範囲な細菌・カビ等への持続的抗菌・防カビ作用を有することにあり、このことは、有史以来、よく知られている。
【0003】
抗菌性金属を使用した抗菌剤は、既に商品として広く使用されている。例えば、銀を添加した商品名として、バクテキラー(鐘紡、ゼオライト系)、イオピュア(石塚硝子、ガラス系)、ノバロン(東亞合成、主成分:銀燐酸ジルコニウム系)、ゼオミック(品川燃料、主成分:銀ゼオライト系)、ゼオプラス(松本油脂、銀ゼオライト系)、セラミックス用AM15(住友大阪セメント、銀)、及びギンテック(川角技研、銀コーティング酸化チタン)等がある。これらの製品における銀の添加方法は、ゼオライト等の吸着剤に銀イオンを吸着する方法、銀の粉末を釉薬等溶媒に分散させる方法、銀化合物を電気あるいは薬剤還元する(メッキを含む)方法、に大別されるが、いずれも液相法に基づくものである。
【0004】
また、抗菌剤が添加される抗菌用材としては、例えば、天然繊維、化学繊維、セラミックス、プラスチックス、金属などがある。なかでも、最近の傾向として、プラスチックス等の高分子材料を用いた製品の普及が著しく、その成形の容易さ、低コストにより、プラスチックはセラミックス、及び金属製品の領域を凌駕する勢いである。このことから、化学繊維を含めたプラスチックス高分子材料へ利用可能な抗菌剤と、その低コスト添加方法が、特に検討される必要がある。
【0005】
抗菌剤の抗菌用材への添加方法として、セラミックスの場合は釉薬との混合、金属の場合は、表面への焼き付け付着が、効率及び付着強度の観点から好ましい。
いずれも、表面添加に近い形態であり、その実施は、比較的容易である。一方、プラスチックス等の高分子の場合は、耐熱性がないことから、原材料に予め混合した後、成形などのプロセスを行う方法(混練り法)と、製品成形後、表面に銀含有物を付着・被覆する方法がある。
抗菌作用を示すのは、表面の抗菌剤のみと考えられるから、混合・混練りする方法では、製品素材の内部の抗菌剤は、抗菌効果に寄与せず、抗菌効果を高めるために、その含有量を増加させた場合、製品素材の変質など、負の効果の恐れもある。また、銀の場合は、高価でもあるので、コスト高も軽視できない。
【0006】
一方、抗菌剤を抗菌用材の表面に付着・被覆する方法は、コスト的には効率的であるが、現在までの技術は、付着・被覆強度が弱く、例えば、洗濯時に成分の脱離(はがれ)を生じ、抗菌作用の持続性に課題がある。しかし、脱離のないような付着強度の向上が可能になりさえすれば、表面付着・被覆方式が好ましい。特に、銀の場合は、コストの点から効果的である。
抗菌剤の抗菌用材表面への付着・被覆方法としては、銀粉末を直接抗菌用材に付着させるなどの乾式法と、メッキ等の湿式法がある。具体的には、乾式法では、抗菌用材に直接銀粉末を付着させる方法、真空蒸着、スパッター方法がある。しかし、減圧下を必要とする方法は、コスト面から実際的ではない。
抗菌用材の表面に直接銀粉末を吹き付ける方法は、市販銀粉末の製造下限粒径がミクロンサイズであるため、その表面付着強度が弱く、成分の脱離の恐れがある。このため、その付着強度を高めるため、高分子等の抗菌用材の軟化点温度近くでの付着操作の提案も見られる(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
一方、湿式法としては、例えば、メッキに代表される銀化合物の還元法(例えば、特許文献2参照)がある。しかし、メッキは、金属等には効果的であるが、プラスチックス等の高分子材料には効果的でない。プラスチックス用として、無電解メッキ法等があるが、工程が煩雑となり、付着強度も、金属へのメッキに比較して弱い。付着強度を強めるために、バインダーを含む微粉抗菌金属コロイド溶液に浸漬させる方法(例えば、特許文献3参照)も提案されている。しかし、何よりも、湿式法では、廃液処理や乾燥工程が不可欠となるので、環境負荷やコスト高を考慮しなければならない。
【特許文献1】特開平11−269277号公報
【特許文献2】特開平8−99812号公報
【特許文献3】特開2000−178870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者は、上記従来技術に鑑みて、抗菌・防カビ作用を有する銀等の金属の粒子を被処理材に効率よく、かつ強固に付着・被覆させる方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、金属を気相・分散させエアロゾル化させて利用する方法を採用することにより、所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて本発明を完成するに至った。
本発明は、抗菌性金属を、気相微小エアロゾル化することにより得られるエアロゾルを有効成分とする抗菌・防カビ剤、その製造方法、該抗菌・防カビ剤を被処理材に付着・被覆させた抗菌、防カビ材、及びその応用製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)抗菌性金属を、気相微小エアロゾル化することにより得られる、エアロゾルを有効成分とすることを特徴とする金属系無機抗菌・防カビ剤。
(2)大気圧下において、金属あるいは金属化合物を、加熱あるいは化学反応により、気相・分散させエアロゾル化する、前記(1)に記載の金属系無機抗菌・防カビ剤。
(3)金属が、銀、銅及び亜鉛のうちの一種以上からなる、前記(1)又は(2)に記載の金属系無機抗菌・防カビ剤。
(4)エアロゾルの平均粒径が0.001〜0.5μmである、前記(1)又は(2)に記載の金属系無機抗菌・防カビ剤。
(5)大気圧下において、金属あるいは金属化合物を、加熱あるいは化学反応により、金属が気相・分散したエアロゾルとなし、前記エアロゾルと被処理材とを接触させることにより前記金属を前記被処理材に付着・被覆させたことを特徴とする抗菌・防カビ材。
(6)被処理材が変質しない程度の温度に加熱したエアロゾルと被処理材とを接触させたことを特徴とする、前記(5)に記載の抗菌・防カビ材。
(7)エアロゾルを荷電させ、被処理材との静電気力により、前記被処理材に付着・被覆させたことを特徴とする、前記(5)に記載の抗菌・防カビ材。
(8)エアロゾルの平均粒径が0.001〜0.5μmであることを特徴とする、記前(5)から(7)のいずれかに記載の金属系無機抗菌・防カビ材。
(9)大気圧下において、金属あるいは金属化合物を、加熱あるいは化学反応により、金属が気相・分散したエアロゾルとなし、前記エアロゾルと被処理材とを接触させることにより、抗菌・防カビ性金属を被処理材に付着・被覆させることを特徴とする、抗菌・防カビ性金属の付着・被覆方法。
(10)被処理材が変質しない程度の温度に加熱したエアロゾルと被処理材とを接触させることを特徴とする、前記(9)に記載の方法。
(11)エアロゾルを荷電させ、被処理材との静電気力により、前記被処理材に付着・被覆させることを特徴とする、前記(9)に記載の方法。
(12)エアロゾルの平均粒径が0.001〜0.5μmであることを特徴とする、前記(9)から(11)のいずれかに記載の方法。
(13)前記(5)から(8)のいずれかに記載の抗菌・防カビ材を構成要素として含むことを特徴とする、抗菌・防カビ機能が付与された物品。
【0010】
次に、本発明について、更に詳細に説明する。
本発明は、抗菌・防カビ作用を有する銀等の金属あるいはその化合物を、大気圧下において、加熱あるいは化学反応により、該金属の気相・分散状微小エアロゾルとして、例えば、セラミックス、プラスチックス、天然繊維、化学繊維、金属などの被処理材に接触させ、該被処理材に付着・被覆させて、銀等の抗菌性金属による抗菌・防カビ剤としての作用を十二分に発揮させることを特徴とするものである。
【0011】
本発明における、抗菌性金属の被処理材への付着・被覆方法は、乾式法であり、生成エアロゾルを完全に使用する限り、廃液処理等の環境負荷はない。また、万一、生成エアロゾルが完全使用されなかった場合でも、簡易な濾過装置でこれを除去することが可能である。
本発明で使用される被処理材は、本発明の抗菌・防カビ剤により処理される対象品であって、担体である場合もあり得る。具体的には、前記のセラミックス、プラスチックス、天然繊維、化学繊維、金属などの材料、及びそれらの2種以上を組み合わせた材料であって、特定の形状を有する物品又は該物品の一部が例示される。また、前記の特定の形状を有する物品としては、例えば、織布、不織布、粒状体、フィルム、板状体などの加工品、靴下、肌着、スラックス等の衣料品、タオル、容器等の日用品、壁材等の建材、病院、家庭等で使われている医療・衛生用具などの、従来抗菌・防カビを必要としていた物品が例示される。
【0012】
本発明で使用される金属としては、銀、銅、亜鉛などが挙げられる。これらのうち、抗菌性、コスト、人体への安全性及び取り扱い易さなどを考慮すると、銀が好ましい。
本発明において、微小エアロゾルの製造方法としては、銀、銅、亜鉛などの金属の直接加熱、あるいはこれらの有機金属化合物の気相分解により製造される。例えば、金属微粒子の加熱時に、電力供給量の簡単な調節でその生成粒子径は、例えば、ミクロンサイズの任意の粒径の金属微粒子を簡便に製造できる。
【0013】
ところで、金属系抗菌剤の抗菌作用は、その表面積に依存しており、表面積の増加に比例して、その効果も増す。したがって、エアロゾルの微小化は、抗菌効果の向上に有効であるばかりでなく、低コスト化のためにも非常に有効である。例えば、平均径1ミクロンの銀粒子を10ナノメートル(nm)にすると、同じ銀使用量で、その表面積は100倍となる、即ち、100倍の効果を生ずることになり、このことは、同じ効果を生むためには、100分の1の量で十分であることを示している。特に銀の場合の微小化は、コスト低減に有効である。
このように、金属微粒子の粒径が小さい程、比表面積は大きくなることになるが、金属微粒子の粒径の下限は、数ナノメーターであり、また、金属微粒子の粒径の上限については、低温液化現象を考慮すると、約100ナノメーター以下に、好ましくは50〜60ナノメータ以下である。
【0014】
抗菌剤粒子は、粒径が可視光線波長(約500ナノメートル程度)以下になると、可視光線に対して透過性となり、抗菌剤粒子を施した製品の審美性にも影響する。例えば、抗菌剤が抗菌効果の優れている銀である場合、抗菌剤添加により褐色化するという審美上の問題があるが、銀を可視光線波長以下の粒径に微小粒子化すると、可視光線に対して透過性になり、褐色化問題が生じなくなり、また、レンズ、ガラス等の透明性が重要な材料を用いた製品の製造に適するようになる。可視光線の透過率を低くし過ぎないようにするには、金属微粒子の粒径を、可視光線波長以下、好ましくは、0.3μm以下、とする。
金属等無機系抗菌剤の微小粒子化については、金属化合物の還元による湿式液相法が提案されており(例えば、特開平8−99812号公報)、その効果についても詳述されている。しかし、湿式法では、既述のように、付着強度の問題のみならず、廃液処理、乾燥プロセスの追加工程によるコスト高は否めない。
【0015】
本発明の乾式方法による抗菌剤の微小粒子化では、これらの追加処理が不要になるだけでなく、次のような優れた効果をもたらす。
金属は、一般的に高融点物質という認識があるが、その大きさがナノメートルサイズに微小化すると、表面活性などの理由で融点が低下するという現象が見られる。例えば、銀の場合は10乃至20ナノメートルへと微小化すると、その融点は100乃至200℃程度に低下すると考えられている(因みに、塊状の銀の融点は950℃である)。即ち、気相における金属粒子のナノメートルスケールへの微小化は、その融点降下により、低温で液状化し易くなることを示している。
【0016】
ところで、抗菌微粒子の基材(被処理材)への付着形態は、固体の場合と液体の場合とでは全く異なる。固体では点接触に近い状態となるが、液体状になると、面状に付着すると考えられる。即ち、付着強度がはるかに強くなることを示しており、このことは、本発明の根幹をなす、主要な要素の一つでもある。
実際の実施態様では、例えば、被処理材の、耐熱限界に対応したエアロゾル含有ガス温度において液状化する粒径を下回る粒径の抗菌剤微粒子(金属微粒子)を製造し、被処理材に液状で付着・被覆させることになる。
ここで、被処理材の耐熱限界が200〜300℃であるとすると、金属粒子径は、粒子構造が、結晶であるか、アモルファスであるかにも依存するが、およそ100ナノメーター以下、好ましくは、50〜60ナノメーター以下、であることが適切である。
【0017】
参考として、図1は、後記実施例4の方法で製造された抗菌・防カビ材における銀のエアロゾル微粒子の電子顕微鏡写真である。この写真から、孤立分散状となっていることが分かる。この場合の平均粒径は、約3ナノメートルである。また、写真を詳細に観察すると、サンプル基板(高分子薄膜)の微小起伏模様が、付着したエアロゾル粒子像を介して観察される。このことは、液状で付着したことを物語っている。
なお、本サンプルの採取条件は、サンプル基板の高分子薄膜の軟化点を考慮して、それ以下の温度でも十分に液状の銀粒子となるように、平均粒径3nm程度の銀粒子となっている。
以上のことは、液相法による金属化合物還元法などの湿式法では行い得ないことであり、微小エアロゾルを使用する乾式法でのみ実施できる、特長的なことである。
ところで、付着後の液状の微小エアロゾルの付着力がいかに優れていても、ガス中に浮遊するエアロゾル微小粒子が抗菌用材に効率よく付着しなければ、その意味はない。
【0018】
次に、ナノメータースケールのエアロゾル微粒子の、抗菌用材への付着機構を説明する。
粒子の大きさがナノメーター程度に微小化すると、その挙動も水蒸気、ガス分子に近くなると考えられる。例えば、浴室ガラスの曇り、あるいは冬期、梅雨期での暖かい部屋での、外気に接している壁への水蒸気分子の凝縮と同じように、外気と部屋との温度差に基づく部屋内水蒸気の壁面への移動・付着が支配的となると考えられる。即ち、その駆動力及び付着速度は、被付着材とエアロゾル粒子との温度差が大きい程大きくなる。
【0019】
本発明の骨子の一つである気相微小エアロゾルを使用する方法は、湿式法とは異なり、エアロゾル製造時の加熱、金属化合物の反応の段階で、既に比較的高い温度になっている。
したがって、その高温状態を有効に生かし、この温度差を利用し、抗菌用材を加熱することなく、効率よく微小エアロゾルを抗菌用材に付着させることができる。このことも湿式法では実現できない大きな特長である。
【0020】
他の付着機構の駆動力として、静電気力が考えられる。具体的には、エアロゾル微粒子と基材とを互いに逆の極性に荷電させ、その静電気力を利用して付着させる方法である。
一般に、プラスチックス等の高分子は、非常に表面荷電しやすい物質である。したがって、この特性を生かすことは、低コストで、優れた抗菌用材を製造するために、非常に重要な要素である。
プラスチックスの成形工程、化学繊維の紡糸工程のような、流動と摩擦を伴う工程では、高分子は、表面荷電しやすく、その荷電の極性傾向も明らかとなっている。
一方、微小エアロゾルは、マイナス又はプラスイオンのシャワー中を通過させることにより、荷電させることができる。したがって、微小エアロゾルを、抗菌用材に対して逆極性に荷電させることにより、微小エアロゾルの抗菌用材への付着を、大いに促進させることができる。
このことも、湿式法では困難であり、微小エアロゾルを使用した乾式法に特徴的な利点である。
ここで、静電気力に基づく付着作用を利用する場合に、微小エアロゾルを荷電させる必要があるわけであるが、その粒子径が、数ナノメーター以下になると、電子あるいはイオンの大きさとの関連から、微小エアロゾルに荷電させることが急激に困難となる。この理由から、微小エアロゾル粒子径の下限は、好適には、約3乃至4ナノメーターである。熱(温度差)作用に基づく付着・沈着には、斯かる制約は無いが、その作用効果は、静電気力に基づく作用効果に比較して小さい。
【0021】
以上のように、抗菌・防カビ効果を有する銀等の金属を、大気圧下において、ナノメーターオーダーに及ぶ気相・分散状微小エアロゾルとし、その微小化に基づく低温液状化というナノ粒子特異性、及び熱的付着力又は静電気的付着力を利用して、高効率、低コスト、かつ強固に付着・被覆させる方法は、気相微小エアロゾルの特長を生かした、従来にない方法であり、産業への貢献は大きい。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、従来の方法では得られない、次のような効果が得られる。
【0023】
(1)抗菌性金属を微小エアロゾルとすることにより、表面積が著しく増加し、その結果、少量の抗菌剤で抗菌効果が現れ、コストの低減ができ、特に高価な銀等に有効である。
(2)抗菌性金属を気相微小エアロゾルとすることにより、大幅な融点降下であるナノ粒子特異性を発現させることができ、液状付着が可能となる。液状付着は、面状付着であるため、固体粒子付着で問題となっていた点付着による低い付着強度を克服でき、付着強度が増大する。その結果、摩耗等による抗菌剤の抗菌材からの剥離、脱落が防止でき、抗菌効果の長期持続が可能となる。
【0024】
(3)気相エアロゾルとすることにより、付着効率の大きい静電気力による付着機構を採用することができ、表面荷電を有しやすいプラスチックスには特に有効である。これによって、生成したエアロゾルは、ほぼ完全に利用することができ、コストの低減化のみでなく、排ガス中に含まれるエアロゾルによる環境負荷を防止できる。
(4)ナノメートルサイズであるため、可視光線に対し透過性となる。このことから、視覚的に透明性を必要とするレンズ、眼鏡等の抗菌・防カビ、あるいは審美性を必要とする白色の繊維や服地の抗菌に有効である。
(5)本発明によって、銀等金属系抗菌・防カビ剤を、少量で効率的、かつ廃液処理等のない低環境負荷的処理方法により、繊維、プラスチックス、セラミックス、金属等に、低コスト、かつ強固に付着・被覆させる方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
<ナノメートル銀エアロゾルの製造>
銀バルク材100gを、大気圧・窒素流雰囲気下(毎分200cc)の電気炉中で、約1000度に加熱後、冷却用窒素ガス(毎分300cc)と混合・冷却することにより、約100ナノメートルの銀エアロゾルを得た。
【実施例2】
【0027】
<ナノメートル銀エアロゾルの製造>
大気圧・窒素ガス流中(毎分300cc)において、抵抗ボート(電気発熱材料で作られた)に50gの銀バルク材を載せ、電気を通電し加熱した。約200ワットの電気を供給することにより、50ナノメートル前後の銀エアロゾルを得た。
【実施例3】
【0028】
<ナノメートル銀エアロゾルの製造>
大気圧・窒素ガス流中(毎分200cc)において、直径0.5mmのカンタル抵抗線に、直径0.3mmの銀線を部分的に巻き付け、電気を通電することにより銀エアロゾルを得た。供給電気量60ワットで、10ナノメートル以下の微小粒子銀エアロゾルを得た。粒子濃度は1cc当たり10個オーダーであった。
この方法は、もっとも効率良く、銀の微小エアロゾルを得る方法であった。供給電気量を変えることにより、得られる粒子径を容易に変えられる利点もある。
【0029】
ここでは、ナノメートル銀エアロゾルの製造方法について記載したが、銅の場合も、銀の場合と同様な方法で、ナノメートル銅エアロゾルを製造することができた。但し、供給電気量は、銅の場合に、銀の場合よりも多くを必要とした(約100ワット)。
銅の場合は、エネルギー消費の観点から、実施例3のような方法よりも、銅の有機化合物の熱分解が有利である。例えば、アセチル化銅(銅アセチルアセトネート)を、窒素ガス流中(毎分200cc)350℃の電気炉内で熱分解して、銀の場合と同程度の大きさのエアロゾルを製造することができた。ここで、銅は、銀よりも酸化され易いので、注意を要する。
ナノメートル亜鉛エアロゾルも、亜鉛の融点が低い(420℃)ので、20ワット以下の少量供給電力で、ナノメートル銀エアロゾルの製造方法と同様の方法により、同程度の粒径の亜鉛エアロゾルを容易に製造できた。ここで、亜鉛の場合も、非常に酸化され易く、亜鉛華(酸化亜鉛)となってしまうので、注意を要する。
このように、銅及び亜鉛は、銀に比較して酸化され易く、酸化物として被処理材に付着することになる場合もあるが、これらの酸化物にも抗菌作用がある。このことは、例えば、表面が酸化している十円銅貨に抗菌作用があることや、台所流し、排水溝のヌメリ防止に銅製ストレイナーが用いられていたり、皮膚などへ適用される軟膏剤に亜鉛華が添加されていることからも理解される。
【実施例4】
【0030】
<ナノメーター銀エアロゾルを有機高分子フィルムに付着・被覆させる方法>
実施例3の方法で製造したナノメートル銀エアロゾルを、ポリビニールホルマール・フィルム(軟化点約100℃)に、単位表面積(1平方センチメートル)当たり毎分50CCで約10分間接触させ、該フィルムに付着・被覆させた。
このようにして得られた銀付着・被覆フィルムの電子顕微鏡写真が、図1である。図1の付着エアロゾル粒子を詳細に観察すると、該粒子を介して下地フィルムの微小起伏が観察され、このことから、エアロゾル粒子が液状で付着したことを物語っている。
【実施例5】
【0031】
<抗菌効果の検査1>
試験菌液は、雑菌を培養し、その500分の一希釈液を使用した。
試験試料は、ポリビニールホルマール・フィルム(軟化点約100℃)を、ポリプロピレン・フィルム(軟化点約120℃)に替えた以外は、実施例4と同様の方法で沈着・付着させて得たフィルムである。試験菌液を全体に付着させた培地シャーレに、この1cm角の切片を入れ、24時間培養後の状態を観察した。その結果フィルムの周辺に無菌域と思われるハローが現れた。このことから、銀の微小エアロゾルが付着した試験片に抗菌効果があることが分かる。
【実施例6】
【0032】
<抗菌効果の検査2>
抗菌検査1により、その抗菌効果が予測できたので、フィルム密着法を使用して詳しく検査した。その結果、大腸菌(ATCC25922)を使用した場合、初期菌数5x10の試験片が、24時間後、処理なしでは4x10へ増加し、一方、実施例5と同じ処理の試験片では、「検知せず」に減少していた。この結果、本発明の方法で処理された抗菌材には、有意な抗菌作用があることが分かった。
【実施例7】
【0033】
<抗菌処理による処理材の透明度への影響>
本抗菌処理方法の特長の一つに、抗菌処理による処理材の透明度への影響が少ないことが挙げられる。この特長を検査するために、処理時間による処理材の透過度の変化(波長500nmの光透過率を分光光度計(日立製作所製U―2000)で測定)と、電子顕微鏡による表面状態の変化とを調べた。処理用材の試験片としては、透明度が大切となりやすいガラスとアクリル樹脂板を使用した。実施例5に対応する付着時間では、その透過度の減少は全く検出されなかった。更に、その3倍付着時間処理後の試験片の電子顕微鏡観察では、ほぼ全面にエアロゾルが付着していたが、透過度の減少は見られなかった。全面に付着していたにもかかわらず、透過度の減少が見られなかったのは、粒子付着層厚さが数ナノメートルの単一粒子層であり、可視光線波長(約500nm、0.5μm)に比較して十分薄く、透明と見なされることによると考えられる。更に付着時間を増加させた場合、約20倍時間後に透過度が減少し始め、その後、急速に減少した。付着粒子層の厚さを測定すると、約300ナノメートルであった。この値は、ほぼ可視光線波長に対応していることが分かった。
以上の結果から、透明度を必要とする眼鏡等あるいは審美性が必要とされる材料の抗菌処理には、本発明の方法は効果的であることが分かった。
【実施例8】
【0034】
<洗浄・洗濯の耐久性>
金属抗菌剤の付着強度が大きいことも、本発明の特長である。即ち、金属抗菌剤をナノメータースケールの微小エアロゾルとすることにより、融点の降下現象を誘起させ、液体金属状態で付着させることにより、その付着強度を増加させることができる。
付着強度の検査方法として、間接的であるが、実際的である、洗濯回数と実施例4に基づく抗菌効果の変化を調べた。試料としては、実施例4と同一条件で銀エアロゾルを付着させたポリエチレン・フィルムを使用した。洗濯方法としては、一回当たり40分間通常と同一方法で、洗濯機により撹拌後、実施例5と同じ方法で抗菌効果の変化を調べた。
【0035】
その結果、洗濯回数10回まではその抗菌効果に変化はなかったが、その後、徐々に抗菌効果を示すハロー(無菌領域)が縮小し、洗濯回数20回ではハローは見られなくなり、 抗菌効果がほぼなくなったと思われた。
エアロゾルの沈着・付着強度は、プラスチックス等の高分子の場合、その熱特性とエアロゾル雰囲気温度との微妙な関係に依存するところが大きい。例えば、エアロゾル温度をプラスチックス融点よりもわずかに高く設定することにより、付着時にプラスチックスが一部溶け付着強度が増加することも予測される。このような工夫をすることにより、更に、付着強度を高めることも可能である。
【実施例9】
【0036】
<静電気力による微小エアロゾルの付着効果の向上>
実施例7までの例では、エアロゾル粒子の、ガス中から抗菌被処理材への付着・沈着作用として、生成時の熱を利用したエアロゾルと基材との温度差に基づく作用を利用している。しかし、この作用力に基づく付着・沈着はそれほど効果的でない。特にプラスチックスでは、耐熱性のため、その温度は100℃程度が限界である。一方、プラスチックス等の高分子の場合、摩擦等により静電気を帯びやすく、静電気力を利用することはその付着・沈着に非常に効果的であることが予測される。しかし、ここで注意すべきは、静電気力は付着強度の増加には必ずしも効果的であるとは言えないことである。あくまで、生成した微小エアロゾルの付着・沈着割合への効果である。
静電気力による付着効果の検査は、次のような方法で実施した。
一般にプラスチックス類は負電荷を帯びやすい。したがって、エアロゾルには正電荷を帯びさせる必要がある。本実施例では、プラスチックスとしてポリエチレン・フィルムを使用した。一方、銀エアロゾルには、コロナ放電(雰囲気ガス中で高電圧(約5KV)を印加)により正電荷を帯びさせた。
静電気力による付着効果は、ポエチレン・フィルム上に、正荷電した銀エアロゾル含有ガスを通過させ、通過前後の粒子濃度を測定する方法で評価した。
粒子濃度は、微分型電気移動度測定器(通称DMA(Differential Mobility Analyzer)と呼ばれている、米国TSI社製品を使用して測定した。
なお、エアロゾル生成時に発生する熱に伴う熱泳動力の効果を除くため、冷却ガスを混合し、室温ガスとした。
【0037】
検査の結果、生成した銀エアロゾルの粒子濃度は1cc当たり10個オーダーであった。荷電装置により荷電された粒子がポリエチレン・フィルムに付着・沈着した後の、通過後の粒子濃度は1cc当たり10個オーダーであった。一方、荷電させない場合の通過後の濃度は1cc当たり105個オーダーとなった。
このことから、エアロゾルを荷電させなくても付着・沈着は生じているが、荷電操作を施すことにより、付着・沈着効果は大きく増加することが明らかとなった。
すなわち、荷電操作による静電気力を利用することにより、生成した微小エアロゾルは無駄なく、有効に抗菌剤として利用されるだけでなく、排ガス中に含まれる、付着しなかったエアロゾルも大幅に減少することができ、環境負荷の低減にも効果的であることが明らかとなった。
また、エアロゾルを荷電させて付着・沈着させたポリエチレン・フィルムに、加熱処理をすることにより、銀粒子のポリエチレン・フィルムに対する付着強度を増大させることができた。
更に、静電気力の利用は、次のような利点もある。
実施例7までの加熱方法のみでは、温度のみが制御因子であり、その作用に基づいて、液状化及び付着・沈着するのであるが、液状化に最適な温度と付着作用に最適な温度とは、必ずしも一致しない。一方、静電気力は沈着作用としてのみの作用であり、液状化に必要な熱的作用とは独立した因子であるから、温度と静電気荷電とを独立して制御することにより、被処理材へのエアロゾルの沈着作用・付着強度を精密に制御することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上詳述したように、本発明は、抗菌・防カビ効果を有する銀等の金属を、大気圧下において、ナノメートルオーダーサイズに及ぶ気相・分散状微小エアロゾルとし、セラミックス、プラスチックス、金属などに付着させる方法及びその製品に係るものであり、本発明により、抗菌性金属を、微小エアロゾルとすることにより、表面積が著しく増加し、その結果、少量の抗菌剤で抗菌効果が現れ、コストの低減ができる。特に高価な銀等に有効である。また、それにより、大幅な融点降下であるナノ粒子特異性を発現させることができ、液状付着が可能となる。液状付着は面状付着であるため、固体粒子付着で問題となっていた点付着による低い付着強度を克服でき、付着強度が増大する。その結果、摩耗等による抗菌剤の抗菌材からの剥離、脱落が防止でき、抗菌効果の長期持続が可能となる。
【0039】
また、それにより、付着効率の大きい静電気力による付着機構を採用することができ、表面荷電を有しやすいプラスチックスには特に有効である。これによって、生成したエアロゾルはほぼ完全に利用することができ、コストの低減化のみでなく、排ガス中に含まれるエアロゾルによる環境負荷の防止ができる。また、ナノメートルサイズであるため、可視光学的には透明となる。このことから、可視光学的な透明性を必要とするレンズ、眼鏡等の抗菌・防カビ、あるいは審美性を必要とする白色の服地・繊維の抗菌に有効である。

このように、本発明によって、銀等金属系抗菌・防カビ剤を、少量で効率的、かつ廃液処理等のない低環境負荷的処理方法により、繊維、プラスチックス、セラミックス、金属等に、低コストかつ強固に付着・被覆させる方法及びその製品を提供することができる。
【0040】
更に、本発明によって、摩耗等による抗菌剤の抗菌材からの剥離、脱落が防止でき、抗菌効果の長期持続が可能な銀等金属系抗菌・防カビ剤、それを付着・被覆させた抗菌・防カビ材及び抗菌・防カビ機能を有する物品並びに前記銀等金属系抗菌・防カビ剤を、少量で効率的、かつ廃液処理等のない低環境負荷的処理方法により、繊維、プラスチックス、セラミックス、金属等に、低コストかつ強固に付着・被覆させる方法及びその製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】プラスチックス表面に付着したナノメータースケールの分散状銀エアロゾル粒子の電子顕微鏡写真である。
【出願人】 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【出願日】 平成15年10月22日(2003.10.22)
【代理人】 【識別番号】100102004
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 政彦

【公開番号】 特開2005−126348(P2005−126348A)
【公開日】 平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願番号】 特願2003−362620(P2003−362620)