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【発明の名称】 種子重量の増加したトランスジェニック植物とその利用
【発明者】 【氏名】倉田 のり

【氏名】三好 一丸

【氏名】安 炳玉

【氏名】伊藤 幸博

【要約】 【課題】イネ等の植物において、種子重量の増加をもたらすトランスジェニック植物を作出すると共に、その利用方法を提供すること。

【解決手段】本発明のトランスジェニック植物は、PLASTOCHRON1(PLA1)遺伝子が導入されることによって、大きさや重量の増加した種子が得られる。実際に複数のイネ品種にPLA1ゲノム遺伝子を導入することによって作出した形質転換イネでは、いずれの品種の場合にも野生型と比較して重量の増加したイネ種子が得られた。本発明は、穀物などに用いられる種子の生産性向上に利用することができ、とりわけ、コメの生産性向上への利用が期待できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PLASTOCHRON1(PLA1)遺伝子が導入され、種子重量が増加したトランスジェニック植物。
【請求項2】
請求項1記載のトランスジェニック植物によって生産された種子。
【請求項3】
イネ科植物である、請求項1記載のトランスジェニック植物。
【請求項4】
イネ由来のPLA1遺伝子が導入された請求項3記載のトランスジェニック植物。
【請求項5】
配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が導入された請求項4記載のトランスジェニック植物。
【請求項6】
配列番号1又は2に示される塩基配列を有する遺伝子が導入された請求項5記載のトランスジェニック植物。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載のトランスジェニック植物によって生産されたコメ。
【請求項8】
PLASTOCHRON1(PLA1)遺伝子が導入され、種子重量が増加したトランスジェニック植物の作出方法であって、上記PLA1遺伝子を挿入した遺伝子導入ベクターを構築し、当該遺伝子導入ベクターでアグロバクテリウムを形質転換し、このアグロバクテリウムを植物細胞に感染させ、その後、植物体に再分化させる工程を含む作出方法。
【請求項9】
アグロバクテリウムをイネ科植物のカルスに感染させ、イネ科植物を作出することを特徴とする請求項8記載のトランスジェニック植物の作出方法。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、種子重量の増加したトランスジェニック植物(遺伝子組換え植物)とその利用に関するものである。本発明は、種子の生産性向上に利用することができ、とりわけイネ種子の重量増加によるコメの生産性向上に利用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
植物の種子は、もとより穀物などとして重要であり、種子の大きさや重量を品種改良などによって改変しようとする試みは、従前においても行われてきた。特に近年は遺伝子組換え技術が発達し、この技術を利用して植物の形質を人為的に改変し、有用品種を作出しようとする試みも盛んに行われている。しかしながら、イネ等の作物において、種子の大きさや重量を遺伝子組換え技術によって大型化したという成功例は未だ報告されていない。
【0003】
例えばイネの場合、種子の大型化はコメの生産量増加に直結するものであり、特にコメを主食とするわが国において、種子の大きさ等の改良は食糧の自給を図る観点からも重要である。また、吟醸酒の酒米のように粒を削って用いることが必須の場合には、種子の大きいことが非常に重要であり、イネ種子の大型化は良質の酒米などへの利用も期待できる。
【0004】
ところで最近、本発明者は、イネ由来のPLASTOCHRON1遺伝子(以下、「PLA1遺伝子」という。)を同定した。このPLA1遺伝子のcDNA配列および同遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列については、下記の非特許文献1に記載されている。これらの配列情報は、本発明者の提出によるものである。
【0005】
上記PLA1遺伝子によってコードされるタンパク質は、チトクロームP450ファミリーのメンバーの1つであり、モノオキシゲナーゼ活性を持つと推測される。このタンパク質の構造の特徴および、PLA1遺伝子を欠失した突然変異体の形質等については、下記の非特許文献2に記載されている。
【0006】
【非特許文献1】DDBJ/EMBL/GenBank databases:アクセッション番号AB096259
【非特許文献2】Kazumaru Miyoshi, Byung-Ohg Ahn, Taiji Kawakatsu, Yukihiro Ito, Jun-Ichi Itoh, Yasuo Nagato, and Nori Kurata, PLASTOCHRON1, a timekeeper of leaf initiation in rice, encodes cytochrome P450. Proceedings of the National Academy of Science, 101: 875-880 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、イネ等の植物において、種子重量の増加をもたらすトランスジェニック植物を作出すると共に、その利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意研究を進めた結果、(1)上記PLA1遺伝子を遺伝子導入することにより、イネ種子が肥大・大型化し、種子重量が増加すること、(2)PLA1遺伝子導入による種子重量の増加は、単一品種に限らず、他のイネ品種においても種子重量の増加が認められること、等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、産業上有用な発明として、下記A)〜I)の発明を包含するものである。
A) PLASTOCHRON1(PLA1)遺伝子が導入され、種子重量が増加したトランスジェニック植物。
B) 上記A)記載のトランスジェニック植物によって生産された種子。
C) イネ科植物である、上記A)記載のトランスジェニック植物。
D) イネ由来のPLA1遺伝子が導入された上記C)記載のトランスジェニック植物。
E) 配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が導入された上記D)記載のトランスジェニック植物。
F) 配列番号1又は2に示される塩基配列を有する遺伝子が導入された上記E)記載のトランスジェニック植物。
G) 上記C)〜F)のいずれかに記載のトランスジェニック植物によって生産されたコメ。
H) PLASTOCHRON1(PLA1)遺伝子が導入され、種子重量が増加したトランスジェニック植物の作出方法であって、上記PLA1遺伝子を挿入した遺伝子導入ベクターを構築し、当該遺伝子導入ベクターでアグロバクテリウムを形質転換し、このアグロバクテリウムを植物細胞に感染させ、その後、植物体に再分化させる工程を含む作出方法。
I) アグロバクテリウムをイネ科植物のカルスに感染させ、イネ科植物を作出することを特徴とする上記H)記載のトランスジェニック植物の作出方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のトランスジェニック植物(遺伝子組換え植物)は、PLA1遺伝子が導入されることによって、大きさや重量の増加した種子が得られるので、穀物などに用いられる種子の生産性向上に利用することができる。
【0011】
例えば本発明のトランスジェニック植物をイネに適用することによって、粒の大型化したコメが得られ、コメの生産性向上に利用することができる。特に酒米のように粒を削って用いる場合に、粒の大型化したコメは有用である。また、本発明を複数のイネ品種に適用することによって、いずれも大型化したイネ種子が得られたので、多くのイネ品種に本発明を適用することによって、各品種米の生産性向上への利用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の一形態について説明する。
本発明のトランスジェニック植物には、前記PLASTOCHRON1(PLA1)遺伝子が導入される。後述の実施例において詳述するように、本発明者は、イネゲノムより単離したPLA1遺伝子を使用して、これを複数のイネ品種に導入し、形質転換イネの作出に成功した。
【0013】
配列表の配列番号1には、本発明者がPLA1遺伝子導入イネの作出に使用したイネ(Oryza sativa)由来のPLA1ゲノム遺伝子の塩基配列が示される。この塩基配列には、2つのエクソンと1つのイントロンが含まれており、配列中3107〜4141番目が第1エクソン、4228〜4860番目が第2エクソン、両エクソン間の4142〜4227番目がイントロンの領域に相当する。
【0014】
上記PLA1遺伝子によってコードされるPLA1蛋白は、555アミノ酸残基からなり、そのアミノ酸配列より、チトクロームP450(Cytochrome P450)ファミリーのメンバーの1つであり、モノオキシゲナーゼ(monooxygenase)活性を持つと推測される。本発明者の単離したメンバーは、P450登録委員会によりP450ファミリー中にCYP78A11として位置付けられた。
【0015】
上記PLA1遺伝子のcDNA配列、および、PLA1蛋白のアミノ酸配列については、配列番号2および3にそれぞれ示される。これらの配列は、データベース(DDBJ/EMBL/GenBank databases)においてアクセッション番号AB096259として登録されている。
【0016】
PLA1遺伝子の植物への導入方法としては、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法など既存の確立された遺伝子導入方法のいずれを使用してもよいが、本発明者はアグロバクテリウム法を用いてPLA1遺伝子導入植物を作出した。詳細は後述の実施例において説明するが、(1)まず、PLA1遺伝子をバイナリベクターへ挿入し、(2)得られたPLA1遺伝子導入ベクターによってアグロバクテリウムを形質転換し、(3)このアグロバクテリウムをイネのカルスへ感染させ、培養、選抜、再分化を経て、PLA1遺伝子が導入された形質転換イネを作出した。
【0017】
図1は、この形質転換イネの作出に使用したバイナリベクターpBGH1の構造を示す図であり、図2は、このバイナリベクターpBGH1にPLA1遺伝子を挿入することによって構築されたPLA1遺伝子導入ベクターpBGPLA1の構造を示す図である。後述の実施例記載の作出方法(以下、「本作出方法」という。)では、このベクターpBGPLA1を、エレクトロポレーション法によりアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)へ導入した。そして、当該ベクターの導入が確認されたアグロバクテリウムをイネのカルスへ感染させ、その後、培養、選抜、再分化を経て、形質転換イネを作出した。尚、本作出方法の各ステップは、通常のアグロバクテリウム法に従って行うことができる。
【0018】
解析の結果、本作出方法により作出した形質転換イネにおいては、PLA1遺伝子が導入されていることが確認された。この形質転換イネ第1世代より自殖種子を得て、風乾後、重量を測定したところ、イネ8系統中6系統で種子重量の増加が見られた(後述の表12)。また、これら形質転換イネから採れた種子の外形については、主に長さの増加が見られた(図3参照。図中、#5から#8は形質転換イネ、contは形質転換していないイネ種子である)。さらに、上記形質転換イネはイネ品種「日本晴」を形質転換したものであったが、他のイネ品種「金南風」由来の突然変異体にPLA1遺伝子を導入した場合にも、同様に種子重量の増加が見られた(図4参照。図中、pla1-2+PLA1はPLA1遺伝子を導入した系統から得られた種子、Kimmazeは野生型イネ品種「金南風」から得られた種子である)。
【0019】
このように、本発明のトランスジェニック植物(形質転換イネ)は、PLA1遺伝子が導入されることによって、大きさや重量の増加したイネ種子が得られるので、粒の大型化したコメが得られ、コメの生産性向上に利用することができる。特に酒米のように粒を削って用いる場合に、粒の大型化したコメは有利である。また、本発明を複数のイネ品種に適用することによって、いずれも大型化したイネ種子が得られたので、多くのイネ品種に本発明を適用することによって、各品種米の生産性向上への利用が期待できる。
【0020】
ところで、本作出方法ではPLA1遺伝子導入用の植物にイネを用いたが、本発明のトランスジェニック植物は特にイネに限定されるものではない。例えば、他のイネ科植物(コムギ、オオムギ、エンバク、トウモロコシなど)に上記PLA1遺伝子を導入することによって本発明のトランスジェニック植物を作出してもよいし、他の単子葉植物に上記PLA1遺伝子を導入することによって本発明のトランスジェニック植物を作出してもよい。この場合にも、PLA1遺伝子の導入によって重量の増加した種子が得られる可能性がある。
【0021】
尚、本発明における「植物」の範疇には、植物個体のほか、根、茎、葉、生殖器官(花器官および種子を含む)などの各種器官、各種組織、植物細胞などが含まれ、さらにはプロトプラスト、スフェロプラスト、誘導カルス、再生個体およびその子孫、なども含まれるものとする。
【0022】
勿論、上記の作出方法に種々の変更を加えて、本発明のトランスジェニック植物を作出することが可能である。例えば、上記の方法では、PLA1遺伝子のゲノムDNAを植物に導入したが、これに限らず、例えば配列番号2に示されるPLA1遺伝子のcDNAを植物に導入してもよい。
【0023】
また、ゲノムDNAを導入する場合にも、PLA1蛋白をコードする遺伝子領域を含んでいればよいので、配列番号1に示される配列よりも短い塩基配列を植物に導入することにしてもよい。
【0024】
さらに、ゲノムDNA・cDNAのいずれを導入する場合にも、PLA1遺伝子の元の塩基配列中の1個または数個の塩基を常法に従って置換、欠失、挿入、及び/又は付加させ、このように人為的に改変したPLA1遺伝子を植物に導入することにしてもよい。
【0025】
PLA1遺伝子を挿入した組換えベクターには、バイナリベクター以外のベクターを使用してもよい。また、PLA1遺伝子と共に植物ゲノムに導入するDNA配列は任意に設計すればよく、例えば、選抜のための選択マーカーとして、抗生物質ハイグロマイシンに対する耐性を植物に付与するHPT遺伝子(図2参照)を使用したが、これ以外の選択マーカーを使用しても勿論よい。
【0026】
もっとも、PLA1遺伝子の発現が多すぎると植物体自体の生育が幾分異常になる(葉が波打ち生育に障害が見られる)ので、導入に際しては遺伝子本来のプロモーター、あるいは比較的弱いプロモーターを用いることが好ましい。
【0027】
前述のように、PLA1遺伝子の植物への導入方法としては、アグロバクテリウム法以外の方法を使用してもよい。また、上記の方法は、イネ(Oryza sativa)由来のPLA1遺伝子をイネ品種に導入するものであったが、前述のように、この遺伝子を他のイネ科植物に導入することによって本発明のトランスジェニック植物を作出してもよいし、他の単子葉植物にイネ由来のPLA1遺伝子を導入してもよい。
【0028】
さらに、上記イネ由来のPLA1遺伝子と相同性の高い、他のイネ品種のPLA1遺伝子、あるいは他の植物種由来のPLA1ホモログを得て、これを同種または異種の植物に導入してもよい。このようなPLA1ホモログとしては、その遺伝子産物がイネのPLA1蛋白と同様の機能を有する限りにおいて特に限定されない。
【0029】
以上のように、本作出方法によるPLA1遺伝子の導入によって、複数の日本型イネ品種(「日本晴」と「金南風」)で種子形と種子重の増加をもたらした。このことから、多くの品種で種子の大型化と、それに伴う生産の増収が期待できる。また、米を用いる製品への利用や資料用イネとしての利用、良質の酒米などへの利用が期待できる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0031】
本発明者は、以下の方法によりPLA1遺伝子を導入した形質転換イネを作出し、その種子形や種子重の増加について検討した。
【0032】
〔1〕遺伝子導入に使用したイネPLA1遺伝子の構造
遺伝子導入には、イネゲノムより単離したPLA1遺伝子を使用した。このイネPLA1遺伝子は、第10染色体の26.4cMの位置に座乗する。PLA1遺伝子には、配列番号1の配列に示すように、2つのエクソンと1つのイントロン(86bp)があり、555アミノ酸残基からなる59.1kDaのタンパク質をコードする。この遺伝子のcDNA配列およびアミノ酸配列は、前述のように、アクセッション番号AB096259として登録されている。
【0033】
PLA1遺伝子産物、即ちPLA1蛋白は、そのアミノ酸配列より、チトクロームP450(Cytochrome P450)ファミリーのメンバーの1つであり、モノオキシゲナーゼ(monooxygenase)活性を持つと推測される。本発明者の単離したメンバーは、P450登録委員会によりP450ファミリー中にCYP78A11として位置付けられた。
【0034】
上記PLA1遺伝子は、イネ品種「日本晴」由来であり、この遺伝子を含む長さ約6.0kbのSpeI断片が下記のベクターpBGH1に挿入された。即ち、ベクターに挿入された配列は、配列番号1に示される、PLA1遺伝子の上流約3,000bpから下流約1,000bpを含む長さ5,965bpのゲノム配列である。この配列中、両端の6塩基(ACTAGT)は、PLA1遺伝子導入ベクター構築に用いたSpeI切断部位である。
【0035】
〔2〕PLA1遺伝子導入ベクターの作製とアグロバクテリウムへの導入
まず、上記PLA1遺伝子を含む長さ約6.0kbのSpeI断片をバイナリベクターpBGH1のXbaI切断部位に挿入した。
【0036】
図1は、上記バイナリベクターpBGH1の構造を示す図である。図中、RBはT−DNAのライトボーダーを、Pnはノパリン合成酵素遺伝子のプロモーターを、NPTIIはカナマイシン耐性遺伝子のコード領域を、Tnはノパリン合成酵素遺伝子のターミネーターを、intGUSはイントロンを含むGUS遺伝子のコード領域を、35Sはカリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーターを、HPTはハイグロマイシン耐性遺伝子のコード領域を、LBはT−DNAのレフトボーダーを、それぞれ示す。ベクターにおける主な制限酵素切断部位についても、その位置とともに示される。
【0037】
図1に示すように、pBGH1には、T−DNA領域にライトボーダー側より順に、カナマイシン耐性遺伝子、制限酵素XbaI切断部位を含むマルチクローニングサイト、GUS遺伝子のコード領域およびハイグロマイシン耐性遺伝子が存在する。PLA1遺伝子を挿入するため、このpBGH1を制限酵素XbaIで切断した後、アルカリフォスファターゼにより脱リン酸化処理した。その後、PLA1遺伝子を含む長さ約6.0kbのSpeI断片とXbaIで切断し脱リン酸化したpBGH1とをT4 DNAリガーゼにより結合し、次いで、エレクトロポレーション法により大腸菌DH10B株を形質転換した。
【0038】
大腸菌DH10B株のエレクトロポレーション用コンピテントセルは、以下のように作製した。大腸菌DH10B株を1mlのSOB液体培地(培地組成は下記表1参照)に植菌し、37℃で1晩振盪培養した。翌日、大腸菌DH10B株の終夜培養液0.5mlをSOB液体培地500mlに植え、37℃で3時間振盪培養した。3時間後、大腸菌DH10B株を氷冷し、遠心分離により回収した。その後、大腸菌DH10B株を氷冷した10%グリセロール溶液で2度洗浄し、2mlの氷冷した10%グリセロール溶液に懸濁後、40μlずつ分注し、液体窒素で凍結し、−80℃で保存した。(なお、以下の表1〜表11に掲げる培地組成、培養条件などは、あくまでも本実施例において使用したものであって、形質転換に通常使用される他の方法で本発明の形質転換イネを作出しても勿論よい。)
【0039】
【表1】


【0040】
エレクトロポレーションは、以下のように行った。コンピテントセルを氷上で溶かした後、DNA溶液1μlを加え、バイオラッド社製ジーンパルサーIIを用いて、18kV/cm、25μF、200Ωの条件で通電した。
【0041】
エレクトロポレーションを行った大腸菌DH10B株は、SOC液体培地(培地組成は下記表2参照)に懸濁し、37℃で30分間振盪培養後、50mg/Lのカナマイシンを含むL固形培地(培地組成は下記表3参照)に広げ、37℃1晩培養した。得られた形質転換体のコロニーを、50mg/Lのカナマイシンを含む2×YT液体培地(培地組成は下記表4参照)に植菌し、37℃で1晩振盪培養後、アルカリ−SDS法によりプラスミドを抽出した。
【0042】
【表2】


【表3】


【表4】


【0043】
上記方法により作製されたPLA1遺伝子導入ベクターpBGPLA1は、図2に示すように、T−DNA領域にライトボーダー(RB)側より順に、カナマイシン耐性遺伝子(NPTII)、PLA1遺伝子(PLA1)、ハイグロマイシン耐性遺伝子(HPT)を持つ。
【0044】
次に、上記ベクターpBGPLA1をアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens EHA101株)にエレクトロポレーション法により導入した。このAgrobacterium tumefaciens EHA101株のコンピテントセルの作製およびエレクトロポレーションの方法は、大腸菌DH10B株の場合と同様に行った。ただし、培養はすべて30℃で行い、SOC液体培地での培養後は、50mg/Lのカナマイシンと50mg/Lハイグロマイシンを含むL固形培地で2晩培養した。得られた形質転換体のコロニーは50mg/Lのカナマイシンと50mg/Lハイグロマイシンを含むYEB液体培地(培地組成は下記表5参照)に植菌し、30℃で1晩振盪培養した。この培養液に等量のグリセロールを加え、混和後、−80℃で保存した。
【0045】
【表5】


【0046】
〔3〕PLA1遺伝子導入ベクターのイネへの導入法と用いたイネの特徴
イネ品種「日本晴」の完熟種子をもみ殻を取り除いた後、次亜塩素酸ソーダ(有効塩素濃度2.5%)により30分間表面殺菌した。殺菌した種子は、滅菌水で5回洗浄後、N6CI培地(培地組成は下記表6参照)に置床し、25℃、連続光下で3週間培養し、カルスを誘導した。得られたカルスを以下の形質転換実験に用いた。
【0047】
【表6】


【0048】
尚、上記N6ビタミン(×100)の組成は、1L当たり、グリシン200mg、ニコチン酸50mg、ピリドキシン塩酸50mg、チアミン塩酸100mgである(以下同じ)。
【0049】
イネの形質転換は、以下に示すようにアグロバクテリウム法により行った。上記ベクターpBGPLA1を持つAgrobacterium tumefaciens EHA101株を50mg/Lカナマイシンと50mg/Lハイグロマイシンを含むL固形培地に植菌し、30℃で2日間培養した。2日後、増殖した菌を滅菌した爪楊枝でかきとり、10mg/Lのアセトシリンゴンを含むAA液体培地(培地組成は下記表7参照)30mlに懸濁した。この培地に誘導3週間後のカルスを懸濁し、2分間室温で静置した。2分後、カルスを培地から取り出し、N6CO培地(培地組成は下記表8参照)に置床し、暗黒下25℃で3日間共存培養した。
【0050】
【表7】


【表8】


【0051】
3日後、カルスを200mg/Lのクラフォラン溶液で3回洗浄し、その後N6SE培地(培地組成は下記表9参照)に置床し、25℃、連続光下で3週間培養した。3週間後、カルスをMSRE培地(培地組成は下記表10参照)に移した。カルスはシュートが再分化するまで3週間毎に新しいMSRE培地に移しかえた。再分化したシュートは直径9cmのペトリ皿いっぱいに生長するまで、さらに3週間毎に新しいMSRE培地に移しかえた。十分生長したシュートはMSHF培地(培地組成は下記表11参照)に移し、25℃、連続光下で3週間培養し、発根を誘導した。発根した形質転換イネを土を入れたバケツに移植し、人工気象機内で自然光下、昼温30℃、夜温25℃で栽培し、自殖種子を得た。
【0052】
【表9】


【表10】


【表11】


【0053】
〔4〕PLA1遺伝子を導入した形質転換イネの確認と形態的特徴
形質転換イネは、3つの方法でPLA1遺伝子の導入を確認した。1つはハイグロマイシン耐性である。PLA1遺伝子導入ベクターには選抜マーカー遺伝子としてハイグロマイシン耐性遺伝子を使用しており、PLA1遺伝子導入イネはハイグロマイシン耐性を示す。実際、PLA1遺伝子導入イネはハイグロマイシン含有培地上で正常な生長を示し、葉の白色化や根の伸長阻害等のハイグロマイシンの影響は見られなかった。従って、PLA1遺伝子導入イネはハイグロマイシン耐性であり、PLA1遺伝子が導入されている。
【0054】
2つ目は、PLA1遺伝子導入イネからのPLA1遺伝子ベクターの検出である。PLA1遺伝子導入個体よりDNAを抽出し、PLA1遺伝子ベクター特異的プライマーを用いてPCRを行ったところ、予想される長さのDNAが増幅された。一方、形質転換していないイネ品種日本晴のDNAからはそのようなバンドは見られなかった。従って、PLA1遺伝子導入イネにはPLA1遺伝子ベクターが組み込まれていると結論した。
【0055】
3つ目は、PLA1遺伝子導入イネでのPLA1遺伝子の発現パターンである。形質転換していないイネ品種日本晴の外頴ではPLA1遺伝子の発現が見られないが、PLA1遺伝子導入イネの外頴ではPLA1遺伝子の発現が見られた。従って、PLA1遺伝子導入イネではPLA1遺伝子の異所的発現が見られ、PLA1遺伝子が導入された結果と考えられる。
【0056】
以上、表現型レベル、DNAレベル、遺伝子発現レベルの3つの解析から、PLA1遺伝子導入イネにはPLA1遺伝子が導入されていることが確認された。
【0057】
PLA1遺伝子導入イネの中には葉の形態異常が見られる個体があった。それらの葉は小さく、湾曲していた。このような個体は生長が悪く、採種に至らなかった。他の個体に関しては、種子の大きさの増大以外、形態の変異は認められなかった。
【0058】
〔5〕PLA1遺伝子を導入した形質転換イネにおける種子重量の増加
PLA1遺伝子を導入した形質転換イネ第1世代より自殖種子を得て、風乾後、重量を測定した。その結果、下記表12に示すように、イネ8系統中6系統で種子重量の増加が見られた。
【0059】
【表12】


【0060】
表12中、pBGPLA1Sp−1からpBGPLA1Sp−8は独立の形質転換系統を示す。Nipponbareは非形質転換体である。各系統共に、10粒前後の玄米の測定値により算出した。*印は、いずれも植物体全体の生育が悪かった系統である(人工育成条件によると考えられる)。
【0061】
表12に示すように、種子重量の増大の度合いは形質転換系統により異なっていた。最も増大の度合いが大きい系統(pBGPLA1Sp−7)では、1粒あたりの重量が29.0mg(標準偏差0.9mg)に増大しており、増加率は34%だった。次に大きかったのはpBGPLA1Sp−5系統で、1粒あたり28.0mg(標準偏差1.2mg)で、増加率29%だった。形質転換していない日本晴は21.7mg(標準偏差2.6mg)であった。
【0062】
形質転換イネから採れた種子の外形については、図3に示すように、主に長さの増加が見られた。図中、#5から#8はpBGPLA1Sp−5からpBGPLA1Sp−8のPLA1形質転換系統から得られた種子をそれぞれ示す。contは形質転換していない日本晴の種子である。
【0063】
PLA1遺伝子を導入した形質転換イネにおける種子重量の増加は、イネ品種「金南風」(キンマゼ)由来のpla1突然変異体に導入した場合にも見られた。pla1突然変異体は矮化、葉間期の短縮、穂のシュートへの転換等が見られる。このpla1突然変異体に野生型PLA1遺伝子を導入したところ、図4に示すように、これらの表現型が野生型の表現型に回復したのに加え、種子重量の増加も見られた。図中、Kimmazeは野生型イネ品種「金南風」から得られた種子を、pla1-2+PLA1は金南風由来pla1突然変異体に野生型PLA1遺伝子を導入した系統の種子をそれぞれ示す。
【0064】
このように、PLA1遺伝子導入による種子重量の増加は日本晴に限定されず、他のイネ品種でも可能であることが分かった。また、PLA1遺伝子の導入による影響は、用いたプロモーターの強さにより異なり、強力なプロモーターでは、植物体自体にダメージがでて育たない。適切な強さで発現させると、実験した2品種では種子重が平均で約20〜25%増加した。
【0065】
玄米の外側を3〜4割削って使う酒米は、品質とともに大きさが重要視され、シェアーの多い酒米である「亀の尾」で、10粒重が(籾付き)0.31g(日本晴の+18%)、「山田錦」で0.33g(+27%)であるが、本発明者が作出した上記形質転換イネの種子は、これら酒米に匹敵するほどの種子重の増加があった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明のトランスジェニック植物は、PLA1遺伝子が導入されることによって、大きさや重量の増加した種子が得られるので、前述したとおり、穀物などに用いられる種子の生産性向上に利用することができ、例えば、種々のイネ品種に本発明を適用することによって、各品種米の生産性向上への利用が期待できるなど産業上幅広く利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明のトランスジェニック植物の作出に用いたバイナリベクターpBGH1の構造を概略的に示す図である。
【図2】上記バイナリベクターpBGH1にPLA1遺伝子を挿入することによって構築された遺伝子導入ベクターpBGPLA1の構造を概略的に示す図である。
【図3】イネ品種「日本晴」を用いて作出した本発明の形質転換イネから得られた種子の大きさを野生型品種と比較して示す図である。
【図4】イネ品種「金南風」を用いて作出した本発明の形質転換イネから得られた種子の大きさを野生型品種と比較して示す図である。
【出願人】 【識別番号】504202472
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
【出願日】 平成16年1月26日(2004.1.26)
【代理人】
【公開番号】 特開2005−204621(P2005−204621A)
【公開日】 平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願番号】 特願2004−17246(P2004−17246)