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【発明の名称】 メタロチオネイン遺伝子の葉緑体ゲノム導入による悪環境ストレス耐性植物の作出
【発明者】 【氏名】明石 欣也

【氏名】横田 明穂

【要約】 【課題】本発明は、葉緑体における植物の障害、特に活性酸素による障害を防御するための方法、及びこのような防御機構を供えた植物体を提供する。

【解決手段】本発明は、外来のメタロチオネイン遺伝子を植物に導入、より詳細には、植物の葉緑体ゲノムに外来のメタロチオネイン遺伝子が導入して当該植物を形質転換することからなる植物に酸化ストレス耐性を付与する方法、外来のメタロチオネイン遺伝子を植物に導入するためのベクター、及び外来のメタロチオネイン遺伝子が導入されて形質転換された植物に関する。さらに本発明は、植物由来のメタロチオネインを含有してなる抗酸化剤に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外来のメタロチオネイン遺伝子が導入された形質転換植物。
【請求項2】
外来遺伝子の導入が葉緑体ゲノムである請求項1に記載の形質転換植物。
【請求項3】
メタロチオネイン遺伝子が、植物由来のものである請求項1又は2に記載の形質転換植物。
【請求項4】
植物由来のメタロチオネイン遺伝子が、野生スイカ(Citrullus lanatus sp.)由来のCLMT2である請求項3に記載の形質転換植物。
【請求項5】
メタロチオネイン遺伝子が、動物由来のものである請求項1又は2に記載の形質転換植物。
【請求項6】
動物由来のメタロチオネイン遺伝子が、ヒト由来のものである請求項5に記載の形質転換植物。
【請求項7】
形質転換される植物が、栽培植物である請求項1〜6のいずれかに記載の形質転換植物。
【請求項8】
形質転換植物が、酸化ストレス耐性を有するものである請求項1〜7のいずれかに記載の形質転換植物。
【請求項9】
外来のメタロチオネイン遺伝子を、植物の葉緑体ゲノムに導入するために、外来のメタロチオネイン遺伝子の両側に葉緑体ゲノムと相同組換え可能な塩基配列を有する外来のメタロチオネイン遺伝子導入用のベクター。
【請求項10】
請求項9に記載の外来のメタロチオネイン遺伝子導入用のベクターを用いて、植物に外来のメタロチオネイン遺伝子を導入する方法。
【請求項11】
外来のメタロチオネイン遺伝子を植物に導入して、当該植物を形質転換することからなる植物に酸化ストレス耐性を付与する方法。
【請求項12】
外来のメタロチオネイン遺伝子を、植物の葉緑体ゲノムに導入する請求項11に記載の方法。
【請求項13】
植物由来のメタロチオネインを含有してなる抗酸化剤。
【請求項14】
植物由来のメタロチオネインが、野生スイカ(Citrullus lanatus sp.)由来のCLMT2である請求項11に記載の抗酸化剤。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、外来のメタロチオネイン遺伝子を植物に導入、より詳細には、植物の葉緑体ゲノムに外来のメタロチオネイン遺伝子が導入して当該植物を形質転換することからなる植物に酸化ストレス耐性を付与する方法、外来のメタロチオネイン遺伝子を植物に導入するためのベクター、及び外来のメタロチオネイン遺伝子が導入されて形質転換された植物に関する。さらに本発明は、植物由来のメタロチオネインを含有してなる抗酸化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の生産性は、水分(乾燥)や、温度(高温や低温)や、塩害など、様々な環境要因によって大きく抑制されている。とりわけ植物の光合成は、温度や乾燥に大きく影響されている。低温や高温、また乾燥などの悪環境条件下では、植物は気孔を閉鎖するために、COの供給が抑制され、また光合成の各種の酵素の活性も低下するために、光合成が十分に行えないにもかかわらず、過剰な受光により、活性酸素の生成量が増大し、植物は大きな酸化ストレスに曝されることになる。これらの活性酸素に対して、植物はその体内にスーパーオキシド・ジスムターゼや、アスコルビン酸ペルオキシダーゼなどの活性酸素消去系酵素群や、グルタチオンやアスコルビン酸などの抗酸化物質を備えている。しかしながら、このような悪環境条件が継続する場合には、これらの防御機構により処理しきれないほどの活性酸素が植物体内に発生し、タンパク質・DNA・脂質などの生体構成分子を酸化して機能を失わせ、細胞・組織そして植物体に深刻な傷害を与えてしまう。そして、ついには植物自体が枯れることになる。
【0003】
植物の中には、このような悪条件に備えて各種の防御機能を供えている。例えば、アフリカ・ボツワナ共和国原産の野生スイカ(Citrullus lanatus sp.)は、一般に乾燥強光ストレスに弱いとされているC3型光合成代謝を営むウリ科植物の一種であるが、乾燥した環境の中で生育できる植物である。このような過酷な乾燥・強光・高温ストレスに曝されるカラハリ砂漠に自生している。この野生のスイカは、ストレス下において極めて特殊なアミノ酸代謝制御を行い、葉内にアルギニン生合成経路の中間体である新規適合溶質シトルリンを約300mMまで高蓄積することができる。このシトルリンは、反応性の高い活性酸素種であるヒドロキシルラジカルを消去する能力に優れている。また、この野生のスイカは、乾燥ストレスに際して他の植物とは異なるシグナル情報伝達を行う。
そこで本発明者らは、この野生スイカの優れた乾燥強光耐性を担う分子機構を明らかにするために、乾燥強光ストレスにより誘導される遺伝子を蛍光ディファレンシャルディスプレー法により解析した。その結果、DRIP−1、CLMT2などの新規な遺伝子が単離された。これらの遺伝子のなかのいくつかのものが、この野生のスイカのユニークなストレス耐性機構に関与しているとものと考えられる。そして、その中の一つCLMT2が、他の植物のメタロチオネイン(MT)と高い配列相同性を示すことが明らかとなった(非特許文献1参照)。
【0004】
メタロチオネイン(MT)は、銅やカドミウムなどの重金属を強固に結合することが知られており、生体内での主要な働きはそれらの金属解毒作用であると考えられていた。メタロチオネイン(MT)は、動物の分野では非常に研究が進んでおり、動物の典型的なMTは、60個のアミノ酸残基の低分子タンパク質で、そのうち3分の1の20個がシステイン残基であることが知られている。また、メタロチオネインは銅、亜鉛、カドミウムなどの重金属を結合することが知られており、その結合数は、タンパク質1分子あたり銅ならば11個、亜鉛やカドミウムならば7個と報告されている。また、活性酸素ヒドロキシルラジカルの消去に驚異的に優れていることが報告されており、生理的には、重金属の恒常性維持や解毒作用の他に、酸化ストレス耐性に関与することが報告されている。また、MTは部位特異的に発現したり、条件により発現することから、このプロモーターの利用が研究されている。例えば、HIV遺伝子の発現用のプロモーターとしての利用(特許文献1及び2参照)、ターゲッティング遺伝子の発現用のプロモーターとしての利用(特許文献3参照)、トポイソメラーゼ遺伝子の発現用のプロモーターとしての利用(特許文献4参照)、酸素感受性の遺伝子の発現用のプロモーターとしての利用(特許文献5参照)、ヒトのMTプロモーター(特許文献6参照)などが報告されている。
【0005】
また、近年になって、動物MTが活性酸素ヒドロキシル・ラジカルの消去に驚異的に優れていることが明らかになった。ウサギMTとヒドロキシル・ラジカルとの2次反応速度定数は3×1012−1−1と報告されており、細胞内の主要な抗酸化物質であるグルタチオンやアスコルビン酸に比べ、100倍から1,000倍も優れていることが明らかにされてきた。このことから、動物においてMTが酸化ストレスからの防御を担うことが示唆されてきている。メタロチオネイン(MT)自体を、金属補足剤や抗酸化剤として使用する各種の組成物も報告されている。例えば、重金属の補足のための組成物(特許文献7参照)、抗酸化剤としての使用(特許文献8参照)、ヒスタミンの放出に関連する徴候を低減するための組成物(特許文献9参照)、皮膚外用剤におけるキレート剤としての使用(特許文献10参照)などが報告されている。
【0006】
一方、植物のメタロチオネイン(MT)は、タンパク質の大きさ、システインの含有率などは動物のMTに似ているが、両者のMTには有意な配列相同性はなくアライメントすることはできない。また、重金属を結合し得ること、ある種のストレスにより誘導されることなども報告されているが、MT自体の生理的意義が明確にされておらず、MT自体の利用性については検討されてきていなかったが、例えば、バナナの果実の発育時に発現していること(特許文献11参照)、重金属を補足するために動物のMTを根粒菌に導入したもの(特許文献12参照)などがあるに過ぎない。
植物のメタロチオネイン(MT)が、ある種のストレスにより誘導されることから、メタロチオネイン(MT)のプロモーターを利用してストレス状態における遺伝子の発現については各種の研究が行われてきている。例えば、イネのMTプロモーターを利用した方法(特許文献13参照)、トウモロコシのMTプロモーターの利用(特許文献14及び15参照)、細胞壁の合成に関与する酵素の遺伝子の発現にMTプロモーターを用いるもの(特許文献16参照)、熱ショック蛋白質の遺伝子の発現にMTプロモーターを用いるもの(特許文献17参照)などが報告されている。
【0007】
このように植物のMTについては、重金属との結合性などが報告されているに留まり、植物のメタロチオネイン分子の生化学的性質、特にラジカルの消去能力などについては、全く報告されていない。植物のMTにおいてはこれまで、活性酸素消去系としてのMTの生理的意義が報告されたことはなかった。
【0008】
【特許文献1】特表2002−533124号
【特許文献2】特表2003−523721号
【特許文献3】特表平10−500570号
【特許文献4】特表2001−507241号
【特許文献5】米国特許明細書第6468789号
【特許文献6】米国特許明細書第6218179号
【特許文献7】特開平6−179626号
【特許文献8】国際公開公報 WO 02/22573号
【特許文献9】特開2002−356444号
【特許文献10】特開2002−363058号
【特許文献11】特表2001−517446号
【特許文献12】特開2003−325180号
【特許文献13】再公表公報 WO 01/040470号
【特許文献14】特表2002−533057号
【特許文献15】特表2002−540759号
【特許文献16】米国特許明細書第6184440号
【特許文献17】国際公開公報 WO 01/70929号
【非特許文献1】2003年植物生理学会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、乾燥や高温や低温などの各種のストレスから植物を防御するするための障害からの回避機構を有するストレス耐性が強化された形質転換植物、及びそのための方法を提供するものである。植物細胞において活性酸素の発生が最も著しく、従って最も傷害を受けやすいと考えられている部位は葉緑体であることから、本発明は、葉緑体における植物の障害、特に活性酸素による障害を防御するための方法、及びこのような防御機構を供えた植物体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、植物のMT、特に野生スイカの誘導型MTが、乾燥強光ストレス下において (1)活性酸素ヒドロキシル・ラジカルの直接的な消去、あるいは(2)遊離状態の遷移金属を隔離することによるヒドロキシル・ラジカルの発生抑制、といった作用を有することを見出し、さらに植物細胞において活性酸素の発生が最も著しく、従って最も傷害を受けやすいと考えられている部位は葉緑体である。そこで、MTの遺伝子を葉緑体ゲノムに導入し、MTタンパク質を葉緑体内に過剰に蓄積させた形質転換植物を作成することにより、乾燥強光などの悪環境に対して耐性を獲得する植物を製造することができることを見出した。
【0011】
本発明は、外来のメタロチオネイン遺伝子が導入された形質転換植物、より詳細には、植物の葉緑体ゲノムに外来のメタロチオネイン遺伝子が導入された形質転換植物に関する。
また、本発明は、外来のメタロチオネイン遺伝子を、植物の葉緑体ゲノムに導入するために、外来のメタロチオネイン遺伝子の両側に葉緑体ゲノムと相同組換え可能な塩基配列を有する外来のメタロチオネイン遺伝子導入用のベクターに関する。
さらに、本発明は、前記した本発明の外来のメタロチオネイン遺伝子導入用のベクターを用いて、植物に外来のメタロチオネイン遺伝子を導入する方法に関する。
また、本発明は、植物由来のメタロチオネインを含有してなる抗酸化剤、より詳細には、植物由来のメタロチオネインが、野生スイカ(Citrullus lanatus sp.)由来のCLMT2である抗酸化剤に関する。
また、本発明は、外来のメタロチオネイン遺伝子を植物に導入、より詳細には、植物の葉緑体ゲノムに外来のメタロチオネイン遺伝子が導入して当該植物を形質転換することからなる植物に酸化ストレス耐性を付与する方法に関する。
【0012】
本発明者らは、アフリカ・ボツワナ共和国原産の野生スイカ(Citrullus lanatus sp.)に着目した。このスイカは、一般に乾燥強光ストレスに弱いとされているC3型光合成代謝を営むウリ科植物の一種であるが、乾燥した環境の中で生育できる植物である。そして、このスイカの乾燥強光ストレスにより誘導される遺伝子を蛍光ディファレンシャルディスプレー法により解析した結果、DRIP−1、CLMT2などの新規な遺伝子が単離された。この中のCLMT2が他の植物のメタロチオネイン(MT)と高い配列相同性を示していた。CLMT2は、77個のアミノ酸からなる蛋白質であり、そのアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。そのcDNAの翻訳領域の塩基配列を配列番号2に示す。CLMT2は77個のアミノ酸のうちシステインを14個有している。動物のMTのように30%以上がシステインというわけではないが、比較的システイン含有量が多くなっている。得られたCLMT2のアミノ酸配列を他の植物と比較した表を図1に示す。図1の1段目は本発明のCLMT2を示し、2段目は大豆のMT2(アミノ酸数79)を示し、3段目はアイスプラント(マツバギク)のMT2(アミノ酸数80)を示し、4段目はシロウヌナズナのMT2a(アミノ酸数81)を示し、5段目はシロウヌナズナのMT1a(アミノ酸数49)をそれぞれ示す。これらは全体的に相同性が見られるが、とりわけシステインの位置が高い相同性を示している。
【0013】
近年になって、動物のメタロチオネイン(MT)が活性酸素ヒドロキシル・ラジカルの消去に優れていることが報告されてきたことから、植物のMT、特にこの野生スイカのCLMT2が、乾燥強光ストレス下において (1)活性酸素ヒドロキシル・ラジカルの直接的な消去、あるいは(2)遊離状態の遷移金属を隔離することによるヒドロキシル・ラジカルの発生抑制という作用を有するのではないかと本発明者らは考えた。
そこで、当該CLMT2蛋白質の性質について詳細に検討した。
【0014】
まず最初に、野生スイカ(Citrullus lanatus sp.)から得られたCLMT2の遺伝子を用いてCLMT2の組換えタンパク質を製造した。ベクターとしてはGST融合タンパク質発現用ベクターpGEX4T−3を用い、これにCLMT2のcDNAを組み込み、大腸菌BL21に導入して発現させた。発現した融合タンパク質をトロンビン切断処理により精製CLMT2を得た。
この精製タンパク質をSDS/PAGEにより解析したところ、CLMT2組換えタンパク質と思われる単一のバンドを確認することができた。しかし、予測される分子量7.9kDaよりも大きい約14kDaの位置にバンドが現れたので、このバンドがCLMT2であることを確認するために、質量分析により分子量が7.9kDaであることを確認した。これまでの報告でも、動物のメタロチオネインはSDS−PAGEにおいて異常な移動度を示すことが報告されており、本発明のCLMT2も同様に異常な移動度を示したものと考えられる。
【0015】
得られた組換えCLMT2タンパク質について、まず金属イオン結合能について検討した。無酸素状態で、精製した組換えCLMT2タンパク質にトリフルオロ酢酸(TFA)を用いて結合している亜鉛を解離させ、遊離のMT(アポ・メタロチオネイン)とした。これを中性条件で、銅、亜鉛、鉄などの種々の重金属溶液を、最終濃度がメタロチオネインの20倍となるように加えた。この溶液をゲルろ過カラムに通して過剰の金属イオンを除き、金属結合型のメタロチオネインを得た。そして、これらに結合している金属を、ICP発光分光元素分析装置により定量した。その結果、1分子のメタロチオネインあたり、銅の場合は約5個、亜鉛や鉄の場合は約3個を結合し得るということが明らかとなった。
【0016】
次に、組換えCLMT2タンパク質による活性酸素ヒドロキシル・ラジカルの消去活性を、サリチル酸をモニター試薬とした競争トラッピングアッセイ(competitive trapping assay)により検討した。この実験系の原理は、ヒドロキシルラジカルによるサリチル酸の酸化を、添加した抗酸化物質がどの程度抑制するのかを測定することによって、抗酸化物質のスカベンジャー能力を評価するものでる。ここでは、亜鉛結合型のCLMT2を用いた場合の抗酸化能を検討した。比較としてヒドロキシル・ラジカルの消去に優れている野生スイカの適合溶質シトルリンを用いた。数μMの低い濃度のシトルリンでは、50μMのサリチル酸を効果的に抑制することができなかったが、これに対して、本発明のCLMT2の場合はこの低濃度において50μMのサリチル酸の酸化が大きく低下した。すなわちヒドロキシルラジカルを消去する活性が非常に高いということが示された。
【0017】
この抗酸化活性を定量的に考察するために、CLMT2とヒドロキシルラジカルとの2次反応速度定数を求めた。その結果、CLMT2とヒドロキシルラジカルとの2次反応速度定数は、2.1×1011−1−1という高い値が示された。この実験に用いた組換えCLMT2タンパク質のSH基の還元率を、エルマン法により定量したところ、75%にとどまっていた。すなわち測定前に既に25%程度が酸化されていた。
しかし、この値は、スイカの適合溶質シトルリンに比べると、50倍も大きな値であるが、動物MTで報告されている値に比べると、約10分の1程度であるに過ぎなかった。この理由としては、動物のMTのシステイン残基数が20個以上であるのに対して、スイカのCLMT2の場合は14個と少なく、従って消去活性が相対的に弱くなっているという可能性が考えられる。
完全な還元型のCLMT2を調製し、より正確な2次反応速度定数を算出することも必要があるが、この実験により本発明のCLMT2も動物のMTと同様に弱いながらも抗酸化作用があることがわかった。
【0018】
以上の組換えCLMT2タンパク質の生化学的解析から、本発明の乾燥誘導型CLMT2の野生スイカにおける生理的役割としては、第一に、遊離状態にある銅イオンなどの遷移金属を結合して隔離し、フェントン反応を抑制してヒドロキシルラジカルの生成を防ぐ役割、また第二として、実際に生じてしまったヒドロキシル・ラジカルを直接的に消去する役割を、植物の生体内で担っていると考えられる。これらにより、野生スイカの乾燥強光耐性に貢献していると考えられる。
【0019】
ところで、これまでに知られている植物のMTは全て核ゲノムにコードされており、生合成されたタンパク質は細胞質に蓄積すると考えられている。しかしながら、植物細胞において活性酸素の発生が最も著しく、従って最も傷害を受けやすいと考えられている部位は葉緑体である。そこで、MTの遺伝子を葉緑体ゲノムに導入し、MTタンパク質を葉緑体内に過剰に蓄積させた形質転換植物を新規に作成すれば、乾燥強光などの悪環境に対して耐性を獲得するのではないかと考えられる。
そこで本発明者らは、MT遺伝子の例として、野生スイカのCLMT2遺伝子と、ヒトMT遺伝子の2種を選択し、これらの遺伝子を植物体の例としてタバコ葉緑体ゲノムに導入することで葉緑体内にMTタンパク質を過剰に蓄積させ、乾燥強光ストレスに対する耐性を評価することとした。野生スイカのCLMT2と動物MTでは、システインの数や位置は全く異なっているために生化学的性質が異なることが予想され、これらのMTを植物体に導入することで、表現型、および各種ストレスへの耐性に差が見られるかどうかを検討した。
【0020】
そこで、以下の実施例に記載した手法により、CLMT2およびヒトMT遺伝子を葉緑体ゲノムに導入したタバコを製造した。導入するCLMT2遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号2に示し、ヒトMT遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号3に示す。
CLMT2およびヒトMT遺伝子を導入した葉緑体導入タバコを作製するために、葉緑体ゲノム導入用ベクターpLD200−CLMT2とpLD200−ヒトMTを構築した(図2及び図3参照)。図2は本発明のベクターpLD200−MTの構築を模式的に示したものである。図2の上の段は、CLMT2およびヒトMT遺伝子を含有するクローンをそれぞれ示しており、中段の中間ベクターpLD5はこれらの遺伝子をそれぞれ組み込む模様を示している。下段は、前記の中間ベクターpLD5から誘導されるコントラクトを本発明のベクターpLD200−MTに組み込む模様を示している。図3は、得られた葉緑体ゲノム導入用ベクターpLD200−CLMT2とpLD200−ヒトMTにおける導入部分を拡大して示したものである。図3の上段は野生型スイカのMT(CLMT2)の遺伝子を組み込んだ葉緑体ゲノム導入ベクターの部分を示し、下段はヒトMTの遺伝子を組み込んだ葉緑体ゲノム導入ベクターの部分を示す。これらのベクターを導入することにより葉緑体にて発現するMTのアミノ酸配列を、図3にそれぞれ示している。
これらのベクターのインサート領域には、rrn遺伝子プロモーター、spectinomycin耐性遺伝子aadA、さらにpsbA転写終結配列からなる植物選抜用aadAのスペクチノマイシン耐性カセットと、psbA遺伝子プロモーター(PsbA−P)、翻訳促進配列SD、さらにrps16転写終結配列からなる外来遺伝子発現用カセットの2種の遺伝子を含んでおり、これらの外側に、葉緑体ゲノムとの相同組換えに必要な、タバコのrbcL遺伝子のコード領域であるrbcL、およびタバコのORF512遺伝子のコード領域ORF512配列を含んでいる。
【0021】
これらのベクターDNAを用いてパーティクルガンによりタバコ葉緑体へMT遺伝子導入を行い、再生した植物体からDNAを抽出し、pLD200用プライマーを用いたPCRによりMT遺伝子導入の確認を行った。MT遺伝子が導入されていると、MT遺伝子とベクターの導入される部分のサイズ分(約2kbp)だけPCR産物が大きくなると考えられる。PCRの結果を図4に図面に代わる写真で示す。図4のレーンA〜Cは組み換え体pLD200−CLMT2−1、2、及び3の場合を示し、レーンP1はベクターpLD200−CLMT2を用いた陽性コントロールを示し、レーン1〜3は組換え体pLD200−ヒトMT−1、2、及び3の場合を示し、レーンP2はベクターpLD200−ヒトMTを用いた陽性コントロールを示し、レーンWはタバコの野生型の場合をそれぞれ示す。この結果、CLMT2とヒトMT遺伝子葉緑体導入タバコでそれぞれ3系統に遺伝子の導入が確認できた。
【0022】
得られた形質転換植物の酸化ストレス耐性を検討した。酸化ストレス耐性試験には、パラコートを用いた。パラコートは、太陽光下の植物に対して強力な殺草効果を示す有名な除草剤である。パラコートは、植物の葉に散布されると体内に侵入して葉緑体に達し、太陽光下で光化学系Iの還元側から電子1個を受け取り、自らはパラコートフリーラジカルに還元される。このフリーラジカルは、酸素分子によって酸化を受けてパラコート自身に戻ると同時に、酸素分子は1電子還元されてスーパーオキシド・ラジカルとなる。このスーパーオキシド・ラジカルに起因するヒドロキシル・ラジカルなど、種々の活性酸素が生体内分子を攻撃して葉は短時間で変色して枯死に至る。
そこで、CLMT2とヒトMT遺伝子を導入した形質転換タバコの葉を用いて、パラコートストレスへの耐性を解析した。野生型、CLMT2遺伝子を導入した形質転換タバコ、及びヒトMT遺伝子を導入した形質転換タバコのそれぞれの葉に、0.2μMのパラコートを暴露した。この結果を図5に図面に代わるカラー写真で示す。図5の左側は野生型の場合を示し、中側はCLMT2遺伝子を導入した形質転換体の場合を示し、右側はヒトMT遺伝子を導入した形質転換体の場合を示す。この結果、形質転換していないタバコは葉が褐色に変色して枯死したのに対し、形質転換タバコの葉はパラコートの影響をあまり受けなかった(図5参照)。また、形質転換タバコの中でも、ヒトMTの方がより葉の緑色が鮮やかだった。
【0023】
このことから、MT遺伝子導入タバコの表現型に関して、以下の2つのメカニズムが考えられる。すなわち(1)パラコートにより生成されたスーパーオキシド・ラジカルあるいはそれに由来するヒドロキシルラジカルを、葉緑体に過剰蓄積させたMTが消去した、または(2)スーパーオキシド・ラジカルに由来する過酸化水素からヒドロキシルラジカルへの変換を触媒する遷移金属を、葉緑体に過剰蓄積させたMTが隔離し、結果としてヒドロキシルラジカルの産生量が減少したこと、が示唆された。これらの理由でMT導入植物では活性酸素による被害が少なく、葉の緑色が保たれたと考えられる。
以上の結果から、MT遺伝子を植物の葉緑体ゲノムに導入し、MTを過剰に発現させることによって、植物に顕著な酸化ストレス耐性を付与し得ることが示された。このMT葉緑体蓄積植物は、悪環境地における食料増産・環境保全に寄与すると期待される。
【0024】
本発明の外来のメタロチオネイン遺伝子としては、形質転換される植物以外のメタロチオネイン遺伝子であって、抗酸化作用を有するメタロチオネインをコードする遺伝子であれば動物由来であっても、植物由来のものであっても、また酵母、カビなどの微生物由来のものであってもよく、形質転換される植物において発現可能なものであればよい。
例えば、前記してきた野生スイカ(Citrullus lanatus sp.)由来のCLMT2、大豆由来のMT2、藻類からのMT2、シロイヌナズナ由来の各種のMT、酵母由来のMT、ニジマス、サル、ヒトなどの動物由来のMTなど各種の生物由来のMTなどが挙げられる。また、これらのメタロチオネインは、抗酸化作用を有する範囲において、全長の50%以下、好ましくは30%以下、20%以下、10%以下程度のアミノ酸基を欠失してもよく、また他のアミノ酸に置換してもよく、さらに他のアミノ酸が付加していてもよく、これらの改変が組み合わされて改変されたものであってもよい。さらに、抗酸化作用有する範囲において、メタロチオネインのアミノ酸配列がn個(nは2以上の整数)連結したポリメタロチオネインをコードする遺伝子(例えば、特開2000−60561号公報参照)を外来のメタロチオネイン遺伝子として使用することもできる。
【0025】
本発明の植物としては、特に制限はないが、産業上の利用価値から栽培植物であることが好ましい。前記してきた例ではタバコを用いてきたが、これに限定されるものではなく、例えば、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、トウモロコシ、アワ、ヒエなどの穀物植物、ネギ、キュウリ、メロン、カボチャ、スイカ、ダイコン、ワサビ、キャベツ、ウメ、モモ、リンゴ、ナシ、ダイズ、アズキ、エンドウ、ソラマメ、ラッカセイ、ナス、ジャガイモ、トマト、シュンギク、ヒマワリ、レタス、サトウキビ、などの野菜や果物類などの植物、ユリ、チューリップ、カーネーションなどの観賞用植物、また、スギ科、マツ科、ヒノキ科などの森林植物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明のおける遺伝子の導入方法としては、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウムを用いた方法、ポリエチレングリコール法、マイクロインジェクション法、シリコンカーバイド法などの公知の導入方法を適用することも可能であるが、好ましい導入方法としては、パーティクルガン法が挙げられる。遺伝子の導入の対象としては、種子、細胞、カルスなど植物に応じて適宜選択することができる。
遺伝子の導入に際して、構築される本発明のベクターとしては、プロモーター、リボゾーム結合配列(SD配列)などの導入した遺伝子の発現に必要な配列を有すると共に、形質転換体をスクリーニングするためのスペクチノマイシン、カナマイシン、ハイグロマイシンなどの薬剤耐性遺伝子を含有するのが好ましい。また、本発明の方法により導入される遺伝子は植物の葉緑体ゲノムであることが好ましく、葉緑体ゲノムに導入するための相同組換え用の配列を導入される遺伝子の両末端に有するものが好ましい。このような相同組換え用の遺伝子の配列としては、遺伝子を導入する植物の葉緑体ゲノムに存在する遺伝子の配列であれば特に制限はなく、例えば、タバコの例ではORF512遺伝子、rbcL遺伝子などが挙げられる。
【0027】
本発明の方法により形質転換された植物において、遺伝子の導入を確認する方法としては、例えば、前記してきたPCR法に限定されるものではなく、例えば、サザンハイブリダイゼーション法、ウエスタンブロット法などの公知の方法により行うことができる。
遺伝子が導入された本発明の形質転換植物は、通常の方法により発育させることができるが、形質転換植物の組織、例えば、葉や根を用い植物体を分化、再生するしてもよい。
【0028】
本発明の方法により得られる形質転換植物は、酸化ストレス耐性を有するものであり、とりわけ葉緑体において、乾燥、高温、低温などの悪環境下における酸化ストレスが強化された植物である。このような植物は、野生型の植物では生育できないような悪環境下であっても、生育可能であり、季節や水分の変動に対して耐性を有することになる。また、パラコートのような農薬耐性を付与することも可能となる。
【0029】
本発明は、植物由来のメタロチオネインを含有してなる抗酸化剤を提供するものである。本発明は、植物由来のメタロチオネインが抗酸化作用を有していることを初めて見出したものであり、動物由来のメタロチオネインと同様に、抗酸化剤として使用することができる。本発明の抗酸化剤は、植物由来であるために、動物由来のタンパク質を含有しておらず、極めて安全なものであり、医薬、化粧料、食品添加剤として広く使用することが可能である。本発明の抗酸化剤としてのメタロチオネインとしては、植物由来のものであれば特に制限はないが、一般に食糧として使用されている植物由来のものが安全性の点から好ましい。例えば、野生スイカ(Citrullus lanatus sp.)由来のCLMT2、大豆由来のMT2、イネ由来のMTなどが挙げられる。
本発明の抗酸化剤は、メタロチオネインを単独で使用することもできるが、製薬上許容される医薬用の担体、化粧料用の担体、食品添加物用の担体などの各種の用途に応じた担体と混合して使用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、ストレス耐性の強い野生スイカ(Citrullus lanatus sp.)に着目して、その原因を究明し、従来その生化学的性質が十分に解明されていなかった、植物由来のメタロチオネインの性質を解明し、これを応用するものである。即ち、本発明は、植物由来のメタロチオネインが抗酸化作用を有し、このために強いストレス耐性を植物に与えているという知見に基づいて、植物由来のメタロチオネインからなる抗酸化剤を提供するものである。本発明の抗酸化剤は、植物由来であり、安全性の高いものであるばかりでなく、強い抗酸化作用を有する。また、本発明は、外来のメタロチオネイン遺伝子が導入されてストレス耐性が強化された形質転換植物を提供するものである。本発明の形質転換植物は、特に酸化ストレスが強化されたものであり、乾燥、高温、低温などの悪環境下での生育も可能であるばかりでなく、酸化作用による農薬に対する耐性が付与された植物とすることも可能である。
【0031】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
葉緑体ゲノム導入用コンストラクトの構築
野生スイカのmRNAディファレンシャル・ディスプレイ解析により単離されたCLMT2遺伝子が、pBluescriptII SK-プラスミドベクターのEcoRIおよびXhoI制限酵素サイト間にクローニングされたプラスミド(CLMT2−3−2)と、ゲノムプロジェクトにより得られたヒトメトタチオネイン遺伝子が、同じくpBluescriptII SK-プラスミドベクターのEcoRI−XhoI制限酵素サイト間にクローニングされたヒトメトタチオネイン遺伝子を含有するhlf04496プラスミドを鋳型に用い、以下の合成プライマーを用いてPCR法によりメタロチオネイン遺伝子を増幅させた。
【0033】
CLMT2遺伝子用のプライマー
CLMT-ss1 5’-CAAGATCTATGTCGTGCTGTGGTGGAAAC-3’
CLMT-ss2 5’-AGCGAATTCTCATTTACAGTTGCATGGATC-3’
ヒトメトタチオネイン遺伝子用のプライマー
HsMT-ss1 5’-CAGAGATCTATGGATCCCAACTGCTCCTG-3’
HsMT-ss2 5’-CCCGAATTCAGGCGCAGCAGCTGCAC-3’
【0034】
上流プライマーであるCLMT−ss1とHsMT−ss1は、それぞれ開始Metコドンより−8番目から+21番目、−9番目から+20番目の塩基配列に相当し、BglII制限酵素サイト(下線部)を含む。下流プライマーであるCLMT−ss2とHsMT−ss2は、それぞれ開始コドンより+214番目から+244番目、+168番目から+194番目の塩基配列に相当し、ストップコドンとEcoRIの認識配列(下線部)を含む。
次に、増幅したメタロチオネイン遺伝子DNA断片をBglIIとEcoRI制限酵素で切断し、アガロースゲル電気泳動で精製した後、葉緑体ゲノム導入中間ベクターpLD5のBglIIとEcoRI制限酵素サイト間に連結させた(図2参照)。
葉緑体ゲノム導入中間ベクターpLD5は、プラスミドベクターpBluescriptIIのNotIとSalI制限酵素サイト間に、植物選抜用薬剤耐性マーカー遺伝子aadAの転写ユニットであるrrn−P−aadA−psbA−T断片と、外来導入遺伝子の転写ユニットであるpsbA−P−SD−rps16T断片の両者を含むものである。連結したベクターDNAは、エレクトロポレーションにより大腸菌DH5αに導入し、選抜薬剤アンピシリンを含むLB寒天培地で一晩、37℃で培養した。生じたそれぞれのコロニーからプラスミドを抽出し、制限酵素処理下後、pLD5用プライマー
【0035】
pLD5-Fwd 5’-TTGAATAACAAGCCTTCCAT-3’
pLD5-Rev 5’-TATATACAAATGACTACCCC-3’
【0036】
を用いたシーケンスによりpLD5−CLMT2とpLD5−ヒトMTのサブクローニングを確認した。
さらに、作製した中間ベクターDNAをNotIおよびSalI制限酵素で切断し、そのインサートDNA断片をアガロースゲル電気泳動で精製した後、葉緑体ゲノム導入ベクターpLD200のNotI−SalI制限酵素サイト間に連結させた(図2参照)。pLD200ベクターは、pUC19のEcoRI−SalI制限酵素サイト間に、タバコ葉緑体ゲノム上のrbcL遺伝子断片1,755bpと、ORF512遺伝子断片1,182bpをサブクローニングし、さらにそれら両遺伝子間にサブクローニング用にBamHI−NotI−NheI−SalI−BamHIマルチクローニングサイトを導入したものである。連結させたDNAは、エレクトロポレーションにより大腸菌DH5αに導入し、抗生物質アンピシリンを含むLB寒天培地で一晩、37℃で培養した。生じたコロニーからプラスミドを抽出し、制限酵素処理によりサブクローニングを確認し、これを葉緑体ゲノム導入用DNAとして用いた。
【実施例2】
【0037】
CLMT2およびヒトMT遺伝子を葉緑体に導入したタバコの製造
タバコ(cv. Xanthi)の葉を表向きにして、0.1mg/lのナフタレン酢酸(napthalene acetic acid (NAA))と1mg/lのベンジルアミノプリン(benzyl amino purine (BAP))を含むMS寒天培地に置き、一晩前培養した。パーティクルガン(PDS-1000/He Biolistic Particle Delivery System, BIO-RAD)に用いる金粒子は、1.0ミクロン径の金粒子60mgを1mlの100%エタノールで2分間攪拌し、8,000gで1分間の遠心分離によりエタノールを取り除いた。この滅菌操作を3回繰り返し、最後にクリーンベンチ内で1mlの滅菌水に懸濁し、100μl(1 shot分)ずつ分注して4℃で保存した。この金粒子を8,000gで3分間の遠心分離により滅菌水を取り除き、滅菌水230μlを加えてボルテックスした。2.5MのCaClを250μl加えてボルテックスし、これに前記実施例1で構築した1μg/μlのプラスミドDNAをそれぞれ25μlずつ加えてボルテックスし、さらに0.1Mのスペルミジン(spermidine)を50μl加えてボルテックスし、氷上で10分間静置(1分ごとに10秒間ボルテックスを行う)した。8,000gで1分間遠心分離を行って上清を取り除き、600μlの100%エタノールを加えてボルテックスで洗浄し、8,000gで1分間の遠心分離によりエタノールを取り除いた。この操作を2回繰り返し、最後に60μlの100%エタノールに懸濁し、5.4μlずつ900psiの圧力でDNA断片を前培養したタバコ葉に打ち込んだ。打ち込み後、暗所で2日間培養した。このタバコ葉を5mm角に切り刻み、裏向けにMS寒天培地(スペクチノマイシン(Spe)500mg/l、NAA0.1mg/l、BAP1mg/l含む)に置き、培養した。約1ヶ月でシュートが出てくるので、MS寒天培地(Spe含む)に移植した。導入が確認された形質転換タバコは、タバコ葉を5mm角に切り刻み、裏向けにMS寒天培地(Spe、NAA、BAP含む)に置き再分化を繰り返し行い、葉緑体ゲノムにおける遺伝子置換の割合を高めた。その後、土への順化を行い、最終的に種子を獲得した。
【実施例3】
【0038】
MT遺伝子導入の確認
前記の実施例2で育成したタバコの葉100mgに100μlのDNA抽出バッファー(0.3M NaCl、50mM Tris-HCl pH7.5、20mM EDTA、0.5% SDS、30%(w/v) 尿素、5%フェノール)を加えてペレットミキサーで葉の形がなくなるまで磨り潰し、さらに400μlのDNA抽出バッファーを加えてボルテックスした。500μlのフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1)を加えてボルテックスし、5分間転倒混和した。15,000gで5分間の遠心分離を行い、上清(500μl)を回収し、100%エタノールを1ml加えて転倒混和、1分間静置した。12,000gで5分間の遠心分離を行い、沈殿を900μlの70%エタノールで洗浄した。12,000gで5分間の遠心分離を行い、上静を取り除き、沈殿をDNA Speed Vac.で5分間乾燥し、これをゲノムDNAとした。このゲノムDNAを鋳型として、pLD200用プライマー
【0039】
pLD200-Fwd 5’-GGATTGAGCCGAATACAAC-3’
pLD200-Rev 5’-CAACACGGAACAAAGGGGAC-3’
【0040】
を用いたPCRによりMT遺伝子導入の確認を行った。
結果を図4に示す。
【実施例4】
【0041】
パラコート暴露による酸化ストレス耐性の解析
CLMT2およびヒトMT遺伝子葉緑体導入タバコ、さらにコントロールとして形質転換していないタバコ(cv. Xanthi)を土に順化後、自然日長条件(温室)、28℃、湿度40%で60日間生育させ、上から4枚目の葉からリーフディスクを採取した。リーフディスクを0.1%ツウィーン20を含む0.2μMパラコート溶液に浸し、5分間減圧を行い、減圧解除後、明期16時間、暗期8時間の日長条件、40μmol photons m−2−1、25℃で4日間培養した。培養後の視覚的変化を記録した。
結果を図5に示す。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、ストレス耐性、特に酸化ストレスが強化された形質転換植物を提供するものであり、本発明の方法による形質転換植物は、栽培植物のみならず、各種の有用な植物に適用することができ、食糧用の植物、鑑賞用の植物、材料用の植物などの産業上有用な形質転換植物を提供するものである。また、本発明の抗酸化剤は、安全性の高い抗酸化剤として医薬、化粧品、食品添加剤などの有効成分として産業上極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本発明のCLMT2と他の植物由来のメタロチオネインのアミノ酸配列の相同性を比較したものである。
【図2】図2は、本発明の遺伝子導入用ベクターの構築を例示するものである。
【図3】図3は、本発明の遺伝子導入用ベクターにおける導入される部分の遺伝子の配列を例示するものである。各構造の下にメタロチオネイン遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を示している。
【図4】図4は、PCR法により本発明の形質転換植物に目的の遺伝子が導入されていることを確認した結果を示す図面に代わる写真である。
【図5】図5は、メタロチオネイン遺伝子を導入したタバコにおける、パラコートによる酸化ストレス耐性を試験した結果を示す図面に代わるカラー写真である。
【配列表フリ−テキスト】
【0044】
配列番号1 : 本発明のCLMT2のアミノ酸配列を示す。
配列番号2 : 本発明のCLMT2遺伝子の翻訳領域の塩基配列を示す。
配列番号3 : ヒトメタロチオネイン遺伝子の翻訳領域の塩基配列を示す。
【出願人】 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【出願日】 平成15年12月24日(2003.12.24)
【代理人】 【識別番号】100102668
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 憲生

【公開番号】 特開2005−185123(P2005−185123A)
【公開日】 平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願番号】 特願2003−428173(P2003−428173)