| 【発明の名称】 |
イチジクの交配方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】野方 仁
【氏名】粟村 光男
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| 【要約】 |
【課題】所望する食味を持つイチジクの果実を結実させることが可能なイチジクの交配方法を提供することにある。
【解決手段】雌品種の果実の雌しべに受粉させるイチジクの交配方法において、雌品種の果実に植物ホルモンであるジベレリンを含む植物成長調整剤を付着させて、雌品種の果実の雄しべを育成し、雄しべの花粉を、同じ雌品種または異なる雌品種の果実の雌しべに受粉させることで、所望とする食味評価が明らかな、雌品種の果実の雄しべと、同じ雌品種または異なる雌品種の果実の雌しべとを交配させることが可能となる。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 雌品種の果実の雌しべに受粉させるイチジクの交配方法において、 前記雌品種の果実に植物ホルモンであるジベレリンを含む植物成長調整剤を付着させて前記果実の雄しべを育成し、 前記雄しべの花粉を、同じ雌品種または異なる雌品種の果実の雌しべに受粉させることを特徴とするイチジクの交配方法。 【請求項2】 前記付着は、前記植物成長調整剤を、噴霧機により前記雌品種の果実に噴霧して行うことを特徴とする請求項1記載のイチジクの交配方法。 【請求項3】 雌品種の果実の雌しべに受粉させるイチジクの交配方法において、 前記雌品種の前記果実に着生した雄しべの葯を、同じ雌品種または異なる雌品種の果実の雌しべに、擦りつけて付着させて受粉させることを特徴とするイチジクの交配方法。 【請求項4】 前記受粉は、前記同じ雌品種または前記異なる雌品種の果実の一部を切断して形成された開口部を介して前記雄しべの葯の一部を、当該果実内の雌しべに擦りつけて行うことを特徴とする請求項3記載のイチジクの交配方法。 【請求項5】 雌品種の果実の雌しべに受粉させるイチジクの交配方法において、 前記雌品種の前記果実に着生した雄しべの葯を凍結乾燥し、 前記凍結乾燥した葯を粉砕して粗花粉を形成し、 前記粗花粉を、同じ雌品種または異なる雌品種の果実の雌しべに受粉させることを特徴とするイチジクの交配方法。 【請求項6】 前記受粉は、前記粗花粉を注入器に吸入し、前記同じ雌品種または前記異なる雌品種の果実に穴を開け、前記穴に前記注入器を挿入して、前記注入器の前記粗花粉を当該果実の雌しべに噴出させて行うことを特徴とする請求項5記載のイチジクの交配方法。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、イチジクの交配方法、特に、食味評価の高い特性を有するイチジクの果実を得るための育種に用いることができる交配方法に関する。 【背景技術】 【0002】 イチジクは「無花果」とも記されるように、果実内部に花が着生する隠花果であり、カプリフィッグ型(雄品種)とフィッグ型(雌品種)に区分される雌雄異株の植物のひとつである。食用として栽培されている「蓬莱柿」や「桝井ドーフィン」などは、フィッグ型である。 【0003】 イチジクの果実は、前年に生育した枝に成った果実を7月に収穫される夏果と、本年に生育した枝に成った果実を8月〜11月に収穫される秋果とに分かれる。 【0004】 従来のイチジクの交配方法は、まず、雄品種の夏果の成熟期である7月に花粉を採取し、雌品種の未成熟秋果に、釘などを用いて穴を開ける。次に、果実内に雄しべだけが着生し、食用とならない雄品種から採取した花粉を、スポイトなどにより雌品種の果実内に空気ごと注入し、受粉させる。 【0005】 非特許文献1によれば、雄品種だけでなく、雌品種である「蓬莱柿」に雄しべが着生していることが見つけられたが、1果実あたりの着生数が著しく少ない。従って、雄しべの花粉を採取して、従来の交配方法であるスポイトなどで、花粉を果実の雌しべに注入して受粉させることは、非常に困難であり、育種には利用しにくい。そこで、育種は、「食感が良い」や「甘い」など有望な雌品種の系統を選抜して、雄品種と交配させ、品種改良を行っている。 【0006】 【非特許文献1】野方 仁,他1名,「異なる作型でのイチジク普通型品種‘蓬莱柿’の雄ずい着生」,九州農業研究,第62号,平成12年5月,p253 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 従来のイチジクの交配方法では、雌品種の雌しべに、雄品種の雄しべを交配させていたが、食用とならない雄品種は、どのような食味の特性を持つものであるか不明である。 従って、食味評価の高い果実がなる雌品種と交配させても、食味の特性が不明な雄品種との交配では、思い通りに「食感が良い」や「甘い」などの食味評価を持つようなイチジクの果実が生育するかが予想できず、育種を困難なものとしていた。 【0008】 本発明が解決すべき課題は、所望する食味を持つイチジクの果実を結実させることが可能なイチジクの交配方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明のイチジクの交配方法は、雌品種の果実の雌しべに受粉させるイチジクの交配方法において、前記雌品種の果実に植物ホルモンであるジベレリンを含む植物成長調整剤を付着させて前記果実の雄しべを育成し、前記雄しべの花粉を、同じ雌品種または異なる雌品種の果実の雌しべに受粉させることを特徴とする。 【0010】 このように、雌品種の果実に植物ホルモンであるジベレリンを含む植物成長調整剤を付着させることで、雌品種に僅かではあるが着生している雄しべの育成が促進され、果実1個あたりの雄しべの着生数が増加するので、交配に使用できる花粉の量が多く採取でき、容易に受粉作業を行うことができる。 【0011】 前記付着は、前記植物成長調整剤を、噴霧機により前記雌品種の果実に噴霧して行うことができる。植物ホルモンであるジベレリンを含む植物成長調整剤を雌品種の果実に付着させる方法としては、ジベレリンの濃度を調節した水溶液である植物成長調整剤を準備し、噴霧機により噴霧することで可能であるが、刷毛などで塗布してもよい。 【0012】 本発明のイチジクの交配方法は、雌品種の果実の雌しべに受粉させるイチジクの交配方法において、前記雌品種の前記果実に着生した雄しべの葯を、同じ雌品種または異なる雌品種の果実の雌しべに、擦りつけて付着させて受粉させることを特徴とする。 【0013】 雌品種に着生する雄しべは、著しく少なく、花粉を採取してスポイトで受粉させることは困難であるが、雌品種の果実に着生した雄しべの葯を、同じ雌品種または異なる雌品種の果実の雌しべに、直接、擦りつけて付着させることで受粉させることができる。 【0014】 開葯しているような葯を使用して受粉させる場合には、雄しべをつまんでピンセットなどを用いて、雄しべを雌しべに直接付着させて受粉させる方が効率的である。 【0015】 前記受粉は、前記同じ雌品種または前記異なる雌品種の果実の一部を切断して形成された開口部を介して前記雄しべの葯の一部を、当該果実内の雌しべに擦りつけて行うことも可能である。このように、果実の一部を切断して開口部を形成することにより、確実に受粉させることができ、結実させることが可能となる。 【0016】 本発明のイチジクの交配方法は、雌品種の果実の雌しべに受粉させるイチジクの交配方法において、前記雌品種の前記果実に着生した雄しべの葯を凍結乾燥し、前記凍結乾燥した葯を粉砕して粗花粉を形成し、前記粗花粉を、同じ雌品種または異なる雌品種の果実の雌しべに受粉させることを特徴とする。 【0017】 雌品種には、葯が割れて花粉が取り出せる状態にある開葯した雄しべが生育しにくく、ピンセットなどで雄しべを摘み、受粉させることが困難である場合が多い。また、雌品種から得られる雄しべは量的に少ない。従って、雄しべの葯を凍結乾燥した後に粉砕して集めることで、受粉させるための花粉を、容易に準備することができる。また、葯を液体窒素の中へ浸漬することで、容易に凍結乾燥させることができる。 【0018】 前記受粉は、前記粗花粉を注入器に吸入し、前記同じ雌品種または前記異なる雌品種の果実に穴を開け、前記穴に前記注入器を挿入して、前記注入器の前記粗花粉を当該果実の雌しべに噴出させて行うことをも可能である。 【0019】 このように、受粉に、雌品種の雄しべを凍結乾燥させた後に粉砕した粗花粉を用いることで、従来の交配方法である、注入器を、雌品種の果実に形成した穴に挿入して、花粉を付着させ受粉させる方法が使用でき、容易に受粉作業が行える。 【0020】 ここで、注入器は、スポイトや注射器などの、先端が細く、雌品種に果実に形成した穴に挿入でき、粗花粉を吸入して、噴出できることが可能なものであればよいが、スポイトが安価で容易に準備でき、取り扱いやすいため望ましい。 【0021】 スポイトを用いることで、受粉させる雌品種の果実に穴を開けて、その穴にスポイトを挿入し、スポイトから、凍結乾燥した後に粉砕した花粉を空気ごと注入することで、容易に雌しべに受粉させることが可能である。 【0022】 雌品種の果実に着生した雄しべを、同じ雌品種または異なる雌品種の果実の雌しべへ、受粉させる方法として、直接雌しべへ擦りつけたり、雄しべを凍結乾燥させた後に粉砕したものを粗花粉として、注入器により雌しべへ噴出させたりして行うことができるが、その際に使用する雄しべは、植物ホルモンであるジベレリンを含む植物成長調整剤により生育を促進させた雄しべを用いることもできる。 【発明の効果】 【0023】 本発明に係るイチジクの交配方法によれば、以下の効果を奏する。 (1)雌品種の果実に植物ホルモンであるジベレリンを含む植物成長調整剤を付着させて果実の雄しべを育成することにより、雌品種に僅かではあるが着生している雄しべの育成が促進され、果実1個あたりの雄しべの着生数が増加するので、交配に使用できる花粉の量が多く採取できる。よって、食味評価が明らかである雌品種の雌しべと、同様に食味評価が明らかである雌品種の雄しべを交配させることで、果実を結実させることが可能であるとともに、所望とする食味の特性を有する種子を得ることができる。 (2)雌品種の果実に着生した雄しべの葯を、同じ雌品種または異なる雌品種の果実の雌しべに、擦りつけて付着させて受粉させることによって、植物ホルモンであるジベレリンを含む植物成長調整剤により雄しべの生育を促進させなくても、受粉させることが可能である。よって、食味評価が明らかな雌品種の雄しべと、食味評価が明らかな雌品種の雌しべとを交配させることができるので、果実を結実させることが可能であるとともに、所望とする食味の特性を有する種子を得ることができる。 (3)受粉は、果実の一部を切断して形成された開口部を介して雄しべの葯の一部を、当該果実内の雌しべに擦りつけることにより行うことができる。このように、果実の一部を切断して開口部を形成することにより、確実に受粉させることができ、結実させることが可能となる (4)雌品種に着生している雄しべの葯凍結乾燥した後に粉砕して形成した粗花粉を用いて、他の雌品種の果実の雌しべに受粉させることにより、受粉のための花粉を、容易に準備することができ、植物ホルモンであるジベレリンを含む植物成長調整剤により雄しべの生育を促進させなくても、受粉させることが可能である。よって、食味評価が明らかである雌品種の雌しべと、同様に食味評価が明らかである雌品種の雄しべを交配させることで、果実を結実させることが可能であるとともに、所望とする食味の特性を有する種子を得ることができる。 (5)粗花粉を注入器に吸入し、他の雌品種の果実に穴を開け、穴に注入器を挿入して、注入器の粗花粉を噴出させ、果実内の雌しべに付着させることにより、容易に、粗花粉を使用した受粉作業を行うことができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0024】 以下、実施例に基づいて実施の形態を説明する。 【実施例1】 【0025】 イチジク雌品種である「蓬莱柿」を使用して、果実に植物ホルモンであるジベレリンを含む植物成長調整剤を散布することによる雄しべの着生の試験を行った。 【0026】 「蓬莱柿」の夏果に対し、ジベレリンを10ppmの水溶液に調整した植物成長調整剤を準備し、噴霧器である手動式の霧吹き器を用いて、果実に散布処理を行った場合と、散布処理を行わない場合とで、雄しべが着生した果実の割合を比較した。4月中下旬にジベレリン水溶液を「蓬莱柿」の夏果に散布し、7月の収穫時に比較したところ、表1に示すように、散布処理をした果実の場合は、雄しべの着生した果実の割合が75%であったが、散布処理をしなかった場合は41%であった。また、果実1個あたりの雄しべの着生数も、散布処理をした果実の場合は、雄しべの平均本数が3.0本であったが、散布処理をしなかった場合は0.9本であり、果実を3等分し、それぞれの部位における雄しべの着生数は、全て散布処理を行った方が多かった。 【0027】 【表1】
【実施例2】 【0028】 植物成長調整剤を使用せずに、雌品種の果実に着生している雄しべを使用して、交配の試験を行った。 【0029】 前述したように、雌品種の果実に着生する雄しべの数は著しく少ない。従って、その雄しべから得られる花粉は、量的に少ないので、果実の雄しべの花粉を、多量に採取することは困難である。従って、従来の交配方法のように交配する雌品種の果実に穴を開けてスポイトなどで空気ごと挿入する方法が利用できない。そこで、「蓬莱柿」の雌品種の夏果から雄しべを採取し、得られた雄しべの葯を凍結乾燥した後に粉砕したものを集めて、粗花粉とすることにより、多量の花粉を準備した。そして、その粗花粉を、雌品種である「桝井ドーフィン」の未成熟の果実に穴を開け、スポイトで空気ごと粗花粉を挿入することで人工交配した。結果、「桝井ドーフィン」の果実が成熟した9月に秋果を収穫することができ、その秋果の種子を播いて交雑実生を得ることができた。 なお、粗花粉は、植物ホルモンであるジベレリンを含む植物成長調整剤を用いて生育させた雌品種の雄しべの葯を凍結乾燥させ、粉砕したものを用いてもよい。 【実施例3】 【0030】 植物ホルモンであるジベレリンを含む植物成長調整剤を用いて、雌品種の果実に着生した雄しべを、直接雌しべに擦りつけて花粉を付着させ、交配の試験を行った。 【0031】 イチジク雌品種である「桝井ドーフィン」および「ビオレー・ドーフィン」の未成熟果実の果頂部を切断して開口部を形成し、雌しべを露出させた。次に、実施例1にて収穫した「蓬莱柿」の夏果の雄しべを1本ピンセットで挟み、葯の部分を露出させた雌しべの柱頭部に擦りつけて花粉を付着させ交配させた。交配した「桝井ドーフィン」および「ビオレー・ドーフィン」の未成熟果を、雨水などの浸入から腐敗を防止するために袋をかけ、成熟する9月まで育成して秋果を収穫し、その秋果の種子を播いて交雑実生を得る。 【0032】 この結果により、1本の雄しべからでも交配に利用できることと、凍結乾燥や粉砕といった工程を雄しべに施すことなく、交配を行うことが確認できた。比較例として、従来の交配方法により、「桝井ドーフィン」および「ビオレー・ドーフィン」の未成熟果実に、イチジクの雄品種である「VC−180」の花粉を使用して、スポイトで注入し受粉させた。表2に示すように、果実1個あたりの種子獲得数は、雌品種の果実に着生した雄しべを使用した実施例である本発明に係る交配方法の方が少ないが、種子の発芽率は、比較例である従来の交配方法とほとんど差がないことが確認できた。 【0033】 【表2】
【0034】 また、同様にして、植物成長調整剤を用いずに、雌品種の果実に着生した雄しべを、直接雌しべに擦りつけて花粉を付着させる交配の試験も行った。 【0035】 イチジク雌品種である「アーテナ」の未成熟果実の果頂部を切断して開口部を形成し、雌しべを露出させ、同じ雌品種である「アーテナ」の夏果の雄しべを1本ピンセットで挟み、葯の部分を露出させた雌しべの柱頭部に擦りつけて花粉を付着させ交配させた。また、雌品種である「蓬莱柿」の未成熟果実の果頂部を切断して開口部を形成し、雌しべを露出させ、同じ雌品種である「蓬莱柿」の夏果の雄しべを1本ピンセットで挟み、葯の部分を露出させた雌しべの柱頭部に擦りつけて花粉を付着させ交配させた。 交配の組み合わせである「アーテナ」×「アーテナ」、「蓬莱柿」×「蓬莱柿」のいずれの場合においても、成熟する9月まで育成させて秋果を収穫し、その秋果の種子を播いて交雑実生を得ることができた。 【実施例4】 【0036】 福岡県農業総合試験場豊前分場内の研究圃場に、実施例3で得られた、「桝井ドーフィン」と「蓬莱柿」とを交配させた種子180個体と、「ビオレー・ドーフィン」と「蓬莱柿」とを交配させた85個体を播種し、それぞれの交雑実生に、果実が結実することを確認した。 【産業上の利用可能性】 【0037】 本発明のイチジクの交配方法は、雌品種同士を交配させることで、食味評価の高い特性を有するイチジクの果実を得るための育種に用いることができる。
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| 【出願人】 |
【識別番号】591065549 【氏名又は名称】福岡県
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| 【出願日】 |
平成15年9月24日(2003.9.24) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100099508 【弁理士】 【氏名又は名称】加藤 久
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| 【公開番号】 |
特開2005−95054(P2005−95054A) |
| 【公開日】 |
平成17年4月14日(2005.4.14) |
| 【出願番号】 |
特願2003−332310(P2003−332310) |
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