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【発明の名称】 水銀等の重金属蓄積能を付与したトランスジェニック植物の作出と同植物を用いた重金属汚染土壌の浄化方法
【発明者】 【氏名】清野 正子

【氏名】芳生 秀光

【要約】 【課題】水銀等の重金属蓄積能が付与されたトランスジェニック植物を作出すること。および同植物を重金属汚染土壌の浄化に利用した新たなファイトレメディエーションを提供すること。

【解決手段】ポリリン酸合成酵素をコードするppk遺伝子がゲノムに組み込まれた遺伝子組換えタバコを作出した。このppk遺伝子組換えタバコは、ポリリン酸合成酵素を高発現し、ポリリン酸の合成量が増大する結果、ポリリン酸のキレート体として水銀等の重金属を植物内に高蓄積することができ、重金属汚染土壌の浄化・修復に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリリン酸合成酵素をコードするppk遺伝子が導入され、水銀等の重金属蓄積能が付与されたトランスジェニック植物。
【請求項2】
上記ppk遺伝子と、有機水銀分解酵素をコードするmerB遺伝子とが導入された請求項1記載のトランスジェニック植物。
【請求項3】
上記ppk遺伝子と、水銀輸送系蛋白質をコードするmerT遺伝子とが導入された請求項1記載のトランスジェニック植物。
【請求項4】
上記ppk遺伝子、有機水銀分解酵素をコードするmerB遺伝子、および水銀輸送系蛋白質をコードするmerT遺伝子が導入された請求項1記載のトランスジェニック植物。
【請求項5】
クレブシエラ(Klebsiella)属菌由来のppk遺伝子が導入された請求項1〜4の何れか1項に記載のトランスジェニック植物。
【請求項6】
クレブシエラ・エアロゲネス(Klebsiella aerogenes)由来であって、配列番号1に示される塩基配列中、第281〜第2338番目のコード配列を有するppk遺伝子が導入された請求項5記載のトランスジェニック植物。
【請求項7】
上記ppk遺伝子と共に、β−グルクロニダーゼ(Gus)遺伝子が導入された請求項1〜6の何れか1項に記載のトランスジェニック植物。
【請求項8】
シュードモナス(Pseudomonas)属菌由来のmerB遺伝子が導入された請求項2又は4記載のトランスジェニック植物。
【請求項9】
配列番号3に示される塩基配列中、第4097〜第4735番目のコード配列を有するmerB遺伝子が導入された請求項8記載のトランスジェニック植物。
【請求項10】
シュードモナス(Pseudomonas)属菌由来のmerT遺伝子が導入された請求項3又は4記載のトランスジェニック植物。
【請求項11】
配列番号3に示される塩基配列中、第791〜第1141番目のコード配列を有するmerT遺伝子が導入された請求項10記載のトランスジェニック植物。
【請求項12】
上記植物がタバコ(Nicotiana tabacum)である、請求項1〜11の何れか1項に記載のトランスジェニック植物。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか1項に記載のトランスジェニック植物の作出方法であって、上記ppk遺伝子を組み込んだ組換えベクターを得て、当該組換えベクターにより形質転換した植物の細胞から植物体を再分化する工程を含む作出方法。
【請求項14】
アグロバクテリウム(Agrobacterium)を用いて形質転換する請求項13記載のトランスジェニック植物の作出方法。
【請求項15】
上記工程によりppk遺伝子が導入された植物と、merB遺伝子及び/又はmerT遺伝子が導入された植物とを交配受粉させる工程を含む請求項13記載のトランスジェニック植物の作出方法。
【請求項16】
請求項1〜12の何れか1項に記載のトランスジェニック植物を用いた、水銀等の重金属汚染土壌の浄化方法。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀等の重金属蓄積能が付与されたトランスジェニック植物(遺伝子組換え植物)、同植物の作出方法、および同植物を重金属汚染土壌の浄化に利用したファイトレメディエーション(phytoremediation)ないしバイオレメディエーション(bioremediation)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水銀等の重金属による環境汚染は世界各地で進行しており、重金属に汚染された土壌浄化システムの開発は急務の課題になっている。こうした中、植物を利用した土壌浄化技術であるファイトレメディエーション、および同技術を利用したビジネスに注目が集まっている。
【0003】
米国では、1980年代にスーパーファンド法が施行されたのをきっかけに、土壌・地下水汚染の修復・浄化ビジネスが非常に盛んになった。米国での重金属のファイトレメディエーションの市場予測は、2005年には約8500万ドルと試算されている。一方、日本国内では、土壌汚染対策法(平成14年度法律第53号)が2003年2月に施行されたことにより、重金属除去が経済的問題、健康被害対策の問題として今後ますます重要視されると共に、汚染土壌浄化ビジネスの発展が期待される。2000年度中に国内で新たに見つかった土壌汚染のうち、重金属等の超過事例は72件を数えた(1975年以降の累積超過事例は574件)。民間研究機関の予測では、国内での土壌浄化ビジネスは今後13〜60兆円規模に拡大するとされている。
【0004】
従来の重金属汚染土壌浄化技術は、原位置処理、掘削除去、封じ込め、固形化・不溶化、飛散防止などの措置を施すものであり、現在これらの技術が汎用されている。これら浄化技術の詳細およびその問題点(コスト高、再汚染の可能性など)については、後記の非特許文献1に記載されている。
【0005】
ファイトレメディエーション技術は、上記従来の浄化技術に比べて、コストが安く、低濃度で広範囲な汚染に有効であるという利点がある。無機水銀のファイトレメディエーションに関する実験例は、後記の非特許文献2に報告されている。その概要は、大腸菌由来の無機水銀還元酵素遺伝子をユリノキに導入することにより、組換え植物内で無機水銀は代謝されて金属水銀となり、水銀蒸気として大気中に放出されることにより、土壌中の無機水銀が浄化されるというものである。しかし、この技術では大気中に放出された金属水銀が他の地域を再汚染する可能性があるため、開放系での利用は困難である。したがって、汚染土壌の浄化の実用化には至っていない。
【0006】
本発明者は、これまでに遺伝子組換え固定化細胞を用いた廃水中の重金属浄化法の開発を試み、廃水中の重金属浄化に本固定化細胞系が適応できることを示し、後記の非特許文献3・4に発表した。本固定化細胞系の原理は、菌体内に取り込まれた重金属をポリリン酸(polyphosphate)とのキレート体として回収するものである。
【0007】
【非特許文献1】藤原靖 土壌汚染対策法と重金属汚染土壌の浄化技術の現状と課題 環境バイオテクノロジー学会誌 vol2, 117-126 (2002)
【非特許文献2】Rugh CL, Wilde HD, Stack NM, Thompson DM, Summers AO, Meagher RB, Mercuric ion reduction and resistance in transgenic Arabidopsis thaliana plants expressing a modified bacterial merA gene. Proc Natl Acad Sci U S A. 1996 Apr 16;93(8):3182-7
【非特許文献3】Hidemitsu Pan-Hou, Masako Kiyono, Hisaki Omura, Tomoko Omura, and Ginro Endo, Polyphosphate produced in recombinant Escherichia coli confers mercury resistance. FEMS Microbiol Letts, 207, 159-164 (2002)
【非特許文献4】Hidemitsu Pan-Hou, Masako Kiyono, Tomoka Kawase, Tomoko Omura, and Ginro Endo, Evaluation of ppk-specified polyphosphate as a mercury remedial tool. Biol. Pharm. Bull., 24, 1423-1426 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の固定化細胞系は廃水中の重金属浄化を目指したものであり、重金属汚染土壌への適応は困難であった。本発明者は、この系の原理を応用して、水銀等の重金属蓄積能を有するトランスジェニック植物(遺伝子組換え植物)を作出し、同植物を利用したファイトレメディエーションへと発展させることにより、重金属汚染土壌の浄化をなし得ると考えた。
【0009】
本発明は、このように、水銀等の重金属蓄積能を付与したトランスジェニック植物の作出、および同植物を重金属汚染土壌の浄化に利用した新たなファイトレメディエーションの開発・提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意研究を進めた結果、(1)微生物由来のポリリン酸合成酵素をコードするppk遺伝子をバイナリーベクターへ組換え、同ベクターにより形質転換したアグロバクテリウムをタバコ(Nicotiana tabacum)へ感染させ、培養、選抜を経て植物体へ再分化させることにより、実際にppk遺伝子がゲノムに組み込まれたppk遺伝子組換えタバコを作出できること、(2)微生物由来の有機水銀分解酵素をコードするmerB遺伝子、水銀輸送系蛋白をコードするmerT遺伝子をそれぞれバイナリーベクターへ組換え、上記(1)と同様の方法により、各遺伝子がゲノムに組み込まれた遺伝子組換え植物を作出し得ること、(3)上記(1)の方法により作出されたppk遺伝子組換えタバコは、実際にポリリン酸合成酵素(PPK)蛋白質を高発現し、ポリリン酸の量も増大していること、さらに、(4)ppk遺伝子組換えタバコは、無機水銀環境中で生育、発根とも良好であり、高い水銀耐性を示すこと、等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は、産業上有用な発明として、下記A)〜P)の発明を包含するものである。
A) ポリリン酸合成酵素をコードするppk遺伝子が導入され、水銀等の重金属蓄積能が付与されたトランスジェニック植物。
B) 上記ppk遺伝子と、有機水銀分解酵素をコードするmerB遺伝子とが導入された上記A)記載のトランスジェニック植物。
C) 上記ppk遺伝子と、水銀輸送系蛋白質をコードするmerT遺伝子とが導入された上記A)記載のトランスジェニック植物。
D) 上記ppk遺伝子、有機水銀分解酵素をコードするmerB遺伝子、および水銀輸送系蛋白質をコードするmerT遺伝子が導入された上記A)記載のトランスジェニック植物。
E) クレブシエラ(Klebsiella)属菌由来のppk遺伝子が導入された上記A)〜D)の何れかに記載のトランスジェニック植物。
F) クレブシエラ・エアロゲネス(Klebsiella aerogenes)由来であって、配列番号1に示される塩基配列中、第281〜第2338番目のコード配列を有するppk遺伝子が導入された上記E)記載のトランスジェニック植物。
G) 上記ppk遺伝子と共に、β−グルクロニダーゼ(Gus)遺伝子が導入された上記A)〜F)の何れかに記載のトランスジェニック植物。
H) シュードモナス(Pseudomonas)属菌由来のmerB遺伝子が導入された上記B)又はD)記載のトランスジェニック植物。
I) 配列番号3に示される塩基配列中、第4097〜第4735番目のコード配列を有するmerB遺伝子が導入された上記H)記載のトランスジェニック植物。
J) シュードモナス(Pseudomonas)属菌由来のmerT遺伝子が導入された上記C)又はD)記載のトランスジェニック植物。
K) 配列番号3に示される塩基配列中、第791〜第1141番目のコード配列を有するmerT遺伝子が導入された上記J)記載のトランスジェニック植物。
L) 上記植物がタバコ(Nicotiana tabacum)である、上記A)〜K)の何れかに記載のトランスジェニック植物。
M) 上記A)〜L)の何れかに記載のトランスジェニック植物の作出方法であって、上記ppk遺伝子を組み込んだ組換えベクターを得て、当該組換えベクターにより形質転換した植物の細胞から植物体を再分化する工程を含む作出方法。
N) アグロバクテリウム(Agrobacterium)を用いて形質転換する上記M)記載のトランスジェニック植物の作出方法。
O) 上記工程によりppk遺伝子が導入された植物と、merB遺伝子及び/又はmerT遺伝子が導入された植物とを交配受粉させる工程を含む上記M)記載のトランスジェニック植物の作出方法。
P) 上記A)〜L)の何れかに記載のトランスジェニック植物を用いた、水銀等の重金属汚染土壌の浄化方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のトランスジェニック植物(遺伝子組換え植物)は、ppk遺伝子が導入され、水銀等の重金属蓄積能が付与されているので、同植物を重金属汚染土壌の浄化・修復に利用することができる。本発明の浄化方法(ファイトレメディエーション)は、基本的に同植物を汚染土壌に植えればよいので、低コストで効率よく重金属を浄化することができ、浄化のために特別なエネルギーを必要としない。その意味で本発明は、環境低負荷型浄化システムを提供するものといえる。その上、重金属はポリリン酸のキレート体として植物内に蓄積されるので、再汚染の可能性が少なく開放系での利用が可能であり、植物に蓄積した重金属の再資源化も可能である。
【0013】
また、ppk遺伝子のほかに、merT遺伝子、merB遺伝子を植物ゲノムに導入することで、土壌中の有機・無機水銀を積極的に根から吸収したり、植物内で有機水銀を無機水銀に代謝して毒性を軽減し、生じた無機水銀をポリリン酸のキレート体として植物内に蓄積することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の一形態について説明する。
本発明の遺伝子組換え植物には、ポリリン酸合成酵素をコードするppk遺伝子が導入される。本明細書において、ppk遺伝子とは、ポリリン酸合成酵素(polyphosphate kinase:以下、「PPK」という場合がある。)をコードする遺伝子を意味する。生物起源は特に限定されるものではないが、微生物(細菌)由来のppk遺伝子が好ましい。本発明者は、クレブシエラ・エアロゲネス(Klebsiella aerogenes)由来のppk遺伝子を使用して、ppk遺伝子組換え植物の作出に成功したので、例えばクレブシエラ(Klebsiella)属菌由来のppk遺伝子を使用するとよい。
【0015】
配列表の配列番号1には、本発明者がppk遺伝子組換え植物の作出に使用したppk遺伝子の塩基配列が示される。同塩基配列には、コード配列(CDS)のほか非翻訳領域(UTR)も含まれており、実際に植物に導入された遺伝子領域は、PPK蛋白のアミノ酸配列をコードする第281〜第2338番目のコード配列に相当する部分である。PPK蛋白のアミノ酸配列は、配列番号2にも示される。ppk遺伝子を植物ゲノムへ導入する目的は、PPK蛋白を植物において高発現させ、これによりポリリン酸の合成量を増大させて水銀等の重金属蓄積能を植物に付与することにある。そのためには、PPK蛋白をコードする遺伝子領域を導入すればよい。
【0016】
尚、上記ppk遺伝子の塩基配列、およびPPK蛋白のアミノ酸配列は、データベース(DDBJ/EMBL/GenBank databases)にアクセッション番号D14445として登録されている。
【0017】
ppk遺伝子の植物への導入方法としては、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法など既存の確立された遺伝子導入方法のいずれを使用してもよいが、本発明者はアグロバクテリウム法を用いて遺伝子組換え植物を作出した。詳細は後述の実施例において説明するが、(1)まず、ppk遺伝子をバイナリーベクターへ組換え、(2)同ベクターによりアグロバクテリウムを形質転換し、(3)同アグロバクテリウムをタバコの葉へ感染させ、培養、選抜、再分化を経てppk遺伝子組換え植物を作出した。
【0018】
図1〜図3には、ppk遺伝子組換え植物の作出方法の概要が示される。図1に示すように、まず、浄化遺伝子としてppk遺伝子をバイナリーベクターへ組換え、プラスミドpPKT116を構築した。このとき、植物内でのppk遺伝子の発現を促進するため等の理由から、同図に示すように、ppk遺伝子配列の両側にE12、35Sなど種々の配列を配置した(詳細は後述する)。本作出方法では、これらの配列もppk遺伝子と共に植物ゲノムに導入される。
【0019】
こうして得られたプラスミドpPKT116を、図2に示すように、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)へ導入し、形質転換する。導入の成否は、アガロースゲル電気泳動により同プラスミドを検出することで確認できる。次に、同プラスミドを保有するアグロバクテリウムをタバコの葉へ感染させ、その後、図3に示すように、カルス化、シュート化のステップを経て環境浄化用のppk遺伝子組換えタバコを作出した。本作出方法の各ステップは、常法に従って行うことができる。
【0020】
上記のように、本作出方法では遺伝子組換え用の植物にタバコ(Nicotiana tabacum)を用いた。タバコは、後述のように野生株であってもポリリン酸を産生しているので、重金属汚染浄化用の遺伝子組換え植物として好ましいが、本発明の遺伝子組換え植物は特にタバコに限定されるものではない。例えば、他のタバコ属植物、ナス科植物であってもよいし、他の双子葉植物、さらには単子葉植物であってもよい。一例として、ニンジン、ダイコンなどは、地中奥深い汚染に対して有効であると考えられる。また、ヒマワリはバイオマスが大きく浄化効率が良いことが予測され、短期間での浄化が可能と考えられる。
【0021】
尚、本発明における「植物」の範疇には、植物個体のほか、根、茎、葉、生殖器官(花器官および種子を含む)などの各種器官、各種組織、植物細胞などが含まれ、さらにはプロトプラスト、スフェロプラスト、誘導カルス、再生個体およびその子孫、なども含まれるものとする。
【0022】
上記の作出方法では、植物個体から小片に切り取ったタバコの葉へアグロバクテリウムを感染させたが、勿論、根、茎など他の器官・組織を使用してもよいし、タバコ培養細胞株を用いてこれにアグロバクテリウムを感染させた後、植物体へ再分化させてもよい。
【0023】
勿論、上記の作出方法に種々の変更を加えて、本発明の遺伝子組換え植物を作出することが可能である。例えば、ppk遺伝子を挿入した組換えベクターには、バイナリーベクター以外のベクターを使用してもよい。また、ppk遺伝子と共に植物ゲノムに導入するDNA配列は任意に設計すればよく、例えば、選抜のための選択マーカーとして、抗生物質ハイグロマイシンに対する耐性を植物に付与するHPT遺伝子(図1参照)を使用したが、これ以外の選択マーカーを使用しても勿論よい。ppk遺伝子には、前述のように、クレブシエラ・エアロゲネス(Klebsiella aerogenes)由来のppk遺伝子を使用したが、常法に従って1個または数個の塩基を置換、欠失、挿入、及び/又は付加させ、植物にPPK(ポリリン酸キナーゼ)の改変蛋白を発現させるようにしてもよい。
【0024】
上記の作出方法に用いたプラスミドpPKT116は、図1に示すように、ppk遺伝子の下流にβ−グルクロニダーゼ(Gus)遺伝子が挿入されたものであった。Gus遺伝子は必要ではないが、経験的にGus遺伝子が存在すると、その上流の遺伝子(この場合ppk遺伝子)の安定性が上昇することが予測された。Gus遺伝子の生物起源は特に限定されるものではないが、上記の作出方法ではシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のGus遺伝子(アクセッション番号Y12496)をppk遺伝子と共に植物に導入した。
【0025】
また、本発明者は、図4(a)に示すように、Gus遺伝子をもたないプラスミドpPKT116.G−を作製した。つまり、ppk遺伝子組換えタバコの作出のために、pPKT116およびpPKT116.G−の二種類のコンストラクトを作製した。
【0026】
上記二種類のコンストラクトを用いて作出したppk遺伝子組換えタバコの苗木約30株について、ゲノムDNAを抽出し、PCR反応後、アガロースゲル電気泳動によって、ppk遺伝子導入の成否を調べた。その結果、いずれのコンストラクトを使用した場合も、実際にppk遺伝子がゲノムに組み込まれたppk遺伝子組換えタバコを作出することができた(図5参照。詳細は後述する)。
【0027】
また、作出したppk遺伝子組換えタバコは、実際にポリリン酸合成酵素(PPK)蛋白質を高発現し(図6参照)、ポリリン酸の量も増大していた(図7参照)。さらに、ppk遺伝子組換えタバコは、無機水銀環境中で生育、発根とも良好であり、高い水銀耐性を示した(図8参照)。
【0028】
このように、本発明の遺伝子組換え植物は、ポリリン酸の合成量が増大する結果、ポリリン酸のキレート体として水銀等の重金属を植物内に高蓄積することができる。よって、本発明の遺伝子組換え植物を重金属汚染土壌に植えるだけで、土壌浄化が期待できる。ポリリン酸は、二価陽イオンなどに対して高い親和性を示すことから、水銀のほか、カドミウム、鉛、銅、亜鉛などの有害重金属の浄化にも利用可能である。
【0029】
また、水銀、カドミウム、鉛などを高濃度に蓄積した植物からは、これらを回収・再利用するリサイクルも可能である。重金属は工業的に有用資源であり、そのリサイクルも重要と考えられる。重金属高蓄積能が付与された本発明の遺伝子組換え植物を作出することで、土壌中の重金属浄化および重金属の濃縮・回収・リサイクルが同時に実現可能である。
【0030】
本発明の遺伝子組換え植物に、ppk遺伝子のほかに、他の遺伝子、例えば水銀耐性遺伝子をあわせて導入してもよい。本発明者は、水銀耐性遺伝子として、merT遺伝子およびmerB遺伝子がそれぞれ導入された遺伝子組換え植物を作出した。
【0031】
図4(b)(c)には、merT遺伝子組換え植物およびmerB遺伝子組換え植物の作出にそれぞれ使用したプラスミドpMERT34およびpMERB50の構造が概略的に示される。同図に示すように、これらプラスミドの構造は、上記ppk遺伝子組換え植物の作出に使用したプラスミドの構造と同様であり、そのほかの工程も同様に行って各遺伝子組換え植物を作出した。
【0032】
本明細書において、merT遺伝子とは、水銀輸送系蛋白質をコードする遺伝子を意味し、merB遺伝子とは、有機水銀分解酵素をコードする遺伝子を意味する。いずれの生物起源とも特に限定されるものではないが、微生物(細菌)由来の遺伝子が好ましい。本発明者は、シュードモナスsp. K-62(Pseudomonas sp. K-62)株由来のmerT遺伝子およびmerB遺伝子を使用したので、例えばシュードモナス(Pseudomonas)属菌由来のmerT遺伝子およびmerB遺伝子を使用するとよい。
【0033】
配列表の配列番号3には、本発明者が使用したmerT遺伝子およびmerB遺伝子の塩基配列が示される。両遺伝子は、他の水銀耐性遺伝子と共にオペロンを構成している(DDBJ/EMBL/GenBank databasesのアクセッション番号D83080参照)。
【0034】
配列番号3の塩基配列中、第791〜第1141番目の配列が、水銀輸送系蛋白質をコードするmerT遺伝子領域であり、同遺伝子領域がプラスミドに挿入され、植物に導入された。また、配列番号3の塩基配列中、第4097〜第4735番目の配列が、有機水銀分解酵素をコードするmerB遺伝子領域であり、同遺伝子領域がプラスミドに挿入され、植物に導入された。これら遺伝子によってコードされる水銀輸送系蛋白質および有機水銀分解酵素のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号6・7にも示される。
【0035】
このように作出されたmerT遺伝子組換え植物とmerB遺伝子組換え植物とを交配受粉させることにより、merT遺伝子とmerB遺伝子とが導入された遺伝子組換え植物を作出することができる。同様に、ppk遺伝子組換え植物と、merT遺伝子及び/又はmerB遺伝子が導入された遺伝子組換え植物とを交配受粉させることにより、(1)ppk遺伝子およびmerT遺伝子が導入された遺伝子組換え植物、(2)ppk遺伝子およびmerB遺伝子が導入された遺伝子組換え植物、(3)ppk遺伝子、merT遺伝子およびmerB遺伝子が導入された遺伝子組換え植物を作出することができる。こうして得られた本発明の遺伝子組換え植物では、土壌中の有機・無機水銀を積極的に根から吸収したり、植物内で有機水銀を無機水銀に代謝して毒性を軽減し、生じた無機水銀をポリリン酸のキレート体として植物内に高蓄積することも可能である。
【0036】
そのほか、merT遺伝子、merB遺伝子以外の水銀耐性遺伝子をppk遺伝子と共に導入してもよいし、他の重金属耐性遺伝子をppk遺伝子と共に導入してもよい。例えば、上記merT遺伝子およびmerB遺伝子と共にオペロンを構成する他の水銀耐性遺伝子merR、merP、merA、merGの何れか一つ又は複数を、ppk遺伝子と共に導入してもよい。
【0037】
以上のように、本発明の遺伝子組換え植物は、主として重金属汚染土壌の浄化・修復に有用であるが、例えば水生植物の遺伝子組換えによって廃水中の重金属除去にも利用可能である。また、本発明の遺伝子組換え植物は、土壌中、廃水中の重金属汚染の程度を検出するためのバイオセンサーとしても利用可能である。
【実施例】
【0038】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1:ppk遺伝子のバイナリーベクターへの組換え〕
本発明者は、以下の方法により、クレブシエラ・エアロゲネス(Klebsiella aerogenes)由来のppk遺伝子をバイナリーベクターへ組換えた。
【0040】
まず、ppk遺伝子をPCR反応により増幅した。増幅する遺伝子配列は、配列番号1に示される塩基配列中、PPK蛋白をコードする第281〜第2338番目のコード配列(CDS)からなる。このppk遺伝子配列が挿入されたプラスミドpKP02.1をPCR反応の鋳型に使用した。このpKP02.1は、クローニングベクターpUC119のマルチクローニングサイトに予めクレブシエラ・エアロゲネス(Klebsiella aerogenes)由来のppk遺伝子を組換えたプラスミドである。
【0041】
上記PCR反応は常法に従って行った。使用したプライマーは、下記の塩基配列からなるアッパープライマーppkU251およびロウアープライマーppkL2323である。反応後、増幅DNA断片を制限酵素XbaIで消化し、得られた約2.1kbのppk遺伝子断片を単離・精製した。
ppkU251:5’GCTCTAGACTAGATCTAAGAAGGAACCACAATGGGTCAGGAAAAGTTATATATC 3’(配列番号6)
ppkL2323:5’GCTCTAGAGGTTAATCGGGTTGCTCG 3’(配列番号7)
【0042】
上記アッパープライマーppkU251は、XbaIサイト(5’TCTAGA 3’)、SD配列(5’AGAAGG 3’)、PT配列(5’AACCACA 3’)、およびppk遺伝子がコードするメチオニンから始まるN末端の8個のアミノ酸配列(MGQEKLYI)のコーディング部位(5’ATGGGTCAGGAAAAGTTATATATC 3’)を含んで構成される。一方、ロウアープライマーppkL2323は、ppk遺伝子がコードするC末端の4個のアミノ酸配列(EQPD)のコーディング部位(5’GAGCAACCCGAT 3’)、ストップコドン(5’TAA 3’)、およびXbaIサイト(5’TCTAGA 3’)の各相補配列を含んで構成される。したがって、得られたppk遺伝子断片は両端にXbaIサイトをもち、その配列は、センス鎖の5’側からSD配列、PT配列、ppk遺伝子配列の順番になる。SD配列を上流に配することで、ppk遺伝子がアグロバクテリウムをはじめとする、微生物内で確実に複製・転写・翻訳されることを期待できる。また、PT配列を上流に配することで、植物内での複製・転写・翻訳の効果を期待できる。
【0043】
次に、上記方法により得られたppk遺伝子断片をバイナリーベクターへ組換える操作を説明する。バイナリーベクターにはHM−6を使用した。このHM−6は、Binary Vector BinHygTOP(アクセッション番号Z37515)を改良したプラスミドである。BinHygTOPのHindIIIサイトとEcoRIサイトとの間に、以下に説明するE12−35S−Gus−Tnos−Pnos−HPT−Tag7配列を挿入したプラスミドがHM−6である。
【0044】
このバイナリーベクターHM−6は、図1に示すように、植物組織全体で構成的に高発現するCaMV35S(図中35S)を有し、さらに、タンデムエンハンサーで修飾して活性を上昇させるE12プロモーター(図中E12)、mRNAの安定性を上昇させる植物ウィルス由来のオメガ配列(図中Ω)、および外来遺伝子としてシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来(アクセッション番号Y12496)のβ−グルクロニダーゼ遺伝子(図中Gus)を有している。
【0045】
このバイナリーベクターHM−6をXbaIで消化し、切断部位に上記約2.1kbのppk遺伝子断片を挿入し、得られた組換えプラスミドを「pPKT116」と命名した。その構造の詳細は図1に示すとおりである。このpPKT116の構造上、植物に組み換えられる領域は、E12−35S−ppk−Gus−Tnos−Pnos−HPT−Tag7である。Tnos−Pnosは、ppk−Gusのターミネーター領域であり、HPT−Tag7は、植物選択マーカーとなるハイグロマイシン耐性遺伝子である。
【0046】
次に、pPKT116をXbaIで部分消化した後にセルフライゲーションを行って、もう一種類の組換えプラスミドpPKT116.G−を構築した。このpPKT116.G−の構造上、植物に組み換えられる領域は、E12−35S−ppk−Tnos−Pnos−HPT−Tag7である。pPKT116とpPKT116.G−との違いは、図4(a)に比較して示すように、Gus遺伝子をもつかもたないかである。Gus遺伝子は、本トランスジェニック植物の作出に直接必要ではなかったが、経験的にGus遺伝子が存在すると、その上流の遺伝子(この場合ppk遺伝子)の安定性が上昇することが予測された。そのため、ppk遺伝子の組換えのために、二種類のコンストラクトを作製した。
【0047】
〔実施例2:merB遺伝子およびmerT遺伝子のバイナリーベクターへの組換え〕
次に、Pseudomonas strain K-62由来のmerB遺伝子およびmerT遺伝子をそれぞれバイナリーベクターへ組換えた。merB遺伝子は、配列番号3に示される塩基配列中、有機水銀分解酵素をコードする第4097〜第4735番目の塩基配列からなる。一方、merT遺伝子は、配列番号3に示される塩基配列中、水銀輸送系蛋白をコードする第791〜第1141番目の塩基配列からなる。
【0048】
merB遺伝子およびmerT遺伝子のバイナリーベクターへの組換え操作は、基本的に、上記ppk遺伝子のバイナリーベクターへの組換え方法と同様に行った。図4(b)(c)には、merT遺伝子断片とmerB遺伝子断片とをそれぞれ挿入して得られた組換えプラスミド「pMERT34」および「pMERB50」の構造が示される。
【0049】
〔実施例3:遺伝子組換えバイナリーベクターのアグロバクテリウムへの形質導入〕
上記方法により作製した4つの組換えバイナリーベクターpPKT116、pPKT116.G−、pMERT34、およびpMERB50を、エレクトロポレーション法に従ってそれぞれアグロバクテリウムへ形質導入した。これらのプラスミドをそれぞれ形質転換したアグロバクテリウムはカナマイシン含有LB液体培地中で培養した後、アルカリ法に基づく常法に従ってプラスミドを抽出した。図2には、アガロースゲル電気泳動によりプラスミドpPKT116を検出することで、同プラスミド導入の成否を検討した結果が示される。右側3レーンは、同プラスミドが導入されたアグロバクテリウムの結果である。
【0050】
〔実施例4:ppk遺伝子組換えタバコ等の作出〕
上記各プラスミドが導入されたアグロバクテリウムをカナマイシン含有LB液体培地中で培養し、これをタバコの葉切断断面から浸潤させた。これを植物ホルモンを含むMS寒天培地に接地させ暗所で二日間培養することで、アグロバクテリウムをタバコの葉へ感染させた。この感染後のタバコの葉は、抗生物質(ハイグロマイシン及びクラフォラン)及び植物ホルモンを含むMS寒天培地に接地させた。二週間ごとに本寒天培地を新しいものに取り換え、葉の切片からカルスが生じるのを待った。遺伝子組換えタバコカルスの選抜は、遺伝子組換えバイナリーベクターを取り込んだタバコカルスは抗生物質(ハイグロマイシン)に対して耐性を示すことを利用した。こうして選抜したタバコカルスは、植物ホルモンのうちナフタレン酢酸を抜いたMS寒天培地へ植え換えることでシュート化を促進させ、植物個体を再生させた。発根したクローンについては植物ホルモンフリーのMS寒天培地へ植え換え、遺伝子組換えタバコを作出した。図3には、このように、カルス化、シュート化を経て遺伝子組換えタバコを作出する工程が示される。
【0051】
また、上記方法により作出されたppk遺伝子組換えタバコ、merB遺伝子組換えタバコ、merT遺伝子組換えタバコを相互に繰り返し交配受粉させることによって、(1)ppk遺伝子およびmerB遺伝子が導入された遺伝子組換えタバコ、(2)ppk遺伝子およびmerT遺伝子が導入された遺伝子組換えタバコ、(3)ppk遺伝子、merB遺伝子およびmerT遺伝子が導入された遺伝子組換えタバコ、の作出が可能となる。
【0052】
〔実施例5:植物ゲノムへのppk遺伝子導入の成否の確認〕
作出したppk遺伝子組換えタバコの苗木約30株の葉から、CTAB法に従って、それぞれゲノムDNAを抽出した。得られたゲノムDNAをそれぞれ鋳型として、常法に従ってPCR反応を行い、予期したDNAの増幅断片が検出できた株を、ppk遺伝子組換え植物とした。PCR反応に使用したプライマーは、ppk遺伝子に特徴的な配列部分を選んで設計した。具体的に、使用したプライマーは、下記の塩基配列からなるアッパープライマーおよびロウアープライマーである。
アッパープライマー:5’GAGATGGCGCGCAATCAAAT 3’(配列番号8)
ロウアープライマー:5’ATATCGCGCTGATAGACAAA 3’(配列番号9)
【0053】
これらのプライマーを用いてPCR反応を行った場合、ppk遺伝子を組換えたタバコゲノムからは、ppk遺伝子配列中の約500bpが増幅される。
【0054】
図5に、上記PCR反応を行った後、アガロースゲル電気泳動により増幅断片の有無を調べた結果を示す。同図に示すように、約500bpの遺伝子断片が検出されたクローンは、ppk遺伝子組換え体であると判定された。図中、各レーンの試料は以下のとおりである。
1, 5, 11, 17, 23: 分子量マーカー
2, 6, 12, 18, 24: ポジティブコントロール(plasmid pPKT116)
3, 7, 13, 19, 25: ネガティブコントロール(タバコ野性株)
4: ppk-gus-1-42(ppk-gus遺伝子組換え体)
8: ppk-gus-1-66(ppk-gus遺伝子組換え体)
9: ppk-gus-1-92(ppk-gus遺伝子組換え体)
10: ppk-gus-1-98(ppk-gus遺伝子組換え体)
14: ppk-gus-1-37(ppk-gus遺伝子組換え体)
15: ppk-gus-1-95(ppk-gus遺伝子組換え体)
16: ppk-gus-1-97(ppk-gus遺伝子組換え体)
20: ppk-5-9 (ppk遺伝子組換え体)
21: ppk-5-13(ppk遺伝子組換え体)
22: ppk-5-18(ppk遺伝子組換え体)
26: ppk-5-3 (ppk遺伝子組換え体)
27: ppk-5-16(ppk遺伝子組換え体)
28: ppk-5-20(ppk遺伝子組換え体)
【0055】
この結果、ppk遺伝子が組換えられたと考えられる株として、pPKT116を用いて得られたppk-gus遺伝子組換え体のうち、1-42, 1-66, 1-92, 1-98, 1-37, 1-95, 1-97の計7株、pPKT116.G−を用いて得られたppk遺伝子組換え体のうち、5-9, 5-13, 5-18, 5-3, 5-16, 5-20の計6株を得た。
【0056】
〔実施例6:ppk遺伝子組換え植物におけるポリリン酸合成酵素の発現とポリリン酸合成量の検討〕
ppk遺伝子組換えタバコにおけるポリリン酸合成酵素(PPK)の発現は、同酵素のC末端のアミノ酸配列QLAIYDYIKSLEQPDの部位に対する抗体を作製し、ウエスタンブロット法によって検討した。その結果を図6に示す。同図に示すように、ポリリン酸合成酵素の発現量の高いクローンは、1-37, 1-95, 1-97であり、1-42は他のクローンに比べてポリリン酸合成酵素の発現量が低かった。
【0057】
次に、ppk遺伝子組換えタバコからポリリン酸を抽出・検出した。植物からのポリリン酸の抽出法は未だ確立されておらず、既に確立された微生物からのポリリン酸抽出法などを参考にして、タバコからのポリリン酸の抽出法を確立した。その方法はポリアクリルアミド電気泳動法により分離させた後、トルイジンブルー染色するものである。その結果、図7に示すように、ppk遺伝子組換え株は、コントロールに比べて有意に高いポリリン酸を合成していた。ppk遺伝子組換え株のうち、1-37, 1-95, 1-97, 1-98はポリリン酸量が高く、一方、1-42はポリリン酸量が低かった。この結果は、図6のウエスタンブロット法の結果とよく一致していた。
【0058】
また、非遺伝子組換え体の野性株のタバコからもポリリン酸が抽出され、検出された(図7のレーン7参照)。この結果から、野性株のタバコ自体もポリリン酸を持っていることが初めて示された。タバコはある程度の重金属に対する耐性を持っているが、これはもともとタバコがポリリン酸を少し持っているからだと推察される。ポリリン酸が水銀をはじめとする重金属をキレートすることで重金属の毒性を軽減させる。タバコがもともと持つポリリン酸と、組換えたppk遺伝子から合成されるポリリン酸とで、重金属蓄積能が増強されると考えられる。タバコはバイオマスが大きく、低栄養条件、水分枯渇にも強い、動物が食べないので食物連鎖に影響を与えないという特徴があり、重金属汚染土壌浄化用の組換え植物としてタバコを用いることは効果的であると考えられる。
【0059】
〔実施例7:ppk遺伝子組換え植物の水銀耐性能の評価〕
作出したppk遺伝子組換えタバコのうち、ポリリン酸の高発現株について、無機水銀耐性能が付与されているか調査した。ppk遺伝子組換えタバコ(1-37, 1-42, 1-95, 1-97)の茎頂部を5ppm無機水銀含有LS寒天培地に植えた。その結果、図8に示すように、ppk遺伝子組換えタバコ(1-95)は、無機水銀環境中で生育、発根とも良好であり、高い水銀耐性を示した。他のppk遺伝子組換えタバコ(1-37, 1-97)も無機水銀環境中で生育、発根とも良好であり、高い水銀耐性を示した。この結果は、〔実施例6〕で得られた結果とよく相関していた。以上の結果から、ppk遺伝子組換えタバコは、無機水銀を根から吸収した後、地上部に高蓄積している可能性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明は、ポリリン酸合成酵素をコードするppk遺伝子が導入され、水銀等の重金属蓄積能が付与されたトランスジェニック植物(遺伝子組換え植物)に関するものであり、主として、水銀等の重金属汚染土壌の浄化・修復に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明のトランスジェニック植物の作出に用いた組換えベクターの構造を概略的に示す図である。
【図2】本発明のトランスジェニック植物の作出方法における、上記組換えベクターによりアグロバクテリウムを形質転換する工程を説明する図である。
【図3】本発明のトランスジェニック植物の作出方法における、上記アグロバクテリウムをタバコの葉に感染させ、ppk遺伝子組換えタバコを作出する工程を説明する図である。
【図4】(a)は、ppk遺伝子組換えタバコの作出に用いた組換えベクターの構造を概略的に示す図であり、(b)(c)は、それぞれmerT遺伝子組換えタバコ、merB遺伝子組換えタバコの作出に用いた組換えベクターの構造を概略的に示す図である。
【図5】ppk遺伝子導入の成否をアガロースゲル電気泳動により調べた結果を示す図である。
【図6】ppk遺伝子組換えタバコにおけるポリリン酸合成酵素の発現をウエスタンブロット法により調べた結果を示す図である。
【図7】ppk遺伝子組換えタバコにおけるポリリン酸の量をトルイジンブルー染色により調べた結果を示す図である。
【図8】(a)(b)は、ppk遺伝子組換えタバコの無機水銀環境中での生育を調べた結果を示す図である。
【出願人】 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【出願日】 平成15年7月30日(2003.7.30)
【代理人】 【識別番号】100115026
【弁理士】
【氏名又は名称】圓谷 徹

【公開番号】 特開2005−46082(P2005−46082A)
【公開日】 平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願番号】 特願2003−282367(P2003−282367)