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【発明の名称】 海苔の雑藻駆除及び病害防除のための海苔処理方法及び海苔処理剤
【発明者】 【氏名】安部 敏男
【住所又は居所】熊本県荒尾市増永1850番地 第一製網株式会社内

【要約】 【課題】養殖海苔に着生または混生するケイ藻類、アオノリ類等の雑藻駆除、及びスミノリ症等、病原菌によって引き起こされる各種病害を効果的、効率的に防除若しくは予防し、かつ、海洋環境に対する負荷のできるだけ少ない海苔処理方法、海苔処理剤を提供する。

【解決手段】本発明の海苔処理方法は、養殖海苔の雑藻駆除及び病害菌防除を連続的に行うため作業船上の処理槽11を2分割し、前部12を雑藻、病原細菌駆除槽に、後部13を真菌性病害防除槽として使用することを特徴とするものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖海苔の雑藻駆除及び病害菌防除を連続的に行うため作業船上の処理槽を2分割し、前部処理槽を雑藻、病原細菌駆除槽に、後部処理槽を真菌性病害防除槽として使用することを特徴とする海苔処理方法。
【請求項2】
前部処理槽には、少なくとも有機酸を含有した海水を電気分解で調製した電気分解液を連続的に供給し、後部の処理槽には、酸処理剤を連続的に供給して、浸漬処理又は散布処理で処理する請求項1に記載の海苔処理方法。
【請求項3】
電気分解液のpHが1〜6の範囲であり、かつ、酸化還元電位が1000mv以上で、0.1ppm以上の有効塩素の発生が認められる、請求項2に記載の海苔処理方法。
【請求項4】
前部処理槽及び後部処理槽には、それぞれ別個の処理液貯槽を設けて両槽の処理液が混ざらないようにして処理液をポンプで循環させながら処理を行う請求項1〜3の何れか一つに記載の海苔処理方法。
【請求項5】
前部処理槽の処理に使用する電気分解液の性状は、酸化還元電位及びpHで管理し、後部処理槽の処理液性状はpHで管理する請求項2〜5の何れか一つに記載の海苔処理方法。
【請求項6】
前部処理槽で使用する電気分解液を調製するための原液は、海水に少なくとも有機酸が溶解された溶液からなり、かつpHが2〜5の範囲にあることを特徴とする海苔処理剤。
【請求項7】
有機酸が酸解離指数(pKa)が4よりも大きい有機酸からなる請求項6に記載の海苔処理剤。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖海苔に着生するリクモフォーラ、タベラリア等の付着ケイ藻をはじめとする雑藻類、及び、スミノリ症の原因とされる針状細菌等の細菌類の駆除、また、海苔葉体細胞に感染し、甚大な被害をもたらす赤腐れ病、壺状菌病等の真菌を病原菌とする病害を、効率よく効果的に防除でき、健全な養殖海苔の育成を目的とする、海苔の雑藻駆除及び病害防除のための海苔処理方法及び海苔処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、養殖海苔には、ケイ藻類に属するリクモフォーラ(Licmophora flabellate)、タベラリア、緑藻類に属するスジアオノリ(Enteromorupha prolofera)、ヒラアオノリ(E.compressa)等の雑藻類、フハイカビ(Pythium)属菌を病原菌とする、赤腐れ病、フクロカビ(Olpidiopsis)属菌を病原菌とする壺状菌病、及びFlavobacterium属またはVibrio属細菌類を病原菌とする針状細菌症(スミノリ症)、緑斑病、擬似しろぐされ病等の細菌症等多くの雑藻、病害がある。
これらの雑藻、病害の駆除、防除方法として、潮の干満周期を利用して海苔網を空中へ一定時間吊り上げて乾燥を行い、雑藻類及び病原菌と海苔の乾燥に対する抵抗性の差を利用して、雑藻駆除、病害防除が行われている。
【0003】
しかしながら、潮の干満を利用した干出操作のできないベタ流式養殖では、海苔網の乾燥処理による雑藻、病原菌の駆除が困難である。また、潮の干満を利用した干出操作ができる支柱式養殖においても、病害の種類又は程度によっては干出操作だけでは病害防除が完全にできない場合もある。この解決策として酸処理技術が開発され(例えば、特許文献1参照)、広く普及し利用されている。
【0004】
初期の酸処理剤は、処理時間に数十分以上を要したようであるが、その後も効果の向上、処理作業の効率化をめざした技術改良の努力が続けられている(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。
しかしながら、種々の雑藻、病害の中には、これら酸処理剤に対する抵抗性が強く、なかなか駆除できないものもある。例えば、付着ケイ藻のタベラリア等の駆除は困難で、現在これらの駆除のためには、濃度が高くて強い酸を用いたり、多量の食塩を併用したりしているが、効果的な駆除ができていないのが現状である。
【0005】
一方、海苔の雑藻駆除、病害防除剤には効能、効果の性能が求められるのは勿論であるが、海洋環境に対する配慮も必要である。
環境負荷軽減をめざした新しい方向として、海水の電気分解、超音波、磁力線等を利用する方法(例えば、特許文献7、特許文献8、特許文献9、及び特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13参照)も種々検討されているが、まだ完成された実用技術とはなっていないものである。また、電気分解液による処理では、いずれも天然海水のみを電気分解して次亜塩素酸を発生させ、その殺菌力を利用するものであり、ケイ藻類及び細菌類の駆除には有効であるが、赤腐れ病、壺状菌病等真菌による病害には効果が低く、雑藻着生と真菌による病害が併発した場合、その駆除は困難となると考えられる。
このため業界では、海洋環境への負荷が出来るだけ少なく、かつ各種病害、雑藻類を効率よく駆除出来る技術の早急な開発が切望されている。
【特許文献1】特公昭56−12601号公報
【特許文献2】特開平9−40511号公報
【特許文献3】特開平9−175910号公報
【特許文献4】特開平11−193201号公報
【特許文献5】特許第3296174号公報
【特許文献6】特許第3369544号公報
【特許文献7】特開平7−313007号公報
【特許文献8】特開平8−140512号公報
【特許文献9】特開平9−238587号公報
【特許文献10】特開2000−175580号公報
【特許文献11】特開2002−306003号公報
【特許文献12】特開2003−174828号公報
【特許文献13】特開2003−235373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、養殖海苔に着生するケイ藻類等の雑藻類、スミノリ症等の原因となる細菌症、及び赤腐れ病等の真菌症に対し、効果的、効率的に防除若しくは予防できると共に、これらの雑藻類、細菌症、真菌症などが同時に着生、発症、または、併発した場合でも、一回の処理で効率的に駆除若しくは防除でき、かつ、海洋環境に対する負荷の少ない海苔処理方法、海苔処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来の課題等を解決するために、鋭意検討した結果、養殖海苔の雑藻駆除及び病害菌防除を行う作業船上の処理槽を2分割して、該各処理槽を特定の手段等で養殖海苔を処理することにより、雑藻類、細菌症、真菌症などが同時に着生、発症、または、併発した場合でも、一回の処理で効率的に駆除若しくは防除できる上記目的の海苔処理方法、海苔処理剤が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(7)に存する。
(1) 養殖海苔の雑藻駆除及び病害菌防除を連続的に行うため作業船上の処理槽を2分割し、前部処理槽を雑藻、病原細菌駆除槽に、後部処理槽を真菌性病害防除槽として使用することを特徴とする海苔処理方法。
(2) 前部処理槽には、少なくとも有機酸を含有した海水を電気分解で調製した電気分解液を連続的に供給し、後部の処理槽には、酸処理液を連続的に供給して、浸漬処理又は散布処理で処理する上記(1)に記載の海苔処理方法。
(3) 電気分解液のpHが1〜6の範囲であり、かつ、酸化還元電位が1000mv以上で、0.1ppm以上の有効塩素の発生が認められる、上記(2)に記載の海苔処理方法。
(4) 前部処理槽及び後部処理槽には、それぞれ別個の処理液貯槽を設けて両槽の処理液が混ざらないようにして処理液をポンプで循環させながら処理を行う上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の海苔処理方法。
(5) 前部処理槽の処理に使用する電気分解液の性状は、酸化還元電位及びpHで管理し、後部処理槽の処理液性状はpHで管理する上記(2)〜(5)の何れか一つに記載の海苔処理方法。
(6) 前部処理槽で使用する電気分解液を調製するための原液は、海水に少なくとも有機酸が溶解された溶液からなり、かつpHが2〜5の範囲にあることを特徴とする海苔処理剤。
(7) 有機酸が酸解離指数(pKa)が4よりも大きい有機酸からなる上記(6)に記載の海苔処理剤。
【0009】
本発明において、「海苔処理」とは、養殖海苔に着生し海苔の生育を阻害したり品質低下の原因となるケイ藻類等の雑藻類駆除、海苔葉体表面に着生または寄生してスミノリ症等の原因となる細菌類の駆除、及び海苔葉体細胞に真菌等の病原菌が寄生しておこる赤腐れ病等の真菌性の病害防除、もしくは予防または海苔活性化を目的として、本発明を用いて、海苔網を処理液に浸漬したり、処理液を散布して施用する行為をいう。
ここで、上記「雑藻類の駆除」とは、海苔に着生または混生するケイ藻類等の雑藻類を選択的に殺藻除去することを意味する。また、「病原細菌類の駆除」とは、スミノリ症の原因となる針状細菌をはじめとして、緑斑病、擬似しろぐされ病等の原因となる細菌類の殺菌除去することを意味する。更に、「病害の防除もしくは予防」とは、海苔病害の治療または海苔が病害に冒されるのを予防することを意味する。また、「海苔の活性化」とは、海苔の生長促進、海苔の色、艶などの品質を向上させることを意味する。
また、本発明において、浸漬(液浸)処理とは、海苔の生育着生している海苔網をローラー等を用いて処理槽内へ手繰りこみ一定時間浸漬、または処理液中を通過させることをいう。また、散布処理とは、推進装置を備えた海苔処理船(潜り船ともいう)、または箱舟で海苔網の下を潜って海苔網を空中に持ち上げ、シャワーまたは散液ノズル等を用いて海苔網の下または上から処理液を散布することをいう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の処理剤では駆除が困難であった付着ケイ藻のタベラリアが効果的に駆除でき、かつ、スミノリ症をはじめとする細菌性疾病、及び赤腐れ病等の真菌性病害を1回の処理で短時間に、効率的に、かつ、連続的に防除でき、健全な養殖海苔を育成できる海苔処理方法、海苔処理剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の海苔処理方法は、養殖海苔の雑藻駆除及び病害菌防除を連続的に行うため作業船上の処理槽を2分割し、前部処理槽を雑藻、病原細菌駆除槽に、後部処理槽を真菌性病害防除槽として使用することを特徴とするものであり、具体的には、前部処理槽で、少なくとも有機酸を含有した海水を電気分解で調製した連続的に供給される電気分解液(電解液)をもって浸漬法又は散布法により処理した後、引き続き後部処理槽で従来から使用される酸処理剤を用いて連続的に海苔網を浸漬法又は散布法により処理するものである。
【0012】
本発明において、前部処理槽で使用する電気分解液を調製するための原液となる海苔処理剤は、少なくとも有機酸を含有した海水、好ましくは、少なくとも有機酸が溶解された海水溶液からなり、かつpHが2〜5の範囲にあるものが望ましい。
用いることができる有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ギ酸、ピルビン酸、酪酸、乳酸、蓚酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、オキザロ酢酸、リンゴ酸、α−ケトグルタール酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、シスアコニット酸及びグリコール酸からなる群より選ばれる少なくとも1種(1種又は2種以上の混合物、以下同様)が挙げられ、好ましくは、電気分解液の殺藻、殺菌効果に関与する酸化還元電位、有効塩素濃度に代表される電気分解液性状が安定し、有効性の高い電気分解液が製造できる点から、酸解離指数(pKa)が4よりも大きな有機酸であるコハク酸、酢酸、プロピオン酸などを用いることが望ましい。
【0013】
本発明の海苔処理剤では、好ましくは、上記有機酸から選ばれる少なくとも1種を用いることができ、また、上記有機酸を主成分(用いる酸全量に対して50重量%以上)とするものであれば、有機酸に塩酸、硫酸、硝酸及びリン酸などの無機酸を併用してもよいものである。
また、上記海苔処理剤(原液)のpHは、2〜5の範囲に調整されているものが好ましい。このpHの調整は、用いる有機酸種、使用量などにより調整され、上記有機酸等の酸の濃度は通常、海水溶液全量に対して、0.01〜0.5重量%程度である。
このpHが2未満であると、電解液中に分子状塩素(Cl2)の含有比率が高くなり、塩素ガス発生の危険性が高くなり、一方、pHが5を越えると、殺藻殺菌効果の低下が見られ、好ましくない。
【0014】
用いる海水としては、天然海水をそのまま用いることができ、更に、天然海水に食塩、塩化カルシウム等の電解質成分を適宜量(1〜10重量%)添加してもよく、また、塩濃度が海水と同様の食塩水からなる人工海水も用いることができる。
【0015】
本発明において、電気分解液は、上記少なくとも有機酸を含有する海水、好ましくは、少なくとも有機酸が溶解され、かつpHが2〜5の範囲にある海水溶液に、陽極及び陰極からなる電極により直流電流を通電して得られるものであり、電気分解の方式としては、装置の保守管理の容易性の点から、陰陽両極の間に隔膜を設けない無隔膜式とすることが好ましい。
本発明の効果が更に有効に作用するためには、得られる電気分解液は、pHが酸性であればよいが、pH1〜6であることが好ましく、更に好ましくは、pH2〜5となるものが望ましい。また、酸化還元電位(ORP)は、1000mv以上の酸化状態で、0.1ppm以上の有効塩素(ACC)の発生がある性状を示すものであればよいが、好ましくは、酸化還元電位(ORP)は1150mv以上であることが望ましく、更に好ましくは、1150〜1300mvとすることが望ましく、有効塩素濃度(ACC)は1ppm〜10ppmとすることが更に望ましい。
【0016】
本発明では、有効な海苔処理に好適な上記範囲の電気分解液のpH、酸化還元電位(OPR)状態を保つには、好ましくは、海苔処理実施中も新たな酸を溶解した酸溶液の補給と通電を継続し続けることが望ましい。新たな酸溶液の補給としては、連続式、バッチ式いずれの方式も可能である。
なお、無機酸のみを含有した海水を電気分解した電気分解液の場合は、海苔に対する薬害が出やすくなり、ケイ藻類に対する選択殺藻効果が劣ることとなり、また、酸を使用しない海水のみを電気分解した電気分解液の場合は、ケイ藻類等の雑藻類に対する駆除効果が著しく弱く、目的の効果を発揮することができないこととなる。
【0017】
本発明において、前部処理槽で用いる海苔処理液は、上記海苔処理剤を上記条件となるように調製した電気分解液からなるものである。この電気分解液が収容される前部処理槽で、養殖海苔を浸漬処理するか(浸漬法)、または、該電気分解液を養殖海苔に散布すること(散布法)により、第1段階の海苔の処理が行われる。
この第1段階での海苔処理では、電気分解液と海苔が接触する時間、つまり、処理時間は、調製された電解液の性状及び、対象とする雑藻、病原菌により異なるが、1秒〜4分の間であることが好ましく、更に好ましくは、5秒〜30秒であることが望ましい。
上記海苔処理が終了後、引き続き、後部処理槽で従来から使用される酸処理剤を用いて連続的に海苔網を浸漬法又は散布法により処理するものである。
【0018】
この後部処理槽で使用する酸処理剤は、現在一般に使用されている既存の有機酸及び/又は無機酸、例えば、上述の有機酸及び/又は無機酸を含有してなる酸処理剤で、それぞれの製品に適合した濃度(例えば、0.5〜1%)、pH(例えば、1〜3)、処理時間(例えば、30秒〜4分)等で使用する。市販品としては、ノリアクト200、同500、P4ひょうご(以上、第一製網社製)、P1ひょうご、ダッシュ3000(以上、扶桑化学社製)、グリーンカット10号L(シロク社製)を用いることができる。
上記前部処理槽、後部処理槽で処理した後、海苔網は直ちに海水中に戻し通常の養殖が継続される。
【0019】
本発明において、連続的に海苔処理を行うための具体的な装置としては、例えば、図1に示す海苔処理船に搭載した海苔処理装置を用いることができる。これは、従来から使用されている海苔処理船10の処理槽11を二分割した構造で、前部を上述の電解液による処理槽12に、後部を従来から使用されている上記酸処理剤による処理槽13に割り当てたものである。それぞれの処理に要する概略時間は、前部処理槽12における処理時間は1秒〜4分、好ましくは、5秒〜30秒であり、後部処理槽13における処理時間は10秒〜4分、好ましくは、30秒〜2分である。
また、図1中における、14は電解液貯槽、15は酸処理剤貯槽、16は電気分解槽、17は電解用酸原液貯層、18は酸処理剤原液貯槽、19はpH制御器、20はORP制御機、21は電解液補給配管、22は電解液回収配管、23は酸処理剤補給配管、24は酸処理剤回収配管、25は海苔網である。
【0020】
本発明の前部処理槽12で使用する上記電解液は、処理時間が短いと、赤腐れ病等の真菌症に対する防除効果は若干弱いものであるが、タベラリア等のケイ藻類に対する駆除効果、及び針状細菌症等の細菌類に対する駆除効果は高く、これらの雑藻類、細菌類は電解液に数秒間接触するだけで、ほぼ100%の駆除効果が得られる。一方、本発明の後部処理槽13で使用する少なくとも有機酸を主成分とする既存の酸処理剤にはタベラリアの駆除効果は期待できないが、赤腐れ病等の真菌を病原菌とする病害の防除効果は高い。しかし、これら既存の酸処理剤の作用時間は、短いものでも数十秒を要する。
本発明では、養殖海苔の雑藻駆除及び病害菌防除を短時間で連続的に行うために、これら二つの処理剤の性能、特性を最大限に利用した海苔処理方法である。すなわち、図1に示したシステムの構造の処理船は、約10m/分の速度で前方へ移動するため、前部処理槽12で処理された海苔網25は、数秒から十数秒後には後部処理槽13に入る、従って、処理時間が数秒でも効果がある電解液処理を第1段階で行う。一方、後部処理槽13で処理された海苔網25は、処理後数十秒から1分間空中に保持された後海中に入るため、既存の酸処理剤でも十分に駆除効果の期待できる処理時間が確保される。
本発明において、海苔処理の実施においては、処理船の進行速度を落とし、前部処理槽12での処理を10秒以上、後部処理槽13での処理を1分以上かけて適宜処理を行うことも可能である。
【0021】
本発明において、図1に示すように、前部処理槽12で使用する電解液の調製は、海苔作業船10上に設置された電気分解槽16で行い、設定された酸化還元電位を維持するようにモニターの酸化還元電位計(ORP制御機20)に連動させて電気分解を継続する。また、電解液のpHは、pHメーター(pH制御機19)に連動させた給液ポンプにより電解用酸原液貯槽17より酸原液を供給して設定pH値に常時調整することが望ましい。
なお、電解液の少しくらいのpH値変動は、殺藻効果、殺菌効果に影響を与えないが、pHに影響を与える有機酸等の濃度は電解液の酸化還元電位に大きな影響を与え、ひいては殺藻効果、殺菌効果に影響するため、運転中は常時pHを調整することが望ましい。
【0022】
本発明における海苔処理作業は、例えば、図1に示すように、海苔処理船10により、海苔網15の下を潜りながら行うことができる。海苔処理船10の推進移動により前部処理槽12に導入された海苔網15は電解液に浸漬された後、処理船10の進行にしたがって後部処理槽13に移動し、この後部処理槽13では従来から使用されている既存の酸処理剤による浸漬処理が行われる。処理後の海苔網15は処理船10の進行にしたがって後方に空中を移動し、処理船15の後方で海面に戻される。この間、処理船の進行速度が10m/分前後で、図2に示すように前部処理槽12の縦軸方向の長さaが1〜2mであれば、前部処理槽12での浸液処理時間は6〜12秒となり、後部処理槽13で行われる浸漬処理時間は、浸液後の空中保持時間も合わせて約1分間程度の短時間となる。なお、図2の海苔処理船上の処理槽は、12が前部処理槽、13が後部処理槽、aが縦軸方向の寸法(1〜2m)であり、bが縦軸方向の寸法(1〜2m)である。
本発明では、前部処理槽12には、上述の条件で調製した電気分解液を連続的に供給し、後部処理槽13には、酸処理剤を連続的に供給して、浸漬処理又は散布処理で海苔処理することができることとなる。
また、図1に示すように、前部処理槽12及び後部処理槽13には、それぞれ別個の処理液貯槽14,15を設けて両槽の処理液が混ざらないようにして処理液をポンプで各補給配管、回収配管で循環させながら海苔処理を行うことができるものとなる。
【0023】
このように構成される本発明では、従来の処理剤では駆除が困難であった付着ケイ藻のタベラリアが効果的に駆除でき、かつ、スミノリ症をはじめとする細菌性疾病、及び赤腐れ病等の真菌性病害を1回の処理で短時間に、効率的に、かつ、連続的に防除でき、健全な養殖海苔を育成できる海苔処理方法が得られることとなる。
【実施例】
【0024】
次に、試験例となる実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0025】
図1及び図3に準拠する海苔処理装置、電気分解液生成装置を使用した。電気分解に使用する直流電流は、ケンウッドテイー・エム・アイ社製の直流定電圧・定電流電源PR36−3Aにより供給した。電解電極は、陽極4aにカーボン、陰極4bに鉄を使用した。循環ポンプ3には、腐蝕を防ぐため液接部分には金属を使用しないケミカルポンプを使用し、3分間で全液量が1回転する循環量とした。
上記装置を使用して、下記に示す有機酸含有海水溶液に対する通電処理を行い、通電処理開始後15分間経過した電解液により前部処理槽で処理を行った。また、使用した電解液については、その使用時(通電開始15分経過)に酸化還元電位(ORP)、pH及び有効塩素発生の有無を測定した。
ORP及びpHの測定は、東興化学社製パーソナルpH/ORPメータで測定、有効塩素(ACC)は関東化学(株)製「残留塩素測定用ラピッドDPD試薬」で検出した。
【0026】
(試験例1)
コハク酸0.05%と、酢酸0.05%を含有する海水溶液(pH3.43、以下同様)に対して直流電流を通電する無隔膜式の電気分解を行い、生成された電解液を用いて付着ケイ藻であるタベラリアに対する殺藻効果、赤腐れ病防除効果、及び海苔葉体細胞に対する傷害性を試験した。
電解液は図3に示す総容量5リットルの実験装置で調整した。
電解電極は、陽極4aにカーボン、陰極4bに鉄を使用し、電解電力は6V×0.4A=2.4Wで、通電時間15分後に通電をストップし試験に供した。通電15分後の電解液の性状は、酸化還元電位(ORP):1174mv、pH:3.51、有効塩素濃度(ACC):7ppmであった。
試験には海苔葉体にタベラリアの着生と赤腐れ病の感染病斑が認められるものを使用した。電解液の調製及び海苔葉体処理の温度は12℃で行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0027】
【表1】


【0028】
上記表1の結果から明らかなように、タベラリア駆除効果は高く、5秒間の浸漬法でほぼ完全にタベラリアを殺藻できた。しかし、赤腐れ病に対する防除効果は低く、4分間の浸漬法でも完全な赤腐れ菌の殺菌はできなかった。海苔葉体に対する傷害は4分間までは認められなかったが、8分処理では葉体細胞に傷害が認められた。
【0029】
(試験例2)
市販の酸処理剤「ノリアクト−200」(第一製網社製、以下同様)を海水で100倍に希釈した溶液を用いて、試験例6で使用したものと同じにタベラリアの着生と赤腐れ病の感染が認められる海苔葉体の処理を行い、タベラリアの殺藻効果及び赤腐れ病の防除効果を評価した。なお、ノリアクト−200は、乳酸及び酢酸等の有機酸40%、塩化鉄5%からなる組成である。
処理条件は、上記試験例6と同様12℃で実施した。処理液は、pH2.08であった。この結果を下記表2に示す。
【0030】
【表2】


【0031】
上記表2の結果から明らかなように、市販の既存酸処理剤であるノリアクト−200は、赤腐れ病に対しては高い防除効果を示したが、付着ケイ藻のタベラリアに対しては殺藻効果はさほど強くなく、海苔葉体細胞の傷害発現時間とタベラリア殺藻時間はいずれも4分以上であり、両者の間に差が見られず選択的ケイ藻駆除はできなかった。
【0032】
(試験例3)
上記試験例1及び2で使用したものと同様にタベラリアの着生と、赤腐れ病が同時感染している海苔葉体に対し、上記試験例1で示した電解液製造実験装置(図3)を用いて、試験例1と同様のコハク酸0.05%と酢酸0.05%を含有する海水溶液で調製した電解液で5秒間の浸漬処理をした後、引き続き試験例2に示した市販の既存酸処理剤「ノリアクト−200」による浸漬処理を行った。
電解液、酸処理剤による処理温度条件は、いずれも12℃で実施した。酸処理剤「ノリアクト−200」は100倍希釈で使用した。
これらの結果を下記表3に示す。
【0033】
【表3】


【0034】
上記表3の結果から明らかなように、付着ケイ藻であるタベラリアは全ての試験区で殺藻されていた。これは、第1段処理として行った電解液による処理の段階で殺藻されたものと考えられる。また、赤腐れ病菌は15秒以上の処理区で完全殺菌が得られ、ノリアクト−200単独処理の時よりも短時間での殺菌効果が得られた。
また、海苔葉体細胞に対する傷害発現は、ノリアクト−200単独処理を行った試験例7と同様で4分以上であった。更に、電解液中には7ppmの有効塩素が含まれていたが、電解液処理後、引き続き処理が行われた酸処理槽では残留塩素の検出は全く認められなかった。電解液で処理された海苔葉体には、電解液の一部が葉体付着液として後部酸処理槽に持ち込まれたはずであるが、持ち込まれた残留塩素は酸処理槽の有機酸により還元中和されたものと考えられる。
【0035】
(試験例4)
プロピオン酸0.1%を含有する海水溶液(pH3.85、以下同様)に対して直流電流を通電する無隔膜式の電気分解を行い、生成された電解液を用いて付着ケイ藻であるタベラリアに対する殺藻効果、赤腐れ病防除効果、及び海苔葉体細胞に対する傷害性を上記試験例7と同様にして試験した。
電解液は図3に示す総容量5リットルの実験装置で調整した。
電解電極は、陽極4aにカーボン、陰極4bに鉄を使用し、電解電力は6V×0.4A=2.4Wで、通電時間15分後に通電をストップし試験に供した。通電15分後の電解液の性状は、酸化還元電位(ORP):1160mv、pH:3.85、有効塩素濃度(ACC):5ppmであった。
試験には海苔葉体にタベラリアの着生と赤腐れ病の感染病斑が認められるものを使用した。電解液の調製及び海苔葉体処理の温度は12℃で行った。
これらの結果を下記表4に示す。
【0036】
【表4】


【0037】
上記表4の結果から明らかなように、タベラリア駆除効果は高く、5秒間の浸漬法でほぼ完全にタベラリアを殺藻できた。しかし、赤腐れ病に対する防除効果は低く、4分間の浸漬法でも完全な赤腐れ菌の殺菌はできなかった。海苔葉体に対する傷害は4分間までは認められなかったが、8分処理では葉体細胞に傷害が認められた。
【0038】
(試験例5)
市販酸処理剤「ノリアクト500」(第一製網社製)を海水で150倍に希釈した溶液を用いて、試験例9で使用したものと同じにタベラリアの着生と赤腐れ病の感染が認められる海苔葉体の処理を行い、タベラリアの殺藻効果及び赤腐れ病の防除効果を評価した。なお、ノリアクト500は、乳酸及びプロピオン酸等の有機酸45%、塩化鉄5%からなる組成である。
処理条件は、上記試験9と同様12℃で実施した。処理液は、pH2.1であった。この結果を下記表5に示す。
【0039】
【表5】


【0040】
上記表5の結果から明らかなように、市販の既存酸処理剤ノリアクト500は赤腐れ病に対しては高い防除効果を示したが、付着ケイ藻のタベラリアに対しては殺藻効果はさほど強くなく、海苔葉体細胞の傷害発現時間とタベラリア殺藻時間はいずれも4分以上であり、両者の間に差が見られず選択的ケイ藻駆除はできなかった。
【0041】
(試験例6)
上記試験例4及び5で使用したものと同様にタベラリアの着生と、赤腐れ病が同時感染している海苔葉体に対し、上記試験例4で示した電解液製造実験装置(図1)を用いて、試験例9と同様のプロピオン酸0.1%を含有する海水溶液で調製した電解液で5秒間の浸漬処理をした後、引き続き試験例5に示した市販既存酸処理剤「ノリアクト500」による浸漬処理を行った。
電解液、酸処理剤による処理温度条件は、いずれも12℃で実施した。酸処理剤「ノリアクト500」は150倍希釈で使用した。
これらの結果を下記表6に示す。
【0042】
【表6】


【0043】
上記表6の結果から明らかなように、付着ケイ藻であるタベラリアは全ての試験区で殺藻されていた。これは、第1段処理として行った電解液による処理の段階で殺藻されたものと考えられる。また、赤腐れ病菌は15秒以上の処理区で完全殺菌が得られ、ノリアクト−500単独処理の時よりも短時間での殺菌効果が得られた。
また、海苔葉体細胞に対する傷害発現は、ノリアクト500単独処理を行った試験例1と同様で4分以上であった。更に、電解液中には5ppmの有効塩素が含まれていたが、電解液処理後、引き続き処理が行われた酸処理槽では残留塩素の検出は全く認められなかった。電解液で処理された海苔葉体には、電解液の一部が葉体付着液として後部酸処理槽に持ち込まれたはずであるが、持ち込まれた残留塩素は酸処理槽の有機酸により還元中和されたものと考えられる。
これらの試験例1〜6の結果を総合すると、本発明では、従来の処理剤では駆除が困難であった付着ケイ藻のタベラリアが効果的に駆除でき、かつ、細菌性疾病及び赤腐れ病等の真菌性病害を1回の処理で短時間に、効率的に、かつ、連続的に防除でき、健全な養殖海苔を育成できる海苔処理方法となることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態の一例であり、海苔処理方法に用いる海苔処理装置を搭載した海苔処理船を示すシステムの概略図面である。
【図2】図1で用いる処理槽の実施形態の一例を示す概略図面である。
【図3】海苔処理方法に用いる電気分解生成装置の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 海苔処理船
11 処理槽
12 前部処理槽
13 後部処理槽

【出願人】 【識別番号】000208787
【氏名又は名称】第一製網株式会社
【住所又は居所】熊本県荒尾市増永1850番地
【出願日】 平成16年3月31日(2004.3.31)
【代理人】 【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介

【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義

【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂

【公開番号】 特開2005−287387(P2005−287387A)
【公開日】 平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願番号】 特願2004−106477(P2004−106477)