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【発明の名称】 植物栽培方法及び植物栽培装置
【発明者】 【氏名】伏原 肇

【要約】 【課題】きわめて低消費エネルギーで植物体を加温処理することにより植物体の休眠打破や草勢維持を行うことが可能な植物栽培技術を提供する。

【解決手段】短縮茎形成植物の草勢制御を行うにあたり、植物体の短縮茎を局部的に加温することにより当該植物体の地上茎の伸長に必要な所定の温度範囲に維持する。短縮茎を、地上茎の伸長に必要な所定の温度範囲に維持すれば、植物体の地上茎が伸長可能状態となる。あとは、必要があれば長日処理やジベレリン処理等を組み合わせて行うことにより、休眠相にある場合は休眠覚醒を生じさせ、また、覚醒後は植物体の草勢を活性化することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地際に短縮茎を形成する植物(以下、「短縮茎形成植物」という。)の草勢制御を行う植物栽培方法であって、植物体の短縮茎を局部的に直接加温することにより当該植物体の葉部の伸長に必要な所定の温度範囲に維持することを特徴とする植物栽培方法。
【請求項2】
前記植物体の短縮茎を電熱ヒータにより局部的に直接加温することを特徴とする請求項1記載の植物栽培方法。
【請求項3】
前記電熱ヒータは電熱線であり、前記電熱線を前記植物体の短縮茎に接触乃至ほぼ接触させた状態で短縮茎を直接加温することを特徴とする請求項2記載の植物栽培方法。
【請求項4】
短縮茎形成植物を栽培するための植物栽培装置であって、植物体の短縮茎の部分を局部的に直接加温する電熱ヒータを備えていることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項5】
前記植物体の短縮茎周辺の温度を測定する温度センサと、
前記温度センサの検出する温度に基づいて、前記短縮茎の温度が、植物体の葉部の伸長に必要な所定の温度範囲となるように前記電熱ヒータの通電制御を行う通電制御装置と、
を備えていることを特徴とする請求項4記載の植物栽培装置。
【請求項6】
前記電熱ヒータは、前記電熱線を前記植物体の短縮茎に接触乃至ほぼ接触させた状態で配置される電熱線であることを特徴とする請求項4又は5記載の植物栽培装置。
【請求項7】
前記電熱ヒータは、自己温度制御型の発熱体であることを特徴とする請求項4乃至6の何れか一記載の植物栽培装置。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、地際に短縮茎を形成する植物の栽培技術に関し、特に、低温期においてきわめて低消費エネルギーで植物体を加温処理することにより植物体の草勢の活性化を行う栽培技術に関する。
【背景技術】
【0002】
イチゴのような長日植物の多くは、低温短日に遭遇すると休眠に入り、葉茎の伸長が停滞する。「休眠」とは種子や芽が発芽、生長しないことをいう。一般に、芽が休眠する場合、その要因により誘導休眠と内生休眠とに分類される。「誘導休眠」とは温度や日長などの環境条件が休眠を誘導する場合をいい、「内生休眠」とは植物体の内生的なリズムにより休眠する場合をいう。なお、本明細書でいう「休眠」とは誘導休眠のことを意味し、内生休眠は除くものとする。
【0003】
休眠状態においては、イチゴの株はロゼット(座葉)を形成する。ロゼットとは、草本植物の生育型の一つで、茎が殆ど伸長しておらず根に直接葉が着いているように見える根出葉の状態をいう。なお、イチゴの株の茎は、節間が極端に短縮した短縮茎を有するが、この短縮茎は、特に「クラウン」と呼ばれる。
【0004】
休眠状態においては、葉面積が減少し、光合成が減退するため、収量の低下が生じる。そこで、イチゴの栽培においては、休眠打破を図るために、電照加温処理などが行われている。すなわち、電照により長日処理を行うとともに、ハウス内の加温又はジベレリン処理により休眠打破を促進している。
【0005】
地面から隔離した状態でイチゴの栽培を行う高設栽培においても同様である。しかしながら、平地栽培とは異なり、高設栽培では、栽培槽は低温期において地下からの熱供給が断たれた状態にある。従って、従来、冬季におけるイチゴの高設栽培方法では、栽培槽の培土中に温水管を敷設して、この温水管内に35〜45℃の温湯を循環させることで根圏温度を確保し、イチゴの株の休眠打破と草勢維持を図っている(例えば、非特許文献1〜4参照)。
【0006】
図7は従来の高設栽培装置の一例を表す図である(非特許文献1参照)。図7の高設栽培装置100は長崎県型高設栽培システムとして知られている。この高設栽培装置100は、鋼管パイプにより作業者の好みの高さ(約80cm程度)に組み立てられた高設ベンチ101のベッド上に、断熱効果のある発泡スチロール製容器をつなぎ合わせて横長箱状に形成された栽培槽102が載置されている。この栽培槽102の外側は、光反射用の反射シート103により被覆されている。栽培槽102は、その内壁面に沿って黒マルチ104a及びラブシート104bにより被覆されている。そして、栽培槽102の内部には、培土105が充填されている。
【0007】
培土105内には、培土105を加温するための温水が通水する温湯パイプ106が、栽培槽102の長手方向に沿って埋設されている。栽培槽102の底部中央には、栽培槽102の長手方向に沿って排水溝107が形成されている。培土105の表面は、シルバーマルチ108により覆われている。シルバーマルチ108には、所定の間隔で2列に植栽孔が形成されており、この植栽孔を通して培土105にイチゴの株109が植栽されている。また、シルバーマルチ108の表面には、株109の列に沿って、2本の灌水チューブ110が敷設されている。
【0008】
イチゴの栽培を行う場合、夏季に養成した株を秋期に栽培槽102に定植する。そして、晩秋(11月中旬頃)から電照により長日処理を行う。
【0009】
一方、長日処理を行っても、株の周囲の温度が休眠覚醒温度以上とならなければ休眠が打破されない。また、休眠が打破された後に株が低温に遭遇すると葉が小型化し葉面積が減少する。また、着花数も減少する。そのため、収量があがらなくなる。特に、高設栽培では地下部からの熱供給が断たれているため、根圏の温度管理を行い、株の草勢維持を図る必要がある。そこで、気温が低下してきた場合、暖房機により最低夜温を実温で8℃を確保できるように設定する。また、日中は株位置で25℃前後となるように温度管理が行われる。また、上記高設栽培装置100では、温湯パイプ106に35〜45℃程度の温湯を通すことによって、根圏の温度を13〜15℃程度に確保するようにしている。
【非特許文献1】農耕と園芸編集部編,「イチゴ 品種と新技術 野菜栽培の新技術」,株式会社誠文堂新光社,1998年8月26日,pp.200-209
【非特許文献2】田中修作、西本太,「イチゴ高設栽培における電照と培地加温の効果」,九州農業研究,九州農業試験研究協議会,平成13年5月,第63号,p.178
【非特許文献3】石橋哲也、山本平三、中山敏文、中島正明,「イチゴにおける地中加温の効果」,九州農業研究,九州農業試験研究協議会,2002年5月,第64号,p.168
【非特許文献4】栃木県農業試験場編,「いちご「とちおとめ」の栽培技術」,新技術シリーズ,栃木県農業試験場,平成13年3月,No.3,pp.13−16
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、上記従来の栽培方法では、休眠打破とその後の草勢維持を図るために、電照による長日処理とハウス内及び培土を加温することによる加温処理を行う。しかしながら、ハウス内全体の気温をある一定の温度よりも高く維持するためには、かなり多量のエネルギーが必要とされる。また、根圏温度を維持するために培土の温度を一定値以上に維持するためにも多量のエネルギーが必要とされる。従って、上記従来の栽培方法は、温度管理のためのエネルギー・コストが高くならざるを得ないという問題がある。
【0011】
一方、栽培されるイチゴの株は地際でしか生育していない。従って、ハウス内全体を暖房する場合、暖房により供給される暖房熱は、ハウス内の大部分を占める無駄な空間を加温するために消費される。また、ハウス内の熱は、ハウスの周壁を通して外部に放熱される。従って、放熱面積が大きいため暖房熱が外部に無駄に放熱される量も多い。
【0012】
また、従来の栽培方法では、温湯パイプに通湯することによって培土の地温の管理を行っている。この場合、培土全体を加温するため、根圏温度を維持するためには培土の熱容量に応じて熱エネルギーを供給する必要がある。従って、必然的に大量の培土を昇温するために消費されるエネルギー量が多くなる。
【0013】
以上のことから、エネルギー効率の観点からみると、従来の栽培方法の加温処理におけるエネルギー利用効率はきわめて低いものであるといえる。
【0014】
そこで、本発明の目的は、イチゴのように地際に短縮茎を形成する植物を低温期に加温栽培する場合において、きわめて低消費エネルギーで植物体を加温処理することにより植物体の休眠打破や草勢維持を行うことが可能な植物栽培技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従来、電照による長日処理を行う栽培方法(以下、「電照栽培」という。)において、休眠相にある植物体は長日処理のみでは休眠打破されず、株の周囲の温度を休眠覚醒温度以上にする必要があることが知られている。また、休眠覚醒後に植物体が低温に遭遇すると、植物体の葉が小型化し矮化して草勢が低下したり、再度休眠相に移行したりする現象が起こることが経験的に知られている。上記従来の栽培方法においてハウス内や培土の温度管理を行うのは、このような草勢低下や休眠相への移行を防止するためである。
【0016】
しかしながら、植物体が温度要因をどの部分で感受して草勢調節や休眠覚醒を生じるのかについては、十分に解明されてはいなかった。
【0017】
そこで、本発明者は、短縮茎を形成している植物体が休眠覚醒され草勢が活性化される
誘因は、植物体全体の温度ではなく、主として短縮茎(クラウン)部の温度が直接的に関与しているものであるという仮説を立てた。この仮説に立ち、低温期において無加温ハウス内で電熱ヒータを利用して短縮形の局部直接加温を行うことによって植物体の栽培試験を行った。その結果、花芽形成の条件が大きく異なる一季成り性品種及び四季成り品種のいずれにおいても、上記局部直接加温処理を行わない株には電照効果はみられなかったのに対して、上記局部直接加温処理を行った株は、草勢が活性化されあたかも加温ハウス内で栽培した株と同程度の草勢が維持されることを確認した。なお、この結果を敷衍すると、上記局部直接加温処理の効果は、イチゴの場合のみならず、他のイチゴと同様の生態を有する植物に対しても同様な効果が期待されることは容易に想像される。
【0018】
本発明は以上のようにして新たに得られた知見に基づいてなされたものである。
【0019】
すなわち、本発明に係る植物栽培方法は、地際に短縮茎を形成する植物(以下、「短縮茎形成植物」という。)の草勢制御を行う植物栽培方法であって、植物体の短縮茎を局部的に直接加温することにより当該植物体の葉部伸長に必要な所定の温度範囲に維持することを特徴とする。
【0020】
このように、植物体の短縮茎を、地上茎の伸長に必要な所定の温度範囲に維持することで、植物体の地上茎の伸長が可能な状態とすることができる。これに長日処理やジベレリン処理等を組み合わせて行うことによって、休眠相にある場合は休眠覚醒を生じさせ、また、覚醒後は植物体の草勢、すなわち葉部の伸長する勢力を活性化することができる。
【0021】
ここで、本発明においては、植物体が植えられた培土を加温するのではなく、植物体の短縮茎を局部的に直接加温する。そのため、培土を加温する場合に比べ、加温する対象の熱容量がきわめて小さい。また、ハウス栽培の場合、ハウス内全体を加温する必要がないため、植物体の近傍以外の無駄な空間を加温するのに消費されるエネルギーは不要である。すなわち、地上茎の伸長に必要な所定の温度範囲に維持するために必要とするエネルギーも、培土やハウス内を加温する場合に比べて小さい。すなわち、植物体の草勢の活性化に必要とされる最小限の消費エネルギーで、必要十分に加温処理を行うことができる。従って、従来の短縮茎形成植物の栽培方法と比べて、省エネルギー、低コストで栽培を行うことが可能となる。
【0022】
「短縮茎」とは、ロゼット植物(放射葉植物)のように、節間が極端に短縮し、多数の根生葉を生ずる茎をいう。「短縮茎形成植物」としては、越冬時にロゼット化する植物(ロゼット植物)などがあげられる。ここで、「ロゼット植物」とは、短日条件や低温遭遇等の一定の条件下で、ロゼットを形成する植物をいう。ロゼット植物としては、野菜類では、ニンジン、ダイコン、ホウレンソウ、イチゴ、パセリなどがある。また、花卉類では、ガーベラ、フリージア、チューリップ、スイセン、ヒヤシンス、クロッカスなどがある。なお、本発明は、主としてイチゴ栽培における栽培技術としてなされたものであるが、本発明により栽培することが可能な植物は、特にイチゴに限定されるものではない。
【0023】
「植物体の伸長に必要な所定の温度範囲」は、栽培する植物に依存して決まる。特に、イチゴの場合には、5〜25℃の間に温度を維持するのが好適である。
【0024】
「植物体の短縮茎を局部的に直接加温する」方法は、ここでは特に限定しない。従って、たとえば、温湯を短縮茎のごく近傍を通して局部的に循環させたり、蓄熱体を用いて短縮茎を直接加温する方法を用いたりしてもよい。
【0025】
「直接加温」とは、主として対流による熱移動を利用した加温ではなく、主として熱伝導や輻射による熱移動を利用した加温をいう。従って、直接加温をするには、発熱体を短縮茎に接触させるか、若しくは、極めて近傍に置く必要がある。このように、直接加温を行うことで、対流による熱の無駄な分散を最小限に抑え、極めて効率よく加温を行うことができる。
【0026】
また、本発明においては、前記植物体の短縮茎を電熱ヒータにより局部的に直接加温するのが特に好適である。
【0027】
このように、短縮茎の直接加温に電熱ヒータを使用すると、温度制御が容易であり、設置も簡単である。また、エネルギー源として商用電源を使用することが可能であり、利便性に優れている。
【0028】
更に、本発明においては、前記電熱ヒータとして電熱線を使用して、前記電熱線を前記植物体の短縮茎に接触乃至ほぼ接触させた状態で短縮茎を直接加温することが特に好適である。
【0029】
電熱線が短縮茎から離れるほど電熱線による加温効果が薄れる。そこで、電熱線を植物体の短縮茎に接触乃至ほぼ接触させた状態で配置して短縮茎を加温する。これにより、植物体の休眠覚醒及び草勢の増進に顕著な効果が得られる。
【0030】
なお、本発明は、高設栽培、平地栽培を問わず、適用することができる。
【0031】
本発明に係る植物栽培装置は、短縮茎形成植物を栽培するための植物栽培装置であって、植物体の短縮茎の部分を局部的に直接加温する電熱ヒータを備えていることを特徴とする。
【0032】
この構成により、電熱ヒータで、植物体の短縮茎の部分を直接加温して、その植物体の短縮茎を伸長に必要な所定の温度範囲に維持することで、植物体の伸長を促進することができる。また、電熱ヒータは、植物体の短縮茎の部分を局部的に直接加温するので、必要最小限のエネルギーしか消費されない。従って、植物の栽培に消費するエネルギーを最小限に抑えることができる。
【0033】
また、本発明に係る植物栽培装置において、前記電熱ヒータとしては、電熱線又は面状発熱体を使用することができる。ここで、「面状発熱体」とは、面状に形成された発熱体のことをいう。面状発熱体は、カーボン等の導電性を有する抵抗材料を面状に形成したものに限らず、電熱線を平面充填曲線に沿って曲折させて面内に充填しこれをポリエステル等の耐熱性の絶縁物で被覆した構成のものも含まれる。特に、加工の容易性を考慮すれば、褶曲自在な面状発熱体であるフレキシブル面状発熱体を使用するのが好適である。なお、電熱線としては、具体的には、ニクロム線、カンタル線、鉄クロム線等があげられる。また、面状発熱体としては、具体的には、カーボン面状発熱体、シリコンゴムヒータ、ポリエステルヒータ、ポリイミドヒータ、PTC面状発熱体等があげられる。
【0034】
電熱ヒータに電熱線を使用する場合、植物体の植え条に沿って電熱線を敷設すればよい。また、電熱ヒータに面状発熱体を使用する場合、各植物体について、短縮茎を囲繞する筒状に面状発熱体を形成したり、短縮茎を2枚の面状発熱体の間に挟入するように構成したりすることができる。
【0035】
また、本発明に係る植物栽培装置においては、前記構成に加えて、さらに、前記植物体の短縮茎周辺の温度を測定する温度センサと、前記温度センサの検出する温度に基づいて、前記短縮茎の温度が、植物体の葉部の伸長に必要な所定の温度範囲となるように前記電熱ヒータの通電制御を行う通電制御装置とを備えた構成としてもよい。
【0036】
この構成により、温度センサにより植物体の短縮茎周辺の温度を測定する。そして、通電制御装置により、短縮茎の温度が植物体の伸長に必要な所定の温度範囲となるように電熱ヒータの通電制御を行うことができる。
【0037】
ここで、温度センサとしては、熱電対やサーミスタ等を使用することができる。温度センサは、必ずしも、それぞれの植物体の短縮茎付近に設置する必要はなく、所定の間隔をおいて植物体の株間に設置すればよい。通電制御装置の制御方法は、通常のオン・オフ制御、PI制御、PID制御等を使用することができる。
【0038】
また、前記電熱ヒータに電熱線を使用して、前記電熱線を前記植物体の短縮茎に接触乃至ほぼ接触させた状態で配置するように構成してもよい。
【0039】
このように、電熱線を短縮茎に接触乃至ほぼ接触させて直接加温することで、顕著な草勢増進効果を得ることが可能となる。
【0040】
一方、本発明に係る植物栽培装置において、前記電熱ヒータに自己温度制御型の発熱体を使用してもよい。
【0041】
このように、電熱ヒータとして自己温度制御型の発熱体を使用することにより、電熱ヒータに通電する電流の制御を行う制御装置(温度センサや通電制御装置)が不要となる。従って、設備コストが低廉化され、故障率も低く、メンテナンスも容易となる。特に、本発明においては、電熱ヒータは、植物体の短縮茎の部分を局部的に直接加温すればよいので、電熱ヒータに使用する自己温度制御型の発熱体の面積も小さい。従って、植物栽培装置の設備コストも低廉となる。
【0042】
ここで、「自己温度制御型の発熱体」とは、自己温度制御機能を有する面状発熱体をいう。「自己温度制御型の発熱体」としては、PTC面状発熱体が周知である。PTC面状発熱体は、例えばチタン酸バリウム(BaTiO3)を主成分とした半導体セラミックス等の、PTC特性を有する素材で構成される。PTC(Positive Temperature Coefficient;正温度係数)特性とは、温度が高くなると電気抵抗値が上昇する特性をいう。例えば、チタン酸バリウムの原子価制御型半導体セラミックは、強誘電体相から常誘電体相へ結晶転移するキュリー温度以上で電気抵抗が著しく増加する。なお、このPTC特性は、非導電性材中に導電性粒子が分散したような材料でみられ、非導電性材の熱膨張に起因して非導電性材中に分散した導電性粒子間の結合が切れることにより発現すると説明されている。PTC面状発熱体は、材料組成により任意にキュリー温度を設定できる。
【発明の効果】
【0043】
以上のように、本発明によれば、短縮茎形成植物の植物体の葉部伸長に必要な所定の温度範囲に維持することで、植物体の草勢を活性化することができる。そして、同時に、植物体の短縮茎を局部的に直接加温するため、必要十分な消費エネルギーで植物体を加温処理することができる。従って、加温に必要なエネルギー消費量が少なくてもすむため、省エネルギーでの短縮茎形成植物の生産が可能となる。
【0044】
また、加温に必要なエネルギー消費量が少ないことから、植物の生産コストを下げることが可能となる。また、暖房設備もきわめて簡易なものであるため、設備費の削減も可能となる。
【0045】
参考までに、背景技術で説明したような、一般的なハウス暖房+培地加温によるイチゴの栽培方法における培地加温設備には、10a当たりの初期投資額(設備費)が現時点で200万円以上必要とされており、また、その暖房に使用する燃料コストは、年間約20〜30万円(灯油消費量に換算して約7000〜10000リットル)である。従って、これらの設備費及び生産管理費に対して、イチゴ栽培により経済的に利益を出すためには、相当な収量増加又は高付加価値化を図る必要がある。一方、本発明による植物栽培方法においては、10a当たりの初期投資額(設備費)の試算額は20万円程度である。また、短縮茎の局部直接加温に必要なエネルギー費用(主として電気代)の試算額は、年間数万円程度(電力消費量に換算して約5000kWh)である。従って、きわめて大きな経済的な効果が得られることが予測される。
【0046】
特に、直接加温に電熱ヒータを使用すると、温度制御が容易となるとともに、設置も簡単で設備コストも低廉となる。すなわち、背景技術で説明したような温湯パイプを使用した温湯方式は、装置が大がかりなことから、設備設置は専門の業者に依頼して行う必要がある。それに対して、電熱ヒータを使用すると、設備設置がきわめて簡単であるため、これも大きなメリットである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0048】
図1は本発明の実施例1に係る植物栽培装置の装置構成図である。本実施例においては、一例として、イチゴの高設栽培を行うための植物栽培装置1について説明する。
【0049】
植物栽培装置1は、鋼管を組み立てることにより形成された水平方向に長い形状の高設ベンチ2を備えている。高設ベンチ2の高さは、作業者の好みに応じて設定される。通常は80cm程度である。高設ベンチ2の上部には、円筒形鋼管で構成された3本の梁材が水平に架設されている。左右の梁材を側部梁材2a,2a、中央の梁材を中央梁材2bという。この三本の梁材には、栽培槽保持シート3が掛けられている。
【0050】
栽培槽保持シート3は、通気性を有する割繊維不織布からなる強化支持層の内面に、透水性スパボンドを貼り付けた構成を有する。そのため、栽培槽保持シート3は、通気性・透水性を有する。栽培槽保持シート3は、左右の側部梁材2a,2aと中央梁材2bとの間に窪みができるように掛架されている。また、栽培槽保持シート3の左右両側は、左右の側部梁材2a,2aに、複数の止着ホルダ2cによって固定されている。
【0051】
また、上記栽培槽保持シート3の左右の窪みには、透水性バッグからなる栽培槽4,4が保持されている。栽培槽4は、20×80cmの大きさの袋状に形成されている。この袋の側部の適所には、植物を植え込むための植栽孔(図示せず)が形成されている。透水性バッグの素材としては、例えば、割繊維不織布(例えば、「ワリフ(登録商標)」等)が使用される。栽培槽4の内部には、培土4aが充填されている。この培土は、少量でも植物栽培に十分な保水性・保肥性をもたせるために、高吸水性ポリマが混入されている。栽培槽保持シート3の左右の窪みには、複数の上記栽培槽4が並べて載置されている。
【0052】
さらに、栽培槽保持シート3の真下には、集水吸熱シート5が配置されている。この集水吸熱シート5は、厚さ30μmの黒色ポリエチレン・フィルムに、厚さ20μmの透明ポリエチレン・フィルムをラミネートし、この透明ポリエチレン・フィルムをワリフに貼り付けて構成された素材が使用されている。集水吸熱シート5は、中央に向かって左右が下方に傾斜した状態で高設ベンチ2に取り付けられている。集水吸熱シート5の中央部は、集水部5aが形成されている。栽培槽4から滴下する過剰な灌水は、集水吸熱シート5の中央の集水部5aに集水され、適宜排水される。
【0053】
また、各栽培槽4の上には、灌水チューブ6が置かれている。灌水チューブ6は、高設ベンチ2の長手方向に通して設置されている。この灌水チューブ6は、栽培槽4に水又は養液を供給する管である。灌水チューブ6は、市販の点滴灌水チューブ等が使用される。
【0054】
さらに、左右の栽培槽4,4を含む高設ベンチ2の全体を覆って、銀白色のマルチフィルム7が掛けられている。マルチフィルム7には、植物を植栽するための植栽孔7aが適所に形成されている。この植栽孔7aを通して、栽培槽4にイチゴの株8が植栽されている。
【0055】
本実施例の植物栽培装置1では、イチゴの株8を挟むようにして、灌水チューブ6と平行に電熱線で構成された電熱ヒータ9が設置されていることを特徴としている。この電熱ヒータ9は、できるだけ各イチゴの株8の短縮茎8aの近傍を通過するように設置される。これにより、電熱ヒータ9はイチゴの株8の短縮茎8aを局部的に直接加温する。
【0056】
また、栽培槽4の適所には、イチゴの株8の短縮茎8aの温度を検出するための温度センサ10が設置されている。温度センサ10は、市販のサーミスタ等が使用される。なお、温度センサ10は、それぞれのイチゴの株8に1つずつ設ける必要はなく、適当な間隔で設置すればよい。
【0057】
さらに、電熱ヒータ9への通電制御を行うための通電制御装置11が設けられている。通電制御装置11は、各温度センサ10が検出する温度に基づいて、各イチゴの株8の短縮茎8aの温度が、設定された温度に維持されるように通電制御を行う。
【0058】
ここで、通電制御装置11の設定温度としては、イチゴの休眠覚醒温度以上とする。休眠覚醒温度はイチゴの品種によってそれぞれ異なっている。例えば、一季成り性品種である‘とよのか’では、5〜25℃程度に設定するのがよい。
【0059】
以上のように構成された植物栽培装置1において、以下、イチゴの栽培方法の一例について説明する。9月中旬頃の温度と日長で花芽を形成する一季成り性品種(‘とよのか’,‘とちおとめ’,‘さちのか’等)の場合、夜冷育苗、高冷地育苗、平地育苗、低温暗黒処理等により育苗される。このとき、育苗段階から、採苗されたイチゴの小苗を栽培槽4に直接植え付ける。栽培槽4は、高吸水性ポリマ混合培土を使用しているので、少量の培土で十分な保水力・保肥力を有するため、小型・軽量である。従って、イチゴの株を植えた状態で栽培槽4を搬送することが容易であるため、栽培槽4に小苗を直接植え付けて育苗することにより、定植作業が不要となり省力化が図られる。
【0060】
このように栽培槽4で育苗されたイチゴの株は、定植適期になると、ハウス内に設置された植物栽培装置1の栽培槽保持シート3上に移される。定植適期は、イチゴの品種や作型によって異なるが、‘とよのか’や‘さちのか’では9月中旬頃に花芽分化が確認された後が適当とされている。
【0061】
植物栽培装置1に移した後は、灌水チューブ6で水又は養液を適宜供給しながら灌水管理を行う。また、イチゴの株8のクラウン近傍の温度が、休眠覚醒温度を下まわることがないように、電熱ヒータ9を使用して5〜25℃の間に維持する。さらに、11月下旬ころから日長が休眠限界となるため、電照により草勢の維持を図る。その他、各作型に応じてイチゴの栽培管理を行う。
【0062】
本実施例における栽培方法では、イチゴの株8の温度管理は、ハウス内の気温や栽培槽4内の地温で調節するのではなく、イチゴの株8のクラウン近傍の温度により行うことを最大の特徴としている。このように、きわめて局部的な空間のみを温度管理することにより、供給する熱エネルギーの損失が最小限に抑えられ、きわめて効率的な温度管理を行うことが可能となる。すなわち、主として熱伝導又は輻射によりクラウンを直接加温することから、対流による熱分散の影響を最小限に抑えられる。また、直接加温であるため、誤差が0.5℃程度の精度の精密な温度管理も可能となる。また、狭い空間の温度管理を行えばよいことから、温度管理に必要なエネルギー消費量も少なくなり、栽培の省エネルギー化が図られる。
【0063】
なお、栽培場所が寒冷地の場合には、ハウス内の温度が極度に低下することがないように、ハウス内の温度が約5℃以上に維持されるように空調管理を行う必要がある場合もある。しかし、従来の作型よりも低い温度にハウス内の温度を維持すればよいため、従来の作型に比べて熱損失が少なく、エネルギー効率が改善される。
【0064】
また、本実施例では、電熱ヒータ9として電熱線を利用したが、その最大の利点は、設置が容易であることと、価格が低廉であることにある。
【0065】
〔栽培試験例1〕
以下、本発明者が本実施例の栽培方法によりイチゴ栽培の検証試験を行った例について説明する。栽培試験を行った場所は福岡県の筑紫平野にある試験圃場である。試験に使用したイチゴの品種は四季成り品種‘C−1’及び一季成り品種‘C−2’である。7月にランナー受け方法によって採苗を行い、7〜9月にかけて育苗を行った。
【0066】
上記育苗により得られた株は9月に植物栽培装置1に移してハウス内で株の栽培を行った。ハウス内の保温管理は行わずに試験を実施した。電照方法は、午後11時から午前2時までの3時間点灯する暗期中断方式として11月に電照を開始した。栽培試験は9月〜1月にかけて行った。
【0067】
試験は電熱ヒータによりクラウン近傍を15℃に温度管理をした株と、温度管理を全く行わない株とを、隣接して配置し、それぞれの株の生育状況を観察することにより行った。以下では、クラウンの局部直接加温による保温処理を行った株を「クラウン加温株」といい、前記保温処理を行わなかった株を「クラウン無加温株」という。
【0068】
図2はクラウンを直接加温するときの電熱線(電熱ヒータ)の配置状態を示した図である。図2に示すように、クラウンに電熱線が接触するように電熱線を配置した。
【0069】
図3及び図4はクラウン加温処理区と未処理区との草勢の差を表した図である。図3においては中央より左側がクラウン加温株であり、中央より右側がクラウン無加温株である。図4においては、中央より右側がクラウン加温株であり、中央より左側がクラウン無加温株である。
【0070】
クラウン無加温株は、自然状態における株の草勢を表す。図3,図4からわかるように、ハウス内の保温管理を行わない場合、自然状態におけるイチゴ株はロゼット化して葉面積が縮小した状態にある。すなわち、自然状態ではイチゴ株は休眠相にある。それに対して、クラウン加温株は、休眠覚醒しており、葉面積も大きく、通常のハウス栽培の株と同等の草勢が維持されることがわかった。
【0071】
(表1)に、クラウン加温株とクラウン無加温株の葉柄長、葉身長、草高、及び果房長の比較を示す。
【0072】
【表1】


【0073】
なお、供試した品種は一季成り品種だけでなく四季成り品種も含まれるが、いずれも同じ効果が見られた。
【0074】
本試験から明らかなように、クラウンの近傍を局部的に直接加温すれば、イチゴ株は休眠覚醒し、草勢が活性化されることがわかる。従って、ハウス全体の加温処理や培地加温を行う必要はなく、きわめて少ないエネルギーでイチゴ株の加温処理が可能である。
【0075】
なお、以上はイチゴ栽培について述べたが、さらに敷衍して考えると、本発明はイチゴと同様な生態を有する植物の栽培についても適用することができる。すなわち、短縮茎を有し、ロゼット化することにより休眠相となる植物であれば、短縮茎の局部直接加温による休眠覚醒と草勢の維持が可能である。このような植物としては、例えば、ガーベラ、ホウレンソウ等が考えられる。
【0076】
〔栽培試験例2〕
次に、短縮茎と電熱線との距離について実証実験を行った結果について述べる。(表2)は、イチゴにおいてクラウンを電熱線で直接加温して栽培した場合と、電熱線をクラウンから2cm離した状態で加温して栽培した場合との草勢の比較を行った結果である。
【0077】
この試験においては、試供品種としてイチゴの一季成り性品種‘あまおう’を使用した。イチゴ株は試供ハウス内で9月下旬〜1月上旬にかけて栽培し、当該試供ハウス内は無暖房とし電照栽培を行った。株の定植は9月28日に行い、11月15日から電照を開始した。電照は、午後8時までとした。また、電熱線によるクラウンの直接加温は11月18日から開始した。接触試験株に対しては電熱線をクラウンに接触させて配置し、非接触試験株に対しては、電熱線をクラウンから2cmだけ離隔して配置した。電熱線による加温温度は25℃に設定し、継続的に温度制御を行った。この条件で1月上旬まで栽培して各イチゴ株の草勢を測定した。
【0078】
【表2】


【0079】
実験の結果、非接触試験株は、出葉数2.5枚、草高15.5cm、葉柄長13.3cm、葉身長7.5cmであったのに対して、接触試験株は出葉数5.6枚、草高32cm、葉柄長25.5cm、葉身長9.8cmであった。これより、直接加温することによる草勢増進の効果が顕著に表れることが明らかになった。尚、このような直接加温の効果が現れるのは、試験結果から、電熱線とクラウンとの距離が1cm以下であることが必要であることが分かった。これは、電熱線の加温温度が低いため放射熱伝導の有効距離が短く、電熱線とクラウンとの距離を離しすぎると熱の分散によって十分なクラウン加温効果が得られないためであると考えられる。
【0080】
また、‘あまおう’以外にも、他の一季成り性品種(‘とよのか’、‘さちのか’、‘とちおとめ’)や四季成り性品種においても試験を行って、同様に、草勢増進効果が顕著に表れることが明らかになった。
【0081】
以上より、本実施例によれば、電熱線をイチゴ株のクラウンに接触乃至ほぼ接触させた状態(クラウンと電熱線間の距離が1cm程度よりも短い状態)で短縮茎を直接加温することで、低消費エネルギーで顕著な草勢増進効果を得ることが可能となる。
【実施例2】
【0082】
図5は本発明の実施例2に係る植物栽培装置の電熱ヒータを表す斜視図であり、図6は図5の電熱ヒータの分解斜視図である。なお、電熱ヒータ以外の部分は図1と同様であるので説明は省略する。
【0083】
本実施例の植物栽培装置の電熱ヒータ20は、下端部にフランジ21aが形成された円筒形状のケーシング21を備えている。このケーシング21の筒内に、面状発熱体22及び保持部材23が収納されている。
【0084】
ケーシング21はプラスチックを成形して作られている。面状発熱体22は、すでに種々のものが公知であり、適宜選択して使用することができる。例えば、カーボン面状発熱体やセラミックス面状発熱体などである。保持部材23は円筒形状に形成されており、熱が通過しやすいように側面が格子状とされている。この保持部材23により、面状発熱体22をケーシング21内に保持する。
【0085】
面状発熱体22には電源線22aを介してコネクタ22bが接続されている。このコネクタ22bから電力を供給することにより、面状発熱体22を発熱させることができる。
【0086】
以上のように構成された電熱ヒータ20を栽培槽4に設置する場合、図5に示したように、植物の株8の短縮茎8aを、ケーシング21の筒内に収納するようにして設置する。これにより、短縮茎8aを効率よく加温することができる。
【0087】
なお、面状発熱体22として、PTC面状発熱体などの自己温度制御型の発熱体を使用する場合、面状発熱体22自体が温度制御機能を持つので、図1における通電制御装置11や温度センサ10は不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施例1に係る植物栽培装置の装置構成図である。
【図2】クラウンを直接加温するときの電熱線(電熱ヒータ)の配置状態を示した図である。
【図3】クラウン加温処理区と未処理区との草勢の差を表した図である。
【図4】クラウン加温処理区と未処理区との草勢の差を表した図である。
【図5】本発明の実施例2に係る植物栽培装置の電熱ヒータを表す斜視図である。
【図6】図5の電熱ヒータの分解斜視図である。
【図7】従来の高設栽培装置の一例を表す図である。
【符号の説明】
【0089】
1 植物栽培装置
2 高設ベンチ
2a,2a 側部梁材
2b 中央梁材
2c 止着ホルダ
3 栽培槽保持シート
4 栽培槽
4a 培土
5 集水吸熱シート
5a 集水部
6 灌水チューブ
7 マルチフィルム
7a 植栽孔
8 株
8a 短縮茎
9 電熱ヒータ
10 温度センサ
11 通電制御装置
20 電熱ヒータ
21 ケーシング
21a フランジ
22 面状発熱体
22a 電源線
22b コネクタ
23 保持部材

【出願人】 【識別番号】501223308
【氏名又は名称】株式会社ニューアグリネットワーク
【出願日】 平成17年1月19日(2005.1.19)
【代理人】 【識別番号】100121371
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 和人

【公開番号】 特開2005−237371(P2005−237371A)
【公開日】 平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願番号】 特願2005−11123(P2005−11123)