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【発明の名称】 養殖海苔の糸状体培養装置
【発明者】 【氏名】山本 誠人

【要約】 【課題】天然海水の供給が容易で、かつ、天然海水から確実に病原体を除去して糸状体の発病率を低下できる糸状体培養装置を提供すること。

【解決手段】養殖海苔の糸状体の着生基材を配設した培養槽2,2,…を備え、海中4から汲み上げた天然海水を中空糸膜フィルタ5を通して培養槽2,2,…へ供給するようにした。中空糸膜フィルタ5を通して培養槽2,2,…へ供給される天然海水は、中空糸膜フィルタ5によって病原体が除去される。また、糸状体の発育に必要な栄養塩は、中空糸膜フィルタ5によって除去されずに培養槽2,2,…へ供給される。これにより養殖海苔の糸状体の病害を防止しつつ健全な発育を促進できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖海苔の糸状体の着生基材を配設した培養槽を備え、海中から汲み上げた天然海水を中空糸膜フィルタを通して培養槽へ供給するようにした養殖海苔の糸状体培養装置。
【請求項2】
前記中空糸膜フィルタの孔径が5ナノメートルから18ナノメートルの範囲内である請求項1に記載の養殖海苔の糸状体培養装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖海苔の糸状体培養装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海苔の養殖は、採苗工程と育苗工程に大別される。採苗工程では、まず、海水に浸漬した生海苔から果胞子を放出させて胞子液を作製すると共に、この胞子液中に貝殻やガラス等の着生基材を浸漬して果胞子を着生させる。果胞子が着生した着生基材を培養槽へ移し、果胞子を発芽させて糸状体に成育させる。糸状体は、胞子のう細胞を生成し、この胞子のう細胞を次々と細胞分裂させて増やしていく。胞子のう細胞は、殻胞子を形成し、完熟期に入ると胞子を放出する。この胞子をひび(網や粗朶などの養殖資材)に着生させて海苔芽を発芽させる。育苗工程は、海苔芽が発芽したひびを海中に移設して、自然環境下で海苔を育成する工程である。
【0003】
養殖海苔の採苗工程において重要なことは、水温及び光量の調整と水質の管理である。これらのうち最も手間がかかるのは、水質の管理である。養殖海苔の糸状体を培養するに際しては、海中から汲み上げた天然海水を培養液として使用している。天然海水には、糸状体の発育に必要な種々の栄養塩が含まれている。一方で、糸状体は、老廃物を排出したり、着生基材である貝殻等のカルシウム分を脱灰して、培養液の水質を徐々に悪化させる。培養液の水質が悪化すると糸状体の発育不良が起きるので、定期的に換水を行なって、水質を維持している。また、天然海水には、糸状体に有害な病原体が含まれているおそれがある。このため、培養液の換水に際しては、天然海水の殺菌処理を行なってから糸状体の培養槽へ供給している。
【0004】
従来、養殖海苔の採苗工程で使用される養殖海苔の糸状体培養装置11としては、例えば図3の如く、海中12から汲み上げた天然海水に殺菌処理を施すための処理槽13と、養殖海苔の糸状体を着生させた多数個の着生基材を収容して糸状体を発育させる培養槽14,14,…とを備えたものがある。以下、処理槽13における天然海水の殺菌処理について説明する。
【0005】
天然海水の殺菌処理としては、一度に大量の天然海水を処理できることや処理後直ぐに利用可能になることから、薬剤による処理が広く普及している。薬剤としては、漂白殺菌作用を奏する塩素系薬剤(次亜塩素酸ナトリウムやさらし粉など)が使用されている。塩素系薬剤は、病原体を完全に死滅させるために過剰に混入する。このため、殺菌処理後の海水(以下、処理海水という。)には塩素が残留する。塩素が残留したままでは糸状体の培養液として使用できないので、残留塩素の中和を行なう。残留塩素の有無は、処理海水から所定量の試料を採取し、この試料にO−トリジン溶液を滴下してその発色の有無で確認する。この試料が発色した場合には、処理海水にチオ硫酸ナトリウムなどの中和剤を混入する。残留塩素は、中和剤により塩化ナトリウムになる。
【0006】
しかし、上記の中和作業では、残留塩素と中和剤を完全に中和させることが困難であるから、残留塩素又は中和剤のいずれか一方が処理海水中に残る。処理海水中に残留塩素又は中和剤が所定量以上残留すると、若い糸状体の発育が抑制される。また、塩素系薬剤による殺菌処理は、病原体のみならず、栄養塩を排出する有益な微生物までも死滅させてしまう。このため、培養液中の栄養塩は、糸状体に摂取されて無くなってしまう。培養液の換水を頻繁に行なえば、培養液の水質が維持され、糸状体の発育は抑制されない。しかし、培養液の換水に際しては、上記の殺菌処理が必要で手間がかかるため、通常、培養液に栄養剤を投入して糸状体の発育を促進している。このように、塩素系薬剤による殺菌処理では、本来、天然海水中に含まれていない塩素系薬剤や栄養剤を天然海水に混入するので、天然海水を培養液として使用するメリットが低下する。すなわち、天然海苔の糸状体とほぼ同じ環境下で養殖海苔の糸状体を育成して、養殖海苔の香りと旨味を天然海苔に近付けるというメリットが損なわれる。
【0007】
また、他の殺菌処理としては、自浄処理、加熱処理及び紫外線処理などが挙げられる。
【0008】
自浄処理は、海中12から汲み上げた天然海水を冷暗所に長期間(3〜6ヶ月)放置して、天然海水の生分解作用により病原体を死滅させる処理である。しかし、天然海水の生分解作用は、天然海水中に含まれる微生物によって得られるものであり、必ずしも全ての病原体が死滅するとは限らない。また、微生物が増殖し過ぎると、水質が悪化してそのままでは培養液として使用できなくなる。
【0009】
加熱処理は、天然海水中の栄養塩を減少させないように、低温(摂氏60〜70度)で20分程度加熱する処理である。天然海水中には、糸状体の発育に必要な栄養塩を排泄する微生物が含まれている。高温加熱により殺菌処理を行なうと、糸状体に有害な病原体のみならず、有益な微生物も死滅させてしまう。このため、加熱処理では、低温加熱により殺菌処理を行なっている。しかし、低温加熱では、死滅しない病原体がいるので、糸状体の病害を完全に防ぐことはできない。なお、加熱処理に関する技術としては、特開2003−092955号公報に開示されているものがある。
【0010】
紫外線処理は、天然海水に紫外線を照射して、紫外線の殺菌作用により病原体を死滅させる処理である。しかし、紫外線は、水深が深くなると殺菌作用が低下するため、浅底の処理槽を使用する必要がある。浅底の処理槽では、スペース効率が低く、大量の天然海水を一度に殺菌処理できない。なお、紫外線処理に関する技術としては、特開平5−131200号公報に開示されているものがある。
【0011】
【特許文献1】特開2003−092955号公報
【特許文献2】特開平5−131200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、斯かる実情に鑑み創案されたものであって、その目的は、養殖海苔の糸状体の培養液となる天然海水の供給が容易で、かつ、薬剤で変質させることなく天然海水から病原体を除去して糸状体の発病率を低下させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の養殖海苔の糸状体培養装置は、養殖海苔の糸状体の着生基材を配設した培養槽を備え、海中から汲み上げた天然海水を中空糸膜フィルタを通して培養槽へ供給するようにしたことを特徴としている。
【0014】
海中から汲み上げた天然海水は、中空糸膜フィルタを通して培養槽へ供給される。このとき、天然海水中に含まれる病原体は、中空糸膜フィルタによって除去される。また、天然海水中に含まれる栄養塩は、中空糸膜フィルタの孔径よりもはるかに小さいので除去されずに培養槽へ供給される。これにより養殖海苔の糸状体の病害を防止しつつ健全な発育を促進できる。また、本装置では、新鮮な天然海水の常時供給が可能であるため、水質を良質に維持できる。
【0015】
また、中空糸膜フィルタの孔径が5〜18nmの範囲内であれば、上記の作用が確実に得られる上、本装置のランニングコストが嵩まない。すなわち、中空糸膜フィルタの中空糸の孔径が5nm以下であれば、中空糸膜フィルタが目詰まりし易く、頻繁に取替える必要がある。糸状体の発育に必要な栄養塩は、5nm以下であるから、中空糸膜フィルタの孔径が5nm以上であれば、天然海水に含まれる栄養塩が中空糸膜フィルタによって除去されない。他方、細菌やウィルスなどの病原体の大きさは、18〜100nmであるから、中空糸膜フィルタの中空糸の孔径を18nm以下にすれば、糸状体の病害は発生しない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、養殖海苔の糸状体の培養に使用する天然海水から病原体を除去できる。天然海水から病原体を除去する以外は自然状態のままであるから、糸状体の病害を防止しつつ健全な発育を促進できる。また、新鮮な天然海水を常時供給することで、培養液の水質を良質に維持できる上、換水作業の手間がかからない。培養液として使用する天然海水を薬剤によって変質させていないので、養殖海苔の糸状体は、天然海苔の糸状体とほぼ同じ環境下で発育する。したがって、天然海苔の香りと旨味を兼ね備えた養殖海苔を育成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しつつ本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の糸状体培養装置1を例示している。同図において、2,2,…は、養殖海苔の糸状体を培養するための培養槽である。3は、海中4から汲み上げた天然海水を培養槽2,2,…へ供給するためのポンプである。5は、ポンプ3で汲み上げた天然海水をろ過するための中空糸膜フィルタ装置である。中空糸膜フィルタ装置5は、複数の中空糸膜フィルタ5a,5a,…をモジュール化したものである。
【0019】
本発明の糸状体培養装置1は、海中4からポンプ3で汲み上げた天然海水を、中空糸膜フィルタ装置5を通して培養槽2,2,…へ供給する。このとき、養殖海苔の糸状体に有害な病原体は、中空糸膜フィルタ装置5によってろ過され、天然海水から除去される。また、養殖海苔の糸状体に有益な栄養塩は、中空糸膜フィルタ装置5を通過して培養槽2,2,…へ供給される。
【0020】
天然海水は、養殖海苔の糸状体の発育に伴い栄養塩が減少すると共に糸状体の老廃物が増加し、糸状体の培養に適さなくなる。当該天然海水は、培養槽2,2,…から放水管6を通って海中4へ放水される。天然海水から病原体を除去する際に塩素系薬剤を使用していないので、糸状体の培養に使用した天然海水を海中4に放水しても海が汚染されない。この放水量に合せてポンプ3を作動させ、培養槽2,2,…へ新鮮な天然海水を供給すれば、培養液の水質が良質に維持される。したがって、養殖海苔の糸状体は、病原体が存在しない新鮮な天然海水の中で発育するので、病害の発生率が低く、健全に発育する。
【実施例1】
【0021】
本願出願人は、中空糸膜フィルタ装置5の中空糸膜フィルタ5a,5a,…の孔径を変えて、糸状体の培養を行なってみたところ、図2のような結果が得られた。
【0022】
中空糸膜フィルタ5a,5a,…の孔径が、18nm以下では、糸状体に病害が発生しなかった。また、20〜30nmの範囲内では、平均して6.5%程度の糸状体に何らかの病害が発生した。
【0023】
また、中空糸膜フィルタ5a,5a,…の孔径を5nm未満にすると、中空糸膜フィルタ5a,5a,…が目詰まりし易くなり、その取替えコストが嵩んだ。
【0024】
以上のことから、中空糸膜フィルタ5a,5a,…の孔径は、5〜18nmの範囲が最適である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の養殖海苔の糸状体培養装置を例示するブロック図である。
【図2】中空糸膜フィルタの孔径と、糸状体の病害発生率及び中空糸膜フィルタのランニングとの関係を示すグラフ図である。
【図3】従来の養殖海苔の糸状体培養装置を例示するブロック図である。
【符号の説明】
【0026】
1 糸状体培養装置
2,2,… 培養槽
3 ポンプ
4 海中
5 中空糸膜フィルタ
【出願人】 【識別番号】503369831
【氏名又は名称】山本 誠人
【識別番号】503369325
【氏名又は名称】福井 保
【識別番号】503369842
【氏名又は名称】井上 芳樹
【識別番号】503369864
【氏名又は名称】田沼 和也
【識別番号】503369875
【氏名又は名称】上田 正則
【識別番号】503369897
【氏名又は名称】海原 正良
【出願日】 平成15年10月8日(2003.10.8)
【代理人】 【識別番号】100064584
【弁理士】
【氏名又は名称】江原 省吾

【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳

【識別番号】100101616
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 吉之

【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦

【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛

【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭

【公開番号】 特開2005−110586(P2005−110586A)
【公開日】 平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願番号】 特願2003−349753(P2003−349753)