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【発明の名称】 コンバインにおける動力伝達装置
【発明者】 【氏名】日高 茂實
【住所又は居所】大阪市北区茶屋町1番32号 ヤンマー農機株式会社内

【要約】 【課題】走行作業機の左右の走行クローラの速度及び回転方向を任意に無段階にて調節できるものでありながら、走行速度に同調させてPTO軸52を駆動させる。

【解決手段】左右の走行クローラへの出力軸21a,21b に動力伝達させる伝動機構を、太陽歯車40と遊星歯車39とリングギヤ42とからなる左右一対の遊星変速機構により構成し、太陽歯車40には、第1 油圧ポンプ33と第1 油圧モータ34とからなる走向用油圧式駆動手段32からの動力を伝達する一方、第2 油圧ポンプ36と第2 油圧モータ37とからなる旋回用油圧式駆動手段35からの動力を、各遊星歯車に噛合う一対のリングギヤ42に、その回転方向が互いに逆となる状態で伝達可能とする。前記走向用及び旋回用の両油圧式駆動手段の出力調節にて左右走行クローラの駆動速度及び駆動方向を任意に調節可能とする一方、駆動手段32からの動力を一対の遊星変速機構よりも伝達上流側からPTO軸52に分岐する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の走行クローラを備えた走行機体に、エンジン及び脱穀部を搭載し、前記走行機体の前部に刈取前処理装置を備え、
前記左右一対の走行クローラに対する動力伝動機構として、太陽歯車に噛み合う複数の遊星歯車を軸支した腕輪と、遊星歯車に内歯で噛合うリングギヤとにより構成された左右一対の遊星変速機構を備え、
エンジンの出力にて駆動する可変式の第1油圧ポンプに第1油圧モータを油圧接続し、該第1油圧モータからの入力軸の動力を前記一対の太陽歯車に動力伝達する一方、
前記エンジンの出力にて駆動する可変式の第2油圧ポンプに第2油圧モータを油圧接続し、該第2油圧モータの回転出力を、前記左右一対の遊星変速機構における一対のリングギヤの外歯に互いに逆回転力を付与するように歯車連結し、左右一対の走行クローラへの出力軸に動力伝達するにおいて、
前記第1油圧モータからの入力軸の動力を前記刈取前処理装置を駆動するためのPTO軸に伝達するように構成したことを特徴とするコンバインにおける動力伝達装置。
【請求項2】
前記PTO軸と並列的であって、前記第1油圧モータからの入力軸と前記一対の太陽歯車との間に歯車式副変速機構を配置したことを特徴とする請求項1に記載のコンバインにおける動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対の走行クローラを備えて刈取脱穀できるコンバインにおける動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンバインにおける走行部を、左右一対の走行クローラにて構成し、左右各走行クローラを、一つの油圧ポンプと油圧モータとの組により駆動する構成、換言すれば、左右の走行クローラを左右独立の油圧駆動系統(2ポンプ、2モータ形式)にて駆動させて、刈取作業時の作物列に沿っての操向制御と、通常の直進走行制御とを実行することは、例えば、特許文献1、2及び3の公報等に開示されている。
【0003】
ところで、これらの2ポンプ2モータの駆動形式において、左右の走行クローラの対地スリップ率が零であると仮定して、通常の直進走行制御においては、左右の走行クローラへ伝達する駆動力は、略半々としているが、緩旋回時には、旋回外側の走行クローラへの駆動力はそのままで、旋回内側の走行クローラへの駆動力の伝達を少なくするか、伝達を零にするようにしている。
【0004】
また、旋回半径を極端に小さくして旋回する、いわゆるスピンターン(芯地旋回)のときには、旋回外側の走行クローラを前進方向に駆動し、旋回内側の走行クローラは後進方向に駆動するようにしている。このように、旋回作業に際して、旋回内側の走行クローラへの駆動力の伝達を少なくするか、伝達を零にすると、直進走行から旋回走行に入るとき、左右の走行クローラへの動力伝達のタイミング、つまり、左右の油圧駆動機構の切換えタイミングがずれ易く、左右の走行クローラへの駆動力の伝達に段差ができ、走行車両の加減速の変化が激しく直進と旋回との間で滑らかな移行ができず、旋回フィーリングが悪いという問題があった。
【0005】
さらに、前述のように左右の走行クローラを別々の油圧駆動系統にて走行させ且つ操向操作を実行する構成をコンバインに適用した場合においては、車速(走行速度)に同調させて刈取作業の駆動力を安定して取り出すことは困難であった。例えば、特許文献1に開示されているように、前記左右油圧駆動系の高速回転側(エンジンの出力軸に近い側)から選択的にPTO軸に出力するので、車速に比例した速度で安定して動力を取り出すことができないのであった。
【0006】
他方、特許文献4の公報では、左右走行クローラへの出力軸に動力伝達する差動傘歯車機構として、前記左右各出力軸に太陽傘歯車を固定し、一対の出力軸に対して自由回転するデフギヤケースに駆動源から傘歯車を介して入力し、デフギヤケースには、前記左右両側の太陽傘歯車にそれぞれ噛み合う遊星傘歯車を回転可能に装着するにあたり、その一方の遊星傘歯車の回転方向及び速度をデフギヤケースに装着した油圧モータにて制御することを提案している。
【0007】
この構成においては、油圧モータにて回転する遊星傘歯車の回転方向により、旋回外側の太陽歯車の回転数を増加させる分だけ旋回内側の太陽歯車の回転数を減少させて任意の旋回半径に無段階に変更させることができる。また、デフギヤケースの回転を停止した状態で、油圧モータを回転させると、一方の出力軸の回転方向と他方の出力の回転方向が逆になり、いわゆるスピンターンができるのである。
【0008】
しかしながら、この場合、デフギヤケースの回転を停止すべく動力伝達を遮断し、且つデフギヤケースを固定するという作業を実行しなければならず、滑らかにスピンターン旋回作業に移行できないという欠点があった。これを解消するため、特許文献5や、特許文献6の公報等では、エンジンの回転駆動力で作動する走行用油圧ポンプと、走行用油圧ポンプにより作動する走行用油圧モータと、走行用油圧モータの作動にて左右の走行クローラに動力伝達する歯車伝動機構とを備える一方、前記歯車伝動機構中に、左右一対のリングギヤ等を備えた左右一対の遊星歯車機構を配置し、これに、エンジンの回転駆動力で作動する可変容量型の旋回用油圧ポンプにより作動する旋回用油圧モータの出力を関連させるように構成したものが開示されている。
【特許文献1】特開昭53−131627号公報
【特許文献2】特公昭54−34972号公報
【特許文献3】実開平3−116422号公報
【特許文献4】実開平4−1077号公報
【特許文献5】米国特許第4471669号公報
【特許文献6】特開平3−169745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献5や、特許文献6の構成によれば、走行用油圧ポンプ及び走行用油圧モータの作動中に、可変容量型の旋回用油圧ポンプにより作動する旋回用油圧モータの出力を、前記左右一対の遊星歯車機構中に配置した左右一対のリングギヤに互いに逆方向に回転するように伝達するときには、左右走行クローラの走行速度を変更させて旋回できる一方、旋回用油圧ポンプの吐出量を零にして旋回用油圧モータを停止させて、且つその出力軸をブレーキ手段にて固定とし、走行用油圧ポンプ及び走行用油圧モータを作動させると、直進できることになる。
【0010】
他方、コンバイン等の走行作業機に搭載した作業部を動力駆動する場合、従来ではエンジンからの動力を、一旦ミッション(変速機構)に入力し、このミッションから動力を分岐して走行部と前記作業部とに伝達することにより、走行部の速度(車速)と作業部の速度とを同調させるように構成したものがあったが、前述の特許文献5及び特許文献6の公報に記載の走行装置には、作業部を動力駆動するための動力取り出し部(PTO軸)が備わっておらず、従って、走行部の速度(車速)と作業部の速度とを同調させることも出来ないという問題があった。
【0011】
特に、コンバインでは、通常の乾いた圃場での高速走行しながらの刈取作業に加えて、湿田での刈取作業や、台風等により倒伏した穀稈を刈取りを実行する場合には、走行速度を低速にしながら、且つ刈取前処理装置は所定速度以上で駆動させて穀稈を引き起こし及び刈取を実行する必要があり、さらに、湿田における旋回時に、走行クローラの一方をスリップさせないで、小回りできるようにする必要があった。
【0012】
本発明は、これらの従来の技術の問題を解決し、且つ従来からの要望に応えるべくなされたものであって、走行速度に同調させた速度で刈取脱穀作業を駆動させることができるものでありながら、低速走行時には、刈取前処理装置の駆動速度を余り低下させないようにすることができるコンバインの操向装置の構成及び操向操作を円滑にすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の発明の走行作業機の操向装置は、左右一対の走行クローラを備えた走行機体に、エンジン及び脱穀部を搭載し、前記走行機体の前部に刈取前処理装置を備え、前記左右一対の走行クローラに対する動力伝動機構として、太陽歯車に噛み合う複数の遊星歯車を軸支した腕輪と、遊星歯車に内歯で噛合うリングギヤとにより構成された左右一対の遊星変速機構を備え、エンジンの出力にて駆動する可変式の第1油圧ポンプに第1油圧モータを油圧接続し、該第1油圧モータからの入力軸の動力を前記一対の太陽歯車に動力伝達する一方、前記エンジンの出力にて駆動する可変式の第2油圧ポンプに第2油圧モータを油圧接続し、該第2油圧モータの回転出力を、前記左右一対の遊星変速機構における一対のリングギヤの外歯に互いに逆回転力を付与するように歯車連結し、左右一対の走行クローラへの出力軸に動力伝達するにおいて、前記第1油圧モータからの入力軸の動力を前記刈取前処理装置を駆動するためのPTO軸に伝達するように構成したものである。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の走行作業機の操向装置において、前記PTO軸と並列的であって、前記第1油圧モータからの入力軸と前記一対の太陽歯車との間に歯車式副変速機構を配置したものである。
【発明の作用・効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、第2油圧ポンプと第2油圧モータとからなる旋回用の油圧式駆動手段からの動力を与えず、停止させた状態のもとで、走行用の油圧式駆動手段の動力を、左右一対の遊星変速機構を介して走行車両における左右一対の走行クローラへの出力軸に伝達させると、直進走行を実行することになり、泥濘、湿田等走行面の状態が悪くても、左右の走行クローラの回転数を一致させて直進走行し易くなり、直進性能が向上する。また、走行用の油圧式駆動手段を作動させた状態で、旋回用の油圧式駆動手段を作動させることにより、任意の走行速度で且つ任意の旋回半径にて無段階の旋回作業に移行でき、その移行動作をきわめて滑らかに実行でき、湿田内においても穀稈列に沿うように小回りできるという効果を奏する。
【0016】
また、直進時、旋回時共に、油圧ポンプと油圧モータとから成る走行用の油圧式駆動手段からの動力回転数を変更することより、その直進速度及び旋回時の旋回内側と旋回外側の走行クローラの速度比率を任意(無段階)に変更できて、操向操作も円滑に行える。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、前記動力伝達装置中に、前記第1油圧モータからの入力軸の動力を前記刈取前処理装置を駆動するためのPTO軸に伝達するように構成すると共に、前記PTO軸と並列的であって前記第1油圧モータからの入力軸と前記一対の太陽歯車との間に歯車式副変速機構を配置したものであるから、湿田での刈取作業や倒伏穀稈の刈取作業において、歯車式副変速機構により、走行クローラの駆動速度を低速にした状態に切り換えても、前記第1油圧モータからの入力軸の回転速度をPTO軸に伝達するので、高速走行時における走行クローラの速度に対する刈取前処理装置の駆動速度の比率よりも、高い速度比率で刈取前処理装置を駆動することができる。従って、低速走行でありながら刈取前処理装置を所定の速度で駆動できることになり、倒伏する等した穀稈の引き起こし作用を損なうことなく円滑に刈取作業を実行できるという効果を奏する。
【0018】
そして、走行伝動機構と、操向伝動機構と、PTO軸とを前記一対の遊星変速機構を収納したミッションケースに組み込むことにより、機械的な動力分岐伝達機構の構成が簡単となると共に、コンパクトに構成できるという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明をコンバインに適用した実施形態について説明すると、図1は左右一対の走行クローラ2a,2bを有する走行車両である汎用コンバインの走行機体1の側面図であり、該走行機体1上には脱穀装置3を搭載し、該脱穀装置3における扱室内の扱胴4をその軸線が走行機体1の進行方向に沿うように配設し、その下方には受け網とシーブ等による揺動選別装置5と唐箕フアン6の風による風選別装置とを備え、脱穀装置3の側方に脱穀済みの穀粒を貯留する籾タンクを搭載してある。
【0020】
刈取前処理装置7は、前記脱穀装置3の前部に開口し、昇降用油圧シリンダ8にて昇降自在な角筒状のフイーダハウス9(内部にチエンスコンベヤ9aを備える)と、該フイーダハウス9の前端に連設した横長のバケット状のプラットホーム10と、該プラットホーム10内に横設した横長の掻き込みオーガ11と、その前方上部位置のタインバー付きリール12と、プラットホーム10下面側に左右長手に配設したバリカン状の刈刃14とから成る。また、刈取前処理装置7の前部左右両端には、前向きに突出する左右一対の分草体15を備えている。
【0021】
左右の走行クローラ2a,2bは、それぞれ、後述する操向装置20の左右の出力軸21a,21bから出力される動力にて回転駆動する起動輪22,22と、走行機体1の後端側に後向き付勢された誘導輪23,23とに巻掛けられた履帯24,24と、各履帯24の下側内周面を支持する懸下輪(下部転輪)25等からなる。
【0022】
次に、操向装置20の構成について説明する。図2〜図4に示す第1実施例は、ミッションケース30内に、後述する左右一対の遊星変速機構31,31と、第1油圧ポンプ33及び第1油圧モータ34からなる走行用の油圧式駆動手段32と、第2油圧ポンプ36及び第2油圧モータ37からなる旋回用の油圧式駆動手段35等を内装する。
【0023】
左右一対の遊星変速機構31,31は左右対称状であって、同一半径上に複数(実施例では3つ)の遊星歯車39,39,39がそれぞれ回転自在に軸支された左右一対の腕輪38,38をミッションケース30内にて同軸線上にて適宜隔てて相対向させて配置する。前記各遊星歯車39にそれぞれ噛み合う太陽歯車40,40を固着した太陽軸41の左右両端は、両腕輪38,38の内側にてその回転中心部に位置する軸受に回転自在に軸支されている。
【0024】
内周面の内歯と外周面の外歯とを備えたリングギヤ42は、その内歯が前記3つの39,39,39にそれぞれ噛み合うように、太陽軸41と同心状に配置されており、このリングギヤ42は、前記太陽軸41上または、前記腕輪38の外側面から外向きに突出する中心軸43上に軸受を介して回転自在に軸支される。
【0025】
前記走行用の油圧式駆動手段32における容量可変式の第1油圧ポンプ33の回転斜板の角度を変更調節することにより、第1油圧モータ34への圧油の吐出方向と吐出量とを変更して、当該第1油圧モータ34の回転方向及び回転数が調節可能に構成されている。第1油圧モータ34からの回転動力は、入力軸44の入力歯車45から副変速機構の歯車46,47,48を介して、太陽軸41に固定したセンター歯車49に伝達される。なお、歯車48が取付くブレーキ軸50には図示しないブレーキ機構が設けられている。また、歯車46に噛み合う歯車51を介して刈取前処理装置7等の作業機への回転力を伝達するPTO軸52に出力する。
【0026】
そして、前記走行用の油圧式駆動手段32からの回転動力は、前記太陽軸41上に固定した前記センター歯車49を介して、前記左右一対の遊星変速機構31,31に伝達され、前記左側の腕輪38の中心軸43に固着した伝動歯車53を、左側の出力軸21aに固着した伝動歯車54に噛み合わせて出力する。同様に、右側の腕輪38の中心軸43に固着した伝動歯車53を、右側の出力軸21bに固着した伝動歯車54に噛み合わせて出力する(図2及び図4参照)。
【0027】
旋回用の油圧式駆動手段35における容量可変式の第2油圧ポンプ36の回転斜板の角度を変更調節することにより、第2油圧モータ37への圧油の吐出方向と吐出量とを変更して、当該第2油圧モータ37の回転方向及び回転数が調節可能に構成されている。第2油圧モータ37からの回転動力は、入力軸55に取付く一対の伝動歯車56,57に伝達される。そして、図2に示すように左側のリングギヤ42の外歯に対しては伝動歯車56と直接噛み合い、右側の伝動歯車57が逆転軸58に取付く逆転歯車59に噛み合い、この逆転歯車59と右側のリングギヤ42の外歯とが噛み合う。
【0028】
従って、第2油圧モータ37の正回転にて、左側のリングギヤ42が所定回転数にて逆回転すると、右側のリングギヤ42が前記と同一回転数にて正回転することになる。
【0029】
なお、エンジン(図示しない)からの回転力は、ミッションケース30の外側にて一方の油圧ポンプの軸(例えば走行用の油圧式駆動手段の第1油圧ポンプ33の軸33a)に無端チェン60にて伝達し、第1油圧ポンプ33の軸33aと第2油圧ポンプ36の軸36aとをミッションケース30にてチェン61巻掛けにて動力伝達するように構成すれば(図3参照)、エンジンからの動力伝達箇所が1か所で済み、操向装置がコンパクトになる。
【0030】
走行機体1の操縦部における座席に設けた一本の操作レバー(図示せず)は、平面視で前後方向と左右方向との互いに直交する2つの方向に動かすことが可能で、走行速度の調節と操向操作を同時に実行できるようにしたものである。
【0031】
実施例では、前記操作レバーを略垂直状に上向きに立てた時を中立位置とし、前方向に回動すると走行機体1を前進させ、後方向に回動させると後退させ、且つその走行速度は操作レバーの前後傾斜角度(垂直に対する傾き角度)が大きくなる程速くなるように設定するものであり、操作レバーを左右に傾動するときはその方向に走行機体1を旋回させ、左右傾斜角度が大きくなる程旋回半径を小さくする(小廻りさせる)ように、走行用の油圧式駆動手段32及び旋回用の油圧式駆動手段35の油圧ポンプ33,36の圧油吐出方向及び吐出量を調節するものである。
【0032】
この構成により、例えば、旋回用の油圧式駆動手段35を停止させておけば、左右両側のリングギヤ42,42の回転は停止した固定状態である。この状態で走行用の油圧式駆動手段32を駆動すると、第1油圧モータ34からの回転力は、太陽軸41のセンター歯車49に入力され、その回転力は、左右両側の太陽歯車40,40に同一回転数にて伝達され、左右両側の遊星変速機構の遊星歯車39、腕歯車38を介して左右両側の出力軸21a,21bに平等に同方向の同一回転数にて出力されるので、直進走行ができる。
【0033】
反対に、走行用の油圧式駆動手段32を停止した状態では、前記太陽軸41及び左右両側の太陽歯車40,40は固定される。この場合、ブレーキ軸50を固定すべくブレーキ手段を作動させるのが好ましい。この状態にて、旋回用の油圧式駆動手段35を例えば正回転駆動させると、左の遊星歯車39、腕歯車38からなる遊星変速機構は逆回転する一方、右の遊星歯車39、腕歯車38からなる遊星変速機構は正回転することになる。従って、左走行クローラ2aは後進する一方、右走行クローラ2bは前進するので、走行機体1はその場で、左にスピンターンすることになる。
【0034】
図5は、横軸に前記操作レバーの左右傾動角度、縦軸に左右の走行クローラの走行速度(m/sec.)を採ったもので、実線及び点線はスピンターンの状態を示し、実線A1、点線a1は左走行クローラ2aを示し、実線B1、点線b1は右走行クローラ2bを示す。実線A1、点線a1は前進(+符号)、実線B1、点線b1は後進(−符号)であり、操作レバーの左方向または右方向(旋回方向)の同一傾斜角度に対して、左右両走行クローラの走行速度の絶対値は同じであることを示す。なお、実線と点線とは操作レバーの前傾角度の大小、つまり走行速度の大小によるものである。従って、操作レバーの前傾角度、または後傾角度と左右傾斜角度を変更することにより、任意の速さでスピンターンを無段階調節することができる。
【0035】
図5の一点鎖線及び二点鎖線は、緩旋回〜急旋回までを任意の速さで且つ旋回半径を任意に無段階調節する場合であって、例えば、左右両走行クローラ2a,2bを1.5(m/sec.)にて前進走行させている状態から右旋回する場合、左走行クローラ2aがx(m/sec.)の速度増速する一方(一点鎖線A2参照)、右走行クローラ2bは前記と同じ値x(m/sec.)の速度減速することになる(一点鎖線B2参照)。即ち、左走行クローラ2aは、1.5+x(m/sec.)で走行し、右走行クローラ2bは1.5−x(m/sec.)にて走行して右旋回することになる。また、この増速・減速x(m/sec.)は、操作レバーの傾斜角度により任意に無段階に調節でき、二点鎖線で示す左走行クローラ2aの速度線a2及び右走行クローラ2bの速度線b2のように緩旋回もできる。
【0036】
この場合、左走行クローラ2aの速度線A2や速度線a2が大きい状態で、右走行クローラ2bの速度線B2や速度線b2のように速度0の状態や後進状態も採ることができる。
【0037】
これらの場合、走行用の油圧式駆動手段32及び旋回用の油圧式駆動手段35のいずれも、ブレーキもしくはクラッチのすべりによる動力損失はなく、油圧ポンプと油圧モータの通常の油圧動力伝達損失のみであるので、損失馬力を大幅に少なくすることができる効果を奏する。
【0038】
この種の操向装置では、走行用の油圧式駆動手段32の第1油圧ポンプ33及び第1油圧モータ34を馬力(容量)の大きなものを使用し、旋回用の油圧式駆動手段35の第2油圧ポンプ36及び第2油圧モータ37の馬力(容量)を小さいものに設定することができ、エネルギー効率が向上する。これに対して、従来のように左右の走行クローラを、油圧ポンプと油圧モータからなる2組の油圧式駆動手段で別個独立的に駆動する場合には、直進時に左右両走行クローラを同一速度で駆動するのに必要な大きい馬力(容量)のものを備えておく必要があり、緩旋回時には旋回内側の油圧式駆動手段の馬力(容量)が余ることになり、エネルギーロスが大きい。
【0039】
図6及び図7に示す第2実施例では、走行用の油圧式駆動手段32における第1油圧モータ33からの入力軸44は、左右の走行クローラ2a,2bへの出力軸21a,21bと平行状であり、旋回用の油圧式駆動手段35における第2油圧モータ3からの入力軸55は前記入力軸44と直交して配置し、この入力軸55の先端の傘歯車62は、相対向配置された傘歯車63,64に噛み合い。各傘歯車63,64とそれと一体的に回転する伝動歯車65,66がそれぞれ前記左右のリングギヤ42,42の外歯に噛み合って回転力が伝達される。従って、第2油圧モータ37の正回転に対して、傘歯車63は正回転するとすれば傘歯車64は逆回転し、もって左リングギヤ42は正回転して右リングギヤ42は逆回転することになる。
【0040】
なお、走行用の油圧式駆動手段32における第1油圧ポンプ33の軸と旋回用の油圧式駆動手段35における第2油圧ポンプ36の軸とは平行状に配置されているので、エンジンからの動力は一方の油圧ポンプの軸に入力し、この軸から他方の油圧ポンプの軸にチェン巻掛け伝動すれば良い。その他、遊星変速機構や走行用の油圧式駆動手段32等の歯車の噛み合い関係は前記第1実施例と同じであるので、同じ部品に対して同じ符号を付し、構成及び作用の詳細な説明は省略する。
【0041】
図8及び図9は第3実施例を示し、走行用の油圧式駆動手段32における第1油圧ポンプ33の軸と旋回用の油圧式駆動手段35における第2油圧ポンプ36の軸とは共通軸70であって、この共通軸70に固着したプーリ71にエンジンからベルト72等により動力を入力する。この共通軸70は、図9の実施例ではミッションケース30から突出する左右の出力軸21a,21bと平行状とするが、直交するように配置しても良いのである。他方、走行用の油圧式駆動手段32における第1油圧モータ34からの入力軸73と旋回用の油圧式駆動手段35における第2油圧モータ37からの入力軸74とは、前記両出力軸21a,21bに対して直交して配置されている。そして、走行用の油圧式駆動手段32における入力軸73の先端に取付く傘歯車75に対向して噛み合う傘歯車対76,77は太陽軸41と一体的に回転する。
【0042】
そして、左右一対の遊星変速機構31,31は左右対称状であって、同一半径上に3つの遊星歯車39,39,39がそれぞれ回転自在に軸支された左右一対の腕輪38,38をミッションケース30内にて同軸線上にて適宜隔てて相対向させて配置する。前記各遊星歯車39にそれぞれ噛み合う太陽歯車40,40を固着した前記太陽軸41の左右両端は、両腕輪38,38の内側にてその回転中心部に位置する軸受に回転自在に軸支されている。
【0043】
また、内周面の内歯と外周面の外歯とを備えたリングギヤ42は、その内歯が前記3つの39,39,39にそれぞれ噛み合うように、太陽軸41と同心状に配置されており、このリングギヤ42は、前記太陽軸41上または、前記腕輪38の外側面から外向きに突出する中心軸43上に軸受を介して回転自在に軸支される。
【0044】
旋回用の油圧式駆動手段35における第2油圧モータ37からの回転動力は、入力軸74の先端に取付く傘歯車78は相対向して配置された傘歯車対79,80と噛み合い、一方の傘歯車79と一体的に回転する伝動歯車81が図8に示す左側のリングギヤ42の外歯に噛み合い、他方の傘歯車80と一体的に回転する伝動歯車82は右側のリングギヤ42の外歯と噛み合う。
【0045】
従って、第2油圧モータ37の正回転に対して、傘歯車79が正回転するとすれば傘歯車80は逆回転し、もって左リングギヤ42は正回転して右リングギヤ42は逆回転することになる。
【0046】
なお、前記走行用の入力軸73の傘歯車75と噛み合う一方の傘歯車77または太陽軸41にはプーリ83を一体的に回転するように設け、該プーリ83と、作業機等への回転力を伝達するPTO軸52のプーリ84をチェン85にて巻掛けして出力するように構成する。
【0047】
そして、前記走行用の油圧式駆動手段32からの回転動力は、前記太陽軸41を介して、前記左右一対の遊星変速機構31,31に伝達され、前記左側の腕輪38の中心軸43に固着した伝動歯車53を、左側の出力軸21aに固着した伝動歯車54に噛み合わせて出力する。同様に、右側の腕輪38の中心軸43に固着した伝動歯車53を、右側の出力軸21bに固着した伝動歯車54に噛み合わせて出力する(図8及び図9参照)。
【0048】
この構成により、例えば、旋回用の油圧駆動手段35を停止させておけば、左右両側のリングギヤ42,42の回転は停止した固定状態である。この状態で走行用の油圧式駆動手段32を駆動すると、第1油圧モータ34からの回転力は、傘歯車75、76,77を介して太陽軸41に入力され、その回転力は、左右両側の遊星変速機構31,31における太陽歯車40,40に同一回転数にて伝達され、左右両側の遊星変速機構の遊星歯車39、腕歯車38を介して左右両側の出力軸21a,21bに平等に出力されるので、直進走行ができる。
【0049】
反対に、走行用の油圧式駆動手段32を停止した状態では、前記太陽軸41及び左右両側の太陽歯車40,40は固定される。この状態にて、旋回用の油圧式駆動手段35を例えば正回転駆動させると、リングギヤ42を介して左の遊星歯車39、腕歯車38からなる遊星変速機構は正回転する一方、リングギヤ42を介して右の遊星歯車39、腕歯車38からなる遊星変速機構は逆回転することになる。従って、左走行クローラ2aは前進する一方、右走行クローラ2bは後進するので、走行機体1はその場で、左にスピンターンすることになる。
【0050】
そして、前記走行用の油圧式駆動手段32における容量可変式の第1油圧ポンプ33及び、旋回用の油圧式駆動手段35における容量可変式の第2油圧ポンプ36の回転斜板の角度をそれぞれ変更調節することにより、第1油圧モータ34第2油圧モータ37への圧油の吐出方向と吐出量とをそれぞれ変更することができるので、前記第1実施例と同様にして、緩旋回から急旋回まで無段階に旋回半径や旋回速度を変更調節できると共にスピンターンの速度も無段階にて調節できるものである。
【0051】
この実施例では、第1油圧ポンプ33及び第2油圧ポンプ37から各傘歯車75、78間での入力軸73、74の長さを任意に設定できるから、ミッションケース30をコンパクトにできる。また、両油圧式駆動手段と、起動輪22への出力軸までの距離も任意に設定することができる。さらに、PTO軸52にはチェンによる動力伝達であるので、PTO軸52の配置位置を任意に設定できるという利点がある。
【0052】
なお、走行速度が一定(所定)の値以上のとき、旋回操作をすると、遠心力が大きくなって、搭乗者が旋回外側に振り回されて走行機体1から落ちる危険がある。そこで、車速(走行速度)が一定以上の時に旋回操作を実行すると、走行速度が減速されるように、第1油圧ポンプ33の吐出量制御と第2油圧ポンプ36の吐出量制御とを機械的、または電気的に連動させるように構成することが好ましい。さらに、走行用の油圧式駆動手段32において、操作レバーが中立位置(停止位置)近傍にあるとき、旋回操作が出来ないようにする機械的または電気的な制限手段を設けておけば、誤って操作レバーに触れて、作業者が予期しないときに旋回するという危険を防止できる。
【0053】
図2の実施例に代えて、走行用の油圧式駆動手段32からの伝動歯車48を介して左右両側のリングギヤ42,42に、同一方向、同一回転数にて動力伝達する一方、前記センター歯車49を省略し、且つ左右の太陽歯車40,40が互いに独立的に回転可能となるように、太陽軸41を左右に分割し、旋回用の油圧式駆動手段35における左の伝動歯車65を左の太陽軸41に固着した歯車(図示せず)に噛み合わせ、右の伝動歯車65を右の太陽軸41に固着した歯車(図示せず)に噛み合わせるように構成しても良い。
【0054】
本発明は、農作業機ばかりでなく、ブルドーザ等の土木用の走行作業機(車両)にも適用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】コンバインの側面図である。
【図2】第1実施例の操向装置の動力伝達ブロック図である。
【図3】第1実施例の操向装置の側面図である。
【図4】第1実施例の操向装置の一対の遊星変速機構部の一部断面図である。
【図5】第1実施例の作用説明図である。
【図6】第1実施例の操向装置の動力伝達ブロック図である。
【図7】第2実施例の操向装置の側面図である。
【図8】第3実施例の操向装置の動力伝達ブロック図である。
【図9】第3実施例の操向装置の側面図である。
【符号の説明】
【0056】
20 操向装置
21a,21b 出力軸
30 ミッションケース
31,31 遊星変速機構
32 走行用の油圧式駆動手段
33 第1油圧ポンプ
34 第1油圧モータ
35 旋回用の油圧式駆動手段
36 第2油圧ポンプ
37 第2油圧モータ
38 腕輪
39 遊星歯車
40 太陽歯車
42 リングギヤ
49 センター歯車
52 PTO軸
【出願人】 【識別番号】000006851
【氏名又は名称】ヤンマー農機株式会社
【住所又は居所】大阪府大阪市北区茶屋町1番32号
【出願日】 平成16年9月29日(2004.9.29)
【代理人】 【識別番号】100079131
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 暁夫

【識別番号】100096747
【弁理士】
【氏名又は名称】東野 正

【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸

【公開番号】 特開2005−13239(P2005−13239A)
【公開日】 平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願番号】 特願2004−283461(P2004−283461)