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【発明の名称】 800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm2級耐火建築構造用鋼およびその厚鋼板の製造方法
【発明者】 【氏名】熊谷 達也
【住所又は居所】千葉県富津市新富20−1 新日本製鐵株式会社技術開発本部内
【氏名】岡田 忠義
【住所又は居所】千葉県富津市新富20−1 新日本製鐵株式会社技術開発本部内
【課題】800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用鋼およびその厚鋼板の製造方法を提供する。

【解決手段】質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.02%〜0.5%、Mn:0.5%以下、Al:0.001〜0.1%、Mo:0.1〜0.3%、Ti:0.01〜0.20%、Nb:0.01〜0.20%、V:0.01〜0.20%、B:0.0005〜0.010%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、Ac1変態温度が800〜900℃であることを特徴とする、800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用鋼、およびその厚鋼板の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.02〜0.08%、
Si:0.02%〜0.5%、
Mn:0.5%以下、
Al:0.001〜0.1%、
Mo:0.1〜0.3%、
Ti:0.01〜0.20%、
Nb:0.01〜0.20%、
V :0.01〜0.20%、
B :0.0005〜0.010%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、Ac1変態温度が800〜900℃であることを特徴とする、800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用鋼。
【請求項2】
さらに、質量%で、
Cu:0.1〜2.0%、
Ni:0.1〜0.5%、
Cr:0.1〜0.6%
のうち1種または2種以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載の800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用鋼。
【請求項3】
さらに、質量%で、
Mg:0.0001〜0.01%、
Ca:0.0001〜0.01%
のうち1種または2種を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用鋼。
【請求項4】
前記鋼が、800℃で固溶するMo、Nb、Tiを、合計でモル濃度1×10−3以上含有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用鋼。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼片または鋳片を、1200℃以上に加熱し、930℃以下830℃以上の温度域で仕上げ板厚に対して40%以上の累積圧下率を確保する熱間圧延を行い、圧延終了後、800℃以上の温度からの鋼板表面の平均冷却速度が2℃/s以上で400℃以下まで冷却することを特徴とする、800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用厚鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用鋼およびその厚鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、建築物には火災時の安全性を確保するために、火災時における鋼材表面温度が350℃以下で使用するように耐火基準が定められており、ロックウールなどの耐火被覆が必要となる。しかし、耐火被覆施工費用は高額であり、工程も余分にかかること、さらには景観上からも、耐火被覆を完全に省略したいという要求は非常に高まっている。
【0003】
一方、昭和57年度から61年度にかけて、建設省総合技術開発プロジェクト「建築物の防火設計法の開発」の中で設けられた「耐火設計法の開発」という課題のもとで、性能型の新しい耐火設計法を具体化するための研究が行われた。
【0004】
その成果を受けて(建築基準法第38条に基づく認定により)、性能型の設計が可能となった結果、鋼材の高温強度と建物に実際に加わっている荷重とによってどの程度の耐火被覆が必要かを決定できるようになり、場合によっては、無耐火被覆で鋼材を使用することも可能となった。
【0005】
こうした状況から、近年、短時間の高温強度を高めたいわゆる耐火鋼が多く開発された。特許文献1をはじめとして、600℃での高温降伏強度が常温時の2/3以上となる鋼材、すなわち、600℃耐火鋼の技術が多数開示されている。また、特許文献2や特許文献3などでは、700℃での高温降伏強度が常温時の2/3となる、700℃耐火鋼の技術も開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平2−77523号公報
【特許文献2】
特開平9−209077号公報
【特許文献3】
特開平10−68015号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来技術の600℃耐火鋼では、無耐火被覆構造が可能となるのは比較的可燃物量が少ない立体駐車場や外部鉄骨に限られる。また、上記従来技術の700℃耐火鋼でも、無耐火被覆が可能となる構造物はそれほど多くはならない。これに対して、耐火性能が800℃以上であれば、無耐火被覆構造が可能となる範囲の大幅な拡大が可能である。
【0008】
一方、現行の耐震設計法では骨組みの変形による地震エネルギー吸収を前提としていることから、設計で想定した骨組みの崩壊形の確保や、部材の組成変形能力の確保、部材性能を十分発揮させるための接合部降伏強度や靭性の確保が必要となり、これに用いる建築構造用の鋼材には、降伏強度のばらつきの制限(つまり降伏強度の上下限)や、降伏比上限などの耐震性の規定、溶接性の確保が必要とされる。
【0009】
SN材(JIS G 3136)は、これらの耐震性、溶接性に関する規定がなされた鋼材であり、400N/mm級鋼(降伏強度下限235N/mm)の場合、降伏強度上限が355N/mm、降伏比上限が80%、490N/mm級鋼(降伏強度下限325N/mm)の場合、降伏強度上限が445N/mm、降伏比上限が80%というように規定されている。
【0010】
高温強度を確保するためには、例えば、耐熱鋼で利用されるCr、Mo、Mn、Vなどの合金元素を添加する方法が一般的である。しかし、800℃というような高温においては、変態によって鋼材の組織が変化することや、炭化物などの析出物が粗大化あるいは消失して析出強化の効果が少なくなることから、耐火性能を確保するためには合金元素量を多量に添加せざるを得なくなるが、その場合、溶接継手靭性などの溶接性を低下させることの他、常温強度が高くなるため、上記建築構造用鋼で規定されている降伏強度上限を上回るなどの問題が生じる。
【0011】
こうしたことから、従来、800℃まで無耐火被覆での設計が可能な耐火性能を有する建築構造用途400N/mm級鋼、490N/mm級鋼はなかった。
【0012】
そこで、本発明は、上記のような問題点を有利に解決できる、800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用鋼およびその厚鋼板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上述のように、溶接性の確保が、800℃での耐火鋼性能を付与するにあたっての大きな制約である。そこで、本発明者らは、本発明鋼が部材として用いられる際には、柱梁接合部などの作用応力の大きな部位については溶接を用いない設計方法を採用することを前提とすることとした。
【0014】
これによって、鋼材に対する溶接性の制約が緩和される。例えば、SN材規格には溶接性に関する規定として、Ceq(炭素等量)の上限規制があるが、本発明鋼においては、特にCeqの上限などは考慮していない。
【0015】
一方、耐火設計では火災継続時間内で高い強度を維持すればよい。すなわち、従来の耐熱鋼のように、長時間の強度を考慮する必要はなく、比較的短時間の高温降伏強度が維持できればよい。例えば、800℃での保持時間が30分程度の短時間高温降伏強度が確保できれば、800℃耐火鋼として十分利用できる。
【0016】
従来の耐火鋼では、高温降伏強度が常温時の2/3となるように性能を定めていたが、鉄骨構造物の実設計範囲が常温降伏強度下限の0.2〜0.4倍であることを勘案し、常温降伏強度下限比0.4以上であれば使用できるとの考えに基づき、本発明では、800℃高温強度のめやすとしては、常温降伏強度下限比0.4以上とした。
【0017】
すなわち、JIS G 3136に規定の常温引張強さ400N/mm級建築構造用圧延鋼板の常温降伏強度下限が235N/mmであるので、800℃降伏強さの目標値下限を、その0.4倍の94N/mmとし、また、常温引張強さ490N/mm級建築構造用圧延鋼板の常温降伏強度下限が325N/mmであるので、800℃降伏強さの目標値下限を、その0.4倍の130N/mmとした。
【0018】
さらに、本発明者らは、溶接性に関する制約を緩和することを前提として、建築構造用鋼として使用できる常温強度の範囲内で、高温での保持時間が30分程度の短時間で、常温降伏強度下限比0.4以上の降伏強度を確保する方法について種々検討した。
【0019】
通常、700℃未満程度の温度域での強化に利用されるCr炭化物やMo炭化物などは、800℃といった高温では再固溶してしまうため、ほとんど強化効果を維持できない。
【0020】
そこで、本発明者らは、高温における安定性のより高い単独あるいは複合の析出物を種々検討して、Moと、Nb、Ti、Vとの複合析出物は高温における安定性が高く、800℃においても高い強化効果を有することを見出した。
【0021】
すなわち、Mo、Nb、Ti、Vを適量添加して圧延時の加熱温度を高くとることで、これらを十分に固溶させ、かつ、転位密度の高い適切な圧延組織の導入により、析出物が析出可能な析出サイトを確保することで、再昇温時、例えば、火災による昇温中に、Moと、Nb、Ti、Vとの複合析出物が微細に析出する。
【0022】
この複合析出物は、単独の析出物や他の複合析出物に比べて、高温における安定性が非常に高く、800℃においても比較的短時間であれば十分微細なまま安定である。また、鋼板製造時点においては、Mo、Nb、Ti、Vの析出を抑えこれらを極力固溶状態におくことで、常温強度の上昇は抑制される。
【0023】
しかし、析出物自体は安定であっても、温度上昇によって素地が変態すれば析出物と素地との整合性が失われて非整合になるために、析出物による強化作用が急激に低下する。
【0024】
すなわち、高温でも安定な複合析出物による強化効果を利用するには、設計温度である800℃においても素地組織を変態させないことが材料にとって必須となる。
【0025】
具体的には、オーステナイトフォーマーであるMnの添加量を低くするなどの合金元素の調整によって、鋼のAc1変態温度(オーステナイトに逆変態する温度)を800℃以上とすることが必要である。
【0026】
一方、Ac1変態温度が900℃を超えると、必然的にAr3温度(オーステナイトからフェライトに変態する温度)が高くなって圧延中に変態が進行するために、析出サイトとして有効な圧延組織が得られなくなり、かえって高温強度は得にくくなる。
【0027】
従って、Ac1変態温度は800℃以上、900℃以下であることが必要条件である。
【0028】
また、鋼材の素地組織をフェライトあるいはフェライト・パーライトの単組織とするよりも、ベイナイト単組織またはベイナイトとフェライトの混合組織とする方が高温強度が安定する。
【0029】
そのような素地組織を得るためには、圧延終了後にある程度以上の冷却速度を確保する製造方法とするとともに、鋼板の焼入性を高める成分組成とすることが必要である。
【0030】
しかし、一方で、焼入性を高めるためにC、Mnなどを多く添加すると常温強度が高くなりすぎたり、靭性が低下する場合がある。常温強度の上昇を抑制しながら鋼板の焼入性を高める手段としては、C添加量は低くし、かつBを添加することが有効である。
【0031】
さらに、Mo、Nb、Tiは、析出せずに鋼中で固溶のままの状態にある場合でも、複合析出物による析出強化ほどではないが高温強度を向上させる効果があり、具体的には、800℃において鋼中に固溶するMo、Nb、Tiの合計量がモル濃度で1×10−3以上あれば、その効果が明確にあらわれる。
【0032】
以上のような知見に基づく本発明の要旨は、以下の通りである。
【0033】
(1) 質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.02%〜0.5%、Mn:0.5%以下、Al:0.001〜0.1%、Mo:0.1〜0.3%、Ti:0.01〜0.20%、Nb:0.01〜0.20%、V:0.01〜0.20%、B:0.0005〜0.010%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、Ac1変態温度が800〜900℃であることを特徴とする、800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用鋼。
【0034】
(2) さらに、質量%で、Cu:0.1〜2.0%、Ni:0.1〜0.5%、Cr:0.1〜0.6%のうち1種または2種以上を含むことを特徴とする、上記(1)に記載の800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用鋼。
【0035】
(3) さらに、質量%で、Mg:0.0001〜0.01%、Ca:0.0001〜0.01%のうち1種または2種を含むことを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用鋼。
【0036】
(4) 前記鋼が、800℃で固溶するMo、Nb、Tiを、合計でモル濃度1×10以上含有することを特徴とする、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用鋼。
【0037】
(5) 上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の成分組成を有する鋼片または鋳片を、1200℃以上に加熱し、930℃以下830℃以上の温度域で仕上げ板厚に対して40%以上の累積圧下率を確保する熱間圧延を行い、圧延終了後、800℃以上の温度からの鋼板表面の平均冷却速度が2℃/s以上で300℃以下まで冷却することを特徴とする、800℃高温特性に優れる常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用厚鋼板の製造方法。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明における各成分の限定理由を説明する。
【0039】
Cは、Mo、Nb、Ti、Vとの複合析出物(炭化物)を形成するために必須であり、少なくとも0.02%が必要である。しかし、0.08%を超えて添加をすると、常温強度が高くなるため、0.02%以上、0.08%以下に限定する。
【0040】
Siは、製鋼上脱酸元素として必要な元素であり、鋼中に0.02%以上の添加が必要であるが、0.5%を越えると常温強度が高くなりすぎるので、0.5%を上限とする。
【0041】
Mnは、常温強度に対する強化元素であるが、高温強度にはあまり効果がない。さらに、Ac1変態温度を800℃以上とするためには添加を抑制する必要があり、上限を0.5%とする。
【0042】
Alは、通常、脱酸元素として添加される範囲の0.001〜0.1%とする。
【0043】
Moは、高温強度を高める複合析出物を構成する基本元素であり、本発明鋼においては必須元素である。800℃高温強度を高めるには、0.1%以上の添加が必要であるが、0.3%を超えて添加すると常温強度が高くなりすぎるので、Mo添加量は0.1%以上、0.3%以下とする。
【0044】
Nbは、高温強度を高める複合析出物の構成元素として、本発明鋼においては必須元素である。800℃高温強度を高めるには、0.01%以上の添加が必要である。しかし、0.20%を超えて添加すると母材靭性を低下させる場合があるため、その添加量は0.01%以上、0.20%以下とする。
【0045】
Tiも、高温強度を高める複合析出物の構成元素として、本発明鋼においては必須元素である。800℃高温強度を高めるには、0.01%以上の添加が必要である。しかし、0.20%を超えて添加すると母材靭性を低下させる場合があるため、その添加量は、0.01%以上、0.20%以下とする。
【0046】
Vは、高温強度を高める複合析出物の構成元素として、本発明鋼においては必須元素である。800℃高温強度を高めるには、0.01%以上の添加が有効である。しかし、0.20%を超えて添加すると母材靭性を低下させる場合があるため、その添加量は、0.01%以上、0.20%以下とする。
【0047】
Bは、焼入性を高め、ベイナイト単組織またはベイナイトとフェライトの混合組織を得るために添加する。この目的のためには、0.0005%以上の添加を必要とするが、0.010%を超えて添加してもその効果は変わらないので、その添加量は、0.0005%以上、0.010%以下とする。
【0048】
Cuは、析出強化元素として添加する場合には0.1%以上の添加を必要とするが、2.0%を超えて添加してもその効果は変わらないので、その添加量は、0.1%以上、2.0%以下とする。
【0049】
Niは、母材靭性を高めるために添加する場合は0.1%以上を必要とするが、Ac1変態温度を低下させるため、0.5%を超えて添加すると高温強度が低下する。したがって、Niの添加量は、0.1%以上、0.5%以下の範囲とする。
【0050】
Crは、焼入強化元素として添加する場合には、0.1%以上を要するが、0.6%を超えて添加すると常温強度が高くなりすぎるので、その添加量は、0.1%以上、0.6%以下とする。
【0051】
MgおよびCaの1種または2種を添加することにより、硫化物や酸化物を形成して母材靭性および溶接熱影響部靭性を高めることができる。この効果を得るためには、MgあるいはCaは、それぞれ、0.0001%以上の添加が必要である。しかし、0.01%を超えて過剰に添加すると粗大な硫化物や酸化物が生成するため、かえって、母材靭性を低下させることがある。したがって、その添加量を0.0001〜0.01%とする。
【0052】
上記の成分の他に不可避不純物として、P、S、Oは、母材靭性を低下させる有害な元素であるので、その量は少ないほうが良い。望ましくは、Pは0.02%以下、Sは0.02%以下、Oは0.005%以下とする。
【0053】
次に、本発明の厚鋼板の製造方法について説明する。
【0054】
本発明では、Nb、Tiなど本発明で利用する析出物生成元素を十分に固溶させるために、鋼片または鋳片を1200℃以上の温度で溶体化処理するか、圧延時の加熱温度を1200℃以上とする。これらの処理温度が1200℃未満では、本発明が必要とする析出物の効果が十分に得られない。
【0055】
さらに、930℃以下830℃以上の温度域で、仕上げ板厚に対して40%以上の累積圧下率を確保する熱間圧延を行う。930℃超の温度域での熱間圧延では、また、40%未満の累積圧下率の熱間圧延では、十分な圧延歪が得らないため微細な金属組織を得ることができず、ひいては本発明が目的とする鋼材の常温特性を得ることができない。
【0056】
また、830℃未満の温度域で圧延を行うと、圧延中に加工誘起析出によって結晶粒界に析出物が析出するため、微細で素地と整合な複合析出物を得にくくなり、ひいては本発明が目的とする鋼材の高温特性を得ることができない。
【0057】
また、圧延終了後、800℃以上の温度からの鋼板表面の平均冷却速度が2℃/s以上で400℃以下まで冷却する。これは、析出サイトとなる変形帯や転位を多く含む圧延組織を得、それをこの冷却によって凍結することにより、昇温時に微細で素地と整合なMoと、Nb、Ti、Vとの複合析出物を高密度に得るためである。
【0058】
この冷却後に、鋼板を500℃以下の温度範囲で30分以内の焼戻し熱処理を行ってもよい。
【0059】
固溶状態にあるMo、Nb、Tiが高温強度を顕著に向上させるためには、それらの800℃における合計量がモル濃度で1×10−3以上は必要である。
【0060】
また、本発明の鋼は、厚鋼板の他、鋼管、薄鋼板、形鋼などの鋼材としても、十分に本発明の効果を享受可能である。
【0061】
【実施例】
表1に示す成分組成の鋼を溶製して得られた鋼片を、表2および表3に示す製造条件にて6〜50mm厚さの鋼板とした。これらのうち、1−A〜11−Kは本発明例(表2)であり、12−L〜31−Aは比較例(表3)である。
【0062】
これらの鋼板の各種特性を表2および表3に示す。それぞれの表中で下線で示すものは、本発明の範囲を逸脱しているもの、または各特性の目標値に達していないものである。
【0063】
常温降伏強さの目標値は、400N/mm級鋼で235〜355N/mm、490N/mm級鋼で325〜445N/mmである。
【0064】
800℃降伏強さの目標値は、400N/mm鋼で94N/mm、490N/mm鋼で130N/mmとしている。
【0065】
靱性は、JIS Z 2242記載の方法により、破面遷移温度Trs50を測定した。
【0066】
また、靱性の目標値は、Trs50≦−20℃とした。
【0067】
また、固溶Mo、Nb、Tiの合計モル濃度は、800℃において鋼中に固溶するMo、Nb、Tiのモル濃度合計量の熱力学計算値を示した。
【0068】
本発明例1−A〜14−Nは、いずれも、Ac1変態温度が800〜900℃の範囲にあり、800℃降伏強さは400N/mm級鋼で94N/mm以上、490N/mm級鋼で130N/mm以上あり、Trs50が−20℃以下である。
【0069】
さらに、これらの実施例のなかで本発明例4−D、6−F、7−Gについては、800℃において鋼中に固溶するMo、Nb、Tiの合計量がモル濃度で1×10−3以上であり、800℃降伏強さは400N/mm鋼で120N/mm以上、490N/mm鋼で140N/mm以上である。
【0070】
これに対し、比較例12−Lは、Cが低いため800℃降伏強さが低い。比較例13−Mは、Cが高いためAc1変態温度が低く、800℃降伏強さが低く、かつ靭性も低い。
【0071】
比較例14−NはSiが高いため、比較例17−QはMoが高いため、比較例26−ZはCrが高いため、それぞれ常温引降伏張強さが高い。比較例15−OはMnが高いため、比較例25−YはNiが高いため、それぞれAc1変態温度が低く、800℃降伏強さが低い。
【0072】
比較例16−PはMoが低いため、比較例18−RはNbが低いため、比較例20−TはTiが低いため、比較例22−VはVが低いため、比較例24−XはBが低いため、それぞれ800℃降伏強度が低い。
【0073】
比較例19−SはNbが高いため、比較例21−UはTiが高いため、比較例23−WはVが高いため、比較例27−AAはMgが高いため、比較例28−ABはCaが高いため、それぞれ靭性が低い。
【0074】
比較例29−Aは圧延時の加熱温度が低いため、比較例30−Aは930℃以下830℃以上の温度域での累積圧下率が低いため、比較例31−Aは冷却速度が小さいため、それぞれ800℃降伏強度が低い。
【0075】
【表1】


【0076】
【表2】


【0077】
【表3】


【0078】
【表4】


【0079】
【発明の効果】
本発明によれば、800℃までの高温強度が高く、特に高温耐火建築構造用鋼として優れた性能を発揮する、常温引張強さ400〜490N/mm級耐火建築構造用鋼およびその厚鋼板の製造方法が提供でき、その工業界への効果は極めて大きい。
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区大手町2丁目6番3号
【出願日】 平成15年3月28日(2003.3.28)
【代理人】 【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬

【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一

【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏

【識別番号】100082898
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 雅也

【公開番号】 特開2004−2991(P2004−2991A)
【公開日】 平成16年1月8日(2004.1.8)
【出願番号】 特願2003−92018(P2003−92018)