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【発明の名称】 |
新規コレステロールエステル化酵素およびその使用 |
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【氏名】飯田 年以 【住所又は居所】神奈川県横浜市都筑区早渕2−2−1 株式会社資生堂リサーチセンター(新横浜)内 【氏名】吉田 誠一 【住所又は居所】神奈川県横浜市都筑区早渕2−2−1 株式会社資生堂リサーチセンター(新横浜)内 【氏名】東條 洋介 【住所又は居所】神奈川県横浜市都筑区早渕2−2−1 株式会社資生堂リサーチセンター(新横浜)内 【氏名】青木 宏文 【住所又は居所】神奈川県横浜市都筑区早渕2−2−1 株式会社資生堂リサーチセンター(新横浜)内 【氏名】常長 誠 【住所又は居所】神奈川県横浜市都筑区早渕2−2−1 株式会社資生堂リサーチセンター(新横浜)内 【氏名】猪股 慎二 【住所又は居所】神奈川県横浜市都筑区早渕2−2−1 株式会社資生堂リサーチセンター(新横浜)内 【氏名】傳田 光洋 【住所又は居所】神奈川県横浜市金沢区福浦2−12−1 株式会社資生堂リサーチセンター(金沢八景)内 |
【課題】生体中の遊離脂肪酸とコレステロールの量を制御する技術を開発し、さらに該技術を用いて、皮膚の状態改善(肌荒れ防止・改善、しみ・しわの予防・防止等)や、高脂血症治療等に応用可能な技術を提供する。
【解決手段】補酵素の作用を介在させることなく、遊離脂肪酸とコレステロールまたはその誘導体とを基質として作用し、脂肪酸−CoA複合体には作用せず、コレステロールエステル生成(アシル基転移)反応を触媒する、新規コレステロールエステル化酵素。該酵素は、分子量40kDa〜45kDa(ゲル濾過法)、作用pH3.0〜7.0、至適pH4.0〜5.0で、4〜60℃の広い範囲で作用し、作用至適温度20〜50℃である。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 次の性質を有するコレステロールエステル化酵素。 (1)作用 補酵素の作用を介在させることなく、遊離脂肪酸とコレステロールまたはその誘導体とに直接作用して、コレステロールエステル生成(アシル基転移)反応を触媒する。 (2)基質特異性 遊離脂肪酸とコレステロールまたはその誘導体を基質として作用する。脂肪酸−CoA複合体に対しては作用しない。 (3)分子量 ゲル濾過法による分子量が40kDa〜45kDa、SDS−PAGE法による分子量が60kDa〜70kDaである。 (4)作用pHおよび至適作用pH 作用pHは3.0〜7.0、至適pHは4.0〜5.0に認められる。 (5)作用温度および至適温度 4〜60℃の広い範囲で作用するが、作用至適温度は20〜50℃に認められる。 (6)熱安定性 酢酸緩衝液(pH5.0)の下で、各温度で10分間加熱処理した場合、37℃以下でほとんど失活せず、80℃でほぼ完全に失活する。 (7)活性影響 EDTA(エチレンジアミン4酢酸)、DTT(ジチオスレイトール)のいずれによっても活性に影響を受けない。 (8)精製方法 下記(i)、(ii)のいずれかの方法により精製される。 (i)動物またはヒト由来の組織から常法により粗酵素液を得、硫安分画後透析した酵素液を、(a)コレステロールセファロースカラムに吸着させ、酢酸緩衝液で溶出して画分を集める工程、(b)前記画分をヘパリンセファロースカラムに吸着させ、酢酸緩衝液(NaClを含む)で溶出して画分を集める工程、により精製する(ただし(a)工程、(b)工程はいずれを先に行ってもよい)。 (ii)動物またはヒト由来の組織から常法により粗酵素液を得、硫安分画後透析した酵素液を、(a)コレステロールセファロースカラムに吸着させ、酢酸緩衝液で溶出して画分を集める工程、(b)前記画分をヘパリンセファロースカラムに吸着させ、酢酸緩衝液(NaClを含む)で溶出して画分を集める工程、(c)前記画分をキレーティングセファロースカラム(Cuをリガンド)に吸着させ、酢酸緩衝液(イミダゾール含む)で溶出して画分を集める工程、(d)前記画分をホスホリルコリン修飾シリカカラムに吸着(燐酸ナトリウム緩衝液を移動相とする)させ、分取する工程、により精製する(ただし(a)〜(d)工程はいずれを先に行ってもよい)。 (9)ペプチド配列 上記(ii)の精製方法により得た画分をSDS−PAGEにかけ、50〜70kDa領域で現出したバンドから得られたペプチド断片が、配列表の配列番号1のアミノ酸配列中、65〜78位、106〜111位、238〜242位、287〜299位、289〜299位、319〜327位、328〜340位、360〜370位、426〜437位、438〜446位、470〜481位、486〜492位における配列と同一のペプチド配列を少なくとも有する。 【請求項2】 マウスあるいはヒト由来である、請求項1記載の酵素。 【請求項3】 遊離脂肪酸とコレステロールまたはその誘導体とを含む系に、請求項1または2記載の酵素を添加して、CoA、ATP等の補酵素を用いることなくコレステロールエステルを生成する、コレステロールエステルの製造方法。 【請求項4】 請求項1または2記載の酵素を、生体中の遊離脂肪酸および/またはコレステロールを低減させるために用いる、コレステロールエステル化酵素の使用。 【請求項5】 請求項1または2記載の酵素を用いて、生体中の遊離脂肪酸および/またはコレステロールを低減させ、皮膚のしみ、しわを予防・防止する、および/または肌荒れを防止・改善する、皮膚改善方法。 【請求項6】 請求項1または2記載の酵素を用いて、生体中の遊離脂肪酸および/またはコレステロールを低減させるための高脂血症治療薬の探索方法。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、新規コレステロールエステル化酵素およびその使用に関する。本発明は、おもに化粧料や試薬、診断薬、医薬品開発の技術分野で利用される。 【背景技術】 【0002】 生体(臓器、血液、皮膚など)中に存在する脂肪酸やコレステロールは、生物が活動する上でのエネルギー源や生体膜などの構成成分として非常に重要な物質である。これらの代謝に関しては、従来から数多くの研究が行われており、コレステロールの貯蔵型として脂肪酸とのエステル(コレステロールエステル)の存在も知られている。 【0003】 中でも皮膚に関する研究として、表皮中のコレステロールエステルの存在量が、特に角層において高いことを、Unna と Golodetz が報告している(1910年頃)。また、皮膚中でのコレステロールおよび遊離脂肪酸からコレステロールエステルへの変換活性に関する報告が、アイソトープラベルしたオレイン酸やコレステロールを用いた実験によりなされている(非特許文献1参照)。この遊離脂肪酸とコレステロールとからコレステロールエステルへの変換反応は、補酵素A(CoA)とアデノシン三リン酸(ATP)により活性化を受けることが明らかになり(非特許文献2参照)、ラット肝臓での実験でも示唆されていたアシルCoAを経由した転移反応であろうと結論している。同じくウシ乳房抽出液でも、同様にCoAとATP、Mg2+などの添加による効果が示されている(Askewら、"Lipids", 6, 326-331, 1971)。 【0004】 実際、転移酵素としてLCAT(レシチン−コレステロールアシルトランスフェラーゼ)とACAT(アシルCoA−コレステロールアシルトランスフェラーゼ)の2つのアシル基転移酵素が見出され、それぞれのcDNAクローニングが1986年(非特許文献3参照)と1993年(非特許文献4参照)になされた。LCATはおもに血中に存在して作用するのに対し、ACATは包皮はじめ小腸、肝臓など種々の組織に存在し、生体内のコレステロール量の調節に関与するとともに、血中からのコレステロールの吸収にも働くことから、高脂血症の治療薬のターゲットとしてその阻害剤の開発が進められている(非特許文献5参照)。 【0005】 一方、ACATノックアウトマウスを用いた実験で、コレステロールエステル量の減少がそれほどでもなく、まだかなりの量のエステルが合成されていることが示され、ACAT以外の他のエステル化酵素の存在が示唆された(非特許文献6参照)。その後もACATのアイソザイムの報告(非特許文献7参照)もあるものの、さらなる別の酵素の存在も否定できない状況であった。 【0006】 ところで皮膚での過度の遊離脂肪酸の存在は、にきびや肌荒れの原因となることが知られており、遊離脂肪酸を速やかに減少させる方法も必要である。遊離脂肪酸やコレステロールを含む皮脂全体量を抑制する薬剤の使用が有効な場合もあるが、それが過度になると乾燥肌の原因となり、特に皮脂の分泌量が低下している中高年にとっては必ずしも好ましくない。皮脂吸着性の粉体やパウダー等を使用する方法もあるが、必ずしも満足し得るものではなく、遊離脂肪酸を無害なコレステロールエステルに変換することが有効である。 【0007】 また、高脂血症治療薬としては、現在コレステロール合成の律速酵素であるHMG−CoAレダクターゼ(=ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ)に対する阻害剤の使用が主流を占めているが、これだけでは未だ十分に満足できる状況ではなく、新たに鍵となる代謝酵素の存在を発見し、新たな治療薬の開発が望まれている。 【0008】 【非特許文献1】Freinkel and Aso, "J. Invert. Dermatol.", 52, 148-154, 1969 【非特許文献2】Freinkel and Aso, "Biochim. Biophys. Acta", 239, 98-102, 1971 【非特許文献3】McLeanら、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA", 83, 2335-2339 【非特許文献4】Changら、"J. Biol. Chem.", 268, 20747-20755 【非特許文献5】平川洋次、下川宏明著、「高脂血症治療薬」、日薬理誌、第118巻、389−395頁(2001年) 【非特許文献6】Meinerら、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA", 93, 14041-14046, 1996 【非特許文献7】Andersonら、"J. Biol. Chem.", 273, 26747-26754, 1998 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明は上記従来の技術のもつ問題点を解決するためになされたもので、生体中の遊離脂肪酸とコレステロールの量を制御する技術を開発することを目的とする。本技術を用いて肌荒れ防止・改善、しみ・しわの予防・防止、高脂血症治療薬への適用が可能となる。 【課題を解決するための手段】 【0010】 上記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、従来知られていたLCAT、ACATとは異なる酵素であって、遊離脂肪酸をアシルCoAに変換することなくコレステロールと直接反応し、コレステロールエステルを生成する新規酵素を見出し、本発明を完成するに至った。 【0011】 すなわち本発明は次の性質を有する新規コレステロールエステル化酵素に関する。 (1)作用 補酵素の作用を介在させることなく、遊離脂肪酸とコレステロールまたはその誘導体とに直接作用して、コレステロールエステル生成(アシル基転移)反応を触媒する。 (2)基質特異性 遊離脂肪酸とコレステロールまたはその誘導体を基質として作用する。脂肪酸−CoA複合体に対しては作用しない。 (3)分子量 ゲル濾過法による分子量が40kDa〜45kDa、SDS−PAGE法による分子量が60kDa〜70kDaである。 (4)作用pHおよび至適作用pH 作用pHは3.0〜7.0、至適pHは4.0〜5.0に認められる。 (5)作用温度および至適温度 4〜60℃の広い範囲で作用するが、作用至適温度は20〜50℃に認められる。 (6)熱安定性 酢酸緩衝液(pH5.0)の下で、各温度で10分間加熱処理した場合、37℃以下でほとんど失活せず、80℃でほぼ完全に失活する。 (7)活性影響 EDTA(エチレンジアミン4酢酸)、DTT(ジチオスレイトール)のいずれによっても活性に影響を受けない。 (8)精製方法 下記(i)、(ii)のいずれかの方法により精製される。 【0012】 (i)動物またはヒト由来の組織から常法により粗酵素液を得、硫安分画後透析した酵素液を、(a)コレステロールセファロースカラムに吸着させ、酢酸緩衝液で溶出して画分を集める工程、(b)前記画分をヘパリンセファロースカラムに吸着させ、酢酸緩衝液(NaClを含む)で溶出して画分を集める工程、により精製する(ただし(a)工程、(b)工程はいずれを先に行ってもよい)。 【0013】 (ii)動物またはヒト由来の組織から常法により粗酵素液を得、硫安分画後透析した酵素液を、(a)コレステロールセファロースカラムに吸着させ、酢酸緩衝液で溶出して画分を集める工程、(b)前記画分をヘパリンセファロースカラムに吸着させ、酢酸緩衝液(NaClを含む)で溶出して画分を集める工程、(c)前記画分をキレーティングセファロースカラム(Cuをリガンド)に吸着させ、酢酸緩衝液(イミダゾール含む)で溶出して画分を集める工程、(d)前記画分をホスホリルコリン修飾シリカカラムに吸着(燐酸ナトリウム緩衝液を移動相とする)させ、分取する工程、により精製する(ただし(a)〜(d)工程はいずれを先に行ってもよい)。 (9)ペプチド配列 上記(ii)の精製方法により得た画分をSDS−PAGEにかけ、50〜70kDa領域で現出したバンドから得られたペプチド断片が、配列表の配列番号1のアミノ酸配列中、65〜78位、106〜111位、238〜242位、287〜299位、289〜299位、319〜327位、328〜340位、360〜370位、426〜437位、438〜446位、470〜481位、486〜492位における配列と同一のペプチド配列を少なくとも有する。 【0014】 また本発明は、マウスあるいはヒト由来である、上記酵素に関する。 【0015】 また本発明は、遊離脂肪酸とコレステロールまたはその誘導体とを含む系に、上記酵素を添加して、補酵素を用いることなくコレステロールエステルを生成する、コレステロールエステルの製造方法に関する。 【0016】 また本発明は、上記酵素を、生体中の遊離脂肪酸および/またはコレステロールを低減させるために用いる、コレステロールエステル化酵素の使用に関する。 【0017】 また本発明は、上記酵素を用いて遊離脂肪酸および/またはコレステロールを低減させるための薬剤の探索方法に関する。 【0018】 また本発明は、上記酵素を用いて、生体中の遊離脂肪酸および/またはコレステロールを低減させ、しみ、しわを予防・防止する、および/または肌荒れを防止・改善する、皮膚改善方法に関する。 【0019】 また本発明は、上記酵素を用いて、生体中の遊離脂肪酸および/またはコレステロールを低減させるための高脂血症治療薬の探索方法に関する。 【発明の効果】 【0020】 本発明により新規コレステロールエステル化(アシル基転移)酵素が提供される。本酵素を用いて、コレステロールエステルを安価に製造することができ、また体内の遊離脂肪酸やコレステロールの減少を図ることができる。さらには本酵素を用いて、肌のしみ・しわの予防・防止、肌荒れ抑制を図ったり、高脂血症などの治療薬の開発にも有用である。 【発明を実施するための最良の形態】 【0021】 以下、本発明について詳述する。 【0022】 本発明に係る酵素は、CoA、ATP等の補酵素の作用を介することなく、遊離脂肪酸とコレステロールまたはその誘導体とを基質として、コレステロールエステルの生成を触媒する活性を有する。本酵素は脂肪酸−CoA複合体を基質としない。 【0023】 本酵素の起源は、上記活性を有すれば特に限定されるものでないが、動物、特に哺乳類由来のものが好ましい。例えばヒト、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、モルモット、ハムスター、マウスなどが好適なものとして挙げられる。中でも、マウスとヒトがより好ましい。また、用いる器官も、上記活性を有する酵素が得られれば特に制限されるものではない。動物由来の培養細胞から得てもよく、これは初代培養でもよく、あるいは市販の細胞を用いてもよい。また、本酵素の使用に際しては、生体から抽出した状態でも、あるいは適当なカラムクロマトグラフィーなどで精製したものでもよい。あるいは本酵素をコードする遺伝子を取得し、それを適当な宿主、例えば酵母や動物細胞などに組み込んで発現させて得てもよい。 【0024】 本酵素の基質として用いられる遊離脂肪酸としては、飽和および不飽和脂肪酸が挙げられ、例えばミリスチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、パルミトレン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などが挙げられる。中でも炭素数16または18で二重結合が0または1個の脂肪酸であるステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、パルミトレン酸が好ましい。 【0025】 本酵素の基質として用いられるコレステロールまたはその誘導体としては、コレステロールのほか、24(R)−OH−コレステロール、7α−OH−コレステロール、25−OH−コレステロール、27−OH−コレステロール、7−ケトコレステロールなどが挙げられる。 【0026】 内在性の脂肪酸またはコレステロールが多い等の理由で、反応の追跡が困難な場合には、アイソトープや蛍光物質などでラベルした基質を用いるのが好ましい。例えば14Cでラベルした脂肪酸や3Hでラベルしたコレステロールなどが市販されており、好適に使用できる。 【0027】 本酵素による触媒反応はpH3.0〜7.0の範囲で作用し、より好ましくはpH3.0〜6.0であるが、至適作用pHは4.0〜5.0に認められる。また反応温度は4〜60℃であるが、至適温度は20〜50℃に認められる。触媒反応は、適当な緩衝液中に、遊離脂肪酸とコレステロールをエタノール溶液として添加し、5〜10分間程度振盪または静置後、本発明酵素溶液を添加して行う。反応時間は通常1〜60分間程度である。 【0028】 反応生成物の検出については、コレステロールエステルが検出できる方法であれば特に限定されるものでないが、通常、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等が用いられる。この場合、反応液を有機溶媒、例えばクロロホルム:メタノール(2:1)溶液で抽出し、クロマトグラフィー処理を行えばよい。抽出に用いる溶媒量は、反応液の4〜10倍程度が好ましい。 【0029】 薄層クラマトグラフィーのゲルおよび展開溶媒は、脂肪酸、コレステロールまたはその誘導体、およびコレステロールエステルがそれぞれ分離され得るものであれば特に限定されるものでない。ゲルとしては通常、シリカゲル系が用いられ、例えば「シリカゲル60」(メルク社)や「シリカゲル70」(和光純薬社)等の市販品を用いることができる。展開溶媒としてはヘキサン:エーテル:酢酸=8:2:0.1(質量比)、ヘキサン:エーテル:酢酸=8:3:0.1(質量比)の混合溶媒などが好適に用いられる。発色は、ヨウ素などを用いればよい。 【0030】 なお、本酵素のゲル化法により測定した分子量は40kDa〜45kDaである。測定の具体例については後述の実施例7に示す。またSDS−PAGE法により測定した分子量は60kDa〜70kDaである。測定の具体例については後述の実施例9以降に示す。 【0031】 また、本酵素はpH3〜8で保存することが好ましい。 【0032】 また本酵素はEDTA(エチレンジアミン4酢酸)、DTT(ジチオスレイトール)、のいずれによっても活性に影響を受けない。また金属イオンにより活性は影響を受けない。これら活性影響についての具体例については後述の実施例5に示す。 【0033】 また本酵素の精製方法の具体例については、後述の実施例4に示す。 【0034】 本酵素はコレステロールエステルの製造にも応用可能なほか、皮膚に刺激がある遊離脂肪酸の除去にも有用と考えられる。例えば本酵素の活性促進剤を皮膚に塗布することで、肌荒れを防止・改善することが期待できる。また、生体中のコレステロール濃度低下や高脂血症などにも応用可能である。特に既知のACATとは異なる酵素であるため、従来効き目が弱かった患者に対しても、有用な素材が提供できる可能性が期待できる。さらに本酵素の遺伝子を取得することでその発現を高める薬剤を得ることができれば、同様の効果が期待できる。 【0035】 すなわち本酵素を使用することで、CoAやATPなど高価で不安定な補酵素類を必要とせずに生体内の遊離脂肪酸とコレステロール量を制御することが可能となり、本酵素を用いて薬剤の探索(スクリーニング)を行い、遊離脂肪酸やコレステロールに起因するにきびや肌荒れの防止剤の開発が可能となる。例えば、本酵素溶液に種々の植物エキスや化学合成化合物の溶液を加えて反応を行い、コレステロールエステルへの変換反応を高める薬剤をスクリーニングする。これで得たエキスまたは化合物を皮膚外用剤として配合することができる。 【0036】 さらには、コレステロールエステルの安価な製造にも用いることが可能であろう。コレステロールエステルには保湿作用があることが知られており(例えば、服部信明、"Fragrance Journal"、臨時増刊、185-190、2000)、これを配合した外用剤の開発にも適用できる。また、本酵素を用いた薬剤の探索(スクリーニング)による高脂血症治療薬など医薬品への展開も可能であろう。 【0037】 [実施例] 以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、これらの実施例等により本発明の技術的範囲が限定されるものではない。 【実施例1】 【0038】 [マウス皮膚抽出液中の遊離脂肪酸―コレステロールエステル化酵素(Fatty acid:cholesterol acyltransferase;以下「FCAT」と記す)の検出] ヘアレスマウス(HR−1、星野動物)の背中部位から、皮膚をはさみにて切除した。0.5gの皮膚に対し2mlの1mM EDTAを含む50mM酢酸緩衝液(pH5.6)を用いて、ガラスホモジナイザーで1分間破砕した。次いでこれを15ml容チューブに移し、超音波破砕(Astrason sonifier)を行った。遠心(9,000rpm、10分間)後、上清を回収し、この上清に80%飽和になるよう硫安を添加した。4℃で3時間放置後、遠心し、沈澱物を回収した。 【0039】 この沈殿物を2mlの1mM EDTAを含む50mM酢酸緩衝液(pH5.0)に溶解後、200mlの同緩衝液に対し透析を行った(スペクトラ/ポア メンブラン、分画分子量12,000〜14,000)。4℃で一晩放置後、中の溶液を回収し、粗酵素液とした。 【0040】 この粗酵素液を反応液として用いて、下記の実験を行った。 【0041】 まず、反応液量と反応時間を変えて反応させ、酵素反応であるかどうかを調べた。反応は次のように行った。 【0042】 すなわち、50mM酢酸緩衝液(pH4.5)、1mM EDTA、20μgコレステロール(2μlエタノール溶液)、0.5mg/ml BSA(牛血清アルブミン。脂肪酸フリーのもの使用。ナカライテスク社)および200,000cpm(10μM)の[1−14C]オレイン酸(1.2μlエタノール溶液。パーキンエルマー社)を混合して溶液(0.2ml)を調製し、37℃で5分間プレインキュベーションした。 【0043】 この溶液に上記粗酵素液(反応液)を添加して反応させた(37℃、pH4.5)。反応時間、粗酵素液量(反応液量)を種々変えて反応を行った。反応時間を変える場合には、粗酵素液を20μl添加後、5〜30分間の間で変えて反応を行った。また反応液量を変える場合には、粗酵素液量を10〜60μlの間で変え、10分間反応を行った。反応には1.5ml容エッペンドルフチューブを用いた。 【0044】 反応後、0.5mlのクロロホルム:メタノール(2:1)溶液を添加し、よく混和して、基質と生成物を抽出した。これを遠心後、上清を別の容器にあけ、さらに0.5mlのクロロホルム:メタノール(2:1)溶液で抽出した。クロロホルム:メタノール(2:1)溶液を含む有機層をガラスチューブに回収し、一晩放置して溶媒を除去した。これを10μlのクロロホルム:メタノール(2:1)溶液でよく混和した後、薄層クロマトグラフィー法にてアルミ板シリカプレート(アルドリッチ社)上にスポットした。展開溶媒は、ヘキサン:エーテル:酢酸(8:2:0.1)(質量比)の混合溶媒を用いた。 【0045】 対照として、ラベルしていないオレイン酸コレステロールとオレイン酸を同時にスポットした。 【0046】 展開後、ヨウ素噴霧によりスポットを発色させて同定を行い、それぞれスポット部分をはさみで切り取りガラス容器に入れ、液体シンチレータ5mlを添加してシンチレーションカウンター(ベックマン社「LS6000TA」)にて5分間カウントして、下記式によりコレステロールエステル変換率を算出した。 【0047】
【0048】 酵素無添加の試料の変換率(%)を差し引き、真の変換値を求めた。結果を図1a、1bに示す。 【0049】 図1aは、マウス皮膚由来FCAT(硫安・透析試料)の反応液量とコレステロールエステル変換率の関係(pH4.5、37℃、10分間)を示すグラフである。横軸は反応液量(μl)を、縦軸はコレステロールエステル変換率(%)を、それぞれ示す。図1bは、マウス皮膚由来FCAT(硫安・透析試料)の反応時間とコレステロールエステル変換率の関係(pH4.5、37℃)を示すグラフである。横軸は反応時間(分)を、縦軸はコレステロールエステル変換率(%)を、それぞれ示す。図1aの結果から明らかなように、粗酵素液量(反応液量)がふえるにつれ、コレステロールエステル変換率が上昇した。また図1bの結果から明らかなように、反応時間がふえるにつれ、コレステロールエステル変換率が上昇した。 【0050】 なお、別途上記粗酵素液を80℃、10分間処理して熱変性させた後、37℃で10分間反応させたが、コレステロールエステル変換率は上昇しなかった(<0.02%)ことから、活性本体はタンパク質であろうと推定できた。 【0051】 また、上記マウス皮膚由来FCAT(硫安・透析試料)を用いて、反応時間を10分間、pH4.5として、反応の温度依存性を調べたところ、図2に示すように、37℃で高いコレステロールエステル変換率が得られることが明らかになった。このことから、本反応は酵素によることがより確実となった。 【実施例2】 【0052】 [ヒト角層抽出液中のFCATの検出] ヒト背部および上腕より、日焼け角層を採取した。この角層0.3gに1mM EDTAを含む50mM酢酸緩衝液(pH5.6)1.0mlを加え、実施例1と同様に、ガラスホモジナイザーおよび超音波破砕を行った。遠心分離後、その上清をとり粗酵素液とした。該粗酵素液20μlを用いて、実施例1と同様にして、ただしpHを変えて、37℃、10分間反応し、コレステロールエステル変換率を求めた。そのときのpH依存性を示すグラフを図3に示す。図3から明らかなようにpH4〜5で活性が最大となった。 【実施例3】 【0053】 [FCAT精製用コレステロールセファロースゲルの調製] 福山と三宅らの方法("J. Biochem.", 85, 1183-1193, 1979)に従い、コレステロールセファロースゲルを調製した。EAHセファロース4Bゲル(アマシャムバイオサイエンス社)5mlを、0.5M NaCl溶液400mlでガラス濾過器を用いて洗浄した。一方、コレステロールヘミスクシネート(シグマ社)25mgを12.5mlのジメチルホルムアミドに溶解し、HClでpHを4.7に調整した。ここに0.75mlの MilliQ水に溶解したWSC(水溶性カルボジイミド)250mgと上述のゲルを添加し(50ml容チューブ内)、一晩振盪反応した。反応後、50%ジメチルホルムアミド溶液120mlで洗浄しゲルを回収した。 【実施例4】 【0054】 [マウス皮膚抽出液中のFCATの部分精製] マウス皮膚2.0gから、実施例1記載の方法に従いガラスホモジナイザーおよび超音波破砕を行い、粗抽出液7.8mlを得た。 【0055】 これに30%飽和になるよう硫安を添加し、4℃で2時間放置した。次いで遠心により上清(8.1ml)を回収した。この上清に80%飽和になるよう硫安を添加し、4℃で3時間放置した。遠心により沈澱を回収後、4mlの50mM酢酸緩衝液(pH5.0)に溶解した。これを500mlの同緩衝液に一晩透析(スペクトラ/ポア メンブラン)した。 【0056】 透析チューブから酵素液を回収後、実施例3にて調製したコレステロールセファロースカラム(あらかじめ20mM酢酸緩衝液、pH5.0で平衡化、ゲル2ml)に吸着させた。40mlの同緩衝液で洗浄後、12mlの1M NaClを含む同緩衝液で溶出した。 【0057】 画分を集め、「セントリプラス−10」(分画分子量10000、ミリポア)で3mlまで濃縮した。これを400mlの5mM NaClを含む20mM酢酸緩衝液(pH5.0)に一晩透析し、脱塩した。 【0058】 上記処理後の液を、すでに透析緩衝液で平衡化したヘパリンセファロースCL−6B(ゲル2ml、アマシャムバイオサイエンス社)に添加した。24mlの平衡化用緩衝液で洗浄し、FCAT画分を回収し、「セントリプラス−10」で濃縮した(1.3ml)。精製ステップを表1に示す。なおタンパク質量はBio Rad社のキットにより、BSA(牛血清アルブミン)を用いた検量線で換算した。 【0059】 【表1】
【0060】 表1に示す結果から明らかなように、3つの工程により約20倍にFCATを精製した。 【実施例5】 【0061】 [マウス皮膚由来部分精製FCATの性質] 実施例4に従って部分精製したFCATの性質を調べた。1回の反応には0.83(pmol/分)の活性分の酵素(10μl)を用い、n=2の平均値で示した。 【0062】 まず、pH依存性を調べた。結果を図4に示す。同図中、縦軸は相対活性(%)を、横軸はpHを、それぞれ示す。酢酸緩衝液およびヘペス緩衝液で行った。ヒト角層由来FCATと同様に、至適pHは4〜5付近であった。また熱(80℃、10分間処理)で失活した。 【0063】 続いて、CoAとATP添加効果を調べた(pH4.5、37℃、20分間)。結果を図5に示す。ATPの添加量は2.5mM、CoAの添加量は0.25mMとし、同時に4mM MgCl2を加えたが、いずれの添加でもコレステロールエステル変換率はほとんど変わらなかった。CoA、ATPおよびMgはアシルCoAシンセターゼの補因子であることから、本酵素試料中にはアシルCoAを経由してコレステロールエステルを生成する活性は存在しないと考えられた。 【0064】 また、ACAT阻害剤として報告のあるグリベンクラミド(Ohgamiら、"Biochem. Biophys. Res. Commun.", 277, 417-422, 2000)を添加して、阻害の有無を調べた(pH4.5、37℃、20分間)。結果を図6に示す。同図から明らかなように、マウス皮膚由来部分精製FCATはグリベンクラミドの添加により残存活性が減少することが判明した。 【0065】 さらに、EDTA(エチレンジアミン4酢酸)、DTT(ジチオスレイトール)および金属イオン添加の影響を調べた(pH4.5、37℃、20分間)。結果を図7に示す。同図から明らかなように、EDTA、DTTによる阻害はみられず、金属イオン添加効果もほとんどないことから、活性に金属イオンは関与しないことが推察された。ACATはDTTにより活性が高まるとの報告がある(生物薬科学実験講座3「脂質 III」、井上圭三、中川靖一編、p162、廣川書店、2002年)ので、FCATはACATとは異なる酵素であることが示された。 【0066】 また、オレイン酸の代わりに[1−14C]パルミチン酸と[1−14C]リノレン酸(いずれもパーキンエルマー社)を用いて、基質特異性を調べた(pH4.5、37℃、20分間)。結果を図8に示す。マウスACAT−1ではオレオイル−CoA>パルミトイル−CoA>リノレオイル−CoAであると報告されている(Casesら、"J. Biol. Chem.",273,26755−26764,1998)が、図8から明らかなように、脂肪酸部分で考えると、FCATではオレイン酸>パルミチン酸>リノレン酸(多価二重結合)であり、同様の傾向であると考えられる。 【実施例6】 【0067】 [マウス皮膚由来部分精製FCAT画分を用いてのACAT活性測定] 部分精製FCAT画分にはACATが含まれないことを直接確認するために、ACAT活性の測定を行った。 【0068】 試料として、実施例1で得たマウス皮膚由来FCAT(硫安・透析試料)、実施例4で得たマウス皮膚由来部分精製FCAT画分を用いた。またACATの試料(ポジコン)としては、マウス肝臓からの抽出液(マウス肝臓80%硫安・透析試料)を用いた。測定は常法(例えば、Uelmenら、"J. Biol. Chem.", 270, 26192-26201, 1995)に従った。 【0069】 すなわち、100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)中、[1−14C]オレオイル−CoA(80,000cpm、8μM、アマシャムバイオサイエンス社)、1mM EDTA、20μgコレステロール、0.5mg/ml BSA(脂肪酸フリー)を添加し、37℃で5分間放置した。 【0070】 次いで試験溶液(酵素溶液)を添加し、37℃で20分間反応させた後、有機溶媒(クロロホルム:メタノール=2:1)0.5mlを添加し、反応停止と同時に、生成物であるコレステロールエステルの抽出を行った。抽出後の水層にさらに0.5mlの溶媒を添加し、再度抽出した。水層のカウントを未反応の基質量(cpm)とした。一方、有機層を回収し、乾固後、10μlのクロロホルム:メタノール(2:1)溶液に溶解し、薄層シリカゲルにスポットした。乾燥後、ヘキサン:エーテル:酢酸=8:2:0.1混合溶液で展開した後、コレステロールエステル相当のスポットを回収してカウントを測定し、それぞれのコレステロールエステル変換率を調べた。結果を表2に示す。 【0071】 【表2】
【0072】 表2の結果から明らかなように、マウス肝臓80%硫安・透析試料(ACATの試料)ではACAT活性(コレステロールエステル変換)がみられるのに対し、マウス皮膚硫安・透析試料および部分精製品ではACAT活性(コレステロールエステル変換)は非常に低いことが明らかになった。これより、ACATとFCATは異なる酵素であると判断できる。 【実施例7】 【0073】 [マウス皮膚由来FCATの分子量の測定] 「スーパーロース12カラム」(1.0×30cm、アマシャムバイオサイエンス社)を用いたゲル(アガロース担体ゲル)濾過法により、マウスFCATの分子量を測定した。緩衝液は、0.15M NaClを含む20mM酢酸緩衝液(pH5.0)を用い、流速0.5ml/分で行った。分子量マーカーおよびFCAT活性の溶出位置から、分子量は40kDa〜45kDaと推定された。これはマウスACATの分子量である64kDa(Uelmenら、"J. Biol. Chem.", 270, 26192-26201, 1995―ただしcDNAからの推定値)よりも小さい値である。 【実施例8】 【0074】 [ヒト成人乳房由来角化細胞およびヒト成人皮膚由来線維芽細胞から調製した抽出液中のFCAT活性の検出] 標記培養細胞はクラボウ社から購入した。角化細胞については凍結細胞(5×105個)を10mlのHuMedia KG2培地(クラボウ社)に懸濁し、75cm2のフラスコ1本に植えた。1、3、5日後に培地交換し、7日後にトリプシン/EDTA溶液で処理後、遠心により細胞を回収した(1.9×106個)。10mlのPBS(phosphate-buffered saline)で2回洗浄後、7mlのPBSに懸濁した。 【0075】 また、線維芽細胞については凍結細胞を10mlのDMEM[10%FBS(fetal bovine serum)を含む]培地(インビトロジェン社)に懸濁し、75cm2のフラスコ1本に植えた。1、3、5日後に培地交換し、7日後にトリプシン/EDTA溶液で処理後、遠心により細胞を回収した(3.6×106個)。これもPBSで2回洗浄後8mlのPBSに懸濁した。 【0076】 両者ともに超音波破砕し、そのままこの液を抽出液とした。活性およびタンパク質濃度の測定法は、それぞれ実施例1、実施例4に記載の方法で行った。またACAT活性についても、実施例6に従って測定した。結果を表3に示す。比較として、マウス皮膚抽出液の活性も示す。 【0077】 【表3】
【0078】 表3の結果から明らかなように、ACATは両者で確認されたのに対し、FCAT活性は角化細胞抽出液のみで確認された。このように、ACATとは組織による活性の様式が異なることが示された。 【実施例9】 【0079】 [マウス皮膚由来FCATの同定] 実施例4記載の方法に準じて、マウス皮膚4.0gから、酵素粗抽出液、硫安・透析(30%飽和、80%飽和)、コレステロールセファロースカラム、ヘパリンファロースカラムのステップを経て、FCATを部分精製した。この部分精製画分からFCATのさらなる精製・同定を行うこととした。 【0080】 まず、0.1M CuSO4溶液を添加しCuをリガンドとしたキレーティングセファロースFFカラム(アマシャムバイオサイエンス社)を調製した。次いで部分精製酵素に、0.5M 濃度になるよう2M NaClを添加し、これを、0.5M NaClを含む20mM酢酸緩衝液(pH5.0)で平衡化したキレーティングセファロースFFカラム(3mlゲル)に添加した。5mMのイミダゾールを含む酢酸緩衝液で洗浄後、10mMイミダゾールを含む酢酸緩衝液でFCATの溶出を行った。 【0081】 この画分を集め、「セントリプラス−30」および「セントリカットミニ−30」(ともにアミコン)で210μlにまで濃縮した。ここまでの各精製ステップでの試料を、10%アクリルアミド濃度のゲル(テスコ)を用いたSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)にて解析した。結果を図9に示す。染色は銀染色キット(和光純薬)を用いた。 【0082】 図9のレーン5に示すように、まだバンドが何本か存在するため、さらに精製を行うこととした。種々のカラムを検討した結果、ホスホリルコリン修飾シリカカラム(4.6×250mm、資生堂)で分画することにより、溶出ピークが数本に分けられることが判明した(図10参照)ため、このカラムを用いることとした。 【0083】 このホスホリルコリン修飾シリカカラムは、ホスホリルコリン基が担体(球状多孔質シリカゲル等)表面に直接的に化学結合しているクロマトグラフィー用充填剤をGFC用カラムに使用したもので、タンパク質やポリペプチドの吸着が極めて少ない上に高い分離能力を発揮する。なお上記クロマトグラフィー用充填剤は本出願人により従前に出願されている(特願2003−052305号明細書)。 【0084】 このホスホリルコリン修飾シリカカラム(以下、「PCカラム」とも記す)には、上記キレーティングセファロースカラムにより得た酵素画分210μlのうち、76μlを用いた。0.5M NaClを含む50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.3)を移動相とし、上記した76μl分を13回に分けて試料を添加して、ピーク部分を分取した。 【0085】 それぞれの画分を集め、再びSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を行った結果(銀染色)を示す(図11)。同図において、FCAT活性は画分1(レーン3)に存在しており、画分2(レーン4)の65kDaの主要なタンパク質にはFCAT活性は存在しないことが判明した。そこで、この画分1(レーン3)を集めて「セントリカットミニ−30」で濃縮および脱塩を行った。 【0086】 【表4】
【0087】 表4に示すように、PCシリカカラム処理によって比活性はかなり高まったが、図11のレーン3に示すとおり、まだ70kDa〜50kDaまでバンドが少なくとも4本あることが判明した。FCATのタンパク質がどのバンドに相当するのか、さらに精製を進めるため種々のカラムを検討したが、イオン交換カラムやゲル濾過カラムではこれ以上の分離は非常に困難であった。そこで、タンパク質の同定は、試料を電気泳動の後、タンパク質のバンドを切り取り、ゲル内でトリプシン消化後、抽出し、LC−MSで断片を分析し、それをデータベース上で検索して、同定することとした。 【0088】 まず試料[70kDa、62kDa、55kDa、50kDaの4本のバンド(図11のレーン3)、およびPCカラムでFCATとは異なる画分に含まれる65kDaの計5本]をヨード酢酸でカルボキシメチル化した後、SDSアクリルアミドゲル(10%アクリルアミド)にのせた。ゲルおよびマーカーは上記と同じものを用いた。電気泳動後 MilliQ水で3回洗浄し、シンプリーブルーステイン(invitrogen)による染色を行った。切り取ったバンドをアセトニトリルで洗浄後、炭酸水素アンモニウム中、37℃で一晩トリプシン(アマシャムバイオサイエンス社)消化を行った。ギ酸溶液を添加して反応停止後、充分混合し、遠心した後、上清を回収した。残りのゲルにアセトニトリルを30%含む0.1%ギ酸溶液、次いで、アセトニトリルを60%含む0.1%ギ酸液を添加・混和してペプチドを抽出し、遠心後、上清を回収して、LC−MSによる分析を行った。 【0089】 検出されたペプチド断片の配列を、NCBIのマウスタンパク質データベースで検索し、一致する配列の多い順番に並べて、可能性の高いものを調べた。 【0090】 その結果、70kDaのバンドはエステラーゼ1という酵素に最も相同性が高いという結果が得られ、検索結果の2位、3位はケラチンであった。62kDaのバンドは検出されたペプチドが少なくて同定できず、55kDaと50kDaのバンドはともにセリンプロテアーゼインヒビターであった。また、65kDaのバンドはアルブミンが第一候補となった。酵素が候補になったのは70kDaのバンドのみであり、しかも一致する配列が20%を超えており、70kDaのバンドはエステラーゼ1である可能性が極めて高いと考えられた。 【0091】 エステラーゼ1のアミノ酸配列は、配列表の配列番号1に示される配列である。上記70kDaのバンドの分析で得られたペプチド断片の配列の中で、エステラーゼ1のアミノ酸配列(配列表の配列番号1のアミノ酸配列)と一致する配列をもつペプチド断片は以下のとおりである。 【0092】 断片1: 配列表の配列番号1のアミノ酸番号65位(Phe)〜78位(Lys)までのアミノ酸配列を示すペプチド断片。 【0093】 断片2: 配列表の配列番号1のアミノ酸番号106位(Glu)〜111位(Lys)までのアミノ酸配列を示すペプチド断片。 【0094】 断片3: 配列表の配列番号1のアミノ酸番号238位(Asp)〜242位(Arg)までのアミノ酸配列を示すペプチド断片。 【0095】 断片4: 配列表の配列番号1のアミノ酸番号287位(Gln)〜299位(Lys)までのアミノ酸配列を示すペプチド断片。 【0096】 断片5: 配列表の配列番号1のアミノ酸番号289位(Thr)〜299位(Lys)までのアミノ酸配列を示すペプチド断片。 【0097】 断片6: 配列表の配列番号1のアミノ酸番号319位(Ala)〜327位(Lys)までのアミノ酸配列を示すペプチド断片。 【0098】 断片7: 配列表の配列番号1のアミノ酸番号328位(Ser)〜340位(Lys)までのアミノ酸配列を示すペプチド断片。 【0099】 断片8: 配列表の配列番号1のアミノ酸番号360位(Met)〜370位(Arg)までのアミノ酸配列を示すペプチド断片。 【0100】 断片9: 配列表の配列番号1のアミノ酸番号426位(Asp)〜437位(Arg)までのアミノ酸配列を示すペプチド断片。 【0101】 断片10: 配列表の配列番号1のアミノ酸番号438位(Tyr)〜446位(Lys)までのアミノ酸配列を示すペプチド断片。 【0102】 断片11: 配列表の配列番号1のアミノ酸番号470位(Glu)〜481位(Lys)までのアミノ酸配列を示すペプチド断片。 【0103】 断片12: 配列表の配列番号1のアミノ酸番号486位(Phe)〜492位(Arg)までのアミノ酸配列を示すペプチド断片。 【0104】 上記断片1〜12のMH+(陽イオン化した時の分子量)、分子量全体に占める当該ペプチド断片の質量%、AA%(タンパク質全体のアミノ酸数に占める当該ペプチド断片のアミノ酸数)は、下記表5に示すとおりである。なお70kDaのバンドとの対比(相同性)において、エステラーゼ1以外の候補はケラチンであり、酵素はACATやLCATを含め、全く出てこなかった。 【0105】 【表5】
【0106】 エステラーゼ1はマウスの主要なエステラーゼ(EC.3.1.1.1)として知られ、554アミノ酸からなる糖タンパク質(65kDa)である(例えばT.H.Finlay et al., J. Biol. Chem., 257, 10914-10919, 1982; S.S. Kadner, et al., J. Biol. Chem., 260, 15604-15609, 1985; T.L. Genetta et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 151, 1364-1370, 1988など)。血中および肝臓などでの存在が知られており、基質特異性も広くエストロゲンの代謝にも関わっていることが判明している。しかしながら、皮膚での存在は知られておらず、今回我々が見出した、コレステロールと遊離脂肪酸のエステル形成に関わることは知られていない。 【0107】 一方、マウスでのコレステロールエステルの分解は、コレステロールエステラーゼ(EC.3.1.1.13)によって触媒されることが明らかにされている。このコレステロールエステラーゼは、エステラーゼ1とは異なり、593アミノ酸からなり(K. Mackay et al., Gene, 165, 255-259 1995)、おもに膵臓で働くこと、胆汁で活性化されるいわゆるbile salt-stimulated lipaseといわれる酵素(リパーゼ)と同一であることも判明している(J. Nilsson et al., Eur. J. Biochem., 192, 543-550, 1990)。当該リパーゼは、in vitroでコレステロールと遊離脂肪酸からコレステロールエステルの合成を触媒することが知られている(E.M. Kyger et al., Biochemistry, 29, 3853-3858, 1990)。 【0108】 今回、皮膚からの粗酵素抽出液精製過程で活性画分が分離されることはなかったので、皮膚でのコレステロールエステル生成には、コレステロールエステラーゼではなく、FCATと極めて相同性が高いエステラーゼ1が主要な働きをしていると考えられる。 【実施例10】 【0109】 [精製画分を用いた合成基質分解活性の確認] エステラーゼ1に関しては、合成ペプチド基質の分解活性を有することが報告されている(S.S. Kandner et al., J. Bio. Chem., 260, 15604-15609, 1985)ことから、同様の活性を有するかどうかを調べた。上記文献に記載されているβ−アラニン−ニトロフェニルエステルは市販品が製造中止となっていたため、類似のBoc−アラニン−ニトロフェニルエステル(シグマアルドリッチ)を用いた。 【0110】 すなわち、20mM トリス塩酸緩衝液(pH7.5)存在下、30mMになるよう50%ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した基質溶液を1/100量(終濃度0.3mM)添加した後、25℃で5分間保温した。その後、本酵素溶液20μlを添加し(計3.0ml)、25℃で活性を測定した。測定装置はJASCO V−560分光光度計を用いた。ニトロフェニル基の遊離に伴う吸光度の増加を経時で観察した(測定波長405nm)。結果を図12に示す。同図において、縦軸は吸光度(Abs)を、横軸は時間(秒)を示す。その結果、上記精製酵素(PCカラムの画分1。図11の「レーン3」)添加により、吸光度の増加が確認された(図12中、「PC−1」で示すグラフ)。一方、FCAT活性の少ない画分2(PCカラム。図11の「レーン4」)では吸光度の増加は少なかった(図12中、「PC−2」で示すグラフ)。 【実施例11】 【0111】 [マウス背部への紫外線照射によるFCAT活性、並びにコレステロールエステル化比率への影響] 紫外線(UVB)照射によりシワ形成を誘導したマウスのFCAT活性を測定し、UV未照射のものとの比較を行った。すなわち、SKH−1ヘアレスマウス(日本チャールス・リバー)背部に10週間紫外線を1日あたり2〜8分間照射し(紫外線照射装置: DERMARAY M−DMR−100、ランプ型番:FL20S−E−30/DMR 7本並列)、シワを形成させた。8週間経過後、マウス(5個体)背部の皮膚を切除し、冷凍保存した。コントロール(対照群)としては、UV未照射で同じ生育条件のもの(4個体)を用いた。 【0112】 保存した皮膚0.5gをはさみで切除・細断後、1mM EDTAを含む50mM酢酸緩衝液(pH5.6)2.0mlを添加し、ガラスホモジナイザーで破砕した。15ml容チューブに移し、さらに超音波破砕をした後、遠心分離(9000rpm、15分間)し、上清を回収して、活性測定を行った。反応条件は実施例1と同様に行った。その結果、紫外線未照射群のFCAT比活性の平均値は38.5(pmole/min・mg)、照射群のFCAT比活性の平均値は32.4(pmole/min・mg)であった。この結果から、紫外線照射によりFCAT活性は低下すると考えられる。 【0113】 さらに、皮膚中の遊離コレステロールとエステル化されたコレステロールの比率を調べ、定量した。まず、皮膚0.25gを切除し、細断後、2mlのヘキサンに一晩浸漬してコレステロール類を抽出した。皮膚残渣を除去後、10ml容ガラスチューブ内で風乾によりヘキサンを除いた。100μlのエタノールに溶解後、遊離コレステロールおよび総コレステロールを、それぞれデタミナーL FCキットおよびデタミナーTC−555キット(以上、いずれも協和メデックス社製)を用いて定量した。総コレステロールから遊離コレステロールを除いた値をコレステロールエステルとした。 【0114】 その結果、紫外線未照射群のコレステロールエステル化比率は56%、照射群の比率は53%であり、UV照射によりFCAT活性とともに、エステル化の比率も低下していることが明らかになった。ヒト背部への紫外線照射により、皮膚中のコレステロールのエステル化比率が低下するという報告がある(M. Gloor et al., Dermatologia, 154, 5-13, 1977)が、それと一致するデータである。このことから、肌状態が悪化するとFCAT活性並びに皮膚でのコレステロールのエステル化比率が低下することが関連付けられた。 【実施例12】 【0115】 [加齢および紫外線照射によるエステラーゼ1発現量への影響] 生育8週、20週、40週、60週、87週齢のHR−1マウス(20週齢のみ2個体、他は3個体)の皮膚を切除し、RNAを調製した。これを用いてマイクロアレイ(アジレント社)でエステラーゼ1の発現量を解析した。結果を表6に示す。なお表6では8週齢のものを1.0として表した。 【0116】 【表6】
【0117】 表6に示す結果から明らかなように、週齢を重ねるごとにエステラーゼ1の発現量は減少する傾向がみられた。 【0118】 一方、肝臓や膵臓等でコレステロールの代謝に関わっているとされる酵素であるコレステロールエステラーゼは、皮膚ではほとんど発現がみられなかった。 【0119】 また、同様の実験をしみモデル[F1マウス、HR−1(雌)×Hr/De(雄)、星野動物]において行った。3個体について、背部の半分に紫外線を照射、残りの半分は未照射という条件にし、それぞれの背部の皮膚を切除してRNAを調製後、エステラーゼ1の発現量をマイクロアレイで解析した。その結果、エステラーゼ1の発現量は未照射部分を1.0とすると照射部分では0.82と低下していることが判明した。このことは、FCATとエステラーゼ1が同一と仮定すると、実施例11で示した、紫外線照射により皮膚中のFCAT活性が低下することと一致していた。 【実施例13】 【0120】 [コレステロールエステルの塗布効果] コレステロールエステルによる肌バリアー機能による向上を、水分蒸散量(TEWL値)と水分保持量を指標として観察した。1質量%オレイン酸、1質量%コレステロール、および1質量%オレイン酸コレステロール(和光純薬、いずれもエタノール溶液)を、それぞれ100μlずつを丸型布片に染み込ませたパッチテスト用絆創膏(鳥居薬品)を、男性パネル前腕部1名に貼布し、2時間閉塞を行った。6日間継続後、その翌日に「TEWA meter TM210」にて測定を行った。結果を表7に示す。 【0121】 【表7】
【0122】
表7に示す結果から明らかなように、オレイン酸やコレステロールに比較して、オレイン酸コレステロールではTEWL値の上昇が抑制されていた。 【0123】 コレステロールエステルは、その材料であるコレステロールと脂肪酸に比較して疎水性が高く、皮膚のバリアーを高め水分蒸散量を抑える効果をもつ。このことから、コレステロールエステル自体を化粧品に配合することにより、そのバリアー機能を発揮させることも可能と想定される一方、その疎水性の高さゆえ、配合に非常な制限がかかる。特に化粧水など水分含量の高いものには配合がかなり難しい。そのことからも、皮膚中のコレステロールエステルの合成に関わるFCATの活性を高めることによって、コレステロールエステル量を上げることは、非常に意義深いことである。 【図面の簡単な説明】 【0124】 【図1a】マウス皮膚由来FCAT(硫安・透析試料)の反応液量とコレステロールエステル変換率との関係を示すグラフである。 【図1b】マウス皮膚由来FCAT(硫安・透析試料)の反応時間とコレステロールエステル変換率との関係を示すグラフである。 【図2】マウス皮膚由来FCAT(硫安・透析試料)の反応温度とコレステロールエステル変換率との関係を示すグラフである。 【図3】ヒト角層由来FCATのpH依存性を示すグラフである。 【図4】マウス皮膚由来部分精製FCATのpH依存性を示すグラフである。 【図5】マウス皮膚由来部分精製FCATへのCoA、ATPの添加の影響を示すグラフである。 【図6】マウス皮膚由来部分精製FCATへのグリベンクラミド添加の影響を示すグラフである。 【図7】マウス皮膚由来部分精製FCATに対するEDTA、DTTおよび金属イオン添加の影響を示すグラフである。 【図8】マウス皮膚由来部分精製FCATの遊離脂肪酸の基質特異性を示すグラフである。 【図9】マウス皮膚由来粗酵素液を用いて、キレーティングセファロースカラムによる分画までの各精製段階における試料の電気泳動図(SDS−PAGE)を示す写真(図面代用写真)である。 【図10】ホスホリルコリン修飾シリカカラム(PCカラム)での溶出パターン(210nm波長で測定)を示すグラフである。 【図11】マウス皮膚由来粗酵素液を用いてホスホリルコリン(PC)シリカカラムによる分画までの各精製段階における試料の電気泳動図(SDS−PAGE)を示す写真(図面代用写真)である。 【図12】ホスホリルコリン修飾シリカカラム(PCカラム)精製試料によるBoc−アラニン−ニトロフェニルエステル分解活性を示すグラフである。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000001959 【氏名又は名称】株式会社資生堂 【住所又は居所】東京都中央区銀座7丁目5番5号
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| 【出願日】 |
平成16年4月22日(2004.4.22) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100098800 【弁理士】 【氏名又は名称】長谷川 洋子
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| 【公開番号】 |
特開2004−337165(P2004−337165A) |
| 【公開日】 |
平成16年12月2日(2004.12.2) |
| 【出願番号】 |
特願2004−127437(P2004−127437) |
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