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【発明の名称】 高ヤング率高疲労強度鋼の加工方法
【発明者】 【氏名】菅原 毅巳
【住所又は居所】埼玉県和光市中央一丁目4番1号 株式会社本田技術研究所内
【氏名】飯田 善次
【住所又は居所】埼玉県和光市中央一丁目4番1号 株式会社本田技術研究所内
【氏名】高田 健太郎
【住所又は居所】埼玉県和光市中央一丁目4番1号 株式会社本田技術研究所内
【課題】高ヤング率高疲労強度鋼の基地組織中のCと鍛造金型の材料との反応を抑制して金型寿命をに向上させることができる高ヤング率高疲労強度鋼の加工方法を提供する。

【解決手段】Cを1.5〜2.5重量%と、W、V等の硬質炭化物形成元素とを含む鉄基合金を鍛造金型によって熱間鍛造する高ヤング率高疲労強度鋼の加工方法であって、鍛造金型の少なくとも型彫り面に、鉄基合金中のCと鍛造金型の材料との反応を阻害する被覆層を被覆固着しまたは鍛造金型の表層部に形成した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cを1.5〜2.5重量%と、W、V等の硬質炭化物形成元素とを含む鉄基合金を鍛造金型によって熱間鍛造する高ヤング率高疲労強度鋼の加工方法において、上記鍛造金型の少なくとも型彫り面に、上記鉄基合金中のCと上記鍛造金型の材料との反応を阻害する被覆層を被覆固着しまたは上記鍛造金型の表層部に形成したことを特徴とする高ヤング率高疲労強度鋼の加工方法。
【請求項2】
前記被覆層は、熱間鍛造温度で上記鉄基合金に含まれるCと炭化物を形成しないかまたは炭化物を形成し難い材料であることを特徴とする請求項1に記載の高ヤング率高疲労強度鋼の加工方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高ヤング率高疲労強度鋼の加工方法に係り、特に、そのような材料を熱間鍛造するときの鍛造金型の寿命を向上させる技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
本出願人は、先に、高いヤング率を示すことにより剛性の向上が図られ、かつ、軽量コンパクト化に好適な剛性の向上が図られる高ヤング率高疲労強度鋼を提案した(特許文献1)。この鉄基合金は、C:1.5〜2.5wt%、Ni:0.25〜4.75wt%、および適量のWとVを含むもので、MC型炭化物を析出させることにより高ヤング率高疲労強度を達成したものである。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−3272524号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記高ヤング率高疲労強度鋼を用いて熱間鍛造を行ったところ、鍛造金型の寿命が短くなることが判明した。したがって、本発明は、高ヤング率高疲労強度鋼を用いて熱間鍛造を行うに際して、鍛造金型の寿命を向上させることができる高ヤング率高疲労強度鋼の加工方法を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、金型寿命の低下の原因として鉄基合金の高い炭素含有量に着目した。1.5以上の炭素含有量を有する鉄基合金は、熱間においても脆性が残っていることから、一般には熱間鍛造されることはまずありえない。しかしながら、上記高ヤング率高疲労強度鋼は、高ヤング率と高疲労強度を満足させるために固溶析出型の炭化物を用いている。このため、常温では炭素は殆どが炭化物となって基地組織は亜共析組織となる一方、熱間では、炭化物(W,V系)は基地組織に固溶され、基地組織は高炭素組成となる。
【0006】
本発明者等の検討によれば、熱間で炭化物が被鍛造材の基地組織に固溶される結果、熱間加工性が向上する反面、基地組織の炭素が鍛造金型の材料と反応して脆弱なセメンタイトを析出する結果、鍛造金型の型彫り面に焼付きが生じることが判明した。
【0007】
本発明の高ヤング率高疲労強度鋼の加工方法は上記知見に基づいてなされたもので、Cを1.5〜2.5重量%と、W、V等の硬質炭化物形成元素とを含む鉄基合金を鍛造金型によって熱間鍛造する高ヤング率高疲労強度鋼の加工方法において、鍛造金型の少なくとも型彫り面に、鉄基合金中のCと鍛造金型の材料との反応を阻害する被覆層を被覆固着しまたは鍛造金型の表層部に形成したことを特徴としている。
【0008】
本発明によれば、鍛造金型の型彫り面に被覆層が設けられているから、高ヤング率高疲労強度鋼の基地組織中のCと鍛造金型の材料との反応が抑制される。したがって、高ヤング率高疲労強度鋼の熱間加工性が良好なことと相俟って金型寿命を大幅に向上させることができる。
【0009】
なお、従来より熱間鍛造では鍛造金型の型彫り面に離型剤を吹き付けることが行われている。しかしながら、離型剤では、鍛造時の型彫り面と材料との摺接によって離型剤の膜が破れ、その結果、材料と型彫り面との接触は避けることができず、材料中のCと鍛造金型の材料との反応を抑制することはできない。本発明の被覆層は、離型剤のような一時的な被覆とは異なり、型彫り面に被覆固着されるか、または、鍛造金型の表層部に形成されることにより、早期に剥離または摩滅することなく長期に亘って型彫り面に存在するものをいう。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態について被覆層の構成を主体に説明する。
被覆層は、熱間鍛造温度で鉄基合金に含まれるCと炭化物を形成しないかまたは炭化物を形成し難い材料であることが望ましい。この態様によれば、被覆層自体の耐久性を向上させることができるので、鍛造金型の寿命を大幅に向上させることができる。
【0011】
1.Cと炭化物を形成しない材料
(1)被覆により固着するもの
Cと炭化物を形成しない材料としては、TiC、NbC、ZrC、TaC、BCなどの炭化物、Al、SiO、MgOなどの酸化物、TiN、BN、ZrNなどの窒化物がある。これらの材料の粉末をバインダーや溶剤と混合してペースト状またはスラリー状とし、それを鍛造金型の型彫り面に塗布した後に焼付け乾燥して固着することができる。また、その際には、型彫り面に微細な凹凸を形成しておき、アンカー効果によって固着強度を高めることもできる。あるいは、ニッケルなどのメッキ浴に上記材料の粒子を分散させ、その粒子をメッキ材とともに鍛造金型に固着することもできる。
【0012】
上記した材料は、溶射によって型彫り面に吹き付けて固着することもできる。また、真空蒸着やイオンプレーティングなどの手段を用いることもできる。あるいは、上記材料をプレート状に形成し、複数のプレートを型彫り面に接着やボルト締結等の手段で被覆固着することもできる。
【0013】
Cと炭化物を形成しない他の材料としては、肉盛り用合金を用いることができる。肉盛り用合金は、金型などの摩耗した部分を肉盛りして補修するために用いられるもので、Co基合金とNi基合金が提供されている。Co基合金としては、Co−Cr−Fe合金、Ni基合金としてはNi−Cr合金があり、それらの成分を表1に示す。
【0014】
【表1】


【0015】
上記のような合金は、粉末やワイヤー等の形態で溶接により肉盛りに供される。溶接方法としては、ガス溶接、レーザ溶接、アーク溶接、エレクトロスラグ溶接、プラズマアーク溶接などを用いることができる。
【0016】
(2)鍛造金型の表層部に形成するもの
被覆層は、各種拡散浸透処理によって型彫り面の表層部に形成することができる。たとえば、Al、Ti、Si、Bを拡散させるアルミナイジング、チタナイジング、シリコナイジング、ボライディングなどがあり、このような拡散浸透処理により、例えばAlが鍛造金型の表層部に浸透し、表層部に固溶しているC、O、N等と反応する。そして、表層部にCと反応しない炭化物等が分散し、鍛造金型の深部へのCの浸透を阻止する。
【0017】
2.Cと炭化物を形成する材料
(1)被覆により固着するもの
本発明の被覆層は、Cと炭化物を形成する材料であっても良い。そのような材料は、例えば亜鉛メッキの犠牲陽極と類似した機能を発揮して鍛造金型の材料とCとの反応を抑制することができる。この場合において、被覆層がCと反応して摩滅したら、被覆層を再度被覆して修復することができる。
【0018】
Cと炭化物を形成する材料としては、WC、MoC、Cr、VCなどの炭化物、Fe、MnO、CrOなどの酸化物、CrN、FeN、MoNなどの窒化物がある。これらの材料の粉末をバインダーや溶剤と混合してペースト状またはスラリー状とし、それを鍛造金型の型彫り面に塗布した後に焼付け乾燥して固着することができる。また、その際には、型彫り面に微細な凹凸を形成しておき、アンカー効果によって固着強度を高めることもできる。
【0019】
上記した材料は、溶射によって型彫り面に吹き付けて固着することもできる。また、真空蒸着やイオンプレーティングなどの手段を用いることもできる。あるいは、上記材料をプレート状に形成し、複数のプレートを型彫り面に接着やボルト締結等の手段で被覆固着することもできる。あるいは、ニッケルなどのメッキ浴に上記材料の粒子を分散させ、その粒子をメッキ材とともに鍛造金型に固着することもできる。
【0020】
Cと炭化物を形成する他の材料としては、肉盛り用合金を用いることができ、例えば表2に示す成分を有する低合金鉄鋼、高合金鉄鋼、WC基肉盛り用合金などを用いることができる。
【0021】
【表2】


【0022】
(2)鍛造金型の表層部に形成するもの
被覆層は、各種拡散浸透処理によって型彫り面の表層部に形成することができる。たとえば、Crを拡散させるクロマイジングがあり、このような拡散浸透処理により、上記した炭化物等の層を鍛造金型の表層部に形成することができる。この場合、被覆層では、例えばCrが鍛造金型の表層部に浸透し、表層部に固溶しているC、O、N等と反応する。そして、表層部にCと反応する炭化物等が分散するため、被鍛造材中のCが表層部で消費され、鍛造金型の深部へのCの浸透を阻止する。
【0023】
また、表層部の基地ではCの固溶量が少なくなっているから、被鍛造材中のCを固溶する容量が大きい。このため、表層部の基地中に固溶しているCが飽和して脆弱なセメンタイトを析出するまでに長時間を要するから、鍛造金型の寿命が延長される。なお、この場合には、被覆層がCと反応して摩滅した場合には修復することができない。
【0024】
3.その他
鍛造金型の材料としては、例えば炭素工具鋼(SK)、合金工具鋼(SKS、SKD)、高速度鋼(SKH)等の工具用鋼を用いることができる。これらの工具用鋼に型彫り等の加工を行った後に熱処理を行い、型彫り面に上記した方法で被覆層を被覆固着する。なお、拡散浸透処理を行う場合には、鍛造金型の全面に被覆層が形成されるが、これは何ら問題はない。
【0025】
被覆層の厚さは、真空蒸着およびメッキを用いる場合には1〜50μmが好ましい。被覆層の厚さが1μmを下回ると被覆層としての機能を発揮し得ず、また、厚さが50μmを超えてもそれ以上の機能の向上は期待できない。被覆層の厚さは、3〜30μmがより好ましく、5〜20μmであれば製品(金型)の寸法精度の維持を含めた鍛造操業の上でさらに好適である。
【0026】
拡散浸透処理を用いる場合の被覆層の厚さは、上記と同じ理由により0.1〜3mmが好ましく、0.1〜2mmであればより好ましく、0.2〜0.8mmであればさらに好適である。
【0027】
肉盛りは摩滅が激しい部位に用いられ、被覆層の厚さは、上記と同じ理由により0.1〜5mmが好ましく、0.2〜4mmであればより好ましく、0.5〜3mmであればさらに好適である。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、Cを1.5〜2.5重量%と、W、V等の硬質炭化物形成元素とを含む鉄基合金を鍛造金型によって熱間鍛造する高ヤング率高疲労強度鋼の加工方法において、鍛造金型の少なくとも型彫り面に、鉄基合金中のCと鍛造金型の材料との反応を阻害する被覆層を被覆固着しまたは鍛造金型の表層部に形成しているから、高ヤング率高疲労強度鋼の基地組織中のCと鍛造金型の材料との反応が抑制され、高ヤング率高疲労強度鋼の熱間加工性が良好なことと相俟って金型寿命を大幅に向上させることができるという効果が得られる。
【出願人】 【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【住所又は居所】東京都港区南青山二丁目1番1号
【出願日】 平成15年2月26日(2003.2.26)
【代理人】 【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生

【公開番号】 特開2004−255429(P2004−255429A)
【公開日】 平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願番号】 特願2003−49904(P2003−49904)