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【発明の名称】 水溶性ヨード化合物を含むリポソーム
【発明者】 【氏名】相川 和広
【住所又は居所】神奈川県南足柄市中沼210番地 富士写真フイルム株式会社内

【要約】 【課題】水溶性ヨード化合物を疾患部位に選択的に集積させ、非疾患部位とコントラストをつけて造影する手段を提供する。

【解決手段】水溶性ヨード化合物を含む溶液を内包し、好ましくはホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンからなる群から選ばれる脂質を膜構成成分として含むリポソーム、及び該リポソームを含み、好ましくは動脈硬化症などの血管疾患の造影に用いるためのX線造影剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ヨード化合物を含む溶液を内包するリポソーム。
【請求項2】
ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンからなる群から選ばれる脂質を膜構成成分として含む請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリポソームを含むX線造影剤。
【請求項4】
血管疾患の造影に用いる請求項3に記載のX線造影剤。
【請求項5】
血管疾患が動脈硬化である請求項4に記載のX線造影剤。
【請求項6】
泡沫化マクロファージの存在下で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる請求項4に記載のX線造影剤。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は血管疾患の診断に有用な手段に関するものであり、より具体的には、水溶性ヨード化合物を疾患部位に選択的に集積させ、非疾患部位とコントラストをつけて造影する手段に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現代社会、特に先進国社会においては、高カロリー・高脂肪の食事を取る機会が増大している。そのために、動脈硬化症が原因となる虚血性疾患(心筋梗塞・狭心症等の心疾患、脳梗塞・脳出血等の脳血管疾患)の死亡者数が増加しており、この症状を初期の段階で診断し適切な治療を行うことが求められている。しかし、上記疾患が発症する以前に動脈硬化の進行を初期の段階で診断する満足できる方法は存在しない。
【0003】
動脈硬化症の診断方法としては、非侵襲的な方法と、動脈にカテーテル等を挿入する侵襲的な方法に大別される。このうち非侵襲的方法の主なものはX線血管造影と超音波診断であるが、初期の動脈硬化、特に心筋梗塞や狭心症の原因となる冠状動脈の狭窄を初期の段階で発症前に検出することはほとんど不可能である。
【0004】
非侵襲的な方法としては他にCT、MRIなども用いられることがあるが、これらは主として腫瘍の発見のために開発された方法であり、動脈硬化病巣の解像度に問題があるばかりでなく、高値で大かがりな装置を必要とするため、実施できる病院数も限られ一般には利用されていない。またラジオアイソトープを用いる方法も検討されているが、実験の枠を出ていない。
【0005】
一方、侵襲的な方法としては、血管内エコー、血管内視鏡等が用いられている。これらの方法によると動脈硬化の病巣を0.1mmの厚さまで測定することが可能であるとされている。しかし、これらの方法は、カテーテルの先に装着した超音波発振器、内視鏡を動脈内に挿入する必要がある。これは患者に大きな肉体的精神的な負担を強いると共に、危険も伴う。従って、心筋梗塞等の発作をおこした患者の治療や二次予防のために実施されてはいるものの、発症以前の人に動脈硬化の有無もしくは進行を診断する目的には使用できない。
【0006】
以上の中で、動脈の狭窄部位の特定に最も広く用いられているのはX線血管造影である。これは、水溶性のヨード造影剤を投与することにより血液の流れを造影し、その流れが滞っている箇所をみつける方法である。しかしこの方法では、通常狭窄が50%以上進んだ病巣しか検出することができず、虚血性疾患の発作が発症する前に病巣を検出することは困難である。
【0007】
これとは別に、疎水性ヨード造影剤もしくは親水性造影剤を製剤化し、目的とする疾患部位に選択的に集積させる試みが報告されている。(WO9519186, WO9521631, WO8900812, GB867650, WO9600089, WO9419025, WO9640615, WO952295, WO9841239, WO9823297, WO9902193, WO9706132, US4192859, US4567034, US4925649,Pharm. Res. 16(3) 420 (1999), J. Pharm.Sci. 72(8) 898 (1983), Invest. Radiol. 18(3) 275 (1983)。)例えばPharm. Res. 16(3) 420 (1999)では、疎水性化合物であるCholesteryl  Iopanoateの油滴分散液を注射することにより、該ヨード化合物が実験動物の動脈硬化部位に集積することが知られている。またJ.Pharm.Sci. 72(8) 898 (1983)では、Cholesteryl Iopanoateの油滴分散液を注射することによる肝臓や脾臓のX線造影の例が報告されている。またUS4567034には、diatrizoic acid のエステル体をリポソームに封入し、肝臓や脾臓の選択的造影を行う方法が報告されている。またWO 9628414, 9600089には血管プールやリンパ系をイメージ化するための造影剤が開示されている。しかし、これらの製剤方法は、血管疾患を選択的に造影する目的のためには、効率および選択性ともに十分でなく、X線照射により血管疾患を画像化した例も報告されていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段】
本発明の課題は、血管疾患部位に選択的に水溶性ヨード化合物を集積させ、非疾患部位とコントラストをつけて造影する手段を提供することである。より具体的には、水溶性ヨード造影剤を血管疾患部位に選択的に集積させるための薬学組成物を提供することである。
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、水溶性ヨード化合物を内包するリポソームを用いることにより、動脈硬化巣の主構成成分である血管平滑筋および泡沫化マクロファージに造影剤を集積させて、上記課題を解決できることを見出した。WHHLウサギの動脈硬化巣において、水溶性ヨード造影剤はほとんど取り込まれ無いが、水溶性ヨード化合物を内包するリポソームを用いることにより、血管疾患部位に該ヨード化合物を選択的に取り込ませることができる。この結果、血管疾患部位に選択的に水溶性ヨード化合物を集積させ、非疾患部位とコントラストをつけて造影することができる。
【0010】
すなわち、本発明は、水溶性ヨード化合物を含む溶液を内包するリポソーム、好ましくはホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンからなる群から選ばれる脂質を膜構成成分として含み、水溶性ヨード化合物を含む溶液を内包するリポソームを提供するものである。
【0011】
また、別の観点からは、本発明により上記のリポソームを含むX線造影剤が本発明により提供される。このX線造影剤は血管疾患の造影、好ましくは動脈硬化巣の造影に用いることができる。また、泡沫化マクロファージの存在下で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる上記のX線造影剤も本発明により提供される。
【0012】
さらに別の観点からは、本発明により、血管疾患の造影方法であって、水溶性ヨード化合物を含む溶液を内包するリポソーム、好ましくはホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンからなる群から選ばれる脂質を膜構成成分として含み、水溶性ヨード化合物を含む溶液を内包するリポソームの有効量を患者に投与した後にX線造影を行う方法が提供される。また、本発明により、上記のX線造影剤の製造のための水溶性ヨード化合物の使用が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明により提供されるリポソームは、水溶性ヨード化合物を含む溶液を内包することを特徴としている。本明細書において「水溶性ヨード化合物を含む溶液を内包」とは、水溶性ヨード化合物を含む溶液がリポソームの内部水相としてリポソームに保持されていることを意味している。もっとも、上記の用語は、該水溶性ヨード化合物がリポソームの膜構成成分として含まれる場合を排除するものではなく、該水溶性ヨード化合物が溶液としてリポソームに内包され、かつ該リポソームの膜構成成分として存在する場合を包含する。
【0014】
リポソームにおける水溶性ヨード化合物の量は特に限定されないが、リポソーム膜構成成分の全質量に対して5〜20質量%であるが、好ましくは5〜15質量%であり、さらに好ましくは10〜15質量%である(本明細書において「〜」で表される数値範囲は下限及び上限の数値を含む範囲である)。
【0015】
リポソームの膜構成成分は特に限定されず、当技術分野で通常用いられている脂質化合物であればいかなるものを用いてもよい。例えば、Biochim. Biophys. Acta 150(4), 44 (1982)、Adv. in Lipid. Res. 16(1) 1 (1978)、”RESEARCH IN LIPOSOMES”(P.Machy, L.Leserman著、John Libbey EUROTEXT社)、「リポソーム」(野島、砂本、井上編、南江堂) 等に記載されているものを用いることができる。膜構成成分としてはリン脂質が好ましく、特に好ましいのはホスファチルジルコリン(PC)類である。PC類の中で好ましい例としては、eggPC、ジミリストリルPC(DMPC)、ジパルミトイルPC(DPPC)、ジステアロイルPC(DSPC)、ジオレイルPC(DOPC)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0016】
別の好ましい態様によれば、リポソームの膜構成成分として、PCとホスファチジルセリン(PS)とを組み合わせて用いることができる。この場合、PCとPSの好ましい使用モル比はPC:PS=90:10から10:90の間であり、さらに好ましくは、30:70から70:30の間である。
【0017】
さらに別の好ましい態様によれば、リポソームの膜構成成分として、PCおよびPSの組み合わせにリン酸ジアルキルエステルをさらに加えて用いてもよい。リン酸ジアルキルエステルを構成するそれぞれのアルキル基は同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、例えば6以上であり、10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。好ましいリン酸ジアルキルエステルの例としては、ジラウリルフォスフェート、ジミリスチルフォスフェート、ジセチルフォスフェート等が挙げられるが、これに限定されるものではない。PCとPSの合計質量に対するリン酸ジアルキルエステルの好ましい使用量は1から50質量%までであり、好ましくは1から30質量%であり、さらに好ましくは1から20質量%である。
【0018】
水溶性ヨード化合物をリポソーム膜構成成分として含む好ましい態様では、PC、PS、リン酸ジアルキルエステル、及び水溶性ヨード化合物の好ましい質量比は、それぞれ5〜40質量%、5〜40質量%、1〜10質量%、10〜15質量%の範囲から選択することができるが、この割合に限定されることはない。
【0019】
本発明のリポソームの構成成分としては、上記に説明した以外の任意の成分を用いることができる。その例としては、コレステロール、コレステロールエステル、スフィンゴミエリン、FEBS Lett. 223, 42 (1987); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 6949 (1988)等に記載のモノシアルガングリオシドGM1誘導体、Chem. Lett. 2145 (1989); Biochim. Biophys. Acta 1148, 77 (1992)等に記載のグルクロン酸誘導体、Biochim. Biophys. Acta 1029, 91 (1990); FEBS Lett. 268, 235 (1990)等に記載のポリエチレングリコール誘導体が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0020】
水溶性ヨード化合物の種類は特に限定されず、一般的に水溶性のヨード造影剤として用いられている化合物を好適に用いることができる。例えば、イオパミドール、イオヘキサノール、イオベルソール、イオメプロール、イオプロミド、イオキシラン、イオキサグル酸、イオトロクス酸、アミドトリゾ酸、イオトロラン、イオタラム酸、イオジキサノール等が挙げられ、好ましくは、イオパミドール、イオヘキサノール、イオベルソール、イオメプロール、特に好ましくは、イオパミドール、イオヘキサノールが挙げられる。なお、本明細書において「水溶性ヨード化合物」とはヨード化合物の水に対する溶解度が少なくとも10mg/ml以上であることを意味している。これらの水溶性ヨード化合物の塩を用いてもよく、2種以上の水溶性ヨード化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本発明のリポソームは、当該分野で利用可能ないかなる方法で製造してもよい。例えば、先に挙げたリポソームの総説成書類の他、Ann. Rev. Biophys. Bioeng.9, 467 (1980)、”Liopsomes”(M.J.Ostro編、MARCELL DEKKER, INC.)等に記載された方法を用いることができる。より具体的には、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法等が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0022】
本発明のリポソームのサイズは、上記の方法で作成できるサイズのいずれであっても構わないが、通常は平均が400nm以下であり、200nm以下が好ましい。リポソームの構造も特に限定されず、ユニラメラ、マルチラメラなどいかなるリポソームであってもよい。リポソームの内部に内包される溶液としては、水のほか、緩衝液、生理食塩水などを用いることができる。これらに水溶性有機溶媒(例えばグリセリンなど)を適宜の量加えて用いることも可能である。
【0023】
本発明のリポソームは血管疾患の造影剤として用いることができるが、通常はX線造影の目的で患者に静脈内投与することができる。本発明のリポソームを含む造影剤は、注射剤や点滴剤の形態で調製することが可能であり、凍結乾燥形態の粉末状組成物として提供し、用時に水又は他の適当な媒体(例えば生理食塩水、ブドウ糖輸液、緩衝液など)に再懸濁させて用いることも可能である。本発明のリポソームを含む造影剤の投与量及び投与回数は特に限定されないが、X線造影すべき部位、照射X線の量、疾患の種類、患者の年齢、体重などの種々の条件に応じて、適宜の投与量を決定することができる。
【0024】
動脈硬化、もしくはPTCA後の再狭窄等の血管疾患においては、血管の中膜を形成する血管平滑筋細胞が異常増殖をおこすと同時に内膜に遊走し、血流路を狭くすることが知られている。正常の血管平滑筋細胞が異常増殖を始めるトリガーはまだ完全に明らかにされていないが、マクロファージの内膜への遊走と泡沫化が重要な要因であることが知られており、その後に血管平滑細胞がフェノタイプ変換(収縮型から合成型)をおこすことが報告されている。以下の実施例に具体的に説明するように、本発明の造影剤は、泡沫化マクロファージの存在下で異常増殖した血管平滑筋に水溶性ヨード化合物を選択的に取りこませることができる。その結果、疾患部位と非疾患部位とをコントラストをつけて造影することが可能である。造影の手段としては、X線照射による方法のほか、ヨードの放射線ラベル体を用いる核医学的方法を採用してもよい。この場合、放射性ヨード原子で置換された水溶性ヨード化合物を用いて、上記と同様にリポソームを調製して造影剤として投与し、シンチレーション造影を行えばよい。
【0025】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0026】
例1:リポソームの調製
50 nmol のPhosphatidylcholine, Egg(フナコシ社製、商品コード830051L)と50 nmolのPhosphatidylserine, Bovine Brain(フナコシ社製、商品コードA−37)のクロロホルム溶液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターを用いてクロロホルムを除去し薄膜を調製した。これに直前に蒸留したエーテルを3 ml加えて脂質を溶解した。ついで1mlの0.9%生理食塩水(光製薬社製、No.512)に5 nmolのイオパミドール(日本シェーリング社製、イオパミドール粉末)を加え、窒素気流下、浴槽型ソニケーター(ヤマト科学社製、No.145−50481)を用いて20℃で5分間超音波処理してエマルジョンをえた。減圧下(350−400 mmHg)でロータリーエバポレーターを用いてエーテルを除去し、さらにVortexミキサーで振とうして懸濁液にし、再び680−700mmHgの減圧下で残留エーテルを除去した。この溶液を20000 G、4℃で20分遠心し、ペレットに1 mlの0.9%生理食塩水を加え、再度懸濁液を調製した。この操作により、70〜200 nmサイズのリポソーム溶液をえた。
【0027】
例2:試験例
WHHL雄性ウサギ(2ヵ月齢, 北山ラベス)を2週間馴化飼育した後、0.9% 生理食塩水に溶解したイオパミドールを耳下静脈より投与し1時間後麻酔処理した。大動脈弓部の動脈硬化巣を摘出し、病巣に取り込まれたイオパミドールをHPLCにて定量した(実験1)。次に、例1で調製したリポソームを用いて同様の定量実験を行なった(実験2)(各n=3羽 投与量:イオパミドールとして400mg/kg)。結果を図1に示す(結果は平均値として示した)。本発明のリポソームによりイオパミドールが病巣に効率的に取り込まれたことが明らかである。
【0028】
【図面の簡単な説明】
【図1】ウサギ大動脈弓部の動脈硬化巣に取り込まれたイオパミドールの量を示した図である。試験1はイオパミドール自体を静脈内投与した場合の結果を示し、試験2は本発明のリポソームを静脈内投与した場合の結果を示す。
【出願人】 【識別番号】000005201
【氏名又は名称】富士写真フイルム株式会社
【住所又は居所】神奈川県南足柄市中沼210番地
【出願日】 平成14年9月24日(2002.9.24)
【代理人】 【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス

【公開番号】 特開2004−115378(P2004−115378A)
【公開日】 平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願番号】 特願2002−276944(P2002−276944)