トップ :: A 生活必需品 :: A61 医学または獣医学;衛生学

【発明の名称】 ネコ伝染性腹膜炎ワクチン
【発明者】 【氏名】本川 賢司

【氏名】楠原 一

【氏名】小山 弘之

【氏名】宝達 勉

【氏名】荒井 節夫

【要約】 【課題】ネコ伝染性腹膜炎(FIP)の予防や治療に有効なワクチンの提供。

【解決手段】特定の構造を有するN蛋白質、またはその断片を抗原として用いた、FIPのワクチンが提供された。本発明における望ましい抗原は、特定のI型ウイルス株(KU−2)に由来するN蛋白質である。このN蛋白質を含むワクチンは、幅広いFIPVに対して予防効果を与える。また、N蛋白質は感染増強エピトープを含まないので、安全性が高い。更に、実際のFIPの原因の70%以上を占めるI型ウイルスに対する予防効果を達成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のa)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質を有効成分として含有するネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防用ワクチン。
a) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むポリヌクレオチド、
b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
c) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域の塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、および
e)a)−d)に記載されたポリヌクレオチドのいずれかによってコードされるアミノ酸配列から選択された、45アミノ酸残基以上からなる連続するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
【請求項2】
以下のa)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを有効成分として含有するネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防用ワクチン。
a) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むポリヌクレオチド、
b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
c) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域の塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、および
e)a)−d)に記載されたポリヌクレオチドのいずれかによってコードされるアミノ酸配列から選択された、45アミノ酸残基以上からなる連続するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
【請求項3】
ポリヌクレオチドが、a)またはb)に記載のポリヌクレオチドである請求項1または請求項2に記載のワクチン。
【請求項4】
以下のa)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質との結合能を有する抗体を有効成分として含有するネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防用抗体製剤。
a) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むポリヌクレオチド、
b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
c) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域の塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、および
e)a)−d)に記載されたポリヌクレオチドのいずれかによってコードされるアミノ酸配列から選択された、45アミノ酸残基以上からなる連続するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
【請求項5】
請求項1、請求項2、および請求項3のいずれかに記載のワクチンを少なくとも1回ネコに投与するプロセスを含む、ネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防のための方法。
【請求項6】
請求項4に記載の抗体製剤を少なくとも1回ネコに投与するプロセスを含む、ネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防のための方法。
【請求項7】
以下のa)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質とネコの血清をインキュベートし、該蛋白質と結合する抗体を検出する工程を含む、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス感染の検査方法。
a) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むポリヌクレオチド、
b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
c) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域の塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、および
e)a)−d)に記載されたポリヌクレオチドのいずれかによってコードされるアミノ酸配列から選択された、45アミノ酸残基以上からなる連続するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
【請求項8】
以下のa)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質を含む、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス感染の検査用試薬。
a) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むポリヌクレオチド、
b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
c) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域の塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、および
e)a)−d)に記載されたポリヌクレオチドのいずれかによってコードされるアミノ酸配列から選択された、45アミノ酸残基以上からなる連続するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はネコ伝染性腹膜炎ウイルス(feline infectious peritonitis virus;FIPV)の感染によって起こるネコ伝染性腹膜炎(FIP)の予防、あるいは治療に関する。
【0002】
【従来の技術】
FIPはウイルス感染と免疫機構が関与した複雑な疾患である。FIPは、腹腔内化膿性肉芽腫と腹水貯留を特徴とする慢性・進行性疾患である。腹腔内化膿性肉芽腫は、灰白質で隆起した結節を形成する。その病変は腹腔内に限らず全身の臓器に及ぶ。FIPの病型は臨床・病理学的に腹水型(滲出型)と乾燥型(非滲出型)に分けられる。前者は線維素性腹膜炎とこれに由来する腹水の貯留を特徴とする。また後者は、各種臓器における多発性化膿性肉芽腫形成を特徴とする。しかし、両者は完全に独立しているわけではなく、共存する例も少なくない。感染後どちらの病型に進行するかは感染ネコの細胞性免疫の強さにより決定されると考えられている。
【0003】
FIPVは大きさが約100〜150nmのエンベロープを有するウイルスで、コロナウイルス科のコロナウイルス属に属する。エンベロープの表面には、長さ約20nmで先端部分が大きくなっているいわゆる王冠に似た突起物(spike)を持っている。ウイルスのゲノムは1分子の1本鎖RNAからなり、ウイルスは細胞質で増殖し、小胞体を通って出芽、成熟する。ウイルスは、次の3つの主要構造蛋白質から構成されている。
nucleocapsid (N) protein
transmembrane (M) protein
peplomer (S) protein
【0004】
FIPVは、増殖の遅いI型と増殖の早いII型に分けられる。FIPV I型に分類されるウイルス間では、その遺伝子塩基配列にバリエーション があることが報告されているが、FIPV II型に分類されるウイルスではそういった報告はない。一方で、ネコのFIPV感染の約70%はI型のウイルスによると報告されている(宝達ら, Arch. Virol. 117, 85, 1991)。
【0005】
FIPの発病機序については、これまで多くの感染実験やウイルス学的、免疫学的研究がなされてきた。その結果、FIPV感染においては、免疫システムが症状の重篤化にも関与していることがわかっている。
マクロファージは、一般にウイルス感染症に対する非特異的な生体防御因子の1つとして重要な役割を果たす。しかし一方では、マクロファージの生体防御機構が感染を増強する場合のあることが明らかにされている。たとえばFIPを含め、いくつかのウイルス感染症においては、抗体が感染を増強する現象が確認されている。すなわち、特異抗体と結合したウイルスがFcレセプターを介してマクロファージに侵入し、その結果かえって感染が促進され、症状が悪化することが報告されている。抗体とFcレセプターを介するマクロファージへのウイルスの進入は、マクロファージ上のウイルスレセプターを必要としない。
【0006】
この現象は、抗体依存性感染増強作用(Antibody−dependent Enhancement of Infection)と呼ばれる。FIPVもマクロファージに感染するウイルスである。そして、上記の抗体依存性感染増強作用でFIP発症が増強されていることが報告されている。従来のワクチン開発戦略は、主として中和抗体の誘導を目的としてきた。このようなワクチン開発戦略は、FIPに対してそのまま応用することは難しいと考えられる。
【0007】
しかしFIPワクチンの研究開発は、これまで主に従来のワクチン開発の戦略に基づいて進められてきた。その際、FIPにおける抗体依存性感染増強作用のメカニズムを十分考慮しない場合には、必ずしも望ましい結果を得られなかった。以下に、これまでのワクチン開発の試みについて説明する。
【0008】
これまでにFIPVの不活化ワクチン、FIPVを弱毒化した生ワクチンなど、さまざまなワクチンについてその感染防御効果が調べられてきた。しかし、いずれも十分な効果が得られず、逆に感染を早める結果となった。
1980年PedersenとBoyleは、あらかじめFIPV抗体が陽性の子ネコ、あるいは抗体陽性ネコの血清またはその精製IgGを受身免疫した子ネコは、強毒FIPVを腹腔内接種することによって、抗体陰性の子ネコよりもより急速に重篤な症状が起こることを示した。(Pedersen NC, Boyle JF.Immunologic phenomena in the effusive form of feline infectious peritonitis. Am J Vet Res. 1980 Jun;41(6):868−76.)
【0009】
1981年WeissとScott らも、同様に、感染ネコの血清をSPFの子ネコに受身免疫し、腹腔内にウイルスを接種した。彼らの結果も、抗体を受身免疫したネコで、FIPV感染が早まり接種後24時間で体温が上昇し、それ以後死亡するまで持続した。その生存期間は9〜10日で、対照の抗体陰性ネコの14〜52日より明らかに短かった(Weiss RC, Scott FW. Antibody−mediated enhancement of disease in feline infectious peritonitis: comparisons with dengue hemorrhagic fever. Comp Immunol Microbiol Infect Dis. 1981;4(2):175−89.)。
その後、抗体依存性の感染増強作用は他の研究者によっても確認された。現在では抗体によるFIPV感染の増強作用が、FIPのワクチン開発の大きな障害であることは、多くの研究者の間で広く認識されている。
【0010】
既に述べたように、FIPV は N、M、およびSの3つの主要構造蛋白質から構成されている。これまでの研究成果から、中和エピトープと感染増強のエピトープは S 蛋白質上に存在し、しかも、両者は密接に関連していることが明らかとなっている。従来のワクチン開発戦略においては、S蛋白質を抗原とするワクチンの開発が最初に試みられている。しかし、S 蛋白質を利用した感染防御ワクチンは、同時に感染増強のエピトープを含むことになり、常にその危険性がつきまとうことになる。
【0011】
事実、II型ウイルスの中和に関する抗原決定基をコードする遺伝子(S 蛋白質) をワクシニアウイルスに組み込んだ組換えワクチンが作製されたが、感染は防御されず、発症が早まる結果となっている(Vennema H, de Groot RJ, HarbourDA, Dalderup M, Gruffydd−Jones T, Horzinek MC, Spaan WJ. Early death after feline infectious peritonitis virus challenge due to recombinant vaccinia virus immunization. J Virol. 1990 Mar;64(3):1407−9.)。更に増殖の遅いタイプIウイルスからのS蛋白質を用いるワクチンについての記載もある(特開平7−327683)。
【0012】
一方、アメリカの研究グループによって、温度感受性株の生ウイルスワクチンが開発された。このワクチンは、温度感受性株を鼻腔内に接種し局所の免疫を高めることを目的としている(Gerber JD, Ingersoll JD, Gast AM, Christianson KK, Selzer NL, Landon RM, Pfeiffer NE, Sharpee RL, Beckenhauer WH. Protection against feline infectious peritonitis by intranasal Inoculation ofa temperature−sensitive FIPV vaccine. Vaccine. 1990 Dec;8(6):536−42.)。おそらく、温度感受性株は高温では増殖できないため、体内に侵入しても、その増殖部位が限局されるものと予測される。
このワクチンはアメリカ、ヨーロッパですでに臨床応用されている。しかし、その効果および安全性の評価は、研究者によって異なっている。ワクチネーションしたネコを実験的に攻撃した場合、その攻撃ウイルス量によっては、逆に感染が増強する場合もあることが報告されている(Scott,FW., Corapi, WV., and Olsen, CW. Evaluation of the safety and efficacy of Primucell−FIP vaccine. Feline Hlth Top. 1992, 7: 6−8.; Scott,FW., Corapi, WV., and Olsen, CW. Independent evaluation of a modified live FIPV vaccine under experimentalconditions. Feline Practice 1995, 23: 74−76.)。
【0013】
また、M蛋白質やN蛋白質をコードする遺伝子をワクシニアウイルスやポックスウイルスに組み込んだ組換えワクチンがFIP 発症に対してある程度有効であることが報告されている(Vennema H, de Groot RJ, Harbour DA, Horzinek MC, Spaan WJ. Primary structure of the membrane and nucleocapsid protein genesof feline infectious peritonitis virus and immunogenicity of recombinant vaccinia viruses in kittens. Virology. 1991 Mar;181(1):327−35. ; Wasmoen TL, Kadakia NP, Unfer RC, Fickbohm BL, Cook CP, Chu HJ, Acree WM.Protection of cats from infectious peritonitis by vaccination with a recombinant raccoon poxvirus expressing the nucleocapsid gene of feline infectious peritonitis virus. Adv Exp Med Biol. 1995;380:221−8.)。しかし、このワクチンは組換え生ワクチンであるため、その野外応用には安全性を含め多くの問題をクリアーしなければならない。
このように現時点では、FIPV 感染の防御効果と安全性に関して十分に満足し得るワクチンは開発されていない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、FIPの感染予防、あるいは治療に有用なワクチンの提供を課題とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
たとえば、従来のウイルス感染症に対するワクチン開発の一般的方法から類推して、FIP感染防御のメカニズムとして2つの有力な標的が考えられる。まず、FIPV は経口・経鼻感染後、粘膜のバリアーを通過し、マクロファージを介して全身へ拡がっていく。粘膜バリアーの通過およびFIP 症状の発現はウイルスの感染量および病原性の強さにより異なる。そこでFIPV 感染防御の第1の標的は粘膜でのウイルス増殖と組織への侵入をおさえることである。
【0016】
次に、粘膜のバリアーを通過し、食細胞内に持続感染したFIPV を増殖させないためには、細胞性免疫を高めることが必要である。つまりウイルス感染細胞を免疫システムによって排除することができれば理想的である。これがFIPV 感染防御の第2の標的である。事実FIPV に感染耐過したネコは、細胞性免疫が高まっていることが報告されている。
【0017】
このような背景のもとで、本発明者らは、ウイルス構成蛋白質のうち感染増強エピトープを含まないN 蛋白質に注目した。しかし一般に、N蛋白質はウイルス粒子や感染細胞の表面には存在しないため、N蛋白質のみの免疫では感染増強を起こさない反面、感染を完全に防御することは難しいと推測された。実際、II型FIPVのN蛋白質をコードする遺伝子を枠にシニアウイルスで発現させた組み換え体がワクチンに利用された報告がある(US 5811104)。しかしこの報告ではその感染予防効果を裏付けるデータは得られていない。したがってこれらの結果は、FIPV II型のN蛋白質を抗原として用いても、感染あるいは発症の予防効果に優れたワクチンの開発が困難であることを示していた。
【0018】
一方、I型のN蛋白質を利用したワクチンについては報告がない。その要因はI型は組織培養での増殖速度が遅いため扱いにくいこと、さらにネコに対する病原性がII型よりも低くFIP発症率が低いため、感染実験のデザインが難しいことなどから、FIPワクチンの研究においてFIPV I型を材料とすることに困難を伴うためである。 しかし、これはFIPV I型ウイルスに有効なワクチンの開発が重要ではないことを意味しない。というのは、実際の臨床現場でFIPの70%以上はI型ウイルスの感染が原因となっており、II型のウイルスが分離される割合は低いのである。
【0019】
したがって本発明者らは、実用上の効果を期待できるワクチンを得るためには、I型に由来する抗原の使用が重要な条件となると考えた。そして、ワクチン原料として利用しうる、I型ウイルス由来抗原について探索を続けた。その結果本発明者らは、I型のウイルスに由来する特定のアミノ酸配列を有するN蛋白質を抗原とするワクチンが、幅広いFIPVに対する予防効果を与えうることを見出し本発明を完成した。すなわち本発明は、以下に示すFIPの予防あるいは治療用ワクチン、予防あるいは治療方法に関する。更に本発明は、FIPの検査方法と検査用試薬にも関する。
〔1〕以下のa)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質を有効成分として含有するネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防用ワクチン。
a) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むポリヌクレオチド、
b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
c) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域の塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、および
e)a)−d)に記載されたポリヌクレオチドのいずれかによってコードされるアミノ酸配列から選択された、45アミノ酸残基以上からなる連続するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
〔2〕以下のa)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを有効成分として含有するネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防用ワクチン。
a) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むポリヌクレオチド、
b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
c) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域の塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、および
e)a)−d)に記載されたポリヌクレオチドのいずれかによってコードされるアミノ酸配列から選択された、45アミノ酸残基以上からなる連続するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
〔3〕ポリヌクレオチドが、a)またはb)に記載のポリヌクレオチドである〔1〕または〔2〕に記載のワクチン。
〔4〕以下のa)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質との結合能を有する抗体を有効成分として含有するネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防用抗体製剤。
a) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むポリヌクレオチド、
b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
c) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域の塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、および
e)a)−d)に記載されたポリヌクレオチドのいずれかによってコードされるアミノ酸配列から選択された、45アミノ酸残基以上からなる連続するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
〔5〕〔1〕、〔2〕、および〔3〕のいずれかに記載のワクチンを少なくとも1回ネコに投与するプロセスを含む、ネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防のための方法。
〔6〕〔4〕に記載の抗体製剤を少なくとも1回ネコに投与するプロセスを含む、ネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防のための方法。
〔7〕以下のa)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質とネコの血清をインキュベートし、該蛋白質と結合する抗体を検出する工程を含む、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス感染の検査方法。
a) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むポリヌクレオチド、
b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
c) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域の塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、および
e)a)−d)に記載されたポリヌクレオチドのいずれかによってコードされるアミノ酸配列から選択された、45アミノ酸残基以上からなる連続するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
〔8〕以下のa)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質を含む、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス感染の検査用試薬。
a) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むポリヌクレオチド、
b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
c) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域の塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、および
e)a)−d)に記載されたポリヌクレオチドのいずれかによってコードされるアミノ酸配列から選択された、45アミノ酸残基以上からなる連続するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
【0020】
【発明の実施の形態】
配列番号:1に示す塩基配列、並びにこの塩基配列によってコードされるアミノ酸配列(配列番号:2)は、FIPVのI型の株KU−2に由来する。KU−2の遺伝子の塩基配列、並びに遺伝子によってコードされているアミノ酸配列は公知である(K.Motokawa et al. Microviol. Immunol.,40/6, 425−433, 1996)。しかしこの遺伝子を利用して、FIPの予防や治療が可能となることは知られていない。
【0021】
先に述べたように、FIPVのI型に分類された株の塩基配列は、株間での相同性が低い。表1に、これまでにN蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列が特定されたFIPVの代表的な株や近縁の他のウイルス間の相同性をまとめた。たとえば、KU−2のN蛋白質に対する他の株のN蛋白質の相同性は、92%に満たない。この相同性は、II型やネコ・腸コロナウイルスのN蛋白質との相同性と同程度である。
【0022】
つまり、I型のウイルスは、バリエーションが大きい。N蛋白質のアミノ酸配列の比較結果を図2に示した。図2からは、各ウイルス間のアミノ酸配列の相違、あるいはKU−2株のアミノ酸配列が、他の株と相違していることが見て取れる。したがって、I型のいずれかのウイルスを材料として作成したワクチンの予防や治療の効果は、株間で相違すると予測された。このような従来の知見に基づく予測に反し、本発明は、特定の株に由来するウイルス抗原が、幅広い株に対する有効性と、高い安全性とを有するワクチンの製造に有用であるという新規な知見に基づいている。
【0023】
すなわち本発明は、以下のa)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質を有効成分として含有するネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防用ワクチンに関する。
a) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むポリヌクレオチド、
b) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
c) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域の塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
d) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、および
e)a)−d)に記載されたポリヌクレオチドのいずれかによってコードされるアミノ酸配列から選択された、45アミノ酸残基以上からなる連続するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
【0024】
本発明によるワクチンは、FIPVのKU−2株由来のN蛋白質を有効成分とすることができる。KU−2株のN蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:2に、またこのアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号:1、並びに図1に示した。本発明のワクチンにおける有効成分には、この他、c) 配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域の塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド、あるいはd) 配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と93%以上の相同性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質を用いることができる。なおI型に分類された既知のFIPVのN蛋白質と、KU−2株のN蛋白質の相同性は、いずれも93%未満である。
【0025】
一般に、高い相同性を有するアミノ酸配列からなる蛋白質の免疫学的な性状は類似する。本発明において、望ましいアミノ酸配列は、配列番号:2に対して、通常93%以上、より望ましくは95%以上、更に望ましくは98%以上、あるいは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列である。
【0026】
アミノ酸配列の相同性を求める手法は公知である。たとえば、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873−5877, 1993)は、アミノ酸配列の相同性を決定するための代表的なアルゴリズムである。このアルゴリズムを実現するプログラムがBLASTX(Altschul et al. J. Mol. Biol.215:403−410, 1990)である。BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターはたとえばscore = 50、wordlength = 3とする。あるいはBLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いることができる。
【0027】
たとえば実施例においては、表1のホモロジーは、遺伝情報処理ソフトウェアGENETYXのマキシマムマッチングを用いて算出した(Takashi K and Gotho O (1984) J. Biochem. 92: 1173−1177)。パラメーターは次のとおりである。matching condition:matches=−1, mismatches=1gaps=1, *N+=2
その他、Lipman−Pearson法(Lipman DJ and Pearson WR (1985) Science 227:1435−1441)に基づいてホモロジーを決定することもできる。Lipman−Pearson法におけるパラメーターは次のとおりである。
unit size to compare=2(amino acid) or 5 (nucleotide)
【0028】
本発明のワクチンの有効成分とする蛋白質のアミノ酸配列において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列に導入しうるアミノ酸残基の変異の数は、通常25以下、あるいは20以下、望ましくは0−15、より望ましくは0−5、更に望ましくは0−3である。一般に蛋白質の性質をできるだけ損なわないようにするためには、置換されるアミノ酸は、置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。このようなアミノ酸の置換は、保存的置換と呼ばれている。
【0029】
例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、Trpは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有する。また、非荷電性としては、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、Glnが挙げられる。また、酸性アミノ酸としては、AspおよびGluが挙げられる。また、塩基性アミノ酸としては、Lys、Arg、Hisが挙げられる。
【0030】
更に本発明のワクチンは、e)a)−d)に記載されたポリヌクレオチドのいずれかによってコードされるアミノ酸配列から選択された、45アミノ酸残基以上からなる連続するアミノ酸配列を含む蛋白質を有効成分とすることができる。ワクチンの有効成分は、免疫担当細胞に免疫学的な刺激を与えることができれば、必ずしも抗原蛋白質の全体構造を維持していなくてもよい。一般には15アミノ酸残基以上を有するポリペプチドによる免疫刺激は、困難を伴わずに検出できるとされる。一方、連続する20アミノ酸あるいは30アミノ酸からなるアミノ酸配列は、当該蛋白質に固有のアミノ酸配列を構成するとされている。特に45アミノ酸残基を越えるアミノ酸配列は、配列番号:2に特異的なアミノ酸配列を構成する。したがって、条件e)を満たす部分アミノ酸配列からなる蛋白質は、a)−d)のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列から選択されたアミノ酸配列と同様の抗原刺激を免疫担当細胞に与えることができる。本発明における望ましいポリペプチドは、45以上、あるいは50以上、望ましくは55以上、より望ましくは65以上のアミノ酸残基を含む、配列番号:2に記載のアミノ酸配列から選択された連続するアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0031】
本発明において、望ましい部分アミノ酸配列は、前記a)−d)に記載されたポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列中、エピトープとして予測された塩基配列を含むことができる。当業者は、与えられたアミノ酸配列をもとに、エピトープを予測することができる。エピトープは、アミノ酸配列の様々な特徴に基づいて予測される。例えば、親水性/疎水性、電荷、糖鎖結合配列、ジスルフィド結合、蛋白質の二次構造、T細胞抗原性部位などの情報が、パラメーターの予測に利用される。蛋白質の二次構造は、Chou−Fasman法やRobson法などによって予測することができる。またT細胞抗原性部位は、IAパターンやRothbard/Taylorパターンなどに基づいて予測されている。
【0032】
その他、また、モノクローナル抗体を利用してペプチドマッピングをすることにより実験的にエピトープを特定することこともできる。この方法は、免疫原を構成するアミノ酸配列を構成する部分アミノ酸配列からなるペプチド断片に対する抗体の反応性に基づいて、その抗体が認識するエピトープを決定する方法である。ペプチド断片のアミノ酸配列は、少しづつオーバーラップするようにデザインされる。この解析方法によって、免疫システムが、免疫原として用いた蛋白質の、どのアミノ酸配列を認識したのかを明らかにすることができる。
【0033】
前記a)−d)に記載されたポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質は、FIPVの増殖を抑制する免疫応答を誘導する一方、感染増強エピトープを含まない。したがって、安全性と予防効果に優れたワクチンを提供することができる。更に、この蛋白質のエピトープを構成するアミノ酸配列からなる蛋白質断片も同様に、宿主の目的とする免疫応答を誘導しFIPVの予防効果を達成しうる。
【0034】
本発明における望ましい蛋白質断片として、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と免疫学的に同等な活性を有する断片を示すことができる。免疫学的に同等とは、宿主に投与されたときに、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質を投与した場合と同等の免疫応答を誘導することを言う。
【0035】
本発明における蛋白質断片は、単一であることもできるし、異なるアミノ酸配列からなる複数の断片を用いることもできる。したがって、単一では免疫学的に同等といえない断片であっても、複数の断片の組み合せによって免疫学的に同等な活性を示す断片の組み合せは本発明に含まれる。更に、蛋白質断片以外の補助的な成分の組み合せによって免疫学的に同等な活性を達成できる断片を含むワクチンは、本発明に含まれる。
たとえば、特定のアジュバントを配合することによって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と免疫学的に同等な活性を示す蛋白質断片を本発明に用いることができる。その他、適当なキャリアー蛋白質との融合蛋白質とすることによって免疫学的に同等な活性を維持する蛋白質断片も、本発明に用いることができる。
【0036】
投与された蛋白質に対する宿主の免疫応答は、たとえば次のような指標に基づいて比較することができる。
−投与された蛋白質に対する抗体価、
−細胞性免疫の活性化作用
−感染源のチャレンジに対する生体防御機構のレベル
【0037】
投与された蛋白質に対する抗体価は、各種のイムノアッセイによって測定することができる。より具体的には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質を感作したプレートに被検動物の血液試料を加え、更に当該動物のイムノグロブリンに対する標識抗体を反応させることによって、抗体価を測定することができる。
【0038】
また投与された蛋白質による細胞性免疫の活性化作用は、たとえば末梢血中のT細胞の活性化の程度をin vitroで測定することによって評価することができる。具体的には、標的細胞に対する被検T細胞の攻撃活性を測定する方法として、CTL assayが知られている。更に最近では、サイトカインやパーフォリンを指標として、T細胞の活性化レベルを把握する方法も用いられている。T細胞の活性化の指標には、IL−2やγ−IFNなどが用いられる。パーフォリンは、細胞障害性に関与する生体分子である。これらの指標は、ELISA、real time PCR、ELISPOT法などによって測定される。一般に、これらの測定手技は、高度な細胞培養技術を必要とするCTL assayに比べて簡便である。
【0039】
さらに免疫学的な同等性は、実際に蛋白質を投与した固体に、病原体をチャレンジし、その防御レベルを比較することによって確認することもできる。防御レベルは、病原体を接種後の、体重や体温の変化、あるいは生存日数等に基づいて比較することができる。
【0040】
本発明における前記a)−e)に記載のポリヌクレオチドの由来は制限されない。したがって、天然のポリヌクレオチドであっても、人為的または自発的に変異が導入されたポリヌクレオチドであってもよい。また、人工的にデザインされた配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。
天然に由来するポリヌクレオチドには、たとえばKU−2株のポリヌクレオチドや、KU−2株から誘導された変異株に由来するポリヌクレオチドなどが含まれる。その他、KU−2株と相同性の高い塩基配列を有するFIPVに由来するポリヌクレオチドを用いることもできる。一方、本発明における人工的にデザインされたポリヌクレオチドには、たとえばKU−2株の塩基配列に、人為的な変異を導入したポリヌクレオチドを示すことができる。
【0041】
本発明のポリヌクレオチドは、例えば、公知のハイブリダイゼーション技術(Sambrook J., Fritsch, E. F., and Maniatis T. Molecular cloning : A Laboratory Manual (2nd edition). Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor.)を利用して調製することができる。DNAの単離には、ポリメラーゼ連鎖反応技術 (Sambrook J., Fritsch, E. F., and Maniatis T. Molecular cloning : A Laboratory Manual (2nd edition). Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor.)を利用することもできる。即ち、当業者においては、ハイブリダイゼーション法やPCR法により、ウイルス由来のDNAなどをスクリーニングしDNAを単離することができる。ハイブリダイゼーション法に必要なプローブや、PCR法に必要なプライマーの塩基配列は、例えばKU−2株N蛋白質のcDNA配列(配列番号:1)に基づいて設計することができる。
【0042】
アミノ酸に変異を導入する方法はよく知られている。例えば、変異ウイルスを含むウイルスライブラリーや、変異N蛋白質をコードするDNAライブラリー等を作製し、望みのアミノ酸配列をコードするDNAをスクリーニングすることによって単離することができる。あるいは変異の入ったウイルスを自然界からスクリーニングすることもできる。更に、公知の遺伝子工学的技術を用いて、部位特異的に変異を導入することも可能である。部位特異的に変異を導入するためには、例えば、SOE(splicing − by− overlap− extention)−PCR法(Ho, S.N., Hunt, H.D., Horton, R.M., Pullen, J.K., and Pease, L.R. (1989). Gene 77, 51−59)、Kunkel法(Kunkel, T.A. (1985) Proc Natl Acad Sci U S A;82(2):488−92)法を用いることができる。
【0043】
本発明のワクチンの有効成分とする蛋白質は、公知の方法によって得ることができる。たとえば前記a)−e)のいずれかに記載のポリクレオチドを適当な発現ベクターに挿入し、宿主細胞に導入することにより発現させることができる。宿主としては、細菌、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞、あるいは哺乳動物等を示すことができる。より具体的には、細菌では大腸菌(Escherichia Coli)を、酵母では分裂酵母Shizosaccharomyces pombeを、あるいは哺乳動物細胞としてはCHO細胞やCOS細胞等を示すことができる。
【0044】
これらの宿主への形質転換が可能なベクターには、公知のベクターを利用することができる。中でも、昆虫細胞とバキュロウイルスベクターを用いた発現系は、本発明のワクチンの製造に有用である。
【0045】
バキュロウイルス(Autographa califorica nuclear polyhedrosis virus;AcNPV)は、昆虫を宿主とする、2本鎖の環状DNAゲノムを有するウイルスである。感染細胞の核内で作り出される多角体(polyhedra)が多くのウイルス粒子を含み、感染源となる。多角体を構成する蛋白質の一つである多角体蛋白質「ポリヒドリン」は、強力なプロモーターによって発現が制御されている。この強力なポリヒドリンプロモーターの活性を利用した発現系が、バキュロウイルス発現系である。
【0046】
ポリヒドリン遺伝子は、感染の後期には非常に高い発現量を示す。しかし、培養細胞においては、ウイルスの増殖に必須の蛋白質ではない。そこで、ポリヒドリンプロモーターの下流のポリヒドリン遺伝子を外来性遺伝子に組み換えれば、ポリヒドリンと同様の高発現を期待できる。バキュロウイルス発現系は、具体的には、次のようなステップにしたがって構築される。
−外来性遺伝子のトランスファーベクターへのサブクローニング
−組み換えウイルスの調製
−蛋白質の発現
【0047】
約130kbpの大きさを有するバキュロウイルスゲノムに、外来性遺伝子を直接挿入することは難しい。そこで外来性遺伝子は、まず10kb程度のプラスミドからなるトランスファーベクターに挿入される。トランスファーベクターとウイルスDNAを宿主細胞に同時にトランスフェクションし、相同組み換えを利用してウイルスに外来性遺伝子を組み込む。
【0048】
トランスファーベクターには、バキュロウイルス組み換え用の市販のベクターを利用することができる。たとえば、pVL1392、あるいはpVL1393(いずれもPharmingen製)、並びにpPAK8、あるいはpPAK9(いずれもClontech製)は、最も良く使われるトランスファーベクターである。その他に、N末端にシグナル配列を付加できるベクター、ヒスチジンタグを付加できるベクター、あるいは複数のプロモーターを配置したベクターなど、いろいろな機能を付加されたベクターも市販されている。これらの市販のベクターは、いずれも本発明に利用することができる。
【0049】
感染細胞の培養上清には、組み換えに成功したウイルスと、組み換えが起きていないウイルスの両方が産生されるので、必要に応じて組み換えウイルスを選択することができる。組み換えウイルスは、プラーク形成を利用して選択することができる。すなわち、組み換えウイルスを感染させた細胞は、多角体を形成できないために透明なプラークを形成することを利用して、組み換えウイルスを分離する。組み換えが起きていないウイルスは、大量の多角体を発現するので、白いプラークを形成する。得られた組み換えウイルスは、タイターを上げるために、必要に応じて感染を繰り返して、増幅することができる。
【0050】
組み換え効率が低い環状野生型AcNPVのDNAに対して、より組み換え効率を向上させた変異ウイルスも実用化されている。たとえば、市販の変異バキュロウイルスを用いた場合には、100%近い高い組み換え効率が期待できる。その結果、プラーク精製のステップは必須ではなくなっている。具体的には、Baculo Gold(TM) Linearized Baculovirus(Pharmingen製)や、BacPAK6 viral DNA Bsu 36 Idigested(Clontech製)等の変異バキュロウイルスが市販されている。
【0051】
バキュロウイルスの組み換えや、蛋白質発現には、昆虫細胞が利用される。最も一般的な宿主細胞は、昆虫細胞株Sf9である。Sf9は、Pharmingen、Clontech、あるいはATCCなどから購入することができる。その他、Sf21(Invitrogen, Pharmingen)、あるいはHigh fiveTM(Invitrogen)等の昆虫細胞も本発明に利用することができる。
【0052】
これらの昆虫細胞は、適当な培地中で維持することができる。培地には、たとえば、Grace Insect Medium、TMN−FH Insect Medium、あるいはExcell 400などの市販の培地を利用することができる。昆虫細胞は、一般に、27℃前後で培養され、動物細胞のようにCOは必須ではない。Sf9は、単層培養でも浮遊培養でも良く増殖する。
【0053】
昆虫細胞へのトランスファーベクター、およびバキュロウイルスDNAのトランスフェクションも公知である。具体的には、Lipofectin Reagentを使い、トランスファーベクターとバキュロウイルスDNAを細胞に感染させる。感染後、培養を継続すれば、培養上清に組み換えウイルスが産生される。上清中のウイルスを必要に応じて増幅し、更に大量の昆虫細胞に感染させて外来性遺伝子を大量発現させる。発現後の細胞を回収して、外来性遺伝子の発現産物を精製することができる。
【0054】
バキュロウイルス発現系は、大腸菌などを宿主とする発現系と比較して、一般に、次のような利点を有するとされている。
−発現量が高い
−分子量の大きい蛋白質の発現レベルも比較的高い
−動物細胞における発現と同様の翻訳後修飾が起きる
−複数種の蛋白質の発現と再構成が可能
【0055】
他方動物細胞発現ベクターとしては、大腸菌における複製に必要な複製遺伝子(ColE1 ori) と、哺乳動物細胞での発現を支える複製遺伝子 (SV40 ori) およびSV40初期プロモーターを持ったベクター等を利用することができる。このような発現ベクターの初期プロモーターの下流に前記a)−e)に記載のポリクレオチドを組み込み、大腸菌においてクローニングする。クローニングした発現ベクターを回収し、リン酸カルシウム沈殿法やリポソーム法によって適当な動物細胞(サル腎由来のCOS細胞など)に形質転換すれば、動物細胞でN蛋白質を発現させることができる。
【0056】
以上のようにして発現させた蛋白質は、公知の手法により精製して純粋な蛋白質とすることができる。精製のために、各種の結合性蛋白質との融合タンパク質としてN蛋白質を発現させ、これをアフィニティクロマトグラフィーによって精製する手法を応用することもできる。このような精製方法としては、ヒスチジンタグとの融合タンパク質をニッケルカラムで吸着精製する系等が公知である。アフィニティクロマトグラフィーなどで回収されたN蛋白質は、イオン交換クロマトグラフィー等を利用して更に精製することができる。
【0057】
本発明のワクチンに用いる蛋白質は、遺伝子組み換えによる生産方法の他、FIPVを感染させた培養細胞から得ることもできる。FIPVの培養には、哺乳動物由来の初代細胞あるいは株化細胞を使用することができる。特にネコに由来する細胞は、FIPVの培養に好適である。ネコ由来の株化細胞としては、例えばfcwf4細胞やCRFK細胞を示すことができる。これらの細胞は、細胞バンクから入手することができる。ネコ株化細胞を用いたFIPVの培養方法は公知である(Hohdatsu T, Sasamoto T, Okada S, Koyama H. Antigenic analysis of felinecoronaviruses with monoclonal antibodies (MAbs): preparation of MAbs which discriminate between FIPV strain 79−1146 and FECV strain 79−1683.VetMicrobiol. 1991 Jun;28(1):13−24.)。またブタやイヌなど他の動物由来の細胞も使用することができる。
【0058】
更に、ワクチンに必要な蛋白質は化学的に合成することができる。アミノ酸を順番に結合して目的とするアミノ酸配列を有するオリゴペプチドとする合成方法は、公知である。特に、比較的短いアミノ酸配列からなる蛋白質断片は、容易に化学的に合成することができる。あるいは、化学的な合成が難しい長いアミノ酸配列からなる蛋白質も、オリゴペプチドを相互に連結することによって合成することができる。
【0059】
得られたN蛋白質は、N蛋白質そのものをワクチンとして使用する他に、薬学的処方を適用して製剤化されうる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤などと適宜組み合わせて製剤化することができる。本発明のワクチンには、適宜アジュバントを配合することができる。
【0060】
本発明のワクチンには、任意のアジュバントを配合することによって、その作用を向上させることができる。本発明に利用することができるアジュバントとして、たとえば次のような成分を示すことができる。
アルミニウム塩などの無機物質、
微生物もしくは微生物由来物質
−BCG、
−ムラミルジペプチド、
−百日せき菌
−百日せきトキシン
−コレラトキシンなど
界面活性作用物質
−サポニン、
−デオキシコール酸など、
スクアレンとその関連物質
アジュバントは、単独で使用するか、もしくは複数の物質を組み合わせて使用することができる。ワクチン学の専門家ならば、実験により好適なアジュバントの組み合わせ決定することができる。アジュバントの種類により、主に液性免疫が刺激されるものと細胞性免疫が主に刺激されるものとが知られている。例えば液性免疫を主に刺激するアジュバントとしてリン酸アルミニウムが知られている。一方、Quil A や QS−21などのサポニン類、百日咳トキシン、コレラトキシンなどは細胞性免疫を刺激しやすいことが知られている。このような情報を参考にしながら、ある抗原との組み合わで使用する好適なアジュバントを選択することができる。
【0061】
また本発明は、前記a)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを有効成分として含有するネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防用ワクチンに関する。先に述べたようにa)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質は、ネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防用ワクチンとして有用である。したがって、前記a)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを生体に導入し、生体内で発現させることによって、本発明のワクチンの投与と同様の効果を期待できる。
【0062】
本発明のワクチンにおいて、前記ポリヌクレオチドは、発現可能な状態で生体内に導入される。そのためには、たとえば宿主において機能する発現制御領域の下流に前記ポリヌクレオチドを挿入したベクターとして、生体に導入することができる。発現制御領域として、薬剤感受性を有するプロモーターを用いれば、薬剤の投与によって目的とする遺伝子の発現を誘導することができる。このようなプロモーターとして、例えばカナマイシン感受性のプロモーターが知られている。あるいは、部位特異的に発現が誘導されるプロモーターを用いれば、目的とする遺伝子の発現部位を特定することができる。
【0063】
抗原をコードする遺伝子を生体に投与し、生体において発現させ、ワクチンとして作用させる手法は遺伝子ワクチンと呼ばれている。遺伝子ワクチンにおいては、発現させるべき抗原をコードする遺伝子が、適当なキャリアーとともにあるいはキャリアーを伴わずに生体内に導入される。適当な緩衝液に浮遊した十分な量のDNAを筋肉内に注射したのみでも蛋白質の発現を誘導できることが知られている。一方キャリアーを用いる場合には、ベクターや人工的な担体が利用される。
【0064】
ベクターには、ワクシニアウイルス(Vaccinia virus)などのウイルスベクターが利用される。ワクシニアウイルスは、186kbのDNAゲノムを有する、ポックスウイルス属のウイルスである。ワクシニアウイルスは、ワクチン(vaccination)の語源となった種痘ワクチンとして、既に多くのヒトが接種を受けた実績を有している。更にワクシニアウイルスは、核内に移行せず、細胞質内で転写と複製を行うため、導入した遺伝子が宿主のゲノムに組み込まれる危険性が少ない。したがって、ワクチンアウイルスは、科学的に見ても安全性が高いベクターとなりうる。加えてワクシニアウイルスベクターは、液性免疫よりも、細胞性免疫に対する刺激活性が大きいとされている。細胞性免疫を誘導しやすいという特徴は、細胞性免疫の重要性が高いFIPVの予防や治療において、有利な特徴である。
【0065】
ワクシニアウイルスの他には、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルスなどが遺伝子治療用のベクターとして利用されている。これらのウイルスベクターは、いずれも本発明に利用することができる。
【0066】
ウイルスベクター以外にも、人工的なキャリアーを用いた遺伝子ワクチンが試みられている。人工的なキャリアーとして、リポソームや金コロイド等を示すことができる。
たとえば正電荷したリポソームを負電荷を有するDNAに吸着させる。DNAを吸着したリポソームは、生体に投与されると、負電荷を有する細胞表面のリン脂質層に結合する。次いでDNAは、細胞膜への吸着やエンドサイトーシスによって細胞膜内に取りこまれる。このときDNAとしてプロモーターの下流に遺伝子を挿入したベクターを用いれば、当該遺伝子を導入された細胞内において、遺伝子は転写され蛋白質へと翻訳される。金コロイドは、遺伝子銃(gene gun)を使った遺伝子導入に用いられる。すなわち、プラスミド(naked DNA)を付着させた金コロイド粒子を、圧縮ガスを使って高圧接種する。金コロイド粒子が組織に入りこむときに、遺伝子が細胞内へ導入される。遺伝子銃を使った遺伝子の導入方法は、少量のDNAの導入で高い蛋白質発現レベルを達成することができる。つまり、少量のDNAで十分なワクチン効果を達成できることを意味している。
【0067】
本発明のワクチンの動物への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、動物の体重や年齢、投与方法、使用目的などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。たとえば、一般にネコのワクチンは、生後8週以降に2〜3週間隔で2回接種される。
本発明のワクチンは、ネコをはじめとするネコ科動物のFIPの予防および/または治療に有用である。疫学的、あるいはウイルス学的なデータに基づいて、野生ネコ科動物のFIPVも、ネコのそれに近いとされている。したがって、本発明のワクチンは、ネコ科動物においても有効である。
【0068】
加えて本発明は、前記a)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質との結合能を有する抗体を有効成分として含有するネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防用抗体製剤に関する。
【0069】
既に述べたとおり、前記a)−d)に記載されたポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質は、FIPVの増殖を抑制する免疫応答を誘導する一方、感染増強エピトープを含まない。その結果、この蛋白質の利用によって、安全性と予防効果に優れたワクチンを提供することができる。更に、前記a)−d)に記載されたポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質との結合能を有する抗体も、宿主への投与によって、ネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防効果を達成することができる。
これら蛋白質との結合能を有する抗体の投与は、蛋白質の投与によって誘導される免疫応答と類似した状態を、短期的に宿主に与えることができる。その結果、投与された抗体は、FIPVの増殖を抑制する。また前記蛋白質が感染増強エピトープを含まないことから、抗体に起因する感染増強は防止できる。
【0070】
本発明のネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防用抗体製は、前記a)−e)に記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質を抗原として、免疫動物を免疫することによって得ることができる。抗体を得る手法は任意である。たとえば、抗原を適当なアジュバントともに投与し、免疫動物の血液から抗血清を得ることができる。あるいは、免疫動物の抗体産生細胞を回収し、クローニングすることによってモノクローナル抗体を得ることもできる。本発明の抗体製剤は、抗体を投与する動物と同じ種に由来することが望ましい。同じ種に由来する抗体は、安全であり、治療、あるいは予防効果を、より容易に達成することができる。
【0071】
あるいは、異なる種に由来する抗体分子を、抗体工学的手法を利用して、ネコ化することもできる。たとえば、イムノグロブリンの定常領域をネコイムノグロブリンに置換したキメラ抗体を構築する技術が公知である。より具体的には、ネコイムノグロブリン遺伝子に、任意の動物のイムノグロブリンの可変領域をコードする遺伝子を接合することにより、イムノグロブリンの定常領域のみをネコ由来の蛋白質とすることができる。
【0072】
イムノグロブリンの定常領域は、可変領域に比べて異物と認識されやすい。したがって、定常領域をネコ由来とすることで、イムノグロブリンの安全性、並びに生体内における安定性を高めることができる。このテクノロジーを利用して、目的とする結合親和性を有する抗体をキメラ化すれば、ネコへの投与に適したイムノグロブリンを得ることができる。
このテクノロジーを利用して、ネコヘルペスウイルスおよびネコカリシウイルスに対するマウス・モノクローナル抗体を ネコ化したキメラ抗体が商品化されている(Umehashi M, Nishiyama K, Akiyama S, Kimachi K, Imamura T, Tomita Y, Sakaguchi S, Makino H, Shigaki T, Shinya N, Matsuda J, Tokiyoshi S. Development of Mouse−cat chimeric antibodies against feline viral rhinotracheitis and feline calicivirus infection. Sci. Rep. Chemo−Sero−Therap. Res. Inst., 6:39−48 (1997))。
【0073】
更に、ネコイムノグロブリンの超可変領域を、目的とする結合親和性を有する抗体の超可変領域と置換することによって、ネコ化抗体を得ることもできる。イムノグロブリンの可変領域は、抗原決定基との結合親和性を決定する相補性決定領域(complemantarity determining region;CDR)と、それを保持するフレーム領域とによって構成されている。CDRの構造は極めて高度なバリエーションを有し、超可変領域とも呼ばれている。一方フレーム部分の保存性は高い。抗原との結合親和性は、主にCDRによって決定されていることから、CDRを置換することによって、イムノグロブリンの結合親和性も変更することができる。
【0074】
具体的には、フレーム部分にアニールするプライマーをデザインし、PCRによってCDRをコードしているcDNAを取得する。得られたcDNAで、ネコイムノグロブリンのCDRを置換すれば、任意の種のイムノグロブリンから得たCDRを有するネコイムノグロブリンを得ることができる。つまり、目的とする結合親和性を有する任意の種のイムノグロブリンのCDRを、ネコイムノグロブリンのCDRと置換することによって、ネコイムノグロブリンに、必要な結合親和性を導入することができる。
【0075】
本発明の抗体製剤は、前記a)−d)に記載されたポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質に結合能を有する、完全なイムノグロブリン、あるいはその可変領域を有効成分として含有することができる。イムノグロブリンの抗原に対する結合活性は、可変領域によって維持されている。したがって、可変領域のみを有効成分として用いることができる。しかしながら定常領域は、補体との結合活性、リンパ球上のFc受容体との結合活性などの、免疫応答において重要な機能を有していることも事実である。したがって、定常領域を備えたイムノグロブリン分子を有効成分とする抗体製剤は、本発明の抗体製剤として好ましい。
【0076】
本発明の抗体製剤において、抗体とは、イムノグロブリンそのもののみならず、未精製のイムノグロブリンを含む。したがって、抗血清などのイムノグロブリン含有分画は、抗体に含まれる。一方イムノグロブリンは、抗体を構造的な特徴に基づいて説明するときに用いる用語である。抗体、およびイムノグロブリンは、必要とする結合親和性を有するイムノグロブリンを含む限り、本発明の抗体製剤として利用することができる。したがって、必ずしも精製抗体や、モノクローナル抗体である必要はない。
【0077】
抗体は、そのまま、あるいは薬学的処方を適用して製剤化されうる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤などと適宜組み合わせて製剤化することができる。
本発明の抗体製剤の動物への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、動物の体重や年齢、投与方法、使用目的などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0078】
加えて本発明は、本発明のワクチンあるいは本発明の抗体製剤を少なくとも1回ネコに投与するプロセスを含む、ネコ伝染性腹膜炎ウイルスの治療および/または予防のための方法に関する。本発明の方法は、ネコ(Felis catus)に属する全てのネコに適用することができる。ワクチンや抗体製剤の調製方法、そして動物への投与方法は、先に述べたとおりである。
【0079】
本発明のワクチンまたは抗体製剤は、ネコにおけるFIPVの予防および/または治療に有用である。本発明において、FIPVの予防とは、FIPVの感染経験の無い動物、あるいは感染の後の発症前の状態に有る動物への予防的な投与によって、発症を阻害する作用を言う。発症の阻害とは、たとえば次のような作用が含まれる。
発症そのものを防ぐ作用、
発症を遅らせる作用、
発症後の症状を軽減する作用
発症後の治癒を早める作用
発症後の延命率を向上させる作用、あるいは
発症した個体から他の個体への感染力を阻害する作用
【0080】
また本発明における治療とは、発症した個体への投与によって、疾患の症状を緩和する作用を言う。症状の緩和とは、たとえば次のような作用が含まれる。
症状を和らげる作用
治癒を早める作用、あるいは
発症後の延命率を向上させる作用
【0081】
加えて本発明は、前記a)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質とネコの血清をインキュベートし、該蛋白質と結合する抗体を検出する工程を含む、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス感染の検査方法に関する。実施例に示したように、KU−2に由来するN蛋白質は、FIPVの幅広い株の抗血清と強く反応する。このことは、KU−2のN蛋白質が、FIPVのワクチンとしての有用性が高いことを示すと同時に、診断用抗原としても有用であることを裏付けている。
【0082】
ウイルス感染症の診断は、一般に、生体試料中に含まれるウイルス抗原や抗ウイルス抗体を指標として実施される。特に抗ウイルス抗体は、ウイルス抗原が消失した後でも検知できるため、診断指標として重要である。抗ウイルス抗体の検出には、ウイルス抗原が必要である。
【0083】
一方、先にFIPVのI型に属するウイルスは、構造的な類似性が低いことを示した。そのため、被検動物の抗FIPV抗体の存在を確実に検出するためには、株ごとに異なる蛋白質を用意しなければならない可能性が考えられる。単一の蛋白質では、構造的に異なる抗原に対する抗体を検出できない恐れがある。一方本発明に基づく検査方法によれば、単一の蛋白質を抗原として、異なる株に対する抗血清を、十分な感度で検査することができる。したがって、本発明の検査方法は、ネコFIPVのスクリーニングに有用である。
【0084】
すなわち本発明は、前記a)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質とネコの血清をインキュベートし、該蛋白質と結合する抗体を検出する工程を含む、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス感染のスクリーニング方法を提供する。本発明において、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス感染のスクリーニング方法とは、不特定多数のネコを対象として、FIPVの感染経験を有する可能性のあるネコを見出すための検査方法を言う。
【0085】
特定の抗原を用いて抗体の検出を行う方法は公知である。たとえば、固相上に抗原を固定し、この抗原に結合する抗体を、抗体を認識する抗体(第2抗体)によって検出することができる。あるいは、試料中に含まれる抗体を固相上に捕捉し、この抗体に抗原を反応させることによって、抗原特異的な抗体の存在を検出することができる。いずれの方法においても、抗体や抗原は、検出を容易にするために標識しておくことができる。抗原や抗体の標識には、酵素、蛍光物質、発光物質、着色粒子、あるいは放射性同位元素などが用いられる。蛋白質に標識成分を結合させる方法は公知である。
【0086】
その他、抗原を感作した粒子担体の、抗体による凝集を指標として抗体を検出する方法も公知である。粒子凝集を指標とする方法は、固相と液相の分離を必要としないので、大量の試料を連続的に試験する方法として有用である。
【0087】
前記a)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質に結合する抗体が検出された個体は、FIPVの感染経験を有すると診断される。あるいは、抗体価の変化を追跡することで、症状の程度を診断することもできる。たとえば、抗体価の上昇は、ウイルスの増殖に引き続いて起こる。したがって、抗体価が上昇しつつある個体は、ウイルスの増殖を伴っている可能性が高い。症状が軽快した後に抗体価が低下すれば、その個体は回復している可能性が高いと診断される。
【0088】
本発明はまた、前記a)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質を含む、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス感染の検査用試薬に関する。本発明の試薬における前記a)−e)のいずれかに記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質は、上記の各種のイムノアッセイフォーマットに応じて、固相や粒子に固定することができる。また、上記の各種のイムノアッセイフォーマットに応じて、標識抗体、標識を検出するために必要な付加的な試薬、陽性対照、あるいは陰性対照等と組み合せて診断用キットとすることができる。
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
【0089】
【実施例】
〔1〕ウイルス蛋白質の精製
FIPV I型 KU−2株の由来:
ワクチン抗原の作製および組換え体の作製には、北里大学獣医畜産学部獣医伝染病学教室においてFIP発症ネコから分離されたFIPV KU−2株を使用した。本ウイルスはFIPV I型に分類される。
FIPV II型KU−1株の由来:
精製N蛋白質の作製には、北里大学獣医畜産学部獣医伝染病学教室においてFIP発症ネコから分離されたFIPV KU−1株を使用した。本ウイルスはFIPV II型に分類される。
ウイルスの培養:
ウイルスはネコ胎児由来株化細胞 feline catus whole fetus (fcwf−4) で培養した。培養液としてEagles minimum essential medium (E−MEM) とL−15 mediumを等量混合した培養液にウシ胎児血清 (fetal calf serum: FCS) を10%加えたもの使用した。
【0090】
ウイルス精製:
100 TCID50のウイルスを225cmのfcwf−4細胞に接種し37℃で1時間吸着後、培養液を加えCOインキュベーターで培養した。CPEを呈した細胞をセルスクレイパーで剥離し回収した。回収した細胞はNTE緩衝液(10mM Tris−HCl (pH7.0),100mMNaCl, 2mM EDTA)で3回洗浄した後NTE緩衝液5mLに浮遊させた。浮遊細胞をダウンス型ホモジナイザーで破砕した後、1,500xg 10分間遠心して細胞片を除去した。これを30%ショ糖NTE緩衝液に重層して200,000xg 2時間遠心しウイルス粒子を沈殿させた。沈殿をNTE緩衝液0.5mLで溶解した後15,000xg 5分間遠心し、その上清をウイルス溶液とした。
【0091】
蛋白分画:
精製ウイルスにサンプル緩衝液(100mM Tris−HCl (pH6.8), 4% SDS, 20% glycerol, 0.1% BPB)を加えて100℃で5分間加熱処理し、11%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動(SDS−PAGE)をおこなった。泳動後のゲルを取り出し、マーカー蛋白質の位置からN蛋白質の分子量に相当する位置を判断して、N蛋白質が含まれる位置のゲルを切り出した。マックスイールドGP蛋白質回収器(ATTO、東京)を用いて切り出したゲルに含まれる蛋白質を回収し、精製N蛋白質とした。得られた精製N蛋白質をウェスタンブロット、ELISA、皮内反応、およびサブユニットワクチンの抗原として使用した。
【0092】
〔2〕FIPV I型KU−2株の塩基配列
ウイルスRNAの調製:
FIPV I型FIPV KU−2株の精製ウイルスにSDSを0.5%加えた後、フェノール抽出、エタノール沈殿をしてRNAを回収した。乾燥したペレットをRNase freeの水に溶解してRNA溶液とした。
RT−PCR:
クローニングに用いたプライマーの塩基配列を以下に示した。
IMPr−3F(センス側)5’−ggggaattcaattaaaggcaactactgcca−3’(配列番号:3)BEP(dT)21(アンチセンス側)5’−ctgtgaattctgcaggatccttttttttttttttttttttt−3’(配列番号:4)
各プライマーにはクローニング用の制限酵素認識配列を付加した。
【0093】
逆転写酵素反応用緩衝液にマイナス鎖プライマー、逆転写酵素およびウイルスRNAを加えて42℃で1時間逆転写反応をおこないcDNAに転写した。PCR用緩衝液にPCR用プライマー、Taq polymeraseおよびcDNAを加え、95℃5min−(95℃1min−55℃1min−72℃2min)×30cycle−72℃5minのPCRを行いcDNAを増幅した。PCR産物の特異性は1% Agaroseゲル電気泳動で確認した。
【0094】
Cloning:
クローニングにはプラスミドベクターpUC18を使用した。PCR産物をエタノール沈殿後、滅菌蒸留水で溶解し、制限酵素用10倍緩衝液と制限酵素を加えて消化した。pUC18は同じ制限酵素で消化した後、アルカリフォスファターゼで脱リン酸化した。両者とも1%低融点アガロースゲルで電気泳動後DNAを含むゲルを切り出し、DNAを抽出・精製した。
Ligation用緩衝液に精製したPCR産物とベクターのDNA断片を混合し、DNA Ligaseを加えて15℃で1時間ライゲーション反応をおこなった。環状化したDNAを大腸菌JM109株のコンピテントセルにトランスフォームし、アンピシリン加寒天平板培地にプレーティングして37℃で一晩培養した。
【0095】
培地上にできたコロニーを釣菌して1.5mLのアンピシリン加L−Brothで1晩培養後、プラスミドを抽出して制限酵素で切断し、1%アガロースゲル電気泳動でDNA断片の大きさを確認して、クローニングの成否を確認した。クローニングされていることを確認した大腸菌を、アンピシリン加L−Broth 25mLで一晩培養し、組換えプラスミドDNAを抽出・精製した。
【0096】
塩基配列決定:
クローニングしたcDNAは更にM13mp18/19ファージベクターにサブクローニングし、得られたファージから精製した一本鎖DNAをシークエンスに使用した。塩基配列は、Dideoxynucleotide chain termination法に基づいて、オートシークエンサーで解析した。
塩基配列:
FIPVの遺伝子RNA の全長は約20kbのうち、我々はKU−2株についてその3’末端側の9.2kbの塩基配列を解析した。KU−2株のN蛋白質のcDNAの塩基配列および推定されるアミノ酸配列を図1に示した。N遺伝子は開始コドンATGから終始コドンTAAまで1,131塩基のORFからなり、377アミノ酸をコードしており、計算上42.5kDaの初期蛋白質を発現すると推定された。
【0097】
ホモロジー:
図2にFIPV I型に属するKU−2株、Black株、UCD1株、FIPV II型に属する79−1146株、ネコ腸コロナウイルス II型(FECV) 79−1683株、イヌコロナウイルス(CCV) Insvc1株、ブタ伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV) Purde株のN遺伝子のアミノ酸配列のアライメントを示した。このアミノ酸配列の比較により、KU−2株の遺伝子には他の6株にはない特徴的なアミノ酸変異が多数存在し、KU−2独自の配列を持つことが明らかになった。
表1にはN蛋白質のアミノ酸配列および塩基配列のホモロジーを示した。表中のホモロジーは、遺伝情報処理ソフトウェアGENETYXのマキシマムマッチングを用いて算出した。パラメーターは次のとおりである(Takashi K and Gotho O (1984) J. Biochem. 92: 1173−1177)。
matching condition:matches=−1, mismatches=1gaps=1, *N+=2
【0098】
【表1】


表中のウイルス名は、それぞれ以下のウイルスを示す。また表の数値は、対角線上に記載した100%の右上が塩基配列の、そして左下がアミノ酸配列の相同性を示す。
KU−2:FIPVのKU−2株/I型 (GenBank Accession No.AB086881)
Black:FIPVのBlack株/I型 (GenBank Accession No.AB086903)
UCD1:FIPVのUCD1株/I型 (GenBank Accession No.AB086902)
FIPV type II:FIPVの79−1146株/II型(GenBank Acc.#X56496)
FECV:ネコ・腸コロナウイルス(Feline Enteric Coronavirus)の79−1683株 (GenBank Accession No.AB086904)
CCV:イヌ・コロナウイルス(Canine coronavirus)のCCV Insavc−1株(GenBank Acc.#D13096)
TGEV:伝染性胃腸炎ウイルス(Transmissible gastroenteritis virus)のPurdue株(GenBank Acc.#M21627, M14878)
【0099】
KU−2株のN蛋白質のアミノ酸配列を他のウイルスと比較した場合、ネコのコロナウイルス即ちFIPV I型、II型、FECV II型に対しては90%程度、CCVとTGEVに対しては75%程度であった。またネコのコロナウイルス間で互いに比較した場合でも、それぞれが90%程度のホモロジーであり、これらのウイルスの間では、遺伝子の多くの部分は保存されているものの、それぞれが独自の遺伝子配列を持つことが示された。
【0100】
系統樹:
N遺伝子のアミノ酸配列から作成した系統樹を図3に示した。
N遺伝子の系統樹解析では、ネコのコロナウイルスであるFIPV I型、FIPV II型、FECVが一つのグループを形成しており、このグループはイヌ(CCV)やブタ(TGEV)のコロナウイルスとは距離が離れていることを示した。KU−2株のN遺伝子は、差は小さいものの、ネコのコロナウイルス内でもっとも離れた進化距離を持っていた。
【0101】
〔3〕組換えN蛋白質の発現
RT−PCR:
FIPV KU−2株の塩基配列を元に、N蛋白質の全長が発現できるようにN蛋白質のOpen Reading Frame (ORF) の上流と下流にPCR用プライマーを作製した。プライマーにはクローニング用の制限酵素認識配列(BamH IおよびSal I)を付加した。
FIPV KU−2株の精製ウイルスから調製したウイルスRNAを鋳型にして、Oligo dTプライマーを用いて逆転写反応をおこないcDNAを合成した。続けて95℃5min−(95℃1min−55℃1min−72℃2min)×30cycle−72℃5minのPCRを行いcDNAを増幅した。PCR産物の特異性は1% Agaroseゲル電気泳動で確認した。
【0102】
Cloning:
プラスミドベクターpFastBac1へのクローニングは、pUC18へのクローニングと同様に実施した。組換え用の制限酵素にはBamH IおよびSal Iを使用した。宿主大腸菌にはHB101株を使用した。クローニングされていることを確認した大腸菌は、アンピシリン加L−Broth 25mLで一晩培養し、組換えpFastBac1プラスミドDNAを抽出・精製した。
【0103】
組換えバキュロウイルスの作製:
精製プラスミドDNAを大腸菌DH10BAC株のコンピテントセルにトランスフェクトし、カナマイシン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン、IPTGおよびBluo−galを加えた寒天平板培地にプレーティングして37℃で一晩培養した。大腸菌DH10BAC株はバキュロウイルスシャトルベクターであるbMON14272を有し、組換えpFastBac1をトランスフェクトしたDH10BACは、N蛋白質遺伝子をbMON14272に組換えることができる。培地上にできたコロニーのうち白色コロニーを選択して釣菌し、カナマイシン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン加L−Broth 25mLで一晩培養して、組換えbMON14272 DNAを抽出・精製した。
精製した組換えbMON14272 DNAをCELLFECTINと混合し、シャーレ上のヨトウガ科由来細胞 spodoptera furugiperda (SF−9) にトランスフェクトした。トランスフェクト後、混合液を取り除き、10% FCS加TC−100培養液 (Insect Medium) にて2日間培養した。培養上清中に産生されたバキュロウイルスを回収し、この組換えバキュロウイルスを発現実験に使用した。
【0104】
組換え蛋白質の発現:
SF−9細胞を培養フラスコ(225cm)に1〜2×106 cells/mLで接種し2日間培養した。培養液を除去して組換えバキュロウイルスを接種し、27℃で1時間吸着後、FBS free TC−100培養液を加え培養した。培養96時間後に感染細胞を回収してリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))で洗浄し、0.2% NP−40 加RSB液 (0.01M NaCl, 0.0015M MgCl, 0.01M Tris−HCL (pH7.4)) を4mL加え細胞を溶解した。これを5,000rpm 10分間遠心し、沈殿をPBS(−) 1mLに浮遊したものを組換えN蛋白質として実験に使用した。
【0105】
〔4〕特異性の確認
ウェスタンブロット:
作製した抗原にサンプル緩衝液を加えて100℃で5分間加熱処理した後、11%ゲルのSDS−PAGEで展開した。ゲルを取り出し、セミドライタイプの転写装置を使用してPVDF膜に転写した。転写膜はPBS(−)で洗浄した後BlockAceに4℃で一晩浸漬しブロッキングした。
一次血清としてFIPV N蛋白質に対するモノクローナル抗体(Clone No. E22−2)、FIPV M蛋白質に対するモノクローナル抗体(Clone No. F18−2)およびFIPV S蛋白質に対するモノクローナル抗体(Clone No. 6−4−2)の培養上清を混合したもの使用した。転写膜を培養上清に浸漬して37℃で2時間反応させた後、0.05% Tween20加PBS(−)で3回洗浄した。これらのモノクローナル抗体は以下のとおり公知の抗体である。
Clone No. E22−2およびClone No. F18−2:
(Hohdatsu T, Sasamoto T, Okada S, Koyama H. Antigenic analysis of felinecoronaviruses with monoclonal antibodies (MAbs): preparation of MAbs which discriminate between FIPV strain 79−1146 and FECV strain 79−1683.Vet
Microbiol. 1991 Jun;28(1):13−24.)
Clone No. 6−4−2:
(Hohdatsu T, Okada S, Koyama H. Characterization of monoclonal antibodies against feline infectious peritonitis virus type II and antigenic relationship between feline, porcine, and canine coronaviruses. Arch Virol. 1991;117(1−2):85−95.)
【0106】
2次血清としてHRPO標識ウサギ抗マウスIgG+M+Aを使用した。標識抗体を加えた血清希釈液に浸漬して37℃で1時間反応させた後、0.05% Tween20加PBS(−)で3回洗浄した。転写膜を基質液 (0.02% DAB, 0.006% H, 0.05M Tris−HCl (pH7.6)) に5〜20分程度浸漬して発色させた後、蒸留水で洗浄し反応を停止させた。
FIPV KU−2株のN蛋白質はそのアミノ酸配列から計算して約45kDaの発現産物と推定された。実際に昆虫細胞で発現した組換え蛋白質は40〜45kDaの位置に特異バンドとして検出され、組換えFIPV N蛋白質であることを確認した(図4)。また精製N蛋白質も同様の位置に特異バンドを認めた(図5)。
【0107】
ELISA:
作製した抗原を固相化用緩衝液(0.1M炭酸緩衝液)で2倍〜128倍まで2倍階段希釈してELISAプレートに分注し、4℃で一晩静置して固相化した。各wellは0.05% Tween20加PBS(−)で3回洗浄しELISAに用いた。
一次血清として抗FIPV N蛋白質モノクローナル抗体(Clone No. E22−2)の培養上清を使用した。固相化wellに培養上清を0.1mL/wellで分注し37℃で1時間反応させた後、0.05% Tween20加PBS(−)で3回洗浄した。2次血清としてHRPO標識ウサギ抗マウスIgG+M+Aを 使用した。標識抗体を加えた血清希釈液で37℃で1時間反応させた後、0.05% Tween20加PBS(−)で3回洗浄した。TMB基質液を0.1mL/well分注し、常温で20分間の反応後、HSOを0.05mL/well加えて450nmの吸光度を測定した。
組換えN蛋白質(図6)と精製N蛋白質(図7)は、共に抗FIPV N蛋白質モノクローナル抗体に対してのみ抗原量依存的に反応し、その特異性が確認できた。
【0108】
〔5〕ワクチンの作製
抗原の調製:
抗原量の測定にはウェスタンブロッティングを用いた。作製した抗原を8倍〜512倍まで2倍階段希釈してSDS−PAGEをおこない、抗FIPV N蛋白質モノクローナル抗体(Clone No. E22−2)を使用したウェスタンブロッティングで検出した。検出可能な最も希釈倍率が高いレーンに含まれる抗原量を1ユニットと定め、その希釈の逆数を原液の抗原量とした。ワクチン1用量に16ユニットの抗原量が含まれるようにPBS(−)で希釈して調整した。
【0109】
アジュバント:
アジュバントとして日本国内で市販されているネコ用3種混合不活化ワクチンであるフェリドバックPCR(InterVet社)を用いた。本ワクチンにはAdjuvant L80と水酸化アルミニウムが含まれている。16ユニット/mLに調整した抗原1mLとフェリドバックPCR 1mL(1用量)を混合し、良く混和してワクチンとした。このワクチン2mLを1用量とした。
【0110】
〔6〕免疫試験(1)
動物:
実験動物には7〜9ヶ月齢のSPFネコを用いた。組換えN蛋白質ワクチンの免疫群に4頭を使用した。攻撃対照群には4頭を使用し、SF−9細胞を組換えN蛋白質の回収方法と同様に処理して得られた抗原を免疫した
【0111】
ワクチン接種:
ワクチン1用量を3週間隔で3回、頸部皮下に接種した(図8)。各免疫の直前に採血をして、その血清の抗体価を測定した。
ELISAによる抗体価測定:
精製N蛋白質を2単位(およそ100ng/well)になるように固相化用緩衝液で希釈してELISAプレートに分注し、4℃で一晩固相化した。洗浄後、1次血清として採血したネコの血清を抗体希釈液で100倍に希釈して37℃1時間反応させた。洗浄後、HRPO標識抗ネコIgを37℃1時間反応した。洗浄後、基質液を加え常温で20分発色させ、反応停止液を加えて450nmで吸光度を測定した。
【0112】
組換えN蛋白質のワクチンを接種した群のいずれのネコも、2回免疫後3週目(3回目の免疫時)の時点では抗体価の上昇はみられなかったが、3回免疫後4週目(攻撃時)には抗体価の上昇が確認された。このうちCat No.221では顕著な抗体価の上昇が確認されたが、残りの3頭に関しては弱い反応のみが認められた。対照としてSF−9細胞から調製した抗原を接種した群では4頭ともELISA O.D.値の上昇は認められなかった(図9)。
【0113】
中和抗体価の測定:
96 wellプレートで2倍階段希釈したネコ血清0.025mLと200 TCID50/0.025mLに調整したウイルス液を等量混合し、4℃で24時間反応させた。これにfcwf−4細胞を1×10/well加え48時間培養した。CPE(細胞変性効果)を完全に抑制したネコ血清の最高希釈倍数の逆数を中和抗体価とした。
【0114】
また、通常抗N蛋白質抗体は中和活性を持たないため、N蛋白質の免疫により産生された抗体では抗体単独でCPEを抑制することが難しいと考え、補体を添加した中和試験を実施した。即ち、200 TCID50/0.025mLに調整したウイルス液に10%ウサギ血清(補体)を加えて同様に反応させた。
組換えN蛋白質免疫群の中和抗体価は免疫開始時と3回免疫後4週目(70日目)のいずれにおいても、補体の存在に関わらず全てのネコにおいて10倍以下となった。SF−9細胞抗原接種群においても同様の結果となった(表2)。
【0115】
【表2】


【0116】
細胞性免疫の測定:
ワクチンにより付加された細胞性免疫の程度を確認するために、精製N蛋白質抗原に対する遅延型過敏反応を皮内反応として測定した。
左の脇腹を剃毛し後70%エタノールで消毒し、N蛋白質抗原(0.1mg/mL)及びコントロールとしてPBS(−)を0.1mLずつ皮内接種した。抗原接種部位は約4cmの間隔をもって接種した。接種後24、48、72、96時間に接種部位に現れた腫脹の範囲をノギスで測定することにより測定した。
組換えN蛋白質免疫群の全てのネコで精製N蛋白質に対し反応が見られた。Cat No. 217では接種後24時間後から腫脹が認められ、その後反応は低下し96時間後には消失した。Cat No. 191およびCat No. 221では同様に24時間後から腫脹が認められ、その後低下したが96時間後でも2〜3mm程度の腫脹が認められた。Cat No. 6では72時間後に腫脹が認められたが最大時で2mmと反応が弱く96時間後には消失した(図10)。PBS(−)に対しては、全てのネコにおいて腫脹は認められなかった。この結果から、組換えN蛋白質のワクチンにより細胞性免疫が付与されていることが確認できた。
【0117】
〔7〕攻撃試験(1)
攻撃方法:
免疫試験(1)のネコに対し、3回目の免疫後4週目に攻撃試験を実施した(図8)。
攻撃用ウイルスとしてFIPVのII型である79−1146株を用い、その10TCID50(1mL)を経口および経鼻により接種した。臨床症状はウイルス接種日から実験終了まで毎日観察した。体温、体重は3日毎に測定した。同じく3日毎に直腸拭い液を採取して後の実験に使用した。また、6日ごとに採血して血清を分離し、後の実験に使用した。
【0118】
生存率:
攻撃対照群は4頭中4頭がFIPを発症し、Cat No. 170が攻撃後23日目、No. 173が26日目、No.210が31日目、No. 163が44日目に死亡した。これに対して、組換えN蛋白質ワクチン接種群のネコは、Cat No. 191がFIPを発症して48日目に死亡したものの、残りの3頭においては、感染は認められたものの発症を防御することができ、生残した(図11)。
【0119】
体温の推移:
組換えN蛋白質抗原免疫群では、攻撃直後に共通して発熱が認められたものの、その後の経過は個体により異なっていた。Cat No. 217は接種後3日目に40℃を越える発熱が認められたが、その後は平熱が続いた。No. 221は接種後3日目と27日目から42日目にかけて40℃近いまたは越える発熱が認められたがその後低下した。No. 191は3日目と27日目から33日目にかけて40℃を越える発熱が認められ、その後体温は急激に低下し48日目に死亡した。No. 6は3日目に40℃を越える発熱が認められたが、その後は平熱が続いた。
一方、攻撃対照群では4頭ともに二峰性の発熱が確認された。Cat No. 163は3日目と18〜21日目、30〜36日目に40℃近いまたは越える発熱が認められ、その後急激に体温が低下し、44日目に死亡した。No. 210は3日目と12〜27日目にかけて40℃を越える発熱が認められ31日目に死亡した。No. 170は3日目と15〜18日目にかけて40℃に近いまたは越える発熱が認められ、その後急激に体温が低下し23日目に死亡した。No. 173は3日目と18〜21日目にかけて40℃を越える発熱が認められ、その後急激に体温が低下し26日目に死亡した。
【0120】
体重の推移:
組換えN蛋白質免疫群のうちCat No. 217とNo. 6の2頭の体重は順調に増加し、No. 221ではわずかな減少が認められたがほぼ一定に維持した。No. 191は急激な減少はなかったが徐々に減少し48日目に死亡した。攻撃対照群では4頭ともにウイルス攻撃後から急激に減少し始め、死亡時まで減少を続けた。
【0121】
ELISA抗体価:
攻撃後6日毎の血清中の抗体価を精製N蛋白質を抗原に使用したELISAにおいて測定した(図12)。
組換えN蛋白質免疫群の4頭のうちワクチン免疫による反応が高かったCat No. 221は、攻撃直後から抗体価の上昇が始まり18日目頃にはプラトーに達した。ワクチン免疫による反応が低かった残りの3頭は攻撃後6日目から抗体価が上がり始めたが、やはり18日目頃にはほぼプラトーに達した。攻撃対照群の抗体価は4頭ともに攻撃後6日目から上がり始めたが、その反応は免疫群に比較して急激ではなく、12日目では抗体価はあまり上がらなかった。いずれのネコの抗体価も死亡時まで上昇し続けた。
【0122】
中和抗体価:
攻撃時、攻撃後12日目、攻撃後60日目あるいは死亡時の血清に関して中和試験(補体不使用)を行った(表3)。
【0123】
【表3】


【0124】
組換えN蛋白質免疫群の中和抗体価は、攻撃時には4頭全てのネコで10倍以下であった。攻撃後12日後にはELISAで高い反応を示したNo. 221の中和抗体価は160倍であったが、他の3頭は20〜40倍であった。攻撃後60日目あるいは死亡の中和抗体価は、生存した3頭のうち1頭が1600、2頭が6400倍、死亡した1頭は6400倍であった。攻撃対照群の中和抗体価は、攻撃時には4頭ともに10倍以下、攻撃後12日目には4頭ともに80倍、死亡時には800〜6400倍であった。免疫群、攻撃対照群あわせて中和抗体価と経過(生死)との相関は認められなかった。
【0125】
ウイルス分離:
攻撃後3日毎に採取した直腸拭い液からRNAを抽出し、RT−PCRでウイルス遺伝子を検出することにより、生体内におけるウイルスの増殖を確認した(表4)。
【0126】
【表4】


【0127】
ウイルスRNA抽出には市販のキットSepa Gene RV−R(三光純薬、東京)を使用した。抽出したRNAに水0.007mLを加えて溶解し、精製RNA溶液とした。精製RNA溶液を80℃、5分間加熱後急冷して熱変性を行った。これに逆転写酵素用緩衝液とプライマーおよび逆転写酵素を混合して42℃1時間反応しcDNAを合成した。PCR用緩衝液にPCR用プライマー、Taq polymerase及びcDNAを加え30 cycleのPCRを実施した。PCR産物は1% Agaroseゲル電気泳動で確認し、特定の位置にバンドが検出されたものを陽性と判定した
組換えN蛋白質免疫群では2頭でウイルスが検出された。Cat No.191は攻撃後18日目に、No. 6は3日目と18日目にそれぞれRNAが検出された。攻撃対照群では3頭からウイルスが検出された。Cat No.163は12日目と15日目に、No.170は3日目と9〜18日目に、No. 173は3日目にウイルスが検出された。Cat No. 6、170、173では攻撃3日目にウイルスが検出されたが、これは攻撃直後の発熱の時期と重なる。ウイルス分離の結果と生死に関しては相関性を確認できなかった。
【0128】
〔8〕免疫試験(2)
動物:
6ヶ月齢のSPFネコを使用し免疫試験(1)と同様に実施した。
組換えN蛋白質ワクチンの免疫群に4頭、FIPV II型 KU−1株由来の精製N蛋白質ワクチンの免疫に4頭、攻撃対照群に4頭を使用した。
ワクチン接種:
ワクチン接種は免疫試験(1)と同様に実施した(図13)。
ELISAによる抗体価測定:
組換えN蛋白質免疫群では、2回免疫3週目で数頭がわずかな反応を示し、3回免疫4週目には4頭ともに明らかな上昇が認められた(図14)。精製N蛋白質免疫群でも2回免疫3週目に数頭がわずかな反応を示し、3回免疫4週目には4頭ともに明らかな上昇が認められ、その値は組換えN蛋白質免疫群よりも高かった。一方、対照群では4頭ともに反応は認められなかった。
【0129】
中和抗体価の測定:
中和抗体の測定は、免疫開始前と3回免疫4週目(攻撃前)の血清について、補体を使用しない方法でのみ実施した。
組換えN蛋白質免疫群、精製N蛋白質免疫群、対照群のいずれの群においても、免疫前・免疫後ともに全頭で10倍以下を示し、中和抗体は検出できなかった(表5)。
【0130】
【表5】


【0131】
細胞性免疫の測定:
細胞性免疫を免疫試験(1)と同様に精製N蛋白質に対する遅延型過敏反応として測定した。結果は各群4頭の平均値として図15に示した。
組換えN蛋白質免疫群では接種後24時間後から腫脹が認められ、この24時間をピークとしてその後は徐々に消失した。精製N蛋白質免疫群では接種後24時間後から腫脹が認められ、48時間後に最大となってその後は低下したが、96時間後でも1mm程度の腫脹が残った。
【0132】
〔9〕攻撃試験(2)
攻撃方法:
免疫試験(2)のネコに対し、攻撃試験(1)と同じ方法でFIPV 79−1146を感染させた(図13)。臨床症状の観察、体温、体重の測定、採血および直腸拭い液採取は攻撃試験(1)と同様に実施した。加えて咽喉頭拭い液を3日毎に採取しウイルス分離に供した。
生存率:
攻撃対照群ではCat No. 249が攻撃後23日目に、No. 178が29日目に、No. 181が60日目に死亡したもののNo. 244は生残し、結果として4頭中3頭が死亡した(図16)。これに対し、組換えN蛋白質を免疫した群ではCat No. 177が19日目に死亡したのみで3頭が生残した。精製N蛋白質の免疫群ではCat No. 180が19日目、No. 175が77日目、No. 252が78日目に死亡し、結果として4頭中3頭が死亡したものの、攻撃対照群に比較すれば延命効果が認められ、ある程度の効果は確認できた。
【0133】
体温の推移:
組換えN蛋白質免疫群のうちCat No. 177は攻撃後から体温上昇を続け、15日目にピークに達した後急激に低下して死亡した。No. 242は3日目に発熱した後、一度低下するものの30日頃から再度発熱ししばらく持続した。他の2頭は感染初期の発熱は認めたもののその後はほぼ平熱に経過した。
精製N蛋白質免疫群のうちCat No. 180は攻撃3日目と12日目に40度を超える発熱急激に低下し死亡した。No. 252は40℃前後の高熱で推移した後、徐々に体温低下し死亡した。No. 175は感染初期の発熱の後はほぼ平熱を維持したものの、72日目に再度高熱を発し77日目に死亡した。No. 243はほぼ平熱を維持した。攻撃対照群のうちCat No. 244はほぼ平熱で推移した。死亡した3頭では感染初期の発熱の後12日目頃に一度低下したが、すぐに再発熱し、死亡する数日前に体温低下するまで持続した。
【0134】
体重の推移:
組換えN蛋白質免疫群のうち、死亡したCat No. 177は感染直後から減少を続けた。No. 245とNo. 247は順調に増加したが、No. 242は徐々に減少した。精製N蛋白質免疫群では、Cat No.180は急激に減少して死亡したがNo.252 は徐々に減少して死亡した。No. 175は体重の増加がみられたもののNo. 252と同時期に死亡した。No. 243は順調に体重増加した。攻撃対照群では、生残したCat No. 244はわずかに体重増加がみられたが、死亡した3頭は感染直後から死亡時まで減少し続けた。
【0135】
ELISA抗体価:
攻撃後6日毎の血清中の抗体価を精製N蛋白質のELISAで測定した(図17)。組換えN蛋白質免疫群と精製N蛋白質免疫群では基本的に違いはなく、攻撃6日目には抗体上昇がみられ12日目にはプラトーに達した。精製N蛋白質免疫群のうちCat No. 180は攻撃時には既に高値であったが、攻撃後さらに上昇した。攻撃対照群では4頭ともに攻撃後12日目から反応が見られ、30日目頃にはプラトーに達した。
【0136】
中和抗体価:
中和抗体価の推移に関しては組換えN蛋白質免疫群、精製N蛋白質免疫群、攻撃対照群ともに基本的な違いは認められなかった(表5)。いずれのネコも攻撃前には10倍以下であったが、攻撃後12日目には10〜40倍の抗体価を示し、感染後60日に生存したものでは3200〜6400倍以上となった。60日以前に死亡したものに関しては、80〜200倍で低かったが、抗体が十分に産生される前に死亡したものと考えられた。
【0137】
Fcwf4細胞を用いたウイルス分離:
48穴プレートで培養したfcwf−4細胞に咽喉頭拭い液および直腸拭い液をそれぞれ0.05mL/well接種し、37℃で1時間吸着した。細胞面を培養液で洗浄後、維持用MEMを0.5mL/well加えて37℃で培養した。2日以内にCPEが観察できたものを陽性とした。その結果はRT−PCRとほぼ同様の結果を示した。直腸拭い液からのウイルス分離では攻撃6日目〜15日目の間に、組換えN蛋白質免疫群の2頭と精製N蛋白質免疫群の1頭が、それぞれ1ないし2日陽性となった(表6)。
【0138】
【表6】


咽喉頭拭い液からのウイルス分離では、各群ともに全頭が陽性となり、攻撃後3〜9日目の間ではほとんどの個体からウイルスが分離された(表7)。
【0139】
【表7】


【0140】
ウイルス分離(RT−PCR):
攻撃試験(1)における直腸拭い液からのウイルス分離は感度が低かったために、攻撃試験(2)では咽頭喉拭い液からウイルス分離も実施した。直腸拭い液と咽喉頭拭い液は攻撃後3日毎に採取し実験に用いた。直腸拭い液からのRT−PCRでは攻撃試験(1)とほぼ同様の結果が得られ、組換えN蛋白質免疫群では4頭中3頭、精製N蛋白質免疫群では2頭、攻撃対照群では3頭が、それぞれ1〜2日陽性になった(表6)。咽喉頭拭い液からのRT−PCRでは各群ともに全頭が陽性となり、攻撃後3〜9日目の間ではほとんどの個体からウイルスが検出された。しかし攻撃後15日目にはCat No. 180を除き陰転した(表7)。
【0141】
〔10〕大腸菌発現抗原に対するネココロナウイルス感染ネコ血清の反応性
大腸菌による組換え蛋白質の発現:
大腸菌における発現にはglutathion S−transferase (GST) との融合蛋白質を発現するプラスミドベクターpGEX−2T (Pharmacia) を使用した。N蛋白質の発現にはFIPV I型であるKU−2株の遺伝子を使用した。N蛋白質全域が発現するように開始コドンATGから終始コドンTAAまでをGSTコード領域下流のクローニングサイトに挿入した。S蛋白質の発現にはKU−2株とFIPV II型であるKU−1株の遺伝子を使用した。S蛋白質のうち、特に株による変異が大きい領域であるシグナルペプチド配列を除くN末端の約250アミノ酸をコードする領域を、N蛋白質と同様にクローニングした。トランスフォームを確認した大腸菌を37℃で2時間培養した後、IPTGを1mM加えて更に3時間培養し、組換え蛋白質の発現を誘導した。この菌液を遠心して菌体を集め、緩衝液で洗浄した後ウェスタンブロッティングアッセイに使用した。FIPV I型KU−2株N蛋白質とGSTの融合蛋白質をrIExN 、FIPV I型KU−2株S蛋白質の一部とGSTの融合蛋白質をrIExS、FIPV II型KU−1株S蛋白質の一部とGSTの融合蛋白質をrIIExSとした。
【0142】
感染ネコ血清:
SPFネコ5頭に、FIPV I型のKU−2株、Black株、UCD1株、FIPV II型の79−1146株、FECV II型の79−1683株の培養液をそれぞれ接種して感染させ、経時的に採血をして抗体価が最大になった時の血清を感染ネコ血清とした。
【0143】
ウエスタンブロット:
作製した抗原にサンプル緩衝液を加えて加熱処理した後、11%ゲルのSDS−PAGEで展開した。ゲルを取り出してPVDF膜に転写し、洗浄後BlockAceに4℃で一晩浸漬しブロッキングした。一次血清として各ネココロナウイルスに感染した感染ネコ血清を使用した。転写膜を一次血清に浸漬して37℃で2時間反応させた後、0.05% Tween20加PBS (−)で3回洗浄した。2次血清としてHRPO標識抗ネコIgG+M+Aを使用した。標識抗体を加えた血清希釈液に浸漬して37℃で1時間反応させた後、0.05% Tween20加PBS(−)で3回洗浄した。転写膜を基質液 (0.02% DAB, 0.006%H, 0.05M Tris−HCl (pH7.6)) に浸漬して発色させた後、蒸留水で洗浄し反応を停止させた。結果は図18に示した。
【0144】
FIPV I型であるKU−2株とBlack株の感染ネコ血清はrIExS蛋白質とrIExN蛋白質に反応したが、UCD1株感染ネコ血清はrIExN蛋白質に反応したがrIExS蛋白質には反応しなかった。FIPV II型である79−1146株の感染ネコ血清はrIIExS蛋白質とrIExN蛋白質に反応した。FECV II型である79−1683株感染ネコ血清はrIExN蛋白質にのみ反応した。即ち、KU−2株の組換えN蛋白質はいずれのネココロナウイルス感染血清に対しても良好な反応性を示した。
【0145】
【発明の効果】
本発明は、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス感染の治療および/または予防のためのワクチン、並びに方法を提供する。本発明のワクチンは、前記a)−e)に記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質を抗原として利用する。これらの蛋白質の利用によって、幅広い株に対する予防および/または治療効果を期待できるワクチンとすることができる。またこれらの蛋白質が感染増強エピトープを含まないため、本発明のワクチンには高い安全性を期待できる。
【0146】
ネコ伝染性腹膜炎ウイルスは、発症後は致死的な経過を取ることが多い重篤な感染性疾患である。これまでに様々なワクチンが試みられてきたが、その評価は定まっていない。一方本発明のワクチンは、既知のワクチンに比較して予防効果に優れ、かつ安全性も高い。したがって、本発明のワクチンの、ネコ伝染性腹膜炎ウイルスの予防や治療における有用性は明らかである。
【0147】
更に本発明は、前記a)−e)に記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質を抗原として利用する、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス感染の診断方法、並びにそのための試薬を提供する。本発明の診断方法あるいは診断試薬は、幅広い株の感染を、容易にかつ迅速に診断することができる。ネコ伝染性腹膜炎ウイルス感染の診断方法に基づくスクリーニングによって、この疾患の感染状況の調査に有用である。感染状況の調査は、FIPVの予防医学上、重要な情報となる。
【0148】
【配列表】











【図面の簡単な説明】
【図1】FIPVのI型KU−2株由来のN蛋白質遺伝子の塩基配列、およびアミノ酸配列を示す。
【図2】FIPV および近縁のウイルスのN蛋白質のアミノ酸配列のアライメント結果を示す図。各配列は上から順に、FIPVのI型KU−2株、Black株、UCD1株、FIPV II型79−1146株、FECV II型79−1683株、CCV Insvc1株、およびTGEVPurde株のN蛋白質のアミノ酸配列を示す。図中、...はKU−2株と同じアミノ酸残基であることを、−はギャップを示す。
【図3】FIPVのI型KU−2株、Black株、UCD1株、FIPV II型79−1146株、FECV II型79−1683株、CCV Insvc1株、およびTGEV Purde株のN遺伝子のアミノ酸配列から計算した系統樹。図中の数字は進化距離を示す。
【図4】ウエスタンブロット法による、バキュロウイルス組み換えN蛋白質抗原の特異性の解析結果を示す写真。図中の矢印はN蛋白質のバンドの位置を示す。a,b,c,d,e,f,gはそれぞれ8倍、16倍、32倍、64倍、128倍、256倍および512倍希釈したバキュロウイルス組み換えN蛋白質抗原を示す。hは精製FIPV可溶化抗原を示す。
【図5】ウエスタンブロット法による、精製FIPV抗原由来N蛋白質の特異性の解析結果を示す写真。図中の矢印はN蛋白質のバンドの位置を示す。aは精製FIPV抗原由来N蛋白質、cは精製FIPV可溶化抗原を示す。
【図6】ELISA法による、バキュロウイルス組み換えN蛋白質抗原の特異性の解析結果を示す図。横軸は抗原の希釈倍数、縦軸は450nmの吸光度を示す。
【図7】ELISA法による、精製FIPV抗原由来N蛋白質の特異性の解析結果を示す図。横軸は抗原の希釈倍数、縦軸は450nmの吸光度を示す。
【図8】免疫試験(1)および攻撃試験(1)の日程を示す図。
【図9】上はELISA法による、バキュロウイルス組み換えN蛋白質抗原接種後の抗体価の測定結果を示す図。下はSF−9細胞抗原接種後の抗体価を示す図。図中の数字は実験に用いたネコの番号を示す。横軸は抗原接種後の時間経過、縦軸は450nmの吸光度を示す。
【図10】バキュロウイルス組み換えN蛋白質抗原免疫ネコにおける遅延型過敏症反応を示す図。図中の数字は実験に用いたネコの番号を示す。横軸は抗原接種後の時間、縦軸は腫脹の範囲を示す。
【図11】FIPV79−1146株攻撃後の生存率の推移を示す図。横軸は79−1146株接種後の日数、縦軸は生存率を示す。実線はバキュロウイルス組み換えN蛋白質抗原免疫ネコの生存率、破線はSF−9細胞抗原を接種したネコの生存率を示す。
【図12】上は、バキュロウイルス組み換えN蛋白質抗原接種群における79−1146株接種後の抗FIPV抗体価の推移を示す図。下は、SF−9細胞抗原接種群における79−1146株接種後の抗FIPV抗体価の推移を示す図。図中の数字は実験に用いたネコの番号を示す。横軸は、79−1146株接種後の日数、縦軸は450nmの吸光度を示す。
【図13】免疫試験(2)および攻撃試験(2)の日程を示す図。
【図14】上はELISA法による、バキュロウイルス組み換えN蛋白質抗原接種後の抗体価の測定結果を示す図。中央は精製FIPV抗原由来N蛋白質接種後の抗体価を示す図。下はSF−9細胞抗原接種後の抗体価を示す図。図中の数字は実験に用いたネコの番号を示す。横軸は抗原接種後の時間経過、縦軸は450nmの吸光度を示す。
【図15】バキュロウイルス組み換えN蛋白質抗原免疫ネコおよび精製FIPV抗原由来N蛋白質抗原免疫ネコにおける遅延型過敏症反応を示す図。横軸は抗原接種後の時間、縦軸は腫脹の直径を示す。
【図16】FIPV79−1146株攻撃後の生存率の推移を示す図。横軸は79−1146株接種後の日数、縦軸は生存率を示す。
【図17】上は、バキュロウイルス組み換えN蛋白質抗原接種群における79−1146株接種後の抗FIPV抗体価の推移を示す図。中央は、精製FIPV抗原由来N蛋白質抗原接種群における79−1146株接種後の抗FIPV抗体価の推移を示す図。下は、SF−9細胞抗原接種群における79−1146株接種後の抗FIPV抗体価の推移を示す図。図中の数字は実験に用いたネコの番号を示す。横軸は、79−1146株接種後の日数、縦軸は450nmの吸光度を示す。
【図18】大腸菌発現抗原に対するネココロナウイルス感染ネコ血清の反応性を調べたウエスタンブロッティングアッセイの結果を示す写真。各レーンは、レーンの上に示した抗原をブロッティングしたフィルターで、その上に記載したコロナウイルス株を感染させたネコの血清を反応させた結果を示している。
【出願人】 【識別番号】390027214
【氏名又は名称】社団法人北里研究所
【出願日】 平成14年7月4日(2002.7.4)
【代理人】 【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志

【識別番号】100108774
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 一憲

【公開番号】 特開2004−35494(P2004−35494A)
【公開日】 平成16年2月5日(2004.2.5)
【出願番号】 特願2002−196290(P2002−196290)