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【発明の名称】 魚類の色素上皮の発達抑制方法
【発明者】 【氏名】堀江 秀典
【住所又は居所】神奈川県足柄上郡中井町境430 グリーンテクなかい 富士ゼロックス株式会社内

【要約】 【課題】魚体外部から魚体内部の動態を容易に観察出来るように、魚体、特にゼブラフィッシュの体表面の色素上皮の発達を制御する手法の開発を課題とする。

【解決手段】青、緑、赤の錐体並びにカン体を有する魚類を、下地白の水槽で飼育することにより解決できることを見出した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
青、緑、赤の錐体並びにカン体を有する魚類を、下地白の水槽で飼育することを特徴とする魚類の色素上皮の発達抑制方法。
【請求項2】
青、緑、赤の錐体並びにカン体を有する魚類が、ゼブラフィッシュであることを特徴とする請求項1記載の色素上皮の発達抑制方法。
【請求項3】
青、緑、赤の錐体並びにカン体を有する魚類を、受精卵の状態から下地白の水槽で飼育することにより、体表面の色素を抑制した魚類を育成することを特徴とする魚類育成方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゼブラフィッシュの体表面の色素上皮の発達を制御する方法の開発に関する。更に詳しくは、色素上皮の発達を抑制することにより機能蛋白質の動態をより鮮明により長時間捉まえることを可能ならしめることに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、発生生物学ではショウジョウバエや線虫によって研究が行われてきたが、脊椎動物ではあまり有効な実験動物がなかった。魚体内の成分の動態を観察するには、魚体をすり潰して顕微鏡で観察したりしていたが、最近特許第3354918号公報(特許文献1)に記載のような透明メダカを選択交配により作出し、外部から生きた状態で連続的に観察する方法が開発された。
【0003】
【特許文献1】
特許第3354918号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
魚体外部から魚体内部の動態を容易に観察出来るように、魚体、特にゼブラフィッシュの体表面の色素上皮の発達を制御する手法の開発を課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意努力をした結果、受精卵の段階から特定の波長環境下で飼育することが有効であることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1) 青、緑、赤の錐体並びにカン体を有する魚類を、下地白の水槽で飼育することを特徴とする魚類の色素上皮の発達抑制方法、
(2) 青、緑、赤の錐体並びにカン体を有する魚類が、ゼブラフィッシュであることを特徴とする(1)記載の色素上皮の発達抑制方法、
(3) 青、緑、赤の錐体並びにカン体を有する魚類を、受精卵の状態から下地白の水槽で飼育することにより、体表面の色素を抑制した魚類を育成することを特徴とする魚類育成方法、
に関する。
【0007】
本発明におけるゼブラフィッシュとは、脊椎動物の新しいモデル実験動物として注目されている魚で、その胚は発生のほぼ全ての時期で透明であり、そのため微分干渉顕微鏡で生きた脳の中の神経細胞等を直接観察できるという特徴を有している。また、1細胞期にRNA、DNAを微量注入することができ、トランスジェニック作製に応用できるという利点もある。しかし、体表面に色素上皮が発達しているため、脳内の観察に支障をきたしている。
【0008】
更に、最近開発され注目されている研究方法にGFP(Green Fluorescent Protein)DNAを、研究したいタンパク質DNAに連結し1細胞期に導入し、蛍光ラベルされたタンパク質を直接蛍光顕微鏡で観察しその機能解析を行う方法がある。
【0009】
脳が透明なので神経特異的なタンパク質を選べば、どのように脳内で神経ネットワークが形成されてくるかを蛍光顕微鏡で直接観察し解析することができる。また、細胞機能に重要なタンパク質であれば、その細胞内での挙動を直接観察し機能の解明に結びつけることができる。
【0010】
ゼブラフィッシュは飼育が簡単で、1回に50〜200個の卵を産み、3ヶ月で生殖可能な成魚になるので、研究材料が容易に入手でき安定したトランスジェニックの作製が可能である。
【0011】
我々の研究によりゼブラフィッシュはヒトと同様の光受容体を持ち、青、緑、赤に対する各受容体(3種類の錐体)と明暗を感知するカン体を持っており、視覚が発達していることが分った。このことを利用して、脳内の観察に支障をきたしている体表面の色素上皮の発達を阻止したものが本発明である。
本発明を具体的に説明するために、実施例を示すが本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
【発明の実施の形態】
【実施例】
1.ゼブラフィッシュをメイティング(雌雄を一緒にして受精卵を得ること)した。
2.授精後24時間以上生存していた受精卵を6種の異なった光環境で飼育した。
3.光源は観賞魚用蛍光灯を用い、水槽の上部に設置した。
4.飼育水槽をプラスチックの入れ物に入れ、全面を黒い紙で覆い、光漏れのない通気口を設けた。
5.上面の中央部に3cm×3cmの穴を開け、そこにフィルターをセットした。
6.3種類のガラスフィルター(シグマ光機社製)を用いた。
▲1▼ 青フィルター(420−500nm)
▲2▼ 緑フィルター(450−600nm)
▲3▼ 赤フィルター(540nm<)
更に、窓のない全面遮光の
▲4▼ 暗黒環境
そして周りが透明な水槽で2種類の下地色
▲5▼ 下地白
▲6▼ 下地黒
の合計6種類の光飼育条件下で受精卵を飼育した。
その結果を図で表す。
【0013】
図1は、下地白で飼育し、受精後1週間経過したゼブラフィッシュを示しているが、色素上皮の大きさが抑えられていることがわかる。
図2は、青いフィルターを経由した光環境で飼育し、受精後1週間経過したゼブラフィッシュを示しているが、この段階ですでに色素上皮が顕著に発達している。
【0014】
図3は、受精後37日間下地白で飼育後、3日間青フィルター環境で飼育したゼブラフィッシュを示しているが、色素上皮は小さいままで、脳内の透明性が高いことがわかる。
【0015】
図4は、青いフィルター環境で受精後40日間飼育したゼブラフィッシュを示しているが、色素上皮の広がりが大きく、体表面の大半が色素上皮で覆われている。
【0016】
なお、細胞の数及びサイズを比較したところ、数については光環境による差異は見られず、サイズは青色では偏平に大きく広がったが、下地白では多くの細胞は小さく凝集していることが分った。
【0017】
以上のことから、発生過程の光飼育環境で決定された色素上皮の性質は、成熟後の光環境を変えても影響を受けないこと及び下地白で飼育されたゼブラフィッシュの脳内の透明性は青フィルターに比べて高いことが分った。
【0018】
また、他の光環境については暗黒や下地黒では下地白に比べ色素上皮の発達が強化はされるが、青フィルターほどではない。
緑フィルターや赤フィルターの下で飼育した場合、色素上皮の広がりは暗黒、下地黒に比べ小さくなっているが、下地白よりは明らかに広がっていた。
【0019】
以上の結果をまとめてみると、色素上皮の広がりの小さい順は
下地白<赤色フィルター、緑色フィルター<暗黒、下地黒<青色フィルター
となる。
【0020】
すなわち、脳内の機能蛋白質の動態をより鮮明により長時間捉まえるために、ゼブラフィッシュ体表面の色素上皮の発達を制御するには、下地白の水槽で飼育することが肝要であることを見出した。
【0021】
そして、このことによりGFP(Green Fluorescent Protein)を伴った神経細胞に特異的なタンパク質を遺伝子導入し発現させた場合、脳内での神経系の形成過程を鮮明に観察することができるようになる。
【0022】
なお、下地白の水槽で飼育することによって、この体表面の色素上皮の発達を制御できる魚種としては、ゼブラフィッシュの他に、青、緑、赤の錐体並びにカン体を有する魚類にも適用できる。
また、ゼブラフィッシュでは野生型、トランスジェニックゼブラフィッシュと広範に適用することができる。
【0023】
【発明の効果】
本発明により、魚体、特にゼブラフィッシュの脳内での神経系の形成過程を鮮明に観察することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】下地白で飼育し、受精後1週間経過したゼブラフィッシュを示す図。
【図2】青いフィルターを経由した光環境で飼育し、受精後1週間経過したゼブラフィッシュを示す図。
【図3】受精後37日間下地白で飼育後、3日間青フィルター環境で飼育したゼブラフィッシュを示す図。
【図4】青いフィルター環境で受精後40日間飼育したゼブラフィッシュを示す図。
【出願人】 【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
【住所又は居所】東京都港区赤坂二丁目17番22号
【出願日】 平成15年4月25日(2003.4.25)
【代理人】 【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔

【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節

【識別番号】100107168
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 徹夫

【公開番号】 特開2004−321098(P2004−321098A)
【公開日】 平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願番号】 特願2003−121420(P2003−121420)