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【発明の名称】 種子及びその消毒法
【発明者】 【氏名】土屋 由紀
【住所又は居所】群馬県前橋市古市町一丁目50番地12            カネコ種苗株式会社内

【氏名】寺沢 祐一
【住所又は居所】群馬県前橋市古市町一丁目50番地12            カネコ種苗株式会社内

【要約】 【課題】

【解決手段】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオンを含み、その銅イオン濃度が
1×10−2〜1×10−5mol/dmに調整されて成る溶液にて浸漬処理を施すことにより得られる種子。
【請求項2】
銅イオンを含み、その銅イオン濃度が
1×10−2〜1×10−5mol/dmに調整されて成る溶液中に、アブラナ科の種子を浸漬することを特徴とする種子消毒法。
【請求項3】
銅化合物と有機酸とを混合し、銅イオン濃度を1×10−2〜1×10−5mol/dmに調整して成る溶液中に、アブラナ科の種子を所定時間浸漬した後、その種子を水洗いして乾燥させることを特徴とする種子消毒法。
【請求項4】
有機酸としてコハク酸、リンゴ酸、酢酸、又は乳酸を用いることを特徴とする請求項3記載の種子消毒法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は種子及びその消毒法に係わり、特に黒腐病菌を殺菌したアブラナ科の種子と、黒腐病菌に汚染されたアブラナ科種子の消毒法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アブラナ科に属するキャベツ、ブロッコリー、ハクサイ、又はダイコンといった野菜は世界的規模で種子の流通が行われている重要な作物であるが、その種の野菜における病害として黒腐病が良く知られる。その病原菌は一本の単極性鞭毛を有するグラム陰性の好気性菌(Xanthomonas campestris pv.campestris)であり、これは主に種子、土壌、又は土壌に埋没した被害残渣で伝染することが知られる。そして、これによる病害は生育中全期間を通じて発生し、苗床で発芽直後の幼苗に発病した場合には、子葉頂部の凹んだ部位から発病し始め、子葉が枯れる。又、本圃では主に下葉から発生し、葉脈を中心として外側に広がるV字形の黄色病斑を生じ、病斑が拡大すると病斑内の葉脈が黒紫色になり、被害が激しい場合には茎まで侵され、導管部が黒変する。
【0003】
このため、国際健全種子推進機構(ISHI)では、黒腐病に対する国際検査基準の作成が優先的に行われているが、これによる汚染種子の許容限界は非常に厳しい値となっている。このような状況の下、健全種子の生産に努めなければならないことは勿論、生産種子に対する消毒処理法の開発も極めて重要となっている。
【0004】
ここに、現在行われている消毒法としては、温湯処理や乾熱処理といった加熱による物理的防除法、あるいは次亜塩素酸ナトリウム又は同カルシウム溶液への浸漬処理など薬剤による化学的防除法がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
然し乍ら、以上のような従来法では重度に汚染されたロットにおいて完全な消毒効果が望めず、しかもロットによっては発芽率が大きく低下してしまうことがある。特に、黒腐病菌は乾燥に極めて強く、その死滅温度は約75℃で5〜7日間処理であるから、そのような高温下による加熱処理では発芽率の大きな低下を余儀なくされる一方、従来の溶液による浸漬処理では即効性がなく、長時間の浸漬を要するために、種皮が脱落してしまう虞れがある。
【0006】
本発明は以上のような事情に鑑みて成されたものであり、その目的は黒腐病菌の種子伝染を防止し、黒腐病菌に汚染された種子でも発芽に悪影響を与えずに短時間で完全な殺菌消毒を行えるようにすることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するため、銅イオンを含み、その銅イオン濃度が1×10−2〜1×10−5mol/dmに調整されて成る溶液にて浸漬処理を施すことにより得られる種子を提供する。
【0008】
又、種子消毒法として、銅イオンを含み、その銅イオン濃度が1×10−2〜1×10mol/dmに調整されて成る溶液中に、アブラナ科の種子を浸漬することを特徴とする。
【0009】
特に、銅化合物と有機酸とを混合し、銅イオン濃度を1×10−2〜1×10−5mol/dmに調整して成る溶液中に、アブラナ科の種子を所定時間浸漬した後、その種子を水洗いして乾燥させることが好ましい。又、有機酸としてはコハク酸、リンゴ酸、酢酸、又は乳酸を用いることが望ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明すれば、係る種子はキャベツ、ブロッコリー、ハクサイ、又はダイコンなどアブラナ科に属するものを対象とし、これを後述するような特定の溶液に浸漬することにより得られるものである。一方、本発明に係る種子消毒法は、消毒液として銅イオンを含む溶液を用い、その溶液中に黒腐病菌で侵される上記のようなアブラナ科の種子を浸漬することにより行われる。
【0011】
特に、銅イオンの濃度(モル濃度)としては、十分な殺菌効果を実現する観点から10mol/dm(以下、Mで示す)以上が好ましく、10−4M以上がより好ましく、10−3M以上が更に好ましい。一方、種子の薬害を回避する観点から、その濃度の上限を10−2Mとすることが好ましい。
【0012】
ここに、銅化合物は黒腐病菌に対して殺菌効果が認められているが、その水溶液中における銅イオン濃度は、1×10−7M以下と低く、黒腐病菌に対する即効性を有しない。特に、アブラナ科種子は長時間の浸漬処理を行うと種皮の脱落を誘発するため、短時間での処理が望まれる。
【0013】
よって、本発明の好適な態様としては、銅化合物と有機酸とを混合し、銅イオン濃度を1×10−2〜1×10−5M、好ましくは1×10−2〜1×10−4M、更に好ましくは1×10−2〜1×10−3Mに調整して成る溶液中に、上記種子を所定時間浸漬した後、その種子を水洗いして乾燥する。これによれば、有機酸溶液中で銅イオンが解離し易くなるために銅イオン濃度が上がり、有機酸自体も黒腐病などの細菌類に対して強い殺菌力を有するため、それらの相乗作用により種子を短時間浸漬するだけで発芽への悪影響を回避しながら完全な殺菌消毒効果を得ることができる。例えば、種子1グラム当たりの黒腐病菌数が10cfuと激しく汚染された種子でも30分以内で完全消毒することができる。
【0014】
ここに、溶液中への種子の浸漬時間は、十分な殺菌効果を実現する観点と消毒作業遂行上の観点から10〜30分が好ましい。その理由として、10分以下では処理ムラで病原菌が残存する可能性があり、30分以上では発芽率に悪影響を及ぼす上に種皮が脱落する虞れがある。又、作業遂行上、10分以下でも30分以上でも煩雑になると考えられる。
【0015】
尚、銅化合物としては、塩基性塩化銅、水酸化第二銅、塩基性硫酸銅、8−オキシキノリン銅などを用いることができ、有機酸としてはリンゴ酸やコハク酸などを用いることができる。特に、種子を浸漬する溶液(消毒液)を得るには、上記のような銅化合物を500〜5000倍の水に溶き、これに適量の有機酸を加えて銅イオン濃度を1×10−2〜1×10−5Mに調整する。但し、有機酸に代え、pH調節剤を用いて銅イオン濃度が1×10−2〜1×10−5Mになるよう銅化合物水溶液のpHを低下させるようにしてもよい。
【0016】
下表1は、銅化合物と有機酸(コハク酸)の混合水溶液における各成分の濃度と、その各溶液による黒腐病菌(Xcc)の消毒効果を示す。
【0017】
【表1】


【0018】
表1において、種子には黒腐病菌に汚染されたキャベツ種子を用い、溶液への浸漬時間を10分とした。又、浸漬処理後の種子は純水により水洗いしてから乾燥させ、これを効果検定と薬害検定(表2参照)に供した。
【0019】
効果検定はISHIの「Seed Health Testing Methods Reference Manual」に従って次のように行った。先ず、上記のようにして処理した種子をTween20を含む生理食塩水に2.5時間浸漬し、次いでその種子浸漬液を段階希釈し、これを黒腐病菌の半選択培地に塗布して25℃で培養した。そして、黒腐病菌のコロニー数をカウントし、種子1グラム当たりのコロニー数を算出した。
【0020】
表1から明らかなように、種子を浸漬した溶液中における銅イオン濃度が高くなると黒腐病菌に対する殺菌効果が上がり、その濃度が低下すると殺菌効果も低下する傾向が認められる。特に、溶液中における有機酸(コハク酸)の濃度を1000〜10000ppm、銅イオン濃度を10−3Mレベルに調整したものでは黒腐病菌を10分間で完全に死滅させることができた。これに対し、有機酸(コハク酸)の濃度を100ppmとし、銅イオン濃度が10−4〜10−6Mレベルに調整されたものは、黒腐病菌を完全に死滅させ得ないことが判る。
【0021】
又、下表2から明らかなように、薬害検定では10分で検出菌数=0を達成した溶液において、これによる種子の発芽勢及び発芽率は、無処理の種子と比べて遜色無く、異常発芽率は低下することが認められる。
【0022】
【表2】


【0023】
ここで、薬害検定はISTA(国際種子検査協会)の種子検査マニュアルに従い、プラスチックシャーレに濾紙を二枚敷き、純水を4ml添加した後、種子を処理別に50粒ずつ4シャーレに置床し、これを25℃の光条件下に静置し、発芽勢(播種後4日目の発芽数×100/50)、発芽率(播種後7日目の発芽数×100/50)を調べた。又、十分な発根と子葉の展開が認められないものは異常発芽率としてカウントした。
【0024】
尚、表2には効果検定をした全ての溶液について示していないが、銅イオン濃度が1×10−2〜1×10−5Mに調整された溶液において、薬害検定による結果は全て良好であった。
【0025】
次に、比較例として、銅化合物と有機酸(コハク酸)の単独水溶液を用いて処理した種子の検定結果を下表3に示す。尚、効果検定と薬害検定は上記と同様にして行った。又、種子は上記と同じく黒腐病菌に汚染されたキャベツ種子を用い、その浸漬時間は30分に延長した。
【0026】
【表3】


【0027】
表3から明らかなように、銅化合物(塩基性塩化銅、水酸化第二銅、塩基性硫酸銅、8−オキシキノリン銅)、及び有機酸(コハク酸)の単独水溶液では、種子の浸漬時間を延長したにも拘わらず、黒腐病菌の生存が認められる。又、浸漬時間を延長したことにより、無処理の種子に比して発芽勢及び発芽率が低下し、異常発生率が上がっていることが認められる。
【0028】
次に、表4及び表5は各種有機酸の単独水溶液での種子(品種N,R)の浸漬処理による検定結果であり、表6には同検定結果による各種有機酸と発芽率の関係をグラフ化したものを示す。
【0029】
【表4】


【0030】
【表5】


【0031】
【表6】


【0032】
表6から明らかなように、コハク酸ほか、リンゴ酸、酢酸、乳酸による浸漬処理では品種R,Nについて発芽率が同等であり、しかもそれら有機酸ではシュウ酸やギ酸といった他の有機酸による浸漬処理に比べて発芽率が良好であることが判る。よって、上記例ではコハク酸と銅化合物との混合水溶液による消毒法を例示したが、コハク酸に代えてリンゴ酸、酢酸、又は乳酸の何れか一つを用いても同等の効果が得られると考えられる。但し、剤としての取り扱いを考えると、刺激性や腐食性の無いリンゴ酸又はコハク酸が適する。
【0033】
以上、本発明について説明したが、係る消毒法はキャベツ種子に限らず、ブロッコリーなど他のアブラナ科種子に適用して、黒腐病菌の種子伝染を防止することができる。
【0034】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば銅イオン濃度が1×10−2〜1×10Mに調整されて成る溶液中に、アブラナ科の種子を浸漬するようにしていることから、黒腐病菌に汚染された種子を30分足らずの短時間で完全消毒し、黒腐病菌に汚染されていない健全な種子を得られ、その種子伝染を防止することができる。
【0035】
特に、種子を浸漬する消毒液として、銅化合物とリンゴ酸をはじとする有機酸とを混合し、銅イオン濃度を1×10−2〜1×10−5Mに調整して成る溶液を用いることにより、黒腐病菌に対して即効的な殺菌効果が得られる。又、その即効的殺菌効果により、浸漬時間を大幅に短縮することができるので、完全な殺菌消毒を達成しながら種皮の脱落や発芽への悪影響を防止することができる。
【出願人】 【識別番号】000104227
【氏名又は名称】カネコ種苗株式会社
【住所又は居所】群馬県前橋市古市町1丁目50番地12
【識別番号】593027587
【氏名又は名称】社団法人農林水産先端技術産業振興センター
【住所又は居所】東京都港区赤坂1丁目9番13号
【出願日】 平成14年9月24日(2002.9.24)
【代理人】 【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘

【公開番号】 特開2004−113005(P2004−113005A)
【公開日】 平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願番号】 特願2002−276793(P2002−276793)