トップ :: G 物理学 :: G06 計算;計数




【発明の名称】 電磁界強度算出方法および算出装置
【発明者】 【氏名】山ヶ城 尚志
【住所又は居所】神奈川県川崎市中原区上小田中4丁目1番1号 富士通株式会社内

【氏名】長瀬 健二
【住所又は居所】神奈川県川崎市中原区上小田中4丁目1番1号 富士通株式会社内

【氏名】大津 信一
【住所又は居所】神奈川県川崎市中原区上小田中4丁目1番1号 富士通株式会社内

【要約】 【課題】回路解析モデルと電磁波解析モデルとを結合する複数のポートを持ち、ダイポールアンテナのような線状の要素を含む解析対象による電磁界の強度を精度よく算出する。

【解決手段】各ポートに独立電流源と電圧依存電流源とを配置して、回路解析によって各ポート部の電圧を算出し、算出された電圧値を用いて各ポートに電圧源を配置して、電磁波解析によって解析対象に流れる電流を算出し、解析の時刻をステップ的にインクリメントし、各ポート部の電圧算出と解析対象に流れる電流算出とを行うことを繰り返す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 非線型回路部品を含む解析対象を、回路解析法を適用すべき回路解析モデル、電磁波解析方法を適用すべき電磁波解析モデル、および該2つのモデルを結合する接続箇所としての複数のポートに分離して、該解析対象から放射される電磁波による電磁界を算出する電磁界強度算出方法において、前記複数の各ポートに独立電流源と電圧依存電流源とを配置して、回路解析によって各ポート部の電圧を算出し、該算出された電圧の値を用いて各ポートに電圧源を配置し、電磁波解析によって解析対象に流れる電流を算出し、解析の時間をステップ的にインクリメントし、該各ポート部の電圧算出と解析対象に流れる電流算出とを行うことを繰り返すことを特徴とする電磁界強度算出方法。
【請求項2】 前記回路解析法として修正節点解析法を用いることを特徴とする請求項1記載の電磁界強度算出方法。
【請求項3】 前記電磁波解析法として時間領域モーメント法を用いることを特徴とする請求項1記載の電磁界強度算出方法。
【請求項4】 前記回路解析による電圧算出に先立って、前記時間領域モーメント法の適用のために解析対象の微小要素への分割を行い、該微小要素間のアドミッタンスを要素とするアドミッタンス行列の要素の1部を用いて前記電圧依存電流源の設定を行うことを特徴とする請求項3記載の電磁界強度算出方法。
【請求項5】 前記回路解析による電圧算出に先立って、前記複数の各ポートのいずれにも電圧を印加しない状態で該各ポートに流れる電流を算出し、該算出された電流値を用いて前記独立電流源の設定を行うことを特徴とする請求項1記載の電磁界強度算出方法。
【請求項6】 前記解析対象に流れる電流の算出結果を用いて解析対象から放射される電磁界を求め、前記繰り返しにおいても該電磁界を求めることを特許とする請求項1記載の電磁界強度算出方法。
【請求項7】 前記繰り返しの後に、時間領域で求められた解析対象に流れる電流を周波数領域における値に変換し、該変換後の電流値を用いて解析対象から放射される、周波数領域における電磁界を求められることを特徴とする請求項1記載の電磁界強度算出方法。
【請求項8】 非線型回路部品を含む解析対象を、回路解析法を適用すべき回路解析モデル、電磁波解析法を適用すべき電磁波解析モデル、および該2つのモデルを結合する接続箇所としての複数のポートに分離して、該解析対象から放射される電磁波による電磁界を算出する電磁界強度算出装置において、前記各ポートに独立電流源および電圧依存電流源を配置して、回路解析により各ポート部の電圧を算出する回路解析手段と、該算出された電圧の値を用いて各ポートに電圧源を配置し、電磁波解析によって解析対象に流れる電流を算出する電流算出手段と、解析の時間をステップ的にインクリメントし、該回路解析手段による電圧算出と、電流算出手段による解析対象に流れる電流算出とを繰り返させる制御を行う繰り返し計算制御手段とを備えることを特徴とする電磁界強度算出装置。
【請求項9】 非線型回路部品を含む解析対象を、回路解析法を適用すべき回路解析モデル、電磁波解析方法を適用すべき電磁波解析モデル、および該2つのモデルを結合する接続箇所としての複数のポートに分離して、該解析対象から放射される電磁波による電磁界を算出する計算機によって使用されるプログラムにおいて、前記複数の各ポートに独立電流源と電圧依存電流源とを配置して、回路解析によって各ポート部の電圧を算出する手順と、該算出された電圧の値を用いて各ポートに電圧源を配置し、電磁波解析によって解析対象に流れる電流を算出する手順と、解析の時間をステップ的にインクリメントし、該各ポート部の電圧算出と解析対象に流れる電流算出とを行うことを繰り返す手順とを計算機に実行させるプログラム。
【請求項10】 非線型回路部品を含む解析対象を、回路解析法を適用すべき回路解析モデル、電磁波解析法を適用すべき電磁波解析モデル、および該2つのモデルを結合する接続箇所としての複数のポートに分離して、該解析対象から放射される電磁波による電磁界を算出する計算機によって使用される記憶媒体において、前記複数の各ポートに独立電流源と電圧依存電流源とを配置して、回路解析によって各ポート部の電圧を算出するステップと、該算出された電圧の値を用いて各ポートに電圧源を配置し、電磁波解析によって解析対象に流れる電流を算出するステップと、解析の時間をステップ的にインクリメントし、該各ポート部の電圧算出と解析対象に流れる電流算出とを行うことを繰り返すステップとを計算機に実行させるプログラムを格納した計算機読み出し可能可搬型記憶媒体。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電子機器などから放射される電磁波による電磁界強度の算出方法に係り、更に詳しくは非線型回路部品を含む解析対象を、回路解析モデルと、電磁波解析モデルと、2つのモデルを結ぶ複数のポートとに分離して解析を行う電磁界強度算出方法、および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】電子機器から放射される電磁波をシミュレーションする手法として、モーメント法など様々な電磁波解析手法がある。モーメント法では、電子機器のプリント基板や金属板などがパッチと呼ばれる面上の要素に分割され、また例えばアンテナはワイヤと呼ばれる線状要素に分割されて、解析が行われる。
【0003】非線型回路素子などを含む電子機器からの放射電磁波解析を行う場合には、電磁波解析だけでなく、回路解析法を組み合わせて解析を行う必要がある。このように電磁波解析と回路解析を組み合わせた解析法として、次の文献が発表されている。
【0004】文献1)J.A.Landt,“Network loading of thin−wire antennas and scatters in the time domain”,Radio Science,vol.16,pp1241−1247,1981.この文献では、時間領域モーメント法と呼ばれる電磁波解析手法と、回路解析法とが組み合わされて解析が行われている。この解析ではアンテナが回路網に接続されている解析対象に対して、アンテナとしてのワイヤが直線状の複数のセグメントに分割され、各セグメントを流れる未知のアンテナ電流についてのn元の方程式と、回路網の電流に対するm元の方程式とが作られ、解析が行われている。
【0005】このように電磁波解析と回路解析とを組み合わせる場合には、一般に解析対象が非線型回路部品を含む回路解析モデルと、ワイヤやパッチなどによって構成される電磁波解析モデルと、2つのモデルの接続部としてのポートに分離されて解析が行われるが、文献1ではこのポートが1個のみの場合に限定して解析が行われ、n+m元の連立方程式によって表される系がn元とm元との2つの系について独立して解くことができる問題に簡単化されて、アンテナ電流が求められ、電磁波解析が行われている。
【0006】回路解析法と電磁波解析法とを組み合わせる他の手法として、有限差分時間領域(フィニット・ディファレンス・タイム・ドメイン,FDTD)電磁界解析法と、回路解析法を組み合わせる手法があり、次の文献に開示されている。
【0007】文献2)特開平11−153634号「シミュレーション装置及びシミュレーションプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」
文献3)特開2000−330973「有限差分時間領域電磁界解析法を過度電気回路解析法に結合するハイブリッド解析方法及びハイブリット有限差分時間領域電磁界−過渡電気回路解析装置」前述の時間領域モーメント法では、アンテナをセグメントに分割したようにモデル自身を分割し、そのモデルに流れる電流を求め、求められた電流に基づいて電界、あるいは磁界が算出される。これに対してFDTD法では、モデルを含めた空間をブロックに分割し、空間における電磁界を、電流を求めることなしに、直接に求めるところに特徴がある。
【0008】文献2では、電磁波解析と回路解析とを連携させたシミュレーション装置において、回路解析の時刻が電磁波解析において電界を求めるべき時刻に接近した際に、回路解析に基づく電界値(回路が存在する領域の電界値)を電磁波解析に引き渡すことによって、引き渡された電界値を求めた時刻と、その電界値を反映させて電磁波解析において求められる電界の時刻との差が小さくなり、安定した解析結果を求めることができるシミュレーション装置が開示されている。
【0009】文献3では、FDTD法と過渡電気回路解析(トランジェント・エレクトリック・サーキット・アナリシス,TECA)法とを結合したハイブリット解析方法、および解析装置が開示されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】以上のように、例えばダイオードなどの非線型回路部品を含む電子機器から放射される電磁波をシミュレーションする手法として、電磁波解析と回路解析とを組み合わせたいくつかの手法が提案されているが、まず文献1では回路解析モデルと電磁波解析モデルとの接続箇所としてのポートが1つのみの場合についてしか適用できず、2つのモデルの間に複数のポートが存在するような解析対象を取り扱うことができないという問題点があった。
【0011】また文献2、および文献3のように、FDTD法と回路解析とを組み合わせる手法では、モデルを含めた空間がブロック化されるため、例えばモデルから100m離れた点における電磁界を求めるためには、その点まで含めた空間をブロックに分割する必要があり、計算量が大きくなるという問題点があった。
【0012】また空間をブロックに分割するために、ダイポールアンテナやスパイラルアンテナなどのように線状の要素を含む解析対象の場合には、アンテナ自体をブロック分割するのが難しく、十分な計算精度が得られないという問題点があった。
【0013】本発明の課題は、上述の問題点に鑑み、電磁波解析モデルと回路解析モデルとの間に、接続箇所として複数のポートが存在するような解析対象に対しても、放射される電磁波を精度よく解析することができる電磁界強度算出方法、および算出装置を提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】図1は本発明の電磁界強度算出方法の原理的な機能ブロック図である。同図は非線型回路部品を含む解析対象を、回路解析法を適用すべき回路解析モデル、電磁波解析法を適用すべき電磁波解析モデル、および2つのモデルを結合する接続箇所としての複数のポートに分離して、解析対象から放射される電磁波による電磁界強度を算出する電磁界強度算出方法の原理的な機能ブロック図である。
【0015】図1において、まず1で、前述の複数の各ポートに独立電流源および電圧依存電流源を配置して、回路解析により各ポート部の電圧が算出される。2で、算出された電圧の値を用いて各ポートに電圧源を配置し、電磁波解析により解析対象に流れる電流が算出される。3で、解析の時刻がステップ的にインクリメントされ、2の各ポート部の電圧算出と3つの解析対象に流れる電流算出とが繰り返される。
【0016】発明の実施の形態においては、回路解析法として修正節点解析法、また電磁波解析法として時間領域モーメント法を用いることができる。実施の形態においては、回路解析による電圧算出に先立って、時間領域モーメント法の適用のために解析対象の微小要素への分割を行い、その微小要素間のアドミッタンスを要素とするアドミッタンス行列の要素の1部を用いて前述の電圧依存電流源の設定を行うことも、また複数の各ポートのいずれにも電圧を印加しない状態で各ポートに流れる電流を算出し、算出された電流値を用いて前述の独立電流の設定を行うこともできる。
【0017】更に実施の形態においては、前述の解析対象に流れる電流の算出結果を用いて解析対象から放射される電磁界を求めることも、また解析対象に流れる電流を周波数領域における値に変換し、変換後の電流値を用いて解析対象から放射される、周波数領域における電磁界を求めることもできる。
【0018】更に本発明の電磁界強度算出装置は、回路解析モデルと電磁波解析モデルとを結合する接続箇所としての複数の各ポートに独立電流源および電圧依存電流源を配置して、回路解析により各ポート部の電圧を算出する回路解析手段と、算出された電圧の値を用いて各ポートに電圧源を配置し、電磁波解析により解析対象に流れる電流を算出する電磁波解析手段と、解析の時刻をステップ的にインクリメントし、回路解析手段によるポート部の電圧算出と電磁波解析手段による解析対象に流れる電流算出とを繰り返し行わせる、繰り返し計算制御手段とを備える。
【0019】本発明において電磁界強度を算出する計算機によって使用されるプログラムとして、複数の各ポートに独立電流源と電圧依存電流源とを配置して、回路解析によって各ポート部の電圧を算出する手順と、該算出された電圧の値を用いて各ポートに電圧源を配置し、電磁波解析によって解析対象に流れる電流を算出する手順と、解析の時間をステップ的にインクリメントし、該各ポート部の電圧算出と解析対象に流れる電流算出とを行うことを繰り返す手順とを計算機に実行させるプログラムが用いられる。
【0020】次に本発明における記憶媒体として、複数の各ポートに独立電流源と電圧依存電流源とを配置して、回路解析によって各ポート部の電圧を算出するステップと、該算出された電圧の値を用いて各ポートに電圧源を配置し、電磁波解析によって解析対象に流れる電流を算出するステップと、解析時間をステップ的にインクリメントし、該各ポート部の電圧算出と解析対象に流れる電流算出とを行うことを繰り返すステップとを計算機に実行させるプログラムを格納した計算機読み出し可能可搬型記憶媒体が用いられる。
【0021】以上のように本発明によれば、回路解析モデルと電磁波解析モデルとの間の複数の各ポートに電流源、または電圧源を配置し、電磁波解析と回路解析を交互に繰り返しながら、モデルに流れる電流の時間変化を求め、電磁界の算出が行われる。
【0022】
【発明の実施の形態】図2は本実施形態における電磁界強度算出の対象となるモデルの構成図である。同図に示すように、解析対象はワイヤやパッチなどに分割され、電磁波解析の対象となる電磁波解析モデル10と、例えばダイオードのような非線型回路素子を含む電子回路などの回路解析モデル11と、2つのモデルを結合する接続箇所としての複数のポート、ここではn個のポートから構成されている。
【0023】図3は図2で説明した解析対象モデルに対する解析方法の説明図である。同図に示すように、図2の電磁波解析モデル10は、時間領域モーメント法によって解析が行われる時間領域モーメント法モデル14として、また回路解析モデル11は、例えばSPICE(シミュレーション・プログラム・ウィズ・インテグレーテッド・サーキット・エンファシス)、すなわち修正節点解析法によって解析が行われる回路解析モデル15として表現され、2つのモデルはn個のポートによって結合されているものとする。
【0024】前述のように本実施形態では、電磁波解析法としての時間領域モーメント法と回路解析とがリンクされて解析が行われるが、まず時間領域モーメント法による解析についてその概略を説明する。時間領域モーメント法では、解析対象のモデルがパッチやワイヤのなどの微小要素に分割され、各微小要素上に流れる電流が、微小要素の数をm個として、I1 (t),I2 (t),・・・,Im (t)のように設定される。
【0025】なお、以下本文中において、「行列」,「ベクトル」,「成分」,「方程式の解」,「電流」,「電圧」等の記号表記でベクトル文字には下線を付してその表記を置き換えます。
【0026】次に各微小要素の間の相互インピーダンスを表す行列、各微小要素に流れる電流を表すベクトル(t)、図3の各ポートに印加される電圧のベクトル(t)、および時間遅れ成分e (t)を用いて次のような線型連立方程式の解(t)が求められる。
【0027】
【数1】

【0028】ここで行列はm行、m列の行列であり、ベクトル(t)、および(t)はそれぞれm個の成分を持つm次元ベクトルである。(t)の成分は各ポートに印加される電圧であるが、後述するようにポートと接続されていない微小要素に流れる電流に対応するの成分の値は0とされ、ポートと接続されている要素に流れる電流に対しては、接続されているポートに印加される電圧の値となる。
【0029】時間遅れ成分e (t)はリターデッド成分とも呼ばれる。時間領域モーメント法で分割された各微小要素に電流が流れるとその電流によって、他の微小要素に微小要素間の距離を光の速度で割った値の時間だけ送れて電界が照射される。この電界による電圧相当成分がe (t)である。
【0030】最後に微小要素上に流れる電流(t)によって生じる電磁界が算出されて、時間領域モーメント法の解析を終了する。次に時間領域モーメント法と回路解析法をリンクする方法について説明する。前述のように時間領域モーメント法モデルにおける解析対象モデルはm個の微小要素に分割され、それらの微小要素のうちn(n≦m)個のそれぞれは、n個のポートのうち、いずれか1つのポートと接続されているものとする。
【0031】まず時間領域モーメント法モデルに対応して、前述の(1)式が得られる。(1)式において電流(t)と各ポートの印加電圧(t)以外は既知の量であるとする。
【0032】次に各ポートからの入力がない場合、すなわちポートが接続されていない場合には、各微小要素に印加される電圧のベクトル(t)を0として、次式が成立する。
【0033】
【数2】

【0034】ここでu (t)は、ポートが接続されていない場合に時間領域モーメント法モデルの各微小要素に流れる電流を成分とするベクトルである。相互インピーダンス行列の逆行列をアドミッタンス行列とすれば、次式が成立する。
【0035】
【数3】

【0036】m個の微小要素のうち、i番目の微小要素に流れる電流は(3)式の第i行となり、次式によって与えられる。
【0037】
【数4】

【0038】ここで各ポートに電圧を加えた時、他ポートに流れる電流を計算する。ポートlにVl の電圧を印加した時、k番目のポートに接続されているi番目の微小要素に流れる電流は次式によって与えられる。この電流は、(1)式において時間遅れ成分e (t)を考えない場合の電流に相当する。
【0039】
【数5】

【0040】上式のYklは、ポートlに電圧が印加された時、k番目のポートに接続されているi番目の微小要素とポートlとの間にアドミッタンスに相当するが、このアドミッタンスは時間領域モーメント法モデルにおけるアドミッタンス行列の要素Yijと1対1に対応するものである。すなわち時間領域モーメント法モデ ルにおけるi(j)番目の微小要素がk(l)番目のポートと接続されている場合、YklとYijとは等しいことに注意する必要がある。時間遅れ成分e (t)を考慮すると、m個の微小要素のうちのi番目の要素が、n個のポートのうちでk番目のポートに接続されている場合、i番目の微小要素に流れる電流は(5)式の電流と時間遅れ成分による電流の和となり、次式によって与えられる。
【0041】
【数6】

【0042】i番目の要素がいずれのポートにも接続されていない場合には、その要素に流れる電流は時間遅れ成分だけに対応するものとなり、次式によって与えられる。
【0043】
【数7】

【0044】この(6),(7)式を、各行列とベクトルを用いて表現すると、次の(8),(9)式が得られる【0045】
【数8】

【0046】(9)式を行列の形式で書けば、各微小要素に流れる電流の行列は次式によって与えられる。
【0047】
【数9】

【0048】(10)式において、右辺のベクトルの各成分V1 からVm に対しては、各行に相当する微小要素のうち、ポートに接続されている微笑要素に対応する成分に対してのみ印加電圧の値が代入され、ベクトルの他の成分の値は0とされる。また行列の要素も(6)式のYklに対応する要素以外は0となる。
【0049】以上のように時間領域モーメント法モデルにおけるi番目の微小要素がk番目のポートに接続されている場合、その微小要素に流れる電流Ii k (t)は独立電流源としてのIuik (t)と、各ポートに印加される電圧Vl によってそれぞれ制御されるn個の電圧依存電流源Ykll によって決定されることになる。
【0050】図4はこのような考え方に従って、時間領域モーメント法モデルを、各ポートに接続される電流源に置き換えたモデルの説明図である。同図で、例えばポートnに対しては独立電流源IとしてのIu n (t)が、また電圧依存電流源GとしてYn11 からYnnn までのn個の電圧依存電流源が接続されている。ここで独立電流源Iu n (t)は(6)式、右辺第1項のIuik (t)に相当するが、図4ではk 番目のポートが接続されるi番目の微小要素の“i”が不明であるため下付添字はuのみとなっている。
【0051】回路解析、例えばSPICEなどを用いた回路解析では、図4に示されるモデルを回路解析法によって解くことにより、各ポート部における節点電圧としてのVn (t)が求められる。
【0052】図5は、以上のようにして求められた各ポートに対する節点電圧を用いて、回路解析モデルを電圧源に置き換えたモデルの説明図である。各ポートに接続されているは独立電圧源であり、その値は図4において回路解析によって求められた各ポートの節点電圧V1 からVn によって与えられる。そして図5のモデルを用いて時間領域モーメント法による解析が行われ、m個の各微小要素に流れる電流I1(t),I2(t),・・・・,Im(t)を成分とするベクトル(t)が求められる 。
【0053】このようにして各微小要素に流れる電流が求められれば、電磁界は公知の方法によって求めることができ、その方法について簡単に説明する。まず電界圧は次式によって求められる。
【0054】
【数10】

【0055】磁界は次式によって求められる。
【0056】
【数11】

【0057】これらの式でφはスカラーポテンシャル、Aはベクトルポテンシャルを表す。スカラーポテンシャルφはモデル上の電荷qの分布によって決定されるが、qとモデルに流れる電流とは次の連続の式によって関係づけられる。
【0058】
【数12】

【0059】従って電流分布がわかれば、電荷qを求めることができる。次にベクトルポテンシャルAについては、自由空間のグリーン関数Gを用いて次式が成立する。
【0060】
【数13】

【0061】(14)式は線状要素に対応し、積分は線状要素に従って行われ、(15)式は、面状要素に対応し、積分はモデル表面全体について行われる。以上のようにしてモデルに流れる電流が分かれば、電磁界を算出することができる。
【0062】図6、および図7は本実施形態における解析処理のフローチャートである。同図において処理が開始されると、まずステップS1でデータ入力が行われる。入力されるデータとしては、共通データとして解析ステップ幅、すなわち後述する時間刻み、回路解析用データとして素子情報および節点情報、並びにどのポートと回路内のどの節点がつながっているかを示すポートに関する情報がある。
【0063】時間領域モーメント法解析用データとして、モデルを構成する微小要素の位置、その寸法および材質に関する情報と、どのポートとどの微小要素がつながっているかを示すポートに関する情報がある。
【0064】ステップS1のデータ入力では、データ読み込みルーチンを用いて、入力データから時間刻みの幅、および解析終了時間が読み込まれ、図示しないメモリに保存される。また時間領域モーメント法に対応して、各微小要素の位置、寸法、および電気的特性がメモリに保存され、回路解析に対応して素子、および節点情報がメモリに保存される。
【0065】図6のステップS2で相互インミッタンスが計算され、メモリに保存される。ただし材質に関する共通の係数、例えば透磁率や誘電率などはここでは乗算されない。続いてステップS3で遅れ成分が判定され、インピーダンス行列が作成される。このステップS2,S3の処理は時間領域モーメント法における行列生成ルーチンによって行われ、微小要素の位置データを基にして各微小要素間の相互インピーダンス行列が作成され、その行列のうちで時間遅れ成分が判定、除外され、インピーダンス、すなわちの行列が作成される。
【0066】続いてステップS4でインピーダンス行列ががLDU分解され、アドミッタンス行列、すなわち行列が算出される。この算出は時間領域モーメント法における行列演算ルーチンによって実行され、行列の各要素はメモリに保存される。
【0067】ステップS5で解析の時刻tがその初期値0とされた後に、各解析時刻における電磁界解析処理が行われる。まずステップS6で時刻tの値が解析終了時間Tより大きくなったか否かが判定され、ここではまだ大きくなっていないものとして、次のステップ7の処理に移行する。
【0068】ステップS7では、全てのポートに電圧が印加されない場合に各ポートに流れる電流の計算が行われる。この計算は時間領域モーメント法の電流算出ルーチンによって行われる。そしてこの結果は回路解析ルーチンに与えられる。
【0069】ステップ8、およびS9は回路解析ルーチンによる処理である。ステップS8では、電流算出ルーチンによって求められた電流値と行列演算ルーチンによって求められたアドミッタンス行列によって、ポート部に独立電流源、および電圧依存電流源が配置され、ステップS9で回路解析による各ポート電圧の算出、すなわちポートに設置された電流源、および入力データにより与えられた節点および素子情報を基にして、例えば代表的な回路解析ソフトSPICEを用いて、ポート節点間の電圧が回路解析ルーチンによって算出される。
【0070】図7のステップS10〜S13の処理は、時間領域モーメント法の電流算出ルーチンによる処理である。このルーチンでは時間データおよび微小要素の位置データから、時間遅れ成分Re (t)がすでに計算されており、ステップS10で図5で説明したように独立電圧源が設定される。
【0071】ステップS11で時間遅れ成分が電圧項に加えられ、ステップS12でポート印加電圧、時間遅れ成分、およびアドミッタンス行列を用いた連立行列方程式(8)、または(9)式が解かれ、電流ベクトルが求められ、各微小要素に流れる電流が電流ファイル20に保存されると共に、必要に応じて端末装置21の表示画面上に表示される。
【0072】そして電流ベクトルを用いてステップS13で時間領域における電磁界が求められ、その結果が電磁界ファイル22に保存されると共に、端末21の表示画面上で表示が行われる。そしてステップS14で時刻tの値が時間刻み幅Δtだけインクリメントされた後、ステップ6以降の処理が繰り返される。
【0073】ステップ6で解析時刻tが解析終了時間Tを超えたと判定されると、ステップS15で高速フーリエ変換(FFT)ルーチンによって時間領域での電流が周波数領域に変換され、その結果が電流ファイル23に保存されると共に、端末21の表示画面上で表示される。またステップS16で周波数領域での電流値から周波数領域での電磁界が電磁界算出ルーチンによって算出され、その結果は電磁界ファイル24に格納されると共に、端末21の表示画面上に表示されて処理を終了する。
【0074】次に本実施形態の解析方法を適用した具体例について説明する。図8は、ダイポールアンテナに回路が接続された解析対象に対する解析モデルを示す。同図において、ダイポールアンテナ26は、時間領域モーメント法モデル27として、5個の微小要素(ワイヤ)に分割され、回路解析モデル28とは、2番目の微小要素が1番目のポートに、4番目の微小要素が2番目のポートに接続される形式で結合されているものとする。
【0075】前述の(6),(7)、および(10)式に対応して、各微小要素に流れる電流は、次のような行列によって表される。
【0076】
【数14】

【0077】ここで図8に示すように、2番目の微小要素が1番目のポートに、4番目の微小要素が2番目のポートに接続されていることから、次式の関係が成立することに注意する必要がある。
【0078】Y11=Y22,Y12=Y24,Y21=Y42,Y22=Y44図9は、図8に対応する時間行領域モーメント法モデルを独立電流源と電圧依存電流源に置き換えたモデル、すなわち図4に相当するモデルを示す。図4と同様に、ポート1とポート2とに、それぞれ1個の独立電流源と2個の電圧依存電流源が配置されて、このモデルを用いて回路解析が実行される。
【0079】次に本実施形態におけるシミュレーションの例について説明する。図10はシミュレーションにおける解析モデルの説明図である。同図において入力端子には、電圧1V、周波数100MHzの正弦波の波源と、ダイオードが接続され、出力端子には伝送路線と、マッチングをとるための抵抗276Ωが接続され、出力端子には伝送線路とマッチングをとるため抵抗276Ωが接続されている。入力端子と出力端子は、長さ30cmの伝送路線によって結合され、この伝送路線の特性インピーダンスは276Ω、遅延時間は1nsであるとする。
【0080】図11は、図10の解析モデルに対する解析結果としての、入出力電流の時間変化を示す。同図においてI2が入力電流、I3が出力電流を示し、入力端子にダイオードが接続されていることから入力電流、出力電流は共に半波波形となり、出力電流は入力電流より1ns遅れることが正しい解析結果として示されている。なお電流(半波)波形の幅は約3nsであり、100MHzの交流の半周期(5ns)より短いが、これは電源電圧が1Vで、ダイオードの順方向電圧によって電流が流れない期間が存在するためである。
【0081】以上において、本発明の電磁界強度算出方法についてその詳細を説明したが、この方法を実現する電磁界強度算出装置は当然一般的なコンピュータシステムとして構成することが可能である。図12はそのようなコンピュータシステム、すなわちハードウエア環境の構成ブロック図である。
【0082】図12においてコンピュータシステムは中央処理装置(CPU)30、リードオンリメモリ(ROM)31、ランダムアクセスメモリ(RAM)32、通信インタフェース33、記憶装置34、入出力装置35、可搬型記憶媒体の読み取り装置36、およびこれらの全てが接続されたバス37によって構成されている。
【0083】記憶装置34としてはハードディスク、磁気ディスクなど様々な形式の記憶装置を使用することができ、このような記憶装置34、またはROM31に図6、図7のフローチャートに示されたプログラムや、本発明の特許請求の範囲の請求項9,10のプログラムなどが格納され、そのようなプログラムがCPU30によって実行されることにより本実施形態のように、回路解析モデルと電磁波解析モデルとの間に複数のポートを持つ解析対象に対する電磁界算出が可能となる。
【0084】このようなプログラムは、プログラム提供者38側からネットワーク39、および通信インタフェース33を介して、例えば記憶装置34に格納されることも、また市販され、流通している可搬型記憶媒体40に格納され、読み取り装置36にセットされて、CPU30によって実行されることも可能である。可搬型記憶媒体40としてはCD−ROM、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスクなど様々な形式の記憶媒体を使用することができ、このような記憶媒体に格納されたプログラムが読み取り装置36によって読み取られることにより、本実施形態における電磁界強度算出が可能となる。
【0085】
【発明の効果】以上詳細に説明したように本発明によれば、解析対象が電磁波解析モデルと、回路解析モデル、および2つのモデルを結合する複数のポートによって構成されている場合に、解析対象から放射される電磁波による電磁界の算出を行うことが可能となる。
【0086】また電磁波解析に時間領域モーメント法を用いることによって、ダイポールアンテナやスパイラルアンテナのようなアンテナと回路が接続されたような解析対象に対しても、精度よく電磁界を算出することが可能となり、電磁界強度算出装置の実用性向上に寄与するところが大きい。
【出願人】 【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
【住所又は居所】神奈川県川崎市中原区上小田中4丁目1番1号
【出願日】 平成14年1月24日(2002.1.24)
【代理人】 【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之 (外1名)
【公開番号】 特開2003−216681(P2003−216681A)
【公開日】 平成15年7月31日(2003.7.31)
【出願番号】 特願2002−15671(P2002−15671)