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【発明の名称】 吸湿性ポリエステル繊維
【発明者】 【氏名】藤田 友一
【住所又は居所】愛知県岡崎市日名北町4番地1 日本エステル株式会社岡崎工場内

【要約】 【課題】繊維のアルカリ減量速度を事実上問題ない範囲とし、均一な減量加工を施すことによってソフトな風合いを発現させることができ、かつ吸湿性に優れたポリエステル繊維を提供する。

【解決手段】平均分子量が4000〜10000のポリエチレングリコール(X)と、20℃の水に対する溶解率が30質量%以下であるポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体(Y)を、下記式(1)〜(3)を同時に満足するように含有し、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸、及び/又はフェノール性水酸基を有する芳香族ジカルボン酸が、全酸成分に対して0.5〜5モル%共重合されているポリアルキレンテレフタレートからなる吸湿性ポリエステル繊維。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 平均分子量が4000〜10000のポリエチレングリコール(X)と、20℃の水に対する溶解率が30質量%以下であるポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体(Y)を、下記式(1)〜(3)を同時に満足するように含有し、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸及び/又はフェノール性水酸基を有する芳香族ジカルボン酸が、全酸成分に対して0.5〜5モル%共重合されているポリアルキレンテレフタレートからなることを特徴とする吸湿性ポリエステル繊維。
5質量% ≦ X ≦ 15質量% (1) 5質量% ≦ Y ≦ 20質量% (2) 10質量% ≦ X + Y ≦ 30質量% (3)【請求項2】 アルカリ減量速度が1.5質量%/分以下であり、かつ、温度34℃、湿度90%RHの雰囲気下における吸湿率が4.0質量%以上である請求項1記載の吸湿性ポリエステル繊維。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、吸湿性に優れ、かつソフトな風合いを発現させることが可能なポリエステル繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは、優れた機械的特性及び化学的特性を有しており、広範な分野において使用され、特に合成繊維として極めて広い用途を有している。
【0003】しかしながら、ポリエステル繊維は疎水性であるために極めて吸湿性が低く、インナー、中衣、スポーツ衣料等のように直接的に肌に触れて、あるいは肌側に近い状態で着用される分野に使用する場合は、肌からの発汗によるムレやベタつき等を生じ、快適性の点で天然繊維と比較して著しく劣り、このような衣料分野での利用が大きく制限されている。
【0004】従来、ポリエステル繊維に親水性または吸湿性を付与しようとする試みが種々なされてきた。例えば、特開昭62−267352号公報には、ポリアルキレングリコール類を50〜70質量%配合してなるポリエステル組成物が開示されている。このような組成物からなる繊維は、耐薬品性に劣るものであり、特にアルカリによる減量速度が著しく速くなってしまうという欠点を有する【0005】一般に、ポリエステル繊維は、アルカリ減量加工を施すことによりソフトな風合いを発現させることが行われているが、このようなアルカリによる減量速度が速い繊維では、減量率をコントロールして減量加工を均一に行うことができず、ソフトな風合いを有する繊維を得ることができないという問題があった。
【0006】このような問題点を解決する方法として、例えば、特開平2−99612号公報には、常温下で吸湿率が10質量%以上の吸湿性ポリマーを芯部とし、鞘部をポリエステルで覆った芯鞘型複合繊維が提案されている。しかしながら、このような方法でもアルカリ減量加工時の熱水により芯部の吸湿性ポリマーが大きく膨潤するため、複合繊維の表面にひび割れが生じ、水に対する親和性が高い芯部のポリマーが外部に流出してしまうという問題があった。
【0007】また、特開平9−228157号には、ポリエステルからなる外層と内層の間に、ポリエーテル化合物を含む吸湿性ポリマーの中間層が複合されており、かつ、中空部を有する中空状三層複合繊維が提案されている。このような繊維は、アルカリ減量加工時の熱水により、中間層の吸湿性ポリマーが膨潤しても中空部が変形することによって複合繊維の表面はひび割れを起こさず、水に対する親和性が高い中間層のポリマーが外部に流出することがないようにしたものである。このような繊維形態をとることにより、ある程度のアルカリ減量加工は可能となるが、繊維の断面形状が複雑であるために製糸の安定性に劣り、操業性が極めて悪いという問題があった。
【0008】そこで、本出願人は、特開2001-115335号公報において、優れた吸湿性を有し、アルカリ減量速度を事実上問題ない範囲とすることができる吸湿性ポリエステル繊維を提案した。この繊維は、ポリエーテル化合物等を含有し、スルホン酸塩基含有化合物とダイマー酸とが共重合されたポリエステルからなるものであり、ポリエーテル化合物を含有させることにより吸湿性を付与し、アルカリ減量速度を低下させるためにダイマー酸を共重合させているものである。そして、スルホン酸塩基含有化合物はポリエステルの親水性を向上させるものであり、ダイマー酸が疎水性であるために吸湿性能が低下することを緩和するという役割を果たすものであった。
【0009】しかしながら、この吸湿性繊維においては、ダイマー酸が疎水性であるために、スルホン酸塩基含有化合物を共重合することによりダイマー酸の疎水性を緩和しているとはいえ、吸湿性が低下することを防ぐことができず、繊維の吸湿性は十分に満足できるものではなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、繊維のアルカリ減量速度を事実上問題ない範囲とし、均一な減量加工を施すことによってソフトな風合いを発現させることができ、かつ吸湿性に優れたポリエステル繊維を提供しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の課題を解決するものであり、その要旨は、平均分子量が4000〜10000のポリエチレングリコール(X)と、20℃の水に対する溶解率が30質量%以下であるポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体(Y)を、下記式(1)〜(3)を同時に満足するように含有し、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸及び/又はフェノール性水酸基を有する芳香族ジカルボン酸が、全酸成分に対して0.5〜5モル%共重合されているポリアルキレンテレフタレートからなることを特徴とする吸湿性ポリエステル繊維にある。
5質量% ≦ X ≦ 15質量% (1) 5質量% ≦ Y ≦ 20質量% (2) 10質量% ≦ X + Y ≦ 30質量% (3)【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明の繊維を形成するポリアルキレンテレフタレートは、平均分子量が4000以上10000以下のポリエチレングリコール(以下、PEGとする)を5〜15質量%、20℃の水に対する溶解率が30質量%以下であるポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体を5〜20質量%含有し、また、両者の合計含有量が10〜30質量%であることが必要である。
【0013】PEGの平均分子量が4000未満であると、十分な吸湿性を示さず、添加量を増しても目的とする吸湿性能を持つ繊維が得られない。また、その平均分子量が10000を超える場合は、ポリアルキレンテレフタレートとの相溶性が悪く、アルカリ減量加工時においてPEG成分が溶出しやすくなり、結果として、これを含有するポリエステル繊維のアルカリ減量速度が速くなるため、好ましくない。
【0014】そして、PEGの含有量が5質量%未満では充分な吸湿率が発現せず、一方、15質量%を超えると、ポリアルキレンテレフタレートとの相溶性が悪くなり、アルカリ減量速度が速いポリエステル繊維となる。
【0015】次に、20℃の水に対する溶解率が30質量%以下のポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体は、溶解率が30質量%を超えるとこの成分がアルカリ減量加工時に溶出しやすくなるため好ましくない。なお、本発明における溶解率とは、次に示すようなものである。まず、20℃に調節した水100gに、ポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体を1g添加して5分間攪拌する。完全に溶解した場合は、さらにポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体を1g添加して5分間攪拌する操作を繰り返し、完全に溶解しなくなった時点での添加量から、次式により求める。
溶解率(質量%)=〔全添加量/(全添加量+100)〕×100【0016】本発明に用いる、このようなポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体としては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールが挙げられる。また、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体で平均分子量が9000以上のものも水に対する溶解性が低く好ましい。特にこの場合、プロピレンオキシドの共重合割合が20〜80モル%のものが好適である。
【0017】そして、このようなポリアルキレンオキシドの末端の一部又は全部がイソシアネート化合物等と反応して架橋しているものも好適であり、市販品としては住友精化社製「アクアコーク」等が挙げられる。また、ポリエーテル成分とポリアミド成分からなるポリエーテルエステルアミドも好ましく、市販品としては三洋化成社製「ペレスタット」等が挙げられる。
【0018】このポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体の含有量が5質量%未満では十分な吸湿性が発現せず、一方、20質量%を超えると操業性が著しく低下するため好ましくない。
【0019】そして、本発明においては、平均分子量が4000以上10000以下のPEGと、20℃の水に対する溶解率が30質量%以下であるポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体を併用することが重要である。
【0020】すなわち、前者は、その添加量を増せば繊維の吸湿性能は向上するが、親水性が高くアルカリ減量速度を抑えるためには添加量を制限しなくてはならない。一方、後者は、アルカリ減量加工時の溶出は少ないが化合物自体の吸湿性が前者に比べて低く、後者の化合物のみで目的とする吸湿性能を得ようとすると添加量が多くなり、操業性が悪化するという問題がある。そこで、両者を併用することによって、それぞれの添加量を抑え、欠点を補うことが可能となる。
【0021】なお、平均分子量が4000〜10000のPEGと、20℃の水に対する溶解率が30質量%以下であるポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体の合計添加量が、10質量%未満であると十分な吸湿性能のものとならず、一方、30質量%を超えるとポリマー物性の低下が生じ、また操業性も著しく低下する。
【0022】次に、本発明の繊維を形成するポリアルキレンテレフタレートとしては、具体的にはポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等が好適である。
【0023】そして、このポリアルキレンテレフタレートは、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸、又はフェノール性水酸基を有する芳香族ジカルボン酸をそれぞれ単独もしくは併用して、全酸成分に対して0.5〜5モル%共重合されていることが必要である。具体的には、前者は5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のスルホン酸塩基を有するイソフタル酸、後者は5−ヒドロキシイソフタル酸が好適である。
【0024】まず、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸とフェノール性水酸基を有する芳香族ジカルボン酸は、ポリアルキレンテレフタレートを親水化する効果があり、これにより吸湿性に優れた繊維とすることができるものである。
【0025】フェノール性水酸基を有する芳香族ジカルボン酸は、アルカリ減量速度の上昇を防ぐことができる。すなわち、上記したように、アルカリ減量速度を調整するために、分子量や特性を特定のものとしたPEGやポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体を含有させてはいるが、アルカリ減量加工時には、熱水によって共重合されていないこれらの成分が溶出して繊維の表面積を増大させ、その結果、アルカリによるポリエステルの加水分解が進行する。そこで、フェノール性水酸基を有する芳香族ジカルボン酸成分を共重合することにより、共重合されずにポリエステル中に分散している状態のこれらの成分をポリエステル中に固定することができ、アルカリ減量加工時にこの成分が溶出してしまうことが抑制される。つまり、ポリエーテル化合物等の溶出を防ぐことができるため、アルカリ減量速度の上昇を防ぐことができ、吸湿性成分を保持できるので吸湿性に優れた繊維とすることができる。さらには、フェノール性水酸基を少なくとも1個以上有する芳香族カルボン酸成分は親水性の官能基を有しており、共重合することによってポリエステル自体の疎水性緩和されることとなる。
【0026】スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸、フェノール性水酸基を有する芳香族ジカルボン酸成分の共重合割合は、両者を単独もしくは併用して、全酸成分に対して0.5〜5モル%の範囲とすることが必要であり、より好ましくは0.5〜2モル%とする。この共重合割合が0.5モル%未満であると、上記したように繊維の親水性を向上させる効果やアルカリ減量速度の上昇を防ぐ効果が不十分となる。一方、5モル%を超えると、重合時にポリマーの溶融粘度が高くなり、操業性が低下する。また、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分単独での共重合量が5モル%を超える場合、ポリエステルの親水性が高くなりすぎ、アルカリ減量速度が速くなる。
【0027】なお、本発明において、ポリアルキレンテレフタレートは、本質的な特性を損なわない限り、他の共重合成分を少量含有していてもよく、これらの共重合成分としては、イソフタル酸、無水フタル酸、5−スルホイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサノンジメタノール、ダイマージオール、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体、ビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等のグリコール成分、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸成分が挙げられる。
【0028】そして、本発明の繊維は、上記のようなポリエステルからなることにより、アルカリ減量速度が1.5質量%/分以下、かつ、温度34℃、湿度90%RHの雰囲気下における吸湿率が4.0質量%以上となる。アルカリ減量速度が1.5質量%/分を超えると、減量の進行が速すぎるために減量率のコントロールが難しくなり、均一な減量加工ができなくなり、ソフトな風合いの繊維を得ることができない。
【0029】なお、アルカリ減量速度の値は、次の方法で測定した値をいう。繊維を筒編し、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で70℃×40分、浴比1:50で処理したときの減量質量から、次式により求める。
減量速度(質量%/分)=〔(減量前質量−減量後質量)/減量前質量〕×100/40【0030】また、温度34℃、湿度90%RHの雰囲気下における吸湿率が4.0質量%未満では、綿等の天然繊維と比較して充分な吸湿性が得られず、衣類とした場合の着用時に不快感を生じやすいので好ましくない。
【0031】なお、吸湿率の値は、次の方法で測定した値をいう。繊維を筒編し、これを25℃、60%RHで調湿して質量W0を測定する。次いで、この筒編地を、2hPaの減圧下、80℃で6時間乾燥し、34℃、90%RHに設定した恒温恒湿槽に6時間放置した後、質量W1を測定する。そして、次式により吸湿率を求める。
吸湿率(質量%)=〔(W1−W0)/W0〕×100【0032】次に、本発明の繊維の製造方法について一例を用いて説明する。テレフタル酸とジオールを直接エステル化させて、テレフタル酸の低級アルキルエステルとジオールをエステル交換させて、ポリエステルオリゴマーを合成し、これにエチレングリコール、およびポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体と、スルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸やフェノール性水酸基を有する芳香族ジカルボン酸等を添加し、重縮合反応を行う。重縮合反応は、通常アンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、コバルト等の金属化合物の存在下で、0.12〜12hPa程度の減圧下、220〜290℃の温度で、極限粘度が0.5以上となるまで行うことが好ましい。また、効果を阻害しない範囲であれば、ヒンダードフェノール系化合物のような抗酸化剤、コバルト化合物、蛍光剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような顔料、酸化セリウムのような耐光性改良材等の添加剤を含有させても差し支えない。次に、得られたポリエステルを常法により乾燥し、通常の溶融紡糸機に供給してポリエステルの融点より20℃以上高い温度で溶融紡糸し、糸条を冷却後に未延伸糸または半未延伸糸として一旦捲き取るか、あるいは、捲き取ることなしに引き続いて延伸、熱処理等を行って目的の繊維を得る。
【0033】なお、本発明の効果が損なわれない限り、他の成分との複合繊維としてもよい。さらに、ポリエステル繊維の形態は長繊維としても短繊維としてもよく、必要に応じて、捲縮加工、仮撚加工、薬液による処理等の後加工を施して用いることもできる。
【0034】
【作用】本発明のポリエステル繊維がアルカリ減量加工を均一に施すことが可能であり、かつ、優れた吸湿性を備えている理由として、発明者は次のように考えている。ポリエステルに吸湿性を付与するためには、ある程度のセグメント長を有するポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体を含有させることが必要である。しかし、このような高分子量のポリエーテル化合物は、一般にポリエステルに対する相溶性が劣るために、全てがポリエステルに共重合されず、ある程度の量はポリエステル中に分散した状態となっている。このようなポリエステルからなる繊維にアルカリ減量加工を行うと、まず、熱水によって共重合されていないポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体が溶出して繊維の表面積を増大させ、その結果、アルカリによるポリエステルの加水分解が急激に進行するものと考えられる。したがって、アルカリ減量速度を実用上問題ない程度に抑制しようとした場合、その添加量が制限されるため、得られる繊維の吸湿性能にも限界があった。本発明のポリエステル繊維は、吸湿性を向上させることができる分子量が4000〜10000のPEGを含有し、さらに、20℃の水に対する溶解率が30質量%以下である難溶性のポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体も含有することによって、耐アルカリ性と吸湿性の両者をポリエステルに付与することができる。すなわち、本発明で用いるポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体は、PEGには及ばないが、吸湿性を付与することができ、また、この成分は実質的に水に難溶性であり、ポリエステル中に分散した状態となっていても、アルカリ減量加工時に溶出する度合は低く抑えられる。したがって、この水に対して難溶性のポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体を、操業性を悪化させない程度の範囲内で添加することによって、PEGの含有量を減少させながらも繊維の吸湿性能を向上させ、アルカリ減量速度を小さくすることが可能である。さらに、ポリエステル中にスルホン酸塩基を有する芳香族化合物やフェノール性水酸基を有する芳香族化合物が共重合されているために、親水性が向上し、アルカリ減量速度の上昇を防ぐことができ、繊維の吸湿性能がアップする。つまり、スルホン酸塩基を有する芳香族化合物は、共重合することによってポリエステル自体の親水性を向上させることができるものであり、フェノール性水酸基は、高温下でラジカルを発生しやすいものであり、共重合されずにポリエステル中に分散している状態のPEGやポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体と相互作用し、これらを固定化することにより、アルカリ減量加工時にこの成分が溶出してしまうことを抑制することができ、かつ親水性の官能基を有することからポリエステル自体の疎水性を緩和することができるためである。これらの結果として、繊維に優れた吸湿性を付与し、かつ、アルカリ減量速度が1.5質量%/以下と実用上問題ない範囲にすることが可能であると推定される。
【0035】
【実施例】次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各種の値の測定、評価は次の通りに行った。
(a)極限粘度〔η〕
フェノールとテトラクロロエタンとの等質量混合物を溶媒とし、温度20℃で測定した。
(b)強伸度オリエンティック社製テンシロンRTC−1210型を用い、50cmの資料を50cm/分の速度にて引張試験を行い、そのストレス−ストレイン曲線から求めた。
(c)アルカリ減量速度前記の方法で測定した。
(d)吸湿率前記した吸湿率の測定方法に準じて評価した。
(e)風合い繊維を筒編し、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で70℃、浴比1:50で減量質量が20質量%となるように処理し、処理後の風合いを10人のパネラーによる官能試験により、次の三段階で評価した。なお、表中には、均一な減量加工ができず、風合い評価を行うまでもなかったものを××として表した。
○:10人中7人以上が軟らかいと感じた。
△:10人中4〜6人が軟らかいと感じた。
×:軟らかいと感じた人が10人中3人以下であった。
【0036】実施例1PETオリゴマーの存在するエステル化反応缶にテレフタル酸とエチレングリコールとのモル比1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.1MPa、滞留時間8時間の条件で、エステル化反応を行い、反応率95%のPETオリゴマーを連続的に得た。このPETオリゴマー46.7kgを重縮合反応缶に移送し、平均分子量6000のPEGを6.0kg(生成するポリマーに対し10質量%となる量)、及びエチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体(共重合比50/50、平均分子量9000、ランダムジオール)を9.0kg(生成するポリマーに対し15質量%となる量)と、抗酸化剤として「イルガノックス245」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、ヒンダードフェノール系抗酸化剤)を180g(生成するポリマーに対して0.3質量%となる量)添加し、40分間攪拌混合した。その後、三酸化アンチモンを20g(全酸成分1モルに対して3×10−4モルとなる量)、5−ナトリウムスルホン酸のエチレングリコールエステル(以下SIPGと略す)を416g(全酸成分に対して0.5モル%となる量)添加し、重縮合反応缶内の温度を30分間で270℃に昇温し、圧力を徐々に減じて60分後に1.2hPa以下とした。この条件で、攪拌しながら4時間重縮合反応を行い、常法により払い出してペレット化した。次に、このペレットを常法により乾燥した後、通常の溶融紡糸装置を用いて紡糸温度290℃で溶融紡糸し、1400m/分の速度で未延伸糸を捲き取った。この未延伸糸を延伸機に供給し、80℃で予熱した後、温度150℃のヒートプレートに接触させながら3.5倍に延伸、熱処理して捲き取り、83デシテックス/36フィラメントの吸湿性ポリエステル繊維を得た。
【0037】実施例2,3、比較例3,4,7〜9PEGと20℃の水に対する溶解率が30質量%以下であるポリエーテル化合物またはポリエーテル化合物誘導体(以下、水に難溶性のポリエーテル化合物と略す)の種類及び含有量、SIPGの共重合割合を表1に示すように種々変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0038】実施例4、比較例1,2,5,6PEGと水に難溶性のポリエーテル化合物の種類及び含有量を表1に示すように種々変更し、またSIPGの代わりに5−ヒドロキシイソフタル酸(以下、HIPAと略す)を添加し、その共重合割合を表1に示すように種々変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0039】実施例1〜4、比較例1〜9で得られたポリエステルの〔η〕と、繊維の物性、評価を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】表1から明らかなように、実施例1〜4のポリエステル繊維は、アルカリ減量速度が1.5質量%/分以下と減量加工を行う上で実用上問題ない範囲であり、減量加工を行うことによりソフトな風合いを発現させることが可能であり、吸湿率も4質量%以上と吸湿性にも優れたものであった。また、製糸、操業性も良好であった。一方、比較例1では添加するPEGの分子量が小さく、それ自体の吸湿性が低いために、比較例3ではPEGの添加量が少なすぎたために、比較例5では水に難溶性のポリエーテル化合物の添加量が少なすぎたために、比較例8ではSIPGの共重合割合が少なすぎたために、ともに得られた繊維は吸湿率が不十分なものであった。また、比較例2ではPEGの分子量が大きく、PETとの相溶性が悪いために、比較例4ではPEGの添加量が多すぎるために、比較例9ではSIPGの共重合割合が多すぎたために、ともに得られた繊維はアルカリ減量速度が速く、均一な減量加工を行うことができなかった。比較例6では水に難溶性のポリエーテル化合物の添加量が多すぎたために、比較例7ではPEGと水に難溶性のポリエーテル化合物の合計添加量が多すぎたために、紡糸時に糸切れが多発し、繊維を得ることができなかった。
【0042】
【発明の効果】本発明のポリエステル繊維は、吸湿性に優れ、かつ減量加工を施すことによりソフトな風合いを発現できるので、この繊維より得られる布帛は、様々な用途に利用でき、中でも衣料用として用いると、快適な着用感を得ることができる。
【出願人】 【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
【住所又は居所】愛知県岡崎市日名北町4番地1
【出願日】 平成14年4月10日(2002.4.10)
【代理人】
【公開番号】 特開2003−306831(P2003−306831A)
【公開日】 平成15年10月31日(2003.10.31)
【出願番号】 特願2002−107838(P2002−107838)