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【発明の名称】 傘歯車の高周波焼入方法及び装置
【発明者】 【氏名】沢津橋 精一
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 電気興業株式会社内

【氏名】片沼 秀明
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 電気興業株式会社内

【氏名】小野澤 隆幸
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 電気興業株式会社内

【氏名】篠原 明彦
【住所又は居所】愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自動車株式会社内

【要約】 【課題】傘歯車の歯面部の全域(傘歯車の径方向の全域)にわたって輪郭形状の均一な焼入硬化層パターンを形成することができるような傘歯車の高周波焼入方法及び装置を提供する。

【解決手段】傘歯車(例えば、ハイポイド歯車1)の歯面側(歯面部4aの側)に歯面加熱用の高周波誘導加熱コイル5を配置すると共に、傘歯車1の歯面側とは反対の背面側(背面部4bの側)に背面加熱用の高周波誘導加熱コイル11を配置し、歯面加熱用の高周波誘導加熱コイル5にて傘歯車1の歯面部4aを高周波誘導加熱する際に、背面加熱用の高周波誘導加熱コイル11により傘歯車1の背面部4bを高周波誘導加熱する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 傘歯車の歯面部を高周波誘導加熱して冷却することにより、前記傘歯車の歯面部の表面にその歯面部の形状に沿った焼入硬化層を形成するようにした傘歯車の高周波焼入方法において、前記傘歯車の歯面側に歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルを配置すると共に、前記傘歯車の歯面側とは反対の背面側に背面加熱用の高周波誘導加熱コイルを配置し、前記歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルにて前記傘歯車の歯面部を高周波誘導加熱する際に、前記背面加熱用の高周波誘導加熱コイルにより前記傘歯車の背面部を高周波誘導加熱するようにしたことを特徴とする傘歯車の高周波焼入方法。
【請求項2】 前記歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルにて前記傘歯車の歯面部を高周波誘導加熱する前に、前記背面加熱用の高周波誘導加熱コイルにより前記傘歯車の背面部を高周波誘導加熱するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の傘歯車の高周波焼入方法。
【請求項3】 前記傘歯車の背面部の加熱開始時点から前記傘歯車の歯面部の加熱開始時点までの予熱期間中に、加熱と冷却とを交互に繰り返すようにしたことを特徴とする請求項2に記載の傘歯車の高周波焼入方法。
【請求項4】 前記歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルによる本加熱の終了後に、前記傘歯車の歯面部を冷却すると共に、前記傘歯車の背面部を冷却するようにしたことを特徴とする請求項2又は3に記載の傘歯車の高周波焼入方法。
【請求項5】 前記背面加熱用の高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給する高周波電源の発振周波数を1〜30kHzとし、前記歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給する高周波電源の発振周波数を40〜800kHzとしたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の傘歯車の高周波焼入方法。
【請求項6】 前記傘歯車の背面部の冷却媒体として圧縮空気又は冷却液を使用すると共に、前記傘歯車の歯面部の冷却媒体として焼入冷却液を使用するようにしたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の傘歯車の高周波焼入方法。
【請求項7】 傘歯車の歯面部を高周波誘導加熱して冷却することにより、前記傘歯車の歯面部の表面にその歯面部の形状に沿った焼入硬化層を形成するようにした傘歯車の高周波焼入装置において、(a) 前記傘歯車を所定位置に固定保持する治具と、(b) 前記傘歯車の歯面側で前記傘歯車の歯面部に対向するように配置される歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルと、(c) 前記傘歯車の歯面側とは反対の背面側で前記傘歯車の背面部に対向するように配置される背面加熱用の高周波誘導加熱コイルと、(d) 前記歯面加熱用及び背面加熱用の高周波誘導加熱コイルに高周波電流をそれぞれ供給する高周波電源と、(e) 前記歯面加熱用及び背面加熱用の高周波誘導加熱コイルにて高周波誘導加熱された前記傘歯車の歯面部及び背面部をそれぞれ冷却する冷却機構と、を具備することを特徴とする傘歯車の高周波焼入装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、傘歯車の高周波焼入方法及び装置に関し、更に詳しくは、例えばモジュール1〜8のすぐ歯傘歯車,まがり歯傘歯車,はす歯傘歯車,ハイポイド歯車等の各種の傘歯車に対してその傘歯車の歯形(歯面部の表面形状)に沿う焼入硬化層を形成(高周波輪郭焼入)するための高周波焼入方法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】傘歯車は、通常、歯面圧強さと歯元曲げ強さについてその両方の強さ(強度)が充分に高いことが要求される。傘歯車に対してその内部の全体に焼入硬化処理を行ういわゆるズブ焼入では、歯面強さを増すことができるが歯元曲げ強さが低下してしまい、負荷が加わった場合に傘歯車の歯部がその根元部分で折損するおそれがある。傘歯車の面圧及び曲げ強度を確保すべく歯面部の全域にわたって輪郭焼入を行う必要があるような傘歯車については、歯面部の形状に沿って焼入できる浸炭焼入が工業的に行われている。
【0003】従来において、傘歯車の一種である図5に示すようなリング形状のハイポイド歯車1の表面を高周波焼入する場合には、被焼入体若しくは焼入処理体としてのワークであるハイポイド歯車1を次のようにして焼入処理するようにしている。まず、図6に示すように、炭素含有の不活性ガス中において上下一対のワーク受け治具2及びワーク押え治具3にてハイポイド歯車1の円筒状内径部を上下方向から挟持してこれらの治具2,3間に固定保持し、その後に、ハイポイド歯車1の歯面側の位置すなわちハイポイド歯車1の歯面部4aの側にリング形状の歯面加熱用の高周波誘導加熱コイル5を対向配置する。そして、上述の高周波加熱誘導加熱コイル5に高周波電源6からそれぞれ所要の高周波電流を供給することによりハイポイド歯車1の歯面部4aを所要温度に高周波誘導加熱し、しかる後に、高周波加熱誘導加熱コイル5の中空部を流れる焼入冷却液をハイポイド歯車1に向けて噴射してハイポイド歯車1の歯面部4aを急速冷却することによって歯面部4aの表面に歯面部4aの形状に沿った所要の焼入硬化層を形成するようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述のような従来の傘歯車の高周波焼入方法では、次のような問題点がある。すなわち、ハイポイド歯車1は、図7に示すように歯面部4aの内径部分7と外径部分8とでは歯の大きさ(歯寸法)が異なっており、歯寸法の小さい内径部分7は、歯寸法の大きな外径部分8に比べて高周波誘導加熱され易いため、この内径部分7がズブ焼入され易い。更に、単一の高周波誘導加熱コイルでリング形状のワーク(被焼入体)を誘導加熱する場合には、高周波電流がワークの外径部分より内径部分を流れ易い性質があるため、上述のハイポイド歯車1の場合にあっては外径部分8よりも内径部分7の焼入硬化層の厚さ(焼入深さ)が深くなる。そのため、歯寸法の大きい外径部分8で、輪郭焼入を行うことができても、歯寸法の小さい内径部分7ではズブ焼入となり、歯面部4aの全体を均一に輪郭焼入することが困難である。
【0005】また、歯車の高周波焼入においては、一般的に、歯先部と歯底部の誘導電流は高周波発振周波数と関係があり、高い周波数帯を使用すると、歯底部より歯先部が誘導加熱され易く、低い周波数帯を使用すると、歯先部より歯底部が誘導加熱され易い傾向がある。傘歯車の歯面部の内径部分及び外径部分(例えば、ハイポイド歯車1の歯面部4aの内径部分7及び外径部分8)の硬化層深さを均一にする方法としては、ワーク内径部と高周波誘導加熱コイルとの間のクリアランスをワーク外径部と高周波誘導加熱コイルとの間のクリアランスよりも広くして、ワーク内径部の誘導電流を減少させることや、ワーク内径部に熱取治具を取付けて高周波誘導加熱時の温度上昇を減少させる方法があるが、この方法だけでは加熱温度の調整範囲が狭くワーク歯面部の全域を均一に加熱できるまでには至っていないのが実状である。
【0006】また、歯先部から歯底部までを歯形に沿って焼入硬化層を形成する方法としては、焼入温度以下の例えばAl変態温度以下に電気炉で予熱(予備加熱)した後に高周波誘導過熱コイルにて加熱することも可能であるが、この場合には、電気炉を備える設備と高周波焼入装置を備える設備とを用いて2つの異なる生産工程を施行する必要があるので、生産性に問題がある。
【0007】また、図6に示すようなハイポイド歯車1と高周波誘導加熱コイル5との配置関係の下でハイポイド歯車1を予熱工程と本加熱工程の2回の工程に分けて高周波誘導加熱する方法を採用することも考えられるが、そのようにしても発振周波数帯が同一であれば、従来の通常の高周波誘導加熱により得られる焼入硬化層と殆ど同様の焼入硬化層パターンとなり、焼入硬化層にあまり変化はない。更に、予熱工程と本加熱工程とで発振周波数を切替えて高周波誘導加熱する方法も考えられるが、図6に示すようなハイポイド歯車1と高周波誘導加熱コイル5との配置関係では、予熱及び本加熱を同一の高周波誘導加熱コイル5で行うこととなるため、ハイポイド歯車1の内径部分7と外径部分8とにおける歯寸法の大きさの違いに対して加熱温度の調整幅が少なく、従って歯先部と歯底部の硬化層深さが歯面部の全域において均一な硬化層深さとなるまでには至っていないのが実状である。
【0008】本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、傘歯車の歯面部の全域(傘歯車の径方向の全域)にわたって輪郭形状の均一な焼入硬化層パターンを形成することができるような傘歯車の高周波焼入方法及び装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上述の課題を解決するために、本発明では、傘歯車の歯面部を高周波誘導加熱して冷却することにより、前記傘歯車の歯面部の表面にその歯面部の形状に沿った焼入硬化層を形成するようにした傘歯車の高周波焼入方法において、前記傘歯車の歯面側に歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルを配置すると共に、前記傘歯車の歯面側とは反対の背面側に背面加熱用の高周波誘導加熱コイルを配置し、前記歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルにて前記傘歯車の歯面部を高周波誘導加熱する際に、前記背面加熱用の高周波誘導加熱コイルにより前記傘歯車の背面部を高周波誘導加熱するようにしている。また、本発明では、前記歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルにて前記傘歯車の歯面部を高周波誘導加熱する前に、前記背面加熱用の高周波誘導加熱コイルにより前記傘歯車の背面部を高周波誘導加熱するようにしている。また、本発明では、前記傘歯車の背面部の加熱開始時点から前記傘歯車の歯面部の加熱開始時点までの予熱期間中に、加熱と冷却とを交互に繰り返すようにしている。また、本発明では、前記歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルによる本加熱の終了後に、前記傘歯車の歯面部を冷却すると共に、前記傘歯車の背面部を冷却するようにしている。また、本発明では、前記背面加熱用の高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給する高周波電源の発振周波数を1〜30kHzとし、前記歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルに高周波電流を供給する高周波電源の発振周波数を40〜800kHzとしている。また、本発明では、前記傘歯車の背面部の冷却媒体として圧縮空気又は冷却液を使用すると共に、前記傘歯車の歯面部の冷却媒体として焼入冷却液を使用するようにしている。また、本発明では、傘歯車の歯面部を高周波誘導加熱して冷却することにより、前記傘歯車の歯面部の表面にその歯面部の形状に沿った焼入硬化層を形成するようにした傘歯車の高周波焼入装置において、(a) 前記傘歯車を所定位置に固定保持する治具と、(b) 前記傘歯車の歯面側で前記傘歯車の歯面部に対向するように配置される歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルと、(c) 前記傘歯車の歯面側とは反対の背面側で前記傘歯車の背面部に対向するように配置される背面加熱用の高周波誘導加熱コイルと、(d) 前記歯面加熱用及び背面加熱用の高周波誘導加熱コイルに高周波電流をそれぞれ供給する高周波電源と、(e) 前記歯面加熱用及び背面加熱用の高周波誘導加熱コイルにて高周波誘導加熱された前記傘歯車の歯面部及び背面部をそれぞれ冷却する冷却機構と、を具備するようにしている。
【0010】本発明の好ましい実施態様においては、傘歯車の歯面側と背面側(歯面の裏側)に高周波誘導加熱コイルをそれぞれ配置し、前記歯車の背面側を先に背面加熱用の高周波誘導加熱コイルにより低い周波数帯で高周波誘導加熱し、その後に前記傘歯車の歯面側を歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルにより高い周波数帯で高周波誘導加熱することにより、傘歯車の歯面部の内径部分から外径部分までの全域における加熱温度を均一とし、歯面側の加熱終了と同時或いは加熱終了時点から所定時間を経過した後に、背面加熱用の高周波誘導加熱コイルから圧縮空気又は焼入冷却液を噴射し、歯面側の加熱終了後から所定時間が経過した後に歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルから焼入冷却液を噴射して冷却することにより、歯面部の全域(傘歯車の径方向の全域)において、歯先部から歯底部にかけて歯形に沿った輪郭焼入硬化層を形成する。
【0011】また、本発明の好ましい実施態様においては、傘歯車の歯面部を高周波焼入する際に、まず、背面加熱用の高周波誘導加熱コイルにより傘歯車の背面部を予熱する。予熱温度は、歯底部の温度がAl変態点の近傍となるように設定する。加熱の方法として、傘歯車(ワーク)の形状や肉厚の影響を受けにくくするには、2段加熱(第1加熱,第1冷却,第2加熱、第2冷却を順次に行う加熱サイクル)により予熱を行った方が、歯底部の温度を熱伝導により上昇させ易いので均熱化を図り易い。また、予熱後、歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルにて歯面部を高周波誘導加熱し、オーステナイト領域まで温度上昇させる。歯面側の加熱終了と同時、或いは、加熱終了時点から所定時間が経過した後に、背面加熱用の高周波誘導加熱コイルから圧縮空気又は焼入冷却液を噴射する。この工程は、歯面部のみからの冷却では冷却速度が遅いため背面側から冷却し、冷却速度を速くするためである。冷却媒体としての圧縮空気及び焼入冷却液の選択については、背面部の冷却速度を変えることにより焼入後のワーク(傘歯車)の変形を少なくするための調整代であり、焼入条件により逐次異なる。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態について図1〜図4を参照して説明する。なお、図1〜図4において、図5〜図7と同様の部分には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0013】図1は、本発明に係る傘歯車の高周波焼入方法を施行するために用いる高周波焼入装置10を示すものであって、本装置10は、傘歯車の一種であるハイポイド歯車1の歯面部4aを高周波輪郭焼入する装置である。
【0014】本実施形態の高周波焼入装置10は、図1に示すように、ハイポイド歯車1を上下方向から挟持して所定位置に固定保持する上下一対のワーク受け治具2及びワーク押え治具3と、これらの治具2,3間に固定保持されたハイポイド歯車1の歯面部4aの側に対向配置されるリング形状の歯面加熱用の高周波誘導加熱コイル5と、前記ハイポイド歯車1の背面側すなわち歯面部4aとは反対側の背面部4bの側に対向配置されるリング形状の背面加熱用の高周波加熱誘導加熱コイル11と、これらの高周波加熱誘導加熱コイル5,11に高周波電流をそれぞれ供給する高周波電源6,12とを具備している。更に、図示を省略したが、本装置10は、上側のワーク押え治具3を上下方向に昇降させる治具昇降機構や、一対のワーク押え治具2,3間にハイポイド歯車1を挟持した状態でこれらを軸線X(図1参照)を中心に回転駆動する回転駆動機構を備えている。なお、上述の高周波電源6,12は、それぞれ単独で高周波発振が可能に構成されている。
【0015】上述の高周波誘導加熱コイル5,11は、図1に示す如く中空部(通路)5a,11aをそれぞれ有するパイプ材から構成されており、歯面加熱用の高周波誘導加熱コイル5の中空部5aには、図外の焼入冷却液供給機構から焼入冷却液αがインレットパイプP1 (図3(b)参照)を介して適宜に供給される一方、背面加熱用の高周波加熱誘導加熱コイル11の中空部11aには、図外の冷却エアー供給機構から冷却エアーβ(又は図外の冷却液供給機構から冷却液)がインレットパイプP2 (図3(b)参照)を介して適宜に供給されるように構成されている。なお、これらの高周波誘導加熱コイル5,11に供給される焼入冷却液α及び冷却エアーβには、図外のポンプ等により所定の圧力が掛けられるようになっている。かくして、高周波誘導加熱コイル5の中空部5aに供給された焼入冷却液αは、この高周波誘導加熱コイル5に設けられた複数の噴射孔13からハイポイド歯車1の歯面部4aに向けて噴射され、高周波誘導加熱コイル11に供給された冷却エアーβは、この高周波誘導加熱コイル11に設けられた複数の噴射孔14からハイポイド歯車1の背面部4bに向けて噴射されるように構成されている。
【0016】なお、高周波誘導加熱コイル5,11の形状は、歯面部4aの加熱の際に温度上昇しにくい外径部分8を背面部4bの加熱により補ない得るように背面加熱用の高周波誘導加熱コイル11の形状をハイポイド歯車1の外径寸法より大きくし、ハイポイド歯車1の歯面部4aの外径部分8における歯底近傍箇所を直接的に高周波誘導加熱するのが望ましい。このようにすることによって、本加熱時における歯面部4aの内径部分7と外径部分8の加熱温度を均一化することが可能となる。
【0017】ここで、上述の高周波焼入装置10を用いてハイポイド歯車1の歯面部4aを高周波焼入する際の操作手順並びに作用について述べると、以下の通りである。
(1) まず、図3(a)に示すように、ハイポイド歯車1の歯面部4aを下向きにし、固定状態のワーク受け治具2にハイポイド歯車1の中央開口15(図5参照)を嵌着させた状態でハイポイド歯車1をこのワーク受け治具2上にセットする。これに伴い、ハイポイド歯車1の歯面部4aが、ワーク受け治具2の周囲に固定配置された歯面加熱用の高周波誘導加熱コイル5に所定のクリアランスを隔てた位置において対向配置される。
(2) 次いで、図外の治具昇降機構を作動させることによりワーク押え治具3を図3(a)において矢印Aで示すようにワーク受け治具2に向けて下降させ、ワーク押え治具3とワーク受け治具2との間にハイポイド歯車1を挟持した状態で固定保持する。
(3) 次いで、図外の治具昇降機構を作動させることにより背面加熱用の高周波誘導加熱コイル11を図3(a)において矢印Bで示すように上述のハイポイド歯車1に向けて下降させ、この高周波誘導加熱コイル11を図3(b)に示す如くハイポイド歯車1の背面部4bに所定のクリアランス(例えば、数mm程度)を隔てた位置に対向配置する。これに伴い、被焼入体であるハイポイド歯車1の歯面側と背面側にそれぞれ1台の高周波誘導加熱コイル5,11が対向配置される(図3(b)参照)。
(4) 次いで、図外の回転駆動機構を作動させることにより、ワーク受け治具2及びワーク押え治具3と一緒にハイポイド歯車1をその軸線を中心に所定の回転速度で回転駆動する。
(5) 次いで、図2に示すように背面加熱用の高周波誘導加熱コイル11に高周波電源12から高周波電流を供給する工程と冷却エアーβを高周波誘導加熱コイル11の噴射孔14から噴出する工程とを2回だけ繰り返し行うようないわゆる2段加熱サイクル(第1加熱,空冷,第2加熱,空冷の工程を順次に行う加熱サイクル)でハイポイド歯車1の背面部4bを所要の時間にわたって高周波誘導加熱(予熱)し、しかる後に高周波誘導加熱コイル11への通電を遮断する。なお、この際、2段加熱により予熱するようにしている理由は、2段加熱により予熱を行った方が、歯底部の温度を熱伝導により上昇させ易いので均熱化を図り易いからである。
(6) その後に、加熱用の高周波誘導加熱コイル5に高周波電源6から高周波電流を供給して、前記予熱工程後の本加熱工程(図2参照)においてハイポイド歯車1の歯面部4aを本加熱し、所要の焼入温度(オーステナイト領域に到達する温度)に達した後に、高周波誘導加熱コイル5への通電を遮断する。
(7) 次いで、図外の回転駆動機構を作動停止させることにより、ハイポイド歯車1の回転を停止する。
(8) しかる後に、加熱状態の歯面部4aを所定時間にわたって空冷(自然放冷却)する。
(9) 上記工程(8)の開始と同時に、若しくはその開始から所定時間が経過した後に、背面加熱用の高周波誘導加熱コイル11の噴射孔14から冷却エアーをハイポイド歯車1の背面部4bに噴射する。なお、背面部4bの側からの冷却エアーの噴射は、歯面部4aの側からの冷却では遅いため歯面部4aの冷却速度をより速くするために行うようにしている。一方、この冷却エアーの噴射は所定時間の経過後に停止される(図示省略)。
(10) 上記工程(8)の終了後に、歯面加熱用の高周波誘導加熱コイル5の噴射孔13より焼入冷却液αをハイポイド歯車1の歯面部4aに噴射して急速冷却し、そして所定時間後に冷却を停止する。
(11) 次いで、図外の昇降機構を再び作動させて背面加熱用の高周波誘導加熱コイル11を上昇位置に移動させる。
(12) その後に、図外の昇降機構によりワーク押え治具3を上昇位置に移動させ、ハイポイド歯車1をワーク受け治具2から取外す。
(13) 以上のような一連の操作にてハイポイド歯車1の歯面部4aの焼入処理を終了する。
【0018】ここで、本発明に係る高周波焼入方法を施行する際の一実施例を以下に示す。
実施例(1) ワーク(被加熱体): ハイポイド歯車(a) 材質 : S58C(b) モジュール: 5(c) ピッチ円形: 直径205mm(d) 歯数 : 41(2) 高周波誘導加熱条件〈A〉 予熱工程(a) 周波数 : 8kHz(b) 出力 : 55kW(c) 第1加熱時間: 20sec(d) 空冷時間 : 5sec(e) 第2加熱時間: 25sec(f) 空冷時間 : 0.5sec〈B〉 本加熱及び焼入冷却工程(a) 周波数 : 200kHz(b) 出力 : 250kW(c) 第1加熱時間: 0.8sec(d) 空冷時間 : 0.5sec(3) 冷却条件〈A〉 背面部の冷却(a) 冷却媒体: 圧縮空気(b) 流量 : 600L/min(c) 冷却時間: 20sec〈B〉 歯面部の冷却(a) 焼入液 : ユーコンクェンチャントA(8%)
(b) 液温 : 30℃(c) 流量 : 200L/min(d) 冷却時間: 30sec【0019】図4は、このような加工条件の下で得られたハイポイド歯車1の歯面部4における焼入硬化層パターンを示している。なお、図4(a)は歯面部4の内径側の箇所(内径部分7)に形成された焼入硬化層パターンS1 を示し、図4(b)は歯面部4の中央部分(内径部分7と外径部分8との間の中間部分)に形成された焼入硬化層パターンS2 を示し、図4(c)は歯面部4の外径側の箇所(外径部分8)に形成された焼入硬化層パターンS3 を示している。これらの焼入硬化層パターンS1 〜S3 から明らかなように、本発明の高周波焼入方法及び装置によれば、ハイポイド歯車1の歯面部4aの内径部分7から外径部分までの全域において、歯先部Mから歯底部Nに沿って延びる均一な焼入硬化層(図4(a)〜(c)参照)を得ることが可能である。因みに、上記加工条件によりハイポイド歯車1の焼入処理を施したときの焼入硬化層の深さ(厚さ)は、内径部分7から外径部分までの全域において、歯先部で4.5mm、歯底部で0.8mmとなり、歯面部4の形状に沿った輪郭の焼入硬化層パターンが得られた。
【0020】また、モジュール1〜8の傘歯車を上述の高周波焼入方法にて焼入処理するに当たっては、背面加熱用の高周波誘導加熱コイル11に高周波電流を供給する高周波電源12の発振周波数を1〜30kHzとし、歯面加熱用の高周波誘導加熱コイル5に高周波電流を供給する高周波電源6の発振周波数を40〜800kHzとした場合に、歯先部Mから歯底部Nまでつながる良好な焼入硬化層パターンが得られることが実験により確認された。
【0021】以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、既述の実施形態では背面加熱用の高周波誘導加熱コイル11から冷却エアー(圧縮空気)を噴射して冷却を行うようにしたが、これに代えて冷却液を噴射するようにしても良い。また、既述の実施形態では、予熱工程において背面部4bをいわゆる2段加熱するようにしたが、2段に限らず、ひつように応じて3段以上の多段加熱(加熱と冷却とを交互に繰り返す肯定を多数回にわたり行うような加熱)を行うようにしてもよい。また、本発明は、ハイポイド歯車1に限らず、他種の傘歯車を被焼入体とする場合にも適用可能であることは言う迄もない。
【0022】
【発明の効果】請求項1に記載の本発明は、傘歯車の歯面側に歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルを配置すると共に、傘歯車の歯面側とは反対の背面側に背面加熱用の高周波誘導加熱コイルを配置し、歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルにて傘歯車の歯面部を高周波誘導加熱する際に、背面加熱用の高周波誘導加熱コイルにより傘歯車の背面部を高周波誘導加熱するようにしたものであるから、次のような作用効果を得ることができる。すなわち、被焼入体である傘歯車の歯面側と背面側に高周波誘導加熱コイルをそれぞれ配置することで、歯面部と背面部の加熱条件を種々に変化させることが可能となり、傘歯車のように内径側と外径側で歯の大きさが異なっていても、背面側からの加熱及び歯面側からの加熱の複合により傘歯車の歯面部の全域(歯面部の内径部分と外径部分との間の全域)にわたり均一な加熱が可能となり、傘歯車の歯面部に良好な高周波輪郭焼入を施すことができる。
【0023】また、請求項2に記載の本発明は、歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルにて傘歯車の歯面部を高周波誘導加熱する前に、背面加熱用の高周波誘導加熱コイルにより傘歯車の背面部を高周波誘導加熱するようにしたものであるから、歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルによる歯面部の本加熱に先立って背面加熱用の高周波誘導加熱コイルによる予熱を行うことで、加熱されにくい歯底部を背面側から前もって予備加熱しておくこととなり、ひいては歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルによる歯面部の本加熱時に歯底部及び歯底部の温度を均一にすることが可能となる。その結果、傘歯車の歯面部の形状の沿って歯面部の歯先部から歯底部にまでつながるような良好な焼入硬化層パターンを傘歯車の歯面部の全域にわたって得ることができる。
【0024】また、請求項3に記載の本発明は、傘歯車の背面部の加熱開始時点から傘歯車の歯面部の加熱開始時点までの予熱期間中に、加熱と冷却とを交互に繰り返すようにしたものであるから、このような加熱サイクルの採用に伴って歯底部の温度を熱伝導により上昇させ易くなるので、歯面部の均熱化すなわち歯先部及び歯底部の均一加熱を行うことができ、良好な高周波輪郭焼入を施すことができる。
【0025】また、請求項4に記載の本発明は、歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルによる本加熱の終了後に、前記傘歯車の歯面部を冷却すると共に、前記傘歯車の背面部を冷却するようにしたものであるから、次のような作用効果を得ることができる。すなわち、歯面部からの冷却のみでは歯面部の冷却速度が遅いこととなるが、歯面部からの冷却に加えて背面部からの冷却が付加されることにより、歯面部の冷却速度を速くすることができるので、良好な高周波輪郭焼入を行うことができる。
【0026】また、請求項5に記載の本発明は、背面加熱用の高周波誘導加熱コイルに供給する高周波電流の発振周波数を1〜30kHzとし、歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルに供給する高周波電流の発振周波数を40〜800kHzとしたものであるから、発振周波数をこのような範囲に設定することにより、望ましい焼入硬化層パターンを傘歯車の歯面部表面に形成することが可能である。
【0027】また、請求項6に記載の本発明は、傘歯車の背面部の冷却媒体として圧縮空気又は冷却液を使用すると共に、傘歯車の歯面部の冷却媒体として焼入冷却液を使用するようにしたものであるから、被焼入体である傘歯車の寸法や形状等に応じて背面側の冷却媒体を適当に選定することにより焼入硬化層の断面形状やその深さを調節することが可能である。
【0028】また、請求項7に記載の本発明は、傘歯車を所定位置に固定保持する治具と、傘歯車の歯面側で傘歯車の歯面部に対向するように配置される歯面加熱用の高周波誘導加熱コイルと、傘歯車の歯面側とは反対の背面側で傘歯車の背面部に対向するように配置される背面加熱用の高周波誘導加熱コイルと、歯面加熱用及び背面加熱用の高周波誘導加熱コイルに高周波電流をそれぞれ供給する高周波電源と、歯面加熱用及び背面加熱用の高周波誘導加熱コイルにて高周波誘導加熱された傘歯車の歯面部及び背面部をそれぞれ冷却する冷却機構とを具備するようにしたものであるから、上述の如き本発明の高周波焼入方法を施行することができ、各種の傘歯車について良好な高周波輪郭焼入を行うことができる実用的な高周波焼入装置を提供することができる。
【出願人】 【識別番号】000217653
【氏名又は名称】電気興業株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内3丁目3番1号
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
【住所又は居所】愛知県豊田市トヨタ町1番地
【出願日】 平成14年5月29日(2002.5.29)
【代理人】 【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一 (外3名)
【公開番号】 特開2003−342640(P2003−342640A)
【公開日】 平成15年12月3日(2003.12.3)
【出願番号】 特願2002−154879(P2002−154879)