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【発明の名称】 モータ用コアの磁場焼鈍方法および磁場焼鈍装置
【発明者】 【氏名】輿石 弘道

【氏名】江口 茂毅

【要約】 【課題】無方向性電磁鋼板を素材として製作された固定子コアの磁場焼鈍に際して、磁場焼鈍を効率的に行うことのできるコアへの加熱および磁場印加の方法および装置を提供する。

【解決手段】固定子コアCの積層体の高さ方向にスパイラル状に配置した巻線コイル8からの高周波誘導電流により固定子コアCを加熱し、固定子コアCの積層体の孔内面と外側面に沿って直線的に配置した線状コイル10の磁界により固定子コアCに磁場を印加しながら冷却することにより、加熱炉を用いることなくコンパクトな装置によりモータ用コアの磁場焼鈍を行うことができ、また固定子コアCの積層体への加熱コイルや磁場印加コイルの着脱や搬送を自動化することによって効率よく磁場焼鈍を行うことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 モータ用固定子コアの貫通孔を上下方向にして複数個の固定子コアを積層し、この固定子コア積層体の内外面を大気と遮断した状態で、固定子コア積層体の高さ方向にスパイラル状に配置した巻線コイルからの高周波誘導電流により固定子コアを加熱し、固定子コア積層体の孔内面と外側面に沿って直線的に配置した線状コイルの磁界により固定子コアに磁場を印加しながら冷却することを特徴とするモータ用コアの磁場焼鈍方法。
【請求項2】 前記固定子コアの加熱温度がコア素材のキューリ点以上900℃以下である請求項1記載のモータ用コアの磁場焼鈍方法。
【請求項3】 前記印加する磁場の方向がモータ用固定子コアとして実際に使用されるときの磁束流と同じ方向である請求項1記載のモータ用コアの磁場焼鈍方法。
【請求項4】 複数個のモータ用固定子コアを積層するための台座と、この台座の軸芯に装着した管状体と、この管状体を固定子コアの貫通孔に挿通した状態で積層される固定子コア積層体の内外面を外気と遮断するカバーと、このカバーの外側に配置したスパイラル状の巻線コイルと、固定子コア積層体の孔内面と外側面に沿って直線的に配置した線状コイルとを備えたモータ用コアの磁場焼鈍装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は無方向性電磁鋼板を素材とするモータ用コアの焼鈍技術に関し、とくに低磁束密度のもとにおける鉄損を向上させる磁場焼鈍技術に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、環境、資源問題から電気機器に対し省エネルギー、高効率化の要請が高まってきている。モータにとってもその効率向上は最大の要求であり、このためには鉄損や銅損、機械損を減少させることが必要である。このようなモータのコアとして、無方向性電磁鋼板の積層物が使用されているが、このコアが鉄損に大きく影響していることはよく知られていることである。
【0003】図3に示すように、モータ用コアには固定子コア(同図の(a))21と回転子コア(同図の(b))22があるが、両者を総称してモータ用コアという。このモータ用コアは、無方向性電磁鋼板のフープに打ち抜き油を塗布した状態で所定の形状にプレスで打ち抜き、これを多数枚積層してカシメあるいは溶接により固着して製作される。この後、付着した打ち抜き油を除去するための加熱処理が行われ、さらにその後、焼鈍が行われる。
【0004】この焼鈍の目的は、第一義的には打ち抜き時に生じた歪みの除去にあり、同時に結晶粒の成長を促進して磁気特性の向上を図ることにある。従来、モータ用コアの焼鈍は、たとえば特開昭54−1803号公報や特開昭63−39444号公報に記載のように、非酸化性ないし還元性雰囲気のもとで、均熱温度約750℃で約2時間保持の条件で行われている。
【0005】一方、モータ用コアの材料として使用される無方向性電磁鋼板は、所定の化学成分に調整された熱延板に、1回または複数回の焼鈍を含む冷間圧延を施して製造される。この無方向性電磁鋼板の化学成分は、鋼板の磁気特性の向上、とくに高い磁束密度と低い鉄損を得るため、特定成分の低減と添加が行われている。
【0006】ところで、近年開発と実用化が急速に進展している電気自動車などの高効率モータの設計思想は、高周波数(400〜600Hz)、低磁束密度(1.0〜0.5T)指向となり、それに対応してモータ用コアの素材である無方向性電磁鋼板は、本来の低鉄損化に加えて、薄手化、高固有抵抗化が進められている。
【0007】モータの出力Pは一般式P=k×f×N×i×B×Sここで、kは比例常数、fは周波数、Nは巻線数、iは電流、Bは磁束密度、Sはコアの断面積で表される。上記の式において、モータの小型軽量化を念頭においたうえで出力を高めるための要件としては、まず周波数fを高めることが考えられる。近年のインバータの発明により商用電源周波数の10倍程度の高い周波数でも設定が可能となったことから、従来の商用電源周波数より高い周波数範囲で、周波数fと磁束密度Bの最適解が検討された。コアの素材である電磁鋼板特有の磁気慣性により、周波数fにより取り得る磁束密度Bの範囲は決まってしまう。その結果、周波数fは400〜600Hz、磁束密度Bは1.0〜0.5Tの範囲が採用されている。この程度の数値範囲であれば、周波数fの倍率8〜10倍に対し磁束密度Bの低下率は1/2程度であるから、f×Bで4〜5倍程度の出力増加が期待される。上記式中のk、N、i、Sの各値は周波数fと磁束密度Bが決まればその数値範囲は自ずと定まる。
【0008】一方、素材である無方向性電磁鋼板の鉄損Wは、W=Wh+WeここでWhはヒステリシス損であり、Wh=k1×f×B1.6Weは過電流損であり、We=k2×(t×f×B)/ρk1,k2は常数、tは板厚、ρは固有抵抗率である。
で表される。従来の最高級無方向性電磁鋼板では、板厚tを0.20mm程度まで薄手化し、固有抵抗率ρを55μΩ−cm以上と高めている。
【0009】このような無方向性電磁鋼板を素材として製作したモータ用コアは、コアの磁気特性を向上させるために、非酸化性ないし還元性雰囲気のもとで、均熱温度約750℃で約2時間保持の条件で焼鈍が行われている。近年、このコアの焼鈍を磁場中で行うことが提案されている。たとえば特開平11−340030号公報には、鋼片内の2以上の方向に励磁される電磁鋼鋼片を有する鉄芯の、電磁鋼鋼片をその励磁方向と同じ方向の磁場中で焼鈍する方法が記載されている。この磁場焼鈍により鉄芯の鉄損が低減できるとされている。また、特開平11−341749号公報には、鉄芯に磁界を印加しながら焼鈍する方法において、鉄芯に印加する磁界をコイルによって発生するとともに、コイルからの発熱若しくはコイルからの高周波磁場印加によって鉄芯を加熱して焼鈍する方法が記載されている。このコイルからの鉄芯の加熱により、焼鈍炉を必要とせず非常に経済的であるとされている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記特開平11−340030号公報に記載のモータ鉄芯の焼鈍方法は、加熱冷却は焼鈍炉の中で行われ、鉄芯は継鉄とともに閉磁路を形成し、継鉄に巻かれた磁界発生用巻線により磁束を発生させる方式である。このため、この焼鈍を行うためには従来と同様に焼鈍炉を必要とし、また鉄芯と継鉄とで閉磁路を形成させるために磁界発生装置の構成に制約があり、高能率な装置を適用することが困難である、という問題がある。
【0011】特開平11−341749号公報に記載の焼鈍方法は、焼鈍炉を必要としないので経済的な方法といえる。しかし、この公報明細書には、焼鈍炉を使用しない場合の焼鈍の実施例装置として具体的な説明はなく、コイルによる鉄芯の加熱および磁場印加を効率的に行うための具体的な装置構成を示す記載はない。実施例としてEI鉄芯の焼鈍方法が簡単に記載されているが、この記載だけでは、モータ用コアの磁場焼鈍を効率的に行うための装置を構成するに当たっての参考資料とはならない。
【0012】本発明は、無方向性電磁鋼板を素材として製作された固定子コアの磁場焼鈍に際して、磁場焼鈍を効率的に行うことのできるコアへの加熱および磁場印加の方法および装置を提供する。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明に係るモータ用コアの磁場焼鈍方法は、固定子コアの貫通孔を上下方向にして複数個の固定子コアを積層し、この固定子コア積層体の内外面を大気と遮断した状態で、固定子コア積層体の高さ方向にスパイラル状に配置した巻線コイルからの高周波誘導電流により固定子コアを加熱し、固定子コア積層体の孔内面と外側面に沿って直線的に配置した巻線コイルの磁界により固定子コアに磁場を印加しながら冷却することを特徴とする。
【0014】上記の焼鈍方法は、複数個の固定子コアを積層するための台座と、この台座の軸芯に装着した管状体と、この管状体を固定子コアの貫通孔に挿通した状態で積層される固定子コア積層体の内外面を外気と遮断するカバーと、このカバーの外側に配置したスパイラル状の巻線コイルと、固定子コア積層体の孔内面と外側面に沿って直線的に配置した線状コイルとを備えたモータ用コアの磁場焼鈍装置により実施することができる。
【0015】上記の焼鈍装置において、台座の軸芯に装着した管状体はシリカ製の耐熱性管状体で、管状体の外面にはスペーサと断熱機能を兼ねたアルミナウールのような保温材を配置するのが望ましい。固定子コア積層体(以下、コア積層体という)の内外面を外気と遮断するカバーも同様に、シリカ製の耐熱性筒状体で、筒状体の下部は台座に密着させ、上部は耐熱性のシール板を装着することにより、筒状体の内部を外気と遮断し、この内部には不活性ガス、非酸化性ガス、非窒化性ガスなどを充填するのが望ましい。
【0016】カバーの外側に配置したスパイラル状の巻線コイルは、コア積層体を加熱するためのコイルであり、水冷銅パイプをスパイラル状に巻いた巻線コイルが好適である。コア積層体の孔内面と外側面に沿って直線的に配置した線状コイルは、コア積層体に磁場を印加するためのコイルであり、銅線を使用する。
【0017】コア積層体加熱用の巻線コイルに流す電流は300〜1000Hzの高周波電流であり、コア積層体をキューリ点〜900℃の温度範囲に加熱することにより、鋼板の打ち抜き時に生じた歪みの除去とともに、鋼板の結晶粒成長による磁気特性の向上効果が得られる。コア積層体に磁場を印加するための線状コイルによる磁界の強さは10〜50[Oe(エルステッド)]が得られる程度とする。このときの印加する磁場の方向がモータ用固定子コアとして実際に使用されるときの磁束流と同じ方向となるようにすることによって、素材時の方向性と異なる円周方向のしかも低磁場領域ほど磁束密度が向上し、ひいては鉄損も向上する。
【0018】本発明の焼鈍方法および装置を採用することにより、加熱炉を用いることなくコンパクトな装置によりモータ用コアの磁場焼鈍を行うことができ、またコア積層体へのコイル着脱や搬送を自動化することによって効率よく磁場焼鈍を行うことができる。
【0019】
【発明の実施の形態】図1および図2は本発明の実施形態における焼鈍工程を示す模式図により示す工程図であり、図1の(a)〜(d)および図2の(e)、(f)は焼鈍開始前までの処理工程を示す。
【0020】図1の(a)は被焼鈍材である固定子コア(以下、コアという)Cを積層するための台座1と軸芯2と管状体3を示す。管状体3は耐熱性のシリカチューブである。図1の(b)は5個のコア(C1〜C5)を示す。本実施形態におけるコアCは、素材である無方向性電磁鋼板をリング状に打ち抜き積層したもので、1個のコアの外径300mm、内径200mm、厚さ200mmで、5個の積層高さは1000mmである。
【0021】図1の(c)は5個のコアCを積層した状態を示す。同図において4はコア支持台であり、5は管状体3に巻き付けたアルミナウール製の保温材である。台座1上に載置したコア支持台4の上に5個のコアCを積層する。コアCの内面と保温材5の外面との間は10mm程度の隙間がある。
【0022】図1の(d)は積層したコアCにアルミナウール製の保温材6を巻き付けた状態を示す。管状体3およびコアCに保温材を巻き付ける目的は、後述するコア積層体加熱用の巻線コイル8によりコアCを加熱するとき、および冷却するときの断熱をはかるためである。
【0023】図2の(e)は外気遮断用のカバー7を設置した状態を示す。カバー7は、下部は開放され、上部は管状体3が通過する孔7aが設けられた筒状体で、積層したコアC(保温材6を含む)に被せ、台座1との隙間をシールすることで、コアCを外気と遮断することができる。コアC外面とカバー7内面との間の空間9には台座1に設けた孔(図示せず)を通じて不活性ガス、非酸化性ガス、非窒化性ガスなどの雰囲気ガスを供給する。
【0024】図2の(f)は加熱用コイルおよび磁場印加用コイルの配置状態を示す。カバー7の外側にはコアCを加熱するための巻線コイル8が配置されている。本実施形態の巻線コイル8は、水冷銅パイプをスパイラル状に巻いた巻線コイルで、500Hzの高周波電流を通電することにより、コアCを約850℃に加熱する。
【0025】カバー7の外側と積層したコアCの中心部の管状体3の孔3a内を通じて2個の線状コイル10(10a,10b)が配置されている。線状コイル10はコアCを冷却中にコアCに磁場を印加するためのものであり、本実施形態では100[Oe]の磁界をかけることのできる銅線コイルを2個用いているが、必要により3個以上用いることもできる。前記の巻線コイル8と線状コイル10は上方に移動可能であり、コアCやカバー7などを台座1上へ載置したり取り外したりするときには、巻線コイル8と線状コイル10を上方に待避させる。
【0026】つぎに、図2の(f)に記載の基本構造の焼鈍装置を用いてモータ用固定子コアを焼鈍する方法について説明する。図2の(f)に示すようにコアCやカバー7などを台座1上へ載置し、コアC外面とカバー7内面との間の空間9に雰囲気ガス(たとえばArガス)を供給し、巻線コイル8と線状コイル10を所定の位置に配置した後、高周波電源装置(図示せず)から巻線コイル8に500Hzの高周波電流を通電して、コアCを約850℃に加熱する。モータ用固定子コアの素材である無方向性電磁鋼板のキューリ点は約750℃であるから、コアCを約850℃に加熱すると、鋼板の打ち抜き時に生じた歪みの除去とともに、鋼板の結晶粒成長による磁気特性の向上効果がある。
【0027】温度計11の温度検出値により積層したコアCの内部温度が850℃に達したことを確認後、巻線コイル8による加熱を停止し、コアCを冷却する。冷却開始とともに線状コイル10に直流電源装置(図示せず)から1000Aの直流電流を通電して、コアCに磁場を印加する。磁場を印加しながらの冷却はコアCの温度が約400℃になるまで連続して行い、400℃以下は磁場印加を中止して自然冷却とする。
【0028】冷却中のコアCの温度がキューリ点を通過する温度から約400℃となるまでの間、コアCに磁場を印加することにより、コアCの磁気特性、とくに低磁場での鉄損が向上する。また、磁場印加のための線状コイル10を図2の(f)に示すように配置して、印加する磁場の方向がモータ用固定子コアとして実際に使用されるときの磁束流と同じ方向となるようにすることによって、素材時の方向性と異なる円周方向のしかも低磁場領域ほど磁束密度が向上し、ひいては鉄損も向上する。
【0029】
【発明の効果】(1)固定子コア積層体の高さ方向にスパイラル状に配置した巻線コイルからの高周波誘導電流により固定子コアを加熱し、固定子コア積層体の孔内面と外側面に沿って直線的に配置した線状コイルの磁界により固定子コアに磁場を印加しながら冷却することにより、加熱炉を用いることなくコンパクトな装置によりモータ用コアの磁場焼鈍を行うことができ、また固定子コア積層体への加熱コイルや磁場印加コイルの着脱や搬送を自動化することによって効率よく磁場焼鈍を行うことができる。
【0030】(2)固定子コアの加熱温度をキューリ点〜900℃の範囲とすることにより、鋼板の打ち抜き時に生じた歪みの除去とともに、鋼板の結晶粒成長による磁気特性の向上効果が得られる。
【0031】(3)磁場印加するときの磁場の方向がモータ用固定子コアとして実際に使用されるときの磁束流と同じ方向となるようにすることによって、実使用時の鉄損が向上する。
【出願人】 【識別番号】597060922
【氏名又は名称】東洋鐵芯工業株式会社
【識別番号】502193048
【氏名又は名称】飯島 信長
【識別番号】500153965
【氏名又は名称】有限会社ハイゼット
【識別番号】591203484
【氏名又は名称】輿石 弘道
【出願日】 平成14年5月29日(2002.5.29)
【代理人】 【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
【公開番号】 特開2003−342637(P2003−342637A)
【公開日】 平成15年12月3日(2003.12.3)
【出願番号】 特願2002−156136(P2002−156136)