| 【発明の名称】 |
焼入れ方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】市谷 克実
【氏名】武石 誠
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| 【要約】 |
【課題】歪みが少なく、かつ要求される硬さの焼入れ物を得ることができる焼入れ方法を提供する。
【解決手段】冷却剤を用いる焼入れ方法において、処理物の冷却過程全体を通して液面上を加圧状態に維持する焼入れ方法である。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 冷却剤を用いる焼入れ方法において、処理物の冷却過程全体を通して液面上を加圧状態に維持することを特徴とする焼入れ方法。 【請求項2】 冷却剤が100℃における動粘度が20mm2 /s以下の焼入油である請求項1に記載の焼入れ方法。 【請求項3】 冷却剤が水溶性焼入液である請求項1記載の焼入れ法。 【請求項4】 冷却剤を攪拌しながら行うものである請求項1〜3のいずれかに記載の焼入れ方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は焼入方法に関し、より詳しくは、焼入れ歪みが改善された焼入れ方法に関する。 【0002】 【従来の技術】自動車業界においては、歯車の焼入れ歪みは歯車の噛み合い誤差を招き騒音や歯面損傷の原因となる。ベアリング業界においては、ベアリングの焼入れ歪みは後工程の研削取り代の増大を招き生産性低下の原因となる。従来、焼入れ歪みを低減するために、高い油温で使用できる油剤、所謂ホット油(100℃の動粘度が10〜30mm2 /s程度の油)を使用すると、焼入れ歪み低減効果が大きいけれども、冷却性が不足し、十分な硬さが得られず、歯面の折損、疲労寿命の低下に繋がるという問題があった。 【0003】一方、所謂コールド油(100℃の動粘度が動粘度が6mm2 /s以下程度の油)を使用すると、十分な硬さは得られるものの、歪みが大きいという問題があった。以上のように、焼入れにおいて、焼入れ後の硬さと焼入れ歪みはトレードオフの関係にあり、硬さを重視する場合にはコールド油が用いられ、歪みを重視する場合にはホット油が用いられる。 【0004】しかし、近年、歪みが少なく、かつ要求される硬さの焼入れ物を得る方法として、冷却過程の一時期に、液面上を加圧状態にする方法が提案されている。例えば、特開昭61−79716号公報には、Ms点近傍までは大気圧下に保ち、Ms点近傍で加圧することにより焼入油の沸点を制御し、冷却速度を遅くする方法が開示されている。また、特開平4−28818号公報には、Ms点近傍までは減圧下に保ち、Ms点近傍で加圧することにより焼入油の沸点を制御し、冷却速度を遅くする方法が開示されている。さらに、特開平8−60234号公報には、特性温度以下になるまで加圧状態を維持し、特性温度通過後は大気圧又は大気圧近傍の圧力まで滑らかに移行する方法が開示されている。しかしながら、いずれにしても、要求される硬さの焼入れものを得ることができるが、歪みの低減に対しては改良の余地があった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記観点からなされたもので、歪みが少なく、かつ要求される硬さの焼入れ物を得ることができる焼入れ方法を提供することを目的とするものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに処理物の冷却過程全体を通して液面上を加圧状態に維持することにより、上記の目的を効果的に達成しうることを見出し本発明を完成したものである。すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。 1.冷却剤を用いる焼入れ方法において、処理物の冷却過程全体を通して液面上を加圧状態に維持することを特徴とする焼入れ方法。 2.冷却剤が100℃における動粘度が20mm2 /s以下の焼入油である前記1記載の焼入れ方法。 3.冷却剤が水溶性焼入液である前記1記載の焼入れ法。 4.冷却剤を攪拌しながら行うものである前記1〜3のいずれかに記載の焼入れ方法。 【0007】 【発明の実施の形態】以下に、本発明について詳細に説明する。本発明は、冷却剤を用いる焼入れ方法において、処理物の冷却過程全体を通して、液面上を加圧状態に維持することを特徴とする焼入れ方法である。「処理物の冷却過程全体を通して」とは、蒸気膜段階、沸騰段階、対流段階の三段階の順に経て行われる全過程を通してという意味である。蒸気膜段階とは、冷却剤による冷却過程の第一段階で、高温処理物の金属面に触れて発生した蒸気が処理物の全面をとりまき、この蒸気膜を介してしか冷却が行われない段階である。沸騰段階とは、蒸気膜崩壊後冷却剤が直接処理物に接触して、盛んに沸騰の起こる最も冷却の早い段階で、冷却剤の気化潜熱により冷却が行われる。対流段階とは、その冷却剤の沸点以下になると、冷却剤は自らの温度上昇による流動によってのみ熱を奪うようになる段階で、冷却剤の対流によってのみ冷却が行われる。 【0008】上記の加圧状態は、100〜980kPaの範囲であるのが好ましい。100kPa未満であると、常圧に近くなって加圧の効果がでない場合があり、980kPaを超えると、冷却性が不足する場合があり好ましくない。また、同一の圧力に維持していてもよいし、同一でなくてもよい。本発明において、処理物の冷却過程全体を通して液面上を加圧状態に維持することにより、蒸気膜段階においては蒸気膜長さ(特性秒数)が短くなり、沸騰段階においては沸騰段階の幅(温度幅)が狭くなり、対流段階においては対流段階開始温度が上昇し、全て焼入れ歪みに対して有利に働き、焼き入れ歪みを低減できる。しかし、冷却剤が焼入油の場合、焼入れ後の硬さに対しては、沸騰段階及び対流段階において不利に働くので、処理物としては、薄物、小物、焼入性が良好な材料のものが好ましい。 【0009】また、焼入油として100℃における動粘度が20mm2 /s以下のものを使用すると、焼入れ後の後工程の洗浄性が悪化しないので好ましい。一方、冷却剤が水溶性焼入液の場合、焼入れ歪みの低減については、焼入油の場合と同様に、蒸気膜段階、沸騰段階及び対流段階全ての段階において、加圧は有利に働く。焼入れ後の硬さについては、常圧で焼入れを行うと、硬くなりすぎて割れる傾向があり、加圧により程よい加減の硬さになり、加圧は有利に働く。したがって、本発明は、特に冷却剤が水溶性焼入剤の場合が、全ての処理物に対して好ましい。 【0010】さらに、本発明においては、冷却剤を攪拌しながら焼入れを行うと、処理物が均一に焼入れられ好ましい。なお、本発明において使用される冷却槽は加圧に耐えなければならないので、市販の真空炉や真空浸炭炉が好ましい。また、密閉炉であれば気密性を高めることで、980kPa程度の圧力であればパージ用ガス等を用いて配管すれば加圧することも可能である。 【0011】真空炉や真空浸炭炉で処理する場合には、真空中で加熱された処理物が、冷却剤の入った冷却槽の上に搬送され冷却剤に投入されることで急冷される。その際、加熱炉から冷却槽への搬送は減圧下で行われる場合と、一度大気圧に戻して搬送される場合がある。いずれの場合も、冷却槽の上部は減圧から大気圧までの圧力が制御できるようになっているのが一般的で、その際復圧用のガスライン等で液面上を加圧して焼入れすればよい。加圧時間を短くしたい場合は、アキュムレーター等を取り付けて短時間で加圧することが望ましい。 【0012】本発明に使用される焼入油は、一般に、鉱油であり、パラフィン基系原油,中間基系原油あるいはナフテン基系原油を常圧蒸留するか、あるいは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、またはこれを常法にしたがって精製することによって得られる精製油、例えば、溶剤精製油,水添精製油,脱蝋処理油,白土処理油などを挙げることができる。また、ポリα−オレフィン(PAO),α−オレフィンコポリマー,ポリブテン,アルキルベンゼン,ポリオールエステル,二塩基酸エステル,ポリオキシアルキレングリコール,ポリオキシアルキレングリコールエステル,ポリオキシアルキレングリコールエーテル,ヒンダードエステル,シリコーンオイルなどの合成油も使用できる。 【0013】また、水溶性焼入液として、ポリアルキレングリコール(PAG),ポリビニルアルコール(PVA),ポリビニルピロリドン(PVP),ポリアクリル酸ソーダ(SPA),ポリイソブチレンマレイン酸ソーダ(PMI),ポリエチレングリコール(PEG)などの水溶性ポリマーを水に溶解させたものが使用される。 【0014】本発明に使用する冷却剤には、その他に、必要に応じて極圧剤,清浄分散剤,酸化防止剤,消泡剤,冷却性向上剤などの添加剤を本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。 【0015】 【実施例】次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。 〔実施例1〕焼入油として、100℃における動粘度が18.6mm2 /sのパラフィン系鉱油を使用して、下記の条件で焼入れ試験を行い、その処理物の物性を下記の方法で評価した。その結果を第1表に示す。 【0016】〔焼入れ条件〕 テストピースの形状:外径φ80mm、内径φ40mm、厚み0.8mmのSCM420のプレート部品焼入れ条件:850℃で1時間均一に加熱後、120℃の焼入油で処理した。 焼入れ時の油面上圧力:343kPa(加圧) 【0017】〔焼入れ歪みの測定〕 真円度:プレートの外径をマイクロメーターで6箇所測定し、その最大値と最小値の差を求めた。 【0018】〔硬さの測定〕プレートの中心硬さを、JIS Z 2245に規定されているロックウェル硬さ試験法で測定した。 【0019】〔洗浄性の測定〕SPCC板(冷延鋼板)を油に浸漬し一日油切りを行い、その後6質量%アルカリ洗浄液を用いて70℃、300rpmで15分間洗浄を行った。 【0020】〔比較例1〕実施例1において、焼入れ時の液面圧力を98kPa(常圧)にしたこと以外は同様に焼入れ試験を行った。結果を第1表に示す。 【0021】〔実施例2〕実施例1において、焼入油として100℃における動粘度が31.5mm2 /sのパラフィン系鉱油を使用したこと以外は同様に焼入れ試験を行った。結果を第1表に示す。 【0022】 【表1】
【0023】〔実施例3〕冷却剤として、Dn.プラスチッククエンチFQ(出光興産社製)を20質量%溶解させた水溶性焼入液を使用して、下記の条件で焼入れ試験を行い、その処理物の物性を下記の方法で評価した。その結果を第2表に示す。 【0024】〔焼入れ条件〕 テストピースの形状:外径φ80mm、高さ17mm、厚み5mmのSUJ2のリング部品焼入れ条件:850℃で1時間均一に加熱後、40℃の冷却剤で処理した。 焼入れ時の油面上圧力:343kPa(加圧) 【0025】〔焼入れ歪みの測定〕 楕円歪み:リングの外径を真円度計で測定し、その最大値と最小値の差を求めた。水溶性焼入液の場合、冷却むらが生じると楕円歪みが増加する。 〔硬さの測定〕リングの中心硬さを、JIS Z 2245に規定されているロックウェル硬さ試験法で測定した。 【0026】〔比較例2〕実施例3において、焼入れ時の液面圧力を98kPa(常圧)にしたこと以外は同様に焼入れ試験を行った。結果を第2表に示す。 【0027】 【表2】
【0028】 【発明の効果】本発明の焼入れ方法によれば、歪みが少なく、かつ十分な硬さの焼入れ物を得ることができる。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000183646 【氏名又は名称】出光興産株式会社
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| 【出願日】 |
平成14年1月22日(2002.1.22) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100089185 【弁理士】 【氏名又は名称】片岡 誠
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| 【公開番号】 |
特開2003−213328(P2003−213328A) |
| 【公開日】 |
平成15年7月30日(2003.7.30) |
| 【出願番号】 |
特願2002−12670(P2002−12670) |
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