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【発明の名称】 流動状態の推定装置、方法、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体
【発明者】 【氏名】中川 淳一

【氏名】吉野 博之

【氏名】林 順一

【氏名】合原 一幸

【要約】 【課題】流体の流動状態を的確に推定できるようにする。

【解決手段】上流側の検出端101から得られる時系列情報と、下流側の検出端102から得られる時系列情報とに基づいて、相互リカレンスプロットを作成し、その相互リカレンスプロットに基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成して、2変数のリカレンスプロットを作成する。2箇所の検出端101、102間に強い流れが存在すれば、2変数のリカレンスプロット上では対角線に平行な線分として表現されるので、2変数のリカレンスプロット上で対角線に平行な線分が存在するか否かによって、上流側から下流側に向かう健全な流れが存在するか、流れが停滞しているかを診断することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定するための流動状態の推定装置であって、上流側位置及び下流側位置の2箇所の検出端から得られる上記流体の状態が反映された各時系列情報に基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成手段と、上記アトラクタに基づいて、2変数のリカレンスプロットを作成するリカレンスプロット作成手段と、上記リカレンスプロットに基づいて、上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定する推定手段とを備えたことを特徴とする流動状態の推定装置。
【請求項2】 上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定するための流動状態の推定装置であって、上流側位置及び下流側位置の2箇所の検出端から得られる上記流体の状態が反映された各時系列情報に基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成手段と、上記いずれか一方のアトラクタ上の基準時刻での点の周囲に存在する他方のアトラクタ上の近傍点が、上記基準時刻から所定時間推移後での点の周囲にいくつ存在するかの割合を評価指標として求める評価指標演算手段と、上記評価指標に基づいて、上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定する推定手段とを備えたことを特徴とする流動状態の推定装置。
【請求項3】 上記周囲として上記基準時刻での点及び上記所定時間推移後での点を中心とする一定直径の超球を考えることを特徴とする請求項2に記載の流動状態の推定装置。
【請求項4】 流体が複数方向に分かれてできる一方の流体及び他方の流体の流動状態を推定するための流動状態の推定装置であって、上記一方の流体の状態が反映された時系列情報と、上記他方の流体の状態が反映された時系列情報とに基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成手段と、上記アトラクタに基づいて、2変数のリカレンスプロットを作成するリカレンスプロット作成手段と、上記リカレンスプロットに基づいて、上記一方の流体と上記他方の流体との流動状態を推定する推定手段とを備えたことを特徴とする流動状態の推定装置。
【請求項5】 流体が複数方向に分かれてできる一方の流体及び他方の流体の流動状態を推定するための流動状態の推定装置であって、上記一方の流体の状態が反映された時系列情報と、上記他方の流体の状態が反映された時系列情報とに基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成手段と、上記いずれか一方のアトラクタ上の基準時刻での点の周囲に存在する他方のアトラクタ上の近傍点が、上記基準時刻から所定時間推移後での点の周囲にいくつ存在するかの割合を評価指標として求める評価指標演算手段と、上記評価指標に基づいて、上記一方の流体と上記他方の流体との流動状態を推定する推定手段とを備えたことを特徴とする流動状態の推定装置。
【請求項6】 上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定するための流動状態の推定方法であって、上流側位置及び下流側位置の2箇所の検出端から得られる上記流体の状態が反映された各時系列情報に基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成手順と、上記アトラクタに基づいて、2変数のリカレンスプロットを作成するリカレンスプロット作成手順と、上記リカレンスプロットに基づいて、上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定する推定手順とを有することを特徴とする流動状態の推定方法。
【請求項7】 上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定するための流動状態の推定方法であって、上流側位置及び下流側位置の2箇所の検出端から得られる上記流体の状態が反映された各時系列情報に基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成手順と、上記いずれか一方のアトラクタ上の基準時刻での点の周囲に存在する他方のアトラクタ上の近傍点が、上記基準時刻から所定時間推移後での点の周囲にいくつ存在するかの割合を評価指標として求める評価指標演算手順と、上記評価指標に基づいて、上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定する推定手順とを有することを特徴とする流動状態の推定方法。
【請求項8】 流体が複数方向に分かれてできる一方の流体及び他方の流体の流動状態を推定するための流動状態の推定方法であって、上記一方の流体の状態が反映された時系列情報と、上記他方の流体の状態が反映された時系列情報とに基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成方法と、上記アトラクタに基づいて、2変数のリカレンスプロットを作成するリカレンスプロット作成方法と、上記リカレンスプロットに基づいて、上記一方の流体と上記他方の流体との流動状態を推定する推定方法とを有することを特徴とする流動状態の推定方法。
【請求項9】 流体が複数方向に分かれてできる一方の流体及び他方の流体の流動状態を推定するための流動状態の推定方法であって、上記一方の流体の状態が反映された時系列情報と、上記他方の流体の状態が反映された時系列情報とに基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成手順と、上記いずれか一方のアトラクタ上の基準時刻での点の周囲に存在する他方のアトラクタ上の近傍点が、上記基準時刻から所定時間推移後での点の周囲にいくつ存在するかの割合を評価指標として求める評価指標演算手順と、上記評価指標に基づいて、上記一方の流体と上記他方の流体との流動状態を推定する推定手順とを有することを特徴とする流動状態の推定方法。
【請求項10】 上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定するための処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、上流側位置及び下流側位置の2箇所の検出端から得られる上記流体の状態が反映された各時系列情報に基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成処理と、上記アトラクタに基づいて、2変数のリカレンスプロットを作成するリカレンスプロット作成処理と、上記リカレンスプロットに基づいて、上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定する推定処理とを実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項11】 上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定するための処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、上流側位置及び下流側位置の2箇所の検出端から得られる上記流体の状態が反映された各時系列情報に基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成処理と、上記いずれか一方のアトラクタ上の基準時刻での点の周囲に存在する他方のアトラクタ上の近傍点が、上記基準時刻から所定時間推移後での点の周囲にいくつ存在するかの割合を評価指標として求める評価指標演算処理と、上記評価指標に基づいて、上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定する推定処理とを実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項12】 流体が複数方向に分かれてできる一方の流体及び他方の流体の流動状態を推定するための処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、上記一方の流体の状態が反映された時系列情報と、上記他方の流体の状態が反映された時系列情報とに基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成処理と、上記アトラクタに基づいて、2変数のリカレンスプロットを作成するリカレンスプロット作成処理と、上記リカレンスプロットに基づいて、上記一方の流体と上記他方の流体との流動状態を推定する推定処理とを実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項13】 流体が複数方向に分かれてできる一方の流体及び他方の流体の流動状態を推定するための処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、上記一方の流体の状態が反映された時系列情報と、上記他方の流体の状態が反映された時系列情報とに基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成処理と、上記いずれか一方のアトラクタ上の基準時刻での点の周囲に存在する他方のアトラクタ上の近傍点が、上記基準時刻から所定時間推移後での点の周囲にいくつ存在するかの割合を評価指標として求める評価指標演算処理と、上記評価指標に基づいて、上記一方の流体と上記他方の流体との流動状態を推定する推定処理とを実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項14】 請求項10〜13のいずれか1項に記載のコンピュータプログラムを格納したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、流体の流動状態を推定するための流動状態の推定装置、方法、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】流体の流動状態を直接観察できない場合には、その流体の状態が反映された情報に基づいて該流体の流動状態を推定することがなされている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、例えば、上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定するような場合に、ある1点の検出端における情報だけでは、流動状態を的確に捉えることができない。また、例えば、流体が複数方向に分かれてできる一方の流体及び他方の流体の流動状態を推定する場合に、一方の流体側の情報と他方の流体側の情報を単に検出して比較するだけでは、例えば偏流の発生等を的確に捉えることができない。
【0004】本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、流体の流動状態を的確に推定できるようにすることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための手段として、本発明の流動状態の推定装置について説明すれば、本発明の流動状態の推定装置は、上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定するための流動状態の推定装置であって、上流側位置及び下流側位置の2箇所の検出端から得られる上記流体の状態が反映された各時系列情報に基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成手段と、上記アトラクタに基づいて、2変数のリカレンスプロットを作成するリカレンスプロット作成手段と、上記リカレンスプロットに基づいて、上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定する推定手段とを備えた点に特徴を有する。
【0006】本発明の他の流動状態の推定装置は、上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定するための流動状態の推定装置であって、上流側位置及び下流側位置の2箇所の検出端から得られる上記流体の状態が反映された各時系列情報に基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成手段と、上記いずれか一方のアトラクタ上の基準時刻での点の周囲に存在する他方のアトラクタ上の近傍点が、上記基準時刻から所定時間推移後での点の周囲にいくつ存在するかの割合を評価指標として求める評価指標演算手段と、上記評価指標に基づいて、上流側から下流側に向かう流体の流動状態を推定する推定手段とを備えた点に特徴を有する。
【0007】本発明の他の流動状態の推定装置は、流体が複数方向に分かれてできる一方の流体及び他方の流体の流動状態を推定するための流動状態の推定装置であって、上記一方の流体の状態が反映された時系列情報と、上記他方の流体の状態が反映された時系列情報とに基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成手段と、上記アトラクタに基づいて、2変数のリカレンスプロットを作成するリカレンスプロット作成手段と、上記リカレンスプロットに基づいて、上記一方の流体と上記他方の流体との流動状態を推定する推定手段とを備えた点に特徴を有する。
【0008】本発明の他の流動状態の推定装置は、流体が複数方向に分かれてできる一方の流体及び他方の流体の流動状態を推定するための流動状態の推定装置であって、上記一方の流体の状態が反映された時系列情報と、上記他方の流体の状態が反映された時系列情報とに基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタを再構成するアトラクタ作成手段と、上記いずれか一方のアトラクタ上の基準時刻での点の周囲に存在する他方のアトラクタ上の近傍点が、上記基準時刻から所定時間推移後での点の周囲にいくつ存在するかの割合を評価指標として求める評価指標演算手段と、上記評価指標に基づいて、上記一方の流体と上記他方の流体との流動状態を推定する推定手段とを備えた点に特徴を有する。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、本発明の流動状態の推定装置、方法、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体の実施の形態について説明する。
【0010】(第1の実施の形態)図1には、第1の実施の形態の流動状態の推定装置の概略構成を示す。本実施の形態において対象となる流動状態は、液体、気体等の流体100がなんらかの動力源により上流側から下流側に向かう流れである。上流側及び下流側の2箇所には、当該流体100の状態が反映された時系列情報、例えば時系列の温度情報や時系列の圧力情報等を検出するための検出端101、102が配置されている。
【0011】図1において、103はアトラクタ作成部であり、上記各検出端101、102から得られた時系列情報に基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタと呼ばれる軌道を再構成する。
【0012】104はリカレンスプロット作成部であり、上記アトラクタ作成部103により再構成されたアトラクタに基づいて、2変数のリカレンスプロット、すなわち上流側の検出端101から得られた時系列情報及び下流側の検出端102から得られた時系列情報を変数とするリカレンスプロットを作成する。
【0013】105は推定部であり、上記リカレンスプロット作成部104により作成された2変数のリカレンスプロットに基づいて、上流側から下流側に向かう流体100の流動状態を推定する。
【0014】一般的に、離れた位置にある2箇所間の情報は、流体100の連続性の性質により上流側から下流側へと伝達される。また、例えば流れを誘起するような動力源が下流に存在する場合、その動力源に関する下流側の情報は上流側にも伝達される。本実施の形態では、上流側の検出端101から得られた時系列情報と下流側の検出端102から得られた時系列情報との相互相関性を捉えて、上流側から下流側に向かう流体100の流動状態を推定しようとするものである。
【0015】以下、図2のフローチャートを参照して、本実施の形態の流動状態の推定処理について説明する。アトラクタ作成部103において、各検出端101、102から得られる時系列情報に基づいて、アトラクタと呼ばれる軌道を再構成する(ステップS201)。まず、アトラクタ作成部103は、各検出端101、102から得られた時系列情報から、対象とする現象の2倍以上の次元mを持つ遅延ベクトルv(t)=(u(t),u(t+τ),u(t+2τ),・・・,u(t+(m−1)τ))を作成する。なお、u(T)は時刻Tにおける熱流束、τは時間遅れ間隔である。続いて、上記作成した遅延ベクトルv(t)を所定の次元を有する位相空間に写像する。この写像した遅延ベクトルv(t)の時間推移による軌道を作成することによりアトラクタを再構成する。
【0016】次に、リカレンスプロット作成部104において、上記再構成されたアトラクタに基づいて、リカレンスプロットを作成する(ステップS202)。リカレンスプロットとは再構成されたアトラクタの非定常挙動を2次元表示したものであり、ここで作成するリカレンスプロットは、リカレンスプロットを2変数(上流側の検出端101から得られた時系列情報及び下流側の検出端102から得られた時系列情報)に拡張したもの(「相互リカレンスプロット」と称する)である。
【0017】具体的には、一方の変数のアトラクタ上にある現在時刻点から所定の範囲内にあるの近傍点を、他方の変数のアトラクタ上から検索する。その結果、検索された近傍点の時刻を、横軸を現在時刻、縦軸を上記近傍点の時刻として2次元表示することにより相互リカレンスプロットを作成する。
【0018】図3〜6には、相互リカレンスプロットの一例を示す。これら相互リカレンスプロットは、詳細は後述するが、本実施の形態を高炉炉底における湯流れ状態の診断に適用した場合の実績例である。
【0019】次に、診断部105において、上記作成された相互リカレンスプロットに基づいて、流体100の流動状態を推定し、上流側から下流側に向かう健全な流れが存在するか、流れが停滞しているかを判断する(ステップS203)。
【0020】具体的には、上記のようにして得られた相互リカレンスプロットは、上流側の検出端101から得られた時系列情報と下流側の検出端102から得られた時系列情報との相互相関性を表しており、2箇所の検出端101、102間に強い流れが存在すれば、相互リカレンスプロット上では対角線(現在時刻と近傍点の時刻とが同じ点の集合)に平行な線分として表現される。
【0021】したがって、相互リカレンスプロット上で対角線に平行な線分が存在するか否かによって、上流側から下流側に向かう健全な流れが存在するか、流れが停滞しているかを推定することができる。例えば、図4の符号1に示す部分では、対角線に平行な線分がほとんど存在しておらず、上流側から下流側に向かう流れが存在しないことが分かる。上流側から下流側に向かう流れが存在すべき場合に、図4の符号1に示すような状態であれば、何らかの理由により流れが停滞しているものと推定される。
【0022】なお、ノイズのない系では実際の流線を表す1本の線分として表示されるが、現実世界にあるノイズを含む系では、類似状態にある流れの集合体として表現されるため、多数の線分が表示される。
【0023】また、ノイズが小さい系では、2つの検出端間の距離を相互リカレンスプロット上の対角線と線分との間の垂直距離で除した値が流速を示し、線分の長さが流れの安定性を示す。現実世界にあるノイズを含む系では、ノイズが小さな系のように流速の直接評価は困難であるが、相互リカレンスプロット上の対角線に平行に現れる多数の線分の集合体としての密度で流れの大きさを表現することができる。
【0024】(第2の実施の形態)図7には、第2の実施の形態の流動状態の推定装置の概略構成を示す。なお、同図において、検出端101、102及びアトラクタ作成部103については上記第1の実施の形態で説明したものと同じであり、以下では相違点を中心に説明する。
【0025】701は評価指標演算部であり、上記アトラクタ作成部103により再構成された検出端101側及び検出端102側のいずれか一方のアトラクタ上の基準時刻での点の周囲に存在する他方のアトラクタ上の近傍点が、上記基準時刻から所定時間推移後での点の周囲にいくつ存在するかの割合を評価指標として求める。
【0026】評価対象の状態の挙動、具体的には上流側から下流側に向かう流体100の流動状態の挙動をΔtの時間スケールで観察したときに、時間発展の様子が決定論的、すなわちある法則性に支配されて推移するようにみえるということは、図8に示すように、再構成された軌道群の近接した部分がΔt後に同じように近傍した部分に移されることを意味する。
【0027】そこで、評価指標演算部701では、検出端101側及び検出端102側のいずれか一方のアトラクタ上の現時刻点x(t)を中心とする直径εの超球を考え、そこに含まれる他方のアトラクタ上の近傍点が、Δt時刻後のx(t+Δt)を中心とする直径εの超球にいくつ存在するかの割合を評価指標として定義する。
【0028】具体的には、評価指標は、評価指標=(Δt時刻後に生き残った近傍点数)/(時刻tにおける近傍点数)により表される。この評価指標は、2変数(上流側の検出端101から得られた時系列情報及び下流側の検出端102から得られた時系列情報)の時系列変化の法則性依存度を表し、法則性依存度が大きいほど1に近づき、ランダム状態となるほど0に近づく。例えば、図8において、評価指標は3/5=0.6となる。
【0029】702は推定部であり、上記評価指標演算部701により求められた評価指標に基づいて、上流側から下流側に向かう流体100の流動状態を推定する。すなわち、評価指標は上流側の検出端101から得られた時系列情報と下流側の検出端102から得られた時系列情報との相互相関性を表しており、2箇所の検出端101、102間に強い流れが存在すれば、評価指標は1に近い値として表現される。したがって、評価指標が1に近いか、0に近いかによって、上流側から下流側に向かう健全な流れが存在するか、流れが停滞しているかを推定することができ、例えば、上流側から下流側に向かう流れが存在すべき場合に、評価指標が0に近い値であれば、何らかの理由により流れが停滞しているものと推定される。
【0030】(第3の実施の形態)図9には、第3の実施の形態の流動状態の推定装置の概略構成を示す。本実施の形態において対象となる流動状態は、液体、気体等の流体900が二手方向に分かれてできる一方の流体900aの流れ及び他方の流体900bの流れである。
【0031】一方の流体900a側には該流体900aの状態が反映された時系列情報、例えば時系列の温度情報や時系列の圧力情報等を検出するための検出端901が、他方の流体900b側には該流体900bの状態が反映された時系列情報、例えば時系列の温度情報や時系列の圧力情報等を検出するための検出端902が配置される。流体900a、900bが対称的に分流するようにされている場合、検出端901、902も対称的に配置されるのが望ましい。
【0032】図9において、903はアトラクタ作成部であり、上記各検出端901、902から得られた時系列情報に基づいて、それぞれ所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタと呼ばれる軌道を再構成する。
【0033】904はリカレンスプロット作成部であり、上記アトラクタ作成部903により再構成されたアトラクタに基づいて、2変数のリカレンスプロット、すなわち一方の流体900a側の検出端901から得られた時系列情報及び他方の流体900b側の検出端902から得られた時系列情報を変数とするリカレンスプロットを作成する。
【0034】905は推定部であり、上記リカレンスプロット作成部904により作成された2変数のリカレンスプロットに基づいて、一方の流体900a及び他方の流体900bの流動状態を推定する。
【0035】以下、図10のフローチャートを参照して、本実施の形態の流動状態の推定処理について説明する。アトラクタ作成部903において、各検出端901、902から得られる時系列情報に基づいて、アトラクタと呼ばれる軌道を再構成する(ステップS1001)。アトラクタ作成部903は、各検出端901、902から得られた時系列情報から、対象とする現象の2倍以上の次元mを持つ遅延ベクトルv(t)=(u(t),u(t+τ),u(t+2τ),・・・,u(t+(m−1)τ))を作成する。なお、u(T)は時刻Tにおける熱流束、τは時間遅れ間隔である。続いて、上記作成した遅延ベクトルv(t)を所定の次元を有する位相空間に写像する。この写像した遅延ベクトルv(t)の時間推移による軌道を作成することによりアトラクタを再構成する。
【0036】次に、リカレンスプロット作成部904において、上記再構成されたアトラクタに基づいて、リカレンスプロットを作成する(ステップS1002)。リカレンスプロットとは再構成されたアトラクタの非定常挙動を2次元表示したものであり、ここで作成するリカレンスプロットは、リカレンスプロットを2変数(一方の側の検出端901から得られた時系列情報及び他方の側の検出端902から得られた時系列情報)に拡張したもの(「相互リカレンスプロット」と称する)である。
【0037】具体的には、一方の変数のアトラクタ上にある現在時刻点から所定の範囲内にあるの近傍点を、他方の変数のアトラクタ上から検索する。その結果、検索された近傍点の時刻を、横軸を現在時刻、縦軸を上記近傍点の時刻として2次元表示することにより相互リカレンスプロットを作成する。
【0038】図11には、相互リカレンスプロットの一例を示す。この相互リカレンスプロットは、詳細は後述するが、本実施の形態を連続鋳造鋳型内における溶鋼流動状態の診断、具体的には、連続鋳造鋳型内で浸漬ノズルから両凝固シェル方向に溶鋼が吐出される場合での溶鋼偏流の発生の有無を診断する場合の実績例である。
【0039】次に、診断部905において、上記作成された相互リカレンスプロットに基づいて、一方の流体900a及び他方の流体900bの流動状態を推定し、流体900a、900b間で偏流が発生していないかを推定する(ステップS1003)。
【0040】具体的には、上記のようにして得られた相互リカレンスプロットは、一方の側の検出端901から得られた時系列情報と他方の側の検出端902から得られた時系列情報との相互類似性を表しており、これら時系列情報の類似性が大きければ、相互リカレンスプロット上では対角線(現在時刻と近傍点の時刻とが同じ点の集合)に平行な線分として表現される。逆に、流体900a、900b間で偏流が発生して、一方の側の検出端901から得られた時系列情報と他方の側の検出端902から得られた時系列情報との乖離が生じると、相互リカレンスプロット上では対角線近傍に平行な線分がほとんど存在しなくなる。
【0041】例えば、図11に示す相互リカレンスプロットでは、中央部分(鋳造長さ45[m]付近)で対角線に平行な線分がほとんど存在しておらず、対角線上両側が白抜き状態となっている。すなわち、その白抜き部分では一方の側の検出端901から得られた時系列情報と他方の側の検出端902から得られた時系列情報とついての類似性がなく、流体900a、900b間で偏流が発生していると判断することができる。
【0042】(第4の実施の形態)図12には、第4の実施の形態の流動状態の推定装置の概略構成を示す。なお、同図において、検出端901、902及びアトラクタ作成部903については上記第1の実施の形態で説明したものと同じであり、以下では相違点を中心に説明する。
【0043】1201は評価指標演算部であり、上記アトラクタ作成部903により再構成された検出端101側及び検出端102側のいずれか一方のアトラクタ上の基準時刻での点の周囲に存在する他方のアトラクタ上の近傍点が、上記基準時刻から所定時間推移後での点の周囲にいくつ存在するかの割合を評価指標として求める。
【0044】評価対象の状態の挙動、具体的には一方の流体900aの流動状態及び他方の流体900bの流動状態の挙動をΔtの時間スケールで観察したときに、時間発展の様子が決定論的、すなわちある法則性に支配されて推移するようにみえるということは、上記第2の実施の形態でも述べた図8に示すように、再構成された軌道群の近接した部分がΔt後に同じように近傍した部分に移されることを意味する。
【0045】そこで、評価指標演算部1201では、検出端901側及び検出端902側のいずれか一方のアトラクタ上の現時刻点x(t)を中心とする直径εの超球を考え、そこに含まれる他方のアトラクタ上の近傍点が、Δt時刻後のx(t+Δt)を中心とする直径εの超球にいくつ存在するかの割合を評価指標として定義する。
【0046】具体的には、評価指標は、評価指標=(Δt時刻後に生き残った近傍点数)/(時刻tにおける近傍点数)により表される。この評価指標は、2変数(一方の側の検出端901から得られた時系列情報及び他方の側の検出端902から得られた時系列情報)の時系列変化の法則性依存度を表し、法則性依存度が大きいほど1に近づき、ランダム状態となるほど0に近づく。例えば、図8において、評価指標は3/5=0.6となる。
【0047】1202は推定部であり、上記評価指標演算部1201により求められた評価指標に基づいて、一方の流体900a及び他方の流体900bの流動状態を推定する。すなわち、評価指標は一方の側の検出端901から得られた時系列情報と他方の側の検出端902から得られた時系列情報との相互類似性を表しており、これら検出端901、902での時系列情報に大きな類似性が存在すれば、評価指標は1に近い値として表現されるが、偏流が発生して検出端901、902での時系列情報に乖離が生じると、評価指標は低くなる。したがって、評価指標が1に近いか、0に近いかによって、流体900a、900b間に偏流が発生しているかを推定することができる。
【0048】以下では、上記説明した実施の形態についての具体的な実施例を説明する。
(実施例1)実施例1は、上記第1の実施の形態を高炉炉底における湯流れ状態の診断に適用した例である。まず、図13を参照して、高炉について簡単に説明すると、高炉内は概ね5つの領域に大別することができる。すなわち、原料が挿入前と同じように塊として存在する塊状帯201、原料が熱と荷重とにより半溶融状になっている融着帯202、溶けた銑鉄やスラグがコークスの間を降下する滴下帯203、コークスが羽口251からの送風によって燃焼、運動するレースウェイ204、溶融生成物(スラグ、銑鉄)が貯留される湯だまり205である。なお、滴下帯203については、コークスが長時間ほとんど静止している領域(炉心203a)と、連続的にコークスがレースウェイ204に溶下する領域(活性コークス帯203b)とに分けられる【0049】高炉炉底の湯だまり205から溶融生成物を抽出する作業を出銑という。出銑がスムーズに行われなければ、湯面が上昇して羽口251に達し、送風が不可能になったり、羽口251が破損したりするおそれがある。また、羽口251まで到達する前に、レースウェイ204が歪むことによって通気不良が起こるおそれもある。したがって、高炉の操業においては、溶融生成物をスムーズに出銑孔252から抽出することが重要とされる。特に、大型高炉の場合、常にどこかの出銑孔252から出銑が行われており、生成速度と比較して出銑速度があまり大きくないことから、溶融生成物をスムーズに出銑孔252から抽出することが更に重要とされる。
【0050】また、出銑孔252から出銑が行われているが、何らかの原因により炉底内では湯流れが停滞しているといった状態もありうる。そのため、出銑孔252からの出銑を外部観察するだけでは、高炉炉底における湯流れ状態を的確に診断することができない。
【0051】本実施例では、上記のような高炉炉底における湯流れ状態の健全性を診断するために、図13、14に示すように、炉底303の底盤303a中央に、熱電対301が埋め込まれている。また、炉底303の炉壁303bには、周方向に配置された複数(No.1〜No.4)の出銑孔252(1)〜252(4)の付近、例えば各出銑孔252(1)〜252(4)の真下位置に、熱電対302(1)〜302(4)が埋め込まれている。
【0052】本実施例では、出銑という動力源に誘起されて出銑孔252に向かう湯流れが生じるものであり、熱電対301が図1で示す上流側の検出端101に相当し、熱電対302(1)〜302(4)のそれぞれが図1で示す下流側の検出端102に相当するものである。
【0053】ここで、本実施例では、高炉炉底の底盤中央に埋め込まれた熱電対301により計測された時系列の温度情報と、高炉炉底の出銑孔付近に埋め込まれた熱電対302(1)〜302(4)により計測された時系列の温度情報とをそのまま「流体の状態が反映された時系列情報」として用いるのではなく、これら各時系列の温度情報から、逆問題解析により、各熱電対301、302(1)〜302(4)位置に対応する高炉炉底の稼動面での時系列の熱流束情報を求め、その時系列の熱流束情報を「流体の状態が反映された時系列情報」として用いるようにしている。
【0054】例えば、底盤303a中央の熱電対301を例にして説明すると、逆問題解析では、熱電対301、熱電対301から埋め込まれた炉底303煉瓦を含む系を対象にした所定の方程式(偏微分方程式等)と、熱電対301位置に対応する炉底303の稼動面での熱流束の仮定値とを用いて、熱電対301位置での温度を算出する。そして、その算出した熱電対301位置での温度と、熱電対301により実際に計測された温度との誤差が所定の値より小さくなるように、上記熱流束の仮定値を修正し、熱電対301位置での温度の算出を繰り返す。その結果、算出した熱電対301位置での温度と、熱電対301により実際に計測された温度との誤差が所定の値より小さくなったときの熱流束の仮定値を、熱電対301位置に対応する炉底303の稼動面での熱流束値とする。
【0055】また、例えば、下記の数1に示す式(1)、(2)に基づいて、熱電対301位置に対応する炉底303の稼動面での熱流束を算出する。
【0056】
【数1】

【0057】上記式(1)は非定常の熱伝導方程式である。式(1)に対して所定の演算等を施すと、式(2)に示すような積分境界方程式になる。式(2)において、Gは共役方程式の解、uはスカラー量(本例の場合、温度)、∂u/∂nはスカラー勾配(本例の場合、熱流束)である。
【0058】上記式(2)において、左辺は熱電対301位置に対応する炉底303の稼動面に関する積分であり、右辺は所定の既知境界面、例えば熱電対301位置を含む面に関する積分である。したがって、熱電対301での計測温度に基づいて、式(2)の右辺の各値が求められ、その求められた値から式(2)の左辺のスカラー勾配∂u/∂n(熱電対301位置に対応する炉底303の稼動面での熱流束)が求められる。
【0059】図15には、底盤303a中央の熱電対301について上記のような逆問題解析により求められた時系列の熱流束情報の実績例を示す。同図に示すように、符号1〜7を付した部分で炉底中央での熱流束の落ち込みが見られるが、特に符号1〜4を付した部分においては、炉底中央での熱流束が大幅に低下する現象(いわゆる炉底不活性)が発生した。
【0060】上記のようにして各熱電対301、302(1)〜302(4)位置に対応する高炉炉底の稼動面での時系列の熱流束情報を求めたならば、図2のフローチャートに従って、アトラクタを再構成するとともに、相互リカレンスプロットを作成し、その相互リカレンスプロットに基づいて高炉炉底における湯流れ状態の診断を行う。
【0061】説明の繰り返しになるが、上記逆問題解析により求められた各熱電対301、302(1)〜302(2)から得られた熱流束情報に基づいて、アトラクタと呼ばれる軌道を再構成する(ステップS201)。まず、逆問題解析部101により算出された各熱電対301、302(1)〜302(2)についての熱流束情報から、対象とする現象の2倍以上の次元mを持つ遅延ベクトルv(t)=(u(t),u(t+τ),u(t+2τ),・・・,u(t+(m−1)τ))を作成する。なお、u(T)は時刻Tにおける熱流束、τは時間遅れ間隔である。続いて、上記作成した遅延ベクトルv(t)を所定の次元を有する位相空間に写像する。この写像した遅延ベクトルv(t)の時間推移による軌道を作成することによりアトラクタを再構成する。
【0062】次に、上記再構成されたアトラクタに基づいて、リカレンスプロットを作成する(ステップS202)。リカレンスプロットとは再構成されたアトラクタの非定常挙動を2次元表示したものであり、ここで作成するリカレンスプロットは、リカレンスプロットを2変数(熱電対301から得られた時系列の熱流束情報及び熱電対302(1)〜302(4)から得られた時系列の熱流束情報)に拡張したものである。
【0063】具体的には、一方の変数の再構成アトラクタ上にある現在時刻点から所定の範囲内にあるの近傍点を、他方の変数の再構成アトラクタ上から検索する。その結果、検索された近傍点の時刻を、横軸を現在時刻、縦軸を上記近傍点の時刻として2次元表示することにより相互リカレンスプロットを作成する。
【0064】図3には、高炉での実績例であり、底盤303a中央の熱電対301から得られた熱流束情報と、No.1出銑孔252(1)付近の熱電対302(1)から得られた熱流束情報との相互相関性を表す相互リカレンスプロットを示す。
【0065】同様に、図4には、底盤303a中央の熱電対301から得られた熱流束情報と、No.2出銑孔252(2)付近の熱電対302(2)から得られた熱流束情報との相互相関性を表す相互リカレンスプロットを示す。
【0066】同様に、図5には、底盤303a中央の熱電対301から得られた熱流束情報と、No.3出銑孔252(3)付近の熱電対302(3)から得られた熱流束情報との相互相関性を表す相互リカレンスプロットを示す。
【0067】同様に、図6には、底盤303a中央の熱電対301から得られた熱流束情報と、No.4出銑孔252(4)付近の熱電対302(4)から得られた熱流束情報との相互相関性を表す相互リカレンスプロットを示す。
【0068】次に、上記作成された相互リカレンスプロットに基づいて、高炉炉底における湯流れ状態を推定し、炉底中央からNo.1〜No.4各出銑孔252(1)〜252(4)に向かう健全な流れが存在するか、炉底中央において湯流れが停滞しているかを診断する(ステップS203)。
【0069】具体的には、熱電対301(上流側の検出端)と各熱電対302(1)〜302(4)(下流側の検出端)とについての相互リカレンスプロットを考えると、2箇所の検出端間に強い流れが存在すれば、相互リカレンスプロット上では対角線(現在時刻と近傍点の時刻とが同じ点の集合)に平行な線分として表現される。
【0070】したがって、相互リカレンスプロット上で対角線に平行な線分が存在するか否かによって、炉底中央からNo.1〜No.4各出銑孔252(1)〜252(4)に向かう健全な流れが存在するか、炉底中央において湯流れが停滞しているかを診断することができる。例えば、図4の符号1に示す部分では、対角線に平行な線分がほとんど存在しておらず、炉底中央からNo.2出銑孔252(2)に向かう流れが存在しないことが分かる。No.2出銑孔252(2)が閉じているのであれば、炉底中央からNo.2出銑孔252(2)に向かう流れが存在しなくても問題はないが、No.2出銑孔252(2)から出銑を行っているにもかかわらず、図4の符号1に示すような状態であれば、何らかの理由により高炉炉底において湯流れが停滞しているものと考えられる。
【0071】以上述べたように、底盤303a中央の熱電対301から得られた熱流束情報と、No.1〜No.4出銑孔252(1)〜252(4)付近の各熱電対302(1)〜302(4)から得られた熱流束情報との相互相関性を表す相互リカレンスプロットを作成し、その相互リカレンスプロットに基づいて高炉炉底における湯流れ状態を判断するようにしたので、高炉炉底における湯流れ状態を的確に診断することができ、出銑孔252から出銑が行われているが、炉底内では湯流れが停滞しているといった状態を診断することも可能となる。
【0072】(実施例2)実施例2は、上記第3の実施の形態を連続鋳造鋳型内における溶鋼流動状態の診断に適用した例である。まず、図16を参照して、連続鋳造について簡単に説明すると、連続鋳造においては、取鍋1からタンディッシュ2へと供給された溶鋼3が連続鋳造鋳型4へと注入される。タンディッシュ2から連続鋳造鋳型4への溶鋼注入は、タンディッシュ2の底部に設けられたスライディングノズル5の下部に位置する浸漬ノズル6の先端を連続鋳造鋳型4内の溶鋼3に浸漬した状態で行われる。
【0073】スライディングノズル5の下部に位置する浸漬ノズル6は連続鋳造鋳型4の中央部に配置され、タンディッシュ2からの溶鋼3はスライディングノズル5を介して浸漬ノズル6内を流下し左右一対の吐出孔7から連続鋳造鋳型4内に注入される。この左右一対の吐出孔7から吐出される流体が、上記第3の実施の形態で述べた流体900a、900bに相当するものである。浸漬ノズル6の吐出孔7から吐出された溶鋼3は、凝固シェル8に衝突した後、同図の矢印で表されるように上昇流と下降流とに分流される。
【0074】定常時では、浸漬ノズル6の左右の吐出孔7から吐出される溶鋼量はほぼ均等になっている(図26の一方の連続鋳造鋳型4を参照)が、場合によっては、左右の吐出孔7から吐出される溶鋼量が左右で不均等となる溶鋼偏流が生じることがある(図16の他方の連続鋳造鋳型4を参照)。
【0075】かかる溶鋼偏流が生じる原因としては、浸漬ノズル6の内面等にアルミナ等による付着物が付着したり、溶鋼流によって左右の吐出孔7が溶損して形状が不均一となったりすることが挙げられる。また、スライディングバルブ5の構造上、溶鋼3が浸漬ノズル6内の中央を流下せず、左右いずれかに偏って流下することが挙げられる。
【0076】上記のような理由により連続鋳造鋳型4内で溶鋼偏流が生じると、溶鋼量の多い側では、凝固シェル8への衝突力が大きく、溶鋼3が凝固シェル8の内面に沿って上方及び下方に勢いよく分流することになる。勢いの強い上昇流は、湯面盛り上がりを生起して湯面上のフラックスが連続鋳造鋳型4の内壁面と凝固シェル8との間に供給されるのを阻害し、凝固シェル8の形成が不均一となりやすく、鋳造される鋳片の湯じわや割れ等の原因となってしまう。また、勢いの強い下降流は、溶鋼3の深くまで達して非金属介在物の浮上を妨げ、鋳片の非金属介在物性欠陥をもたらす等の原因となってしまう。
【0077】一方、溶鋼量の少ない側では、凝固シェル8への衝突力が小さく、溶鋼3が凝固シェル8の内面に沿って上方及び下方に分流する力は弱い。上昇流及び下降流の勢いが弱いと、吐出孔7内の溶鋼流によどみが発生しやすく、アルミナ等の付着によりノズル閉塞等の原因となってしまう。
【0078】以上述べたように連続鋳造鋳型4内において溶鋼偏流が生じると、連続鋳造の操業に支障があるばかりではなく、鋳片の品質悪化を招き、好ましくないため、溶鋼偏流の発生の有無を検知する必要がある。
【0079】本実例では、上記のような連続鋳造鋳型内における溶鋼流動状態の健全性を診断するために、図17に示すように、連続鋳造鋳型4に熱電対が埋め込まれている。図17(A)に示すように、連続鋳造鋳型4は一対の長辺4aと一対の短辺4bとを有する平面断面形状とされており、その中央に浸漬ノズル6が配置される。浸漬ノズル6には、連続鋳造鋳型4の両短辺4b方向に溶鋼を吐出する一対の吐出孔7が形成されている。
【0080】図17(A)、(B)に示すように、連続鋳造鋳型4のある高さ位置(鋳造方向位置)において、一方の長辺4a側の面(「F面」と称する)には、長辺幅方向の中心(図中Y線)を挟んで対称的に配置された複数の熱電対F1、F3、F5、F7、F9、F11が埋め込まれている。同様に、他方の長辺4a側の面(「L面」と称する)には、長辺幅方向の中心(図中Y線)を挟んで対称的に配置された複数の熱電対L1、L3、L5、L7、L9、L11が埋め込まれている。
【0081】また、連続鋳造鋳型4のF面及びL面には、上記の高さ位置とは異なる一又は複数の高さ位置にも、同様に熱電対F2、F4、F6、F8、F10、F12、熱電対L2、L4、L6、L8、L10、L12が埋め込まれている。
【0082】さらに、図17(C)、(D)に示すように、一方の短辺4b側の面(「S面」と称する)には、短辺幅方向の中心に配置された熱電対S12が埋め込まれている。同様に、他方の短辺4b側の面(「N面」と称する)には、短辺幅方向の中心に配置された熱電対N12が埋め込まれている。これら熱電対S12、N12も、図では1個ずつしか示さないが、上記各高さ位置の熱電対F1〜F11、L1〜L11に対応して連続鋳造鋳型4の適当な高さ位置に配置されている。
【0083】ここで、本実施例では、連続鋳造鋳型4に埋め込まれた所定の高さ位置の熱電対F1〜F11、L1〜L11、S12、N12の組により計測された計測された時系列の温度情報をそのまま「流体の状態が反映された時系列情報」として用いるのではなく、これら各時系列の温度情報から、逆問題解析により、各熱電対F1〜F11、L1〜L11、S12、N12位置に対応する連続鋳造鋳型4の稼動面での時系列の熱流束情報を求め、その時系列の熱流束情報を「流体の状態が反映された時系列情報」として用いるようにしている。
【0084】逆問題解析については上記実施例1で既述したので、ここではその説明は省略する。また、上記所定の高さ位置の熱電対F1〜F11、L1〜L11、S12、N12の組をどのようにして決めるかについてであるが、高さ方向(鋳造方向)に熱電対F1〜F11、L1〜L11、S12、N12の組が複数配置されている場合に、各熱電対F1〜F11、L1〜L11、S12、N12が最高温度を示す組を対象とすればよい。このように最高温度を示す熱電対F1〜F11、L1〜L11、S12、N12では、連続鋳造鋳型4内の温度変動すなわち流動状態が最も直接的に反映されているといえ、凝固シェル8や上方の空気層による影響が小さい。
【0085】なお、通常は、ある高さ位置の熱電対F1〜F11、L1〜L11、S12、N12すべてが最高温度を示すことがほとんどであるが、例えば、一部の熱電対はある高さ位置で最高温度を示し、残りの熱電対は別の高さ位置で最高温度を示すような場合は、最高温度を示す熱電対の数が多い高さ位置の熱電対F1〜F11、L1〜L11、S12、N12の組を対象としたり、各高さ位置から最高温度を示す熱電対F1〜F11、L1〜L11、S12、N12をそれぞれ選び出してその組を対象としたりしてもよい。
【0086】図18には、溶鋼偏流が発生していることが分かっている鋳造長さ(≒鋳造時間)において、熱電対F1〜F11、L1〜L11、S12、N12を用いて得られた熱流束情報の実績例を示す。同図に示すように、連続鋳造鋳型4内で溶鋼偏流が発生している場合、長辺幅方向の中心を挟んで対称的に配置された熱電対間で熱流束が互いに増減する方向に変動する。本例の場合、特に熱電対F1/F11、L1/L11で熱流束が大きな割合で互いに増減する方向に変動しており、熱流束の大きなN側(熱電対F1、L1のある側)では溶鋼量が多くなっているのに対して、熱流束の小さなS側(熱電対F11、L11のある側)ではS側の溶鋼量が少なくなっているといえる。
【0087】上記のようにして各熱電対F1〜F11、L1〜L11、S12、N12位置に対応する連続鋳造鋳型4の稼動面での時系列の熱流束情報を求めたならば、図10のフローチャートに従って、アトラクタを再構成するとともに、相互リカレンスプロットを作成し、その相互リカレンスプロットに基づいて連続鋳造鋳型内における溶鋼流動状態の診断を行う。
【0088】説明の繰り返しになるが、長辺幅方向の中心に対して一方の側(S側)の熱電対F7、F9、F11、L7、L9、L11、S12から得られた時系列の熱流束情報に基づいて、所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタと呼ばれる軌道を再構成する。また、長辺幅方向の中心に対して他方の側(N側)の熱電対F1、F3、F5、L1、L3、L5、N12から得られた時系列の熱流束情報に基づいて、所定の次元を有する遅延ベクトルを生成し、アトラクタと呼ばれる軌道を再構成する(ステップS1001)。まず、N側の熱電対F5、F3、F1、N12、L1、L3、L5の熱流束情報から、下記の数2に示すように、対象とする現象の2倍以上の次元mを持つ遅延ベクトルvN(t)を作成する。同様に、S側の熱電対F7、F9、F11、S12、L11、L9、L7の熱流束情報から、下記の数2に示すように、対象とする現象の2倍以上の次元mを持つ遅延ベクトルvS(t)を作成する。なお、x(t)は時刻tにおける熱流束、τは時間遅れ間隔である。
【0089】
【数2】

【0090】続いて、遅延ベクトルvN(t)、vS(t)を所定の次元を有する位相空間にそれぞれ写像する。この写像した遅延ベクトルvN(t)、vS(t)の時間推移による軌道を作成することによりアトラクタを再構成する。
【0091】次に、上記再構成されたS側のアトラクタ及びN側のアトラクタに基づいて、2変数のリカレンスプロット、すなわちS側の熱流束分布及びN側の熱流束分布を変数とするリカレンスプロットを作成する(ステップS1002)。リカレンスプロットとは再構成されたアトラクタの非定常挙動を2次元表示したものであり、ここで作成するリカレンスプロットは、リカレンスプロットを2変数に拡張したものである。
【0092】具体的には、一方の変数の再構成アトラクタ上にある現在時刻点から所定の範囲内にあるの近傍点を、他方の変数の再構成アトラクタ上から検索する。その結果、検索された近傍点の時刻を、横軸を現在時刻、縦軸を上記近傍点の時刻として2次元表示することにより、相互相関性を表す相互リカレンスプロットを作成する。
【0093】図11には、上記図18で述べたのと同じ連続鋳造鋳型4でのS側の熱流束分布及びN側の熱流束分布を変数とする相互リカレンスプロットを示す。
【0094】次に、上記作成された相互リカレンスプロットに基づいて、連続鋳造鋳型4内での溶鋼の流動状態を推定し、溶鋼偏流の発生の有無を診断する(ステップS1003)。
【0095】具体的には、S側の熱流束分布及びN側の熱流束分布を変数とする相互リカレンスプロットを考えると、S側の熱流束分布及びN側の熱流束分布の類似性が大きければ、相互リカレンスプロット上では対角線(現在時刻と近傍点の時刻とが同じ点の集合)近傍に平行な線分が密集して現れる。逆に、連続鋳造鋳型4内で溶鋼偏流が発生して、S側の熱流束分布及びN側の熱流束分布に乖離が生じると、相互リカレンスプロット上では対角線近傍に平行な線分がほとんど存在しなくなる。
【0096】図11に示す相互リカレンスプロットでは、中央部分(鋳造長さ45[m]付近)で対角線に平行な線分がほとんど存在しておらず、対角線上両側が白抜き状態となっている。すなわち、その白抜き部分ではS側の熱流束分布及びN側の熱流束分布についての類似性がなく、連続鋳造鋳型4内で溶鋼偏流が発生していると判断することができる。
【0097】以上述べたように本実施の形態においては、S側の熱流束分布及びN側の熱流束分布の類似性を表す相互リカレンスプロットを作成し、その相互リカレンスプロットに基づいて連続鋳造鋳型4内での溶鋼偏流の発生の有無を診断するようにしたので、溶鋼偏流の発生の有無を的確に診断することができる。
【0098】すなわち、図18にも示したように、溶鋼偏流が発生した場合、長辺幅方向の中心を挟んで配置された熱電対間で熱流束が互いに増減する方向に変動することから、S側及びN側での温度を測定して比較し、そういった変動を捉えることにより溶鋼偏流の発生の有無を診断することも可能である。しかしながら、図18に示すように瞬間を捉えた関係からは明確に理解できるが、実際には温度等は瞬時に変動するものであり、それらを比較した上で上記のような変動を捉えることは難しく、溶鋼偏流の発生の有無を的確に検知しえないことが多い。
【0099】それに対して、S側の熱流束分布及びN側の熱流束分布を変数とするリカレンスプロットを作成することにより、長辺幅方向の中心を挟んで配置された熱電対間で熱流束が互いに増減するといった変動を精度よく捉えることができ、溶鋼偏流の発生の有無を的確に診断することが可能となるものである。
【0100】(実施例3)実施例3は、上記第4の実施の形態を連続鋳造鋳型内における溶鋼流動状態の診断に適用した例である。本実施例では、上記実施例3と同じ連続鋳造を対象として評価指標を求めるようにしたものであり、結果のみを示す。
【0101】図19には、上記図11、18で述べたのと同じ連続鋳造鋳型4での鋳造長さと評価指標との関係の実績例を示す。S側の熱流束分布及びN側の熱流束分布の類似性が大きければ、評価指標は1に近くなるが、連続鋳造鋳型4内で溶鋼偏流が発生して、S側の熱流束分布及びN側の熱流束分布に乖離が生じると、評価指標は低くなる。図8では、鋳造長さ45[m]付近で評価指標が低下しており、S側の熱流束分布及びN側の熱流束分布についての類似性がなく、連続鋳造鋳型4内で溶鋼偏流が発生していると判断することができる。
【0102】(その他の実施の形態)上述した実施の形態の流動状態の推定装置は、コンピュータのCPU或いはMPU、RAM、ROM等により構成され、RAMやROMに記憶されたプログラムが動作することによって実現される。したがって、コンピュータに対し、上記実施の形態の機能を実現するためのプログラム自体が上述した実施の形態の機能を実現することになり、そのプログラム自体は本発明を構成する。
【0103】また、上記プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを格納した記録媒体は本発明を構成する。かかるプログラムコードを記憶する記録媒体としては、例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【0104】また、コンピュータが供給されたプログラムを実行することにより、上述の実施の形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)或いは他のアプリケーションソフト等と共同して上述の実施の形態の機能が実現される場合にもかかるプログラムドは本発明の実施の形態に含まれることはいうまでもない。
【0105】さらに、供給されたプログラムがコンピュータの機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに格納された後、そのプログラムの指示に基づいてその機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上述した実施の形態の機能が実現される場合にも本発明に含まれることはいうまでもない。
【0106】なお、上記実施の形態において示した各部の形状及び構造は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化のほんの一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその精神、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。例えば、本発明をネットワーク環境で利用すべく、全部或いは一部のプログラムが他のコンピュータで実行されるようになっていてもかまわない。
【0107】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、上流側から下流側に向かう流体の流動状態や流体が複数方向に分かれてできる一方の流体及び他方の流体の流動状態を推定するような場合に、流体の流動状態を的確に推定することができる。
【出願人】 【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【出願日】 平成14年4月11日(2002.4.11)
【代理人】 【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
【公開番号】 特開2003−301207(P2003−301207A)
【公開日】 平成15年10月24日(2003.10.24)
【出願番号】 特願2002−109316(P2002−109316)