| 【発明の名称】 |
水素の製造法および製造装置 |
| 【発明者】 |
【氏名】今中 忠行
【氏名】跡見 晴幸
【氏名】福居 俊昭
【氏名】金井 保
【氏名】今中 洋行
【氏名】大森 良幸
【氏名】上森 賢悦
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| 【要約】 |
【課題】特定の微生物を用いて水素を効率良く製造する方法および装置を提供すること、さらに詳しくは、高温(たとえば300℃以上)を必要としないので熱エネルギー的に有利であり、また最適温度が85℃前後で水素の発生が可能となるので他の菌による汚染が回避され、光照射を要しないので照射部に有機物等が付着するなどの光照射に伴う種々の不利とは無縁であり、硫化水素をほとんど発生しないので腐食や環境汚染等の問題を生ずることがなく、また不溶性でんぷんも培養中に同時に可溶化でき、しかも水素を効率良く発生させることができる水素の製造法および水素製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ピルビン酸またはその塩または/およびでんぷん系多糖類を添加した培養液を用いて Thermococcus の微生物、殊に Thermococcus kodakaraensis KOD1を培養することにより、菌体に水素を産生させる。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】ピルビン酸またはその塩または/およびでんぷん系多糖類を添加した培養液を用いてThermococcus属の微生物を培養することにより、菌体に水素を産生させることを特徴とする水素の製造法。 【請求項2】Thermococcus属の微生物が、 Thermococcus kodakaraensis KOD1(寄託機関:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター、受託番号:FERM P−15007号)であることを特徴とする請求項1記載の水素の製造法。 【請求項3】培養を、温度60〜105℃で行うことを特徴とする請求項1記載の水素の製造法。 【請求項4】培養液に添加したピルビン酸またはその塩の濃度が、CH3COCOOH 換算で、0.01〜5%(w/w) である請求項1記載の水素の製造法。 【請求項5】培養液に添加したでんぷん系多糖類の濃度が、0.01〜5%(w/w) である請求項1記載の水素の製造法。 【請求項6】ピルビン酸またはその塩または/およびでんぷん系多糖類を添加した培養液を用いてThermococcus属の微生物を培養する培養槽(1) と、該培養槽(1) を嫌気性雰囲気下に保持する任意手段としての不活性ガス供給手段(2) と、該培養槽(1)を所定の温度に保つ加熱手段(3) と、該培養槽(1) にて発生した水素に富むガスを導出するガス導出手段(4) とを備えてなることを特徴とする嫌気性超好熱菌を用いた水素の製造装置。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、特定の微生物を用いて水素を効率良く発生させるようにした水素の製造法および製造装置に関するものである。(なお、微生物名はイタリック体で表わすべきであるが、本明細書においては通常の字体で表示してある。) 【0002】 【従来の技術】〈従来の水素の製造法〉現在、水素の製造法として工業的に実施されている代表的なものは、ナフサ、石油オフガス、ブタン、LPG、天然ガス(主にメタン)などを水蒸気改質する方法である。そのほか、重質油を部分酸化する方法も採用されている。いずれにせよ、水素の製造は、化石燃料に依存しているのが実態である。 【0003】水の電気分解により水素を製造する方法も行われているが、大量の電力を必要とする。電気分解に使用する電力も、原子力発電による割合が大きくなってはいあるものの、結局は化石燃料を原料とした火力発電に依存する割合が大きい。 【0004】そのため、大分以前から将来的な化石燃料の枯渇が危惧されており、化石燃料に依存しない水素の製法が望まれている。 【0005】〈バイオ関連の水素の製造法〉化石燃料に依存しない水素の製造法としては、特に環境問題を考慮した観点から、余剰のバイオマスを利用した方法や、有機性廃液または生物由来の原料を用いる方法が最も望ましいということができる。 【0006】(イ)バイオマスを利用して水素を発生する方法については、たとえば、・特開2000−355692(古紙、おからなどのバイオマス原料水溶液を高温、高圧状態にしてバイオマス原料と水とを化学反応させることにより、可燃性ガスを発生させる方法)、・特開平9−241001号公報(木材、古紙、都市ゴミなどのセルロース系バイオマスを、反応容器内において、水性媒体および水素活性化金属触媒の存在下で高温高圧に保持して水素を製造する方法)、・特開平11−172262号公報(木材、古紙、都市ゴミなどのセルロース系バイオマスを、水性媒体の存在下必要に応じてアルカリ性物質を用い、高温高圧に保持して可溶化処理する工程と、この工程で得られたセルロース系バイオマスの可溶化物を含む水溶液を水素活性化金属触媒と接触させれバイオマス可溶化物をガス化する工程とからなるセルロース系バイオマスのガス化方法)が提案されている。 【0007】(ロ)また、光合成細菌を利用して水素を発生する方法も提案されている。http://www.nedo.go.jp/itd/grant/JITU/jj011.htmによれば、三井らは、海洋単細胞性藻類 Synechococcus sp. Miami BG043511 株は、3mlの藍藻液当たり12時間の光照射で25mlの水素を発生させることに成功している。 【0008】(ハ)特開2000−157255には、空気、硝酸塩、亜硝酸塩を電子受容体含有媒体として発酵液に供給することにより、発酵槽内で硫化水素をほとんど含まないバイオガスを製造するようにしたバイオガスの製造方法および装置が示されている。代表的なバイオガスの組成は、メタンが約70vol % 、炭酸ガスが約30vol % である。硫化水素はバイオガス中に約1vol % 存在するが、「硫化水素は毒性でしかも腐食作用があり、従って環境汚染等を防止するために後段の設備、例えば管路やガス機関においてバイオガスの硫化水素含有量を減らす必要がある。」という問題点があるので、この公報の発明は、硫化水素の発生をなくすことを目的としているわけである。 【0009】(ニ)有機性廃液を利用するものとして、特開2001−149983には、水素生成菌の1種類の菌である通性嫌気性細菌が内部に収容されたバイオリアクタに配管を介して有機性廃液を導入し、水素生成菌の作用により水素を発生させると共にメタンの基質となる有機酸を生成し、その有機酸を含む液を配管を介してメタン菌が内部に収容されたバイオリアクタに導入し、メタン菌の作用により有機酸を分解してメタンを発生させると共にBODを低減し、その後配管から排出するようにしたバイオガス発生装置が示されている。通性嫌気性細菌である水素生成菌として、Enterobactor aerogenes(グラム陰性の運動性を有する通性嫌気性桿菌)を用いることができることが示されている。分解対象となる有機物をグルコースとすると、グルコースは,C6H12O6 + 2H2O → 2CH3COOH + 2CO2 + 4H2の反応により酢酸と二酸化炭素と水素に分解されるので、このようにして生成したメタン原料有機物を、2CH3COOH → 2CH4 + 2CO2の反応によりメタンと二酸化炭素に分解するわけである。 【0010】(ホ)特開平8−308587号公報には、常温より高い温度の嫌気性雰囲気内で有機物を栄養として培養され、水素を発生する水素発生超好熱菌を培養する培養装置と、排熱源から排出される80℃以上の排熱保有媒体から給熱されて前記培養装置を前記水素発生超好熱菌の増殖に適した温度に維持する培養温度維持機構と、前記水素発生超好熱菌の増殖に必要な前記有機物を前記培養装置内に供給する有機物供給機構とを備え、前記水素発生超好熱菌の増殖により前記培養装置内で発生する水素を、前記培養装置から取り出して貯蔵する水素貯蔵器とを備え、前記水素貯蔵器から水素を取り出し可能に構成した水素供給装置が示されている(請求項1)。有機物が廃棄有機物であり(請求項4)、有機物としては、デンプン(ジャガイモ、小麦等)、酵母、醗酵粕、果実、果実の皮、廃糖蜜、糖、動物残渣などが利用できるとしている(段落0008、0010等)。前記の水素発生超好熱菌が Pyrococcus furiosusまたは Thermotoga maritimaであり、その増殖に適した温度が80〜103℃であることについても記載がある(請求項5)。培養装置においては、水素を33〜66%程度含んだガスを発生できるとしている(段落0010、0018)。 【0011】(ヘ)特開平10−66996号公報には、超好熱水素細菌により有機物を二酸化炭素、水素、有機酸に分解生成する第1工程と、前記第1工程で生成される生成物から超好熱メタン細菌によりメタンを生成する第2工程とを備えたメタン発生方法が示されている。有機物としては、ビール工場における発酵槽洗浄液、発酵残渣、酵母滓、酒造工場からの洗米排水、総合排水、食品工場からの澱粉加工排水、植物残滓、草木、糞尿などが利用できるとしている(段落0008、0016、0032等)。超好熱水素細菌とは、 Pyrococcus furiosus、 Thermotoga maritima等であり、菌種としてはPyrococcus、Thermotoga属等のものであること、超好熱水素細菌は70〜110℃、殊に90〜100℃で好適に生育可能であることの記載がある(段落0014)。超好熱水素細菌は、二酸化炭素:水素=1:2の比率で二酸化炭素と水素を産出するとある(段落0021)。その表1には、有機物100に対する出力メタンの生成割合があげられており、第1工程の高温嫌気性水素発酵では、有機酸66、二酸化炭素22、水素44、菌体12が生成している(水素はモル数で表示)。 【0012】(ト)Arch Microbiol (1994) 161: 168-175、Arch Microbiol (1991) 155: 366-1377 、Biotechnology and Bioengineering, Vol. 34, pp, 1050-1057 (1989)には、超好熱性始原菌である Pyrococcus furiosusを、ピリビン酸塩などを添加した培養液を用いてたとえば100℃前後において嫌気性培養することにより、水素が発生することが示されている。 【0013】〈 Thermococcus kodakaraensis KOD1について〉(チ)Applied and Environmental Microbiology, Vol. 60, No. 12, Dec. 1994, p.4559-4566 には、本発明者らによる「Purification and Characterizationof a Thermostable Thiol Protease from a Newly Isolated HyperthermophilicPyrococcus sp. KOD1」(新しく単離された超好熱性ピロコッカス種からの熱安定性チオールプロテアーゼの精製と評価)と題する論文が掲載されており、また、(リ)Journal of Bacteriology, Vol. 182, No. 22, Nov. 2000, p.6424-6433 には、本発明者らによる「A DNA Ligase from a Hyperthermophilic Archaeon with Unique Cofactor Specificity 」(ユニークなコファクター特異性を有する超好熱性始原菌からのDNAリガーゼ)と題する論文が掲載されており、Thermococcus kodakaraensis KOD1につき言及がある。ただし、どちらの文献にもKOD1を用いて水素を発生させることについては、何の記載も示唆もない。なお、この(リ)の文献の6425頁の図1の下の個所において、上記の Thermococcus kodakaraensis KOD1は、先の文献((チ)の文献のこと)ではPyrococcus kodakaraensis KOD1と報告されていると注記されているように、kodakaraensis KOD1の属は正確にはThermococcusである。 【0014】 【発明が解決しようとする課題】上記(イ)の方法は、約300℃以上という高温で処理する必要があり、300℃を保持するために熱エネルギーを供給するためコストがかかるという点で望ましくない。 【0015】上記(ロ)の方法は、水素を発生するためには、光を照射して光のエネルギーを常に供給することが不可欠であり、長期的に培養を維持する場合、照射部に有機物等が付着し、光が遮られたり吸収されたりして、水素の発生効率が著しく低下することがしばしば認められる。このため、高い効率を保持したまま水素発生させるには、定期的に付着物を除去しなければならず、多大の労力・手間とランニングコストがかかる欠点がある。 【0016】上記(ハ)の方法におけるバイオガスの組成はメタンおよび炭酸ガスであり、硫化水素の発生を防止するように工夫しているが、水素の発生とは関係を有しない。 【0017】上記(ニ)の方法は、メタン、水素、二酸化炭素を体積でこの順に2容、4容、4容の割合で得るものであるが、通性嫌気性の水素生成菌として腸内細菌であるEnterobactor aerogenesを用いているので、60℃以上の高温では生育が不可能である。なお、この公報には、Enterobactor aerogenes以外の菌については言及がない。 【0018】上記(ホ)においては Pyrococcus furiosusまたは Thermotoga maritimaの水素発生超好熱菌、上記(ヘ)においては Pyrococcus furiosus、Thermotoga maritima 等(菌種としてはPyrococcus、Thermotoga属)の超好熱水素細菌を用いて、水素を発生させているが、これらの菌は、本発明で用いている Thermococcuskodakaraensis KOD1とは遺伝子レベルにおいて全く異なる菌である。 【0019】上記(ト)の3文献においては、 Pyrococcus furiosusを、ピルビン酸塩などを添加した培養液を用いてたとえば100℃前後において嫌気性培養することにより、水素が発生することが示されているが、他の属の微生物については言及がないので、それら他の属の微生物を培養した場合にどのような生成物が得られるかは全く予測できない。なお、本発明で用いている Thermococcus kodakaraensis KOD1と、Pyrococcus furiosus とは、共に嫌気性超好熱菌と称されるが、遺伝子レベルにおいて全く異なる菌である。 【0020】本発明は、このような背景下において、特定の微生物を用いて水素を効率良く製造する方法および装置を提供すること、さらに詳しくは、高温(たとえば300℃以上)を必要としないので熱エネルギー的に有利であり、また最適温度が85℃前後で水素の発生が可能となるので他の菌による汚染が回避され、光照射を要しないので照射部に有機物等が付着するなどの光照射に伴う種々の不利とは無縁であり、硫化水素をほとんど発生しないので腐食や環境汚染等の問題を生ずることがなく、また不溶性でんぷんも培養中に同時に可溶化でき、しかも水素を効率良く発生させることができる水素の製造法および水素製造装置を提供することを目的とするものである。 【0021】 【課題を解決するための手段】本発明の水素の製造法は、ピルビン酸またはその塩または/およびでんぷん系多糖類を添加した培養液を用いてThermococcus属の微生物を培養することにより、菌体に水素を産生させることを特徴とするものである。 【0022】本発明の水素の製造装置は、ピルビン酸またはその塩または/およびでんぷん系多糖類を添加した培養液を用いてThermococcus属の微生物を培養する培養槽(1) と、該培養槽(1) を嫌気性雰囲気下に保持する任意手段としての不活性ガス供給手段(2) と、該培養槽(1) を所定の温度に保つ加熱手段(3) と、該培養槽(1)にて発生した水素に富むガスを導出するガス導出手段(4) とを備えてなることを特徴とするものである。 【0023】 【発明の実施の形態】以下本発明を詳細に説明する。 【0024】〈水素の製造法〉本発明においては、ピルビン酸またはその塩または/およびでんぷん系多糖類を添加した培養液を用いてThermococcus属の微生物を培養することにより、菌体に水素を産生させる。 【0025】Thermococcus属の微生物としては、 Thermococcus kodakaraensis に属する菌、殊に Thermococcus kodakaraensis KOD1を用いることが特に望ましい。この菌株は、従来の技術の個所の(チ)および(リ)で述べた2つの文献に記載がある。この菌株KOD1は、公的機関である独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、受託番号:FERM P−15007号として寄託されており( Pyrococcus sp. KOD1または Pyrococcus kodakaraensis KOD1で登録されているが、従来の技術の個所の(チ)および(リ)で述べたように、正確には Thermococcus kodakaraensis KOD1である)、当業者は容易に入手することができる。 【0026】培養液としては、種々の培地組成を有するものが用いられる。代表的なものの一例は、人工海水塩に酵母エキスとトリプトンとを加えた培地(MA培地)である。 【0027】そして本発明においては、この培養液に、ピルビン酸またはその塩あるいはでんぷん系多糖類を基質として添加する。ピルビン酸またはその塩とでんぷん系多糖類とを併用することも可能である。 【0028】ピルビン酸(CH3C(O)COOH) は酸性であるから、ピルビン酸を添加する場合でピルビン酸の濃度がある程度高いときには、pHの低下を防ぐために、pH調節剤を用いて培養液のpHを5〜9程度(殊に 5.5〜8.5 程度)に調整することが望ましい。ピルビン酸をナトリウム塩などの塩の形で添加すれば、培養液のpHが事実上低下しないので、培養液の調製にとって有利である。ピルビン酸ナトリウムは、グルコース(ブドウ糖)を原料(炭素源)として発酵法により容易に製造できるし、合成によっても製造することができる。 【0029】でんぷん系多糖類としては、生でんぷん(トウモロコシでんぷん、馬鈴薯でんぷん、甘藷でんぷん、コムギでんぷん、キャッサバでんぷん、サゴでんぷん、タピオカでんぷん、モロコシでんぷん、コメでんぷん、マメでんぷん、クズでんぷん、ワラビでんぷん、ハスでんぷん、ヒシでんぷん等)、物理的変性でんぷん(α−でんぷん、分別アミロース、湿熱処理でんぷん等)、酵素変性でんぷん(加水分解デキストリン、酵素分解デキストリン、アミロース等)、化学分解変性でんぷん、化学変性でんぷんなどが用いられる。でんぷん系多糖類は、添加時に可溶性であることが望ましいが、水と加熱することによって容易に可溶化するので、特に限定する必要はない。また、超好熱始原菌を用いて培養を行う本発明においては、たとえば85℃前後の高温で培養する場合が多いので、不溶性のでんぷんであっても容易に可溶化できるという利点がある。でんぷんは、周知のように、貯蔵用炭水化物として高等植物の種子、根茎などに多量に含まれる。 【0030】培養液に添加するピルビン酸またはその塩の濃度は、CH3COCOOH 換算で、0.01〜5%(w/w) とすることが適当である。でんぷん系多糖類の濃度も、0.01〜5%(w/w) とすることが適当である。このような濃度において、本発明の目的が最大限に達成できるからである。濃度の好ましい範囲は 0.1〜3%(w/w) 、より好ましい範囲は 0.2〜2%(w/w) である。 【0031】実際の培養操作にあたっては、ピルビン酸またはその塩あるいはでんぷん系多糖類を添加した培養液に、別途 Thermococcus kodakaraensis KOD1を前培養したものを植菌し、ついで本培養を開始することが望ましい。 【0032】培養温度は、温度60〜105℃、殊に65〜100℃、さらには70〜95℃、なかんずく80〜90℃に設定することが望ましい。60℃未満では水素の発生量が不足し、一方105℃を越えると、水素の発生量がかえって低下する傾向がある。 Thermococcus kodakaraensis KOD1の最適生育温度は、一般の微生物にしては極めて高い85℃前後であるので、この温度から極端に乖離することは好ましくない。 【0033】〈水素の製造装置〉上記の方法を実施するための水素の製造装置としては、・ピルビン酸またはその塩または/およびでんぷん系多糖類を添加した培養液を用いてThermococcus属の微生物を培養する培養槽(1) と、・その培養槽(1) を嫌気性雰囲気下に保持する任意手段としての不活性ガス供給手段(2) と、・その培養槽(1) を所定の温度に保つ加熱手段(3) と、・その培養槽(1) にて発生した水素に富むガスを導出するガス導出手段(4)とを備えたものが好適に用いられる。なお、嫌気性とガス撹拌とを効率的かつ確実に維持するための不活性ガスの供給手段(2) を省略し、密閉式の培養槽(1) を用いて機械的撹拌手段により撹拌する機械撹拌方式を採用したり、培養槽(1) から発生するガスの一部を培養槽(1) 内の培養液中に戻して撹拌を図る自己ガス撹拌方式を採用したりすることもできる。そのほか、必要に応じ、水素ガスの濃縮分離のための種々の手段、各種制御手段、種々の除害手段などを付設することができる。 【0034】培養槽(1) は、単槽でもよいが、複数の槽を用いることも多い。槽の形状は、特に制限はないものの、円筒形とすることが望ましい。 【0035】槽の材質は、100℃前後の温度に耐えるものであることが要求される。そして、培地に高濃度の塩を使用すること、また培養時に硫化水素が発生する場合があることから、耐腐食性の高いものが用いられる。たとえば、アルミニウム、各種ステンレス鋼、ハステロイなどの耐酸性金属が用いられ、殊にステンレス鋼の場合はオーステナイト系ステンレス鋼が望ましく、特にSUS316L、SUS304等が最も望ましい。しかしながら、これらの金属は、耐腐食性に関しては完全ではない。耐腐食性を考慮した場合、樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどでもよいが、耐熱性が高いフッ素樹脂が望ましく、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などが最も好ましい。ここで嫌気性菌の特性を考えた場合、培養時に極力酸素に接触させない方が望ましいことから、酸素透過性は小さいものほどよい。しかしながら、これらの樹脂は、金属に比しては酸素の透過性が高いという欠点があり、また樹脂を用いた場合、強度的に充分な形状を維持するためには、槽の肉厚を厚くする必要があり、コストも高くなるという欠点がある。また耐腐食性、酸素遮断性を考慮した場合には、各種ガラスでもよいが、破損しやすいという欠点がある。故に、耐腐食性が高く、酸素透過性が低く、かつ強度が大であるという観点から、SUS316L、SUS304等の金属に上記のようなフッ素樹脂をコーティングまたはライニングしたものが最適であるということができる。 【0036】不活性ガス供給手段(2) としては、窒素ガスなどの不活性ガスを供給する手段が採用される。不活性ガスの純度はできるだけ高い方が望ましく、特に酸素混入量の少ないものが望ましい。不活性ガスとしては、たとえば、半導体製造用に使用される半導体用材料窒素(純度 99.9999%以上、含有酸素量 0.1 ppm (v/v)未満、大陽東洋酸素株式会社製)や超高純度窒素(USグレード窒素、純度99.99995%以上、酸素含有量 0.1 ppm (v/v)未満、大陽東洋酸素株式会社製)などが好適に用いられる。 【0037】なお、不活性ガスの供給は、培養中必ずしも必要としないが、培養前に予め培養液中の溶存酸素を系外に排出するために必要であり、また培養中に発生する水素を培養液中からすみやかに系外移動させる目的の点でも、供給する方が望ましい。 【0038】加熱手段(3) としては、ジャケットタイプ、電熱タイプをはじめとする種々の加熱機構が採用される。特に加熱方法に関しては、培養槽内を撹拌装置により撹拌する場合があるので、下部に加熱部(ヒータ)を具備したマグネチックスターラを装備し、また効率良くヒートアップするために槽の胴部を保温または加熱するためのマントルヒータを装備して、加熱するようにすることが望ましい。 【0039】ガス導出手段(4) は、単なる配管で充分である。材質は、基本的に培養槽に適合するものと同様であることが望ましい。また自由度が高いという点で、各種ゴムを使用してよもよく、特にガス透過性が小さいエチレン・プロピレンゴムやフッ素ゴム(ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体等)などは、耐酸性や耐熱性の点で、好ましい材質の例である。 【0040】〈用途〉本発明の方法により得られた水素は、油脂工業における水添反応、酸素・水素炎による溶接、金属の還元処理、ガラスの溶融、半導体工業における還元処理、ロケット燃料(液体水素)をはじめとする従来型の用途や、自動車用燃料電池燃料、家庭用燃料電池燃料をはじめとする新規用途に用いることができる。 【0041】〈作用〉本発明者らは、鋭意努力の結果、Thermococcus属に属する微生物、殊に Thermococcus kodakaraensis の種に属する微生物、なかんずくその種のKOD1の菌株が、光を必要とせず水素発生する能力があることを見い出し、しかも、最適生育温度が85℃と微生物にしては極めて高い性質を持つこと、さらには培養液中にピルビン酸またはその塩あるいはでんぷん系多糖類を添加することによって硫化水素の発生を充分に抑制すると共に、水素を効率良く発生させることによって、従来技術の有する種々の問題点を解決したものである。 【0042】一般に微生物は、高温の温泉等の噴出口などから単離される特殊な菌を除き、60℃以上の高温では死滅するかまたは生育しえない場合が多い。従って、本発明により60℃以上の高温で生育できることは、培養時に他の菌の繁殖による汚染を回避することができ、容易に目的の好熱菌のみを増殖させることができる利点がある。 【0043】しかも本発明によれば、光合成細菌を利用して水素を発生する場合には不可欠である光照射を必要としないので、光照射に必要な設備を削減し簡素化できるのみならず、光照射部に発生付着する有機物等によって光が吸収されたり遮断されたりして、著しく水素の発生効率が低下する危険性を回避できる利点がある。 【0044】 【実施例】次に実施例をあげて本発明をさらに説明する。 【0045】実施例1〈装置の説明〉図1は、実施例で用いた水素製造装置(培養装置)の概略図である。(1) は培養槽、(2) は不活性ガス供給手段、(3) は加熱手段、(4) はガス導出手段(導出用の配管)である。(MFC) はマスフローコントローラー、(GC)はガスクロマトグラフ分析計である。 【0046】〈培地〉人工海水塩に酵母エキスとトリプトンとを各 0.5%(w/v) 加えた培地(MA培地)を基本とする次の培地を調製した。トリプトンは、タンパク質をトリプシンで部分加水分解したものである。マリンアートは、海水と同じ成分を含む塩類の混合物である。なお、以下の培地組成における各成分の含有量は「%(w/v) 」としてあるが、それを「%(w/w) 」で換算してもそれほどの数値の差はない。 【0047】(培地組成1a) ・0.39%(w/v) マリンアートSF(千寿製薬株式会社製)、規定量の 0.8倍希釈・0.5 %(w/v) 乾燥酵母エキス、微生物培地用特製(ナカライテスク株式会社製) ・0.5 %(w/v) トリプトン、微生物培地用特製(ナカライテスク株式会社製) ・0.5 %(w/v) ピルビン酸ナトリウム(ナカライテスク株式会社製)(残余は水、系のpHは 6.4) 【0048】(培地組成1b) ・0.39%(w/v) マリンアートSF(千寿製薬株式会社製)、規定量の 0.8倍希釈・0.5 %(w/v) 乾燥酵母エキス、微生物培地用特製(ナカライテスク株式会社製) ・0.5 %(w/v) トリプトン、微生物培地用特製(ナカライテスク株式会社製) ・0.5 %(w/v) 可溶性でんぷん(ナカライテスク株式会社製)(残余は水、系のpHは 7.0) 【0049】(培地組成2) ・0.39%(w/v) マリンアートSF(千寿製薬株式会社製)、規定量の 0.8倍希釈・0.5 %(w/v) 乾燥酵母エキス、微生物培地用特製(ナカライテスク株式会社製) ・0.5 %(w/v) トリプトン、微生物培地用特製(ナカライテスク株式会社製) ・0.5 %(w/v) マルトース水和物(ナカライテスク株式会社製) ・0.2 %(w/v) 硫黄(高圧蒸気滅菌処理後添加)(残余は水、系のpHは 6.4) 【0050】〈培養装置〉大陽東洋酸素株式会社製の嫌気性好熱菌培養装置TSF100−30型(培養槽の内容積:10リットル、加熱手段付き)を用いた。 【0051】〈高圧蒸気滅菌処理条件〉サンヨー電機株式会社製のラボ・オートクレーブMLS−3000型を用い、121℃、2atm 、30分の条件で滅菌処理した。 【0052】〈培養操作〉(準備)培地組成1aに示す培養液を、図1の培養装置の培養槽(1) に充填した。高圧蒸気滅菌処理(121℃、30分)後、培養液中の溶存酸素を低減するために、不活性ガス供給手段(2) から培養液中に窒素を20ml/minにて12時間通気した。窒素としては、超高純度窒素(Uグレード窒素純度 99.9999%以上、酸素含有量0.1 ppm(v/v) 未満、大陽東洋酸素株式会社製)を用いた。 【0053】(前培養操作)前培養は、内容積約100mlの密閉ガラス容器内に培地組成1aの培養液100mlを充填し、嫌気性超好熱菌 Thermococcus kodakaraensis KOD1を波長660nmの吸光度(absorbance)がOD660 = 0.1 になるように調整した本菌の懸濁水1mlを植菌し、85℃で20時間培養した。 【0054】(本培養操作)前培養した培養液100mlを、培地組成1aの組成の培養液が7リットル入った培養槽(1) 中に全量植菌して、前記超高純度窒素を500ml/minで20分間通気し、本培養を開始した。 【0055】なお、植菌の直前に、培養槽(1) 内を通過したガスの一部をガスクロマトグラフ分析計(GC−TCD熱伝導式検出器:GC−8A型 株式会社島津製作所製、GC−PID光イオン化式検出器:263−30型 株式会社日立製作所製)に送って、その成分を測定した。その結果、水蒸気を除くと、窒素のほかに約200ppm の酸素が検出された。 【0056】本培養は、不活性ガス供給手段(2) から超高純度窒素を100ml/minで通気させながら、加熱手段(3) により槽内温度が85℃になるようにして実施した。本培養の間、培養槽(1) 内を通過したガスは、定期的に上記と同様にして成分を測定した。 【0057】(結果)その結果、発生した水素濃度は、本培養開始後、約11時間で最大となって8%(v/v) を検出し、そのときの水素発生量は約10ml/minであることが確認された。また、ほぼ同時に検出した硫化水素は0.04%(v/v) であった。二酸化炭素も約8%(v/v) 検出し、残余は窒素であった。ここで、水素発生量の約10ml/min、二酸化炭素発生量の約8%(v/v) は25℃換算値であり、85℃ではそれぞれ約12ml/min、約10ml/minとなる。(整理すると、25℃換算では、窒素は100ml/minで約79%(v/v) 、水素は10%(v/v) 、二酸化炭素は8%(v/v) 、硫化水素は0.04%(v/v) 、水蒸気は3%(v/v) (25℃飽和時)である。) 【0058】実施例2実施例1の培養液組成のうち、ピルビン酸ナトリウムに替えて可溶性でんぷん(ナカライテスク株式会社製)を 0.5%(w/v) になるように添加した培地組成1bの培養液(前培養、本培養とも)を使用したほかは実施例1と同様にして、培養を行った。その結果、発生した水素は、本培養開始後、約22時間で最大濃度となって 7.3%(v/v) を検出し、ほぼ同時の測定で硫化水素はほとんど検出されなかった。二酸化炭素も約4%(v/v) 検出し、残余は窒素であった。 【0059】比較例1実施例1の培養液のみ培地組成2(前培養、本培養とも)に替え、その他は実施例1と同様にして培養を行った。その結果、発生した水素は、本培養開始後、約6時間で最大濃度となって 0.4%(v/v) を検出し、ほぼ同時に検出した硫化水素は約33%(v/v) であった。二酸化炭素も約21%(v/v) 検出し、残余は窒素であった。 【0060】比較例2比較例1において、嫌気性超好熱菌 Thermococcus kodakaraensis KOD1を植菌せずに培養を行った。その結果、水素および硫化水素の発生は認められなかった。二酸化炭素も検出されなかった。 【0061】(結果のまとめ)上記の実施例1〜2、比較例1〜2の条件および結果を、下記の表1にまとめて示す。 【0062】 【表1】 実施例 比較例 1 2 1 2 前培養 組成1a 組成1b 組成2 組成2 本培養 組成1a 組成1b 組成2 組成2 嫌気性超好熱菌 KOD1 KOD1 KOD1 - 最大H2濃度までの 11 22 6 - 時間(hr) H2発生量(ml/min) 10 7.3 0.7 0 H2濃度(%(v/v)) 10 8 0.4 0 H2S 濃度(%(v/v)) 0.04 0 33 0 CO2 濃度(%(v/v)) 8 4 21 0 【0063】上記の結果から、実施例においては、水素が効率良く発生し、しかも硫化水素の発生が充分に抑制されていることがわかる。 【0064】 【発明の効果】作用の項で述べたように、本発明においては、次のようなすぐれた効果が奏される。 1.原料を化石燃料に依存することなく、効率良く水素を発生させることができる。 2.培養温度(最適生育温度)が85℃前後であるので、培養時に他の菌の繁殖による汚染を回避することができ、目的の好熱菌のみを増殖させることができる。そして高温(約300℃以上)を要しないので、加熱に要するエネルギーコストが削減できる上、反応装置の材質を当該温度領域で常用されている安価で腐食を防げる樹脂等を選択することが可能となる。 3.培養温度はたとえば85℃前後であるので、不溶性でんぷんを用いた場合でも培養と同時に可溶化できる利点がある。 4.光照射を必要としないので、光照射に必要な設備を削減し簡素化できるのみならず、光照射部に発生付着する有機物等によって光が吸収されたり遮断されたりして、著しく水素の発生効率が低下する危険性を回避できる。 5.培養に際し硫化水素がほとんど発生しないので、硫化水素の除去は簡単な除害装置で足り、硫化水素による腐食や環境汚染等の問題を生ずることがない。
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| 【出願人】 |
【識別番号】595122372 【氏名又は名称】今中 忠行 【識別番号】000208167 【氏名又は名称】大陽東洋酸素株式会社
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| 【出願日】 |
平成13年10月5日(2001.10.5) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100087882 【弁理士】 【氏名又は名称】大石 征郎
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| 【公開番号】 |
特開2003−116589(P2003−116589A) |
| 【公開日】 |
平成15年4月22日(2003.4.22) |
| 【出願番号】 |
特願2001−309918(P2001−309918) |
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