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【発明の名称】 ポリ塩化ビフェニルの処理方法
【発明者】 【氏名】冷水 真
【住所又は居所】東京都中央区日本橋室町4−4−10 日興リカ株式会社内

【氏名】高田 祐之
【住所又は居所】東京都中央区日本橋室町4−4−10 日興リカ株式会社内

【要約】 【課題】反応温度が100℃以下、反応圧力が1MPa以下の条件で、ポリ塩化ビフェニルの無害化処理が可能な触媒水素還元法を提供する。

【解決手段】ポリ塩化ビフェニルをメタノールを主体とするアルコール中に分散させ、スポンジニッケル触媒及びアルカリの存在下に水素と反応させるポリ塩化ビフェニルの処理方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリ塩化ビフェニルをメタノールを主体とするアルコール中に分散させ、スポンジニッケル触媒及びアルカリの存在下に水素と反応させることを特徴とするポリ塩化ビフェニルの処理方法。
【請求項2】 アルコールが、水分含量5重量%以下であり、メタノール単独、若しくはメタノールと他の1種または2種以上のアルコールとの混合溶媒であることを特徴とする請求項1に記載のポリ塩化ビフェニルの処理方法。
【請求項3】 活性成分として、ニッケル元素単独若しくはニッケル元素に、モリブデン、クロム、鉄、コバルト、マンガンの1種または2種以上をニッケルに対して10重量%以下の割合で添加し、ニッケル合金として活性化されたものを含有するスポンジニッケル触媒を使用することを特徴とする請求項1または2に記載のポリ塩化ビフェニルの処理方法。
【請求項4】 ポリ塩化ビフェニルを水素化反応させる際に、生成するビフェニル化合物をフェニルシクロヘキサンとして回収することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のポリ塩化ビフェニルの処理方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は有害物質「ポリ塩化ビフェニル」(以下PCBと略称する)を無害化処理する技術に関するものである。更に詳しくは、本発明はその技術の一つであるスポンジニッケル触媒を用いる「触媒水素還元法」を改良した処理技術に関する。
【0002】
【従来の技術】PCBの無害化処理の問題について、我が国に於いては「PCB廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」が制定され、環境保全の最重要課題となっている。無害化処理技術についても、燃焼法以外に、現在13の化学処理技術が国より評価され、認定を受けている。スポンジニッケル触媒を用いる「触媒水素還元法」もその一つである。触媒水素還元法はPCBをスポンジニッケル触媒によって水素ガス、苛性ソーダの存在下、水素化脱塩素して無害なビフェニル化合物と食塩水に分解する処理技術であり、下記(化1)で示される反応式で進行する。
【0003】
【化1】

[(m+n)は2〜10の整数]【0004】上記反応式において、PCB中の塩素は触媒作用により、水素と反応して塩化水素として脱塩素され、生成した塩化水素は苛性ソーダにより、直ちに中和され塩化ナトリウムと水に変化する。また、同時にビフェニル核も一部水素化され、ビフェニル、フェニルシクロヘキサン、ビシクロヘキシル等の混合物として生成する。反応は通常150〜250℃の高温下、密閉装置内で行われ、処理するPCB濃度によっては多量の触媒を必要とする場合がある。
【0005】スポンジニッケル触媒によるPCBの無害化処理技術については特公昭56−42567号公報、特公平7―10995号公報により有効性が確かめられている。例えば、特公昭56−42567号公報ではアルカリ水溶液中にPCBを分散させ、スポンジニッケル触媒の存在下、150℃、5MPaの高温高圧下で、水素化、脱塩素を行う方法が提案されている。しかし、水溶液中の反応では、触媒表面のPCBの会合性が阻害されるため、反応を完結させることが困難である。即ち、国が定める残存PCB濃度0.5ppm以下まで水素化、脱塩素するためには、更なる高温、高圧、長時間の反応を必要とする。また、PCBの分散剤としてアルコールを添加することが同時に提案されているが、反応の主体が水分散系で行われる範囲では、本質的な解決策とならず、工業的に不利であった。
【0006】また、特公平7―10995号公報の方法では、水溶媒の替りに炭化水素系の溶媒中で反応が行われている。炭化水素系の溶媒使用の利点として、触媒表面でのPCBの会合性が向上し、反応の完結が容易となるが、他方、副生する食塩が炭化水素系溶媒に溶解しないため、触媒の表面に付着し、触媒活性が阻害される原因となる。また炭化水素溶媒においても反応温度は200℃以上の高温を必要とし、この場合は、触媒の耐久性が著しく低下する。従って、何れの方法でも最適な触媒活性を維持するために、多量の触媒を使用せざるを得ない。また、高温若しくは高圧、高温高圧の設備が必要となり、従って、設備投資の面で大きな負担が生じるため得策ではない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】以上述べたように、スポンジニッケル触媒を用いる水素還元法についての従来の技術では、反応条件が厳しく、工業的に実施する場合、設備面及び処理コストの面で実用上不利である。特に反応温度が150〜250℃と高温であるため、触媒活性に著しく悪影響を与えている。本発明は反応温度が100℃以下、反応圧力が1MPa以下の比較的緩和された条件で、無害化処理が可能な触媒水素還元法を提供することを課題とする。また他の課題は、無害化処理反応の副生物をフェニルシクロヘキサンとして回収することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決すべく、スポンジニッケル触媒を用いる触媒水素還元法について種々研究を重ねた結果、反応溶媒及び触媒を適切に選択することによって、100℃以下の反応温度で、且つ、1MPa以下の圧力で、容易に水素化、脱塩素をなし得る処理技術を見出した。即ち、本発明は、ポリ塩化ビフェニルをメタノールを主体とするアルコール中に分散させ、スポンジニッケル触媒及びアルカリの存在下に水素と反応させることを特徴とするポリ塩化ビフェニルの処理方法である。本発明においては、溶媒としてメタノールを主体とするアルコールを使用することにより、55〜85℃で触媒反応が容易に進行し、短時間で、反応はほぼ100%完結する。また、反応時の水素圧力も1MPa以下である。反応生成物はPCBの水素化、脱塩素により生成するフェニルシクロヘキサン(微量ビシクロヘキシルを含む)と食塩水のみであり、ターフェニル化合物等に由来する重合物は殆ど生成しない。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明においては、メタノールを主体とするアルコールを使用するが、これは、メタノールを好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上含有するものである。また、水分含量が5重量%以下であることが必要である。アルコール中の水分は触媒表面において、PCBとの接触(会合性)を阻害するため、好ましくない。水分量は少なければ少ないほどよいが、水分含量0のものは高価であるから実用的でない。通常、5重量%以下であれば反応に影響しない。本発明における、メタノールを主体とするアルコールは、メタノール単独若しくはメタノールと他のアルコール、例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチルプロパノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、4−メチル−1−ペンタノール、2−エチルブタノール、1−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチルヘキサノール、1−ノナノール、1−デカノール、シクロヘキサノール、2−メチルヘキサノール、エチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等の1種または2種以上との混合溶媒として使用することができる。メタノールを主体とするアルコール中におけるPCBの処理濃度はメタノールを主体とするアルコールに対するPCBの溶解度で決定される。通常30重量%以下であり、好ましくは5〜25重量%の範囲である。本発明で処理されるPCBは前記反応式(化1)における一般式で示されるPCBの何れもが処理可能である。例えば、統一商品名カネクロールで称されるKC−300(三塩化物)、KC−500(五塩化物)、KC−600(六塩化物)、KC−1000(三塩化物〜六塩化物の混合物)のいずれにも、本発明の処理方法が適用し得る。
【0010】本発明において、触媒と共に使用されるアルカリはPCBの水素化、脱塩素により発生するHClを中和して塩を形成するものであれば何れでもよく、通常苛性ソーダ、苛性カリ、水酸化カルシウム等が有効である。使用されるアルカリ量はPCB中に含まれる塩素の1.0〜1.1モル倍以下である。アルカリは中和剤であり、過剰に使用する必要はない。
【0011】本発明において用いられるスポンジニッケル触媒は水素化、脱塩素用触媒として、特に低温で高活性を示すよう調製されたものが好ましく、例えば、このような触媒には、日興リカ(株)製のスポンジニッケル触媒(商品名:R−239C)が挙げられる。スポンジニッケル触媒は別称ラネー触媒と言われ、アルミニウムのようなアルカリに可溶な金属とニッケル、コバルト等のアルカリに不溶な金属との合金を鋳造し、機械粉砕又はガスアトマイズ、遠心アトマイズにより適当な粒度の粉末に成形し、苛性ソーダ水溶液中でアルミニウムを溶出させて(溶出操作を展開と称す)調製したものである。通常、アルミニウム50〜60重量%、ニッケル40〜50重量%の合金組成のものであるが、触媒活性に選択性、耐久性を付与するために、モリブデン、クロム、鉄、マンガン等の第三成分、第四成分元素を微量添加する場合がある。成分元素の組み合わせ、添加割合は目的とする反応機構により経験的に決められているが、PCBの水素化、脱塩素反応においてもニッケル単独のみならず、上記の他の元素の存在が有効であることが知られている。従って、本発明においては、市販の全ての水素化、脱塩素反応用のスポンジニッケル触媒が使用可能である。
【0012】本発明におけるスポンジニッケル触媒の使用濃度はメタノールを主体とするアルコールに対し、1重量%〜30重量%が好ましい。この理由は、1重量%未満では触媒効果が不十分であり、30重量%を超えて使用しても効果は変わらず経済的でないからである。
【0013】次に、本発明のPCBの処理方法について説明する。本発明の触媒水素還元法は、通常、化学工業の分野で一般的に行われている水素化反応の方法と同様に、回分式、連続式のいずれの反応形式でも使用することができる。以下、アルコールとしてメタノールのみを使用した、回分式の例で説明する。攪拌機付反応装置(オートクレーブ)にPCB、メタノール、苛性ソーダ、スポンジニッケル触媒を仕込み、水素ガスを、反応時に1MPa以下の圧力となるような量封入し(反応圧は通常水素の圧力により調節される)、55〜85℃に加熱攪拌し、1〜3時間反応させる。反応の進行状態は反応液中のPCB濃度を電子捕獲型検出器付ガスクロマトグラフィ(以下GC/ECDと略記する)により測定し検知する。反応液中のPCB濃度が0.5ppm以下となった時点を反応終了とする。
【0014】反応終了後、触媒を濾別し、濾液を蒸留機にかけ、メタノール、フェニルシクロヘキサン(微量ビシクロヘキシルを含む)を各々蒸留、回収する。メタノールは反応溶媒として、そのまま再利用される。フェニルシクロヘキサンの生成率はガスクロマトグラフィ(FID内蔵)で測定し確認することができるが、ほぼ90重量%以上である。フェニルシクロヘキサンはPCBの脱塩素により生成するビフェニルが、更に、水素化されて生成する中間体化合物であり、化学工業材料として有用である。また、濾別した触媒は水洗後、再生して触媒として再利用される。なお、脱塩素化により生成した食塩は蒸留釜残として回収使用されるため、本発明の処理方法では2次的な廃棄物がほとんど発生せず、環境保全及び経済性の面で極めて有利な方法である。
【0015】
【実施例】本発明を更に、詳しく説明するために以下に実施例を掲げるが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[実施例1]電磁攪拌機付500cc容ステンレス(SUS316)製オートクレーブにPCBとして、KC−300[鐘淵化学(株)製PCBの商品名、平均塩素数3]20g及びメタノール180g(水分含有量0.5重量%;PCB濃度10重量%溶液)を入れ、次いで苛性ソーダ10.2g、スポンジニッケル触媒[日興リカ(株)製商品名R・200P、ニッケル単独品]20gを仕込み、装置内の空間部を水素ガスで完全に置換した後、水素ガス圧0.5〜0.9MPa、内部温度75〜85℃に保って3時間、よく攪拌しながら反応を行った。反応終了後、オートクレーブから内容物を取り出し、触媒を濾別し、反応液中の残存PCBの含有量をGC/ECDで測定した。その結果、反応液中の残存PCB濃度は0.02ppmであり、反応前のPCB濃度10万ppmに対し、ほぼ完全に水素化脱塩素されていることが確認された。また、反応液中のフェニルシクロヘキサンの生成率はガスクロマトグラフィによる分析により、95重量%であることが確認された。
【0016】[実施例2]PCBとしてKC−500[鐘淵化学(株)製PCBの商品名、平均塩素数5]10g及び、メタノール190g(水分含有量0.5重量%;PCB濃度5重量%溶液)、苛性ソーダ6.7g、スポンジニッケル触媒(前出)10gを500cc容オートクレーブに仕込み、実施例1と同じ反応条件で水素化脱塩素反応を行った。反応終了後、反応液中の残存PCB濃度をGC/ECDで測定した結果、0.05ppmであり反応前(5万ppm)に対し、ほぼ完全に除去されていることが確認された。
【0017】[実施例3]実施例1におけるスポンジニッケル触媒(ニッケル単独触媒)の代わりに、ニッケルにモリブデン元素を5重量%添加した触媒[日興リカ(株)製商品名R−239P]、ニッケルにクロム元素を5重量%添加した触媒[日興リカ(株)製商品名R−240P]について、それぞれ、実施例1と同一条件で水素化脱塩素反応を行い、触媒活性を比較した。いずれの触媒においてもPCBは、ほぼ完全に分解除去され、有効であることが確認されたが、特にモリブデン元素5重量%を添加したスポンジニッケル触媒が優れた活性を示していた。PCBの脱塩素に対するモリブデン元素の効果のメカニズムは不明であるが、反応が強アルカリ性の溶液で行われているため、モリブデンの添加により、スポンジニッケル触媒の耐久性が向上するためと推測される。各触媒を使用し、KC−300を対象とした処理反応における残存PCBの値を表1に示した。
【0018】
【表1】

【0019】[実施例4]実施例1におけるPCBの反応溶媒のメタノール単独を、メタノールと、エタノール、2−プロパノール、1−オクタノール、1,4−ブタンジオールのそれぞれとの混合溶媒に置き替えた他は、全て実施例1と同じ条件で効果を比較した。その結果、本発明の方法においては、反応溶媒は、触媒表面のPCB及び水素分子の会合性、アルカリ及び無機塩の溶解度などに大きな影響を及ぼすファクターであることが解った。即ち、メタノールと他のアルコールの混合割合を2:1として用いた場合の反応性の比較を行ったが、いずれの溶媒でも有効であることが確認された(メタノールと上記4種類のアルコールとの各混合溶媒の水分含量は全て0.6〜0.7重量%の範囲内であった)。しかし、KC−300を対象とした本発明の処理方法では、メタノール単独使用の場合が、最も結果良好で、アルコールの分子量が大きくなるに従って、反応性が低下する傾向がみられた。上記各溶媒を使用し、KC−300を対象とした本発明の処理反応における残存PCBの値を表2に示した。
【0020】
【表2】

【0021】
【発明の効果】本発明のPCBの処理方法によれば、PCBを低温、低圧のマイルドな条件で、且つ短時間で処理することが可能であり、経済性、工業化の面で極めて有用である。また、本発明の方法によれば、二次的な廃棄物が殆ど発生せず、反応生成物として得られるフェニルシクロヘキサンは有用な化学工業材料として回収、再利用されるため、環境保全及び資源の有効利用の観点から、産業上優れた実用性を有するものである。
【出願人】 【識別番号】591180130
【氏名又は名称】日興リカ株式会社
【住所又は居所】東京都中央区日本橋室町4丁目4番10号
【識別番号】390016078
【氏名又は名称】昭和エンジニアリング株式会社
【住所又は居所】東京都港区芝浦3丁目17番12号
【識別番号】591008823
【氏名又は名称】株式会社カナエ
【住所又は居所】東京都港区浜松町2丁目10番2号
【出願日】 平成13年12月6日(2001.12.6)
【代理人】 【識別番号】100093735
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 鐘司 (外2名)
【公開番号】 特開2003−171319(P2003−171319A)
【公開日】 平成15年6月20日(2003.6.20)
【出願番号】 特願2001−372380(P2001−372380)