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【発明の名称】 炭化ホウ素の製造方法
【発明者】 【氏名】新原 皓一
【氏名】楠瀬 尚史
【氏名】世登 裕明
【課題】従来の加熱還元法やCVD法による炭化ホウ素の製造では、不純物が混在し、収率も低く、結晶化度や粒径を制御したもの、不純物をドーピングしたもの、ナノ粒子、ナノ複合材料などが安価で容易に得られない。

【解決手段】
【特許請求の範囲】
【請求項1】 炭素源としての糖類とホウ素源としてのホウ酸または酸化ホウ素を溶媒中に溶解した後、該溶媒を除去して炭素源とホウ素源の混合粉末を形成し、該粉体を200℃〜1100℃で加熱反応させてB−O−Cの結合体からなる非晶質体を生成させ、続いてこの前駆体を1300℃以上で加熱することによってB4C結晶体を得ることを特徴とする炭化ホウ素の製造方法。
【請求項2】 溶媒の除去を乾燥により行い、粉体の200℃〜1100℃での加熱を、最初に200〜600℃の温度範囲で一定時間加熱し、次いで、600〜1100℃に昇温して加熱する二段階加熱とすることを特徴とする請求項1記載の炭化ホウ素の製造方法。
【請求項3】 溶媒の除去を噴霧熱分解法により行い、次いで、粉体を600〜1100℃で加熱反応させてB−O−Cの結合体からなる非晶質体を生成させることを特徴とする請求項1記載の炭化ホウ素の製造方法。
【請求項4】 1300℃以上での加熱温度により炭化ホウ素の結晶化度を制御することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の炭化ホウ素の製造方法。
【請求項5】 溶媒中にセラミックス粒子を混合することにより炭化ホウ素と該セラミックス粒子の複合体を形成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の炭化ホウ素の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、非晶質前駆体を用いて低温合成によって炭化ホウ素(B4C)を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】炭化ホウ素は、工業的にはB23とCの混合物を電気炉で2800℃に強熱して作る方法が用いられている。B23とCとの加熱還元反応(2B23 +7C→B4C+6CO)には、1500℃以上が必要であるが、B23は、1400℃で気化するなどのため、耐超高温の耐圧容器が必要となる。
【0003】ホウ酸、酸化ホウ素、またはそれらの混合物を、マグネシウム、カルシウムまたはそれらの混合物および炭素もしくは炭素源物質を用いて還元炭化(2B23+C+6Mg→B4C+6MgO)する方法も知られている(特公昭63−58767号公報、特公昭63−58768号公報、特公平3−72569号公報、特公平3−72570号公報)が、この方法では、得られた粗B4Cを粉砕し、酸で浸出して金属不純物を除去して微粉末とする必要がある。
【0004】また、ホウ酸−グリセリン縮合物前駆体をアルゴン中で1300℃以上で加熱することにより炭化ホウ素を主成分とするグラファイトを伴う生成物が得られることが報告されている(窯業協会誌94[1]1986,71〜75頁)。
【0005】最近、須藤らはグルコース(C6126 :分子量180)とホウ酸を蒸留水に溶解し、200℃で2.5h加熱した後に微粉砕して有機ホウ酸錯体からなる前駆体とし、これをAr雰囲気中で加熱すると1300〜1350℃でB4Cの生成が始まり、1350℃を越えると反応が急速に進行することを報告している(日本分析化学協会北海道支部2002年冬季研究発表会講演要旨集85頁)が、報告中で、合成されたB4Cはマトリックスの炭素との混合物であり、B4C結晶の分離が今後の課題であるとされている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】B4Cは、ダイアモンドに次ぐ硬度を有すること、中性子遮断性を有することなどから、耐摩耗材、原子炉材などとして使用されている。さらに、B4Cは、その半導体的特性、著しく大きいゼーベック係数、特異な結晶構造などから、熱電変換材料、二次電池用負極材料への応用展開なども期待される。
【0007】ところが、B4Cの合成については、従来、工業的に採用されている方法は、炭化ホウ素とカーボンからの超高温(1500℃以上)密閉系(高圧)反応か、1700℃以上を必要とするCVD法であり、これらの方法では、不純物が混在し、収率も低く、結晶化度や粒径を制御したもの、不純物をドーピングしたもの、ナノ粒子、ナノ複合材料などが安価で容易に得られない。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、粒子状糖類とホウ酸原料を、水などの溶媒に溶解して分子混合させた後、溶媒を除去して分子オーダーで混合された粉体とし、この粉体を200℃〜1100℃で加熱し、B4C非晶質前駆体とし、次いで、1300℃以上で加熱することによって酸化ホウ素の生成が抑制され、不純物含有量の非常に少ないB4C結晶体を得るものである。
【0009】すなわち、本発明は、炭素源としての糖類とホウ素源としてのホウ酸または酸化ホウ素を溶媒中に溶解した後、該溶媒を除去して炭素源とホウ素源の混合粉末を形成し、該粉体を200℃〜1100℃で加熱反応させてB−O−Cの結合体からなる非晶質体を生成させ、続いてこの前駆体を1300℃以上で加熱することによってB4C結晶体を得ることを特徴とする炭化ホウ素の製造方法である。
【0010】また、本発明は、溶媒の除去を乾燥により行い、粉体の200℃〜1100℃での加熱を、最初に200〜600℃の温度範囲で一定時間加熱し、次いで、600〜1100℃に昇温して加熱する二段階加熱とすることを特徴とする上記の炭化ホウ素の製造方法である。
【0011】また、本発明は、溶媒の除去を噴霧熱分解法により行い、次いで、粉体を600〜1100℃で加熱加熱反応させてB−O−Cの結合体からなる非晶質体を生成させ、続いてこの前駆体を1300℃以上で加熱することによってB4C結晶体を得ることを特徴とする炭化ホウ素の製造方法である。
【0012】また、本発明は、1300℃以上での加熱温度により炭化ホウ素の結晶化度を制御することを特徴とする上記の炭化ホウ素の製造方法である。また、本発明は、溶媒中にセラミックス粒子を混合することにより炭化ホウ素と該セラミックス粒子の複合体を形成することを特徴とする上記の炭化ホウ素の製造方法である。
【0013】本発明の方法は、従来の高温での酸化ホウ素の反応を含まないため、開放系での反応が可能であり、高純度のB4Cが高収率で安価に得られる利点がある。さらに、混合粉末の形成に噴霧乾燥や噴霧熱分解法などの手段を用いることによって、ナノ粒子を得ることができる。また、異種粒子の存在下で混合粉末を形成することによりB4Cの複合粒子を得ることもできる。
【0014】本発明の方法により、従来からの対摩耗部材などの構造材として用いられるB4Cを製造することができる。さらに、高い熱電性能を有するp型およびn型B4C熱電材料を合成するために種々の不純物をドーピングしたB4C粒子の製造も可能である。
【0015】また、B4C中の12個のホウ素原子からなる正20面体はその中に大きな空洞を持ち、その空洞はLiの貯蔵に適するので電池のLiを貯蔵する負極活物質として期待されているが、これに適するB4C粉体を安価に提供することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の方法を詳しく説明する。まず、糖類とホウ酸原料を水などの溶媒に溶解して分子混合させる。市販の糖類およびホウ酸原料は通常、ミリ単位の大きさの粒状である。
【0017】炭素源となる糖類は、式Cx(H2O)yで表される炭水化物である。但し、B4C非晶質前駆体を形成するための仮焼温度の200℃以上で、蒸発、分解しないことが必要である。また、水、アルコールなどの溶剤に溶解することが必要である。好適な糖は、例えば、スクロース(ショ糖)、グルコース、フルクトースなどである。スクロースは分子量が342と大きく、蒸発温度が高いため、B−O−C結合が生成する温度まで糖類が残存できるので特に好ましい。ちなみに、糖類ではないがクエン酸(分子量192.13)では、同条件でもB4Cの生成はほとんど認められない。通常の炭素源とホウ酸を混ぜた原料を使用する方法では、CとBの反応の開始温度に到達する前にホウ酸が蒸発してしまうが、糖類によりB−O−C非晶質体を形成すると高温までB源が保持され、高温加熱により転移を起こしてOまたはCOが放出されると考えられる。
【0018】ホウ素源となるホウ酸については、正ホウ酸以外のメタホウ酸、ピロホウ酸、無水ホウ酸を出発原料としてもよい。溶剤中で、ホウ酸B(OH)3になればよい。溶媒については水が好ましいが、反応系が溶液状になるような溶剤系であればよい。アルコールは後の溶剤の除去工程における制御が容易になる。
【0019】糖類とホウ酸の混合比率は、糖類の炭素原子(C)と、ホウ酸のB原子の比率に基づいて決める。例えば、スクロース(C122211)の中にはCが12個入っているのでB4Cを合成するためには、B:C=1:0.25(原子比)、つまり、ホウ酸:スクロース=1:0.02(モル比)となる。しかし、全てのCが反応に関与する訳でなく、COガスとして気化する分もあるので、糖類を過剰にする必要がある。しかしながら、過剰なC成分は未反応物として生成物中に残るので、できるだけ過剰量を少なくする必要がある。
【0020】原料を溶媒中で十分に分子混合した後、溶媒を除去し、分子混合した粉体を生成する。溶媒の除去には噴霧乾燥、超音波噴霧乾燥、凍結乾燥など通常の乾燥方法を採用できる。これらの方法で急速に乾燥を行う方が、B源とC源が均一混合したものが得られやすい。また、噴霧熱分解法を用いても良い。噴霧乾燥は溶液またはスラリー状のものを霧にし、溶媒のみを熱的に除去するものであるが、噴霧熱分解法はその霧をさらに高い温度で熱分解するものである。噴霧熱分解法によれば、より小さな粒子が得られる。 【0021】溶媒中にマトリックスとなるセラミックス粒子を同時に混合すると異種粒子とB4C系複合粒子を製造することができる。さらに、不純物のドーピングを行うために、溶媒に不純物成分を同時に溶かし込むことができる。
【0022】次に、得られた粉末を大気中または不活性雰囲気中で200℃〜1100℃に加熱し、B源とC源を反応させる。この仮焼により、B(OH)3のBへ炭素源の−C−O:が配位し、B−O−Cの結合体からなる非晶質体を生成させる。加熱温度が1100℃を超えると非晶質のB−O−CではなくB4Cの結晶化が始まる。また、200℃未満では反応が速やかに進行しない。反応を十分に進行させる点からは、より好ましい加熱温度は300〜800℃である。このように、B−O−Cの結合体からなる非晶質体を生成させる工程を経ることにより1300℃以上での加熱によりB4Cの結晶化をする際のB23の生成が抑制される。
【0023】最初に200〜600℃の温度範囲で一定時間加熱し、次いで、600〜1100℃に昇温して加熱する二段階加熱が、B−O−Cの結合体からなる非晶質体を生成させるのに好ましい。600〜1100℃の一段階で加熱反応させると、B−O−Cの結合が少なく、B23 が残ってしまい、それが高温で蒸発するため収率が低下してしまう。ただし、噴霧熱分解法を使用した場合は、一段階目の加熱処理は不要である。加熱雰囲気は大気中またはAr,N2 ,H2などの不活性雰囲気中で可能である。大気雰囲気で行うとC源が燃焼することを考慮して原料比率を決める必要がある。
【0024】次に、B−O−Cの結合体からなる非晶質体粉末をさらに、不活性雰囲気中で1300℃以上で加熱反応させる。この加熱によりB−O−CがB−C−Oに転移し、さらにOが分解離脱することによりB4Cが生成する。また、非晶質体粉末に混入したB23 は気化する。1300℃未満ではB4Cの結晶化が進行しない。上限温度は特に限定されないが、あまり高い温度に加熱すると粒成長が起こって微粒子の作製には不適当となるので好ましくは1800℃程度とする。より好ましい加熱温度範囲は1400℃〜1600℃程度である。 【0025】上記の1300℃〜1800℃での加熱において、加熱温度の変化により、組成、結合様式(B−C結合:共有結合+C−O,B−O結合:イオン結合)、結晶化度の制御が可能であるから、加熱条件を変化させて、粒径、組成、結晶化度の異なるB4C粉末を合成できる。
【0026】
【実施例】実施例1スクロース(C122211:分子量342)とホウ酸を1:0.166のモル比で、溶媒(水)に完全溶解させた。そして、この水溶液を凍結乾燥機を用いて溶媒を除去して急速乾燥させた。できた混合物を大気中500℃で20時間、続いてアルゴン雰囲気中800℃で10時間加熱処理した。得られた前駆体はX線、元素分析から、B−O−C非晶質体であることを確認した。
【0027】続いて、前駆体を粉砕後さらに温度を上げ1500℃で2時間加熱処理した。生成物をTEM観察したところ、図2にTEM像で示されるように、B4が合成できていることが確認された。B4C以外の不純物は、微量の炭素であった。このようにして合成されたB4Cの粒径は0.05〜5μm程度であった。図1に原料(上)、前駆体(中)、合成されたB4C(下)のXRDパターンを示す。仮焼プロセスを加えることにより不純物ピーク(B)が大幅に減少することが分かる。
【0028】実施例2実施例1と同じ水溶液にSiC粉末を加えボールミル混合を行った。ボールミル混合後のスラリーを凍結乾燥し、アルゴン雰囲気中500℃で20時間、続いて800℃で10時間、さらに1500℃で2時間加熱処理した。生成物をTEM観察したところ、図3にTEM像で示されるように、B4C−SiC複合粉末が合成できていることが確認された。この場合も、B4C以外の不純物は、微量の炭素であった。
【0029】
【発明の効果】本発明の方法によれば、炭素源として糖類を用いてB−O−C非晶質前駆体を形成し、これを従来の方法より低温で加熱反応させることにより炭化ホウ素をほとんど不純物を伴わないで合成でき、各種用途に高品質のB4Cを安価で容易な作製方法により提供することができる。
【出願人】 【識別番号】396020800
【氏名又は名称】科学技術振興事業団
【出願日】 平成14年3月22日(2002.3.22)
【代理人】 【識別番号】100108671
【弁理士】
【氏名又は名称】西 義之
【公開番号】 特開2003−277039(P2003−277039A)
【公開日】 平成15年10月2日(2003.10.2)
【出願番号】 特願2002−82176(P2002−82176)