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【発明の名称】 析出強化型銅合金トロリ線およびその製造方法
【発明者】 【氏名】本田 照一
【住所又は居所】兵庫県尼崎市東向島西之町8番地 三菱電線工業株式会社内

【氏名】細川 浩一
【住所又は居所】兵庫県伊丹市池尻4丁目3番地 三菱電線工業株式会社伊丹製作所内

【氏名】鈴木 清司
【住所又は居所】兵庫県尼崎市東向島西之町8番地 三菱電線工業株式会社内

【要約】 【課題】長手方向に均一な導電率を有する長尺の析出強化型銅合金トロリ線およびその製造方法を提供すること。

【解決手段】少なくとも、(A)溶体化処理工程、(B)冷間加工工程、(C)時効熱処理工程を有しており、(C)時効熱処理工程が30〜100℃/時間の昇温速度の昇温過程1を有し、好ましくは当該(C)工程が30〜100℃/時間の冷却速度の冷却過程2をさらに有することを特徴とする析出強化型銅合金トロリ線の製造方法、および当該方法により得られる析出強化型銅合金トロリ線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも、溶体化処理工程、冷間加工工程、時効熱処理工程を有しており、該時効熱処理工程が30〜100℃/時間の昇温速度の昇温過程を有することを特徴とする、析出強化型銅合金トロリ線の製造方法。
【請求項2】 上記時効熱処理工程が30〜100℃/時間の冷却速度の冷却過程をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の析出強化型銅合金トロリ線の製造方法。
【請求項3】 請求項1または2のいずれかに記載の方法により製造される析出強化型銅合金トロリ線。
【請求項4】 Crを0.1〜0.5wt%、Zrを0.01〜0.2wt%、Siを0.01〜0.05wt%含有し、残部が銅および不可避不純物からなる、請求項3に記載の析出強化型銅合金トロリ線。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は析出強化型銅合金トロリ線およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】トロリ線は、電車の架線の最下部に設置され、パンタグラフと接触して電車に電力を送る電線である。近年の新幹線の高速化や、トロリ線の耐摩耗性向上による長寿命化の要求に対応するために、トロリ線はさらに高強度で導電率が高いことが要求されている。そのような要求を満たすトロリ線として、時効性銅合金(析出強化型の銅合金)からなるトロリ線(以下、「析出強化型銅合金トロリ線」または単に「トロリ線」という)が提案されている(特開平7−266939号公報参照)。
【0003】析出強化型銅合金トロリ線は、原料(銅母材と添加元素等)から溶融、鍛造、圧延、押出し等によって得た荒引線を、少なくとも(A)溶体化処理工程、(B)冷間加工工程、(C)時効熱処理工程の3工程を経て得られるトロリ線である(図1参照)。(A)工程は、銅母材中に添加した元素(Zr、Cr、Si等)を均一に固溶させるために、高温(800〜1050℃程度)で熱処理した後、水などへ投入して急冷する工程である。(B)工程は、室温程度にまで冷却した荒引線にダイス伸線やロール圧延等の加工を施す工程である。(C)工程は、(B)工程の後、再び熱処理により(A)工程で銅母材中に固溶させた添加元素を析出させて、引張り強さや導電率を向上させる工程である。
【0004】析出強化型銅合金トロリ線は、上記(C)工程において(A)工程で固溶させた合金元素を析出させることによって、強度と導電性とを向上させることを意図したトロリ線である。しかし、該トロリ線には、以下のような未解決の課題を有するのが現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】当該課題とは、上記の方法によって例えば1500m以上の長尺のトロリ線を製造した場合に、導電率が長手方向に均一にならないことである。このように、導電率が長手方向にわたり不均一であると、電車への送電が不安定になるという点で好ましくない。
【0006】本発明は、長手方向に均一な導電率を有する長尺の析出強化型銅合金トロリ線およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、導電率の不均一の原因を詳細に検討した。その結果、長尺のトロリ線を製造する場合には、上記(C)工程での、加熱、冷却条件が長手方向にわたり不均一になり易い、つまり、長尺である場合にはドラムに巻きつけられた位置(ドラムの上下・内外)によって温度が不均一になり易いことを見出し、さらに、当該温度が不均一であることとトロリ線の導電率が不均一になることとの相関を見出して、本発明を完成した。
【0008】すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
(1)少なくとも、溶体化処理工程、冷間加工工程、時効熱処理工程を有しており、該時効熱処理工程が30〜100℃/時間の昇温速度の昇温過程を有することを特徴とする、析出強化型銅合金トロリ線の製造方法。
(2) 上記時効熱処理工程が30〜100℃/時間の冷却速度の冷却過程をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の析出強化型銅合金トロリ線の製造方法。
(3)(1)または(2)のいずれかに記載の方法により製造される析出強化型銅合金トロリ線。
(4)Crを0.1〜0.5wt%、Zrを0.01〜0.2wt%、Siを0.01〜0.05wt%含有し、残部が銅および不可避不純物からなる、(3)に記載の析出強化型銅合金トロリ線。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明のトロリ線の製造方法を説明する。トロリ線の製造における加工熱処理工程の推移の一例を図2に示す。
【0010】本発明において、析出強化型銅合金トロリ線(または、単に「トロリ線」)とは、銅母材にCrやZrやSiなどの析出型添加元素を加え、少なくとも上述の(A)〜(C)の工程を経たトロリ線を意味する。当該トロリ線の製造方法は、上記(B)工程のみを経る、従来の純銅や固溶強化型銅合金(Sn入り銅合金等)に対し、(A)、(C)工程をさらに加えるといった工程の複雑さがあるが、より高強度で高い導電率を保持したトロリ線を得ることができる方法である。
【0011】本発明に係るトロリ線は、少なくともCuに、Cr、Zr、Siを含む銅である。強度と導電性のバランスの観点から、Crの含有量は好ましくは0.1〜0.5wt%、より好ましくは0.25〜0.45wt%であり、Zrの含有量は好ましくは0.01〜0.2wt%、より好ましくは0.05〜0.15wt%であり、Siの含有量は好ましくは0.01〜0.05wt%である。これら添加物以外の残部は全て銅であることが好ましいが、酸素、As、Pb、Sb等の不可避不純物を含有していてもよい。当該不可避不純物の合計の含有量は、導電率の低下を防ぐ観点から、好ましくは0.01wt%以下、より好ましくは0.005wt%以下である。但し、酸素原子の存在は引張り強さを著しく低下させるので、酸素原子は0.001wt%以下であることが好ましい。
【0012】本発明の製造方法に用いる原料としては、従来公知の銅合金の原料を任意に用いることができ、例えば、電気銅を原料として、上述の添加元素を加えることができる。
【0013】これらの原料を好ましくは非酸化性雰囲気で加熱して溶解・攪拌し、次いで、得られた銅合金溶湯を金型に鋳込んでビレットやケークを得る。次いで、公知の熱間圧延、例えば、300〜700℃で圧延ロール等を用いた圧延で荒引線を得る方法が挙げられる。熱間圧延の代わりに押出し機を用いた熱間押出しによって荒引線を得る方法もある。また、溶融・鋳造・熱間圧延を連続して行う連続鋳造圧延方式によって荒引線を製造してもよい。
【0014】その後、(A)工程、すなわち溶体化処理工程に供するが、当該工程においても従来公知の方法によればよい。例えば、得られた荒引線を800〜1050℃、好ましくは900〜1000℃に加熱することにより上記添加元素を固溶させた後、水槽などに投入するなどの方法で室温(JIS K 0050によれば5〜35℃)まで急冷する。
【0015】室温にまで温度が下がった荒引線を、(B)冷間加工工程に供する。当該工程も任意の公知の方法によることができ、例えば、ダイス伸線法、ロール圧延法、スウェージング加工法などがあるが、これらに限定されない。通常、この(B)工程中に、少なくとも円形での冷間加工とトロリ線特有の異形加工とを行う。また、(B)工程中、ダイス等を用いて、表面から0.1〜0.5mm、好ましくは0.1〜0.2mmの表面層を切除する、所謂「皮剥ぎ」の処理をすることが、表面平滑性の向上の点から好ましい。
【0016】(B)工程に次いで、(C)時効熱処理工程が行われる。時効熱処理工程とは、後述するような熱処理により、合金成分を析出させ、強度および導電性の向上を図る処理である。本発明の特徴は、当該処理の加熱、冷却を以下に述べるような条件にすることである。
【0017】すなわち、本発明においては、(C)工程の昇温過程(図2の符号1)において、30〜100℃/時間の昇温速度、好ましくは30〜80℃/時間、さらに好ましくは40〜60℃/時間の昇温速度で加熱する。100℃/時間以下の昇温速度とすることで、ドラム等に巻き取られたトロリ線の全体がほぼ同じ条件で加熱されることになって、最終的な特性(導電率)がトロリ線全体にわたり均一になることが期待される。一方、昇温速度を30℃/時間以上とするのは、作業時間の短縮のためである。加熱中の昇温速度は本発明の範囲内であれば変動してもよいが、昇温速度の変動は少ない方が好ましい。
【0018】昇温は、350〜550℃、好ましくは400〜550℃、より好ましくは450〜500℃に達するまで行われる。到達温度が350℃より低い温度では合金成分が十分に析出せず、強度、導電率の向上が期待できず、逆に、550℃より高い温度では、強度の向上が期待できないという懸念がある。次いで、当該温度において、0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間保持する。保持時間が0.5時間より短いと合金成分が十分に析出せず、強度、導電率の向上が期待できず、逆に、5時間より長いと製造時のエネルギー消費量が大であり製造コストが増加するという懸念がある。
【0019】上記保持時間経過後は、好ましくは30〜100℃/時間の冷却速度、より好ましくは30〜80℃/時間、さらに好ましくは40〜60℃/時間の冷却速度で冷却する(図2の冷却過程2参照)。このような冷却速度は、室温下にて放置するよりも小さな速度であるので、温度をフィードバックする手段を設けて熱処理炉の熱源(電気ヒーター、ガス)等を適宜調製すること等の手段により容易に実現できる。温度100℃/時間以下の冷却速度とすることで、ドラム等に巻き取られたトロリ線の全体がほぼ同じ条件で冷却されることになり、最終的な特性(導電率)がトロリ線全体にわたり均一になることが期待される。一方、冷却速度を30℃/時以上とするのは、作業時間の短縮のためである。冷却中の冷却速度は本発明の範囲内であれば変動してもよいが、冷却速度の変動は少ない方が好ましい。
【0020】このように、時効熱処理工程において温度を制御することで、ドラム等に巻きつけられた長尺のトロリ線に、比較的均一な時効処理を行うことが可能になる。そのことにより、添加元素が従来よりも均一に析出することになり、結果として、長尺であっても、長手方向に導電率が均一なトロリ線を得ることができる。
【0021】
【実施例】以下、各実施例に基づいて、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0022】(トロリ線の製造)最終的な組成として、Crが0.3wt%、Zrが0.1wt%、Siが0.015wt%、残りがCuおよび不可避不純物(50ppm以下)からなるトロリ線を製造するために、以下の加工を施した。
【0023】まず、電気銅を非酸化性雰囲気下(Arガス)で1500℃に加熱して溶融させ、金属Cr、金属Zr、金属Siを加えた後に、ビレットの形に鋳造した。次いで、350℃で圧延ロールを用いて荒引線を得た。(A)工程として、該荒引線を950℃にまで加熱して1.5時間保持した後、水冷によって急冷し、(B)工程として、ダイス伸線により、断面積が110mm2の長尺のトロリ線(時効熱処理前)を得た。このとき、皮剥ぎ工程として、皮剥ぎダイスを用いて、表面から0.1mm程度の表面層を切除した。以上の処理を施した後、長さ1500mをドラム(直径0.6m)に巻き取った。
【0024】巻き取った時効熱処理前のトロリ線に対し、下記表1に記載の昇温速度で、480℃まで加熱し、当該温度で1時間保持した後、表1に記載の冷却速度で室温にまで冷却したサンプル(実施例1〜6、比較例1〜4)を以下の評価に用いた。
【0025】(評価)各サンプルに対し、図3に示すように、整列巻されたトロリ線31の一端から順に50mずつトロリ線をサンプリングし、当該50mの中から任意の約1.5mを切出し、その導電率をJIS H0505に基いて測定した。ドラム(図示せず)に巻き取られたトロリ線全部につきサンプリング・測定を行い、その平均を平均導電率とした(n=30)。次に、上記サンプリングしたトロリ線につき、図3にて示す箇所(前端部サンプリング箇所32、中間部サンプリング箇所33、後端部サンプリング箇所34、)、詳しくは、一端から、0〜10mの箇所(前端部)、745〜755mの箇所(中間部)、1490〜1500mの箇所(後端部)に相当する、約1.5mのトロリ線を3本サンプリングした。そのトロリ線の導電率もJIS H0505に基いて測定した。当該3本の測定値の平均を当該箇所の導電率とした。
【0026】上記導電率を算出した後、前端、後端、中間の各部の導電率と、平均導電率との差異を算出した。当該差異が1%以内であれば長手方向にバラツキなしと評価し、1%を超えればバラツキありと評価した。結果を表1にまとめる。
【0027】
【表1】

【0028】
【発明の効果】本発明に係る製造方法においては、ドラムに巻き取られた位置による時効熱処理時の加熱、冷却条件のバラツキを低減することになる。したがって、当該方法によって、長手方向にわたって、均一な時効熱処理が施されるので、長尺であっても、従来のトロリ線よりも長手方向に均一な導電率を示すトロリ線を製造し得る。
【出願人】 【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
【住所又は居所】兵庫県尼崎市東向島西之町8番地
【出願日】 平成14年2月21日(2002.2.21)
【代理人】 【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
【公開番号】 特開2003−237429(P2003−237429A)
【公開日】 平成15年8月27日(2003.8.27)
【出願番号】 特願2002−44963(P2002−44963)