トップ :: B 処理操作 運輸 :: B60 車両一般




【発明の名称】 析出強化型銅合金トロリ線およびその製造方法
【発明者】 【氏名】本田 照一
【住所又は居所】兵庫県尼崎市東向島西之町8番地 三菱電線工業株式会社内

【氏名】細川 浩一
【住所又は居所】兵庫県伊丹市池尻4丁目3番地 三菱電線工業株式会社伊丹製作所内

【氏名】鈴木 清司
【住所又は居所】兵庫県尼崎市東向島西之町8番地 三菱電線工業株式会社内

【要約】 【課題】低コストで従来よりも高強度の析出強化型銅合金トロリ線およびその製造方法を提供すること。

【解決手段】少なくとも、(A)溶体化処理工程、(B)第1の冷間加工工程、(C)時効熱処理工程、(D)第2の冷間加工工程を有し、好ましくは、(D)第2の冷間加工工程における加工度(断面減少率)が10〜30%であることを特徴とする析出強化型銅合金トロリ線の製造方法、および当該方法により得られる析出強化型銅合金トロリ線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも、溶体化処理工程、第1の冷間加工工程、時効熱処理工程、第2の冷間加工工程を有する、析出強化型銅合金トロリ線の製造方法。
【請求項2】 上記第2の冷間加工工程における加工度が10〜30%であることを特徴とする、請求項1に記載の析出強化型銅合金トロリ線の製造方法。
【請求項3】 請求項1または2のいずれかに記載の方法により製造される析出強化型銅合金トロリ線。
【請求項4】 Crが0.1〜0.5wt%、Zrが0.01〜0.2wt%、Siが0.01〜0.05wt%で、残部が銅および不可避不純物からなる、請求項3に記載の析出強化型銅合金トロリ線。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は析出強化型銅合金トロリ線およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】トロリ線は、電車の架線の最下部に設置され、パンタグラフと接触して電車に電力を送る電線である。近年の新幹線の高速化や、トロリ線の耐摩耗性向上による長寿命化の要求に対応するために、トロリ線はさらに高強度で導電率が高いことが要求されている。そのような要求を満たすトロリ線として、時効性銅合金(析出強化型の銅合金)からなるトロリ線(以下、「析出強化型銅合金トロリ線」または単に「トロリ線」という)が提案されている(特開平7−266939号公報参照)。
【0003】析出強化型銅合金トロリ線は、原料(銅母材と添加元素等)から溶融、鍛造、圧延、押出し等によって得た荒引線を、少なくとも(A)溶体化処理工程、(B)冷間加工工程、(C)時効熱処理工程の3工程を経て得られるトロリ線である(図1参照)。(A)工程は、銅母材中に添加した元素(Zr、Cr、Si等)を均一に固溶させるために、高温(800〜1050℃程度)で熱処理した後、水などへ投入して急冷する工程である。(B)工程は、室温程度にまで冷却した荒引線にダイス伸線やロール圧延等の加工を施す工程である。(C)工程は、(B)工程の後、再び熱処理により(A)工程で銅母材中に固溶させた添加元素を析出させて、引張り強さや導電率を向上させる工程である。
【0004】析出強化型銅合金トロリ線は、上記(C)工程において、(A)工程で固溶させた合金元素(添加元素)を析出させることによって強度と導電性とを向上させることを意図したトロリ線である。しかし、該トロリ線は、良好な導電性は得られるものの、所望する強度が得られない場合がある。所望の導電率、引張り強さとしては、例えば、断面積が110mm2のトロリ線の場合、導電率が75%IACS以上、引張り強さが570MPa以上が挙げられる。
【0005】トロリ線を高強度化する従来の技術として、第一に、上記(B)工程における加工度を上げること、すなわち、冷間加工工程により多くの加工を施して断面減少率を上げる方法が挙げられる。しかし、当該方法による場合には、冷間加工工程前の荒引線の線径を太くする必要があり、材料の取扱いが困難になり、場合によっては新たな設備投資を要するので、コスト高の原因となり好ましくない。
【0006】トロリ線の高強度化の第二の先行技術として、特開平6−154838号公報に記載されるように、時効熱処理を2回行う方法が挙げられる。しかし、当該方法では、熱処理回数が増加し、コスト高の原因となるので、好ましくない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、低コストで従来よりも高強度の析出強化型銅合金トロリ線を製造する方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】析出強化型銅合金は、製造の最終工程において時効熱処理を施すことが有効であると考えられていたため、上記(C)時効熱処理工程後にさらに加工を施す、という発想は従来は全くなかった。ところが、(C)工程後に再び冷間加工(以下、「(D)第2の冷間加工工程」と呼ぶ)を施すことを試みたところ、意外にも、導電率の減少が少なく、かつ、強度が向上することがわかった。本発明者らは、そのような知見をもとに、本発明を完成した。
【0009】すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
(1)少なくとも、溶体化処理工程、第1の冷間加工工程、時効熱処理工程、第2の冷間加工工程を有する、析出強化型銅合金トロリ線の製造方法。
(2)上記第2の冷間加工工程における加工度が10〜30%であることを特徴とする、(1)に記載の析出強化型銅合金トロリ線の製造方法。
(3)(1)または(2)のいずれかに記載の方法により製造される析出強化型銅合金トロリ線。
(4)Crが0.1〜0.5wt%、Zrが0.01〜0.2wt%、Siが0.01〜0.05wt%で、残部が銅および不可避不純物からなる、(3)に記載の析出強化型銅合金トロリ線。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明のトロリ線の製造方法を説明する。本発明のトロリ線の製造フローを図2に示し、当該製造における加工温度の推移の一例を図3に示す。
【0011】本発明において、析出強化型銅合金トロリ線(または、単に「トロリ線」)とは、銅母材にCrやZrやSiなどの析出型添加元素を加え、少なくとも上述の(A)〜(C)の工程を経たトロリ線を意味する。当該トロリ線の製造方法は、上記(B)工程のみを経る、従来の純銅や固溶強化型銅合金(Sn入り銅合金等)に対し、(A)、(C)工程をさらに加えるといった工程の複雑さがあるが、より高強度で高い導電率を保持したトロリ線を得ることができる方法である。
【0012】本発明に係るトロリ線は、少なくともCuに、Cr、Zr、Siを含む銅合金からなるトロリ線である。強度と導電性のバランスの観点から、Crの含有量は好ましくは0.1〜0.5wt%、より好ましくは0.25〜0.45wt%であり、Zrの含有量は好ましくは0.01〜0.2wt%、より好ましくは0.05〜0.15wt%であり、Siの含有量は好ましくは0.01〜0.05wt%である。これら添加物以外の残部は全て銅であることが好ましいが、酸素、As、Pb、Sb等の不可避不純物を含有していてもよい。当該不可避不純物の合計の含有量は、導電率の低下を防ぐ観点から、好ましくは0.01wt%以下、より好ましくは0.005wt%以下である。但し、酸素原子の存在は引張り強さを著しく低下させるので、酸素原子は0.001wt%以下であることが好ましい。
【0013】本発明の製造方法に用いる原料としては、従来公知の銅合金の原料を任意に用いることができ、例えば、電気銅を原料として、上述の添加元素を加えることができる。
【0014】これらの原料を好ましくは非酸化性雰囲気で加熱して溶解・攪拌し、次いで、得られた銅合金溶湯を金型に鋳込んでビレットやケークを得る。次いで、公知の熱間圧延、例えば、300〜700℃で圧延ロール等を用いた圧延で荒引線を得る方法が挙げられる。熱間圧延の代わりに押出し機を用いた熱間押出しによって荒引線を得る方法もある。また、溶融・鋳造・熱間圧延を連続して行う連続鋳造圧延方式によって荒引線を製造してもよい。
【0015】その後、この荒引線を(A)工程、すなわち溶体化処理工程に供するが、当該工程においても従来公知の方法によればよい。例えば、得られた荒引線を800〜1050℃、好ましくは900〜1000℃に加熱することにより上記添加元素を固溶させた後、水槽などに投入するなどの方法で室温(JIS K 0050によれば5〜35℃)まで急冷する。
【0016】室温にまで温度が下がった荒引線を、(B)冷間加工工程(以下、(D)工程と区別するために「第1の冷間加工工程」と呼ぶ)に供する。当該工程も任意の公知の方法によることができ、例えば、ダイス伸線法、ロール圧延法、スウェージング加工法などがあるが、これらに限定されない。通常、この(B)工程中に、少なくとも円形での冷間加工とトロリ線特有の異形加工とを行う。また、(B)工程中、ダイス等を用いて、表面から0.1〜0.5mm、好ましくは0.1〜0.2mmの表面層を切除する、所謂「皮剥ぎ」の処理をすることが、表面平滑性の向上の点から好ましい。
【0017】ここで、(B)工程における様々な処理による加工の程度を表す指標として、「加工度」なる概念を以下の式により定義する。
加工度(%)=100×(A−B)/Aここで、Aは加工前の断面積であり、Bは加工後の断面積である。
【0018】本発明では(B)第1の冷間加工工程における加工度は50〜90%であるのが好ましく、70〜90%であるのがより好ましい。本発明では、冷間加工工程を2回(すなわち(B)工程と後述の(D)工程)以上行うことから、1回ごとの加工度が大きすぎると工程が増し、コスト高の原因となるため好ましくない。一方、加工度が小さすぎると所望の強度が得られないため好ましくない。
【0019】(B)工程に次いで、(C)時効熱処理工程が行われる。時効熱処理工程とは、後述するような熱処理により、合金成分を析出させ、強度および導電性の向上を図る処理である。(C)工程においては、350〜550℃、好ましくは400〜500℃に加熱する。加熱温度が350℃より低い温度では合金成分が十分に析出せず、強度、導電率の向上が期待できず、逆に、550℃より高い温度では、引張り強さの向上が望めないという懸念がある。
【0020】次いで、当該温度において、0.5〜4時間、好ましくは1〜3時間保持する。保持時間が0.5時間より短いと合金成分が十分に析出せず、強度、導電率の向上が期待できず、逆に、4時間より長いと製造時のエネルギー消費量が大であり製造コストが増加するという懸念がある。
【0021】以上、(A)〜(C)の工程の後に、(D)第2の冷間加工工程を有するのが本発明の特徴である。(D)工程は、加工としては上記(B)工程と同様であり、室温下で、ダイス伸線、ロール圧延、スウェージング加工等の加工を施す工程である。
【0022】原料のロスを最小限にして低コスト化を実現する観点、所望の強度を得る観点、および導電率の低下を最小限にする観点から、(D)工程における加工度は10〜30%であるのが好ましく、10〜20%であるのがより好ましい。このように、(C)工程の後にさらに冷間加工工程に供することで、加工硬化により高強度化を図ることができる。このとき、若干の導電率の低下を伴うが、その低下は、トロリ線として許容できる範囲内である。
【0023】
【実施例】以下、実施例に基づいて、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0024】(実施例1)最終的な組成として、Crが0.3wt%、Zrが0.1wt%、Siが0.04wt%、残部がCuおよび不可避不純物(50ppm以下)からなるトロリ線を製造するために、以下の加工を施した。
【0025】まず、電気銅を還元性雰囲気下(Arガス)で1500℃に加熱して溶融させ、金属Cr、金属Zr、金属Siを加えた後に、ビレットの形に鋳造した。次いで、熱間圧延(400℃)として圧延ロールを用いて荒引線(断面の直径30mm)を得た。(A)工程として、該荒引線を950℃にて1時間、加熱した後、水冷によって急冷し、(B)工程として、ダイス伸線により、加工度81%の冷間加工を施して、長尺のトロリ線(時効熱処理前((C)工程前))を得た。このとき、皮剥ぎ工程として皮剥ぎダイスを用いて、表面から0.1mm程度の表面層を切除した。次に、(C)工程として、時効熱処理前のトロリ線を500℃にて2時間加熱した(時効熱処理)。
【0026】その後、室温下で、(D)工程として、ダイス伸線により、加工度15%の処理を施すことで、トロリ線を得た。
【0027】(比較例1)上記(B)工程における加工度を84%にしたことと、上記(D)工程を行わなかったこと以外は、実施例と同様の方法によってトロリ線を得た。
【0028】(評価)実施例1および比較例1のトロリ線100cmについて強度(引張り強さ)および導電率を測定した。また、実施例1の製造の途中の段階((B)および(C)工程終了後)においても100cmをサンプリングして同様の測定を行った。
【0029】引張り強さは、JIS Z 2241に基いて測定し、導電率は、JIS H0505に基いて測定した。結果を表1にまとめる。
【0030】
【表1】

【0031】トロリ線の完成品としては、引張り強さが570MPa以上、かつ、導電率が75%IACS以上のものが合格品とされる。当該基準では、実施例1(完成品)のみが合格品であることが表1から明らかである。
【0032】
【発明の効果】本発明に係る製造方法においては、(C)時効熱処理工程の後に(D)第2の冷間加工工程に供することで、高強度化を達成することができ、導電率の低下も最小限に抑えることができる。また、従来の方法に比べて加熱する工程が増加するわけではないので、トロリ線の製造コストを大幅に増大させずに、高強度のトロリ線を製造することができる。
【出願人】 【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
【住所又は居所】兵庫県尼崎市東向島西之町8番地
【出願日】 平成14年2月21日(2002.2.21)
【代理人】 【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
【公開番号】 特開2003−237428(P2003−237428A)
【公開日】 平成15年8月27日(2003.8.27)
【出願番号】 特願2002−44961(P2002−44961)