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【発明の名称】 車両の駆動力制御装置
【発明者】 【氏名】片倉 秀策
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産自動車株式会社内

【氏名】鈴木 康仁
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産自動車株式会社内

【要約】 【課題】ドライバーの加速要求に応答良く応えながら、ねじり振動を有効に低減することができる車両の駆動力制御装置を提供すること。

【解決手段】トルク応答の遅いエンジンとトルク応答の速いモータが搭載されたパワートレインと、ドライバー操作に応じた車両の目標駆動力を求める目標駆動力演算手段3と、を備え、前記目標駆動力演算手段3により求められた目標駆動力を、エンジンとモータの出力制御により実現する車両の駆動力制御装置において、前記モータへ出力する制御指令である目標モータトルクを演算する目標モータトルク演算手段8を設け、この目標モータトルク演算手段8を、エンジンへ制御指令を出力する時点から駆動軸トルクが立ち上がる時点までの応答遅れ時間を利用した出力開始タイミングと、エンジンへの制御指令によるパワートレインのねじり振動成分を減衰する合成出力波形を生成する傾きと、を持つ目標モータトルクを演算する手段とした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくともトルク応答の遅い第一原動機とトルク応答の速い第二原動機を含む出力制御可能な複数の原動機が搭載されたパワートレインと、ドライバー操作に応じた車両の目標駆動力を求める目標駆動力演算手段と、を備え、前記目標駆動力演算手段により求められた目標駆動力を、複数の原動機の出力制御により実現する車両の駆動力制御装置において、前記第二原動機へ出力する制御指令である目標第二原動機トルクを演算する目標第二原動機トルク演算手段を設け、前記目標第二原動機トルク演算手段は、第一原動機へ制御指令を出力する時点から駆動軸トルクが立ち上がる時点までの応答遅れ時間を利用した出力開始タイミングと、第一原動機への制御指令によるパワートレインのねじり振動成分を減衰する合成出力波形を生成する傾きと、を持つ目標第二原動機トルクを演算することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】 請求項1に記載された車両の駆動力制御装置において、前記第一原動機へ出力する制御指令である目標第一原動機トルクを、目標駆動力演算手段により求められた目標駆動力に基づいて演算する目標第一原動機トルク演算手段を設け、前記目標第二原動機トルク演算手段に、前記目標第一原動機トルクに基づき、ねじり振動の無い理想駆動軸トルク応答特性を生成する理想駆動軸トルク応答特性生成部と、前記目標第一原動機トルクに基づき、応答遅れを持つ推定駆動軸トルク応答特性を生成する推定駆動軸トルク応答特性生成部と、理想駆動軸トルク応答特性から推定駆動軸トルク特性を差し引き、このトルク差分を目標第二原動機トルクとする差分器と、を設けたことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項3】 請求項2に記載された車両の駆動力制御装置において、前記目標第二原動機トルク演算手段の理想駆動軸トルク応答特性生成部と差分器との間に、理想駆動軸トルク応答特性を遅らせるディレイ部を設け、前記ディレイ部は、目標第二原動機トルクであるアシストトルクの出力開始タイミングを、理想駆動軸トルク応答特性の立ち上がり部と、推定駆動軸トルク応答特性の立ち上がり部とが、目標第一原動機トルクに達する前に交差するタイミングを得る遅れ時間を設定することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項4】 請求項3に記載された車両の駆動力制御装置において、前記目標第二原動機トルク演算手段のディレイ部に、理想駆動軸トルク応答特性によるアシスト開始タイミングを設定する遅れ時間演算特性設定部を設け、前記遅れ時間演算特性設定部は、理想駆動軸トルク応答特性が推定駆動軸トルク応答特性より大きくて第二原動機によりトルクを加えるアシストトルク量と、推定駆動軸トルク応答特性が理想駆動軸トルク応答特性より大きくて第一原動機のトルクを吸収するトルク吸収量と、が等しくなるようにアシスト開始タイミングを設定することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項5】 請求項4に記載された車両の駆動力制御装置において、前記目標第二原動機トルク演算手段の遅れ時間演算特性設定部に、目標第一原動機トルクの変化量を分母とし、第二原動機駆動トルク上限と目標第二原動機駆動トルクとの差分値を分子とするトルク比を演算するトルク比演算部を設け、前記遅れ時間演算特性設定部は、トルク比演算部により演算されるトルク比に応じてアシスト開始タイミングを設定することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項6】 請求項1ないし5に記載された車両の駆動力制御装置において、前記トルク応答の遅い第一原動機はエンジンであり、前記トルク応答の速い第二原動機は電動モータであることを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ドライバー操作に応じた車両の目標駆動力を求め、この求められた目標駆動力を、複数の原動機を制御することにより実現する車両の駆動力制御装置の技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】ドライバーのアクセル操作による加速時に、駆動系のトルクが増加するために、ねじり振動が発生するのは、良く知られた現象である。
【0003】この対策としては、例えば、特開2000−356153号公報に記載されているように、ねじり振動の周波数成分に合わせてエンジンのトルクを減少させ、逆相の振動を生成することで、打ち消すものが知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この従来のねじり振動の低減制御方法では、ドライバーの要求しているトルクより、一瞬であるがトルクを減少させることになり、加速応答性を低下させることとなっていた。
【0005】本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、ドライバーの加速要求に応答良く応えながら、ねじり振動を有効に低減することができる車両の駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明では、少なくともトルク応答の遅い第一原動機とトルク応答の速い第二原動機を含む出力制御可能な複数の原動機が搭載されたパワートレインと、ドライバー操作に応じた車両の目標駆動力を求める目標駆動力演算手段と、を備え、前記目標駆動力演算手段により求められた目標駆動力を、複数の原動機の出力制御により実現する車両の駆動力制御装置において、前記第二原動機へ出力する制御指令を演算する目標第二原動機トルク演算手段は、第一原動機へ制御指令を出力する時点から駆動軸トルクが立ち上がる時点までの応答遅れ時間を利用した出力開始タイミングと、第一原動機への制御指令によるパワートレインのねじり振動成分を減衰する合成出力波形を生成する傾きと、を持つ目標第二原動機トルクを演算する手段とした。
【0007】ここで、「トルク応答の遅い第一原動機」とは、例えば、ガソリンエンジン等のエンジンをいい、「トルク応答の速い第二原動機」とは、例えば、電動モータをいう。ただし、同じ種類の原動機であっても、複数の原動機間でトルク応答が異なれば、トルク応答の遅い側を「第一原動機」ということができ、トルク応答が速い側を「第二原動機」ということができる。
【0008】
【発明の効果】本発明にあっては、駆動系に第一原動機のトルク応答よりも、無駄時間が少なく、かつ、応答性の速い第二原動機が並列に存在するならば、第一原動機のトルク応答の無駄時間を利用して、その部分に第二原動機からのトルクを付け足すことで、ねじり振動成分を減衰することができる。
【0009】よって、本発明の車両の駆動力制御装置にあっては、例えば、第一原動機に対しステップ的に駆動力を上昇する指令が出力されたとき、第一原動機の応答遅れ時間を利用して第二原動機のトルクを付け足すことにより、ドライバーの加速要求に応答良く応えながら、ねじり振動を有効に低減することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の車両の駆動力制御装置を実現する実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0011】(第1実施例)まず、構成を説明する。図1は第1実施例の車両の駆動力制御装置を示す全体ブロック図である。図1において、1はアクセル操作量検出手段、2は車速検出手段、3は目標駆動力演算手段、4は定常分目標駆動力生成部、5は過渡分目標駆動力制御部、6は加算器、7は目標エンジントルク演算手段(目標第一原動機トルク演算手段)、8は目標モータトルク演算手段(目標第二原動機トルク演算手段)である。
【0012】前記アクセル操作量検出手段1は、ドライバーによるアクセルペダルへの操作量を検出する手段であり、例えば、アクセル開度センサ等が該当する。
【0013】前記車速検出手段2は、車両速度を検出する手段であり、例えば、変速機出力軸回転センサや車輪速センサ等が該当する。
【0014】前記目標駆動力演算手段3は、ドライバーのアクセル操作にあらわれる駆動力要求に応じた車両の目標駆動力を求める手段である。
【0015】前記定常分目標駆動力生成部4は、目標駆動力演算手段3の構成要素であり、アクセル操作量の絶対値と、車速とに基づき、主に車速に関連して定められる定速走行状態での走行抵抗から決まるアクセル操作量−収束車速特性によって定常分目標駆動力を生成する。
【0016】前記過渡分目標駆動力制御部5は、目標駆動力演算手段1の構成要素であり、定常分目標駆動力生成部4からの定常分目標駆動力の変化分、つまり、ドライバーのアクセル操作にあらわれる要求駆動力の変化分により過渡分目標駆動力を生成する。
【0017】前記加算器6は、定常分目標駆動力生成部4からの定常分目標駆動力と、過渡分目標駆動力生成部5からの過渡分目標駆動力と、を加算し、その加算値を目標駆動力として出力する。
【0018】前記目標エンジントルク演算手段7は、図外のエンジン(第一原動機)へ出力する制御指令である目標エンジントルク(目標第一原動機トルク)を、前記目標駆動力演算手段3により求められた目標駆動力に基づいて演算する。この目標エンジントルクは、制御スロットルバルブのアクチュエータを駆動制御するスロットルバルブ駆動コントローラに対し出力される。
【0019】前記目標モータトルク演算手段8は、図外のモータ(第二原動機)へ出力する制御指令である目標モータトルク(目標第二原動機トルク)を、前記目標エンジントルク演算手段7により求められた目標エンジントルクに基づいて演算する。この目標モータトルクは、エンジンへ制御指令を出力する時点から駆動軸トルクが立ち上がる時点までの応答遅れ時間を利用した出力開始タイミングと、エンジンへの制御指令によるパワートレインのねじり振動成分を減衰する合成出力波形を生成する傾きと、を持ち、モータを駆動制御するモータ駆動コントローラに対し出力される。
【0020】また、図1において、9はガクガク振動回避応答特性生成部(理想駆動軸トルク応答特性生成部)、10はエンジントルク応答特性生成部(推定駆動軸トルク応答特性生成部)、11は差分器、12はディレイ部、13は遅れ時間演算特性設定部、14はトルク比演算部である。
【0021】前記ガクガク振動回避応答特性生成部9は、前記目標エンジントルク演算手段7からの目標エンジントルクに基づき、ねじり振動の無い理想駆動軸トルク応答特性(理想トルク波形推定値)を生成する。ここで、理想駆動軸トルク応答特性とは、例えば、図6において、エンジンへの制御指令値に対して勾配bを持つ特性をいう。
【0022】前記エンジントルク応答特性生成部10は、前記目標エンジントルク演算手段7からの目標エンジントルクに基づき、エンジンへの制御指令値に対し応答遅れを持つ推定駆動軸トルク応答特性(補正なしエンジントルク推定値)を生成する。ここで、推定駆動軸トルク応答特性とは、例えば、図6において、エンジンへの制御指令値に対して勾配aを持つ特性をいう。
【0023】前記差分器11は、理想駆動軸トルク応答特性から推定駆動軸トルク特性を差し引き、このトルク差分を目標モータトルクとする。
【0024】前記ディレイ部12は、ガクガク振動回避応答特性生成部9と差分器11との間に設けられ、理想駆動軸トルク応答特性を遅らせる。つまり、エンジンへの制御指令開始タイミングから、理想駆動軸トルク応答特性(≒モータトルク応答特性)が立ち上がるアシスト開始タイミングまでの遅れ時間を決める。よって、このディレイ部12により、目標モータトルク(アシストトルク)の出力開始タイミングを、理想駆動軸トルク応答特性の立ち上がり部と、推定駆動軸トルク応答特性の立ち上がり部とが、目標エンジントルクに達する前に交差するアシスト開始タイミングを得る遅れ時間に設定することができる。
【0025】前記遅れ時間演算特性設定部13は、前記ディレイ部12に理想駆動軸トルク応答特性によるアシスト開始タイミングを設定する。よって、遅れ時間演算特性設定部13により、図7に示すように、理想駆動軸トルク応答特性が推定駆動軸トルク応答特性より大きくてモータによりトルクを加えるアシストトルク量と、推定駆動軸トルク応答特性が理想駆動軸トルク応答特性より大きくてモータ回生によりエンジントルクを吸収するトルク吸収量と、が等しくなるようにアシスト開始タイミングを設定することができる。
【0026】前記トルク比演算部14は、遅れ時間演算特性設定部13に設けられ、目標エンジントルクの変化量(前回の制御周期における目標エンジントルクから今回の制御周期における目標エンジントルクの差)を分母とし、モータ駆動トルク上限と前回の制御周期における目標モータトルクとの差分値(現在、追加できるモータの駆動トルク)を分子とするトルク比を演算する。そして、前記遅れ時間演算特性設定部13は、このトルク比演算部14により演算されるトルク比に応じてアシスト開始タイミングを設定する。
【0027】なお、目標モータトルクについては、符号が正のとき、モータは駆動側に動作し、符号が負のとき、発電側に動作するとする。
【0028】次に、作用を説明する。
【0029】[モータアシストによるねじり振動減衰作用]駆動系に、エンジンのトルク応答よりも、無駄時間が少なく、かつ、応答性の速い原動機が並列にあるならば、エンジンのトルク応答の無駄時間を利用して、その部分にトルクを付け足すことで、ねじり振動成分を結果的に減衰することができる。
【0030】以下、模式的に、効果を検証する。本来ねじり振動を除去するためには、その共振周波数成分のみを除去するようなインバースフィルタを構成するのが効果的であるが、ここでは、検討を簡単にするために、より高周波成分を除去するローパスフィルタを構成することとして考える。
【0031】まず、図2で示すような駆動系を考える。制御器がエンジンに対して、制御指令値を送り、その指令に基づき、エンジンがトルクを出力する。このエンジントルクは、吸入空気量の遅れ、スロットル動作の遅れ等により、制御器の制御指令値に対して、無駄時間を持ち、かつ、応答遅れをもって応答する。このエンジントルクがバネとマスで模式される駆動系に入力されると、このバネ・マスに応じた伝達特性で、駆動軸トルクが応答する。
【0032】ここで、図3に示すように、矩形波入力をエンジンの制御指令値として入れると、エンジントルクは、指令値入力から所定時間遅れて大きな勾配aにより立ち上がる応答特性を示す。そして、駆動軸トルクは、指令値入力から所定時間遅れて大きな勾配aにより立ち上がるが、勾配aが大きいため、目標軸トルクを超えてオーバーシュートし、その後、目標軸トルクより小さくなったり大きくなったりを繰り返し、徐々に目標軸トルクに収束してゆく応答特性を示す。すなわち、駆動系の伝達特性の共振周波数にあわせて、ねじり振動が発生する。
【0033】これに対して、図4に示すように、駆動系の伝達特性の共振周波数における時定数に相当する勾配aよりも、高周波数側を減衰させた緩やかな勾配bで立ち上がる波形を、エンジンの制御指令値として入れると、エンジントルクは、指令値入力から所定時間遅れて勾配b(<a)により立ち上がる応答特性を示す。そして、駆動軸トルクは、指令値入力から所定時間遅れて勾配bにより目標軸トルクに収束するように上昇する応答特性を示す。すなわち、駆動系の伝達特性の共振周波数にあわせたねじり振動は発生しない。
【0034】ここで、例えば、図5に示すように、エンジンのトルク応答よりも無駄時間が少なく、かつ、応答性の速い原動機として、エンジン出力軸に並列につけたモータを考える。モータはエンジンのトルク応答に対して、十分に速く応答し、かつ、無駄時間も少ないので、モータへの制御入力は、ほぼ、モータの応答出力と考えられる。
【0035】図6に示すように、図3と同様に、矩形波入力をエンジンに制御指令値として入力させながら、エンジンの無駄時間分を利用して、このモータで、ハッチングに塗った領域分、駆動系への入力トルクを補正すると、エンジンとモータとの出力をあわせた波形の勾配はb相当となるので、ねじり振動は発生せず、かつ、モータでエンジンの無駄時間を埋めた分、駆動軸トルクの応答は、エンジンへの制御指令開始時点t0から時点t1(<t2)を経過すると早期に立ち上がる。
【0036】第1実施例装置においては、ガクガク振動回避応答特性生成部9からのねじり振動の無い理想駆動軸トルク応答特性(理想トルク波形推定値)に対し、ディレイ部12により遅れ時間(t0〜t1)を設定する。この遅れ時間設定により、差分器11において、遅れ時間(t0〜t1)を設定した理想駆動軸トルク応答特性(図6の勾配bを持つ特性)から推定駆動軸トルク特性(図6の勾配aを持つ特性)が差し引かれることになり、このトルク差分(図6のハッチング領域)を目標モータトルクとすることで、上記作用が達成される。
【0037】以上述べたように、矩形波入力をエンジンに制御指令値として入力すると同時に、応答性の速いモータにより駆動系への入力トルクを補正すると、駆動軸トルク特性が勾配bを持つことで、ねじり振動による運転性の悪化を抑制しながら、かつ、駆動軸トルクの立ち上げ開始が(t3-t1)時間短縮されることにより、駆動軸トルクの応答を速くすることができる。
【0038】[モータアシスト+モータトルク吸収によるねじり振動減衰作用]一方、バッテリーの容量の問題から、モータのアシストトルクが限定される場合、モータのアシスト開始タイミングをずらし、かつ、適切なタイミングで、アシストからトルク吸収に切り替えることで、まったく相似のトルク波形を実現しつつ、モータのアシストトルクを制限することができる。
【0039】すなわち、図7に示すように、モータのアシストタイミングを、エンジンへの制御指令開始時点t0から時点t2(t1<t2<t3)を経過するタイミングに設定するというように、図6の場合よりは遅らせたとき、時点t2から時点t4までは、応答の速いモータ補正ありのエンジントルクが支配し、時点t4以降は、応答の遅い補正無しのエンジントルクが支配する。したがって、勾配bによる理想のトルク波形を維持するためには、この追い越し点t4以降、モータはアシストではなく、トルク吸収を行うこととなる。
【0040】第1実施例装置においては、ガクガク振動回避応答特性生成部9からのねじり振動の無い理想駆動軸トルク応答特性(理想トルク波形推定値)に対し、ディレイ部12により遅れ時間(t0〜t2)を設定する。この遅れ時間設定により、差分器11において、時点t2から時点t4までの間は、理想駆動軸トルク応答特性(図7の勾配bを持つ実線特性)から推定駆動軸トルク特性(図7の点線特性)が差し引かれることになり、この領域ではモータによるアシストとなる。一方、差分器11において、時点t4から時点t5までの間は、推定駆動軸トルク特性(図7の点線特性)から理想駆動軸トルク応答特性(図7の勾配bを持つ実線特性)が差し引かれることになり、この領域ではモータによるトルク吸収となる。
【0041】よって、バッテリーの状態にあわせて、放電側に操作したい場合には、モータのアシストが多くなるように、また、充電側に操作したい場合には、モータのトルク吸収が多くなるように、モータによるアシスト開始タイミングを、モータ補正なしのエンジントルクの立ち上がりタイミングに対して調整すればよい。
【0042】このアシスト開始タイミングは、図8に示すように、トルクの波形を所定値までのランプ応答と仮定すると、2つの直線の交点を解く問題に帰結するので、入力トルクの定常値の高さと、最大アシストトルクの比は、幾何学的に解くことができる。
【0043】よって、トルク比演算部14により演算されるトルク比と、遅れ時間演算特性設定部13に設定したアシスト開始タイミングの関係を用いれば、目標エンジントルクの変化量と、今追加できるモータの駆動トルクとの比から、最適なアシスト開始タイミングが求められる。
【0044】次に、効果を説明する。第1実施例の車両の駆動力制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0045】(1) トルク応答の遅いエンジンとトルク応答の速いモータが搭載されたパワートレインと、ドライバー操作に応じた車両の目標駆動力を求める目標駆動力演算手段3と、を備え、前記目標駆動力演算手段3により求められた目標駆動力を、エンジンとモータの出力制御により実現する車両の駆動力制御装置において、前記モータへ出力する制御指令である目標モータトルクを演算する目標モータトルク演算手段8を設け、該目標モータトルク演算手段8は、エンジンへ制御指令を出力する時点から駆動軸トルクが立ち上がる時点までの応答遅れ時間を利用した出力開始タイミングと、エンジンへの制御指令によるパワートレインのねじり振動成分を減衰する合成出力波形を生成する傾きと、を持つ目標モータトルクを演算するため、エンジンの応答遅れ時間を利用してモータのトルクを付け足すことにより、ドライバーの加速要求に応答良く応えながら、ねじり振動を有効に低減することができる。
【0046】(2) エンジンへ出力する制御指令である目標エンジントルクを、目標駆動力演算手段3により求められた目標駆動力に基づいて演算する目標エンジントルク演算手段7を設け、目標モータトルク演算手段8に、目標エンジントルクに基づき、ねじり振動の無い理想駆動軸トルク応答特性を生成するガクガク振動回避応答特性生成部9と、目標エンジントルクに基づき、応答遅れを持つ推定駆動軸トルク応答特性を生成するエンジントルク応答特性生成部10と、理想駆動軸トルク応答特性から推定駆動軸トルク特性を差し引き、このトルク差分を目標モータトルクとする差分器11と、を設けたため、理想駆動軸トルク応答特性を得るアシストトルクをモータにより追加することで、ねじり振動による運転性の悪化を抑制しながら、かつ、駆動軸トルクの応答を速くすることができる。
【0047】(3) 目標モータトルク演算手段8のガクガク振動回避応答特性生成部9と差分器11との間に、理想駆動軸トルク応答特性を遅らせるディレイ部12を設け、前記ディレイ部12は、目標モータトルクであるアシストトルクの出力開始タイミングを、理想駆動軸トルク応答特性の立ち上がり部と、推定駆動軸トルク応答特性の立ち上がり部とが、目標エンジントルクに達する前に交差するタイミングを得る遅れ時間を設定するため、モータによるアシスト開始タイミングを、モータ補正なしのエンジントルクの立ち上がりタイミングに対して調整することにより、要求に合わせてモータアシストとモータトルク吸収の比率調整を行うことができる。例えば、バッテリーの状態にあわせて、放電側に操作したい場合には、モータのアシストが多くなるように、また、充電側に操作したい場合には、モータのトルク吸収が多くなるように、モータによるアシスト開始タイミングを調整する。
【0048】(4) 目標モータトルク演算手段8のディレイ部12に、理想駆動軸トルク応答特性によるアシスト開始タイミングを設定する遅れ時間演算特性設定部13を設け、該遅れ時間演算特性設定部13は、理想駆動軸トルク応答特性が推定駆動軸トルク応答特性より大きくてモータによりトルクを加えるアシストトルク量と、推定駆動軸トルク応答特性が理想駆動軸トルク応答特性より大きくてエンジンのトルクを吸収するトルク吸収量と、が等しくなるようにアシスト開始タイミングを設定するため、モータアシストで消費される駆動エネルギを、トルク吸収により回生することができる。特に、第1実施例の場合、第二原動機がモータであるため、モータアシスト量とトルク吸収量とを等しくすれば、モータ回生によりバッテリーからの電力の持ち出しを無くすことが可能である。
【0049】(5) 目標モータトルク演算手段8の遅れ時間演算特性設定部13に、目標エンジントルクの変化量を分母とし、モータ駆動トルク上限と目標モータ駆動トルクとの差分値を分子とするトルク比を演算するトルク比演算部14を設け、前記遅れ時間演算特性設定部13は、トルク比演算部14により演算されるトルク比に応じてアシスト開始タイミングを設定するため、遅れ時間演算特性設定部13において、モータ駆動トルク上限を考慮しながら、要求に応じた最適なアシスト開始タイミングを求めることができる。
【0050】(6) トルク応答の遅い第一原動機をエンジンとし、トルク応答の速い第二原動機を電動モータとしたため、エンジンと電動モータとが共に搭載されているハイブリッド車において、エンジンへの制御指令値がステップ的に立ち上がるような駆動力制御時に、エンジンの応答遅れ時間を利用して電動モータのトルクを付け足すことにより、ドライバーの加速要求に応答良く応えながら、ねじり振動を有効に低減することができる。
【0051】以上、本発明の車両の駆動力制御装置を第1実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この第1実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0052】例えば、第1実施例では、トルク応答の遅い第一原動機をエンジンとし、トルク応答の速い第二原動機を電動モータとする例を示したが、例えば、トルク応答が異なる二種類の第1エンジンと第2エンジンを搭載した車両や、トルク応答が異なる二種類の第1モータと第2モータを搭載した車両にも適用することができる。この場合、トルク応答の遅い側を「第一原動機」といい、トルク応答が速い側を「第二原動機」という。
【出願人】 【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地
【出願日】 平成14年5月13日(2002.5.13)
【代理人】 【識別番号】100119644
【弁理士】
【氏名又は名称】綾田 正道 (外1名)
【公開番号】 特開2003−333710(P2003−333710A)
【公開日】 平成15年11月21日(2003.11.21)
【出願番号】 特願2002−137212(P2002−137212)