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【発明の名称】 磁気浮上式移動体システム及びそのコイル配置構造
【発明者】 【氏名】村井 敏昭

【氏名】吉岡 博

【氏名】岩松 勝

【氏名】藤本 健

【氏名】笹川 卓

【要約】 【課題】磁気浮上式移動体システムにおいて、車両を推進・浮上案内させるための8字型コイルの加振力による超電導磁石の振動を小さくしながら、かつ良好な推進・浮上・案内性能を得る。

【解決手段】超電導磁石の振動を低減するためには、加振力周波数と発生する振動モードとが一致しないようなコイルピッチを選択すればよい。超電導磁石の電気角360度に対してコイルを4個設ける90ピッチでは、隣接コイルの加振力が同位相となり、超電導磁石全体の振動モードを引き起こす共振周波数が大きくなる一方、その加振周波数は小さい。従って、超電導磁石振動に対するコイルピッチとしては90度ピッチが有利である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数のコイルが配列されると共に、このコイルと対向して複数の磁石が配置された移動体を有し、各コイルに所定の位相差を以って電流を通じることにより移動体を浮上させると共に、浮上した移動体をコイルの配列方向に移動させるようにした磁気浮上式移動体システムにおいて、一対の磁石が作るN極とS極の間を360度とするとき各コイルを略90度ピッチで配置したことを特徴とする磁気浮上式移動体システム。
【請求項2】 前記磁石は、低温容器に収納された超電導コイルからなる超電導磁石であることを特徴とする請求項1記載の磁気浮上式移動体システム。
【請求項3】 前記コイルは、8字型コイルであることを特徴とする請求項1又は2記載の磁気浮上移動体システム。
【請求項4】 前記8字型コイルは上下非対称に形成されていることを特徴とする請求項3記載の磁気浮上式移動体システム。
【請求項5】 前記8字型コイルは、下側コイルの高さが大きく形成されていることを特徴とする請求項4記載の磁気浮上式移動体システム。
【請求項6】 前記コイルは、電源に接続されない磁気浮上用のコイル及び/又は電源に接続されて電流を通じる推進用のコイルとからなることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の磁気浮上式移動体システム。
【請求項7】 複数のコイルが配列されると共に、このコイルと対向して複数の磁石が配置された移動体を有し、各コイルに所定の位相差を以って電流を通じることにより移動体を浮上させると共に、浮上した移動体をコイルの配列方向に移動させるようにした磁気浮上式移動体システムにおける前記コイルの配置構造であって、一対の磁石が作るN極とS極の間を360度とするとき各コイルを略90度ピッチで配置したことを特徴とする磁気浮上式移動体システムのコイル配置構造。
【請求項8】 前記磁石は、低温容器に収納された超電導コイルからなる超電導磁石であることを特徴とする請求項7記載の磁気浮上式移動体システムのコイル配置構造。
【請求項9】 前記コイルは、8字型コイルであることを特徴とする請求項7又は8記載の磁気浮上移動体システムのコイル配置構造。
【請求項10】 前記8字型コイルは上下非対称に形成されていることを特徴とする請求項9記載の磁気浮上式移動体システムのコイル配置構造。
【請求項11】 前記8字型コイルは、下側コイルの高さが大きく形成されていることを特徴とする請求項10記載の磁気浮上式移動体システムのコイル配置構造。
【請求項12】 前記コイルは、電源に接続されない磁気浮上用のコイル及び/又は電源に接続されて電流を通じる推進用のコイルとからなることを特徴とする請求項7〜11の何れか1項に記載の磁気浮上式移動体システムのコイル配置構造。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気浮上方式により車両等の移動体を走行させる磁気浮上式移動体システム及びこのシステムで用いられるコイルの配置構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般にリニアモータカーとして知られる磁気浮上方式による鉄道システムにおいては、超電導磁石を車両の側面に取り付けると共に、車両のガイドウェイの側壁に超電導磁石と所定の空隙を介して多数のコイルを車両の進行方向に配列している。超電導磁石は、複数の超電導コイルが冷却液と共に低温容器に収納されてなるものが用いられる。
【0003】コイルとしては、車両の推進用コイルと浮上・案内用コイルとが上記側壁に重ねて設けられ、推進用コイルは駆動電源に接続され、浮上・案内用コイルは電源には接続されていない。この浮上・案内用コイルとしては8字型コイルが用いられている。また、最近では8字型コイルを電源に接続して1つのコイルで推進機能と浮上・案内機能を兼用できる推進・浮上・案内兼用コイルが提案されている。
【0004】図6は上記推進・浮上・案内兼用コイルとしての8字型コイル10と超電導磁石20との配置関係を示すものである。この図では、一対の超電導磁石20が作るN極とS極との間を電気角で360度とするとき、この360度に対して3個の8字型コイル10を配置することで、コイルピッチを120度とした場合を示している。図6において、ガイドウェイの左右側壁には多数の8字型コイルが120度ピッチで配され、各コイルはU相、V相、W相の3相駆動電源に接続されている。左右側壁で対向する2つの8字型コイル10はヌルフラックス線30を介して接続され、ループが形成されている。
【0005】上記構成によれば、各相の8字型コイル10に120度位相の異なる電流を通じることにより、超電導磁石20との間で電磁力による推進力が働いて車両が走行すると共に、車両、即ち、超電導磁石が下側に偏ると、対応する8字型コイルに電流が誘起されて、8字型コイルの下側コイルには反発力が、上側コイルには吸引力がはたらくことにより、車両は浮上するとともに、車両即ち超電導磁石が左右どちらかに偏ると、対応するコイルのループに電流が誘起されて、車両が近づいた方のコイルには反発力が、車両が離れた方のコイルには吸引力が働くことにより、車両はガイドウェイの中央を走行することになる。
【0006】図7(a)〜(d)は上記コイルピッチをそれぞれ60度、72度、90度、120度とした場合の超電導磁石20と8字型コイル10との関係を示す。図において、40は超電導磁石20を左右の側面に取り付けた車両を示すもので、この図は車両40を上から見た場合を示している。尚、図示では8字型コイル10及び超電導磁石20は、矢印で示す進行方向に対して左側のみに図示されているが、8字型コイル10及び超電導磁石20は右側にも同様に設けられているものとする。図示のように、超電導磁石20のN・S磁極間の360度に対して、60度ピッチの場合は、8字型コイル10は6個設けられ、72度ピッチの場合は、8字型コイル10は5個設けられ、90度ピッチの場合は、8字型コイル10は4個設けられ、120度ピッチの場合は、8字型コイル10は3個設けられている(図6と同じ)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上述したように推進・浮上・案内兼用コイルの推進・浮上・案内機能により車両を浮上させて走行させる場合、コイルにより定常的な浮上力が発生するが、これと共に車両の走行に伴って各コイル間の間隙や超電導磁石間の間隙により脈動が発生する。この脈動により超電導コイルを収納した低温容器が加振され、このため、超電導コイル及び低温容器が歪んで、場合によっては超電導状態の消失、超電導磁石の破壊に繋がる等の問題があった。また、この超電導磁石は車両重量等の関係で強固なものを製作することが困難であった。また、従来では、コイルピッチを主として120度、60度とした場合について推進・浮上・案内の各性能の最適化についての研究がなされて来たが、上記のような超電導磁石の振動についての問題をコイルピッチと関連させて考える研究は未だ不十分であった。
【0008】本発明は、上記の実状に鑑みなされたもので、磁気浮上式移動体システムにおいて、超電導磁石の振動を小さくしながら、かつ良好な推進・浮上・案内性能を得るようにすることを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明による磁気浮上式移動体システムは、複数のコイルが配列されると共に、このコイルと対向して複数の磁石が配置された移動体を有し、各コイルに所定の位相差を以って電流を通じることにより移動体を浮上させると共に、浮上した移動体をコイルの配列方向に移動させるようにした磁気浮上式移動体システムにおいて、一対の磁石が作るN極とS極の間を360度とするとき各コイルを略90度ピッチで配置したことを特徴とするものである。
【0010】また、本発明による磁気浮上式移動体システムのコイル配置構造は、複数のコイルが配列されると共に、このコイルと対向して複数の磁石が配置された移動体を有し、各コイルに所定の位相差を以って電流を通じることにより移動体を浮上させると共に、浮上した移動体をコイルの配列方向に移動させるようにした磁気浮上式移動体システムにおける前記コイルの配置構造であって、一対の磁石が作るN極とS極の間を360度とするとき各コイルを略90度ピッチで配置したことを特徴とするものである。
【0011】
【作用】従って、本発明によれば、推進コイル及び/又は浮上・案内コイル、あるいは推進・浮上・案内を兼用する推進・浮上・案内兼用コイル等の8字型コイルのコイルピッチを加振周波数と発生する振動モードとが一致しない90度とすることにより、超電導磁石の振動を低減しながら、かつ推進・浮上・案内の各性能を最適化することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。まず、前述した超電導磁石の振動について述べる。超電導磁石を構成する超電導コイルがx=jτ(j=・・−1,0,1・・)の位置にあるとき、各超電導コイルに作用する電磁力Fij(i=x,y,z)は、フーリエ級数を用いた解析手法により以下のように表される。
【0013】
【数1】

【0014】ここで、τは超電導コイルのピッチ、τ1は8字型コイルのピッチ、IL (m)は8字型コイルの電流、P0i(m)は超電導コイル及び8字型コイルの寸法、位置関係による関数である。また、2lνは時間調波成分の次数、m′は空間調波成分を表している。これらの高調波成分は、一般に上記二種類の次数が低い方が大きいため、超電導コイルへの加振力として問題となるのは、m=1,ν=−1及びm=−1,ν=1の成分である。また、上記式(1)は電磁力のみを示すが、モーメントに関しても略同様な式となる。
【0015】上記式(1)から、超電導コイルへの加振力の特徴は、その振動周波数が2lに比例すること、隣り合うコイルの加振力が2l=奇数のとき逆位相、2l=偶数のとき同位相であることが分かる。このことを表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】表1は超電導磁石の極ピッチを1.35m、車両速度を100〜500km/hとした場合における各コイルピッチに対する加振周波数と隣接コイルの加振力の位相を示している。
【0018】また、超電導磁石の振動は、磁石全体の振動モードに関係する。図1は左右方向を例として、超電導磁石全体に作用する加振力及びそのときの振動モードの関係を示すものである。図1において、50は超電導コイルを収納する低温容器であり、図示では低温容器50を上から見た場合の加振力による左右の歪みの様子を示している。この低温容器50には、4個の超電導コイルC1、C2,C3,C4が収納固定されている。
【0019】同図(a)は、次数が3次、5次の奇数次の場合における左右方向の加振力を矢印で示している。図示のように、隣り合うコイルの加振力は逆相となっており、このため、低温容器50は大きく歪んでいる。(b)は、奇数次の場合におけるヨーモーメントを示す。図示のように、隣り合うコイルで反対方向のモーメントが作用し、低温容器50は大きな曲げピッチで歪んでいる。
【0020】(c)は、4次、6次の偶数次の場合における左右方向の加振力を矢印で示している。図示のように、隣り合うコイルの加振力は同相となっており、このため、低温容器50は歪み難くなっている。(d)は、偶数次の場合におけるヨーモーメントを示す。図示のように、隣り合うコイルで同方向のモーメントが作用し、低温容器50は小さい曲げピッチで歪んでいる。曲げピッチが小さい場合は、そのモードにおける共振周波数が高くなっている。
【0021】図1からコイルピッチが奇数次の場合は、2次曲げ、3次曲げ等、比較的低い周波数の振動モードが発生し易く、また、コイルピッチが偶数次の場合は、並進モードも見られるが、極ピッチ程度の波長で高い周波数の振動モードが発生し易いことが分かる。
【0022】以上のことから、超電導磁石の振動を低減するためには、加振周波数と発生する振動モードとが一致しないようなコイルピッチを選択すれば良いことが分かる。例えば、90度ピッチを選択した場合、90度ピッチは偶数次であるので、高い共振周波数の振動モードを発生する加振力であるのに対してその加振周波数は低くなっている。
【0023】図2は、各コイルピッチにおいて、加振力を用いて計算した4個の超電導コイルが低温容器に収納される超電導磁石の振動応答の計算例を示すもので、4個の超電導コイルのうち、進行方向の先頭から1番目及び3番目の超電導コイルC1,C3における各6点の最大振動加速度をそれらの最大値で規格化した値で示したものである。
【0024】この図2から、超電導磁石振動は、(a)の120度ピッチが150Hz弱、(b)の90度ピッチが150Hz強、(c)の72度ピッチが230Hz弱、(b)の60度ピッチが300Hz強で最大となり、その値は、120度>72度>90度>60度の順となり、隣接コイルの加振力が逆位相となる奇数次のコイルピッチにおいて大きいことが分かる。特に、120度ピッチの150Hz弱の振動は非常に大きい値である。尚、超電導磁石振動により発生する熱負荷は、超電導コイルが剛体モードの場合に小さく、弾性モードの場合に大きく、200Hz以上の加振周波数では超電導コイルが弾性モードとなるので、その周波数成分を持つ72度ピッチ、60度ピッチでは、超電導磁石振動は小さくても、熱負荷が大きくなる可能性がある。以上説明したことから、超電導磁石振動に対するコイルピッチとしては90度ピッチが最適であると考えられる。
【0025】次に推進・浮上・案内の各性能を最適にするコイルピッチについて説明する。ここでは、上記各性能を最適化する諸元及びそのときの特性を最適化計算によるシミュレーションにより求めて比較検討することにする。まず、基本的な検討条件を次に示す。
(1)超電導コイルの諸元は一定とする。
(2)8字型コイルの単位長さ当たりの導体量を一定とする。
(3)8字型コイルは、各コイルの高さ、導体幅、導体厚さを任意とし、長さを単層配置できるものとする。
(4)実空隙を一定とする。
(5)車両を支持するための必要な浮上力が得られるものとする。
(6)浮上の安定性を確保するために必要な等価案内ばね及び等価ロールばねが得られるものとする。
(7)浮上に伴う磁気抵抗力、その他の走行抵抗及び加速余裕の和で表される必要推力が得られるものとする。
【0026】計算に当たっては、表2に示す全体システムとコイル諸元からなる検討条件を用いる。
【0027】
【表2】

【0028】尚、表2の検討条件は前述した超電導磁石振動の説明においても用いられている。また、図3に示すように8字型コイル10は、上下部分で形成されるが、上部分の高さh1と下部分の高さh2とが同じ対称コイルと、h1とh2とが異なる非対称コイルについてそれぞれ検討するものとする。
【0029】まず、浮上案内特性について検討する。案内系を最適化したときの例として、各コイルピッチにおいて、浮上開始速度の等価安定ばね又は等価ロールばねを最大化したときのコイル高さ及び上記各ばね定数を図4に示す。同図(a)は各コイルピッチにおける等価案内ばねを示し、同図(b)は各コイルピッチにおける等価ロールばねを示す。尚、図4(a)における上下コイル(対称)のコイル高さ(同図における−〇−のプロット)は、下コイル(非対称)のコイル高さ(同図における−△−のプロット)に重なっている。尚、60度ピッチ対称コイルは、(b)に示すように等価ロールばねを大きくしたときでも、必要な等価ロールばねが得られず、表2の条件を満たす諸元が存在しなかった。
【0030】図4から、等価案内ばね、等価ロールばねは90度ピッチが最大であり、案内系については、90度ピッチが最適であることが分かる。また、コイルピッチに関係なく、下コイルの高さが大きい非対称コイルが対称コイルより各性能が優れていることが分かる。特に、等価ロールばねの場合にその著しい。また、60度ピッチでは、等価案内ばね、等価ロールばね共検討条件の限界にあり、設計の裕度が小さい。
【0031】次に、推進特性について検討する。推進系を最適化したときの例として、各コイルピッチにおいて推力一定として巡航速度の皮相電力を最小化したときのコイル高さ及びリニアモータの効率×力率を図5(a)に示す。また、浮上推進系を最適化したときの例として、各コイルピッチにおいて、磁気抗力を含む推力に対して巡行速度の皮相電力を最小化したときのコイル高さ及び皮相電力を同図(b)に示す。
【0032】図5(a)から、リニアモータの効率×力率は、90度ピッチが最大であり、推進系については90度ピッチが最適であることが分かる。また、同図(b)から、磁気抗力を考慮した場合の皮相電力も90度ピッチが最小であり、浮上推進系についても90度ピッチが最適であることが分かる。さらに、コイルピッチに関係なく、下コイルの高さが大きい非対称コイルが対称コイルより各性能が優れていることが分かる。
【0033】以上説明したことを整理すると次の検討結果を得ることができる。
(1)超電導磁石の振動については、隣接コイルの加振力が同位相となる90度ピッチが有利である。
(2)推進・浮上・案内の基本性能に関する最適化計算によれば、推進案内系、推進浮上系共90度ピッチが有利である。
(3)各コイルピッチの各性能において、下コイルが大きい非対称コイルが有利である。
【0034】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、磁気浮上式移動体システムにおいて、8字型コイル等の推進コイル及び/又は浮上案内コイルの超電導磁石に対するコイルピッチを略90度としたことにより、超電導磁石の振動を小さくしながら、かつ推進・浮上・案内の各性能を最適化することができる。
【出願人】 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
【出願日】 平成14年3月5日(2002.3.5)
【代理人】 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武 (外1名)
【公開番号】 特開2003−259510(P2003−259510A)
【公開日】 平成15年9月12日(2003.9.12)
【出願番号】 特願2002−59235(P2002−59235)