トップ :: B 処理操作 運輸 :: B60 車両一般




【発明の名称】 制動制御装置
【発明者】 【氏名】佐々木 博樹
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産自動車株式会社内

【氏名】鈴木 英俊
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産自動車株式会社内

【氏名】中村 英夫
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産自動車株式会社内

【氏名】堤 淳二
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産自動車株式会社内

【氏名】田添 和彦
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産自動車株式会社内

【要約】 【課題】アンチスキッド制御が開始される以前に電動駆動輪の制動力を理想制動力配分のそれに近づけてロック傾向を抑制すると共にエネルギ回収効率を向上する。

【解決手段】路面μの低下と共に上昇するスリップ抑制制御レンジを設定し、その上限値と駆動輪速度との車輪速度差ΔVwを用い、当該車輪速度差ΔVwが大きくなるほど大きくなるスリップ抑制制御補正係数αと当該車輪速度差ΔVwとの積値を制動力補正値ΔTとし、それを駆動輪である前輪基本制動力TF0*から減じて前輪制動力TF*とすると共に、後輪基本制動力TR0*に制動力補正値ΔTを和して後輪制動力TR*とする。スリップ抑制制御補正係数αは、同等の車輪速度差ΔVwに対し、路面μが小さいほど大きくすることで、路面μが低いときの制御初期の変化率を大きくし、もって低μ路面でのロック傾向抑制と高μ路面でのエネルギ回収効率とを両立する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 電動機で駆動される車輪に対し、理想制動力配分に相当する制動力を超える回生制動力を当該電動機によって付与可能な車両の制動制御装置であって、前記電動機で駆動される車輪に対して理想制動力配分に相当する制動力を超える回生制動力が付与されているときに、当該電動機で駆動される車輪のロック傾向に応じて、前後輪の制動力配分が理想制動力配分となる方向へ当該電動機による回生制動力を変更することを特徴とする制動制御装置。
【請求項2】 電動機によって駆動される電動機駆動輪と、前記電動機によって駆動されない電動機非駆動輪と、車両の状態に応じて前記電動機の駆動及び回生制動を制御すると共に、前記電動機非駆動輪との理想制動力配分に相当する制動力を超える回生制動力を前記電動機駆動輪に対して付与可能な電動機制御手段とを備えた車両の制動制御装置であって、前記電動機駆動輪のロック傾向を検出する電動機駆動輪ロック傾向検出手段と、前記電動機制御手段により前記理想制動力配分に相当する制動力を超える回生制動力が前記電動機から前記電動機駆動輪に付与されているときに、前記ロック傾向検出手段で検出された電動機駆動輪のロック傾向に応じて、前後輪の制動力配分が理想制動力配分となる方向へ制動力を制御する制動力制御手段とを備えたことを特徴とする制動制御装置。
【請求項3】 各車輪のロック傾向に応じて各車輪の制動力を制御するアンチスキッド制御手段と、このアンチスキッド制御手段によって各車輪の制動力が制御されているときには前記電動機駆動輪に対する回生制動を解除する回生制動解除手段とを備え、前記アンチスキッド制御手段による各車輪の制動力制御が開始される以前に、前後輪の制動力配分が理想制動力配分となる方向に制動力を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の制動制御装置。
【請求項4】 前記前後輪の制動力配分の変更制御を徐々に行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の制動制御装置。
【請求項5】 路面の摩擦係数状態を検出する路面摩擦係数状態検出手段を備え、前記路面摩擦係数状態検出手段で検出された路面摩擦係数状態が小さいほど、理想制動力配分に近づけるときの変化率を大きくすることを特徴とする請求項4に記載の制動制御装置。
【請求項6】 路面の摩擦係数状態を検出する路面摩擦係数状態検出手段を備え、前記路面摩擦係数状態検出手段で検出された路面摩擦係数状態が小さいほど、理想制動力配分に近づけるときの初期の変化率を、後期の変化率に対して大きくすることを特徴とする請求項4又は5に記載の制動制御装置。
【請求項7】 路面の摩擦係数状態を検出する路面摩擦係数状態検出手段を備え、前記路面摩擦係数状態検出手段で検出された路面摩擦係数状態が大きいほど、理想制動力配分に変更する制御の開始を、前記アンチスキッド制御手段による各車輪の制動力制御領域に近づけることを特徴とする請求項3乃至6の何れかに記載の制動制御装置。
【請求項8】 路面の摩擦係数状態を検出する路面摩擦係数状態検出手段を備え、前記路面摩擦係数状態検出手段で検出された路面摩擦係数状態が小さいほど、理想制動力配分に変更する制御の開始を、前記アンチスキッド制御手段による各車輪の制動力制御領域から遠ざけることを特徴とする請求項3乃至7の何れかに記載の制動制御装置。
【請求項9】 前記アンチスキッド制御手段は、前記電動機駆動輪のロック傾向の大きさがABS開始閾値以上となったときに当該電動機駆動輪の制動力の制御を開始し、前記電動機駆動輪のロック傾向の大きさが前記ABS開始閾値より小さい第1の所定値以上となったときに理想制動力配分に変更する制御を開始することを特徴とする請求項3乃至8の何れかに記載の制動制御装置。
【請求項10】 前記アンチスキッド制御手段は、前記電動機駆動輪のロック傾向の大きさがABS開始閾値以上となったときに当該電動機駆動輪の制動力の制御を開始し、前記電動機駆動輪のロック傾向の大きさが前記ABS開始閾値より小さい第1の所定値以上となったときに理想制動力配分に変更する制御を開始し、前記電動機駆動輪のロック傾向の大きさが前記ABS開始閾値より小さく且つ前記第1の所定値より大きい第2の所定値以上となったときに理想制動力配分に変更する制御を終了することを特徴とする請求項4に記載の制動制御装置。
【請求項11】 運転者の制動操作を検出する制動操作検出手段を備え、前記制動操作検出手段で運転者の制動操作が検出されている状態で、前記ロック傾向検出手段で検出された電動機駆動輪のロック傾向の大きさが前記第1の所定値より大きくなった後、当該第1の所定値以下となったとき、又は前記第2の所定値より大きくなった後、当該第2の所定値以下となったときに、前記第1の所定値を小さくすることを特徴とする請求項9又は10に記載の制動制御装置。
【請求項12】 前記制動操作検出手段で運転者の制動操作が検出されているときに、前記ロック傾向検出手段で検出された電動機駆動輪のロック傾向の大きさが第1の所定値以上となった後、当該第1の所定値以下となるまでの時間、又は第2の所定値以上となった後、当該第2の所定値以下となるまでの時間が大きいほど前記第1の所定値を大きくすることを特徴とする請求項11に記載の制動制御装置。
【請求項13】 運転者の制動操作を検出する制動操作検出手段を備え、前記制動操作検出手段で運転者の制動操作が検出されている状態で、前記ロック傾向検出手段で検出された電動機駆動輪のロック傾向の大きさが前記第1の所定値より大きくなった後、当該第1の所定値以下となったとき、又は前記第2の所定値より大きくなった後、当該第2の所定値以下となったときに、前記第2の所定値を小さくすることを特徴とする請求項10乃至12の何れかに記載の制動制御装置。
【請求項14】 前記制動操作検出手段で運転者の制動操作が検出されているときに、前記ロック傾向検出手段で検出された電動機駆動輪のロック傾向の大きさが第1の所定値以上となった後、当該第1の所定値以下となるまでの時間、又は前記第2の所定値以上となった後、当該第2の所定値以下となるまでの時間が大きいほど前記第2の所定値を小さくすることを特徴とする請求項13に記載の制動制御装置。
【請求項15】 車体速を検出する車体速検出手段を備え、前記車体速検出手段で検出された車体速に応じて基準値を算出すると共に、当該基準値から所定値を減じて前記第1の所定値及び第2の所定値を設定することを特徴とする請求項10乃至14の何れかに記載の制動制御装置。
【請求項16】 車体速を検出する車体速検出手段を備え、前記車体速検出手段で検出された車体速が小さいほど、当該車体速に対する前記第1の所定値の大きさを小さくすることを特徴とする請求項9乃至15の何れかに記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、電動機で駆動される車輪を備えた車両の制動制御装置に関し、特に電動機駆動輪に対して理想制動力配分相当の制動力を超える回生制動力を付与可能な車両の制動制御装置に好適なものである。
【0002】
【従来の技術】このような制動制御装置では、エネルギ回収効率の向上を目的とし、運転者の要求総制動力に応じて、電動駆動輪に対して理想制動力配分相当の制動力を超える回生制動力を付与することが知られている。一方、このような電動駆動輪への回生制動力に対し、各車輪のロック傾向に応じて制動力を制御するアンチスキッド制御装置を搭載した車両では、当該アンチスキッド制御装置による各車輪の制動力制御(以下、単にアンチスキッド制御とも記す)の開始と共に、前記電動駆動輪への回生制動力をキャンセルする制動制御装置がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記従来の制動制御装置では、エネルギ回収効率の向上を図るべく、電動駆動輪に対して理想制動力配分相当の制動力を超える回生制動力を付与し、その結果、当該電動駆動輪がロック傾向になってアンチスキッド制御が開始されると、回生制動がキャンセルされてしまうため、その後のエネルギ回収は行えないという矛盾した結果を引き起こす可能性がある。つまり、本来の理想制動力配分相当の制動力が電動駆動輪に付与されていたなら、当該電動駆動輪がロック傾向になることもなく、その結果、アンチスキッド制御が開始されることもなく、回生制動によるエネルギ回収を継続できる可能性もあるのに、そのエネルギ回収継続の可能性を、理想制動力配分相当の制動力を超える初期の回生制動力によって遮断してしまうのである。
【0004】本発明は、これらの諸問題を解決すべく開発されたものであり、回生制動時の電動駆動輪のロック傾向に応じて当該電動駆動輪への回生制動力を制御することにより、エネルギ回収効率を向上することが可能な制動制御装置を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明に係る制動制御装置は、電動機で駆動される車輪に対し、理想制動力配分に相当する制動力を超える回生制動力を当該電動機によって付与可能な車両の制動制御装置であって、前記電動機で駆動される車輪に対して理想制動力配分に相当する制動力を超える回生制動力が付与されているときに、当該電動機で駆動される車輪のロック傾向に応じて、前後輪の制動力配分が理想制動力配分となる方向へ当該電動機による回生制動力を変更することを特徴とするものである。
【0006】
【発明の効果】而して、本発明に係る制動制御装置によれば、電動機で駆動される車輪に対して理想制動力配分に相当する制動力を超える回生制動力が付与されているときに、当該電動機で駆動される車輪のロック傾向に応じて、前後輪の制動力配分が理想制動力配分となる方向へ当該電動機による回生制動力を変更する構成としたため、例えばアンチスキッド制御が開始される以前に電動駆動輪の回生制動力を理想制動力配分に相当する制動力に変更する又は近づけることにより、アンチスキッド制御の開始を遅らせ、その間も回生制動を継続してエネルギ回収効率を向上することが可能となる。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1実施形態を示すシステム概略構成図であり、交流同期モータにより回生ブレーキトルクを制御する間、制動流体圧を減圧制御することにより、回生エネルギを効率的に回収する回生協調ブレーキ制御システムに本発明の制動制御装置を適用したものである。
【0008】図1において、運転者によって制動操作されるブレーキペダル1は、ブースタ2を介してマスタシリンダ3に連結されている。前記ブースタ2は、ポンプ21によって昇圧され、アキュームレータ22に蓄圧された高圧の制動流体圧を用いて、ペダル踏力を倍力してマスタシリンダに供給する。なお、前記ポンプ21は、圧力スイッチ23によってシーケンス制御されている。また、図中の符号4は制動流体のリザーバである。
【0009】前記マスタシリンダ3は、各車輪10のホイールシリンダ5に接続されているが、その制動流体路の途中には、各ホイールシリンダ5の制動流体圧を個別に制御するための制動流体圧回路6が介装されている。この制動流体圧回路6は、制動流体圧コントロールユニット7からの制動流体圧指令値に従って、前記マスタシリンダ4を、各ホイールシリンダ5と同等の流体負荷を備えたストロークシミュレータに接続し、代わりに前記ポンプ21の出力圧若しくはアキュームレータ22の蓄圧を各ホイールシリンダ5に供給して増圧したり、各ホイールシリンダ5の制動流体圧をリザーバ4に還元して減圧したりすることにより、各ホイールシリンダ5の制動流体圧を個別に制御することを可能とする。また、この制動流体圧回路6には、マスタシリンダ3の出力圧を検出するマスタシリンダ圧センサやマスタシリンダ3から切り離された状態の各ホイールシリンダ5の制動流体圧を検出するホイールシリンダ圧センサが設けられ、それらの検出信号が制動流体圧コントロールユニット7に出力される。
【0010】前記制動流体圧コントロールユニット7は、前記制動流体圧回路6に制動流体圧指令値を出力して各ホイールシリンダ5の制動流体圧を制御するためのものであり、併せてアンチスキッド制御機能を備える。アンチスキッド制御は、周知のように、例えば車体速度から求められる目標車輪速度に対し、実際の車輪速度が、その目標車輪速度を下回ったら各ホイールシリンダの制動流体圧を減圧し、目標車輪速度を上回ったら増圧することにより、各車輪の回転状態を所定のスリップ率に収めて制動距離や舵取り性能を確保するためのものである。そのため、この制動流体圧コントロールユニット7には、ブレーキペダルスイッチ25からの信号や車輪速度が入力される。なお、この制動流体圧コントロールユニット7では、アンチスキッド制御を正確に行うため、周知のように車体速度を車輪速度から推定する、所謂推定車体速を算出している。
【0011】一方、この車両の前輪10は、所謂ハイブリッドシステム8によって駆動される。このハイブリッドシステム8は、周知のようにエンジンと交流同期モータ、所謂モータジェネレータとを組み合わせたものであり、夫々の特性を生かして駆動輪である前輪10を駆動する。このうち、モータジェネレータは、バッテリからの供給電力によって電動機として車輪10を駆動すると共に、車輪10からの路面駆動トルクによって発電機としてバッテリに蓄電することができる。このバッテリへの電力の回収時には、モータジェネレータを回転するために路面駆動トルクが消費され、結果的に駆動輪に制動力が付与される。この制動が回生制動であり、この実施形態では、非駆動輪である後輪との理想制動力配分相当の制動力以上の制動力を回生制動力として駆動輪である前輪に付与できるように構成されている。
【0012】前記ハイブリッドシステム8は、ハイブリッドシステムコントロールユニット9からの指令によって制御される。具体的には、エンジンやモータジェネレータの駆動状態や、モータジェネレータによる回生制動状態を制御する。例えば、車両の停止時にはエンジンの運転を停止し、車両の発進時にはモータジェネレータを電動機として作動して駆動力を付与し、更に車両の速度が増速するにつれてエンジンを運転し、エンジンの駆動力で駆動輪である前輪を駆動する。また、車両の惰性走行時や減速時には、駆動輪である前輪とエンジンとを切離し、モータジェネレータを発電機として作動して回生制動力を付与する。そのため、このハイブリッドシステムコントロールユニット9には、バッテリ状態やエンジンの運転状態、モータジェネレータの運転状態が入力される。
【0013】前記制動流体圧コントロールユニット7及びハイブリッドシステムコントロールユニット9は、通信回線を介して回生協調制御コントロールユニット12に接続している。前記制動流体圧コントロールユニット7やハイブリッドシステムコントロールユニット9は、勿論、夫々、単体でホイールシリンダ5の制動流体圧やハイブリッドシステム8の運転状態を制御することが可能であるが、回生協調制御コントロールユニット12からの指令に応じて、それらを制御することにより、より効率よく、車両運動エネルギ回収を行って燃費を向上することが可能となる。
【0014】具体的には、ハイブリッドシステムコントロールユニット9は、回生協調制御コントロールユニット12から受信した回生制動力指令値に基づいて、回生制動力を制御すると共に、バッテリの充電状態や温度等で求められる最大回生制動力を算出し、それを回生協調制御コントロールユニット12に送信する。また、制動流体圧コントロールユニット7は、回生協調制御コントロールユニット12から受信した制動流体圧制動力指令値に応じて各ホイールシリンダ5の制動流体圧を制御すると共に、前記マスタシリンダ圧センサ、ホイールシリンダ圧センサで検出したマスタシリンダ圧及びホイールシリンダ圧、或いはアンチスキッド制御に必要な各車輪速度や推定車体速、アンチスキッド制御の開始と共に回生制動をキャンセルする回生制動キャンセル信号を回生協調制御コントロールユニット12に送信する。なお、この実施形態では、路面の摩擦係数(以下、単にμとも記す)を検出するための路面摩擦係数検出装置11が設けられている。この路面摩擦係数検出装置11は、例えば車両に発生する横加速度や前後加速度、或いは駆動力に対する駆動輪のスリップの状態等から路面の摩擦係数を検出したり、或いは路車間通信等の外部通信から路面の摩擦係数を検出したりするものであり、その路面の摩擦係数は前記回生協調制御コントロールユニット12に入力される。
【0015】前記回生協調制御コントロールユニット12を始めとする、制動流体圧コントロールユニット7やハイブリッドシステムコントロールユニット9等の各コントロールユニットは、マイクロコンピュータ等の演算処理装置を備え、そのうち、制動流体圧コントロールユニット7やハイブリッドシステムコントロールユニット9は、制動流体圧制動力指令値や回生制動力指令値に応じた制御信号や駆動信号を創成し、前述した各アクチュエータに向けて出力する。これに対し、前記回生協調制御コントロールユニット12は、運転者の意図に合致した減速度が得られると共に、最も車両運動エネルギの回収効率のよい制動流体圧制動力指令値及び回生制動力指令値を算出し、夫々、制動流体圧コントロールユニット7及びハイブリッドシステムコントロールユニット9に出力する。
【0016】次に、本実施形態における前輪制動力と後輪制動力の基本的な配分について説明する。この前後輪制動力配分は、原則として、回生制動力を最大限に利用し、もってエネルギ回収効率の向上を目的とするものであり、後述のように前後各車輪の制動力が規制された場合には、その規制値に基づいて制動力配分を行う。ここでは、図2に示す四つのパターンに分けられる。まず、最大回生制動力が十分に大きく、運転者による要求総制動力が最大回生制動力未満であり、且つ前記要求総制動力を理想制動力配分したときの駆動輪である前輪制動力が最大回生制動力未満であるときには回生制動のみとし、前輪回生制動力を要求総制動力相当の回生制動力とし、前後輪の制動流体圧制動力を共に“0”とする。また、最大回生制動力が比較的大きく、運転者による要求総制動力が最大回生制動力以上であり、且つ前記要求総制動力を理想制動力配分したときの駆動輪である前輪制動力が最大回生制動力未満であるときには回生制動と後輪制動流体圧制動とし、前輪回生制動力を最大回生制動力とし、前輪の制動流体圧制動力を“0”とすると共に、後輪制動流体圧制動力を、前記要求総制動力から最大回生制動力を減じた値とする。また、最大回生制動力が比較的小さく、運転者による要求総制動力が最大回生制動力以上であり、且つ前記要求総制動力を理想制動力配分したときの駆動輪である前輪制動力が最大回生制動力以上であるときには回生制動と前後輪制動流体圧制動とし、非駆動輪である後輪制動流体圧制動力を理想制動力配分相当の制動力とし、前輪回生制動力を最大回生制動力とすると共に前輪制動流体圧制動力を、理想制動力配分相当の制動力から最大回生制動力を減じた値とする。また、最大回生制動力が極めて小さいか“0”であり、運転者による要求総制動力が最大回生制動力以上であり、且つ前記要求総制動力を理想制動力配分したときの駆動輪である前輪制動力が最大回生制動力以上であるときには制動流体圧制動のみとし、回生制動力を“0”とすると共に、前輪制動流体圧制動力及び後輪制動流体圧制動力を共に理想制動力配分相当の制動力に設定する。
【0017】これに対し、前後輪制動力が規制された場合には、夫々、規制された値を用いながら、この基本パターンを踏襲して、前後輪制動流体圧制動力及び回生制動力を設定する。次に、前記回生協調制御コントロールユニット12内で行われる制動流体圧制動力指令値及び回生制動力指令値算出のための演算処理を図3のフローチャートに従って説明する。
【0018】この演算処理は、経過時間Δt(例えば10msec.)毎のタイマ割込処理として実行される。なお、このフローチャートでは、特に通信のためのステップを設けていないが、演算によって得られた情報は随時記憶され、記憶されている情報は、必要に応じて、随時読み込まれる。この演算処理は、まずステップS1で、前記制動流体圧コントロールユニット7から入力したマスタシリンダ圧Pmcを読み込む。
【0019】次にステップS2に移行して、前記ステップS1で読み込んだマスタシリンダ圧Pmcに所定の比例係数K1を乗じて運転者による要求総制動力TTを算出する。次にステップS3に移行して、前述した図2の制動力配分に則って前後輪の基本制動力TF0*、TR0*を算出する。次にステップS4に移行して、前記路面摩擦係数検出装置11で検出された路面摩擦係数μを読み込む。
【0020】次にステップS5に移行して、前記制動流体圧コントロールユニット7から推定車体速VCを読み込む。次にステップS6に移行して、同じく前記制動流体圧コントロールユニット7で算出されたアンチスキッド制御用の目標車輪速度VwABS*を読み込む。目標車輪速度VwABS*は、ABS開始閾値であると共に、制御中、その目標値になるように制御するための目標値である。
【0021】次にステップS7に移行して、前記ステップS4で読み込んだ路面摩擦係数μを用い、図4の制御マップに従ってスリップ抑制制御上下限値設定定数ΔVwU、ΔVwLを算出設定する。この図4の制御マップで設定されるスリップ抑制制御上下限値設定定数ΔVwU、ΔVwLは共に、路面摩擦係数μの増加と共に、次第に増加傾きを増しながら増加する、下に凸の曲線で表れ、スリップ抑制制御上限値設定定数ΔVwUとスリップ抑制制御下限値設定定数ΔVwLとは、常に所定値ΔVw0だけ、スリップ抑制制御上限値設定定数ΔVwUの方がスリップ抑制制御下限値設定定数ΔVwLより大きい。
【0022】次にステップS8に移行して、前記ステップS5で読み込んだ推定車体速VCから前記ステップS7で算出設定されたスリップ抑制制御上下限値設定定数ΔVwU、ΔVwLを減じて、夫々スリップ抑制制御上下限値VwU*、VwL*を算出する。次にステップS9に移行して、前記ステップS8で算出したスリップ抑制制御下限値VwL*が前記ステップS6で読み込んだアンチスキッド制御用目標車輪速度VwABS*以下であるか否かを判定し、当該スリップ抑制制御下限値VwL*がアンチスキッド制御用目標車輪速度VwABS*以下である場合にはステップS10に移行し、そうでない場合にはステップS11に移行する。
【0023】前記ステップS10では、前記アンチスキッド制御用目標車輪速度VwABS*をスリップ抑制制御下限値VwL*に設定すると共に、このスリップ抑制制御下限値VwL*に前記設定定数間の所定値ΔVw0を加えた値をスリップ抑制制御上限値VwU*に設定してから前記ステップS11に移行する。前記ステップS11では、前記制動流体圧コントロールユニット7から読み込んだ各車輪速度のうち、前左輪速度VwFLと前右輪速度VwFRとの平均値から駆動輪である前輪の平均前輪速度VwFを算出してからステップ12に移行する。
【0024】前記ステップS12では、前記ステップS8又はステップS10で算出したスリップ抑制制御上限値VwU*から前記ステップS11で算出した平均前輪速度VwFを減じてスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFを算出する。次にステップS13に移行して、前記ステップS12で算出されたスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFを用い、図5の制御マップに従ってスリップ抑制制御補正係数αを算出設定する。この図5の制御マップで設定されるスリップ抑制制御補正係数αは、前記スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFが“0”以下の領域では“0”であり、同じくスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFが前記設定定数間の所定値ΔVw0以上の領域では“1”であり、スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFが“0”から所定値ΔVw0までの間は、当該スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFの増加と共に“0”から“1”まで次第に増加する。但し、このスリップ抑制制御補正係数αの変化領域は、路面摩擦係数μにも依存しており、路面摩擦係数μが小さいほど上に凸の曲線となり、路面摩擦係数μが大きいほど下に凸の曲線となる。即ち、同等のスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFであっても、路面摩擦係数μが小さいほどスリップ抑制制御補正係数αは大きく、路面摩擦係数μが大きいほどスリップ抑制制御補正係数αは小さい。
【0025】次にステップS14に移行して、前記ステップS12で算出したスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFに前記ステップS13で算出設定したスリップ抑制制御補正係数αを乗じてスリップ抑制制御制動力補正値ΔTを算出する。次にステップS15に移行して、前記ステップS3で算出した前輪基本制動力TF0*から前記ステップS14で算出したスリップ抑制制御制動力補正値ΔTを減じた値を前輪制動力指令値TF*として算出すると共に、同じく後輪基本制動力TR0*にスリップ抑制制御制動力補正値ΔTを和した値を後輪制動力指令値TR*として算出する。
【0026】次にステップS16に移行して、前記ステップS15で算出設定された前後輪制動力指令値TF*、TR*に基づいて、前記ステップS3と同様に回生制動力指令値及び前後輪制動流体圧制動力指令値を算出、出力してからメインプログラムに復帰する。この演算処理によれば、路面摩擦係数μに応じて設定されたスリップ抑制制御上限値VwU*に対し、それより駆動輪である平均前輪速度VwFが大きいときには、前記スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFが負値となり、スリップ抑制制御補正係数αが“0”となるため、スリップ抑制制御制動力補正値ΔTも“0”となり、前後輪制動力指令値TF*、TR*は前記前後輪基本制動力TF0*、TR0*となる。前述のように、前記前後輪基本制動力TF0*、TR0*は最大回生制動力を可及的に使い切るように設定されているので、エネルギ回収効率に優れる。つまり、制動初期は、前記前後輪基本制動力TF0*、TR0*で制動が行われる。
【0027】一方、前記スリップ抑制制御上限値VwU*よりも平均前輪速度VwFが小さくなると、前記スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFが正値となり、スリップ抑制制御補正係数αは当該スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFと路面摩擦係数μとに応じた正値となるため、スリップ抑制制御制動力補正値ΔTも正値となり、前後輪制動力指令値TF*、TR*は、夫々、図6に示すように前記前輪基本制動力TF0*から前記スリップ抑制制御制動力補正値ΔTを減じた値及び後輪基本制動力TR0*にスリップ抑制制御制動力補正値ΔTを和した値となる。従って、総制動力は同じで、車両に作用する減速度も同等となるが、駆動輪である前輪制動力は小さく、非駆動輪である後輪制動力は大きくなる。
【0028】ここで、前記アンチスキッド制御用目標車輪速度VwABS*、スリップ抑制制御上限値VwU*、スリップ抑制制御下限値VwL*と推定車体速VCとの関係に着目すると、スリップ抑制制御下限値VwL*の下限はアンチスキッド制御用目標車輪速度VwABS*であり、スリップ抑制制御上限値VwU*の上限は推定車体速VCであり、スリップ抑制制御上下限値VwU*、VwL*の差は所定値ΔVw0一定であるから、図7に示すように、スリップ抑制制御の制御レンジは、推定車体速VCからアンチスキッド制御用目標車輪速度VwABS*までの範囲内で、所定値ΔVw0を維持して、路面摩擦係数μが大きいほど下方(小さな値)に、路面摩擦係数μが小さいほど上方(大きな値)に設定される。
【0029】そもそも、路面摩擦係数μに対して総制動力が大きすぎる場合は、各車輪の車輪速度がアンチスキッド制御用目標車輪速度VwABS*を下回り、アンチスキッド制御が開始される。アンチスキッド制御が開始されると、前述のように回生制動はキャンセルされてしまうので、前輪のみが推定車体速VCを下回り、スリップ抑制制御の制御レンジ内に入ってくるということは、前輪の制動力が後輪の制動力よりも過大である、つまり理想制動力配分を超える回生制動力が前輪に作用している場合である。
【0030】そこで、前述のように駆動輪である平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*を下回ったら、駆動輪である前輪制動力を小さく、非駆動輪である後輪制動力を大きくして、理想制動力配分に近づけるためにスリップ抑制制御を開始する。そして、平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御下限値VwL*に達するまでの間、スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFに応じて徐々に理想制動力配分に近づけ、平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御下限値VwL*に達した時点で理想制動力配分に変更終了する。その後、平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御下限値VwL*まで復帰すると、理想制動力配分から回生制動を優先する通常の制動力配分に戻し始める。そして、平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*に達するまでの間、スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFに応じて徐々に理想制動力配分から回生制動を優先する通常の制動力配分に戻し続け、平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*に達した時点で回生制動を優先する通常の制動力配分に変更終了する。これにより、図7に示すように駆動輪である前輪の車輪速度の減速が抑制されると共に車体速度に復帰し、ロック傾向が抑制される。よって、平均前輪速度VwFがABS開始閾値となるアンチスキッド制御用目標車輪速度VwABS*を下回ってアンチスキッド制御が開始される以前に、前後輪の制動力を理想制動力配分とすることができ、ロック傾向が抑制されることでアンチスキッド制御の早期介入を防止し、その分、より広い範囲で回生制動を行うことで、エネルギ回収効率を向上することができる。また、スリップ抑制制御上限値VwU*と下限値VwL*との間で徐々に制動力配分を変更するので、急激に制動力配分を変更するのに対し、車両安定性や車両挙動への影響を極力低減することができる。
【0031】また、前述のようにスリップ抑制制御の制御レンジは、推定車体速VCからアンチスキッド制御用目標車輪速度VwABS*までの範囲内で、所定値ΔVw0を維持して、路面摩擦係数μが大きいほど下方(小さな値)に、路面摩擦係数μが小さいほど上方(大きな値)に設定される、つまり理想制動力配分への移行開始タイミングを路面摩擦係数μが小さいほどアンチスキッド制御領域から遠ざけ、理想制動力配分への移行終了タイミングを路面摩擦係数μが大きいほどアンチスキッド制御領域に近づけるようにしたことにより、路面摩擦係数μが小さいときの駆動輪のロック傾向抑制と、路面摩擦係数μが大きいときの回生制動によるエネルギ回収効率とを両立することが可能となる。
【0032】また、このようにスリップ抑制制御の制御レンジを路面摩擦係数μに応じて設定することにより、路面摩擦係数μが小さいほど、平均前輪速度VwFが前記スリップ抑制制御上限値VwU*を早く、大きく下回る。つまり、路面摩擦係数μが小さいほど、特にスリップ抑制制御初期のスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFが大きい。また、前述のように、同等のスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFに対して、路面摩擦係数μが小さいほど、スリップ抑制制御補正係数αが大きく設定される。従って、スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFとスリップ抑制制御補正係数αとの積値で与えられる前記スリップ抑制制御制動力補正値ΔTは、路面摩擦係数μが小さいほど、特にスリップ抑制制御の初期に大きくなるから、路面摩擦係数μが小さい状態での理想制動力配分への変化率が大きく且つスリップ抑制制御の初期に大きくなるので、路面摩擦係数μが小さいときの駆動輪のロック傾向抑制が確保される。逆に、前記スリップ抑制制御制動力補正値ΔTは、路面摩擦係数μが大きいほど、またスリップ抑制制御の初期でも小さいので、路面摩擦係数μが大きい状態での理想制動力配分への変化率は小さく且つスリップ抑制制御の初期でも小さいままであるので、路面摩擦係数μが大きいときのエネルギ回収効率が確保される。
【0033】次に、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。この第2実施形態は、図1に示すような路面摩擦係数検出装置11を用いることなく、運転者の制動操作によって平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*より小さくなった後、再び当該上限値VwU*まで復帰したとき、即ち一回の制御操作中に、一度、スリップ抑制制御が行われたときには、二度目以降のスリップ抑制制御のためのスリップ抑制制御上限値VwU*を大きくすることで、路面摩擦係数μが大きいときの回生制動によるエネルギ回収効率と路面摩擦係数μが小さいときの駆動輪のロック傾向抑制を両立するようにしたものである。具体的には、前記第1実施形態の回生協調制御コントロールユニット12で行われる演算処理が、前記第1実施形態の図3のものから、図8のものに変更されている。
【0034】この図8の演算処理は、まずステップS201で、前記制動流体圧コントロールユニット7から読み込んだ各車輪速度のうち、前左輪速度VwFLと前右輪速度VwFRとの平均値から駆動輪である前輪の平均前輪速度VwFを算出する。次にステップS202に移行して、運転者が制動操作しているか、つまりブレーキペダルスイッチ25がON状態であるか否かを判定し、ON状態である場合にはステップS204に移行し、そうでない場合にはステップS203に移行する。
【0035】前記ステップS203では、運転者の制動操作によって平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*より小さくなってスリップ抑制制御が行われたことを示す制御終了フラグFTHOUTと、当該スリップ抑制制御中に演算処理が行われた回数を示すカウンタNC1とを“0”のリセット状態としてからメインプログラムに復帰する。
【0036】一方、前記ステップS204では、前記制動流体圧コントロールユニット7から入力したマスタシリンダ圧Pmcを読み込む。次にステップS205に移行して、前記ステップS204で読み込んだマスタシリンダ圧Pmcに所定の比例係数K1を乗じて運転者による要求総制動力TTを算出する。
【0037】次にステップS206に移行して、前述した図2の制動力配分に則って前後輪の基本制動力TF0*、TR0*を算出すると共に、前輪の基本制動力TF0*から理想制動力配分相当の制動力を減じて超過配分制動力DETBCOMFを算出する。次にステップS207に移行して、スリップ抑制制御下限値VwL*及びスリップ抑制制御上限値VwU*を算出する後述の制御閾値算出処理を実行する。
【0038】次にステップS208に移行して、前記ステップS207の制御閾値算出処理で算出されたスリップ抑制制御上限値VwU*から前記ステップS201で算出された平均前輪速度VwFを減じてスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFを算出する。次にステップS209に移行して、前記ステップS208で算出されたスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFを用い、図9の制御マップに従ってスリップ抑制制御補正係数αを算出設定する。この図9の制御マップで設定されるスリップ抑制制御補正係数αは、前記スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFが“0”以下の領域では“0”であり、同じくスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFが前記設定定数間の所定値ΔVw0以上の領域では“1”であり、スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFが“0”から所定値ΔVw0までの間は、当該スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFの増加と共に“0”から“1”まで次第に増加する。
【0039】次にステップS210に移行して、前記ステップS209で算出設定されたスリップ抑制制御補正係数αが“0”より大きいか否かを判定し、“0”より大きい場合にはステップS211に移行し、そうでない場合にはステップS212に移行する。前記ステップS211では、前記カウンタNC1に“1”を加算してから、前記ステップS212に移行する。
【0040】前記ステップS212では、運転者の制動操作によって平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*より小さくなった後、スリップ抑制制御によって当該平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*まで復帰したか、つまり前記カウンタNC1が“1”以上であり且つ前記ステップS208で算出されたスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFが“0”以下であるか否かを判定し、前記カウンタNC1が“1”以上で且つスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFが“0”以下である場合にはステップS213に移行し、そうでない場合にはステップS214に移行する。
【0041】前記ステップS213では、前記制御終了フラグFTHOUTを“1”のセット状態としてから、前記ステップS214に移行する。前記ステップS214では、前記ステップS206で算出された超過配分制動力DETBCOMFに前記ステップS209で算出設定されたスリップ抑制制御補正係数αを乗じた補正値を前記ステップS206で算出された前輪基本制動力TF0*から減じて前輪制動力指令値TF*として算出すると共に、後輪基本制動力TR0*に当該補正値を和した値を後輪制動力指令値TR*として算出する。
【0042】次にステップS215に移行して、前記ステップS214で算出された前後輪制動力指令値TF*、TR*に基づいて、前記ステップS206と同様に回生制動力指令値及び前後輪制動流体圧制動力指令値を算出、出力してからメインプログラムに復帰する。次に、上記演算処理のステップS207で実行される制御閾値算出処理を図10のフローチャートに基づいて説明する。この演算処理は、まずステップS301で、前記制動流体圧コントロールユニット7から推定車体速VCを読み込む。
【0043】次にステップS302に移行して、前記ステップS301で読み込んだ推定車体速VCに基づき、下表を線形補間してスリップ抑制基準値VTHRCを算出する。この下表から算出されるスリップ抑制基準値VTHRCは、前記推定車体速VCが“20km/h”より大きいときには当該推定車体速VCの“98%”の大きさとなるが、前記推定車体速VCが“20km/h”以下であるときには、推定車体速VCが小さいほどスリップ抑制基準値VTHRCも小さくなり、当該推定車体速VCの“97%(VC=20km/h)、95%(VC=10km/h)”の大きさとなる。
【0044】
【表1】

【0045】このように本実施形態にあっては、推定車体速VCが小さいほど当該推定車体速VCに対するスリップ抑制基準値VTHRCの大きさを小さくして、スリップ抑制制御上限値VwU*を小さくする構成としたため、アンチスキッド制御時に、駆動輪がロック傾向となっても不具合を生じることがない極低速域において、理想制動力配分への移行開始タイミングが遅くすることができ、回生制動によるエネルギ回収効率が向上される。言い換えると、不要なスリップ抑制制御の介入を防ぐことができる。
【0046】次にステップS303に移行して、前記ステップS302で算出されたスリップ抑制基準値VTHRCに基づき、下記(1)式に従ってスリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINX及びスリップ抑制制御基準上限値VRMDRCOUTXを算出する。
VRMDRCINX=MAX(0,VTHRC―KVTHIN)
VRMDRCOUTX=MAX(0,VTHRC―KVTHOUT)………(1)
ここで、KVTHIN,KVTHOUTは定数であり、それぞれ“2km/h”、“1km/h”である。なお、本実施形態では、KVTHIN,KVTHOUTを定数とする例を示したが、これに限定されるものではなく、例えば路面摩擦係数検出装置11から検出される路面摩擦係数μに応じた値としてもよい。
【0047】このように本実施形態では、推定車体速VCに応じてスリップ抑制基準値VTHRCを算出すると共に、当該スリップ抑制基準値VTHRCから定数KVTHIN,KVTHOUTを減じてスリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINX及びスリップ抑制制御基準上限値VRMDRCOUTXを設定する構成としたため、推定車体速VCからスリップ抑制基準値VTHRCを算出するための上表や演算式を変更するだけで、当該スリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINX及びスリップ抑制制御基準上限値VRMDRCOUTXを各車両に応じて容易にチューニングすることができる。ちなみに、推定車体速VCから定数KVTHIN、KVTHOUTを減じてスリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINX及びスリップ抑制制御基準上限値VRMDRCOUTXを設定する方法では、スリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINX及びスリップ抑制制御基準上限値VRMDRCOUTXそれぞれを算出するための表や演算式が必要とされ、複雑となり、チューニングに手間がかかることになる。
【0048】次にステップS304に移行して、前記ステップS303で算出されたスリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINXが前記制動流体圧コントロールユニット7で算出されたアンチスキッド制御用目標車輪速度VwABS*以下であるか否かを判定し、当該スリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINXがアンチスキッド制御用目標車輪速度VwABS*以下である場合にはステップS305に移行し、そうでない場合にはステップS306に移行する。
【0049】前記ステップS305では、前記アンチスキッド制御用目標車輪速度VwABS*をスリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINXに設定すると共に、このスリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINXに前記定数KVTHIN,KVTHOUT間の差である所定値ΔVw0を加えた値をスリップ抑制制御基準上限値VRMDRCOUTXに設定してから前記ステップS306に移行する。
【0050】前記ステップS306では、運転者の一回の制動操作中に、平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*より小さくなった後、スリップ抑制制御によって当該平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*まで復帰したか、即ち一回の制動操作中に一度でもスリップ抑制制御が実行終了したか否か、つまり前記カウンタNC1が“1”以上であり且つ前記ステップS208で算出されたスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFが“0”以下であるか否かを判定し、前記カウンタNC1が“1”以上で且つスリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFが“0”以下である場合にはステップS308に移行し、そうでない場合にはステップS307に移行する。
【0051】前記ステップS307では、前記ステップS303又はS305で算出されたスリップ抑制制御基準上限値VRMDRCOUTX及びスリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINXを、夫々スリップ抑制制御上下限値VwU*、VwL*(スリップ抑制制御一回目用の上下限値VwU*、VwL*)とする。前記ステップS308では、前記ステップS303又はS305で算出されたスリップ抑制制御基準上限値VRMDRCOUTX及びスリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINXに、図11の制御マップで設定される補正値KADVTHを加算して、夫々スリップ抑制制御上下限値VwU*、VwL*(スリップ抑制制御二回目以降用の上下限値VwU*、VwL*)とする。この図11の制御マップで設定される補正値KADVTHは、運転者の制動操作によって平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*より小さくなった後、スリップ抑制制御によって当該スリップ抑制制御上限値VwU*まで復帰するまでの時間が大きくなるほど、つまり前記カウンタNC1に制御周期Tを乗じて算出される経過時間Δtが大きくなるほど大きく設定される。
【0052】なお、本実施形態では、運転者の制動操作によって平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*より小さくなった後、スリップ抑制制御によって当該スリップ抑制制御上限値VwU*まで復帰するまでの時間に応じて補正値KADVTHを設定する例を示したが、これに限定されるものではなく、例えば平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御下限値VwL*より小さくなった後、スリップ抑制制御によって当該スリップ抑制制御下限値VwL*まで復帰するまでの時間に応じて補正値KADVTHを設定するようにしてもよい。
【0053】この演算処理によれば、図12に示すように、駆動輪である平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*を下回ったときに(時刻t1)、カウンタNC1による計数を開始すると共に、駆動輪である前輪制動力を小さく、非駆動輪である後輪制動力を大きくして、理想制動力配分に近づけるためにスリップ抑制制御を開始する。そして、平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御下限値VwL*に達するまでの間、スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFに応じて徐々に理想制動力配分に近づけ、平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御下限値VwL*に達した時点で理想制動力配分に変更終了する。その後、平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御下限値VwL*まで復帰すると、理想制動力配分から回生制動を優先する通常の制動力配分に戻し始める。そして、平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*に達するまでの間、スリップ抑制制御前輪速度差ΔVwFに応じて徐々に理想制動力配分から回生制動を優先する通常の制動力配分に戻し続け、平均前輪速度VwFがスリップ抑制制御上限値VwU*に達した時点で回生制動を優先する通常の制動力配分に変更終了すると共に、制御終了フラグFTHOUTをセット状態とする(時刻t2)。
【0054】そして制御終了フラグFTHOUTがセット状態とされたときに、スリップ抑制制御基準上限値VRMDRCOUTXに補正値KADVTHを加算したものをスリップ抑制制御上限値VwU*とし、理想制動力配分への移行開始タイミングをアンチスキッド制御領域から遠ざけるようにすることで(なお、時刻t2の時点から、平均前輪速度VwFが補正値KADVTHを加算したスリップ抑制制御上限値VwU*まで復帰するまでは、時刻t2時点の前後制動力配分を保持するようになっている)、再び平均前輪速度VwFが小さくなったときには当該理想制動力配分への移行が開始されやすくなり(時刻t3)、特に路面摩擦係数μが小さいときの駆動輪のロック傾向抑制が確保される。なお、路面摩擦係数μが小さいときは、車輪の減速度が大きいため、閾値を割ってスリップ抑制制御に入っても間に合わない場合があるので、路面摩擦係数μが小さい場合には、スリップ抑制制御が介入し易くしておくのがよい。ちなみに、最初からスリップ抑制制御上限値VwU*を大きくしておく方法では、路面摩擦係数μが大きいときにも理想制動力配分への移行が開始されやすくなるので、回生制動によるエネルギ回収効率が低下する恐れがある。
【0055】また同時に、スリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINXに補正値KADVTHを加算したものをスリップ抑制制御下限値VwL*とし、理想制動力配分への変更終了タイミングをアンチスキッド制御領域から遠ざけるようにすることで、駆動輪のロック傾向がより確実に抑制される。また、このようにスリップ抑制制御基準上限値VRMDRCOUTXやスリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINXに加算される補正値KADVTHを、駆動輪である平均前輪速度VwFが復帰するまでの経過時間Δtに応じて大きくすることにより、路面摩擦係数μが小さいために当該平均前輪速度VwFがなかなか復帰しないときには、当該スリップ抑制制御基準上限値VRMDRCINXやスリップ抑制制御基準下限値VRMDRCINXと補正値KADVTHとの加算値で与えられるスリップ抑制制御上限値VwU*やスリップ抑制制御下限値VwL*が大きくなり、理想制動力配分への変更開始タイミングや変更終了タイミングがアンチスキッド制御領域から遠ざけられ、路面摩擦係数μが小さいときの駆動輪のロック傾向抑制が確保される。
【0056】以上より、前記ハイブリッドシステムコントロールユニット9が本発明の電動機制御手段を構成し、以下同様に、前記図3の演算処理のステップS12が電動機駆動輪ロック傾向検出手段を構成し、前記図3の演算処理全体が制動力制御手段を構成し、前記制動流体圧コントロールユニット7がアンチスキッド制御手段及び回生制動解除手段を構成し、前記路面摩擦係数検出装置11及び図3の演算処理のステップS4が路面摩擦係数状態検出手段を構成し、前記図1のブレーキペダルスイッチ25が制動操作検出手段を構成し、前記制動流体圧コントロールユニット7が車体速検出手段を構成している。
【0057】また、上記実施形態では、目標車輪速度をアンチスキッド制御やスリップ抑制制御のファクターとしているが、目標車輪速度の代わりに車輪のスリップ率やスリップ量をファクターとしても構わない。
【出願人】 【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地
【出願日】 平成14年7月3日(2002.7.3)
【代理人】 【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也 (外2名)
【公開番号】 特開2003−174703(P2003−174703A)
【公開日】 平成15年6月20日(2003.6.20)
【出願番号】 特願2002−194241(P2002−194241)