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【発明の名称】 電動車両
【発明者】 【氏名】脇谷 勉
【住所又は居所】埼玉県和光市中央1丁目4番1号 株式会社本田技術研究所内

【要約】 【課題】電動モータで走行する車両の前進、中立、後進を、1本の方向速度制御部材で制御する形式の電動車両では、方向速度制御部材を高速で前進範囲から後進範囲へ切換えると、電動モータを瞬時に逆転させなければならず、モータ回路に電気的な過負荷が掛り、望ましくない。

【解決手段】図(e)のP25点(走行速度ゼロになったとき)から、(b)において時間t4と時間t1と時間t2の経過を待る。時間が経過したP28点から制御信号出力を増加して車両を走行させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 電動モータで走行する車両の前進、中立、後進を、1本の方向速度制御部材で制御する形式の電動車両において、この電動車両は、前記方向速度制御部材が中立範囲を通過するに要する時間がしきい値より短いことを確認するステップと、前記方向速度制御部材が中立範囲から後進範囲に移る時点で電動モータがまだ前進方向に回転していることを確認するステップと、この2つの条件が満たされたときには、電動モータの速度がゼロになるまで待つステップと、電動モータの速度がゼロに達したときから、モータ回路の正逆切換えに必要な時間t4が経過するまで待つステップと、この後に通常の後進運転制御へ移行するステップと、からなる制御を実施する制御部を備えていることを特徴とする電動車両。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電動車両の起動時制御に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば、特開平3−98404号公報「小型電動車」に示される電動車は、同公報の第2図に示され通りに、モータ6とモータ駆動回路18(符号は公報記載のまま。)と電磁ブレーキ20と制御装置17とアクセル用設定ボリューム11aと高低速設定及び前後進切換用スイッチ12を備えており、このスイッチ12で前進と後進とを選択でき、低速、中速、高速の何れかの速度を選択することができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記公報の詳細な説明の欄には説明がないが、スイッチ12で前進から後進へ方向を切換える場合には、アクセル用設定ボリューム11aをゼロ(モータ回転ゼロ)に戻してからスイッチ12の前後切換えを実行する。
【0004】しかし、何らかの理由により、アクセル用設定ボリューム11aを戻さずにスイッチ12を前進から後進へ切換えることがある。この結果、モータ駆動回路18のプラス・マイナスを逆転しなければならず、モータ駆動回路18を構成するスイッチ素子に大きな負荷が掛る。負荷に耐え得る大きな容量のスイッチ素子を採用する必要がある。
【0005】大きな容量のスイッチ素子は必然的に高価で、大型になる。このことが車両のコストを押上げることになり、好ましいことではない。
【0006】そこで、本発明の目的はモータ制御回路に掛る負担を軽減することのできる技術を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために請求項1は、電動モータで走行する車両の前進、中立、後進を、1本の方向速度制御部材で制御する形式の電動車両において、この電動車両は、方向速度制御部材が中立範囲を通過するに要する時間がしきい値より短いことを確認するステップと、方向速度制御部材が中立範囲から後進範囲に移る時点で電動モータがまだ前進方向に回転していることを確認するステップと、この2つの条件が満たされたときには、電動モータの速度がゼロになるまで待つステップと、電動モータの速度がゼロに達したときから、モータ回路の正逆切換えに必要な時間t4が経過するまで待つステップと、この後に通常の後進運転制御へ移行するステップと、からなる制御を実施する制御部を備えていることを特徴とする。
【0008】通常の前後進運転制御では、方向速度制御部材の位置に応じて前進、中立、後進及び速度を一義的に決定する。しかし、方向速度制御部材を極めて高速で前進から中立を経由して後進へ移動したときには、電動モータが停止する前に後進制御により逆方向の電流を電動モータへ供給することになり、モータ回路に電気的に大きな負担が掛る。
【0009】そこで、請求項1では、方向速度制御部材は「通常」速度で切換えられたか、「高速」で切換えられたかを先ず判断し、「高速」で切換えられたと判断したときには、電動モータの速度がゼロになるまで待ち、更にモータ回路の正逆切換えに必要な時間t4が経過するまで待ってから、後進制御を実施することにした。これにより、モータ回路に掛る電気的負担を軽減することができ、スイッチ素子の小容量化が可能となり、回路の低コスト化が図れる。
【0010】ただし、必要でないときに時間t4の待ちを設けるとそれだけ制御が煩雑になると共に待ち時間の増加により、通常運転に影響がでる。そこで、走行速度が低速であるときに、方向速度制御部材を高速で前進から後進へ切換えた場合であっても対象外として、運転の円滑化を図るようにした。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は作業者から見た方向に従い、Lは左側、Rは右側を示す。また、図面は符号の向きに見るものとする。
【0012】図1は本発明に係る除雪機の平面図であり、電動車両としての除雪機10は、機体11にエンジン12を搭載し、機体11の前部に作業部としてのオーガ13及びブロア14を装備し、機体11の左右にクローラ15L,15Rを配置し、機体11の後部に操作盤16を配置した車両であり、作業者が操作盤16の後から連れ歩く歩行型作業機である。以下、要部を詳細に説明する。なお、操作盤16は図2で詳しく説明する。
【0013】エンジン12の出力の一部で、発電機17を回し、得た電力を操作盤16の下方に配置したバッテリ(図4の符号43参照)に供給すると共に、後述する左右の走行モータに供給する。エンジン12の出力の残部は、電磁クラッチ18及びベルト19を介して作業部としてのブロア14及びオーガ13の回転に充てる。オーガ13は地面に積もった雪を中央に集める作用をなし、この雪を受け取ったブロア14はシュータ21を介して雪を機体11の周囲の所望の位置へ投射する。22はオーガハウジングであり、オーガ13を囲うカバー部材である。
【0014】左のクローラ15Lは、駆動輪23Lと遊動輪24Lとに巻き掛けたものであり、本発明では駆動輪23Lは左の走行モータ25Lで正逆転させる。右のクローラ15Rも、駆動輪23Rと遊動輪24Rとに巻き掛けたものであり、本発明では駆動輪23Rは右の走行モータ25Rで正逆転させる。
【0015】従来の除雪機では1個のエンジン(ガソリンエンジン又はジーゼルエンジン)で作業部系(オーガ回転系)と走行系(クローラ駆動系)とを賄っていたが、本発明ではエンジン12で作業部系(オーガ回転系)を駆動し、電動モータ(走行モータ25L,25R)で走行系(クローラ駆動系)を駆動するようにしたことを特徴とする。細かな走行速度の制御、旋回制御及び前後進切換え制御は電動モータが適当であり、一方、急激な負荷変動を受ける作業部系はパワーのある内燃機関が適当であるとの考えに基づいて、そのようにした。
【0016】図2は図1の2矢視図であり、操作盤16には、操作箱27の手前の側面にメインスイッチ28、エンジンチョーク29、クラッチ操作ボタン31などを備え、操作箱27の上面に、投雪方向調節レバー32、オーガハウジング姿勢調節レバー33、走行系に係る方向速度制御部材としての方向速度レバー34、作業部系に係るエンジンスロットルレバー35を備え、操作箱27の右にグリップ36R及び右旋回操作レバー37Rを備え、操作箱27の左にグリップ36L、左旋回操作レバー37L及び走行準備レバー38を備える。
【0017】左右旋回操作レバー37L,37Rはブレーキレバーに近似するが、後述するとおりに完全な制動効果は得られない。操作することで走行モータ25L,25Rの回転を落として機体をターンさせることに使用するため、ブレーキレバーと言わずに旋回操作レバーと呼ぶことにした。
【0018】メインスイッチ28はメインキーを差込み、回すことでエンジンを始動することのできる周知のスイッチである。エンジンチョーク29は引くことで混合気の濃度を高めることができる。投雪方向調節レバー32は、シュータ(図1の符号21)方向を変更するときに操作するレバーであり、オーガハウジング姿勢調節レバー33はオーガハウジング(図1の符号22)の姿勢を変更するときに操作するレバーである。その他の部材の作用は、図4で説明する。
【0019】図3は図2の3矢視図であり、左旋回操作レバー37Lを握ることにより、ポテンショメータ39Lのアーム39aの角度を想像線の位置まで回転することができる。ポテンショメータ39Lはアーム39aの回転位置に応じた電気情報を発する機器である。
【0020】また、走行準備レバー38はスイッチ手段42に作用する部材であり、スプリング41の引き作用により、図の状態(フリー状態)になればスイッチ手段42はオンになる。作業者の左手で走行準備レバー38を図時計回りに下げれば、スイッチ手段42はオフとなる。このように、走行準備レバー38が握られているか否かはスイッチ手段42で検出することができる。
【0021】図4は本発明に係る除雪機の制御系統図であり、操作盤に内蔵若しくは付設した制御部44内の機器及び情報伝達経路を示すが、概ね四角は機器、丸はドライバーを示す。そして、想像線枠で囲ったエンジン12、電磁クラッチ18、ブロア14及びオーガ13が作業部系45であり、その他は走行系となる。43はバッテリである。なお、制御部44内に破線で指令の流れを便宜上示したが、これはあくまでも参考的記載に過ぎない。
【0022】先ず、作業部系の作動を説明する。メインスイッチ28にキーを差込み、回してスタートポジションにすることにより、図示せぬセルモータの回転によりエンジン12を始動させる。エンジンスロットルレバー35は図示せぬスロットルワイヤでスロットルバルブ48に繋がっているので、エンジンスロットルレバー35を操作することでスロットルバルブ48の開度を制御することができる。これにより、エンジン12の回転数を制御することができる。
【0023】走行準備レバー38を握ると共に、クラッチ操作ボタン31を操作することにより、作業者の意志で電磁クラッチ18を接続し、ブロア14及びオーガ13を回すことができる。なお、走行準備レバー38をフリーにするかクラッチ操作ボタン31を操作するかの何れかにより、電磁クラッチ18を断状態にすることができる。
【0024】次に走行系の作動を説明をする。本発明の除雪機は、普通車両のパーキングブレーキに相当するブレーキとして、左右の電磁ブレーキ51L,51Rを備えており、これらの電磁ブレーキ51L,51Rは、駐車中は制御部44の制御により、ブレーキ状態にある。そこで、次の手順で電磁ブレーキ51L,51Rを開放する。
【0025】メインスイッチ28がスタートポジションにあること及び走行準備レバー38が握られていることの2つの条件が満たされ、方向速度レバー34を前進又は後進(図5で説明する。)に切換えると、電磁ブレーキ51L,51Rは開放(非ブレーキ)状態になる。
【0026】図5は本発明で採用した方向速度レバーの作用説明図であり、方向速度レバー34は、作業者の手で、矢印■,■の如く往復させることができ、「中立範囲」より「前進」側へ倒せば車両を前進させることができ、且つ「前進」領域においては、Lfが低速前進、Hfが高速前進となるように、速度制御も行える。同様に、「中立範囲」より「後進」側へ倒せば車両を後進させることができ、且つ「後進」領域においては、Lrが低速後進、Hrが高速後進となるように、速度制御も行える。この例では、図の左端に付記した通りに、後進の最高速が0V(ボルト)、前進の最高速が5V、中立範囲が2.3V〜2.7Vになるようにポテンショメータでポジションに応じた電圧を発生させる。1つのレバーで前後の方向と高低速の速度制御とを設定できるので、方向速度レバー34と名付けた。
【0027】図4に戻って、方向速度レバー34の位置情報をポテンショメータ49から得た制御部44は、左右のモータドライバー52L,52Rを介して左右の走行モータ25L,25Rを回し、走行モータ25L,25Rの回転速度を回転センサ53L,53Rで検出して、その信号に基づいて回転速度を所定値になるようにフィードバック制御を実行する。この結果、左右の駆動輪23L,23Rが所望の方向に、所定の速度で回り、走行状態となる。
【0028】走行中の制動は次の手順で行う。本発明ではモータドライバー52L,52Rに回生ブレーキ回路54L,54Rを含む。
【0029】一般論としてバッテリから電動モータへ電気エネルギーを供給することで、電動モータは回転する。一方、発電機は回転を電気エネルギーに変換する手段である。そこで、本発明では電気的切換えにより、走行モータ25L,25Rを発電機に変え、発電させるようにした。発電電圧がバッテリ電圧より高ければ、電気エネルギーはバッテリ43へ蓄えることができる。これが回生ブレーキの作動原理である。
【0030】左旋回操作レバー37Lの握りの程度をポテンショメータ39Lで検出し、この検出信号に応じて制御部44は左の回生ブレーキ回路54Lを作動させて、左の走行モータ25Lの速度を下げる。右旋回操作レバー37Rの握りの程度をポテンショメータ39Rで検出し、この検出信号に応じて制御部44は右の回生ブレーキ回路54Rを作動させて、右の走行モータ25Rの速度を下げる。すなわち、左旋回操作レバー37Lを握ることで左旋回させることができ、右旋回操作レバー37Rを握ることで右旋回させることができる。
【0031】そして、次の何れかにより走行を停止することができる。方向速度レバー34を中立位置に戻す。走行準備レバー38を離す。メインスイッチ28をオフ位置に戻す。
【0032】この停止は短絡ブレーキ回路55L,55Rを用いて実行する。短絡ブレーキ回路55Lは、文字通り走行モータ25Lの両極を短絡させる回路であり、この短絡により走行モータは急制動状態になる。短絡ブレーキ回路55Rも同様であるから説明を省略する。
【0033】停止後にメインスイッチ28をオフ位置に戻せば、電磁ブレーキ51L,51Rがブレーキ状態となり、パーキングブレーキを掛けたことと同じになる。
【0034】図6(a),(b)は本発明で採用した電動モータの回路図及びモード表である。(a)において、走行モータ25Lの制御回路56Lのハイフレーム(回路の上半分)を電源58に結線し、ローフレーム(回路の下半分)をアース59に落とし、左ハイフレームにEドライブ素子61、左ローフレームにFドライブ素子62を配置し、右ハイフレームにGドライブ素子63、右ローフレームにHドライブ素子64を配置し(E〜Hは便宜上添えた。)、これらのE〜Hドライブ素子61〜64にダイオード65〜68をバイパス回路として付設する。E〜Hドライブ素子61〜64は図示せぬドライバで電気的にオン、オフ制御を行う。走行モータ25Rも同様であり、図示及び説明を省略する。なお、ドライブ素子はスイッチ素子と同じである。
【0035】前記E〜Hドライブ素子61〜64は、FETと称する電界効果型トランジスタが好適である。普通のトランジスタが電流で働く低い、インピーダンス素子であるのに対して、FETは電圧で働く、高いインピーダンス素子である。インピーダンスが高いため、図の様な回路56Lに介在させるのに適した素子であると言える。しかし、FETは電子部品としては動作が鈍く、動作時間が長くなるという欠点を有する。この動作時間に相当する時間をt2とする。この時間t2は後の説明で使用する。
【0036】(b)は走行モータの回路におけるモード表であり、左にモード名、その右にE〜Hドライブ素子の状態をON又はOFFで示した。第1行の短絡ブレーキモードでは、Fドライブ素子とHドライブ素子とをONにし、Eドライブ素子とGドライブ素子とをOFFにする。(a)において電源58と走行モータ25Lとは切り離し、ローフレーム側に短絡回路を形成する。これにより、走行モータ25Lに急制動が掛る。この状態を短絡ブレーキと言う。
【0037】第2行の前進モードでは、Eドライブ素子とHドライブ素子とをONにし、Fドライブ素子とGドライブ素子とをOFFにする。(a)において電流はEドライブ素子61、走行モータ25L、Hドライブ素子64の順で流れるため、走行モータは正転回転する。第3行の後進モードはその逆であるから、逆転回転する第4行のフリーモードでは、E〜Hドライブ素子のすべてをOFFにした。走行モータに電流が流れないため、空転自在となる。
【0038】以下に、方向速度制御部材が「通常」速度で切換えられたか、「高速」で切換えられたかを先ず判断を図7,図8で説明し、「通常」速度で切換えられたときの通常運転制御を図9,図10で説明し、「高速」で切換えられたときの本発明の運転制御を図11,図12で説明する。
【0039】図7(a)〜(f)は本発明の方向速度レバーと走行速度の関係を示すグラフであり、横軸は全て時間軸である。なお、(a),(b)は「通常」速度で方向速度レバーを移動させたときに相当し、(c)〜(f)は「高速」で方向速度レバーを移動させたときに相当する。
【0040】(a)は縦軸が方向速度レバーのポジションを示し、前進位置にあった方向速度レバーをP1点から比較的低速で後進側へ移動させたことを示す。(b)は走行速度を示し、P2点から徐々に速度が小さくなるごとくに、ほぼ方向速度レバーのポジションに走行速度が倣う。
【0041】(c)では前進高速位置にある方向速度レバーを高速で後進高速位置へ切換えたことを示し、P3点で中立範囲に入り、P4点で中立範囲から抜けたことを示す。(d)は(c)に対応する走行速度を示し、走行速度はP2点で下降を開始するが、車両質量による慣性力の影響で走行速度がゼロになるP5点が、P4点((c)のP4点と同じ。)より遅れたことを示す。P4点からP5点までの間では、方向速度レバーは後進範囲にあるが電動モータはまだ正転中であり、この状態で電動モータを逆転させることは、避けなければならない。電気的に過負荷になるからである。
【0042】なお、(c)でP3点からP4点までの時間ΔTは方向速度レバーが中立範囲を通過するに要する時間となる。この時間ΔTが、しきい値Tstd(この値は次図で使用する。)以内であれば、方向速度レバーを「高速」で前進から後進まで移動したと判別することができる。
【0043】(e)では前進低速位置にある方向速度レバーを高速で後進低速位置へ切換えたことを示す。(f)は(e)に対応する走行速度を示し、P7点で走行速度がゼロになる。この例では、低速から減速を開始したため慣性力は小さく、あまり慣性力の影響を受けること無く直に速度がゼロになったことを示す。このP7点はP6点((e)で中立範囲から後進範囲へ移るP6点)より前にある。このことは、(d)とは全く異なる。
【0044】すなわち、(f)においてP6点では既に走行速度がゼロであるから、P6点で後進起動することは差しつかない。電気的過負荷状態の虞れがないからである。
【0045】図8は図7に対応する運転制御フロー図であり、ST××はステップ番号を示す。また、図中(A)は図10、(B)は図12のトップへ飛ぶことを示す。
【0046】ST01にて、中立範囲経過時間ΔT(図7(a),(c)参照)を読み込む。ST02にて、中立範囲経過時間ΔTがしきい値Tstd以下であるか否かを調べ、NOであれば「通常」速度であると判断して(A)へ進み、YESであれば、ST03へ進む。
【0047】ST03にて、中立範囲から後進範囲へ移る時点での走行速度Vcを読込む。具体的には、図4の回転センサ54L,54Rからの信号を読み込む。ST04にて、車両がまだ前進中であるか否かを調べる。具体的には、Vcがゼロでなく、且つ電動モータの回転方向が前進側であれば、前進中であると看做す。NOであれば図7(f)で説明した理由により、通常の運転に移行することは差支えないと判断し(A)へ進み、YESであれば(B)へ進む。
【0048】図9(a)〜(d)は本発明の通常起動制御を説明するタイムチャートであり、横軸は全て時間軸である。(a)では縦軸は方向速度レバーのポジションを示し、中立範囲(前進範囲から中立範囲へ移動したものを含む。)にあった方向速度レバーを横軸のP1点で後進側へ人為的に移動を開始したとする。横軸のP12点で中立範囲と前進範囲との境目(図5の2.3V参照)を過ぎる。以降、方向速度レバーを継続して移動させたとする。
【0049】(b)では縦軸は走行モータの制御信号出力を示す。この制御信号出力はPI制御ならPI出力、PID制御ならPID出力に相当する。本実施例では、フルスケール100%のうち、下10%、上10%をカットした10〜90%の範囲で走行制御を行う。(a)のP12点までは方向速度レバーが中立範囲にあるため、(b)での制御信号出力は10%未満の5%に設定する。制御信号出力は0でもよいが、5%に設定すれば断線等の故障を検出するのに便利である。すなわち、5%で正常、5%未満で断線と識別することが可能となる。
【0050】そして、(b)においてP12点から更に時間t1だけ経過したP13点で制御信号出力を10%で増加するようにした。時間t1は電磁ブレーキが開放開始から解放完了するまで開放所要時間である。ただし、電磁ブレーキが制動状態から開放状態に切換わるのに要する時間を実測したとしても機械的要素のばらつきから電磁ブレーキ毎に差がでる。そこで、時間t1に、実測値の平均値などに基づいて人為的に定めた値を使用する。時間t2についても同様である。
【0051】なお、時間t1は電磁ブレーキの大きさや構造によって変化するが、概ね数ms〜十msに設定する。時間t2も同様に概ね数ms〜数十msに設定する。
【0052】さらに、(b)において、P13点から時間t2経過したP14点から、制御信号出力を増加に転ずるようにした。(a)で方向速度レバーが中立範囲から抜けるP12点に達したら、直ちに(b)で制御信号出力を10%以上に増加してもよさそうであるが、本例では敢えて待ち時間(t1+t2)を設けた。
【0053】(c)は電磁ブレーキの作動状態を示し、P12点までは、(a)の方向操作レバーが中立範囲にあるため、制御部の指令により電磁ブレーキは制動状態にある。P12点で制御部は電磁ブレーキを開放を開始するので、曲線は斜めに上り、開放へ向う。P13点で電磁ブレーキは開放を完了する。すなわち、P12点からP13点まで時間が電磁ブレーキの開放に要する時間t1に合致する。
【0054】(d)はモータ回路のモード変化を示す図であり、P12点までは制御部の指令によりモータ回路はフリーモード(図6(b)参照)にする。このフリーモードではモータは空転自在である。P12点からP13点までの間は制御部の指令で短絡ブレーキモード(図6(b)参照)にする。前記(c)においてP12点〜P13点間で電磁ブレーキを開放するため、代りに短絡ブレーキを効かせることにした。これで、走行モータは制動状態になる。
【0055】(e)では縦軸は走行速度を示し、(b)で制御信号出力が10%を超えた時点(P14)で、(e)における走行速度が0を超えて走行状態になることを示す。
【0056】この例では、時間t1を設けたので、電磁ブレーキが制動状態にあるうちに電動モータを作動状態にするという不都合が発生することを防止することができる。これで、引き摺りを防止することができ、電磁ブレーキの寿命を延ばすことができる。また、時間t2を設けたので、短絡ブレーキモードから現実にモータを回転させるまでに時間を稼ぐことができる。これにより、図6(a)に示したドライブ素子61〜64にかかる電気的な負担を軽減することができ、ドライブ素子61〜64の長寿命化若しくは小型化が図れる。
【0057】もう一つ重要なことは、(e)において、P12点〜P13点間では電動モータに対する制御信号出力が5%((b)参照)であるため、短絡ブレーキ状態ではあるものの電動モータにおいてトルクは発生していない。これに対して、P13点〜P14点間では電動モータに対する制御信号出力が10%((b)参照)であり、回路が前進モードであるため、始動直前の小さなトルクが発生している。そのため、P13点〜P14点間では短絡ブレーキの代わりに電動モータで外力に対向する力(走行させるには至らぬ小さなトルク)を発生させる。この結果、P13点〜P14点間でも坂道を車両が下がる虞れはない。
【0058】図10は図9に対応する運転制御フロー図である。(A)は図8から連続することを意味する。
ST11:この時点の諸設定を列挙した。すなわち、方向速度レバーが中立位置にあり、電動モータ制御信号出力が5%(図7(b)参照)であり、モータ回路はフリーモード(図6(b)参照)であることが前提となる。
【0059】ST12:方向速度レバー(図4の符号34)が後進(又は前進であってもよい。)であるか否かを調べる。NOであれば、リターンさせることで制御は行わない。YESであれば、ST13に進む。
ST13:以上の条件が満たされれば、制御部は電磁ブレーキ(図4の符号51L,51R)の開放を開始する。ただし、電磁ブレーキは開放完了まではある程度の時間が必要である。
【0060】ST14:制御部は同時にモータ回路を短絡ブレーキモード(図6(b)参照)に切換える。
ST15:制御部に内蔵する第1タイマを始動させる。
ST16:第1タイマのカウント時間T1が、電磁ブレーキの開放に要する時間t1に達したか否かを調べる。達したらST17に進む。
【0061】ST17:制御部はモータ回路を後進モード(又は前進モードであってもよい。)に切換える。前進か後進かは方向速度レバーに従う。
ST18:同時に制御部は電動モータ制御信号出力を10%(図9(b)P13点参照)に変更する。
ST19:制御部に内蔵する第2タイマを始動させる。
ST20:第2タイマのカウント時間T2が、短絡ブレーキ解消に要する時間t2に達したか否かを調べる。達したらST21に進む。
ST21:制御部は電動モータ制御信号出力を、方向速度レバーのポジションに応じて出力まで増加する(図9(b)のP14点以降)。これで、車両は走行を開始する。
【0062】図11は(a)〜(d)は本発明の高速切換え時起動制御を説明するタイムチャートであり、横軸は全て時間軸である。(a)にて、縦軸は方向速度レバーのポジションを示し、前進範囲にある方向速度レバーを高速で後進範囲へ移動したことを示す。P21点で中立範囲に向い、P22点で中立範囲に入り、P23点で中立範囲から抜けたとする。(b)にて、縦軸は電動モータの制御信号出力を示すが、方向速度レバーが高速で移動したため、信号出力の低減処理が間に合わずにP22点より遅れたP24点で10%に到達し、その直後に5%に下げたことを示す。
【0063】(c)は電磁ブレーキの作動状態を示し、(b)のP24点に対応するタイミングで開放から制動へ切換わる。ただし、この切換えには時間が掛るため、斜めの曲線で示した。(d)はモータ回路の状態を示し、前進モードであったモータ回路を、P24点で短絡ブレーキモードに切換える。これは、(c)の電磁ブレーキ開放を補うための処理である。
【0064】(e)は走行速度を示し、方向速度レバーが高速で移動したため、車両の停止が間に合わず、P25点でようやく電動モータの速度がゼロになったとする。このP25点は(a)のP23点より遅い。このP25点の時点で、(d)においてモータ回路をフリーモードに切換え、(b)において第3タイマをスタートさせて時間t4の経過を待つ。この時間t4はモータ回路を正転から逆転に切換えるに要する時間であり、数ms〜数十msに設定する。
【0065】(b)で時間t4が経過したP26点で第1タイマをスタートし、同時に(c)で電磁ブレーキを開放しはじめ、(d)のモータ回路を短絡ブレーキモードに切換える。(b)で時間t1が経過したP27点で第2タイマをスタートし、同時に制御信号出力を10%に増加し、(d)のモータ回路を後進モードに切換える。
【0066】更に(b)で時間t2が経過したP28点で、制御信号出力を10%超にする。すなわち、方向速度レバーの位置に対応する大きさの制御信号出力まで増加する。この結果、(e)に示す通りに、車両は後進し始める。
【0067】図12は図11に対応する制御フロー図である。(B)は図8から連続することを意味する。
ST31:走行速度Vcがゼロになるまで待つ。YESで次に進むが、このタイミングは図11(e)のP25点に相当する。
ST32:モータ回路をフリーモードに切換える。フリーモードは回路中のドライブ素子を全てオフにするため、一旦、リセットを掛けたのと同等になる。この後にドライブ素子を後進側に切換えても、ドライブ素子に電気的に過負荷が掛る虞れはない。
【0068】ST33:制御部に内蔵する第3タイマを始動させる。
ST34:第3タイマのカウント時間T4が経過したらST35に進む。
ST35:以上の条件が満たされれば、制御部は電磁ブレーキ(図4の符号51L,51R)の開放を開始する。ただし、電磁ブレーキは開放完了まではある程度の時間が必要である。
【0069】ST36:制御部は同時にモータ回路を短絡ブレーキモード(図6(b)参照)に切換える。
ST37:制御部に内蔵する第1タイマを始動させる。
ST38:第1タイマのカウント時間T1が、電磁ブレーキの開放に要する時間t1に達したか否かを調べる。達したらST39に進む。
【0070】ST39:制御部はモータ回路を後進モードに切換える。
ST40:同時に制御部は電動モータ制御信号出力を10%に変更する。
ST41:制御部に内蔵する第2タイマを始動させる。
ST42:第2タイマのカウント時間T2が、短絡ブレーキ解消に要する時間t2に達したか否かを調べる。達したらST43に進む。
ST43:制御部は電動モータ制御信号出力を、方向速度レバーのポジションに応じて出力まで増加する。これで、車両は走行を開始する。
【0071】すなわち、本発明は電動モータで走行する車両の前進、中立、後進を、1本の方向速度制御部材で制御する形式の電動車両において、この電動車両は、方向速度制御部材が中立範囲を通過するに要する時間がしきい値より短いことを確認するステップ(図8のST02)と、方向速度制御部材が中立範囲から後進範囲に移る時点で電動モータがまだ前進方向に回転していることを確認するステップ(図8のST04)と、この2つの条件が満たされたときには、電動モータの速度がゼロになるまで待つステップ(図12のST31)と、電動モータの速度がゼロに達したときから、モータ回路の正逆切換えに必要な時間t4が経過するまで待つステップ(図12のST34)と、この後に通常の後進運転制御へ移行するステップ(図12のST35以降)と、からなる制御を実施する制御部を備えていることを特徴とする。
【0072】尚、本発明を適用する電動車両は除雪機に限るものではなく、電動運搬車、電動ゴルフカートなどの電動車であれば種類は任意である。
【0073】また、実施例の除雪機は左右の走行モータを備えるが、1個の走行モータで左右の駆動輪を駆動する形式の電動車両に本発明を適用することは差支えない。さらには、方向速度制御部材はレバー、ダイヤル、スイッチ又は同等品であればよい。
【0074】
【発明の効果】本発明は上記構成により次の効果を発揮する。請求項1では、方向速度制御部材を前進範囲から後進範囲へ移動するときに、方向速度制御部材が「通常」速度で切換えられたか、「高速」で切換えられたかを先ず判断し、「高速」で切換えられたと判断したときには、電動モータの速度がゼロになるまで待ち、更にモータ回路の正逆切換えに必要な時間t4が経過するまで待ってから、後進制御を実施することにした。これにより、モータ回路に掛る電気的負担を軽減することができ、スイッチ素子の小容量化が可能となり、回路の低コスト化が図れる。ただし、走行速度が低速であるときには、方向速度制御部材を高速で前進から後進へ切換えた場合であっても対象外とし、本発明の適用範囲を限定し、運転の円滑化を図った。
【出願人】 【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【住所又は居所】東京都港区南青山二丁目1番1号
【出願日】 平成13年11月20日(2001.11.20)
【代理人】 【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎 (外1名)
【公開番号】 特開2003−164015(P2003−164015A)
【公開日】 平成15年6月6日(2003.6.6)
【出願番号】 特願2001−355328(P2001−355328)