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【発明の名称】 ハイブリッド車両の制御装置
【発明者】 【氏名】永山 和俊
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産自動車株式会社内

【氏名】安藤 誠二
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産自動車株式会社内

【氏名】三井 利貞
【住所又は居所】茨城県ひたちなか市高場2520番地 株式会社日立製作所自動車機器グループ内

【要約】 【課題】モーターによるエンジン起動時のモーターオーバーシュートを抑制する。

【解決手段】モーター回転速度指令値Nmtrとモーター回転速度検出値Nとの偏差にPI(比例・積分)制御を施し、モーター回転速度検出値Nをモーター回転速度指令値Nmtrに一致させるためのモータートルク指令値Tpiを演算するとともに、モーター回転速度指令値Tmtrの変化に対するモーター回転速度の推移を表す数式化モデル■、■を用いてモーター回転速度を推定し、モーター回転速度検出値Nをモーター回転速度推定値N’に一致させるためのモータートルク補正値ΔTを演算する。そして、モータートルク指令値Tpiにモータートルク補正値ΔTを加算して最終的なモータートルク指令値Tref1を求め、この最終的なモータートルク指令値Tref1に基づいてモーターに流れる電流を制御する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】エンジンの出力軸とモーターの出力軸とが連結されたハイブリッド車両の制御装置において、モーターの回転速度を検出する速度検出手段と、モーター回転速度指令値と前記モーター回転速度検出値との偏差にPI(比例・積分)制御を施し、前記モーター回転速度検出値を前記モーター回転速度指令値に一致させるためのモータートルク指令値を演算するPI制御手段と、前記モーター回転速度指令値の変化に対するモーター回転速度の推移を表す数式化モデルを有し、この数式化モデルによりモーター回転速度を推定する速度推定手段と、前記モーター回転速度検出値を前記モーター回転速度推定値に一致させるためのモータートルク補正値を演算する補正値演算手段と、前記モータートルク指令値に前記モータートルク補正値を加算して最終的なモータートルク指令値を求め、この最終的なモータートルク指令値に基づいてモーターに流れる電流を制御する電流制御手段とを備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】エンジンの出力軸とモーターの出力軸とが連結されたハイブリッド車両の制御装置において、モーターの回転速度を検出する速度検出手段と、モーター回転速度指令値と前記モーター回転速度検出値との偏差にPI(比例・積分)制御を施し、前記モーター回転速度検出値を前記モーター回転速度指令値に一致させるためのモータートルク指令値を演算するPI制御手段と、前記モーター回転速度指令値の変化に対するモーター回転速度の推移を表す数式化モデルを有し、この数式化モデルによりモーター回転速度を推定する速度推定手段と、前記モーター回転速度推定値と前記モーター回転速度検出値との差に基づいて、モーター回転速度制御系に対する外乱の有無を判定する外乱判定手段と、前記PI制御手段のPI制御ゲインを前記外乱判定手段の判定結果に応じて最適な値に切り換えるゲイン切り換え手段と、前記モータートルク指令値に基づいてモーターに流れる電流を制御する電流制御手段とを備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】請求項1または請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記速度推定手段は、前記モータートルク指令値がモータートルク制限値を超えて前記モータートルク制限値に制限された状態におけるモーター回転速度の推移を表す第1の数式化モデルと、前記モータートルク指令値が前記モータートルク制限値以下の状態におけるモーター回転速度の推移を表す第2の数式化モデルとを有し、前記モータートルク指令値の制限状態または非制限状態に応じて前記第1と第2の数式化モデルを切り換えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】請求項3に記載のハイブリッド車両の制御装置において、エンジンの温度を検出する温度検出手段を備え、前記第1の数式化モデルを前記エンジン温度検出値に応じて補正することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エンジンとモーターを走行駆動源とするハイブリッド車両の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】図8は、従来のハイブリッド車両の制御装置の中のモーターコントローラーの駆動制御ブロック図である。モーターコントローラーは、モーターによるエンジン起動時に車両コントローラーから回転速度指令値Nmtrを入力し、モーターの回転速度Nが指令値Nmtrに一致するように回転速度PI(比例・積分)制御を行っている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、エンジン起動時にはある程度エンジンの回転速度が上昇してから点火を行うため、エンジン完爆後にエンジントルクが発生し、このエンジントルクにより逆にモーターが回されてモーター回転速度がオーバーシュートする。このエンジン完爆後に発生するエンジントルクはモーター回転速度制御系に対して外乱となり、モーター回転速度制御系はモーターの回転速度が上昇しないように動作しなければならない。
【0004】しかしながら、従来のハイブリッド車両のモーターコントローラーでは、モーター回転速度Nを指令値Nmtrに一致させる「目標値応答」と、外乱が入ったときに回転速度指令値Nmtrからずれないように補償する「外乱応答」との最適化を同時に達成することができないので、エンジン起動時にモーター回転速度がオーバーシュートしてしまい、特に、通常走行用Dレンジにおけるアイドルストップからのエンジン起動時に乗り心地が悪化するという問題がある。
【0005】本発明の目的は、モーターによるエンジン起動時のモーターオーバーシュートを抑制することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】(1) 請求項1の発明は、エンジンの出力軸とモーターの出力軸とが連結されたハイブリッド車両の制御装置に適用され、モーターの回転速度を検出する速度検出手段と、モーター回転速度指令値と前記モーター回転速度検出値との偏差にPI(比例・積分)制御を施し、前記モーター回転速度検出値を前記モーター回転速度指令値に一致させるためのモータートルク指令値を演算するPI制御手段と、前記モーター回転速度指令値の変化に対するモーター回転速度の推移を表す数式化モデルを有し、この数式化モデルによりモーター回転速度を推定する速度推定手段と、前記モーター回転速度検出値を前記モーター回転速度推定値に一致させるためのモータートルク補正値を演算する補正値演算手段と、前記モータートルク指令値に前記モータートルク補正値を加算して最終的なモータートルク指令値を求め、この最終的なモータートルク指令値に基づいてモーターに流れる電流を制御する電流制御手段とを備え、これにより上記目的を達成する。
(2) 請求項2の発明は、エンジンの出力軸とモーターの出力軸とが連結されたハイブリッド車両の制御装置に適用され、モーターの回転速度を検出する速度検出手段と、モーター回転速度指令値と前記モーター回転速度検出値との偏差にPI(比例・積分)制御を施し、前記モーター回転速度検出値を前記モーター回転速度指令値に一致させるためのモータートルク指令値を演算するPI制御手段と、前記モーター回転速度指令値の変化に対するモーター回転速度の推移を表す数式化モデルを有し、この数式化モデルによりモーター回転速度を推定する速度推定手段と、前記モーター回転速度推定値と前記モーター回転速度検出値との差に基づいて、モーター回転速度制御系に対する外乱の有無を判定する外乱判定手段と、前記PI制御手段のPI制御ゲインを前記外乱判定手段の判定結果に応じて最適な値に切り換えるゲイン切り換え手段と、前記モータートルク指令値に基づいてモーターに流れる電流を制御する電流制御手段とを備え、これにより上記目的を達成する。
(3) 請求項3のハイブリッド車両の制御装置は、前記速度推定手段によって、前記モータートルク指令値がモータートルク制限値を超えて前記モータートルク制限値に制限された状態におけるモーター回転速度の推移を表す第1の数式化モデルと、前記モータートルク指令値が前記モータートルク制限値以下の状態におけるモーター回転速度の推移を表す第2の数式化モデルとを有し、前記モータートルク指令値の制限状態または非制限状態に応じて前記第1と第2の数式化モデルを切り換えるようにしたものである。
(4) 請求項4のハイブリッド車両の制御装置は、エンジンの温度を検出する温度検出手段を備え、前記第1の数式化モデルを前記エンジン温度検出値に応じて補正するようにしたものである。
【0007】
【発明の効果】(1) 請求項1の発明によれば、モーター回転速度指令値とモーター回転速度検出値との偏差にPI(比例・積分)制御を施し、モーター回転速度検出値をモーター回転速度指令値に一致させるためのモータートルク指令値を演算するとともに、モーター回転速度指令値の変化に対するモーター回転速度の推移を表す数式化モデルを用いてモーター回転速度を推定し、モーター回転速度検出値をモーター回転速度推定値に一致させるためのモータートルク補正値を演算する。そして、モータートルク指令値にモータートルク補正値を加算して最終的なモータートルク指令値を求め、この最終的なモータートルク指令値に基づいてモーターに流れる電流を制御するようにしたので、モーターによりエンジンを駆動して起動する場合に、エンジン完爆後に発生するエンジントルクによりモーターが回されて回転速度が上昇しても、モーターに対するトルク指令値が低減されてモーターの回転速度のオーバーシュートが抑制される。したがって、特に、通常走行用Dレンジにおけるアイドルストップからのエンジン起動時に乗り心地が悪化するのを防止することができる。
(2) 請求項2の発明によれば、モーター回転速度指令値とモーター回転速度検出値との偏差にPI(比例・積分)制御を施し、モーター回転速度検出値をモーター回転速度指令値に一致させるためのモータートルク指令値を演算するとともに、モーター回転速度指令値の変化に対するモーター回転速度の推移を表す数式化モデルを用いてモーター回転速度を推定し、モーター回転速度推定値とモーター回転速度検出値との差に基づいて、モーター回転速度制御系に対する外乱の有無を判定する。そして、PI制御ゲインを外乱有無の判定結果に応じて最適な値に切り換え、モータートルク指令値に基づいてモーターに流れる電流を制御するようにしたので、請求項1の上記効果と同様な効果が得られる。
(3) 請求項3の発明によれば、モータートルク指令値がモータートルク制限値を超えてモータートルク制限値に制限された状態におけるモーター回転速度の推移を表す第1の数式化モデルと、モータートルク指令値がモータートルク制限値以下の状態におけるモーター回転速度の推移を表す第2の数式化モデルとを有し、モータートルク指令値の制限状態または非制限状態に応じて第1と第2の数式化モデルを切り換えるようにしたので、正確なモーター回転速度推定値を得ることができ、これによりモーター回転速度制御系に混入する外乱の有無を正確に検出できる。その結果、上述したエンジン起動時のモーター回転速度のオーバーシュートをさらに低減することができる。
(4) 請求項4の発明によれば、数式化モデルをエンジン温度検出値に応じて補正するようにしたので、エンジン温度によりフリクショントルクが変化しても正確なモーター回転速度推定値を算出することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】《発明の第1の実施の形態》図1は第1の実施の形態のハイブリッド車の構成を示す。第1の実施の形態のハイブリッド車はエンジン1とモーター2を装備しており、エンジン1とモーター2の両方またはいずれか一方により車両を走行駆動する。モーター2はエンジン1と連結されており、走行駆動源としての機能の他に、エンジン1の始動機能を有する。エンジン1およびモーター2の駆動力はトランスミッション3を介して駆動輪に伝達され、車両を走行させる。
【0009】なお、この実施の形態ではエンジン1とモーター2の両方またはいずれか一方により車両を走行駆動するハイブリッド車両を例に上げて説明するが、少なくともエンジンとモーターとが連結されたハイブリッド車両であればどのような構成のハイブリッド車両に対しても本願発明を適用することができる。また、この実施の形態ではモーター2に3相同期電動機を用いた例を示すが、モーター2は3相同期電動機に限定されず、例えば3相誘導電動機、あるいは直流電動機を用いることができる。さらに、エンジン1はガソリンエンジンとディーゼルエンジンのどちらでもよい。
【0010】エンジンコントローラー4はエンジン1のスロットルバルブ開閉制御、燃料噴射制御、点火時期制御などを行い、エンジン1の出力トルクと回転速度を制御する。モーターコントローラー5は、インバーター6を制御してモーター2の出力トルクと回転速度を制御する。車両コントローラー7は、エンジンコントローラー4とモーターコントローラー5を制御してエンジン1の始動と停止を行うとともに、エンジンコントローラー4へエンジントルク指令値Tengまたはエンジン回転速度指令値Nengを送り、モーターコントローラー5へモータートルク指令値Tmtrまたはモーター回転速度指令値Nmtrを送る。
【0011】図2は、モーターコントローラー5の詳細な構成を示す制御ブロック図である。なお、図2に示すモーターコントローラー5の構成がモーター2の回転速度制御系の構成を示す。高効率電流テーブル(ベクトル制御)部11は、モータートルク指令値T、モーター電気角周波数ωおよびバッテリー電圧VBに基づいて、高効率電流テーブル(不図示)からモーター2のd、q軸電流指令値id、iqを表引き演算する。これらのd、q軸電流指令値id、iqは、モーター電気角周波数ωおよびバッテリー電圧VBの条件下においてモータートルク指令値Tを達成するための電流指令値である。電流制御部12は、d、q軸の実電流id、iqをそれらの電流指令値id、iqに一致させるためのd、q軸電圧指令値vd、vqを決定する。2相3相変換部13は、磁極位置補正値θbに基づいてd、q軸電圧指令値vd、vqを3相交流電圧指令値vu、vv、vwに変換する。
【0012】インバーター6は、3相交流電圧指令値vu、vv、vwに基づいてバッテリー8の直流電力をIGBTなどのパワー素子によりスイッチングし、3相交流電力に変換してモーター2に印加する。また、電圧センサー14によりバッテリー8の電圧VBを検出する。3相2相変換部15は、電流センサー16〜18により検出した3相交流実電流iu、iv、iwを磁極位置θaに基づいてd、q軸実電流id、iqに変換する。
【0013】磁極位置検出部19は、モーター2の回転軸に直結されるパルスジェネレーター21からのパルス信号に基づいてモーター2の磁極位置θaを検出する。ここで、モーターコントローラー5の各制御ブロック11〜13、15、19、20、22は通常、1台のマイクロコンピューターのソフトウエアにより構成されるので、3相交流実電流iu、iv、iwの3相2相変換を行ってd、q軸実電流id、iqを算出してから、d、q軸電圧指令値vd、vqの2相3相変換を行って3相交流電圧指令値vu、vv、vwを算出するまでには演算時間のずれΔtがあり、磁極位置補正部19aは、この演算時間のずれΔtの間の磁極位置θaの変化をモーター電気角周波数ωに基づいて(θa+ω・Δt)と補正し、補正後の磁極位置θbとする。
【0014】モーター回転速度検出部20は、パルスジェネレーター21からのパルス信号に基づいてモーター2の回転速度Nと電気角周波数ω(=p・N(pはモーター2の極対数))を検出する。
【0015】回転速度制御部22は、モーター回転速度検出部20により検出したモーター2の回転速度Nを車両コントローラー7からのモーター回転速度指令値Nmtrに一致させるためのモータートルク指令値Trefを演算する。この回転速度制御部22の詳細については後述する。トルク指令/回転速度指令切換スイッチ23は、車両コントローラー7からの切り換え指令に応じて回転速度制御部22のモータートルク指令値Trefと車両コントローラー7のモータートルク指令値Tmtrとを切り換え、最終的なトルク指令値Tを得る。
【0016】図3は第1の実施の形態のモーター回転速度制御部22の詳細な構成を示す。回転速度制御部22は、モーター回転速度検出部20により検出したモーター2の回転速度Nと、車両コントローラー7からのモーター回転速度指令値Nmtrとの偏差(Nmtr−N)に対してPI制御(比例積分制御)を施し、モーター実回転速度Nをモーター回転速度指令値Nmtrに一致させるためのモータートルク指令値Tpiを算出する。回転速度制御部22はまた、車両コントローラー7からのモーター回転速度指令値Nmtrが変化したときのモーター回転速度推定値N’の推移を表す数式化モデル(以下、回転速度推移モデルという)を有し、この回転速度推移モデルによりモーター回転速度推定値N’を求め、回転速度推定値N’とモーター回転速度検出部20で検出した実際のモーター回転速度Nとの差(N’−N)に所定のゲインGを乗じて、モーター実回転速度Nをモーター回転速度推定値N’に一致させるための外乱トルク補正分ΔTを算出する。そして、PI制御出力のトルク指令値Tpiに外乱トルク補正分ΔTを加算してトルク指令値Tref1を求め、さらにトルクリミッターで上限値+Tlim以下、下限値−Tlim以上の範囲にトルクリミット処理を施し、最終的なモータートルク指令値Trefを出力する。
【0017】図3において、減算器31は、車両コントローラー7からのモーター回転速度指令値Nmtrと、モーター回転速度検出部20で検出した実際のモーター回転速度Nとの偏差(Nmtr−N)を算出する。PI制御器32は、モーター回転速度偏差(Nmtr−N)に対してPI制御を施す。この実施の形態では、回転速度指令値Nmtrの変化に対する実際のモーター回転速度Nの応答が時定数τの一次遅れになると仮定し、次式によりトルク指令値Tpiを算出する。
【数1】
Tpi=Kp・(Nmtr−N)+Ki・∫(Nmtr−N)dt数式1において、Kp、Kiはそれぞれ、外乱がない状態でモーター回転速度Nを指令値Nmtrに一致させる「目標値応答」に最適化したPI制御の比例ゲインと積分ゲインである。なお、ここではモーター回転速度指令値Nmtrに対する実際のモーター回転速度Nの応答を一次遅れと仮定したが、二次遅れまたはそれ以上としてもよい。
【0018】回転速度推移モデル部33は、モーター回転速度指令値Nmtrが変化したときの時間tに対するモーター回転速度推定値N’の推移を表す数式化モデル■と■を有する。選択スイッチSW1、SW2はFETなどのスイッチング素子から構成され、回転速度推移モデル■と■を切り換える。
【0019】トルク指令値Trefがトルクリミット値±Tlimを超え、トルクリミット値±Tlimに制限されている場合は、選択スイッチSW1、SW2により回転速度推移モデル■を選択する。回転速度推移モデル■は、現在の回転速度推定値N’から指令値Nmtrに到達するまで回転速度推定値N’がランプ状に推移する数式化モデルであり、次式により表される。
【数2】N’(n)=N’(n-1)+ΔNただし、nはサンプリング回数を表し、|N’|≦|Nmtr|である。数式2で表される回転速度推移モデル■の傾きは、トルクリミット値Tlimをモーター2に与えたときの単位時間に変化する回転速度ΔNであり、エンジン1とモーター2のイナーシャJおよびフリクションTfに基づいて次式により決定する。
【数3】ΔN=(Tlim−Tf)/J【0020】このように、モータートルク指令値Trefがトルクリミット値±Tlimに制限されている場合には、モーター2により車両を加速するのに有効な出力トルクはトルクリミット値TlimからフリクショントルクTfを減じた一定の加速トルク(Tlim−Tf)であり、この一定の加速トルク(Tlim−Tf)でモーター2を駆動するとモーター回転速度は数式3に示す傾きΔNでランプ状に変化する。したがって、この場合に選択される回転速度推移モデル■(数式2参照)は、一定の加速トルク(Tlim−Tf)でイナーシャJを加速した場合のモーター回転速度の推移を表すものである。
【0021】トルク指令値Trefがトルクリミット値±Tlim未満で、トルクリミット値±Tlimに制限されていない場合には、選択スイッチSW1、SW2により回転速度推移モデル■を選択する。回転速度推移モデル■は、現在の回転速度推定値N’から指令値Nmtrに到達するまで回転速度推定値N’が時定数τの一時遅れで推移する数式化モデルであり、次式により表される。
【数4】N’=Nmtr/(1+sτ)なお、ここでは回転速度推移モデル■を一次遅れとしたが、二次遅れ、またはそれ以上としてもよい。
【0022】上述したように、この一実施の形態では、回転速度指令値Nmtrの変化に対する実際のモーター回転速度Nの応答が時定数τの一次遅れになると仮定している。モータートルク指令値Trefがトルクリミット値Tlimに制限されていない場合は、モーター2の回転速度指令値Nmtrの変化に対する実回転速度Nの応答は一時遅れの「目標値応答」を示すはずである。したがって、この場合に選択される回転速度推移モデル■(数式4参照)は、回転速度指令値Nmtrに到達するまで時定数τの一時遅れで推移するモーター回転速度の推移を表すものである。
【0023】外乱トルク補正部34は、モーター回転速度推定値N’とモーター回転速度検出部20で検出した実際のモーター回転速度Nとの差(N’−N)にゲインGを乗じ、外乱トルク補正分ΔTを求める。
【数5】ΔT=G(N’−N)【0024】上述したように、回転速度推移モデル部33では、モータートルク指令値Trefがトルクリミット値±Tlimに制限されている制限状態と、制限されていない非制限状態とで回転速度推移モデル■と■を切り換え、正確な回転速度推定値N’を算出した。したがって、モーター回転速度制御系に対する外乱がない状態では、実際のモーター回転速度Nはその推定値N’とほぼ一致するはずである。この第1の実施の形態では、回転速度推移モデル■または■により推定したモーター回転速度推定値N’と、実際のモーター回転速度Nとの差(N’−N)を、エンジン起動にともなうモーター回転速度制御系の外乱と見なす。そして、この外乱による回転速度差(N’−N)に所定ゲインGを乗じて、実際のモーター回転速度Nをその推定値N’に一致させるための外乱トルク補正分ΔTを算出する。
【0025】次に、加算器35により、PI制御器32で算出したトルク指令値Tpiに外乱トルク補正分ΔTを加算し、出力トルク指令値Tref1を求める。
【数6】Tref1=Tpi+ΔT最後に、トルクリミッター36によりトルク指令値Tref1にトルクリミット処理を施し、トルク指令値Trefを得る。
【数7】
Tref=Tref1 (−Tlim≦Tref1≦+Tlim),Tref=+Tlim (Tref1>+Tlim),Tref=−Tlim (Tref1<−Tlim)
【0026】上述したように、モーター2によりエンジン1を起動するときに、エンジン1が完爆してエンジントルクが発生すると、モーター2がエンジン1により回されてモーター2の回転速度が上昇し、モーター回転速度Nのオーバーシュートが発生する。このとき、外乱トルク補正部34では、モーター回転速度推定値N’よりも実際の回転速度Nの方が大きくなり、速度差(N’−N)が負になって数式5により算出される外乱トルク補正分ΔTも負になる。その結果、加算器35では、PI制御器32出力のモータートルク指令値Tpiから外乱トルク補正分ΔTが減算されることになり、出力トルク指令値Tref1が低減される。つまり、エンジン1の起動直後に発生したエンジントルクによってモーター2の回転速度が上昇しようとするのに対し、モーター2の出力トルクを低減することによってモーター2の回転速度オーバーシュートを抑制する。
【0027】図4は、第1の実施の形態の回転速度制御部22の動作を示すフローチャートである。ステップ1において、数式1によりPI制御器32出力のトルク指令値Tpiを算出する。続くステップ2で、前回のサンプリング時(n−1)に、トルク指令値Tref(n-1)がトルクリミッター36の上下限値±Tlimを超え、最終的なトルク指令値Tref(n-1)が上限値+Tlimまたは下限値−Tlimに制限されたかどうかを確認する。前回のサンプリング時にトルク指令値Tref1(n-1)が上下限値±Tlimを超えてトルクリミット値±Tlimに制限された場合はステップ3へ進み、回転速度推移モデル■を選択する。続くステップ4で、今回のサンプリング時(n)の回転速度指令値Nmtr(n)と前回のサンプリング時の回転速度推定値N’(n-1)に基づいて、回転速度推移モデル■の数式2により今回のサンプリング時の回転速度推定値N’(n)を推定演算する。
【0028】一方、前回のサンプリング時(n−1)に、トルク指令値Tref(n-1)がリミッター36の上下限値±Tlim以内で、最終的なトルク指令値Tref(n-1)がトルクリミッター36の上限値+Tlimまたは下限値−Tlimに制限されていない場合はステップ5へ進み、回転速度推移モデル■を選択する。続くステップ6で、今回のサンプリング時の回転速度指令値Nmtr(n)と前回のサンプリング時の回転速度推定値N’(n-1)に基づいて、回転速度推移モデル■の数式4により今回のサンプリング時の回転速度推定値N’(n)を推定演算する。
【0029】ステップ7において、今回のサンプリング時のモーター回転速度推定値N’(n)と実際のモーター回転速度N(n)に基づいて、数式5により外乱トルク補正分ΔTを算出する。ステップ8では、数式6によりPI制御器32出力のトルク指令値Tpiに外乱トルク補正分ΔTを加算し、今回のサンプリング時の出力トルク指令値Tref1(n)を求め、さらに、出力トルク指令値Tref1(n)に対して数式7によりトルクリミット処理を施し、最終的な今回のサンプリング時のトルク指令値Tref(n)を求める。
【0030】このように第1の実施の形態によれば、外乱がない状態でモーター回転速度Nを指令値Nmtrに一致させる「目標値応答」に最適化したPI制御の比例ゲインKpと積分ゲインKiを用いて、モーター回転速度指令値Nmtrと実際の回転速度Nとの偏差(Nmtr−N)にPI演算制御を施し、実際のモーター回転速度Nをその指令値Nmtrに一致させるためのモータートルク指令値Tpiを演算する。同時に、モーター回転速度指令値Nmtrが変化したときの時間tに対するモーター回転速度推定値N’の推移を表す回転速度推移モデル■、■により現在の回転速度推定値N’を求め、回転速度推定値N’と実際の回転速度Nとの回転速度差(N’−N)をモーター回転速度制御系に対する外乱とみなし、回転速度差(N’−N)に所定ゲインGを乗じて実際のモーター回転速度Nをその推定値N’に一致させるための外乱トルク補正分ΔTを求める。そして、PI制御器出力のトルク指令値Tpiに外乱トルク補正分ΔTを加算して補正するようにした。これにより、モーター2によりエンジン1を駆動して起動する場合に、エンジン完爆後に発生するエンジントルクによりモーター2が回されて回転速度が上昇しても、モーター2に対するトルク指令値が低減されてモーター2の回転速度のオーバーシュートが抑制される。したがって、例えば、通常走行用Dレンジにおけるアイドルストップからのエンジン起動時に乗り心地が悪化するのを防止することができる。
【0031】また、この第1の実施の形態によれば、トルク指令値Trefがトルクリミット値±Tlimに制限されている場合には、現在の回転速度推定値N’から指令値Nmtrに到達するまで回転速度推定値N’がランプ状に推移する数式化モデル■を選択し、一方、トルク指令値Trefがトルクリミット値±Tlimに制限されていない場合には、現在の回転速度推定値N’から指令値Nmtrに到達するまで回転速度推定値N’が時定数τの一時遅れで推移する数式化モデル■を選択する。つまり、トルク指令値Trefがトルクリミット値±Tlimに制限されている制限状態と制限されていない非制限状態とで、それぞれ最適なモーター回転速度の応答モデルを選択し、モーター回転速度推定値N’を推定演算するようにしたので、正確なモーター回転速度推定値N’を得ることができ、これによりモーター回転速度制御系に混入する外乱の有無を正確に検出できる。その結果、上述したエンジン起動時のモーター回転速度のオーバーシュートをさらに低減することができる。
【0032】《発明の第2の実施の形態》上述した第1の実施の形態では、「目標値応答」用の比例積分ゲインを設定したPI制御器32でモーターのトルク指令値Tpiを求めるとともに、モーター回転速度推定値N’に基づいて外乱トルク補正分ΔTを算出し、トルク指令値Tpiに外乱トルク補正分ΔTを加算して外乱補償を行う例を示した。この第2の実施の形態では、モーター回転速度推定値N’と実際の回転速度Nとの差(N’−N)に基づいて外乱の有無を判定し、外乱の有無に応じてモーター回転速度PI制御系の制御ゲインを切り換える。すなわち、回転速度差(N’−N)がPI制御ゲイン切り換えしきい値以内の場合は外乱がないと判定してPI制御器のゲインに「目標値応答」用ゲインを設定し、差(N’−N)がPI制御ゲイン切り換えしきい値を超える場合は外乱があると判定してPI制御器のゲインに「外乱応答」用ゲインを設定する。
【0033】この第2の実施の形態のハイブリッド車両の構成とモーターコントローラー5の構成はそれぞれ、図1および図2に示す第1の実施の形態の構成と同様であり、図示と説明を省略する。
【0034】図5は、第2の実施の形態のモーター回転速度制御部22Aの詳細な構成を示す。なお、図3に示す機器と同様な機器に対しては同一の符号を付して相違点を中心に説明する。PI制御器32Aは、モーター回転速度指令値Nmtrと実際の回転速度Nとの偏差(Nmtr−N)にPI制御を施す。この実施の形態では、回転速度指令値Nmtrの変化に対する実際のモーター回転速度Nの応答が時定数τの一次遅れになると仮定し、上記数式1によりトルク指令値Tpiを算出する。
【0035】外乱トルク補正部34Aは、回転速度推移モデル33のモーター回転速度推定値N’と実際のモーター回転速度Nとの差の絶対値|(N’−N)|を予め設定したPI制御ゲイン切り換えしきい値Nlimと比較する。回転速度差の絶対値|(N’−N)|がしきい値Nlimを超えた場合は外乱があると判断し、PI制御器32Aの比例ゲインKpと積分ゲインKiに、外乱が入ったときにモーター実回転速度Nが指令値Nmtrからずれないように補償する「外乱応答」に最適化した比例ゲインKp2と積分ゲインKi2を設定する。一方、回転速度差の絶対値|(N’−N)|がしきい値Nlim未満の場合は外乱がないと判断し、PI制御器32Aの比例ゲインKpと積分ゲインKiに、モーター実回転速度Nが指令値Nmtrに一致するように制御する「目標値応答」に最適化した比例ゲインKp1と積分ゲインKi1を設定する。なお、PI制御ゲイン切り換え判定しきい値Nlimは、エンジン1の圧縮反力などに起因する回転数リップルなどを考慮して決定する。
【0036】図6は、第2の実施の形態の回転速度制御部22Aの動作を示すフローチャートである。ステップ11において、前回のサンプリング時(n−1)に、トルク指令値Tpi(n-1)がリミッター36の上下限値±Tlimを超え、最終的なトルク指令値Tref(n-1)が上限値+Tlimまたは下限値−Tlimに制限されたかどうかを確認する。前回のサンプリング時に上下限値±Tlimを超えてトルクリミット処理が行われた場合はステップ12へ進み、回転速度推移モデル■を選択する。続くステップ13で、今回のサンプリング時(n)の回転速度指令値Nmtr(n)と前回のサンプリング時の回転速度推定値N’(n-1)に基づいて、回転速度推移モデル■の数式2により今回のサンプリング時の回転速度推定値N’(n)を推定演算する。
【0037】一方、前回のサンプリング時(n−1)に、トルク指令値Tpi(n-1)がリミッター36の上下限値±Tlim以内で、最終的なトルク指令値Tref(n-1)が上限値+Tlimまたは下限値−Tlimに制限されていない場合はステップ14へ進み、回転速度推移モデル■を選択する。続くステップ15で、今回のサンプリング時の回転速度指令値Nmtr(n)と前回のサンプリング時の回転速度推定値N’(n-1)に基づいて、回転速度推移モデル■の数式4により今回のサンプリング時の回転速度推定値N’(n)を推定演算する。
【0038】ステップ16において、今回のサンプリング時の回転速度推定値N’(n)と実際の回転速度N(n)との差の絶対値|(N’−N)|がPI制御ゲイン切り換えしきい値Nlim以下かどうかを確認し、回転速度差の絶対値|(N’−N)|がしきい値Nlim以下の場合はステップ17へ進み、モーター回転速度制御系への外乱はないと判定してPI制御器32Aの比例ゲインKpと積分ゲインKiにそれぞれ「目標値応答」用ゲインKp1、Ki1を設定する。一方、回転速度差の絶対値|(N’−N)|がしきい値Nlimを超える場合はステップ18へ進み、モーター回転速度制御系への外乱があると判定してPI制御器32Aの比例ゲインKpと積分ゲインKiにそれぞれ「外乱応答」用ゲインKp2、Ki2を設定する。
【0039】ステップ19において、数式1によりPI制御器出力のトルク指令値Tpiを算出する。続くステップ20で、次式によりPI制御器出力のトルク指令値Tpiに対してトルクリミット処理を施し、最終的な今回のサンプリング時のトルク指令値Tref(n)を求める。
【数8】
Tref=Tpi (−Tlim≦Tpi≦+Tlim),Tref=+Tlim (Tpi>+Tlim),Tref=−Tlim (Tpi<−Tlim)
【0040】このように第2の実施の形態によれば、モーター回転速度推定値N’と実際の回転速度Nとの差の絶対値|(N’−N)|がPI制御ゲイン切り換えしきい値Nlim以内の場合はモーター回転速度制御系への外乱はないと判定し、PI制御器32AのゲインKp、Kiに「目標値応答」に最適化したゲインKp1、Ki1を設定する。一方、回転速度差の絶対値|(N’−N)|がPI制御ゲイン切り換えしきい値Nlimを超える場合はモーター回転速度制御系への外乱があると判定し、PI制御器32AのゲインKp、Kiに「外乱応答」に最適化したゲインKp2、Ki2を設定する。そして、外乱の有無に応じて最適な制御ゲインを設定したPI制御器32Aにより、モーター回転速度指令値Nmtrと実回転速度Nとの偏差(Nmtr−N)にPI制御を施すようにしたので、「目標値応答」と「外乱応答」を両立させることができ、モーター2によるエンジン1起動時の回転速度オーバーシュートを抑制することができる。
【0041】なお、図7に示すように、エンジン1のフリクションTfはエンジン1の温度により変化する。したがって、エンジン1の冷却水温度または周囲温度を検出し、図7に基づいて検出したエンジン温度に対応するフリクションTfを求め、そのフリクションTfを数式3に代入して回転速度推移モデル■の傾きΔNを算出する。これにより、エンジン1の温度によりフリクショントルクTfが変化しても、正確なモーター回転速度推定値N’を推定演算することができる。
【0042】特許請求の範囲の構成要素と一実施の形態の構成要素との対応関係は次の通りである。すなわち、モーター回転速度検出部20が速度検出手段を、PI制御器32,32AがPI制御手段を、回転速度推移モデル部33が速度推定手段を、外乱トルク補正部34が補正値演算手段を、加算器35、高効率電流テーブル部11および電流制御部12が電流制御手段を、外乱トルク補正部34Aが外乱判定手段およびゲイン切り換え手段をそれぞれ構成する。
【0043】なお、上述した一実施の形態では、モーター回転速度推移モデルとして回転速度推定値N’がランプ状に変化する数式化モデル■と回転速度推定値N’が指令値Nmtrの一次遅れで推移する数式化モデル■とを、モータートルク指令値Trefがトルクリミット値±Tlimにかかっているか否かにより切り換える例を示したが、このような切り換えを行わず、数式化モデル■のみを用いるか、あるいは数式化モデル■のみを用いるようにしてもよい。
【0044】具体的には、モーター実回転速度を指令値Nmtrに一致させる「目標値応答」に最適化したPI制御ゲインを用い、モーター回転速度指令値Nmtrと実回転速度Nとの偏差(Nmtr−N)にPI制御を施してモータートルク指令値Tpiを算出する。また、上述した数式化モデル■または■のようなモーター回転速度の時間的な推移を示す数式化モデルを用いて回転速度推定値N’を求め、回転速度推定値N’と実回転速度Nとの差(N’−N)に基づいて外乱トルク補正分ΔTを算出する。そして、PI制御出力のモータートルク指令値Tpiに外乱トルク補正分ΔTを加算してモータートルク指令値を補正する。このようにすれば、上述した一実施の形態よりもモーター制御を簡略化でき、「目標値応答」と「外乱応答」とを両立させてモーター2によるエンジン1の起動時の回転速度オーバーシュートを抑制することができる。
【出願人】 【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【住所又は居所】東京都千代田区神田駿河台四丁目6番地
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地
【出願日】 平成13年11月28日(2001.11.28)
【代理人】 【識別番号】100084412
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 冬紀
【公開番号】 特開2003−164008(P2003−164008A)
【公開日】 平成15年6月6日(2003.6.6)
【出願番号】 特願2001−362067(P2001−362067)