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【発明の名称】 ハイブリッド車両の駆動装置
【発明者】 【氏名】後藤 健一
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地 日産自動車株式会社内

【要約】 【課題】低μ路での車両発進時の4WD走行を可能としつつクリープ走行途中での急激なトルクの上昇がないようにする。

【解決手段】前輪(15)と後輪(7)のいずれか一方の車輪を駆動するエンジン(2)と、他方の車輪を駆動するモータ(11)と、前記エンジン(2)のみを駆動して車両(1)のクリープトルクを発生させる第1制御手段と、4WD要求のある車両の発進時にエンジン(1)駆動に加えて前記モータ(11)を駆動する第2制御手段とを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】前輪と後輪のいずれか一方の車輪を駆動するエンジンと、他方の車輪を駆動するモータと、前記エンジンのみを駆動して車両のクリープトルクを発生させる第1制御手段と、4WD要求のある車両の発進時にエンジン駆動に加えて前記モータを駆動する第2制御手段とを備えることを特徴とするハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項2】ドライバの要求駆動トルクを演算する場合に、ドライバの要求駆動トルクがエンジン駆動によるクリープトルクを上回るとき、前記第2制御手段が、ドライバの要求駆動トルクに合わせて前記モータの発生する駆動トルクを増加させることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項3】前記第2制御手段が前記モータの発生する駆動トルクを増加させるのは、前輪と後輪の駆動トルクが等しくなるまでであることを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項4】前輪と後輪の駆動トルクが等しくなった後もドライバの要求駆動トルクが増加するとき、前記第2制御手段が、前輪と後輪の駆動トルクが等しくなった後のドライバの要求駆動トルクの増加分を前輪と後輪に等分に配分することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項5】ドライバの要求駆動トルクを演算する場合に、ドライバの要求駆動トルクがエンジン駆動によるクリープトルクを下回るとき、前記第2制御手段が、エンジン駆動によるクリープトルクをドライバの要求駆動トルクとすることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項6】前記モータの発生する駆動トルクがモータに許される駆動トルクの上限を上回るとき、モータの発生する駆動トルクをこの上限に制限することを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項7】車速が前記モータに許される車速の上限を上回るとき、車速が上昇するほど前記モータの発生する駆動トルクを減少させることを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明はハイブリッド車両の駆動装置、特に4WD(4輪駆動)の走行で車両の発進を行わせるものに関する。
【0002】
【従来の技術】車両のクリープ走行時から定常走行まで常に前後輪のトルク配分を50:50とする4WD車がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、エンジンとモータを備えるハイブリッド車両では、車両の停止時にバッテリのSOC(State of Charge)が十分ある状態ではエンジンを停止するとともにモータを駆動して車両のクリープトルクを発生させ、その状態からの車両の発進時には効率の良いモータにより走行を開始するようにしている。
【0004】この場合に前輪を駆動する第2のモータを追加し、2つのモータを同時に駆動すれば低μ路での4WD走行による発進操作が可能となる。
【0005】しかしながら、この場合には2つのモータによりバッテリの電力が消費されるためバッテリのSOCが低下しやすく、クリープ走行中にSOCが限界値にまで低下したときにはエンジンを始動してエンジン駆動によりモータに発電を行わせバッテリのSOCを回復させる必要があり、クリープ走行途中でのエンジンの起動により生じる急激なトルクの上昇を抑制するのは困難である。
【0006】そこで本発明は、例えば後輪を駆動するエンジンのみを働かせて車両のクリープトルクを発生させ、4WD要求のある車両の発進時にはこのエンジン駆動に加えて前輪を駆動するモータを働かせることにより、低μ路での車両発進時の4WD走行を可能としつつクリープ走行途中での急激なトルクの上昇がないようにすることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】第1の発明は、前輪と後輪のいずれか一方の車輪を駆動するエンジンと、他方の車輪を駆動するモータと、前記エンジンのみを駆動して車両のクリープトルクを発生させる第1制御手段と、4WD要求のある車両の発進時にエンジン駆動に加えて前記モータを駆動する第2制御手段とを備える。
【0008】第2の発明では、第1の発明においてドライバの要求駆動トルク(目標駆動トルク)を演算する場合に、ドライバの要求駆動トルクがエンジン駆動によるクリープトルクを上回るとき、前記第2制御手段が、ドライバの要求駆動トルクに合わせて前記モータの発生する駆動トルクを増加させる。
【0009】第3の発明では、第2の発明において前記第2制御手段が前記モータの発生する駆動トルクを増加させるのが、前輪と後輪の駆動トルクが等しくなるまでである。
【0010】第4の発明では、第3の発明において前輪と後輪の駆動トルクが等しくなった後もドライバの要求駆動トルクが増加するとき、前記第2制御手段が、前輪と後輪の駆動トルクが等しくなった後のドライバの要求駆動トルクの増加分を前輪と後輪に等分に配分する。
【0011】第5の発明では、第1の発明においてドライバの要求駆動トルクを演算する場合に、ドライバの要求駆動トルクがエンジン駆動によるクリープトルクを下回るとき、前記第2制御手段が、エンジン駆動によるクリープトルクをドライバの要求駆動トルクとする。
【0012】第6の発明では、第4の発明において前記モータの発生する駆動トルクがモータに許される駆動トルクの上限を上回るとき、モータの発生する駆動トルクをこの上限に制限する。
【0013】第7の発明では、第4の発明において車速が前記モータに許される車速の上限を上回るとき、車速が上昇するほど前記モータの発生する駆動トルクを減少させる。
【0014】
【発明の効果】第1、第2、第3、第4、第5の発明によれば、エンジンのみを働かせて例えば後輪を駆動しこれによって車両のクリープトルクを発生させるのでクリープ走行途中での急激なトルクの上昇が生じることがなく、また4WD要求のある車両の発進時にはエンジンに加えてモータを働かせ前輪を駆動するので低μ路での車両発進時の4WD走行が可能となる。
【0015】モータに許容範囲の上限を超える仕事をさせると高温となり電気から駆動トルクへの変換効率が悪化するのであるが、第6の発明によればこうした電気から駆動トルクへの変換効率が悪化する使い方はしないので、燃費が悪くなることがない。
【0016】車両の発進を4WD走行で行わせるにはそれほど高い車速までモータを働かせる必要がないことがわかっており、予め定めた車速の上限を超えてまでモータを働かせると電気から駆動トルクへの変換効率が悪化し燃費が悪くなるのであるが、第7の発明によればこうした電気から駆動トルクへの変換効率が悪化する使い方もしないので、燃費が悪くなることがない。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】図1において、2はエンジン、4は無段自動変速機であり、これらの間にはモータジェネレータ(電動機)3が配置される。エンジン2またはモータジェネレータ3の回転が無段自動変速機4からドライブシャフト5、ディファレンシャルギヤ6を介して駆動輪7(後輪)に伝達される。
【0019】無段自動変速機4は例えばトルクコンバータと、前後進切換機構と、可変プーリ間に掛け回した金属ベルトから構成され、可変プーリのプーリ比を変えることにより、金属ベルトを介して伝達される速度比が変化する。無段自動変速機4の目標変速比が運転状態に応じて設定され、これが実際の入力回転速度と出力回転速度の比である変速比と一致するように、可変プーリを駆動するためのプライマリ油圧とセカンダリ油圧とが制御される。
【0020】前後進切換機構は前進時と後進時とで出力回転の方向を逆転させるもので、またトルクコンバータは入力回転トルクを流体力を介して出力側に伝達し、入力側の極低速回転時など出力側の回転の停止を許容できる。
【0021】前記モータジェネレータ3はエンジン2のクランクシャフトに直結もしくはベルトやチェーンを介して連結され、エンジン2と同期して回転する。モータジェネレータ3はモータあるいは発電機として機能する。モータジェネレータ3がエンジン2の出力を補ってモータとして、あるいはエンジン2を始動するためにモータとして機能するときは、バッテリ(42Vバッテリ)8からの電流がインバータ9を介して供給され、また車両の走行エネルギを回収すべく発電機として機能するときは、インバータ9を介して発生した電流によりバッテリ8が充電される。
【0022】一方、もう一つのモータジェネレータ11が設けられ、こちらのモータジェネレータ11の回転は減速ギヤ12、ドライブシャフト13、ディファレンシャルギヤ14を介して駆動輪15(前輪)に伝達される。モータジェネレータ11もモータあるいは発電機として機能する。モータジェネレータ11についてもモータとして機能するときにはバッテリ8からの電流がインバータ16を介して供給され、また車両の走行エネルギを回収すべく発電機として機能するときにはインバータ16を介して発生した電流によりバッテリ8が充電される。
【0023】このため、統合コントローラ17(図4参照)にはアクセルセンサ31、車速センサ32からの信号が入力し、統合コントローラ17ではこれらに基づいて図示しないエンジンコントローラなどと協力しつつ加速時、定速時、減速時の制御を行う。
【0024】ここで、前輪15と後輪7に対して別々に駆動トルクを伝達すれば4WD走行が可能となるので、車室内に設けてある4WDスイッチ(図示しない)をONにしたとき、統合コントローラ17では次のようにしてクリープ走行状態からの車両の発進を4WD走行で行わせる。
【0025】1.クリープ走行時:エンジン2によりクリープ走行を行わせることも、モータジェネレータ3によりクリープ走行を行わせることも可能であるが、エンジン2によりクリープ走行を行わせる(図2(a)参照)。これは次の理由からである。すなわち、モータジェネレータ3によりクリープ走行を行わせると共に前後輪の駆動トルクの配分を50:50とすれば、発進の当初から理想的な前後輪の駆動トルクの配分である50:50での4WD走行が可能となる。しかしながら、この場合には2つのモータジェネレータ3、11によりバッテリ8の電力が消費されるためバッテリ8のSOCが低下しやすく、クリープ走行中にSOCが限界値にまで低下したときには、エンジン2を始動してエンジン2駆動によりモータジェネレータ3に発電を行わせバッテリ8のSOCを回復させる必要があり、エンジン2の起動により生じる急激なトルクの上昇をクリープ走行時に抑制するのは困難である。これに対して、エンジン2によりクリープ走行を行わせたときにはクリープ走行途中での急激なトルクの上昇を招くことがない。そこで、エンジン2によりクリープ走行を行わせることにしたものである。
【0026】従って、エンジンクリープ走行中にはモータジェネレータ3を働かせることはしない。ただし、SOCが限界まで低下したときにだけモータジェネレータ3を発電機として働かせる(図2(a)参照)。このとき、発電を行わせる分だけエンジン2の出力を大きくする。
【0027】2.発進時:エンジンクリープトルクはその全部が後輪7に伝わるだけでこれを分配することはできないので、アクセルON時より目標駆動トルクの増加に合わせてモータ駆動輪(=前輪15)に与える駆動トルクを増やすことにより4WD走行を行わせる(図2(b)参照)。
【0028】その後、前輪15の駆動トルクが増えて前輪15と後輪7の駆動トルクが等しくなったとき理想的な前後輪の駆動トルクの配分である50:50となり、これ以降はエンジン駆動輪(=後輪7)とモータ駆動輪(=前輪15)に与える駆動トルクを目標駆動トルクと前後輪の駆動トルクの配分(50:50)に応じて増加させることにより4WD走行を継続させる。
【0029】なお、車両の発進時にも原則としてモータジェネレータ3は働かせない。ただし、SOCが限界まで低下したときにだけ発電機として働かせる点はエンジンクリープ走行時と同じである(図2(b)参照)。
【0030】3.詳細:図3は2WD走行であるエンジンクリープ走行状態から4WD走行への時間的遷移を示し、図で左端の数値は駆動トルク[Nm]、右端の数値は車速[km/h]と後輪配分[%]である。なお、後輪配分は次式により定義される値である。
【0031】
後輪配分=(後輪駆動トルク/目標駆動トルク)×100…(1)
図において車両1がエンジンクリープトルクにより徐行している状態(車速≠0)の途中のt1でアクセルペダルを踏み込んで(図では「アクセルON」で略記)車両1を発進させると車速が徐々に上昇してゆくが、このときの車速とアクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)より演算される車両の目標駆動トルクが図示の太破線ようにt3まで直線的に大きくなり、t3から一時的に一定となりt4から再び直線的に大きくなる場合を考える。
【0032】制御としては図示の5つの領域に分かれるので、領域毎に説明する。
【0033】領域1(t1直前までの区間):この区間はエンジン2によるクリープトルクで走行する。このとき後輪配分は100%である。
【0034】領域2(t1からt2までの区間):エンジンクリープ走行状態からから4WD走行に切り換える。後輪駆動トルクはエンジンクリープトルクでありこれは下げられないので、後輪駆動トルクはエンジンクリープトルクに保持し、目標駆動トルクと後輪駆動トルクの差を前輪駆動トルクとするため、前輪駆動トルクをゼロより目標駆動トルクと同じ傾きで直線的に増加させる。この前輪駆動トルクの増加により前輪駆動トルクが後輪駆動トルク(=エンジンクリープトルク)と一致するタイミングがt2である。すなわちt1で後輪配分が100%であったものがt2では理想的な後輪配分である50%になり、4WD走行への移行が完了する。
【0035】なお、図では目標駆動トルク(ドライバの要求駆動トルク)がエンジンクリープトルクを上回る場合を示しているが、目標駆動トルクがエンジンクリープトルクを下回ることもあり、この場合には、エンジンクリープトルクを目標駆動トルクとする。これは4WD走行への移行時に、エンジンクリープ状態から発進への移行をスムーズに行わせるためである。
【0036】領域3(t2直後〜t5直前までの区間):t2からは後輪駆動トルクと前輪駆動トルクの配分が50:50に維持されるように目標駆動トルクを分配する。このとき目標駆動トルクのちょうど半分ずつが前輪駆動トルクと後輪駆動トルクになる。例えばt2直後からt3まで、t4からt5直前までの前輪駆動トルク、後輪駆動トルクの各傾きは目標駆動トルクのちょうど半分である。
【0037】領域4(t5〜t6直前までの区間):t5で前輪駆動トルクがモータジェネレータ11に対する駆動トルク制約条件である20Nmに達すると、前輪駆動トルクをこの20Nmに制限する。従って、前輪駆動トルクはt5より一定となる。このとき、目標駆動トルクとこの一定の前輪駆動トルクの差である後輪駆動トルクは、t5より目標駆動トルクと同じ傾きで直線的に増加する。
【0038】ここで、モータジェネレータ11の使用可能な駆動トルクの上限を20Nmであると定めているのは、モータジェネレータ11に対して20Nmを超える仕事をさせるとモータジェネレータ11が高温となり電気から駆動トルクへの変換効率が悪化して燃費が悪くなるためである。
【0039】なお、後輪配分はt5の50%から上昇してt6の60%へと近づく。
【0040】領域5(t6からの区間):目標駆動トルクの上昇を受けてt6で車速が20km/hに達すると、それからは車速の上昇に合わせて前輪駆動トルクを小さくし最終的にゼロとする。このため、後輪駆動トルクはt6より目標駆動トルクに向けて上昇し、前輪駆動トルクがゼロとなるt7のタイミングで目標駆動トルクに一致する。
【0041】ここで、モータジェネレータ11の使用可能な車速の上限を20km/hであると定めているのは次の理由からである。すなわちモータジェネレータ11を用いて車両の発進を4WD走行で行わせるには車速が20km/hまでで十分であることが実験的にわかっており、この車速の上限を超えても電気から駆動トルクへの変換効率が悪化するからである。
【0042】t7直後からは前輪駆動トルクがゼロであることより後輪のみによる走行(2WD走行)状態になる。後輪配分はt6で60%となり、これから上昇してt7で100%になる。
【0043】これで図3の説明を終了する。
【0044】統合コントローラ17で行われるこの制御の内容を図4のブロック図に従って説明する。
【0045】演算部33ではアクセルセンサ31からのアクセル開度と車速センサ32からの車速VSP[km/h]とに基づいて図3において太破線で示した車両1の目標駆動トルクを演算する。この目標駆動トルクの演算は例えばアクセル開度と車速をパラメータとするマップを検索させることにより求めればよい。この目標駆動トルクを改めて第1目標駆動トルクtTRQ1とする。
【0046】演算器34では車速VSPから図6を内容とするテーブルを検索することによりエンジンクリープトルクCLEEP TRQ[Nm]を演算し、減算器35では第1目標駆動トルクtTRQ1からこのエンジンクリープトルクCLEEPTRQを差し引いた値を第2目標駆動トルクtTRQ2[Nm]として算出する。
【0047】この第2目標駆動トルクtTRQ2、車速VSP、目標前輪配分4WD RATEとが入力される演算部36では指令前輪駆動トルクvFTRQと指令後輪駆動トルクvRTRQとの2つの指令トルクを演算する。なお、目標前輪配分4WD RATEは理想的な前後輪のトルク配分である50%(一定値)である。
【0048】上記2つの指令トルクの演算についてはさらに図5のブロック図に従って詳述する。図5において演算器41では車速VSPから図6を内容とするテーブルを検索することによりエンジンクリープトルクCLEEP TRQを演算する。
【0049】乗算器42、43はトラクションコントロールを実現するためのものである。すなわち、乗算器42では目標前輪配分4WD RATE[%]を2倍し、これを乗算器43がエンジンクリープトルクCLEEP TRQに乗算する。トラクションコントロールを行わせるときには、目標前輪配分を50%以外の値にするのであるが、ここでは目標前輪配分4WD RATEが50%であるから、この2倍は100%となり、乗算器43出力はエンジンクリープトルクそのものである。
【0050】減算器44、乗算器45、減算器46は前輪駆動トルクを演算する部分である。すなわち減算器44では第2目標駆動トルクtTRQ2から乗算器43出力(=エンジンクリープトルク)を差し引き、減算器44出力であるAに乗算器45が目標前輪配分4WD RATEを乗算し、減算器46が第2目標駆動トルクtTRQ2から乗算器45出力であるBを差し引いた値であるCを前輪駆動トルクとして演算する。
【0051】実際に減算器44出力A、乗算器45出力B、減算器46出力Cを求めてみると、次のようになる。
【0052】
減算器44出力A=tTRQ2−CLEEP TRQ =tTRQ1−2×CLEEP TRQ…(2)
乗算器45出力B=A×4WD RATE =A/2 =tTRQ1/2−CLEEP TRQ…(3)
減算器46出力C=tTRQ2−B =(tTRQ1−CLEEP TRQ)
−(tTRQ1/2−CLEEP TRQ)
=tTRQ1/2 …(4)
このように減算器46出力Cは第1目標駆動トルクtTRQ1の半分を前輪駆動トルクとしていることがわかる。
【0053】図3に示す領域2において4WD走行への移行時にエンジンクリープ状態から車両発進への移行をスムーズに行うために目標駆動トルク(=第1目標駆動トルク)がエンジンクリープトルクより小さい間はエンジンクリープトルクを目標駆動トルクとすることを前述したが、加算器47、比較器48、切換スイッチ49はこれを実現する部分である。すなわち、加算器47では第2目標駆動トルクtTRQ2とエンジンクリープトルクを加算して第1目標駆動トルクtTRQ1を算出し、比較器48がこの第1目標駆動トルクtTRQ1と乗算器43出力(=エンジンクリープトルク)を比較する。第1目標駆動トルクtTRQ1がエンジンクリープトルク以上であればスイッチ49が上側に切換わり、減算器46出力を前輪駆動トルクとして、これに対して第1目標駆動トルクtTRQ1がエンジンクリープトルク未満であれば、スイッチ49が下側に切換わり、第2目標駆動トルクtTRQ2を前輪駆動トルクとして出力する。
【0054】図3に示す領域5において前輪駆動トルクを20Nmからゼロへと立ち下げることを前述したが、演算器50、乗算器51はこれを実現する部分である。すなわち、演算器50では車速VSPから図7を内容とするテーブルを検索してモータジェネレータ11のトルク制限率TRQ LIMIT[%]を演算し、これを乗算器51がスイッチ49出力(=前輪駆動トルク)に乗算した値を指令前輪駆動トルクvFTRQ[Nm]とする。図7に示したように、車速VSPが20km/h以下ではトルク制限率が100%、つまりトルク制限がないのと同じである。これに対して車速VSPが上昇してDになるとトルク制限率が0%であり指令前輪駆動トルクvFTRQ=0となる。つまりDは図3において前輪駆動トルク=0となるときの車速である。
【0055】最後に減算器52では第2目標駆動トルクtTRQ2から指令前輪駆動トルクvFTRQを差し引いた値を指令後輪駆動トルクvRTRQ[Nm]として算出する。ここでこの指令後輪駆動トルクvRTRQからはエンジンクリープトルクが除かれている。指令後輪駆動トルクからエンジンクリープトルクを除いたのは、後述するようにアイドル回転速度制御によりエンジンクリープトルクを発生させるようにしているためである。
【0056】このようにして2つの指令トルクを演算したら、図4に戻り、電流制御部37では指令前輪駆動トルクvFTRQがモータジェネレータ11で発生するようにインバータ16への制御電流を設定する。
【0057】トルク分配部38は必要に応じて指令後輪駆動トルクvRTRQをエンジン2とモータジェネレータ3とに分配するものであり、モータジェネレータ3にトルクが分配されたときには、その分配されたトルクがモータジェネレータ3で発生するように電流制御部39でインバータ9への制御電流を設定する。
【0058】クリープ走行状態から発進直後にかけてはエンジン2に指令後輪駆動トルクvRTRQの全部を分配するので、エンジン制御部61ではこの指令後輪駆動トルクvRTRQとエンジンクリープトルクの合計がエンジン2で発生するように吸気絞り弁(図示しない)を制御する。このエンジン制御部61での制御を図8により説明する。
【0059】図8において開口面積演算部62では指令後輪駆動トルクvRTRQに基づいてスロットル弁17部の開口面積に変換する。演算部63ではアイドル回転速度制御時の開口面積(図では「ISC分」で略記。)を演算し、加算器64では両者を加算して総開口面積を算出する。そして吸気絞り弁開度演算部65ではこの総開口面積を目標吸気絞り弁開度に変換する。スロットルアクチュエータ18では実際の吸気絞り弁開度がこの目標吸気絞り弁開度と一致するように吸気絞り弁を駆動する。
【0060】ここで、車両発進前の車両停車状態であれば指令後輪駆動トルクvRTRQ=0であり、このときエンジンコントローラでアイドル回転速度制御により実回転速度Neが予め定めた目標値NSETとなるように吸気絞り弁開度が制御され、このときエンジン2に発生するトルクによりエンジンクリープトルクが得られる。
【0061】なお、アイドル回転速度制御に、図8に示した吸気絞り弁制御、燃料噴射制御、点火制御などを加えたものがエンジンコントローラが受け持つ範囲となるため、エンジン制御部61はエンジンコントローラの一部にすぎない。
【0062】ここで本実施形態の作用を説明する。
【0063】本実施形態によれば、エンジン2のみを働かせて後輪7を駆動しこれによって車両のクリープトルクを発生させるのでクリープ走行途中での急激なトルクの上昇が生じることがなく、また4WD要求のある車両の発進時にはエンジン2に加えてモータジェネレータ11をモータとして働かせ前輪15を駆動するので低μ路での車両発進時の4WD走行が可能となる。
【0064】また、モータジェネレータ11に許容範囲の上限を超える仕事をさせると高温となり電気から駆動トルクへの変換効率が悪化するのであるが、本実施形態では後輪駆動トルク(モータの発生する駆動トルク)がモータジェネレータ11に許される駆動トルクの上限(例えば20Nm)を上回るとき後輪駆動トルクをこの上限に制限し、電気から駆動トルクへの変換効率が悪化する使い方はしないので、燃費が悪くなることがない。
【0065】また、車両の発進を4WD走行で行わせるにはそれほど高い車速までモータジェネレータ11を働かせる必要がないことがわかっており、予め定めた車速の上限(例えば20km/h)を超えてまでモータジェネレータ11を働かせると電気から駆動トルクへの変換効率が悪化し燃費が悪くなるのであるが、本実施形態では車速が前記モータジェネレータ11に許される車速の上限を上回るとき、車速が上昇するほど前輪駆動トルクを減少させ、電気から駆動トルクへの変換効率が悪化する使い方もしないので、燃費が悪くなることがない。
【0066】図3では具体的な数値を挙げて説明したが、この数値に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0067】実施形態では後輪をエンジン2またはモータジェネレータ3により駆動し、前輪をもう一つのモータジェネレータ11により駆動する場合で説明したが、前輪をエンジンまたはモータジェネレータにより駆動し、後輪をもう一つのモータジェネレータにより駆動するようにしてもかまわない。
【0068】実施形態では4WDスイッチを備える場合で説明したが、4WDスイッチが無い場合にも本発明の適用が可能である。すなわち低μ路であると推定したとき4WDスイッチをONにしたときと同様の制御を行えばよい。ここで、低μ路であるかどうかは前後輪のスリップ率との間に強い相関があるので、スリップ率に基づけば低μ路であるかどうかを判定できる。スリップ率の演算方法は公知である。例えば後輪駆動車の場合、後輪速度を基準に考え、前輪速度との差を後輪速度で除した値がスリップ率となる。
【0069】なお、4WDスイッチがOFFのときには常にエンジン駆動によりクリープトルクを発生させる。またモータジェネレータ11やバッテリ8の故障時にはフェールセーフのため、4WD走行による発進は行わない(このときもエンジン駆動によりクリープトルクを発生させる)。
【出願人】 【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
【住所又は居所】神奈川県横浜市神奈川区宝町2番地
【出願日】 平成13年8月13日(2001.8.13)
【代理人】 【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜 (外1名)
【公開番号】 特開2003−61207(P2003−61207A)
【公開日】 平成15年2月28日(2003.2.28)
【出願番号】 特願2001−245173(P2001−245173)