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【発明の名称】 変速機付きハイブリッド車駆動構造の運転方法
【発明者】 【氏名】高岡 俊文
【住所又は居所】愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自動車株式会社内

【要約】 【課題】変速機の変速段を切り換える際にクラッチやブレーキの如き摩擦係合装置の開放や新たな係合に起因するトルクの急変や切換えの合間に生ずるトルクの一時落ち込みを、特に内燃機関の出力軸が変速機を経て車輪駆動軸に連結され、該車輪駆動軸に電動発電機が連結されたハイブリッド車駆動構造の場合に、その構造上の特性を生かして緩和する。

【解決手段】変速機の変速段を切り換える際に生ずる変速機出力トルクの急変や一時落ち込みを車輪駆動軸に連結され電動機の出力トルクの変更により緩和する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】内燃機関の出力軸が変速機を経て車輪駆動軸に連結され、該車輪駆動軸に電動発電機が連結されたハイブリッド車駆動構造の運転方法にして、前記変速機の変速段を切り換える際に該変速機の出力トルクに現れる急変を前記電動発電機の出力トルクの変更により緩和することを特徴とするハイブリッド車駆動構造運転方法。
【請求項2】前記変速機の出力トルクの急変を緩和する前記電動発電機の出力トルクの変更は、前記車輪駆動軸に与えるべきトルクと前記変速機の出力トルクの実測値の差に基づいて制御されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
【請求項3】前記変速機の出力トルクの急変を緩和する前記電動発電機の出力トルクの変更は、各変速段の切換えに対し予め設定された時間対トルクのマップに従って制御されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
【請求項4】前記ハイブリッド車駆動構造は前記内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と前記車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結された構造を有し、前記変速機の出力トルクに現れる急変を出力トルクの変更により緩和する前記電動発電機は前記第二の電動発電機であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
【請求項5】前記変速機は複数の摩擦係合装置を備え、その内の一つの係合を解除し、他の一つを新たに係合させることにより切り換えられる二つの変速段を含んでいることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
【請求項6】前記変速機は噛合いが切り換えられる変速歯車機構であり、単一の摩擦係合装置により該変速歯車機構が全体として一時的に前記内燃機関の出力軸とのトルク伝達接続より切り離されるようになっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のハイブリッド車駆動構造運転方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関と電動機の組合せにより車輪を駆動するハイブリッド車の駆動構造の運転方法に係る。
【0002】
【従来の技術】近年、ますます高まりつつある大気環境保全と燃料資源の節約の重要性の認識の下に、内燃機関と電動機の組合せにより車輪が駆動されるハイブリッド車が脚光を浴びてきている。多様な回転数と駆動トルクの組合せが求められる自動車の車輪を内燃機関と電動機により駆動する場合に、その駆動態様をどのようにするかについては、種々の態様が可能であろうが、自動車は元来専ら内燃機関のみによって駆動されてきたものであり、また自動車の分野に於けるハイブリッド車は、従来の内燃機関のみによる駆動の一部を状況が許す限り電動駆動にて置き換えることから出発しているので、ハイブリッド車といえども、内燃機関のみによる駆動が可能となっていることは当然と考えられている。
【0003】特開平11−198669には、内燃機関のクランク軸に第一の電動発電機を直列に接続して内燃機関または電動機のいずれか一方または両方により駆動される動力軸を構成し、かかる動力軸と第二の電動発電機の出力軸とをそれぞれ遊星歯車機構のリングギヤとサンギヤとに接続して組み合わせ、遊星歯車機構のキャリアを出力軸として、これに変速機を接続してなるハイブリッド車駆動構造が示されている。かかるハイブリッド車駆動構造によれば、内燃機関のみを原動機として働かせても、変速機の変速機能を得て、従来の内燃機関車と同様に自動車に求められる多様な運行態様に対応できる。これは上記の如きハイブリッド車の由来を反映する一つの典型であると思われる。
【0004】しかし、一方、自動車の原動機として内燃機関と電動機とを組み合わせる機会に、車輪に求められる回転数対駆動トルクと内燃機関より得られる回転数対駆動トルクの間の乖離に起因する内燃機関出力軸と車軸の間の回転数の差を電動機により差動的に吸収し、内燃機関出力軸と車軸の間に従来から必要とされていた変速機を無くすことが本件出願人と同一人により提案された。添付の図1は、そのようなハイブリッド車の駆動構造を示す概略図である。
【0005】図1に於いて、1は内燃機関であり、図には示されていない車体に取り付けられている。2はその出力軸(クランク軸)である。3は遊星歯車装置であり、4はそのサンギヤ、5はリングギヤ、6はプラネタリピニオン、7はキャリアである。クランク軸2はキャリア7に連結されている。8は第一の電動発電機(MG1)であり、コイル9と回転子10とを有し、回転子10はサンギヤ4と連結されている。コイル9は車体より支持されている。リングギヤ5にはプロペラ軸11の一端が連結されている。かくして、遊星歯車装置3は、内燃機関の出力軸2に現れる内燃機関の出力を第一の電動発電機3と車輪駆動軸をなすプロペラ軸11とに分配する動力分配機構を構成している。
【0006】プロペラ軸11の途中には第二の電動発電機(MG2)12が連結されている。第二の電動発電機12はコイル13と回転子14と有し、コイル13は車体より支持されている。プロペラ軸11に対する回転子14の連結は任意の構造であってよいが、図示の例では、プロペラ軸11に設けられた歯車15に回転子14により支持されて回転する歯車16が噛み合う構造とされている。プロペラ軸11の他端はディファレンシャル装置17を介して一対の車軸18に連結されている。車軸18の各々には車輪19が取り付けられている。
【0007】図示の駆動構造に於いて、クランク軸2の回転とキャリア7の回転とは同じであり、今この回転数をNcで表すものとする。また第一の電動発電機8の回転とサンギヤ4の回転とは同じであり、今この回転数をNsで表すものとする。一方、リングギヤ5の回転と第二の電動発電機12の回転と車輪19の回転とは互いに対応し、最終的には車速に対応するものであるが、それぞれの回転数は歯車15と16の間の歯数の比、ディファレンシャル装置17に於ける減速比、およびタイヤ径によって異なる。しかし、今ここでは便宜上これらの部分の回転数をリングギヤ5の回転数にて代表するものとし、それをNrとする。
【0008】そうすると、内燃機関と二つの電動発電機とを遊星歯車装置にて図示の如く組み合わせたハイブリッド車駆動構造に於ける内燃機関と二つの電動発電機MG1、MG2の回転数Nc、Ns、Nrの間の関係は、遊星歯車装置の原理に基づき、図2に示す線図により表される。図にてρはリングギヤの歯数に対するサンギヤの歯数である(ρ<1)。Ncは機関回転数により定まり、Nrは車速により定まるので、Nsは機関回転数と車速の如何によりNs=(1+1/ρ)Nc−(1/ρ)Nrとして定まる。
【0009】一方、キャリアとサンギヤとリングギヤのトルクをTc、Ts、Trとすると、これらはTs:Tc:Tr=ρ/(1+ρ):1:1/(1+ρ)
の比にて互いに平衡し、従ってまた、これら3要素のいずれかがトルクを発生しあるいは吸収するときには、上記の平衡が成り立つまで相互間にトルクのやりとりが行なわれる。
【0010】以上の如き駆動構造を備えたハイブリッド車に於いて、内燃機関、MG1、MG2の作動は、図には示されていない車輌運転制御装置により、運転者からの運転指令と車輌の運行状態とに基づいて制御される。即ち、車輌運転制御装置はマイクロコンピュータを備え、運転者からの運転指令と種々のセンサにより検出される車輌の運行状態とに基づいて目標車速および目標車輪駆動トルクを計算すると共に、蓄電装置の充電状態に基づいて蓄電装置に許される電流出力あるいは蓄電装置の充電のために必要な発電量を計算し、これらの計算結果に基づいて、内燃機関を休止を含む如何なる運転状態にて運転すべきか、またMG1およびMG2を如何なる電動状態あるいは発電状態にて運転すべきかを計算し、その計算結果に基づいて内燃機関、MG1、MG2の作動を制御する。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】課題に関する関連出願以上の如く内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結されたハイブリッド車駆動構造によれば、図2より理解される通り、内燃機関出力軸の回転数Ncと車速に対応する回転数Nrの各々の値およびその間の相対関係は、その変化を第一の電動発電機の回転数Nsにて吸収することにより大幅に変えることができるので、かかるハイブリッド車駆動構造に於いては、これまで変速機は不要とされていた。即ち、動力分配機構の調節次第で、NcとNrの間の関係を自由に変えることができ、また停車中(Nr=0)であっても機関運転(Nc>0)すること、逆に、前進中(Nr>0)であっても機関停止(Nc=0)すること、あるいは機関の運転または停止(Nc≧0)にかかわらず後進(Nr<0)することができる。
【0012】しかし、MG2の回転数は車速の如何によって左右され、蓄電装置の充電度は車速とは一応無関係であるため、MG2が蓄電装置の充電のための発電機として作動するには大きな制約がある。そこで蓄電装置の充電は専らMG1に頼ることとなり、逆に車輪の電動駆動は専らMG2に頼ることとなる。そのため変速機を備えない上記の如きハイブリッド車駆動構造に於いて、低車速領域にても必要に応じて高い車輪駆動トルクを得ることができる車輌運転性能を確保しておくためには、畢竟MG2は大型化せざるを得ない。
【0013】このことを車軸トルクの要求値の大きさを車速に対比させた車速対車軸トルクの座標系で示せば、図3の通りである。即ち、今、車輌の内燃機関を広い車速域に亙って高燃費にて運転し、しかも車輌の車速対車軸トルク性能として望まれる限界性能として線Aにて示す如き性能を車輌に持たせようとすれば、高燃費を得る内燃機関の車速対車軸トルク性能は領域Bの如くほぼ平らになるので、残りを専らMG2にて補わなければならず、その車速対車軸トルク性能は領域Cを賄うものでなければなない。そのためMG2は低回転速度にて高トルクを発生することができるよう、それ相当の大型のものとされなければならない。
【0014】しかし、図3を吟味すれば、領域Cの深さは領域Bの深さに対比して些か深すぎるのではないかとの疑問がもたれる。これは、観点を変えれば、内燃機関と第一および第二の電動発電機なる三つの原動装置の大きさの相対的釣合い、特に内燃機関と第二の電動発電機の大きさの釣合いの問題である。
【0015】かかる疑問に端を発し、この点に関し上記の如きハイブリッド車輌駆動構造を更に改良するものとして、本件出願人と同一人は、別途出願に係わる特願2001−323578号にて内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結されたハイブリッド車駆動構造に於いて、前記車輪駆動軸の途中または該車輪駆動軸への前記第二の電動発電機の連結の途中の少なくとも一方に変速機を設けたことを特徴とするハイブリッド車駆動構造を提案した。
【0016】上記別件特願2001−323578号による変速機付きハイブリッド車駆動構造の一つは、図4に示す如く変速機が車輪駆動軸の途中にあって第二の電動発電機の連結部より内燃機関の側に設けられている構造である。この場合、変速機100は2段ないし3段のものであってよく、更に後進段を含むものであってよい。そのような変速機は既に公知の技術により種々の態様にて得られるが、前進3段と後進段を有するものについてその一例を解図的に示せば、図5の通りである。
【0017】図5に於いて、20、22、24、26は一つの遊星歯車機構を構成するサンギヤ、リングギヤ、プラネタリピニオン、キャリアであり、また21、23、25、27は他の一つの遊星歯車機構を構成するサンギヤ、リングギヤ、プラネタリピニオン、キャリアであり、28(C1)、29(C2)はクラッチであり、30(B1)、31(B2)はブレーキであり、32(F1)はワンウェイクラッチである。
【0018】そしてこれらの回転要素が、33を入力軸とし、34を出力軸として、その間に図示の如く組み合わされていると、クラッチC1が係合されることによりワンウェイクラッチF1の係合を伴って減速比が最も大きい第1速段が達成され、クラッチC1とブレーキB1とが係合されることにより減速比が中程の第2速段が達成され、クラッチC1とC2とが係合されることにより減速比が最も小さい(減速比=1)第3速段が達成され、クラッチC2とブレーキB2とが係合されることにより後進段が達成される。
【0019】かかる変速機が図4に示す如く車輪駆動軸の途中に設けられることにより、図3に示したような車速に対する車軸トルクの要求は、内燃機関を全車速域にわたって最高燃費にて運転しても、図6に示す如く低車速域にてはそのより多くが変速機を介して内燃機関により分担され、第二の電動機に対するトルク負荷は大きくて低減される。即ち、図6に於いて、領域B1、B2、B3はそれぞれ変速機が低速用の第1速段、中速用の第2速段、高速用の第3速段に切り換えられることにより内燃機関が分担することができる車軸トルクの大きさを示し、輪郭線Aにて示されている如き車軸トルク性能を得るためには、第二の電動発電機は車速に応じて領域Cにて示されている大きさの車軸トルクを分担すればよいことになる。
【0020】但し、同出願にて内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結されたハイブリッド車駆動構造に変速機を組み込むことを提案したのは、低車速域にて特に高い車軸トルクが要求された場合に対する第二の電動発電機の必要容量を小さくするためである。かかる変速機付きハイブリッド車駆動構造は、内燃機関の回転数Ncと車輪の回転数Nrとの間の関係が第一の電動発電機の回転数Nsを変えることにより大幅に変更でき、一般の平地に於ける自動車の運行に於いては、車輌発進時であってもさほど高い車軸トルクが要求されるわけではない。
【0021】そこで、特別に高い車軸トルクが要求される場合を除き、通常の車輌運行に於いては、変速機が設けられていてもこれを作動させないこと、即ち変速機の変速切り換え作動を省略し、変速機の変速切り換えに伴う時間遅れや衝撃あるいは騒音の発生を回避することが有利であると考えられることに鑑み、本件出願人と同一人は、更に別途出願に係わる特願2001−323931号にて、かかるハイブリッド車駆動構造の運転方法として、変速機を所定の高速段に設定し、内燃機関を高燃費にて運転して車軸トルク要求値に対応できる限り、車速の変化に拘わらず該高速段を保持して運転することを提案した。
【0022】本願発明の課題以上により理解される通り、図1に示すハイブリッド駆動構造に図4に示す如く変速機を組み込むことにより、図3に輪郭線Aにて示す如き車速に対する車軸トルクの要求を、図6に示す如く内燃機関と第二の電動発電機との間に割り振ることができ、これによって第二の電動発電機を図6に領域Cにて示されている如く全車速域にわたってほぼ一様な比較的小さいトルクを発生することができればよい電動発電機とすることができる。
【0023】本発明は、図6に見られる如く変速機を経て幾段かに切り換えられて出力される内燃機関による車軸駆動トルクと電動発電機による車軸駆動トルクとが加算的に組み合わされて車軸が駆動される構成に於いては、内燃機関に基づくトルクは変速機の変速段切り換えにより不可避的に不連続変化を生ずるが、電動トルクは連続的可変性に富むものであることに着目し、これら両者の組合せよりなる車輌の駆動装置を更に改良することを課題としている。
【0024】
【課題を解決するための手段】かかる課題を解決するものとして、本発明は、内燃機関の出力軸が変速機を経て車輪駆動軸に連結され、該車輪駆動軸に電動発電機が連結されたハイブリッド車駆動構造の運転方法にして、前記変速機の変速段を切り換える際に該変速機の出力トルクに現れる急変を前記電動機の出力の変更により緩和することを特徴とするハイブリッド車駆動構造運転方法を提案するのである。
【0025】尚、電動発電機なる語は、電動機および発電機の両機能を有する手段を指すが、発電機能は蓄電装置を自己充電するという本願発明の作用および効果に直接関係しない機能であり、本願明細書の記載に於いて電動発電機と記載された手段は、特に断る場合を除き、本願発明に関する限り発電機能を有しない電動機をその均等物として含むものとする。
【0026】上記のハイブリッド車駆動構造運転方法に於いて、前記変速機の出力トルクの急変を緩和する前記電動発電機の出力トルクの変更は、前記車輪駆動軸に与えるべきトルクと前記変速機の出力トルクの実測値の差に基づいて制御されてよい。
【0027】或はまた、上記のハイブリッド車駆動構造運転方法に於いて、前記変速機の出力トルクの急変を緩和する前記電動発電機の出力トルクの変更は、各変速段の切換えに対し予め設定された時間対トルクのマップに従って制御されてよい。
【0028】上記のハイブリッド車駆動構造運転方法を適用するハイブリッド車駆動構造は、特に前記内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と前記車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結された構造を有し、前記変速機の出力トルクに現れる急変を出力トルクの変更により緩和する前記電動発電機は前記第二の電動発電機であるものであってよい。
【0029】また、上記のハイブリッド車駆動構造運転方法を適用するハイブリッド車駆動構造に於ける前記変速機は、複数の摩擦係合装置を備え、その内の一つの係合を解除し、他の一つを新たに係合させることにより切り換えられる二つの変速段を含んでいる構造のものであってよいが、或いはまた、噛合いが切り換えられる変速歯車機構であり、単一の摩擦係合装置により該変速歯車機構が全体として一時的に前記内燃機関の出力軸とのトルク伝達接続より切り離されるようになっている構造のものであってもよい。
【0030】
【発明の作用及び効果】従来、車輌の変速機に関する最も重要な課題の一つは、変速段の切換え時に如何にして変速機出力トルクの変動をなくすかということであり、そのため変速段の切換えを行うクラッチやブレーキの如き摩擦係合装置の係合の解除や新たな係合を如何に滑らかに且つ繊細なタイミングにて行うかが問題であった。
【0031】即ち、変速機の変速段を切り換えるには、歯車列内を通る動力の伝達経路を切り換える必要があり、そのためにはそれまでの動力伝達経路を一旦開放したり、変速比が異なる新たな動力伝達経路を立ち上げる必要がある。そのため変速段の切換えに際しては、変速機出力トルクはステップ状に急上昇または急降下したりあるいは一時的に落ち込んだりする。
【0032】かかる変速機出力トルクの急変を可及的に小さくして変速ショックや変速時の違和感を和らげるためには、変速段の切換えにあたって係合を解除されあるいは新たに係合される摩擦係合装置の開放あるいは係合は、ある緩やかな変化率にて滑らかに行われる必要があり、またある一つの摩擦係合装置が係合を解除される一方で他の一つの摩擦係合装置が新たに係合されるときには、両者の開放と係合の間には相互にある所定のタイミングが保たれることが重要であった。
【0033】この点に関し、上記の如く車輪駆動軸が、変速機出力トルクと電動トルクの加算により駆動されるようになっているとき、変速機出力トルクに生ずる変速時の急変に対応して電動発電機への電力の供給を変更する制御が行われれば、変速機出力トルクの急変を緩和することができ、摩擦係合装置の係合あるいは開放がさほど繊細に行われなくても、またそれを補うトルクコンバータが設けられていなくても、変速機の変速に伴い車軸駆動トルクをより滑らかに変化させることができる。
【0034】電動機の出力トルクは電動機への電力の供給を制御することにより極めて迅速に変化させることができるので、変速機の出力トルクの急変がトルクセンサ等により検出されさえすれば、急変する変速機出力トルクを車輪駆動軸に与えるべき滑らかに変化するトルクに対比させてその差に対応して電動機の出力トルクを急変させ、変速機の出力トルクに生ずる急変を的確に緩和することができる。
【0035】或はまた、変速段の切り換え時に於ける変速機出力トルクの急変は、各変速機の各変速段についてそのパターンがおよそ決まっているので、時間に対するトルクの急変の大きさを表した制御用マップを予め作成しておき、変速機の変速時には該マップ従って電動機の出力トルクを制御することによっても、変速機出力トルクの急変を緩和し、変速時にも滑らかに変化するトルクにて車輪駆動軸を駆動することができる。
【0036】本発明によるハイブリッド車駆動構造運転方法は、図4に示したように内燃機関の出力軸が動力分配機構を経て第一の電動発電機と車輪駆動軸とに連結され、該車輪駆動軸に第二の電動発電機が連結されたハイブリッド車駆動構造に於いては、該第二の電動発電機を変速機の出力トルクに現れる急変を出力トルクの変更により緩和する電動発電機として作動させることにより直ちに実施することができる。
【0037】また本発明によれば、図7のBおよびCに示す如く、変速機の変速段切換え際して変速機出力トルクに一時的な落ち込みが生ずる場合にも、これを補完して車輪を駆動するトルクを滑らかに変化させることができるので、変速機が複数の摩擦係合装置を備え、その内の一つの係合を解除し、他の一つを新たに係合させることにより切り換えられる二つの変速段を含んでいるものである場合にも、また、噛合いが切り換えられる変速歯車機構であり、単一の摩擦係合装置により変速時には該変速歯車機構が全体として一時的に前記内燃機関の出力軸とのトルク伝達接続より切り離されるようになっている場合にも、変速機に車輪駆動トルクの一時的落ち込みを生ずることのない車輪駆動を達成することができる。
【0038】
【発明の実施の形態】以下に本発明によるハイブリッド車駆動構造運転方法を、図4に示す如き変速機付きハイブリッド車駆動構造であって、変速機100が図5示す如きものである場合について、これに適用した例について説明する。
【0039】上記の通り、図5に示されている変速機は、33を入力軸とされ、34を出力軸とされたとき、クラッチC1が係合されることによりワンウェイクラッチF1の係合を伴って減速比が最も大きい第1速段が達成され、クラッチC1とブレーキB1とが係合されることにより減速比が中程の第2速段が達成され、クラッチC1とC2とが係合されることにより減速比が最も小さい(減速比=1)第3速段が達成される。
【0040】この場合に、変速段の切換えに当たって、クラッチC1,C2およびブレーキB1の係合あるいは開放がやや無造作に行われると、第1速段から第2速段へのアップシフト、第2速段から第3速段へのアップシフト、第3速段から第2速段へのダウンシフト、第2速段から第1速段へのタウンシフトに際して、変速機出力トルクはそれぞれ図7のA、B、C、Dに於いて実線にて示す如く変化する。
【0041】しかし、現在一般の車輌では、かかる変速機出力トルクの急変を図中破線にて示す如く和らげるべく、かかる変速機にトルクコンバータを直列に設け、またクラッチあるいはブレーキの係合あるいは開放を半クラッチ状態を経て緩やかに行い、更に第2速段と第3速段の間の切換えに於ける如くブレーキとクラッチの相反的開放と係合が行われることによりその間にトルクの一時的落ち込みが生ずる場合には、両者の開放と係合のタイミングを計って一部を時間的に重合をさせることにより、トルクの一時的落ち込みを可及的に少なくすることが図られている。
【0042】これに対し、本発明は、図7にて実線により示されている如き変速機出力トルクの変化をそれに応じた電動発電機の出力トルクの変更により図中破線にて示す如く補完して滑らかに変化させようとするものである。図8はその方法の一つの実施例を示すフローチャートである。
【0043】図8に示すフローチャートによる制御は、図には示されていないコンピュータを備えた車輌運転制御装置により車輌の運行開始と同時に開始される。先ずステップ1に於いて、第1速段より第2速段へのアップシフトを行うべきときか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ2へ進み、以下に説明する係数Cが1−2アップシフト用の係数C12とされる。C12は図7のAに於ける破線の下り勾配に対応する負の値である。
【0044】ステップ1の答がノーであれば、制御はステップ3へ進み、第2速段より第3速段へのアップシフトを行うべきときか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ4へ進み、係数Cが2−3アップシフト用の係数C23とされる。C23は図7のBに於ける破線の下り勾配に対応する負の値である。
【0045】ステップ3の答がノーであれば、制御はステップ5へ進み、第3速段より第2速段へのダウンシフトを行うべきときか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ6へ進み、係数Cが3−2ダウンシフト用の係数C32とされ、またフラグFが1にセットされる。C32は図7のCに於ける破線の上り勾配に対応する正の値である。フラグFの作用については後述する。
【0046】ステップ5の答がノーであれば、制御はステップ7へ進み、第2速段より第1速段へのダウンシフトを行うべきときか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ8へ進み、係数Cが2−1ダウンシフト用の係数C21とされる。
【0047】ステップ7の答がノーであれば、制御はそのままステップ1の前に戻り、ステップ1、3、5、7を巡りつつ何れかのアップシフトまたはダウンシフトを行うべき時期が来ることの監視を続ける。(このフローチャートは変速機の変速を制御するものではないので、後進段は対象外である。)
【0048】制御がステップ2、4、6または8のいずれかを通ったときは、制御はステップ9に至り、ここでそのときの変速機出力トルクTにある小さなトル値δTを加えた値が変速機出力トルクの初期値Toとされる。δTは後述のステップ13に於けるsより大きい値とされる。
【0049】次いで制御はステップ10へ進み、車輌運転制御装置を構成するコンピュータの一部に設けられたカウンタのカウント値nが制御開始時にリセットされた0より始まって1ずつ増分される。
【0050】次いで制御はステップ11へ進み、上に求められた係数Cと、変速機出力トルク初期値Toと、カウント値nと、その時点に於ける変速機出力トルクTに基づき、その時点に於けるトルク偏差ΔTがΔT=To+n・C−Tとして計算される。
【0051】この計算式より理解される通り、係数Cをなす上記のC12、C23、C32、C21は、それぞれ、制御がこのフローチャートのステップ10〜13を巡って循環する経過時間に相当する上記のカウン値nと掛け合わされるとき、図7のA、B、C、Dのそれぞれに於いて、トルク値を初期値Toから始まって破線にて示す如く変化せしめる値とされる。従ってまた、上の式から計算されるΔTは、図7のA、B、C、Dのそれぞれで見て、トルク変化の各時点に於いて、破線にて表されたトルク値が実線にて表されたトルク値に対してなす偏差である。
【0052】そこで、次のステップ12に於いては、電動発電機MG2の出力トルクをΔTだけ変化させ(即ち、ΔTが正のときには増大させ、ΔTが負のときには減小させ)、変速機出力軸に現れる実線にて示す如きトルクの急変を電動トルクにて緩和し、車輪に伝達される駆動トルクを図7のA,B,C,Dにて破線により示されている如く変化させる。尚、ΔTが正のときには、電動発電機MG2は勿論電動機として作動して変速機出力トルクを補わなければならないが、ΔTが負のときには、電動発電機MG2は車輪駆動軸に対し変速機出力トルクの回転方向とは逆の回転方向のトルクを生ずる電動機として作動されるか、あるいは変速機出力トルクの対応する一部を吸収する発電機として作動されてよい。
【0053】その後、制御はステップ13へ進み、ΔTの絶対値がある所定の小さい値s以下に収束したか否かが判断される。答がノーである間、制御はステップ10の前に戻り、時を追って変化するΔTを計算しつつそれに応じた電動機MG2によるトルク補完を続ける。
【0054】そして、図7のA、B、Dに於いては実線による変速機出力トルクの変動が破線による目標トルクに収束し、図7のCに於いては変速機出力トルクが破線を横切る状態となって、ステップ13の答がイエスに転ずると、制御はステップ14へ進み、フラグFが1であるか否かが判断される。変速が第3速段から第2速段へのダウンシフト以外ときには、フラグFは0にリセットされているので、答はノーであり、ここで1回の制御は終了し、制御は次回の制御に備える。
【0055】しかし変速が第3速段から第2速段へのダウンシフトであるときには、フラグFは1になっているので、制御はステップ15へ進み、ここである短時間δtの時間遅れがとられる。この時間遅れは、図7のCに於ける実線による実際のトルク経過線と破線による目標トルク経過線との交差部をやり過ごすための時間である。この遅れ時間δtをやり過ごした後、制御はステップ16へ進み、フラグFを0にリセットし、再度ステップ10の前に戻る。そして図7のCに於いて実線による実際のトルク経過線が破線による目標トルク経過線を上回る部分についての電動発電機MG2によるトルク補完が終了し、ステップ13に於ける答が再びイエスになると、制御はステップ14へ進み、このときフラグFは0にリセットされているので、ここで1回の制御は終了する。
【0056】図9は、図8と同様に、図7にて実線により示されている如き変速機出力トルクの変化をそれに応じた電動発電機の出力トルクの変更により図中破線にて示す如く修正して滑らかに変化させようとする本発明方法の他の一つの実施例を示すフローチャートである。
【0057】図9に示すフローチャートによる制御も、図には示されていないコンピュータを備えた車輌運転制御装置により車輌の運行開始と同時に開始される。先ずステップ101に於いて、第1速段より第2速段へのアップシフトを行うべきときか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ102へ進み、1−2アップシフト用のマップ12が選択される。マップ12は図7のAに於ける変速開始時点からの破線と実線の間のトルクの差を変速開始時点からの時間に対し変速開始時の変速機出力トルクToに対する比として示すマップであり、予め変速機の機種と変速段とに対し設定されているものである。
【0058】ステップ101の答がノーであれば、制御はステップ103へ進み、第2速段より第3速段へのアップシフトを行うべきときか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ104へ進み、2−3アップシフト用のマップ23が選択される。マップ23は図7のBに於ける変速開始時点からの破線と実線の間のトルクの差を変速開始時点からの時間に対し変速開始時の変速機出力トルクToに対する比として示すマップであり、同様に予め変速機の機種と変速段とに対し設定されているものである。
【0059】ステップ103の答がノーであれば、制御はステップ105へ進み、第3速段より第2速段へのダウンシフトを行うべきときか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ106へ進み、3−2ダウンシフト用のマップ32が選択される。マップ32は図7のCに於ける変速開始時点からの破線と実線の間のトルクの差を変速開始時点からの時間に対し変速開始時の変速機出力トルクToに対する比として示すマップであり、同様に予め変速機の機種と変速段とに対し設定されているものである。またここではフラグFが1にセットされる。
【0060】ステップ105の答がノーであれば、制御はステップ107へ進み、第2速段より第1速段へのダウンシフトを行うべきときか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップ108へ進み、2−1ダウンシフト用のマップ21が選択される。マップ21は図7のDに於ける変速開始時点からの破線と実線の間のトルクの差を変速開始時点からの時間に対し変速開始時の変速機出力トルクToに対する比として示すマップであり、同様に予め変速機の機種と変速段とに対し設定されているものである。
【0061】ステップ107の答がノーであれば、制御はそのままステップ101の前に戻り、ステップ101、103、105、107を巡りつつ何れかのアップシフトまたはダウンシフトを行うべき時期が来ることの監視を続ける。(このフローチャートもまた変速機の変速を制御するものではないので、後進段は対象外である。)
【0062】制御がステップ102、104、106または108のいずれかを通ったときは、制御はステップ109に至り、ここでそのときの変速機出力トルクTの値が変速機出力トルクの初期値Toとされる。
【0063】次いで制御はステップ110へ進み、車輌運転制御装置を構成するコンピュータの一部に設けられたカウンタのカウント値nが制御開始時にリセットされた0より始まって1ずつ増分される。
【0064】次いで制御はステップ111へ進み、そのときのカウント値nに基づいて上に選択されたマップを参照し、電動機により補完すべきトルクΔTの大きさのToに対する比Kmap(n)を読み取り、ΔT=To・Kmap(n)としてΔTが計算される。
【0065】この計算式より理解される通り、上記のマップ12、23、32、21は、それぞれ、制御がこのフローチャートのステップ110〜113を巡って循環する各時点にて変速開始時の変速機出力トルクの初期値Toと掛け合わされるとき、図7のA、B、C、Dのそれぞれに於いて破線にて示す如きトルク変化と実線により示す如き予想される実際のトルク変化の間の差を与える係数を、カウント値nの関数Kmap(n)として提供するものである。
【0066】かくして得られたΔTに基づいて電動発電機MG2を作動させる要領は、図8に示す実施例に於けるものと同様である。図9に於いては、図8に於けるステップに対応するものは、対応するステップ番号を100番台に変えたステップ番号にて示し、更なる詳細な説明は記載の冗長化を避けるため省略する。
【0067】以上に於いては、変速機として自動変速機に多く用いられている図5に示す如き構造の変速機を例にとって本発明を説明したが、本発明によるハイブリッド車運転制御方法によれば、図7のBおよびCの如く変速に際して変速機出力トルクが一旦谷状に落ち込む場合に対しても、車軸へ伝達される駆動トルクを同図中破線にて示したように滑らかに変化させることができる。このことは、本発明によれば、変速機が旧来の手動変速機の構造であっても同様に適用でき、また同様の作用及び効果が得られることを示している。
【0068】即ち、旧来の手動変速機は、変速歯車機構のみを備えており、その変速にあたっては、内燃機関出力軸と変速機との間に設けられた唯一のクラッチが変速の度に一時係合を解除され、その間に歯車の噛合いの切換えが行われるようになっている。従って、この場合、変速機出力トルクは、何の変速段より何の変速段への変速が行われるときにも、変速の度に一旦谷状に落ち込む。かかる変速に伴う変速機出力トルクの落ち込みに対して、本発明は、上記の図8または図9のいずれに示したような実施例によってもこれを補完し、変速に伴う車軸駆動トルクの変化を滑らかに行わせることができる。
【0069】図5に例示した如き自動変速用の用の変速機は、運転中常時数個のクラッチやブレーキの如き摩擦係合装置により動力伝達を行っており、摩擦係合による動力伝達はそれなりのエネルギ損失をきたし、伝達効率の低下を余儀なくさせるものである。かかる運転中のエネルギ損失の点に於いて、単一のクラッチにて作動する旧来の手動変速機はそれより優れている。そこで、ハイブリッド車に変速機を組み込むに当たって、本発明が適用されれば、変速機を旧来の手動用の変速機とし、それを変速に際して単一のクラッチにより一時内燃機関出力軸より切り離すようにすることもでき、これによってハイブリッド車に変速機を組み込む場合のエネルギ損失を抑制し、燃費について有利な効果を得ることができる。
【0070】尚、手動変速機の構造は既に古くから当技術分野に於いては種々の構成に於いて公知であり、そのうち本発明の適用の対象となり得るものが特に限られるという事情はなく、また変速歯車機構を特定しなくても本発明に係るその作用効果は明らかであり、手動変速機の構造の例について図示を伴う説明を行うことは明細書および図面を徒に冗長化するので省略する。
【0071】以上に於いては本発明をいくつかの実施例について詳細に説明したが、本発明がこれらの実施例にのみ限られるものではなく、本発明の範囲内にて他に種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【出願人】 【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
【住所又は居所】愛知県豊田市トヨタ町1番地
【出願日】 平成14年1月25日(2002.1.25)
【代理人】 【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
【公開番号】 特開2003−212005(P2003−212005A)
【公開日】 平成15年7月30日(2003.7.30)
【出願番号】 特願2002−16433(P2002−16433)