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【発明の名称】 タイヤの排水性能のシミュレーション方法、シミュレーション装置、及びシミュレーションプログラムを記録した記録媒体
【発明者】 【氏名】見寄 明男
【住所又は居所】兵庫県神戸市中央区脇浜町3丁目6番9号 住友ゴム工業株式会社内

【要約】 【課題】計算時間を短縮し設計に役立つ実用的なシミュレーション方法及び装置を提供する。

【解決手段】排水溝を具えたトレッド面を有するタイヤの排水性能をシミュレーションするタイヤの排水性能のシミュレーション方法である。前記排水溝と路面とで囲まれる排水空間と実質的に等しい空間を形成しかつ内部に流体が流れる排水空間モデル部を含む流体モデルを、この流体モデルの反力に基づいたトレッド面の変形を考慮することなく定めるステップS1と、該流体モデルに、少なくとも前記流体が流入する流入部、流体が流出する流出部及び流体が流出入不能となる流出入禁止部を定める条件を含む境界条件を設定するステップS2と、前記境界条件に基づいて前記流体の流動計算を行うステップS3と、前記流動計算の結果から必要な情報を出力するステップS5とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】トレッド面に排水溝を有するタイヤの排水性能をシミュレーションするタイヤの排水性能のシミュレーション方法であって、前記排水溝と路面とで囲まれる排水空間と実質的に等しい形状をなしかつ内部に流体が流れる排水空間モデル部を含む流体モデルを、この流体モデルの反力に基づくトレッド面の変形を考慮することなく定めるステップと、該流体モデルに、少なくとも前記流体が流入する流入部、流体が流出する流出部及び流体が流出入不能となる流出入禁止部を定める条件を含む境界条件を設定するステップと、前記境界条件に基づいて前記流体の流動計算を行うステップと、前記流動計算の結果から必要な情報を出力するステップとを含むことを特徴とするタイヤの排水性能のシミュレーション方法。
【請求項2】前記排水空間は、前記流体モデルの設定に先立ち、予め計測又は設計データにより求められてなる請求項1記載のタイヤの排水性能のシミュレーション方法。
【請求項3】前記流体モデルは、移動しない固定部と、移動する移動部とを含むとともに、該移動部を移動させることにより該流体モデルの形状をタイヤの回転に合わせて変動させるステップを含むことを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤの排水性能のシミュレーション方法。
【請求項4】前記移動部は、排水溝の溝壁面に設けられた凹部及び/又は凸部の外形に等しい凹部モデル及び/又は凸部モデルからなることを特徴とする請求項3記載のタイヤの排水性能のシミュレーション方法。
【請求項5】請求項1ないし4のいずれかに記載されたタイヤの排水性能のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータを含むタイヤの排水性能のシミュレーション装置。
【請求項6】トレッド面に排水溝を有するタイヤの排水性能をシミュレーションするタイヤの排水性能のシミュレーションプログラムを記録した記録媒体であって、前記排水溝と路面とで囲まれる排水空間と実質的に等しい形状をなしかつ内部に流体が流れる排水空間モデル部を含む流体モデルを、この流体モデルの反力に基づくトレッド面の変形を考慮することなく定めるステップと、該流体モデルに、少なくとも前記流体が流入する流入部、流体が流出する流出部及び流体が流出入不能となる流出入禁止部を定める境界条件を設定するステップと、前記境界条件に基づいて前記流体の流動計算を行うステップと、前記流動計算の結果から必要な情報を出力するステップとを含むことを特徴とするタイヤの排水性能のシミュレーションプログラムを記録した記録媒体。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、タイヤの排水性能のシミュレーション方法、シミュレーション装置、及びシミュレーションプログラムを記録した記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】近年、コンピュータを使用してタイヤの排水性能をシミュレーションするシミュレーション方法が種々提案されている。一般に、この種のシミュレーションでは、図16に誇張して示すように、数値解析によって変形計算が可能なタイヤモデルaと、数値解析によって流動計算が可能な流体モデルbとをそれぞれ設定する。そして、流体モデルbに対して、タイヤモデルaのトレッド面a1を流体が浸入できない壁、即ち境界面として条件付け、流体モデルbの流動計算(流体解析)を行なう。
【0003】また、この流動解析によって得られた流体の反力は、タイヤモデルaのトレッド面a1に対する外力として条件付けし、この条件でタイヤモデルaの変形計算(構造解析)が行われ、トレッド面a1の変形状態を新たに求める。そして、このような計算を順次交互に繰り返して行なうことによって、タイヤモデルaと流体モデルbとの境界面を逐次更新して定常状態を作り出すものである。
【0004】上述のようにタイヤモデルaの変形計算(構造解析)と流体モデルbの流動計算(流体解析)とにおいて、相互に境界条件を受け渡しさせながら計算を繰り返し行う処理は、一般に「連成」と称され、それなりの計算精度をうることができる。しかしながら、この方法では、莫大な計算資源と計算時間を必要とする。これは、早急な解析結果が要求される現実のタイヤ開発の上では大きな障害となる。
【0005】現実的な見方をすると、トレッド面の排水溝のデザインを検討する際、流体が排水溝をどのように流れていくかという点が最も重視される。かかる観点では、流体の反力である水圧に基づいたトレッド面a1の微小な変形や、浮き上がりであるハイドロプレーニング現象のシミュレーションは、シミュレーションの中ではオーバクォリティとも考えられる。
【0006】発明者らは、流体からの反力に基づくトレッド面の微小な変形を計算から取り除くこと、即ち、トレッド面の排水溝と路面とで囲まれる排水空間と実質的に等しい外形をなす排水空間モデル部を有しかつ内部に流体を定義した数値解析が可能な流体モデルを、この流体モデルの反力に基づいたトレッド面の変形を考慮することなく定めて流動計算を行うことを基本として、比較的精度が良くかつ計算時間を短縮化しうるタイヤの排水性能をシミュレーションしうることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0007】以上のように、本発明は、精度の低下を抑えつつ計算時間を短縮化することによってタイヤ開発に役立つタイヤの排水性能のシミュレーション方法、シミュレーション装置、及びシミュレーションプログラムを記録した記録媒体を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明のうち請求項1記載の発明は、トレッド面に排水溝を有するタイヤの排水性能をシミュレーションするタイヤの排水性能のシミュレーション方法であって、前記排水溝と路面とで囲まれる排水空間と実質的に等しい形状をなしかつ内部に流体が流れる排水空間モデル部を含む流体モデルを、この流体モデルの反力に基づくトレッド面の変形を考慮することなく定めるステップと、該流体モデルに、少なくとも前記流体が流入する流入部、流体が流出する流出部及び流体が流出入不能となる流出入禁止部を定める条件を含む境界条件を設定するステップと、前記境界条件に基づいて前記流体の流動計算を行うステップと、前記流動計算の結果から必要な情報を出力するステップとを含むことを特徴としている。
【0009】また請求項2記載の発明は、前記排水空間は、前記流体モデルの設定に先立ち、予め計測又は設計データにより求められてなる請求項1記載のタイヤの排水性能のシミュレーション方法である。
【0010】また請求項3記載の発明は、前記流体モデルは、移動しない固定部と、移動する移動部とを含むとともに、該移動部を移動させることにより該流体モデルの形状をタイヤの回転に合わせて変動させるステップを含むことを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤの排水性能のシミュレーション方法である。
【0011】また請求項4記載の発明は、前記移動部は、排水溝の溝壁面に設けられた凹部及び/又は凸部の外形に等しい凹部モデル及び/又は凸部モデルからなることを特徴とする請求項3記載のタイヤの排水性能のシミュレーション方法である。
【0012】また請求項5記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載されたタイヤの排水性能のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータを含むタイヤの排水性能のシミュレーション装置である。
【0013】また請求項6記載の発明は、トレッド面に排水溝を有するタイヤの排水性能をシミュレーションするタイヤの排水性能のシミュレーションプログラムを記録した記録媒体であって、前記排水溝と路面とで囲まれる排水空間と実質的に等しい形状をなしかつ内部に流体が流れる排水空間モデル部を含む流体モデルを、この流体モデルの反力に基づくトレッド面の変形を考慮することなく定めるステップと、該流体モデルに、少なくとも前記流体が流入する流入部、流体が流出する流出部及び流体が流出入不能となる流出入禁止部を定める境界条件を設定するステップと、前記境界条件に基づいて前記流体の流動計算を行うステップと、前記流動計算の結果から必要な情報を出力するステップとを含むことを特徴とするタイヤの排水性能のシミュレーションプログラムを記録した記録媒体である。
【0014】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。本発明は、例えば図1及びそのA部拡大斜視図である図2(A)に示すように、排水溝2を具えたトレッド面3を有するタイヤTの排水性能をシミュレーションするシミュレーション方法及び装置を含む。
【0015】前記排水溝2は、本実施形態では、タイヤ周方向に沿ってストレートで連続してのびる直線溝からなるものを示す。該排水溝2は、左右の溝壁面2A、2Bと、この溝壁面2A、2Bの下端を継ぐ溝底面2Cとを具え、トレッド面3から所定の深さで凹設されている。また一方の溝壁面2Aは、タイヤ半径方向外側部分をなす緩傾斜面部2aと、そのタイヤ半径方向内方に連なる急傾斜面部2bとを有し、緩傾斜面部2aには、タイヤ軸方向にのびる小深さの凹部2Dがタイヤ周方向に隔設されている。凹部2DのX−X拡大断面図が図2(B)に示されている。タイヤの排水性能は、例えばこの排水溝2を流れる流体(具体的には水)の速度ベクトルの分布や圧力分布などを用いて評価することができる。このため、本例ではこの1本の排水溝2の排水性能をシミュレーションする態様を以下に説明する。
【0016】図3には、このようなシミュレーション方法を実施するためのシミュレーション装置1を例示する。該シミュレーション装置1は、コンピュータ本体1aと、入力手段としてのキーボード1b、マウス1cと、出力手段としてのディスプレイ装置1dとを含んで構成される。コンピュータ本体1aには、図示していないが、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メインメモリー、磁気ディスクなどの大容量記憶装置、CD−ROMやフレキシブルディスクなどのドライブ1a1、1a2を含む記憶装置がある。そして、前記大容量記憶装置には後述する方法を実行するための処理手順(プログラム)が記憶されている。特に好適にはシミュレーション装置1としてEWSが良い。
【0017】図4には、本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示している。先ず本実施形態では、図5〜7に例示するように、流体モデル4を設定する(ステップS1)。本例の流体モデル4は、排水空間モデル部4aと、この排水空間モデル部4aの上流側に連なる流体導入モデル部4iと、前記排水空間モデル部4aの下流側に連なる流体排出モデル部4oとから構成されたものを例示している。
【0018】図8、及びそのF−F拡大断面図である図9(A)に示すように、路面GLにタイヤTが所定の荷重で接地した状態では、トレッド面3の排水溝2と路面GLとで囲まれる接地長さCの排水空間5が形成される。前記排水空間モデル部4aは、この排水空間5と実質的に等しい形状でモデル化される。即ち図6及びそのY−Y拡大断面図である図9(B)に示すように、排水空間モデル部4aは、路面GLに相当する底壁部10と、排水溝2の溝底面2Cに相当する上壁部13と、前記底壁部10と前記上壁部13との間を継ぎ前記溝壁面2A、2Bと実質的に同一形状をなす左右の側壁部11、12とで囲まれた3次元形状をなしている。なお各側壁部11、12は、緩傾斜面部11a、12a、急傾斜面部11b、12bを含む。
【0019】また前記流体導入モデル部4iは、図8において、排水空間5よりも上流側でかつタイヤ周方向長さL1の領域の一部ないし全部(本例では一部)をモデル化したものを例示している。同様に流体排出モデル部4oも、排水空間5よりも下流側かつタイヤ周方向長さL1の領域の一部ないし全部(本例では一部)をモデル化したものを例示している。
【0020】各モデル部4a、4i、4oは、本例では数値解析法である有限体積法にて取り扱いが可能な要素としてオイラー要素を用いてモデル化されている。具体的には各3次元形状を微小な要素で分割する。各要素には例えば4ないし6面体といった多面体要素が好適であり、各要素の番号や各節点座標などが前記シミュレーション装置1の記憶手段に記憶される。
【0021】流体モデル4の内部には、流体(図示省略)が定義される。該流体は、流体モデル4が形成する空間内部の全部又は少なくとも一部を満たすことができる。流体モデル4に満たされる流体の厚さhは、シミュレーションを行う路面GLに溜まった水膜の厚さに応じて定めることができる。本実施形態では、水膜を有するウエット路面走行時におけるタイヤの排水性能を解析するため、流体には「水」が使用され、流体を定義する各種のパラメータには水の物性値が使用される。
【0022】図16にて示したように、従来の流体モデルbは、先ずタイヤモデルaが走行可能な所定の高さ、巾、長さを有した直方体形状で定義され、タイヤモデルaと接触することでそのトレッド面a1の位置に応じて形状が定められる。また流体モデルbからの反力によりトレッド面a1は時刻t、t+Δt、…などで刻々と変化するため、流体モデルbの形状も、このトレッド面a1の変形を考慮に入れた形状へと再構築する必要がある。これには非常に多くの計算資源を必要としていた。
【0023】本発明のシミュレーション方法では、従来とは異なり、流体モデル4の反力に基づくトレッド面3の変形は、流体モデル4の形状を定める際に考慮しない。このため、極端な例ではタイヤモデルを用いることなく流体のシミュレーションを行うことができる。これは計算時間を大幅に短縮化しうる。仮にタイヤモデルを用いた場合でも、計算工数が減るため解析時間の短縮化が期待できる。
【0024】流体モデル4の形状は、例えば当初からタイヤが路面と接地しているときに形成される前記排水空間5と等しい排水空間モデル部4aを含めて設定するのが良い。そして、この流体モデル4の空間の中に所定の条件(速度、密度、流出入の方向等)で流体を流すシミュレーションにて流体解析を行うことにより、きわめて簡単にかつタイヤ設計に有効な排水性能を調べることができる。
【0025】なお流体モデル4を定めるに際して、考慮しないのは流体反力に基づいたトレッド面の変形だけである。従って、例えばタイヤTが回転することにより生じる排水空間Tの形状変動などはシミュレーション上に取り込むことができる。このような形状変動は、シミュレーションに先立ち当初から容易に予想できること、また前記連成の計算に比べれば計算時間が非常に短くて済むこと等によって、本実施形態のシミュレーション上に好適に取り込むことができる。また発明者らの種々の実験の結果、本発明のシミュレーションの精度は、流体の反力に基づくトレッド面の変形を考慮に入れたシミュレーションに比べて、計算精度の低下が少なく、実質的に全く問題のないレベルであることが判明している。この点については後述の実施例により明らかにする。
【0026】前記排水空間5は、流体モデル4の設定に先立ち、連成以外の種々の方法で予め定めておくことができる。例えばタイヤに所定の内圧、荷重を加えた状態で静的に平面に接地させたときの排水空間を実際に計測して求める方法や、CAD等を用いて設計したタイヤのデータを用いて計算により求める方法、さらにはタイヤを有限個の要素でモデル化したタイヤモデル(図示せず)を所定の条件で平面に接地させてシミュレーションを行って求める方法を採用することができる。また、例えば図10(A)、(B)に示すように、無負荷時のタイヤの外径Rと、荷重を付加して路面GLに接地させたときのタイヤの縦撓み量δとが既知であれば、接地により路面に潜り込む部分Zを取り除き、図10(B)のように、路面GL相当位置に排水溝2を移動させて便宜的に排水空間5の形状を定めることもできる。
【0027】また本実施形態の流体モデル4は、複数のモデル部分に分けて設定され、かつこれらを結合して形成したものを例示している。流体モデル4の分け方は特に限定されないが、モデル化の工数を低減しうるよう類似の立体的に形状をもつ部分でまとめて分割するのが望ましい。本実施形態では、図5に示したように、排水溝2の溝容積部分をなす溝容積モデル部20と、それ以外の部分である非溝容積モデル部21とに分けてモデル化されたものを示す。前記排水溝2の溝容積部分は、排水空間モデル部4aでは、排水溝2と路面GLとで囲まれる部分とし、流体導入モデル部4i及び流体排出モデル部4oでは、排水溝2とその溝縁Ea、Eb間を滑らかに継ぐ仮想のトレッド面VP(図2(A)に示す)とで囲まれる部分とする。
【0028】このように、流体モデル4を分割しやすい領域に区分して個々にモデル化することにより、モデル化作業を能率化し、シミュレーション時間の短縮化にも役立つ。また比較的計算精度に影響を及ぼしやすい溝容積モデル部20を構成する要素(メッシュ)を小さくし、逆に計算精度に影響を及ぼしにくい非溝容積モデル部21を構成する要素(メッシュ)を大きくすることにより、さらに効果的に要素化に要する時間や計算時間などの短縮化を図りうる。要素の大小は、多面体要素であればその体積で、平面要素であればその面積で比較することができる。ただし、本発明は、このような実施態様に限定されるものではない。
【0029】次に本実施形態では、流体モデル4に各種の境界条件を設定する(ステップS2)。設定される境界条件としては、例えば流体モデル4の内部に満たされる流体の厚さh、流速、圧力、密度といった流体に関する条件の他、該流体モデル4に、少なくとも前記流体が流入する流入部I、流体が流出する流出部O及び流体が流出入不能となる流出入禁止部Nを定める条件が含まれうる。
【0030】本実施形態では、図5、図6に示すように、流体導入モデル部4iの側端面4iaだけを流体が連続して流入しうる流入部Iとし、かつ流体モデル4の流体排出モデル部4oの側端面4oaだけを流体が外部に流出可能な流出部Oとして定める。そして、それ以外の流体モデル4の各外面については、流体を取り囲む壁として作用する流出入禁止部Nとして定義している。このように境界条件を設定した流体モデル4の中に、所定の速度を持った流体を流すことによって、排水空間モデル部4aにはその上流側から流体が流れ込みかつその下流側から排出される状態を作り出すことができる。実際に回転しているタイヤの排水溝2の中の状態と同じ状態となる。
【0031】次に本実施形態では、流体の流動計算が行なわれる(ステップS3)。流体モデル4の流動計算には、例えば有限体積法を用い、オイラー方程式、すなわち下記式(1)〜(3)に示される質量保存の方程式、運動量保存の方程式を用いて計算する。
【0032】
【数1】

【0033】計算手順は例えば一般に知られている流体計算プログラム(例えば英国Compu-tational Dynamics 社製のアプリケーションソフト「STAR−CD」)などを用いて行いうる。
【0034】また本実施形態では、流体モデル4の変動計算を行うものを例示している(ステップS4)。本発明では、流体モデル4の形状変化に、該流体モデル4の反力に基づくトレッド面3の変形は反映しないが、タイヤの回転による排水空間5の形状変化を考慮に入れることができる。
【0035】本例の排水溝2には、図2に示したように、一方の溝壁面2Aにタイヤ軸方向にのびる凹部2Dがタイヤ周方向に隔設されているため、タイヤが回転すると該凹部2Dの位置が変化する。本例ではこの形状変化を流体モデル4に反映させる。前記流体モデル4は、例えば図11に示すように、前記溝容積モデル部20を、凹部2Dを埋めて緩傾斜面部11aを平坦化した排水溝2の形状でモデル化されかつ座標系に固定されて移動しない固定部20aと、前記凹部2Dをモデル化しかつ前記緩傾斜面部11に沿ってタイヤ周方向に移動しうる移動部20bとにさらに分割して設定したものを例示している。移動部20bは、図5において矢印S方向へ移動するため、予め移動量に応じた余分な長さを与えている。なお非溝容積モデル部21も座標系に固定されて移動しない固定部となる。
【0036】
【表1】

【0037】前記移動部20bは、図11などに拡大して示すごとく、緩傾斜面部11aに沿った平面部23と、この平面部23、23間に形成されかつ凹部2Dをモデル化した半円筒状をなす凹部モデル24とを一体に具えている。平面部23は、例えば厚さを有しない平面要素として定め、該平面部23は、常に固定部20aの緩傾斜面部25に沿って所定の速度でタイヤ周方向に移動するように定義づける。
【0038】そして、流体モデル4の変動計算は、流体モデル4の外形形状を特定し、その各面に流体の流出入に関する前記境界条件を再設定することにより行われる。溝容積モデル部20の緩傾斜面部11aについては、凹部モデル24が該緩傾斜面部11aに対して相対的に移動するため、各時刻において移動部20bの形状を計算する。これは移動部20bの移動速度と、緩傾斜面部11aの位置とに基づいて、凹部モデル24の位置を計算し、これを固定部20aに重ね合わせる。そして、移動部20bと固定部20aとを重ね合わせた形状から、図11(B)に示すように、その最外側面がなす3次元形状Jを流体モデル4の外形形状として設定する。またこの特定した形状に対して、流出入の境界条件を新たに設定する。流入部I、流出部Oの位置については、そのままとし、それ以外の各面を流入禁止部Nとして設定する。
【0039】このように、固定部20aを座標系に固定するとともに、移動部20bを緩傾斜面部25に沿ってタイヤ周方向に移動させることにより、前記流体モデル4の形状をタイヤTの回転に合わせて変動させることができる。またこのような計算は、形状の変動が予め予測できるため、予期し得ないタイヤモデルの変形を考慮した連成に比べると大幅な計算時間の増加を防止できる。
【0040】なお上記実施形態では、移動部20bが排水溝2の凹部である場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、例えば凸部モデルであっても良い。また図12に示すように、トレッド面形状に沿ってタイヤ周方向に移動する横溝モデルを移動部20bとし、それ以外を固定部20aとして流体モデル4をモデル化することもできる。
【0041】次に本実施形態では、計算終了か否かを判断を行う(ステップS5)。この判断については、シミュレーション開始から例えば予め指定(定義)された時間が経過しているか否かを調べ、経過していない場合(ステップS5でN)、ステップS3に戻り、新たに微小時間増分を加えて再度ステップS3、S4を繰り返す。また所定の時間が経過している場合(ステップS5でY)、計算を終える。そして、流体モデル4の計算結果から、各位置(具体的には要素の節点の位置)において、流体の速度の大きさ、方向及びその向き、圧力などの情報を取得することができる(ステップS5)。
【0042】本発明のシミュレーションを行った結果として、図13には流体の速度ベクトルを可視化して示している。シミュレーションの条件として、排水溝の深さを8mm、流体の厚さを2mmかつ速度80km/Hに設定した。また排水空間は図10に示した方法で接地長が130mmとして設定した。
【0043】図13において、流体の各ベクトルは、排水溝2の溝中心線を通る断面でのものである。この図から排水空間では、下流側約65%の範囲では速度ベクトルがほぼ均一になっていることが分かった。また排水空間の上流側35%の部分では流体の速度が前記範囲よりも高い。また流体導入モデル部、及び流体排出モデル部では、流体の詳細な流れを見極めることができた。
【0044】また図14には、流体の流れを可視化して示している。着色部分は、流体の容積比率が高い部分(即ち、本例ではメッシュ中に50%以上流体が含まれる部分)を示している。なお、着色部分以外にも流体は存在しており、これは容積比率が小さくしぶき状となっている。この結果も排水溝2の溝中心線を通る断面でのものである。
【0045】また図15には溝表面における圧力分布図を示している。この図から明らかなように、排水空間への流入直前では水圧が非常に高くなっているが、排水空間へ流入した直後は急激に圧力が低下しており、その緩やかに上昇していることが分かる。また排水空間から流体が排出された直後は、再び圧力が低下していることも分かる。
【0046】また、表1には、溝中心線を通る断面かつ接地前端から20mm、50mm、及び90mmにおける路面近傍での流速を、本発明による方法と、タイヤの水圧に基づく変形を考慮して流体モデルの形状を逐次変化させたいわゆる連成方式とでそれぞれ計算した結果を示す。シミュレーション条件は、上記と同じにした。表1から明らかなように、計算結果の相違は小さいことがわかる。一方、計算時間の比較では、本発明の方法が著しく短縮されていることが分かる。
【0047】
【発明の効果】上述したように、請求項1記載の発明では、排水溝を具えたトレッド面を有するタイヤの排水性能をシミュレーションするタイヤの排水性能のシミュレーションを短時間で行うことができる。また流体モデルの反力に基づくトレッド面の変形を考慮した場合と比べて、計算精度についても著しい悪化が見られず、実用上十分な計算精度を持たせることができる。
【0048】また請求項3記載の発明のように、前記排水空間モデル部は、移動しない固定部と、移動する移動部とを含むとともに、該移動部を移動させることにより前記流体モデルの形状をタイヤの回転に合わせて変動させることもできる。この場合、回転により排水空間が変動する横溝を有するタイヤなどにおいて、計算精度の悪化を防止できる。
【出願人】 【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
【住所又は居所】兵庫県神戸市中央区脇浜町3丁目6番9号
【出願日】 平成14年5月28日(2002.5.28)
【代理人】 【識別番号】100082968
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 正 (外1名)
【公開番号】 特開2003−341315(P2003−341315A)
【公開日】 平成15年12月3日(2003.12.3)
【出願番号】 特願2002−154394(P2002−154394)