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【発明の名称】 インクジェット記録方法
【発明者】 【氏名】柴谷 正也
【住所又は居所】長野県諏訪市大和3丁目3番5号 セイコーエプソン株式会社内

【氏名】大西 弘幸
【住所又は居所】長野県諏訪市大和3丁目3番5号 セイコーエプソン株式会社内

【要約】 【課題】顔料インクの特長である良好な耐水性及び耐光性を活かし、さらに、印刷ムラやカラーブリードを防止し、画像濃度が高く、耐擦性にも優れた高品位の画像の実現が可能なインクジェット記録方法を提供すること。

【解決手段】本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体の被記録面に、顔料インク凝集能及び皮膜形成能を有する水性処理液を塗布する前処理工程と、該前処理工程で該水性処理液が塗布された該被記録面に、顔料インクを打ち込んで記録を行うインクジェット記録工程と、該インクジェット記録工程で記録が行われた該被記録面に、該水性処理液を塗布した後、該記録媒体を加熱乾燥して、該被記録面上に皮膜を形成する皮膜形成工程とを備えることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 記録媒体の被記録面に、顔料インク凝集能及び皮膜形成能を有する水性処理液を塗布する前処理工程と、該前処理工程で該水性処理液が塗布された該被記録面に、顔料インクを打ち込んで記録を行うインクジェット記録工程と、該インクジェット記録工程で記録が行われた該被記録面に、該水性処理液を塗布した後、該記録媒体を加熱乾燥して、該被記録面上に皮膜を形成する皮膜形成工程とを備えることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】 上記水性処理液が、凝集剤を2〜30重量%含有し、樹脂粒子を0.1〜20重量%含有することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】 上記凝集剤が、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、臭化マグネシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化アルミニウム及び硝酸アルミニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】 上記樹脂粒子が、エチレン、プロピレン、スチレン、スルホン化イソプレン、アクリル酸及びメタクリル酸並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれる1種又は2種以上をモノマーとする重合体からなることを特徴とする請求項2又は3記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】 上記樹脂粒子の平均粒子径が10〜200nmであることを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】 上記水性処理液の塗布が、ジェットノズルを用いたインクジェット方式により行われることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、顔料インクと、顔料インク凝集能及び皮膜形成能を有する水性処理液とを用い、画像濃度が高く高品位で、耐擦性にも優れた画像を提供し得るインクジェット記録方法に関する。
【0002】
【従来の技術】インクジェット方式は、微小なノズルから画像データに応じてインクの液滴を吐出させ、記録媒体の被記録面に付着させて印字を行う記録方式である。インクジェット記録用のインクとしては、染料や顔料等の着色剤を水やアルコール等を含む水性媒体中に溶解又は分散させたものが一般的であり、染料インクと顔料インクとに大別される。これまで、色再現性や吐出安定性等に優れる染料インクが多用されてきたが、インクジェット記録技術のデジタル写真サービスや商業印刷等への用途拡大により、記録画像の長期保存性が重要視されるようになってきており、染料インクに比して耐水性や耐光性等に優れる顔料インクが使用されるようになってきている。
【0003】ところで、インクジェット記録用インクの画質面での技術的課題として、特に、普通紙(非塗工紙)や、インクジェット適性のない一般の印刷用コート紙、アート紙等に記録を行った場合に、インクがこれらの内部に浸透してしまい十分な画像濃度が得られない;記録媒体表面の填料やサイズ剤等の不均一な分布に起因すると考えられる画像濃度の不均一(いわゆる印刷ムラ)が生じる;カラー画像において、異色の境界部分で色が滲んだり、不均一に混ざり合ったりする(いわゆるカラーブリード)等が挙げられる。
【0004】上記の技術的課題を解決する方法として、特開平5-202328号公報には、多価金属塩溶液を記録媒体の被記録面に適用した後に、少なくとも1つのカルボキシル基を有する染料を含むインク組成物を適用する方法が開示されている。この方法は、多価金属イオンと染料から不溶性複合体が形成され、この複合体の存在により、耐水性があり且つカラーブリードのない高品位の画像を得ることができるとされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記のような2液(多価金属塩溶液とインク)を用いるインクジェット記録方法を顔料インクに適用した場合、画像濃度が高く、印刷ムラやカラーブリードのない画像を得ることはできるものの、被記録面に付着した顔料が剥がれ落ち易く、指で画像を擦ると顔料が脱落して被記録面を汚すなど、記録画像の耐擦性に劣るという問題があった。耐擦性については、インク中にバインダーとして樹脂成分を含有させることにより、その改善を図る方法が知られているが、この方法は、実用上十分な耐擦性を付与し得る量の樹脂成分を含有させると、分散安定性や保存安定性等の低下を招くおそれがあり、微小なノズルの開口からインクの液滴を吐出させるインクジェット記録方法には適用し難いものであった。
【0006】従って、本発明の目的は、耐水性及び耐光性などの顔料インクの特長を活かし、さらに、印刷ムラやカラーブリードを防止し、画像濃度が高く、耐擦性にも優れた高品位の画像を提供し得るインクジェット記録方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、記録媒体の被記録面に、顔料インク凝集能及び皮膜形成能を有する水性処理液を塗布する前処理工程と、該前処理工程で該水性処理液が塗布された該被記録面に、顔料インクを打ち込んで記録を行うインクジェット記録工程と、該インクジェット記録工程で記録が行われた該被記録面に、該水性処理液を塗布した後、該記録媒体を加熱乾燥して、該被記録面上に皮膜を形成する皮膜形成工程とを備えることを特徴とするインクジェット記録方法を提供することにより上記目的を達成したものである。
【0008】上記方法によれば、インクジェット記録工程に先立つ前処理工程で、顔料インク凝集能を有する水性処理液を塗布するので、記録媒体の被記録面上に打ち込まれた顔料インクは、速やかに凝集して凝集物を形成し、その結果、カラーブリードや印刷ムラが無く、高い画像濃度で鮮明な高画質画像が得られる。また、この水性処理液は皮膜形成能も有しており、インクジェット記録工程後にも、該水性処理液を塗布し、加熱乾燥して、被記録面上に皮膜を形成させることにより、記録画像の耐擦性が大幅に改善される。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明のインクジェット記録方法について、各工程順に説明する。
【0010】(前処理工程)前処理工程では、顔料インク凝集能及び皮膜形成能を有する水性処理液を使用する。以下、この水性処理液について説明する。
【0011】上記水性処理液は、インクジェット記録用の水性顔料インクを凝集させる性質(顔料インク凝集能)を有する凝集剤を必須成分として含有する。凝集剤としては、水に可溶な金属塩で、後述する樹脂粒子の分散状態を阻害しないものが好ましい。金属塩は、金属イオンと、これに結合する陰イオンとから構成される。
【0012】上記金属イオンとしては、例えば、K+、Na+、Li+、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+、Fe2+、Zr2+、Al3+、Fe3+、Cr3+、Zr3+、Zr4+等が挙げられる。また、上記陰イオンとしては、Cl-、NO3-、I-、Br-、ClO3-、CH3COO-、F-、SO42-、SO32-等が挙げられる。
【0013】上記カルボン酸イオン(陰イオン)としては、炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸及び炭素数6〜10の炭素環式モノカルボン酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上のカルボン酸から誘導されるものが好ましい。炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸の好ましい例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ビバル酸、ヘキサン酸等が挙げられる。特に蟻酸、酢酸が好ましい。この炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸の飽和脂肪族炭化水素基上の水素原子は、水酸基で置換されていてもよく、そのようなカルボン酸の好ましい例としては、乳酸が挙げられる。また、炭素数6〜10の炭素環式モノカルボン酸の好ましい例としては、安息香酸、ナフトエ酸等が挙げられ、より好ましくは安息香酸である。
【0014】上記金属塩として特に好ましいものとしては、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、臭化マグネシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムが挙げられ、これらの群から選ばれる1種又は2種以上を好ましく用いることができる。
【0015】また、本発明の水性処理液は、上記金属塩に加えて、樹脂粒子も必須成分として含有する。樹脂粒子は、水性処理液に皮膜形成能を付与するもので、記録画像の耐擦性の向上に大きく寄与する。
【0016】上記樹脂粒子としては、塗被面上に一定の表面強度を有する透明な樹脂皮膜を形成し得るものが好ましく、エチレン、プロピレン、スチレン、スルホン化イソプレン、アクリル酸及びメタクリル酸並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれる1種又は2種以上をモノマーとする重合体から構成されるものが好ましい。アクリル酸及びメタクリル酸の誘導体としては、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸エステル等が挙げられる。
【0017】また、上記樹脂粒子の平均粒子径は、安定吐出性等の観点から、好ましくは10〜200nm、更に好ましくは50〜100nmである。
【0018】尚、上記樹脂粒子としては、水性媒体中に該樹脂粒子を分散させた樹脂エマルジョン形態のものを使用することができる。このような樹脂エマルジョンとしては、例えば、ダイナフローK201(JSR製)、アクアキュアー513(BYK製)、ケミパール(三井化学製)等の市販の樹脂エマルジョンが好ましく用いられる。
【0019】本発明の水性処理液は、上記凝集剤を、好ましくは2〜30重量%、更に好ましくは4〜10重量%含有し、上記樹脂粒子を、好ましくは0.1〜20重量%、更に好ましくは1〜10重量%含有する。これら必須成分の含有量をこのような範囲にすることにより、顔料インクの凝集効果、皮膜形成効果及びジェットノズルからの吐出安定性のバランスにより優れた水性処理液を得ることができる。
【0020】本発明の水性処理液には、上記の凝集剤及び樹脂粒子以外に、必要に応じ、下記の如き各種添加剤の1種又は2種以上を含有させることができる。
【0021】本発明の水性処理液には、吐出安定性の確保のため、湿潤剤を含有させることが好ましい。湿潤剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール等の多価アルコール類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等のラクタム類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、1,3−ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類;マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、マルトース等の糖類等が挙げられる。
【0022】上記湿潤剤の含有量は、上記水性処理液中、好ましくは1.5〜30重量%、更に好ましくは5〜20重量%である。
【0023】また、本発明の水性処理液には、記録媒体への浸透性及び吐出安定性の向上の観点から、浸透剤を含有させることが好ましい。浸透剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、n−ペンタノール等の低級アルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類等が挙げられる。
【0024】上記浸透剤の含有量は、上記水性処理液中、好ましくは1.5〜30重量%、更に好ましくは5〜20重量%である。
【0025】また、同様の観点から、上記水性処理液には、界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド等の非イオン性界面活性剤;サーフィノール82、104、440、465、485(以上、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)、オルフィンSTG、オルフィンE1010(以上、日信化学社製)等のアセチレングリコ−ル系界面活性剤;カチオン性界面活性剤;両イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0026】上記界面活性剤の含有量は、上記水性処理液中、好ましくは0.05〜10重量%、更に好ましくは1〜5重量%である。
【0027】上記水性処理液には、その他の添加剤として、紫外線吸収剤、光安定剤、消光剤、酸化防止剤、耐水化剤、防黴剤、防腐剤、増粘剤、流動性改良剤、pH調整剤、消泡剤、抑泡剤、レベリング剤、帯電防止剤等を含有させることができる。
【0028】上記水性処理液は、水に、上記の凝集剤及び樹脂粒子の他、必要に応じ、湿潤剤、浸透剤、界面活性剤その他の各種添加剤を適宜添加することにより、調製することができる。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。また、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理された水は、カビやバクテリアの発生を防止して長期保存を可能とする点で好ましい。
【0029】上記水性処理液は、ジェットノズルからの吐出信頼性、皮膜形成の促進、皮膜の表面強度等の観点から、下記物性値が、それぞれ下記範囲にあることが好ましい。
・液温20℃における粘度;2〜5mPa・s・表面張力;15〜40mN/m・pH;7〜9.5上記各物性値の調整は、各成分の含有量の調整や、樹脂成分の適当な選択により、行うことができる。
【0030】前処理工程では、このような組成・物性の水性処理液を、記録媒体の被記録面に塗布する。この前処理工程では、水性処理液は、少なくとも、次工程のインクジェット記録工程で顔料インクを打ち込む箇所(印刷部分)に塗布すればよく、インクを打ち込まない箇所(非印刷部分)に塗布してもよい。塗布量は、インクの打ち込み量に応じて適宜調整すればよく、固形分換算で0.5〜2g/m2程度が好ましい。
【0031】上記水性処理液の塗布方法は、特に制限されず、例えば、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、ブレードコーター、スライドホッパーコーター、グラビアコーター、フレキソグラビアコーター、カーテンコーター、エクストルージョンコーター、フローティングナイフコーター、コンマコーター、ダイコーター、ゲートロールコーター、サイズプレス装置等の公知の塗工装置を用いて接触方式で塗布する方法や、スプレー、インクジェットヘッド、ジェットノズル等を用いて非接触方式で塗布する方法等を採ることができる。
【0032】(インクジェット記録工程)インクジェット記録工程は、前処理工程で水性処理液が塗布された記録媒体の被記録面に、顔料インクを打ち込んで記録を行う工程であり、公知のインクジェット方式の記録装置(インクジェットプリンタ)を用いて行うことができる。インクジェット方式には、ノズルから一定時間間隔でインクを吐出し続け、吐出されたインク液滴を偏向させることにより画像を形成するコンティニュアス方式と、画像データに対応してインクを吐出させるオンデマンド方式とがあり、何れの方式でもよいが、細かい打ち込み制御が可能、廃液量が少ない等の点で、オンデマンド方式が好ましい。また、インク吐出制御方式には、圧電素子を用いて電圧により制御する方式や、発熱抵抗素子を用いて熱エネルギーにより制御する方式等があるが、特に制限されない。
【0033】インクジェット記録工程で用いる顔料インクとしては、インクジェット記録で使用できるものであればよく、特に制限されない。インクジェット記録用の顔料インクは、水に、着色剤として顔料を含有させたものが一般的であり、通常、保湿や浸透調整等のため、更に各種有機溶剤や界面活性剤等が含有されている。カラー画像を形成する場合は、イエロー、マゼンタ及びシアンの減法混色の3原色のインク、あるいはこれにブラックその他の色のインクを加えた4色以上のインクを用いる。
【0034】(皮膜形成工程)皮膜形成工程は、インクジェット記録工程で記録が行われた記録媒体の被記録面に、前処理工程で使用した水性処理液を塗布した後、該記録媒体を加熱乾燥して、該被記録面上に皮膜を形成する工程である。
【0035】皮膜形成工程では、水性処理液は、顔料インクを打ち込んだ箇所(印刷部分)に重ねて塗布することが好ましく、特に、インクの打ち込みの有無に拘わらず、記録媒体の被記録面の全面に塗布することが好ましい。塗布方法は、特に制限されないが、前処理工程と共に、ジェットノズル(インクジェットヘッド)を用いてインクジェット方式により塗布すれば、高速印字が可能となる。この場合、各液のジェットノズルからの吐出制御は、プリンタドライバを適宜プログラミングすることにより行うことができる。
【0036】皮膜形成工程においては、水性処理液の塗布量は、固形分換算で0.5〜2g/m2が好ましい。塗布量が0.5g/m2未満では、耐擦性の向上の効果に乏しく、2g/m2超では、樹脂皮膜の形成に時間がかかる;ブロッキングが発生する;外観(光沢感)が記録媒体と異なり、記録物本来の風合いが損なわれる等の不都合が生じるおそれがある。
【0037】水性処理液塗布後に行われる記録媒体の加熱乾燥は、塗布された水性処理液の皮膜化を促進するための処理であり、赤外線式加熱装置や熱風加熱装置などの公知の加熱装置を用いて常法通り行うことができる。インクジェットプリンタの適当な箇所、例えば、排紙口付近などに、このような加熱装置を配置すれば、該インクジェットプリンタに記録媒体を1回給紙する(1パス)だけで、全ての工程(前処理工程、インクジェット記録工程、皮膜形成工程)を行うことが可能となり、高速印字が可能となる。
【0038】加熱温度や加熱時間(ラインスピード)等の加熱条件は、皮膜形成を効率良く行えるよう、樹脂粒子の種類などを考慮して適宜設定することが好ましいが、過度の加熱は、いわゆるブリスター(火ぶくれ)の発生を招くため好ましくない。このような観点から、紙面温度(記録媒体の被記録面の温度)が100℃以下となるように、加熱温度や加熱時間等を調整することが好ましい。
【0039】本発明のインクジェット記録方法は、例えば、次のようにして実施することができる。
【0040】図1は、本実施形態のインクジェット記録方法の実施に使用するインクジェットプリンタの要部の斜視図である。図1に示すプリンタ10は、紙送りモータ11で駆動されるプラテンローラ12により記録媒体Mを矢標A方向に搬送し、キャリッジ13上に搭載された記録ヘッド20が、記録媒体Mの被記録面に、インクタンク30から供給される各色顔料インク及び水性処理液をそれぞれ吐出した後、これを搬出するようになしてある。キャリッジ13は、キャリッジベルト14を介してキャリッジモータ15に連結されており、ガイドレール16上を摺動して、矢標A方向と直交する矢標B1又はB2方向に往復走査するようになっている。また、プリンタ10内における図示しない排紙口の近傍には、記録媒体Mの被記録面に対し熱風を送風することが可能な熱風乾燥装置(図示せず)が設けられており、排紙前に記録媒体Mを加熱乾燥できるようになっている。
【0041】図2は、記録ヘッド20のノズル開口面20aの概略正面図である。図2中、21及び26は水性処理液を吐出するノズル列であり、22,23,24,25は、それぞれ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の顔料インクを吐出するノズル列である。このように、主走査方向の両端のノズル列を水性処理液用とすることで双方向(B1及びB2)印字が可能となり、印字高速性が上がる。
【0042】このような構成の記録ヘッド20は、矢標B1方向に走査される場合は、記録媒体Mの被記録面に対し、先ず、ノズル列21より水性処理液をベタ打ちして帯状の処理液付着領域を形成していき(前処理工程)、続いて、該処理液付着領域に対して、受信した画像データに基づき、ノズル列22,23,24,25よりY、M、C、Kの各色顔料インクを順次打ち込んでインクジェット記録を行い(インクジェット記録工程)、続いて、記録が行われた被記録面に対して、ノズル列26より水性処理液をベタ打ちして、前処理工程で形成された処理液付着領域と同じ幅の処理液付着領域を形成していく(皮膜形成工程)。記録ヘッド20は、記録領域の矢標B1方向の終端に到達し、記録媒体Mが処理液付着領域の幅に略等しい送り量でプラテンローラ12により矢標A方向に搬送された後、矢標B2方向に走査される。この場合、先ず、ノズル列26より水性処理液をベタ打ちして帯状の処理液付着領域を形成していき(前処理工程)、続いて、該処理液付着領域に対して、ノズル列25,24,23,22よりK、C、M、Yの各色顔料インクを順次打ち込んでインクジェット記録を行い(インクジェット記録工程)、続いて、記録が行われた被記録面に対して、ノズル列21より水性処理液をベタ打ちして、処理液付着領域を形成していく(皮膜形成工程)。
【0043】一方、記録媒体Mのうち、水性処理液、顔料インク、水性処理液が順次打ち込まれた部分は、図示しない排紙口の近傍にて、図示しない熱風乾燥装置により加熱乾燥されてから(皮膜形成工程)、排出される。このような記録ヘッド20の双方向(B1及びB2方向)走査、紙送り動作及び加熱乾燥処理が繰り返されることにより、被記録面に皮膜が形成された記録物が製造される。
【0044】尚、本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体の被記録面に、顔料インク凝集能及び皮膜形成能を有する水性処理液を塗布する前処理工程と、該前処理工程で該水性処理液が塗布された該被記録面に、顔料インクを打ち込んで記録を行うインクジェット記録工程と、該インクジェット記録工程で記録が行われた該被記録面に、該水性処理液を塗布した後、該記録媒体を加熱乾燥して、該被記録面上に皮膜を形成する皮膜形成工程とを備えていればよく、使用する顔料インクの種類や数、インクジェットプリンタの具体的構成、水性処理液の塗布方法、塗布(打ち込み)パターン等は、上記実施形態に制限されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0045】また、本発明で使用する記録媒体としては、普通紙などの非塗工紙;インクジェット記録用紙、インクジェット適性のない一般の印刷用コート紙やアート紙などの塗工紙の何れでもよく、特に制限されない。インクジェット記録用紙は、特に、高画質の画像が要求される場合に使用されるもので、一般に、紙やフィルム等の基材上に、多孔性無機粒子を主成分とするインク受容層を設けた構成となっている。多孔性無機粒子としては、多孔性非晶質シリカ、多孔性炭酸マグネシウム、多孔性アルミナ等が好ましく用いられ、その含有量は、インク受容層の乾燥重量に対して、40〜90重量%程度である。インク受容層には、通常、必要な塗膜強度の確保のため、ポリビニルアルコール等のバインダー樹脂も含有される。インクジェット記録用紙は、インク受容層の質感、風合いなど(表面性)により、マット調、光沢調などに分類されるが、本発明では何れのインクジェット記録用紙でも問題なく使用できる。
【0046】
【実施例】以下に、本発明の実施例及び本発明の効果を示す試験例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、斯かる実施例により何等制限されるものではない。
【0047】下記組成の水性処理液1〜4を調製した。
【0048】
(水性処理液1の組成)
・塩化マグネシウム六水塩(MgCl26H2O) 8重量%・ポリエチレン樹脂エマルジョン 「アクアキュアー513」BYK製 (樹脂成分として)2.5重量%・グリセリン 15重量%・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 5重量%・純水 バランス 計100重量%【0049】
(水性処理液2の組成)
・硝酸マグネシウム含水塩 8重量%・スルホン化イソプレン−スチレン共重合体樹脂エマルジョン 「ダイナフローK201」JSR製 (樹脂成分として)3.5重量%・グリセリン 15重量%・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 5重量%・純水 バランス 計100重量%【0050】
(水性処理液3の組成)
・ポリエチレン樹脂エマルジョン 「アクアキュアー513」BYK製 (樹脂成分として)2.5重量%・グリセリン 15重量%・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 5重量%・純水 バランス 計100重量%【0051】
(水性処理液4の組成)
・塩化マグネシウム六水塩(MgCl26H2O) 8重量%・グリセリン 15重量%・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 5重量%・純水 バランス 計100重量%【0052】〔実施例1〕記録媒体(「OKトップコートN」王子製紙製)の被記録面の全面に対して、インクジェットプリンタ(「EM930C」セイコーエプソン製)のシアンインクと上記水性処理液1とを入れ替えたものを用いて、シアン100%となるベタパターンで水性処理液1を打ち込んだ(前処理工程)。水性処理液1の塗布量は、固形分換算で1.1g/m2であった。次いで、水性処理液1が打ち込まれた上記被記録面に対し、6色顔料インクジェットプリンタ(「MC2000」セイコーエプソン製)を用いて、各色の100%カラーパッチを印刷した(インクジェット記録工程)。次いで、上記各カラーパッチ印刷部分に対して、前処理工程で用いたEM930Cを用いて、シアン100%となるベタパターンで水性処理液1を打ち込んだ後(このときの水性処理液1の塗布量は固形分換算で1.1g/m2)、ドライヤー(熱風)を用いて加熱温度150℃(紙面温度80℃)で記録媒体を加熱乾燥した(皮膜形成工程)。このようにして得られたインクジェット記録物を、実施例1のサンプルとした。
【0053】〔実施例2〕実施例1において、水性処理液1に代えて、水性処理液2を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録物を製造し、これを実施例2のサンプルとした。
【0054】〔比較例1〕実施例1において、前処理工程及び皮膜形成工程を行わない以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録物を製造し、これを比較例1のサンプルとした。
【0055】〔比較例2〕実施例1において、前処理工程を行わない以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録物を製造し、これを比較例2のサンプルとした。
【0056】〔比較例3〕実施例1において、皮膜形成工程を行わない以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録物を製造し、これを比較例3のサンプルとした。
【0057】〔比較例4〕実施例1において、水性処理液1に代えて、水性処理液3を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録物を製造し、これを比較例4のサンプルとした。
【0058】〔比較例5〕実施例1において、水性処理液1に代えて、水性処理液4を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録物を製造し、これを比較例5のサンプルとした。
【0059】〔比較例6〕比較例3において、MC2000用の各顔料インクに代えて、該各顔料インク中に、上記ポリエチレン樹脂エマルジョン「アクアキュアー513」を樹脂濃度が1重量%となるように含有させたもの(樹脂入インク)をそれぞれ使用した以外は比較例3と同様にしてインクジェット記録物を製造し、これを比較例6のサンプルとした。
【0060】〔比較例7〕比較例6において、上記各樹脂入インク中の樹脂濃度を2.5重量%とした以外は比較例6と同様にしてインクジェット記録物を製造し、これを比較例7のサンプルとした。
【0061】実施例1〜2及び比較例1〜7の上記各サンプルについて、発色性、カラーブリード及び耐擦性を下記方法で評価した。また、水性処理液1〜4(実施例1〜2及び比較例2〜5)及び樹脂入インク(比較例6〜7)について、下記の要領で吐出安定性を評価した。以上の結果を下記表1に示す。
【0062】〔発色性の評価試験〕各サンプルのCMYBkの各カラーパッチについて、グレタグマクベス社製のスペクトロリーノSPM−50を用い、視野角2、光源D50、フィルター無しの条件で反射光学濃度(OD値)を測定し、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
A:CMYBkの4色のOD値の合計が7.5を超える。発色性良好。
B:4色のOD値の合計が7.5〜6.0。実用上問題なし。
C:4色のOD値の合計が6.0未満(平均でOD値1.5未満)。実用に堪えない。
【0063】〔カラーブリードの評価試験〕各サンプルについて、イエロー領域とブラック領域とが隣接する部分(画質低下が最も判別し易い領域)をそれぞれ目視により観察し、それらの色境界での不均一な色混じりの程度を下記評価基準により評価した。
(評価基準)
A:色混じりの無い、良好な画像が得られた。
B:色混じりが僅かに生じた。実用上問題なし。
C:色の境界がはっきりしない程、色混じりが起こった。実用に堪えない。
【0064】〔耐擦性の評価試験〕各サンプルの被記録面上に、消しゴム(幅20mm)を傾斜度60で固定し、1kgの荷重をかけた状態で10往復擦った後の該被記録面の状態を目視で観察し、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
A:被記録面にキズ、ハガレがない。耐擦性良好。
B:被記録面にキズが入るが、実用上問題なし。
C:被記録面にハガレが発生する。実用に堪えない。
【0065】〔水性処理液及び樹脂入インクの吐出安定性の評価試験〕上記各液を、インクジェットプリンタ(「PM800C」セイコーエプソン製)に充填した。このプリンタを、通常通り稼働させて各液が安定して吐出されることを確認した後、記録ヘッドをホ−ムポジションから外した状態にし、温度50℃、相対湿度40%の環境下にて4週間放置した。その後、このプリンタを通常の室内環境下に移し、プリンタの本体温度が室温に下がるまで待ってから本体電源を入れ、記録媒体に対して各液をベタ打ちして、その吐出状態を目視で観察した。また、吐出が不安定になった場合は、所定のクリーニング動作を行い、各液が安定して吐出されるまでに要したクリーニング動作回数を数えた。これらを総合して、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
A:目詰まりを起こすことなく、安定して吐出された。吐出安定性良好。
B:目詰まりを起こし、復帰に2回以内のクリーニング動作を要する。実用上問題なし。
C:目詰まりがひどく、復帰に2回以上のクリーニング動作を要する。実用に堪えない。
【0066】
【表1】

【0067】
【発明の効果】本発明によれば、印刷ムラやカラーブリードを防止し、画像濃度が高く、耐擦性にも優れた高品位の画像を実現することができる。また、この画像は、耐水性や耐光性等に優れた顔料インクにより形成されているので、染料インクにより画像が形成された記録物に比べて、長期保存性にも優れている。また、上記水性処理液は吐出安定性に優れているため、インクジェットノズルの目詰まりなどを起こすおそれがなく、簡易な工程で比較的安価に高品位の記録物を得ることができる。
【出願人】 【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
【住所又は居所】東京都新宿区西新宿2丁目4番1号
【出願日】 平成14年5月16日(2002.5.16)
【代理人】 【識別番号】100095728
【弁理士】
【氏名又は名称】上柳 雅誉 (外2名)
【公開番号】 特開2003−326829(P2003−326829A)
【公開日】 平成15年11月19日(2003.11.19)
【出願番号】 特願2002−142133(P2002−142133)