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【発明の名称】 ニッケル粉の表面処理方法及びその方法により得られたニッケル粉
【発明者】 【氏名】山口 靖英
【住所又は居所】山口県下関市彦島西山町1−1−1 彦島製錬株式会社機能粉工場内

【氏名】荒木 隆之
【住所又は居所】山口県下関市彦島西山町1−1−1 彦島製錬株式会社機能粉工場内

【要約】 【課題】粗粒子を形成することなく、非常に均一な粒度分布を有するとともに、優れた膜特性、特に、ニッケルペースト高密度化、即ち、高い電極膜密度を実現できるニッケル粉の製造技術を提供する。

【解決手段】第1のニッケル粉の表面処理方法として、水溶性脂肪酸塩を含む水溶液にニッケル粉を投入して分散し、該水溶液スラリーを酸性から中性のpHに調整し、該水溶液スラリーからニッケル粉を濾別し、得られたニッケル粉を熱処理するものとし、第2の表面処理方法として、溶媒と脂肪酸とニッケル粉とを混合して作製した溶媒スラリーを、加熱撹拌することにより溶媒を揮発させた後、得られたニッケル粉を熱処理するものとした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 水溶性脂肪酸塩を含む水溶液にニッケル粉を投入して分散し、該水溶液スラリーを酸性から中性のpHに調整し、該水溶液スラリーからニッケル粉を濾別し、得られたニッケル粉を熱処理することを特徴とするニッケル粉の表面処理方法。
【請求項2】 水溶性脂肪酸塩は、脂肪酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩である請求項1記載のニッケル粉の表面処理方法。
【請求項3】 水溶性脂肪酸塩は、ニッケル粉全量に対し1〜10質量%である請求項1又は請求項2に記載のニッケル粉の表面処理方法【請求項4】 熱処理は、不活性ガス雰囲気または微還元性雰囲気であるとともに、水溶液中の脂肪酸塩が中和して生成する脂肪酸の沸点以上500℃以下の温度で行うものである請求項1〜請求項3いずれかに記載のニッケル粉の表面処理方法。
【請求項5】 溶媒と脂肪酸とニッケル粉とを混合して作製した溶媒スラリーを、加熱撹拌することにより溶媒を揮発させた後、得られたニッケル粉を熱処理することを特徴とするニッケル粉の表面処理方法。
【請求項6】 脂肪酸は、エナント酸、カプロン酸、ステアリン酸、クロトン酸、オレイン酸のいずれかを用いるものである請求項5に記載のニッケル粉の表面処理方法。
【請求項7】 脂肪酸は、表面処理を行うニッケル粉全量に対し1〜10質量%である請求項5又は請求項6に記載のニッケル粉の表面処理方法。
【請求項8】 熱処理は、不活性ガス雰囲気または微還元性雰囲気であるとともに、脂肪酸の沸点以上500℃以下の温度で行うものである請求項5〜請求項7いずれかに記載のニッケル粉の表面処理方法。
【請求項9】 請求項1〜請求項8のいずれかに記載する表面処理方法により得られたニッケル粉であって、レーザ散乱式粒度分布測定によるD50値及びSEM観察による平均粒子径が次式の条件を満たしているニッケル粉。
[数1]:(レーザ散乱式粒度分布測定による重量累積径D50値)/(SEM観察による平均粒子径DIA値)≦2.0
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、積層セラミックコンデンサの内部電極材料として用いるのに好適なニッケル粉の表面処理方法およびその方法により得られたニッケル粉に関する。
【0002】
【従来の技術】積層セラミックコンデンサは、セラミック誘電体と内部電極とを交互に層状に重ねて圧着し、焼成することで一体化して形成される。このような積層セラミックコンデンサの内部電極を形成する際には、内部電極材料である金属微粉末をペースト化し、該ペーストを用いてセラミック基材上に印刷し、印刷した基材を複数枚重ねて加熱圧着して一体化した後、還元性雰囲気中で加熱焼成を行うのが一般的である。この内部電極材料として、従来は白金、パラジウム等の貴金属が使用されていたが、最近ではこれらの貴金属の代わりにニッケル等の卑金属を用いる技術が開発され、進歩してきている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】近年、積層セラミックコンデンサの小型化、高容量化に伴い、誘電体及びニッケル等の内部電極の積層数を増やすことが行われている。そのため、より薄いニッケル内部電極を得るために、ニッケルペースト塗膜を薄層化する技術が必要とされている。しかし、ニッケルペースト塗膜を薄層化すると高温焼結時に、ニッケル粉の焼結による収縮が起こり、電極膜に穴が空いたり、電極自体が切断したりして、静電容量の低下現象が生じる傾向となる。
【0004】この高温焼結時の収縮による弊害に対しては、焼成前の電極膜密度を予め高くするという対処法があり、これによれば焼結後のニッケル電極膜に穴や切断部が発生し難くなる。この電極膜密度の高くする方法としては、例えば、微粒子からなるニッケル粉と、粗粒子からなるニッケル粉とを混合することが挙げられる。特に、粗粒子からなるニッケル粉を微粒子からなるニッケル粉に対し一定量加えると、電極膜密度をより高くすることが可能となる。
【0005】しかし、内部電極や誘電体が薄層化されると、必然的に微粒子からなるニッケル粉により形成された内部電極が要求される。つまり、粗粒子のニッケル粉が混入していると、電極膜の表面が粗くなるので、その粗粒子が誘電体層を突き破ることもあり、対となる電極とショートを起こす恐れが生じる。そのため、均一な微粒子でありながら高い電極膜密度を実現できるニッケル粉が求められている。
【0006】ところで、ニッケル粉は、湿式、乾式何れの製法でも製造可能であるが、液相還元析出法に代表される湿式法によるニッケル粉は、粒度分布がシャープな粉末を得易い。そのため、湿式法によるニッケル粉を導電ペースト化し、積層セラミックコンデンサの内部電極を形成した場合、粗粒子の混入が少ないために、内部電極膜の表面に突起形成がなく、内部電極間のショートを防止できるものである。
【0007】しかし、この湿式法により得られるニッケル粉は、水溶液中での合成を伴うため、乾燥後のニッケル粉表面には水酸化物や炭酸塩からなる表層を形成し易く、この表層の存在が内部電極を形成した際の電極膜密度を低下させることが判明した。即ち、ニッケル粉を構成する各粒子表面の水酸化物や炭酸塩の表層を除去すれば、膜密度の低下を防止できると考えられるが、この表層を分解除去する温度は200〜400℃を必要とし、このような分解温度で熱処理を行うと、ニッケル粉の各粒子同士の焼結が進行して、粗い粒子を形成する傾向があり、このような粗粒子を含んだニッケル粉を用いると、上記したショートなどの問題が生じる。
【0008】本発明は、以上のような事情を背景になされたもので、粗粒子を形成することなく、非常に均一な粒度分布を有するとともに、優れた膜特性、特に、ニッケルペースト高密度化、即ち、高い電極膜密度を実現できるニッケル粉の製造技術を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者等は上記の課題を達成するために、ニッケル粉の表面処理に関し鋭意研究を重ねた結果、ニッケル粉の各粒子表面に特定条件下で脂肪酸の金属塩を形成した後、熱処理することで、好適なニッケル粉が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】本発明はニッケル粉の表面処理方法であって、水溶性脂肪酸塩を含む水溶液にニッケル粉を投入して分散し、該水溶液スラリーを酸性から中性のpHに調整し、該水溶液スラリーからニッケル粉を濾別し、得られたニッケル粉を熱処理することを特徴とするものである。
【0011】本発明者らの研究によると、ニッケル粉を構成する各粒子表面に、脂肪酸又は脂肪酸塩を接触して反応させると、各粒子表層に形成される水酸化物や炭酸塩の原因となる水酸基や炭酸基を有効に除去できる現象を見出したのである。本発明者等の推測では、脂肪酸または脂肪酸塩をニッケル粉の各粒子表面に接触させ、特定条件下で反応させると、各粒子表面に脂肪酸ニッケルを形成し、その時に表層に存在する水酸基や炭酸基を除去するものと考えている。例えば、水酸基の場合で考えると、次の化学式で示す反応が、ニッケル粉の各粒子表面で生じていると考えられる。
【0012】
[化1] R-COOH + OH-Ni = R-COO-Ni + H2O【0013】このような知見に基づき、脂肪酸ニッケルの効率的な表面形成を検討した結果、水溶性脂肪酸塩を含む水溶液にニッケル粉を投入して分散し、該水溶液スラリーを酸性から中性のpHに調整して、該水溶液スラリーからニッケル粉を濾別し、得られたニッケル粉を熱処理するものとしたのである。
【0014】水溶性脂肪酸塩を含む水溶液にニッケル粉を投入し分散させることで、ニッケル粉の各粒子表面に脂肪酸塩を接触させた後、該水溶液スラリーを酸性から中性領域に調整すると、ニッケル粉の各粒子表面に脂肪酸ニッケルを均一に形成させることができる。好ましくはpH3〜7の範囲に該水溶液スラリーを調整する。この場合のpH調整は、pH3未満であるとニッケル粉の溶解量が高くなる傾向があり、pH7を越えると、ニッケル粉の各粒子表面に脂肪酸ニッケルを形成させることが難しくなる。そして、ニッケル粉を構成する粒子表面に形成された脂肪酸ニッケルを熱処理して分解することで、ニッケル粉の各粒子同士の焼結も進行することなく、清浄な表面の粒子からなる好適なニッケル粉が得られるのである。また、焼結が進行しにくいため、粗い粒子の形成が少なく、粒度分布が均一なニッケル粉となるのである。
【0015】本発明における水溶性脂肪酸塩は、脂肪酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であることが好ましい。本発明者等の研究によると、例えば、オレイン酸ナトリウムのような脂肪酸アルカリ金属塩を水に添加し、これにニッケル粉を投入して分散した後、硫酸等によりpH3〜7に調整すると、オレイン酸ナトリウムがオレイン酸としてニッケル粉の各粒子表面に接触し、撥水性を有するようになるのである。つまり、脂肪酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩により作製した脂肪酸塩水溶液を用いると、ニッケル粉の各粒子の表面へ均一に脂肪酸を接触でき、且つ、各粒子が分散した状態で脂肪酸ニッケルを形成することができるのである。このようなオレイン酸ナトリウムと同様な効果を有する水溶性脂肪酸塩としては、オレイン酸カリウム、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0016】本発明に係る表面処理方法における水溶性脂肪酸塩は、表面処理を行うニッケル粉全量に対し1〜10質量%であることが好ましい。1質量%未満であると、ニッケル粉を構成する各粒子表面への、脂肪酸ニッケルの形成状態が不十分となり、熱処理時にニッケル粉の各粒子同士が固着したり、凝集する傾向がある。10質量%を越えると、過剰な脂肪酸成分が熱処理後も残存する確率が高くなり、積層セラミックコンデンサの内部電極を形成した際の導電性を阻害する恐れがあるためである。
【0017】上記した本発明に係るニッケル粉の表面処理方法においては、熱処理を不活性ガス雰囲気または微還元性雰囲気下で、水溶液中の脂肪酸塩が中和して生成する脂肪酸の沸点以上500℃以下の温度で行うことが好ましい。水溶液中の脂肪酸塩はpH調整によりその一部が反応して、ニッケル粉の粒子表面で脂肪酸ニッケルになる。そして、水溶液中の残りの脂肪酸塩は、中和して脂肪酸となって水溶液中に存在することになる。そして、水溶液スラリーから濾別したニッケル粉は、脂肪酸ニッケルと、中和して生じた脂肪酸とを有したものとなる。ニッケル粉と共に濾別される脂肪酸は、積層セラミックコンデンサの内部電極を形成した際の導電性を阻害する恐れがあるので除去する必要がある。このような理由から、熱処理は、水溶液中の脂肪酸塩が中和して生成する脂肪酸の沸点以上500℃以下の温度で行うのである。
【0018】この熱処理温度は、脂肪酸ニッケルの分解温度程度まで高くすると、脂肪酸を分解してニッケル粉の各粒子表面から一気に脱離させ、ニッケル粉の各粒子表面に、水酸化物や炭酸塩が残存しない清浄な表面を実現することができる。本発明では、様々な脂肪酸ニッケルの分解温度がほぼ500℃以下であることを鑑み、上限温度を500℃としているが、熱処理時の焼結、凝集防止を考慮すれば、形成される脂肪酸ニッケルの分解温度に10℃を加えた温度を上限値とすることがより好ましいものである。
【0019】また、熱処理を不活性ガスまたは微還元性雰囲気下で行うと、ニッケル粉の酸化を抑制し、清浄な表面の粒子からなるニッケル粉を得ることができる。このような熱処理条件で得られたニッケル粉は、熱処理前の分散性を維持した状態、即ち、粗粒子の存在が非常に少なく粒度分布が均一で、且つ、各粒子表面が清浄なため、高い電極膜密度を容易に実現できる。
【0020】次に、本発明に係るニッケル粉の表面処理方法のもう一つとして、溶媒と脂肪酸とニッケル粉とを混合して作製した溶媒スラリーを、加熱撹拌することにより溶媒を揮発させた後、得られたニッケル粉を熱処理するものとした。
【0021】本発明者等の研究によると、溶媒と脂肪酸とニッケル粉とを混合して作製した溶媒スラリーを加熱撹拌して溶媒を揮発させると、ニッケル粉の各粒子表面へ脂肪酸ニッケルを緻密に形成できることが判明した。
【0022】この溶媒を揮発させる方法において重要なことは、脂肪酸とニッケル粉の各粒子とを十分、且つ効率的に接触させることであり、予め溶媒に脂肪酸を溶解し、それにニッケル粉を投入して分散させる方法や、或いは、予め溶媒にニッケル粉を投入し、その後脂肪酸を添加する方法などが挙げられる。より具体的には、予め脂肪酸を添加したニッケル粉含有スラリーをメディア撹拌式分散処理装置(例:装置名「ダイノーミル」Willy A.Bachofen AG Mashchinenfabrik製)等で分散したり、或いは、ニッケル粉含有スラリーをメディア撹拌式分散処理装置等で分散した後に、該スラリーに脂肪酸を添加する方法によって、ニッケル粉と脂肪酸とを接触させて、ニッケル粉の各粒子表面へ脂肪酸ニッケルを均一に形成することができる。尚、この溶媒を揮発させる方法に用いる脂肪酸は、溶媒に可溶なものである。
【0023】上記の表面処理方法における脂肪酸は、エナント酸、カプロン酸、ステアリン酸、クロトン酸、オレイン酸のいずれかを用いることが好ましく、溶媒としては、メタノール、アセトン等の有機溶媒を用いることが望ましい。これらの脂肪酸は容易に溶解するので、ニッケル粉の各粒子と脂肪酸との接触が十分に行われ、溶媒揮発後に均一な脂肪酸ニッケルが形成でき、これらの脂肪酸ニッケルは200〜450℃で分解するため、熱処理におけるニッケル粉の各粒子同士の固着や凝集を効果的に防止できるのである。
【0024】上記ニッケル粉の表面処理方法において、脂肪酸は、表面処理を行うニッケル粉全量に対し1〜10質量%であることが好ましい。1質量%未満であると、ニッケル粉を構成する各粒子表面への、脂肪酸ニッケルの形成状態が不十分となり、熱処理時にニッケル粉の各粒子同士が固着して凝集する傾向がある。10質量%を越えると、過剰な脂肪酸成分が熱処理後も残存する確率が高くなり、積層セラミックコンデンサの内部電極を形成した際の導電性を阻害する恐れがあるためである。
【0025】上記ニッケル粉の表面処理方法においては、その熱処理を不活性ガス雰囲気または微還元性雰囲気下で、脂肪酸の沸点以上500℃以下の温度で行うことが好ましい。この溶媒を揮発させる表面処理方法では、脂肪酸が脂肪酸ニッケルになるとその分解温度は上昇するが、その結果、熱処理中におけるニッケル粉の各粒子同士の固着や凝集が有効に防止できることが判明したのである。溶媒中の脂肪酸は、その一部が反応して、ニッケル粉の粒子表面で脂肪酸ニッケルになる。そして、溶媒中の残りの脂肪酸は、未反応として残存することになる。そして、加熱撹拌により溶媒を揮発させると、脂肪酸ニッケルと脂肪酸とを有したニッケル粉となる。このニッケル粉に含まれる未反応の脂肪酸は、積層セラミックコンデンサの内部電極を形成した際の導電性を阻害する恐れがあるので除去する必要がある。このような理由から、熱処理は、脂肪酸の沸点以上500℃以下の温度で行うのである。
【0026】具体的に説明すると、例えば、ステアリン酸は大気中250℃程度の熱で分解するが、ステアリン酸ニッケルとなると、その分解温度は400℃程度まで上昇する。そのため、ステアリン酸ニッケルを有したニッケル粉は400℃付近の温度で重量減少が大きく生じることが確認されている。よって、400℃付近の温度まで、ニッケル粉の各粒子同士の固着や凝集が防止されることになり、このような効果は単なる有機物付着では得ることができない。
【0027】この溶媒を揮発させる表面処理方法における熱処理温度の上限値および熱処理雰囲気に関しては、水溶性脂肪酸塩を使用する場合の表面処理方法と同じ内容であるので説明は省略する。
【0028】本発明のニッケル粉の表面処理方法は、湿式法により得られたニッケル粉に対して特に有効であるが、乾式法により得られたニッケル粉についても同様な効果がある。乾式法の場合、ニッケル粉の各粒子の表層に存在する水酸化物や炭酸塩は湿式法のものに比べ非常に少ないが、本発明に係るニッケル粉の表面処理方法を行っておくと、未処理の場合に比べ、電極膜密度を高くすることができる。
【0029】以上のような本発明に係るニッケル粉の表面処理方法によって得られるニッケル粉であって、レーザ散乱式粒度分布測定による重量累積径D50値及びSEM観察による平均粒子径が下式の条件を満たしているニッケル粉となり、積層セラミックコンデンサの内部電極を形成する場合に非常に好適な材料となる。
【0030】[数2]:(レーザ散乱式粒度分布測定による重量累積径D50値)/(SEM観察による平均粒子径DIA値)≦2.0【0031】上式左辺は、ニッケル粉の凝集状態を特定できる数値を算出するものである。SEM観察による平均粒子径(DIA)は、ニッケル粉の各粒子、つまり一次粒子径により得られるもので、レーザ散乱式粒度分布による重量累積径D50は、凝集粒子径により得られるものである。従って、理論的には、完全に凝集粒子がないニッケル粉であれば、D50/DIAの値が1になると考えられる。本発明に係るニッケル粉の表面処理方法により得られるニッケル粉は、その値が2.0以下となる凝集度が低い状態、即ち、各粒子が単分散した状態のものであり、これを積層セラミックコンデンサの内部電極を形成する際のニッケルペーストにすると、高密度の電極膜を形成できるので、電極膜の薄層化が容易に可能となる。
【0032】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施形態について、以下に示す実施例及び比較例に基づき具体的に説明する。尚、以下の実施例及び比較例の出発原料であるニッケル超微粉は、次のようにして製造したものを用いた。
【0033】本実施形態で用いたニッケル超微粉は、硫酸ニッケル水溶液に水酸化ナトリウムを加えて水酸化ニッケルを析出した後、これにヒドラジンを加えてニッケル微粒子を析出させた。この析出したニッケル微粒子を濾過、洗浄した後乾燥して、ニッケル超微粉を作製した。
【0034】実施例1:中心粒径0.5μmのニッケル超微粉100gをメタノール200mL中に入れ、撹拌機を用いて分散させた。そして、そのニッケル超微粉含有スラリーにオレイン酸を3g添加し、加熱しながらメタノール分を蒸発させオレイン酸ニッケル形成処理ニッケル粉を得た。そして、この表面処理ニッケル粉を窒素ガス雰囲気中で400℃、30分間熱処理してニッケル粉を作製した。
【0035】実施例2:中心粒径0.2μmのニッケル超微粉100gをメタノール200mL中に入れ、撹拌機を用いて分散させた。そして、そのニッケル超微粉含有スラリーにオレイン酸を5g添加し、加熱しながらメタノール分を蒸発させ、オレイン酸ニッケル形成処理ニッケル粉を得た。そして、この表面処理ニッケル粉を窒素ガス雰囲気中で400℃、30分間熱処理してニッケル粉を作製した。
【0036】実施例3:ステアリン酸5gを溶解したアセトン200mL中に、中心粒径0.5μmのニッケル超微粉100gを入れ、撹拌機を用いて分散させた。そして、そのニッケル超微粉含有スラリーを加熱しながらアセトン分を蒸発させ、ステアリン酸ニッケル形成処理ニッケル粉を得た。そして、この表面処理ニッケル粉を窒素ガス雰囲気中で350℃、30分間熱処理してニッケル粉を作製した。
【0037】実施例4:中心粒径0.2μmのニッケル超微粉100gを、ステアリン酸ナトリウム3gを溶解させた水溶液200mL中に入れ、撹拌機を用いて分散させた。そして、そのニッケル超微粉含有スラリーを撹拌しながら、硫酸(10%)をpH4となるまで添加した。このpH調整により、スラリー中のニッケル粉は撥水性を有した状態で凝集して沈殿したが、更にスラリーを撹拌して分散させると、水面へニッケル粉が浮上するような状態となった。水面に浮上したニッケル粉を回収し、得られたステアリン酸ニッケル形成処理ニッケル粉を、水素1%を含む窒素ガス雰囲気中で350℃、30分間熱処理してニッケル粉を作製した。
【0038】実施例5:中心粒径0.5μmのニッケル超微粉100gをアセトン200mL中に入れ、撹拌機を用いて分散させた。そして、そのニッケル超微粉含有スラリーに、カプロン酸5gが溶解されたアセトンを添加し、加熱しながらアセトン分を蒸発させ、カプロン酸ニッケル形成処理ニッケル粉を得た。そして、この表面処理ニッケル粉を窒素ガス雰囲気中で250℃、30分間熱処理してニッケル粉を作製した。
【0039】比較例1:中心粒径0.5μmのニッケル超微粉100gを、何の処理も施すことなくそのまま使用した。
【0040】比較例2:中心粒径0.2μmのニッケル超微粉100gを、何の処理も施すことなくそのまま使用した。
【0041】比較例3:中心粒径0.5μmのニッケル超微粉100gを、窒素ガス中で400℃、30分間熱処理したニッケル粉とした。
【0042】比較例4:中心粒径0.2μmのニッケル超微粉100gを、窒素ガス中で350℃、30分間熱処理したニッケル粉とした。
【0043】比較例5:中心粒径0.5μmのニッケル超微粉100gをメタノール200mL中に入れ、撹拌機を用いて分散させた。そして、そのニッケル超微粉含有スラリーにテルピネオールを3g添加し、加熱しながらメタノール分を蒸発させ、テルピネオール付着ニッケル粉を得た。そして、この表面処理ニッケル粉を窒素ガス雰囲気中で400℃、30分間熱処理してニッケル粉を作製した。
【0044】比較例6:中心粒径0.2μmのニッケル超微粉100gをメタノール200mL中に入れ、撹拌機を用いて分散させた。そして、そのニッケル超微粉含有スラリーにエチルセルロースを3g添加し、加熱しながらメタノール分を蒸発させエチルセルロース付着ニッケル粉を得た。そして、この表面処理ニッケル粉を窒素ガス雰囲気中で350℃、30分間熱処理してニッケル粉を作製した。
【0045】以上のようにして得られた各実施例及び比較例のニッケル粉は、レーザ回折散乱式粒度分布測定による重量累積径(D10、D50、90値)、SEM観察による平均粒子径(DIA値)、ペースト膜の乾燥密度、ペースト膜の表面粗さ、電気特性について評価した。この評価結果を表1及び表2に示す。ここで各評価方法の具体的な説明をする。
【0046】(1)レーザ回折散乱式粒度分布測定による重量累積径(D10、D50、値):試料0.1gをSNデイスパーサント4657溶液と混合し、超音波ホモジナイザで5分間分散させた後、レーザ散乱式粒度分布測定装置 Micro TracHRA 9320-X100 型(Leads+Northrup製)を用いて重量累積径を測定した。
【0047】(2)SEM観察による平均粒子径(DIA値):走査型電子顕微鏡を用いて、倍率2万倍の写真を撮影し、無作為に選んだ5視野の合計で1500個の粒子のフェレ径を測定し、算出した。
【0048】(3)ペースト膜の乾燥密度:エチルセルロース5質量部、ミネラルスピリット60質量部及びブチルカルビトール35質量部からなるビヒクル50部と、ニッケル粉50部とを混合した後、3本ロールで混練して導電ペーストを調製した。この導電ペーストを用い塗膜を形成し、100℃で乾燥して約30μm厚さの乾燥膜を得た。そして、ポンチにより乾燥膜から直径20mmの円状試料を抜き取り、その円状試料の重量を精密測定するとともに、マイクロメータにより塗膜厚みを測定した。この測定した重量と厚みとからペースト膜の乾燥密度を算出した。
【0049】(4)ペースト膜の表面粗さ:上述した導電ペーストにより、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜を形成して100℃で乾燥した後に、その乾燥膜(約30μm厚)表面の表面粗さ(Ra)を測定した。この表面粗さ(Ra)は複数箇所を測定して、その上限と下限とを特定することで評価するものとした。
【0050】(5)電気特性評価:(3)で作成した導電ペーストを用いて誘電体層厚5μm、内部電極層厚2μm、積層数30層で圧着、切断し、還元性雰囲気中1300℃で焼成して、2.0×1.25mmのコンデンサを焼成した。得られたセラミックコンデンサ500個について、静電容量欠損部を有すコンデンサ比率(不良率)を調べた。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】表1のデータから明らかなように、実施例1〜5のニッケル粉は、D50/DIA値が2.0よりも小さく、粒子同士の固着や凝着が少なくシャープな粒度分布であることが判る。一方、比較例3〜6に関しては、熱処理後のニッケル粉が、各粒子同士の溶着がかなり進行しており、塊状となってしまっていたため、レーザ回折散乱式粒度分布測定によって、重量累積径を測定することができなかった。
【0054】表2を見ると判るように、実施例1〜5のニッケル粉を用いた導電ペーストは、膜密度が高く充填性がよいため、収縮による歪みやクラックの発生が少なくなるうえ、熱収縮により電極膜に穴が空いたり電極自体が切断することがなかった。一方、導電ペーストの作製が可能であった比較例1及び2(比較例3〜6のニッケル粉では導電ペーストの作製ができないため特性評価不能)では、ペースト膜の乾燥密度は小さく、その表面は非常に粗いものとなっていた。このような導電ペーストの特性の相違により、セラミックコンデンサを作製して静電容量欠損を有するコンデンサ比率、即ち、電気特性不良率は実施例1〜5のニッケル粉の場合、極めて小さいものであった。従って、実施例1〜5のニッケル粉は、高温焼結時におけるニッケル粉の焼結による収縮がなく、電極膜に穴が空いたり、電極自体が切断することが無く、静電容量の低下現象を引き起こしにくく、焼結性に極めて優れたものといえる。
【0055】
【発明の効果】本発明に係るニッケル粉の表面処理方法によれば、ニッケル粉の各粒子表面に脂肪酸ニッケルが形成され、その後の熱処理において焼結、凝集などを防ぐので、極めて清浄な表面を有した粒子で、且つ、シャープな粒度分布を示すニッケル粉を得ることができる。そして、この本発明に係るニッケル粉の表面処理方法により得られたニッケル粉を用いたペーストにより電極膜を形成すると、非常に高い電極膜密度を実現することができ、薄層化した内部電極の形成が容易に行える。従って、積層セラミックコンデンサの小型化、高容量化に伴う内部電極の積層数を増やすために、薄膜状のニッケル内部電極を形成する材料として非常に好適なものとなる。
【出願人】 【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
【住所又は居所】東京都品川区大崎1丁目11番1号
【出願日】 平成13年10月16日(2001.10.16)
【代理人】 【識別番号】100111774
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 大輔
【公開番号】 特開2003−129105(P2003−129105A)
【公開日】 平成15年5月8日(2003.5.8)
【出願番号】 特願2001−317735(P2001−317735)